航空法
法令番号: 法律第五十四號
公布年月日: 大正10年4月9日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル航空法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月八日
內閣總理大臣 原敬
海軍大臣 男爵 加藤友三郞
大藏大臣 子爵 高橋是淸
陸軍大臣 男爵 田中義一
內務大臣 床次竹二郞
遞信大臣 野田卯太郞
法律第五十四號
航空法
第一章 總則
第一條 本法ニ於テ航空機トハ人ノ搭乘シ得ル氣球、凧、航空船及飛行機ヲ謂フ
本法ニ於テ航空トハ陸上又ハ水上ノ滑走ヲ、離陸又ハ著陸トハ離水又ハ著水ヲ包含ス
第二條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ノ所有スル航空機ハ之ヲ日本航空機トス
一 日本國又ハ日本ノ公共團體
二 日本臣民
三 日本法令ニ依リ設立シタル會社ニシテ合名會社ニ在リテハ社員ノ全員、合資會社及株式合資會社ニ在リテハ無限責任社員ノ全員、株式會社ニ在リテハ取締役ノ全員カ日本臣民タルモノ
四 前號ニ揭クル法人以外ノ法人ニシテ日本法令ニ依リ設立シ其ノ代表者ノ全員カ日本臣民タルモノ
第三條 本法ハ本章及第四十一條乃至第四十三條ノ規定ヲ除クノ外軍用航空機ニ之ヲ適用セス
國ノ使用ニ供スル航空機ニ付テハ第二十一條、第二十八條乃至第三十條、第三十三條、第三十四條及第四十條ノ規定ニ關シ勅令ヲ以テ別段ノ規定ヲ爲スコトヲ得
第四條 航空ニ關シ條約又ハ之ニ準スヘキモノニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ從フ
第二章 航空機ノ檢查及登錄
第五條 航空機ヲ製造スル者ハ其ノ設計、材料、部分品、技功及製品ニ付行政官廳ノ檢查ヲ受クヘシ
堪航證明書ナキ航空機ノ所有者ハ其ノ航空機ニ付行政官廳ノ檢查ヲ受クヘシ
前二項ノ檢查ニ合格シタル航空機ニ對シテハ堪航證明書ヲ交付ス
第一項及第二項ノ規定ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官廳ノ許可ヲ受ケタル航空機ニ之ヲ適用セス
第六條 堪航證明書ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ效力ヲ失フ
一 堪航證明書ニ記載シタル有效期間ヲ經過シタルトキ
二 第十四條第一項ノ規定ニ依リ航空機ノ使用ノ禁止ヲ命シタルトキ
前項第一號ノ有效期間ハ前條ノ檢查ニ合格シタル日ヨリ起算シ六月以內ニ於テ行政官廳之ヲ定ム有效期間ハ第十一條ノ檢查ノ結果ニ依リ檢查ノ日ヨリ起算シ六月以內ニ於テ行政官廳之ヲ延長スルコトヲ得
第七條 第五條ノ檢查ニ合格シタル航空機ノ所有者ハ行政官廳ニ其ノ航空機ノ登錄ヲ申請スルコトヲ得
航空機ノ登錄事項ハ航空機ノ所有者ノ氏名名稱、登錄記號其ノ他命令ヲ以テ定ムル事項トス
登錄シタル事項ニ變更アリタルトキハ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以內ニ行政官廳ニ變更ノ登錄ヲ申請スヘシ
登錄シタル航空機ニ對シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空機ノ所有者ノ氏名名稱、登錄記號其ノ他ノ登錄事項ヲ記載シタル登錄證明書ヲ交付ス
第八條 航空機カ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ際ノ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以內ニ行政官廳ニ堪航證明書ヲ返付スヘシ
一 滅失又ハ破壞シタルトキ
二 解撤セラレタルトキ
三 其ノ堪航證明書カ其ノ效力ヲ失ヒタルトキ
登錄シタル航空機カ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ際ノ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以內ニ行政官廳ニ登錄證明書ヲ返付スヘシ
一 滅失又ハ破壞シタルトキ
二 解撤セラレタルトキ
三 日本國籍ヲ喪失シタルトキ
四 其ノ堪航證明書カ其ノ效力ヲ失ヒタルトキ
前項第一號乃至第三號ノ場合ニ於テハ同時ニ抹消登錄ヲ申請スヘシ
前項ノ場合ニ於テ抹消登錄ノ申請ナキトキ又ハ第二項第四號ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ職權ヲ以テ抹消ノ登錄ヲ爲スコトヲ得
第九條 登錄シタル航空機ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ國籍記號、登錄記號竝所有者ノ氏名名稱及住所ヲ表示スヘシ
第十條 航空機ハ前條ノ規定ニ依ル表示ヲ爲シ且堪航證明書及登錄證明書ヲ備附クルニ非サレハ之ヲ航空ノ用ニ供スルコトヲ得ス
第十一條 行政官廳ハ定期又ハ臨時ニ航空機ノ檢查ヲ爲スコトヲ得
第十二條 第五條第一項第二項及第十條ノ規定ハ航空機ノ試驗ノ爲飛行場又ハ命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ航空スル航空機ニ關シテハ之ヲ適用セス
第十三條 第五條、第七條、第八條及第十一條ニ規定スルモノノ外航空機ノ檢查又ハ登錄ニ關スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條 行政官廳ハ第十一條ノ檢查ノ結果ニ基キ其ノ他航空機ノ現狀ニ因リ必要アルトキハ航空機ノ使用ノ制限、停止又ハ禁止ヲ命スルコトヲ得
行政官廳ハ前項ノ規定ニ依リ制限ヲ命シタルトキハ堪航證明書ニ制限事項ヲ附記シ停止ヲ命シタルトキハ停止中堪航證明書ヲ領置ス
第三章 乘員
第十五條 航空機ノ乘員ニ非サレハ航空機ニ搭乘シテ其ノ運航ニ從事スルコトヲ得ス
乘員ハ技倆證明書及航空免狀ヲ有スルコトヲ要ス
第十六條 技倆證明書ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官廳ノ行フ考查ニ合格シタル者ニ之ヲ交付ス技倆證明書ヲ有スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空免狀ノ交付ヲ受クルコトヲ得
第十七條 乘員ハ技倆證明書及航空免狀ヲ携帶スルニ非サレハ運航ニ從事スルコトヲ得ス
第十八條 行政官廳ハ乘員ニ對シ定期又ハ臨時ニ檢查ヲ爲スコトヲ得
第十九條 第十五條第一項ノ規定ハ飛行場又ハ命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ航空機ニ搭乘シテ運航練習ヲ爲ス者及運航練習ノ爲乘員ト同乘シ共同シテ運航ニ從事スル者ニ之ヲ適用セス
第二十條 行政官廳ハ乘員引續キ六月以上運航ニ從事セサルトキ、第十八條ノ檢查ノ結果ニ基キ必要アルトキ又ハ保安上必要アルトキハ就業ノ制限、停止又ハ禁止ヲ命スルコトヲ得
行政官廳ハ前項ノ規定ニ依リ制限ヲ命シタルトキハ航空免狀ニ制限事項ヲ附記シ停止ヲ命シタルトキハ停止中航空免狀ヲ領置ス
第一項ノ規定ニ依リ禁止ヲ命セラレタル乘員ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以內ニ行政官廳ニ航空免狀ヲ返付スヘシ
第四章 飛行場及其ノ經營者
第二十一條 飛行場ヲ設置セムトスル者、其ノ區域ヲ變更セムトスル者又ハ公共ノ用ニ供スル飛行場ヲ廢止セムトスル者ハ行政官廳ノ許可ヲ受クヘシ公共ノ用ニ供スル飛行場ヲ公共ノ用ニ供セサル飛行場ニ變更シ又ハ公共ノ用ニ供セサル飛行場ヲ公共ノ用ニ供スル飛行場ニ變更セムトスル者亦同シ
第二十二條 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ經營者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空ニ必要ナル設備ヲ爲スヘシ
第二十三條 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ經營者ハ行政官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ其ノ飛行場ヲ他ノ目的ニ使用シ又ハ使用セシムルコトヲ得ス
第二十四條 行政官廳ハ飛行場ノ境界ヨリ外方五百「メートル」ノ區域內ニ於テ航空ノ障礙ト爲ルヘキモノアルトキハ飛行場ノ經營者ニ對シ必要ナル航空標識ノ設置ヲ命スルコトヲ得
飛行場ノ經營者ハ前項ノ航空標識ノ設置又ハ維持ノ爲必要アルトキハ行政官廳ノ許可ヲ受ケ日出後日没前ニ限リ他人ノ土地ニ立入リ若ハ障礙ト爲ルヘキ物件ヲ除去シ又ハ必要ナル土地若ハ物件ヲ使用スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ經營者ハ豫メ其ノ土地又ハ物件ノ占有者ニ其ノ旨通知スヘシ
飛行場ノ經營者ハ第一項ノ航空標識ノ維持ノ爲緊急ノ必要アルトキハ前項ノ規定ニ拘ラス他人ノ土地ニ立入リ若ハ障礙ト爲ルヘキ物件ヲ除去シ又ハ必要ナル土地若ハ物件ヲ使用スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ經營者ハ遲滯ナク其ノ旨行政官廳ニ屆出テ且其ノ土地又ハ物件ノ占有者ニ通知スヘシ
第二十五條 前條ノ規定ニ依ル立入、除去又ハ使用ニ因リ生シタル損害ハ飛行場ノ經營者之ヲ補償スヘシ
前項ノ規定ニ依ル補償ノ金額ニ關シ協議調ハサルトキハ行政官廳ノ決定ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ決定ニ不服アル者ハ其ノ決定ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ起算シ三月以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十六條 第二十四條第二項第三項及前條ノ規定ハ許可又ハ屆出ニ關スル規定ヲ除クノ外軍用ニ供スル飛行場ノ境界ヨリ外方五百「メートル」ノ區域內ニ於テ航空ノ障礙ト爲ルヘキモノアルトキ必要ナル航空標識ヲ設置又ハ維持スル場合ニ之ヲ準用ス
第二十七條 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ經營者ハ他人ノ運航スル航空船又ハ飛行機ニ對シ其ノ飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸スルコトヲ拒ムコトヲ得ス但シ行政官廳ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ經營者其ノ飛行場ノ使用ニ對シ使用料ヲ請求セムトスルトキハ豫メ其ノ額ヲ定メ行政官廳ノ認可ヲ受クヘシ
第二十八條 公共ノ用ニ供セサル飛行場ノ經營者ハ行政官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ他人ノ運航スル他人ニ屬スル航空機ヲシテ其ノ飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸セシムルコトヲ得ス
第五章 航空及運送
第二十九條 航空船及飛行機ハ陸上ニ在リテハ飛行場ニ非サル場所、水上ニ在リテハ命令ヲ以テ禁止スル場所ニ於テ離陸又ハ著陸スルコトヲ得ス但シ故障若ハ避難ノ爲其ノ他已ムコトヲ得サル事由アルトキ又ハ行政官廳ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十條 故ナク皇居、禁苑、離宮、行在所若ハ神宮ノ上空ニ於テ又ハ皇陵ノ上空千「メートル」以下ニ於テ航空機ノ運航ヲ爲スコトヲ得ス
前項ニ揭クル場所ノ外航空ニ關スル制限又ハ禁止ヲ必要トスル場所ニ關シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十一條 戰時又ハ事變ニ際シ必要アルトキハ行政官廳ハ航空機ノ航空ヲ禁止スルコトヲ得
第三十二條 日本航空機ニ非サル航空機ハ行政官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ航空ノ用ニ供スルコトヲ得ス
第三十三條 日本國外ヨリ發航シテ日本國內ニ至リ若ハ日本國內ヨリ發航シテ日本國外ニ至ル航空機又ハ日本國外ヨリ發航シ著陸スルコトナクシテ日本國ヲ通過シ日本國外ニ至ル航空機ハ行政官廳ノ指定スル航空路ニ由リ航空スヘシ
第三十四條 日本國外ヨリ發航シテ日本國內ニ至リ又ハ日本國內ヨリ發航シテ日本國外ニ至ル航空機ハ行政官廳ノ許可ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外行政官廳ノ指定スル飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸スヘシ
第三十五條 日本航空機ニ非サル航空機ニ依リ有償ニテ日本各地ノ間ニ於テ旅客又ハ貨物ノ運送ヲ爲スコトヲ得ス但シ行政官廳ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十六條 行政官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ日本航空機ニ依リ運送業ヲ營ムコトヲ得ス
第六章 雜則
第三十七條 航空標識ノ用地又ハ公共ノ用ニ供スル飛行場ノ用地トスル爲必要ナル土地及水ノ使用ニ關スル權利其ノ他土地ニ關スル所有權以外ノ權利ハ之ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル收用又ハ使用ニ關シテハ土地收用法ヲ適用ス
第三十八條 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ用地ニ付テハ納稅義務者ノ申請ニ因リ其ノ地租ヲ免除ス但シ一時ノ使用ニ供スルモノ又ハ有料借地ノモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第三十九條 關稅法中船舶、船長、船用品及海路運送竝之ニ關スル犯則事件ノ調查、處分及處罰ニ付テノ規定ハ航空機、航空機ノ長、航空機ノ機用品及航空機ニ依ル外國貨物ノ運送竝之ニ關スル犯則事件ノ調查、處分及處罰ニ付之ヲ準用ス但シ關稅法中開港トアルハ第三十四條ノ飛行場トス
第四十條 第三十三條ノ航空機カ故障又ハ避難ノ爲其ノ他已ムコトヲ得サル事由ニ因リ第三十四條ニ規定スル著陸ノ場所以外ニ著陸シタルトキハ稅關官吏其ノ地ニ在ル場合ニ於テハ警察官吏ニ遲滯ナク屆出ツヘシ
前項ニ規定スル航空機ハ行政官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ離陸スルコトヲ得ス
第四十一條 日本國外ヨリ發航シテ日本國內ニ至ル航空機ニ關シテハ傳染病豫防ノ爲檢疫ヲ施行ス
前項ノ檢疫ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十二條 前條ノ規定ハ內地、朝鮮、臺灣相互間ニ付之ヲ準用ス
前項ノ內地ニハ樺太ヲ包含ス
第四十三條 航空機ノ救難及之ニ關スル處罰ニ付テハ水難救護法ヲ準用ス
第四十四條 左ノ事項ニ關シ必要ナル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
一 航空機ニ備附クヘキ日誌其ノ他ノ帳簿書類及附屬品其ノ他ノ物件ニ關スル事項
二 保安上又ハ軍事上ノ必要ノ爲航空機ニ搭載スルコトヲ制限又ハ禁止スル火藥類、寫眞機其ノ他ノ物件ニ關スル事項
三 航空機ニ關スル燈火及信號ニ關スル事項
四 航空ニ關スル保安上必要ナル制限及航空機ト航空機又ハ船舶トノ衝突豫防ニ關スル事項
五 航空標識及其ノ設置ニ關スル事項
六 飛行場ノ設備ニ關スル事項
第四十五條 當該官吏ハ其ノ職權ノ執行ニ必要ナリト認ムルトキハ航空機ノ離陸差止又ハ著陸ヲ命スルコトヲ得
第四十六條 當該官吏ハ其ノ職權ノ執行ニ必要ナリト認ムルトキハ航空機、飛行場又ハ格納庫ニ臨檢シ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ之ニ備附ヲ要スル帳簿書類及物件ニ關シ檢查ヲ爲スコトヲ得
第四十七條 朝鮮及臺灣ニ於テハ第三十七條第二項、第三十八條及第四十三條ノ規定ニ關シ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第七章 罰則
第四十八條 航空標識ヲ損壞シタル者又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ之ヲ無效タラシメタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十九條 詐僞ノ信號ヲ爲シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ航空ノ危險ヲ生セシメタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
第五十條 現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ヲ墜落、顚覆若ハ覆沒セシメ又ハ破壞シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
前條ノ罪ヲ犯シ因テ現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ノ墜落、顚覆、覆沒又ハ破壞ヲ致シタル者亦前項ノ例ニ同シ
第五十一條 前二條ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
第五十二條 過失ニ因リ航空ノ危險ヲ生セシメ又ハ現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ノ墜落、顚覆、覆沒又ハ破壞ヲ致シタル者ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
其ノ業務ニ從事スル者前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ三年以下ノ禁錮又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十三條 詐術ヲ用井第五條若ハ第十一條ノ檢查ヲ受ケ又ハ不實ノ事項ヲ登錄セシメタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十四條 第四十九條、第五十條第一項及前條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第五十五條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第五條又ハ第十一條ノ檢查ニ合格セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ第三十二條ノ規定ニ違反シタル者
二 第十四條第一項ノ規定ニ依リ行政官廳ノ爲シタル命令ニ違反シタル者
三 第九條ノ規定ニ違反シテ國籍記號若ハ登錄記號ヲ表示セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ虛僞ノ國籍記號若ハ登錄記號ヲ表示シタル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
第五十六條 第十五條第一項ノ規定ニ違反シタル者又ハ第二十條第一項ノ規定ニ依リ爲シタル行政官廳ノ命令ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十七條 第三十條第一項ノ規定ニ違反シタル者ハ七年以下ノ懲役ニ處ス
第三十條第二項ノ規定ニ依ル制限若ハ禁止ニ違反シタル者、第三十一條ノ規定ニ依ル禁止ニ違反シタル者又ハ第三十三條ノ規定ニ違反シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十八條 第二十九條ノ規定ニ違反シタル者又ハ第四十五條ノ規定ニ依ル當該官吏ノ命令ニ違反シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十九條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二十四條第一項ノ規定ニ依ル行政官廳ノ命令ニ違反シタル者
二 故ナク當該官吏ノ臨檢若ハ檢查ヲ拒ミ、妨ケ若ハ忌避シ又ハ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サス若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者
第六十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第九條ノ規定ニ違反シテ航空機所有者ノ氏名名稱若ハ住所ヲ表示セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ虛僞ノ氏名名稱若ハ住所ヲ表示シタル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
二 第十條ノ規定ニ違反シテ堪航證明書又ハ登錄證明書ヲ備附ケサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
三 第十七條ノ規定ニ違反シタル者
第六十一條 第二十一條、第二十二條、第二十七條第一項、第二十八條、第三十四條乃至第三十六條又ハ第四十條第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十二條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二十三條ノ規定ニ違反シタル者
二 第二十七條第二項ノ規定ニ依ル認可ヲ受ケスシテ使用料ノ請求ヲ爲シタル者
第六十三條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二百圓以下ノ過料ニ處ス
一 第五條第一項又ハ第二項ノ規定ニ違反シタル者
二 第七條第三項又ハ第八條第三項ノ規定ニ依ル登錄ノ申請ヲ怠リタル者
三 第八條第一項又ハ第二項ノ規定ニ依ル堪航證明書又ハ登錄證明書ノ返付ヲ怠リタル者
四 第二十條第三項ノ規定ニ依ル航空免狀ノ返付ヲ怠リタル者
五 第四十條第一項ノ規定ニ依ル屆出ヲ怠リタル者
前項ニ規定スル過料ハ法人ニ在リテハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ之ヲ適用ス
第六十四條 非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前條ノ過料ニ付之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル航空法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月八日
内閣総理大臣 原敬
海軍大臣 男爵 加藤友三郎
大蔵大臣 子爵 高橋是清
陸軍大臣 男爵 田中義一
内務大臣 床次竹二郎
逓信大臣 野田卯太郎
法律第五十四号
航空法
第一章 総則
第一条 本法ニ於テ航空機トハ人ノ搭乗シ得ル気球、凧、航空船及飛行機ヲ謂フ
本法ニ於テ航空トハ陸上又ハ水上ノ滑走ヲ、離陸又ハ著陸トハ離水又ハ著水ヲ包含ス
第二条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ノ所有スル航空機ハ之ヲ日本航空機トス
一 日本国又ハ日本ノ公共団体
二 日本臣民
三 日本法令ニ依リ設立シタル会社ニシテ合名会社ニ在リテハ社員ノ全員、合資会社及株式合資会社ニ在リテハ無限責任社員ノ全員、株式会社ニ在リテハ取締役ノ全員カ日本臣民タルモノ
四 前号ニ掲クル法人以外ノ法人ニシテ日本法令ニ依リ設立シ其ノ代表者ノ全員カ日本臣民タルモノ
第三条 本法ハ本章及第四十一条乃至第四十三条ノ規定ヲ除クノ外軍用航空機ニ之ヲ適用セス
国ノ使用ニ供スル航空機ニ付テハ第二十一条、第二十八条乃至第三十条、第三十三条、第三十四条及第四十条ノ規定ニ関シ勅令ヲ以テ別段ノ規定ヲ為スコトヲ得
第四条 航空ニ関シ条約又ハ之ニ準スヘキモノニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ従フ
第二章 航空機ノ検査及登録
第五条 航空機ヲ製造スル者ハ其ノ設計、材料、部分品、技功及製品ニ付行政官庁ノ検査ヲ受クヘシ
堪航証明書ナキ航空機ノ所有者ハ其ノ航空機ニ付行政官庁ノ検査ヲ受クヘシ
前二項ノ検査ニ合格シタル航空機ニ対シテハ堪航証明書ヲ交付ス
第一項及第二項ノ規定ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官庁ノ許可ヲ受ケタル航空機ニ之ヲ適用セス
第六条 堪航証明書ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ其ノ効力ヲ失フ
一 堪航証明書ニ記載シタル有効期間ヲ経過シタルトキ
二 第十四条第一項ノ規定ニ依リ航空機ノ使用ノ禁止ヲ命シタルトキ
前項第一号ノ有効期間ハ前条ノ検査ニ合格シタル日ヨリ起算シ六月以内ニ於テ行政官庁之ヲ定ム有効期間ハ第十一条ノ検査ノ結果ニ依リ検査ノ日ヨリ起算シ六月以内ニ於テ行政官庁之ヲ延長スルコトヲ得
第七条 第五条ノ検査ニ合格シタル航空機ノ所有者ハ行政官庁ニ其ノ航空機ノ登録ヲ申請スルコトヲ得
航空機ノ登録事項ハ航空機ノ所有者ノ氏名名称、登録記号其ノ他命令ヲ以テ定ムル事項トス
登録シタル事項ニ変更アリタルトキハ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以内ニ行政官庁ニ変更ノ登録ヲ申請スヘシ
登録シタル航空機ニ対シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空機ノ所有者ノ氏名名称、登録記号其ノ他ノ登録事項ヲ記載シタル登録証明書ヲ交付ス
第八条 航空機カ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ其ノ際ノ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以内ニ行政官庁ニ堪航証明書ヲ返付スヘシ
一 滅失又ハ破壊シタルトキ
二 解撤セラレタルトキ
三 其ノ堪航証明書カ其ノ効力ヲ失ヒタルトキ
登録シタル航空機カ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ其ノ際ノ航空機ノ所有者ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以内ニ行政官庁ニ登録証明書ヲ返付スヘシ
一 滅失又ハ破壊シタルトキ
二 解撤セラレタルトキ
三 日本国籍ヲ喪失シタルトキ
四 其ノ堪航証明書カ其ノ効力ヲ失ヒタルトキ
前項第一号乃至第三号ノ場合ニ於テハ同時ニ抹消登録ヲ申請スヘシ
前項ノ場合ニ於テ抹消登録ノ申請ナキトキ又ハ第二項第四号ノ場合ニ於テハ行政官庁ハ職権ヲ以テ抹消ノ登録ヲ為スコトヲ得
第九条 登録シタル航空機ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ国籍記号、登録記号並所有者ノ氏名名称及住所ヲ表示スヘシ
第十条 航空機ハ前条ノ規定ニ依ル表示ヲ為シ且堪航証明書及登録証明書ヲ備附クルニ非サレハ之ヲ航空ノ用ニ供スルコトヲ得ス
第十一条 行政官庁ハ定期又ハ臨時ニ航空機ノ検査ヲ為スコトヲ得
第十二条 第五条第一項第二項及第十条ノ規定ハ航空機ノ試験ノ為飛行場又ハ命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ航空スル航空機ニ関シテハ之ヲ適用セス
第十三条 第五条、第七条、第八条及第十一条ニ規定スルモノノ外航空機ノ検査又ハ登録ニ関スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 行政官庁ハ第十一条ノ検査ノ結果ニ基キ其ノ他航空機ノ現状ニ因リ必要アルトキハ航空機ノ使用ノ制限、停止又ハ禁止ヲ命スルコトヲ得
行政官庁ハ前項ノ規定ニ依リ制限ヲ命シタルトキハ堪航証明書ニ制限事項ヲ附記シ停止ヲ命シタルトキハ停止中堪航証明書ヲ領置ス
第三章 乗員
第十五条 航空機ノ乗員ニ非サレハ航空機ニ搭乗シテ其ノ運航ニ従事スルコトヲ得ス
乗員ハ技倆証明書及航空免状ヲ有スルコトヲ要ス
第十六条 技倆証明書ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官庁ノ行フ考査ニ合格シタル者ニ之ヲ交付ス技倆証明書ヲ有スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空免状ノ交付ヲ受クルコトヲ得
第十七条 乗員ハ技倆証明書及航空免状ヲ携帯スルニ非サレハ運航ニ従事スルコトヲ得ス
第十八条 行政官庁ハ乗員ニ対シ定期又ハ臨時ニ検査ヲ為スコトヲ得
第十九条 第十五条第一項ノ規定ハ飛行場又ハ命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ航空機ニ搭乗シテ運航練習ヲ為ス者及運航練習ノ為乗員ト同乗シ共同シテ運航ニ従事スル者ニ之ヲ適用セス
第二十条 行政官庁ハ乗員引続キ六月以上運航ニ従事セサルトキ、第十八条ノ検査ノ結果ニ基キ必要アルトキ又ハ保安上必要アルトキハ就業ノ制限、停止又ハ禁止ヲ命スルコトヲ得
行政官庁ハ前項ノ規定ニ依リ制限ヲ命シタルトキハ航空免状ニ制限事項ヲ附記シ停止ヲ命シタルトキハ停止中航空免状ヲ領置ス
第一項ノ規定ニ依リ禁止ヲ命セラレタル乗員ハ其ノ日ヨリ起算シ十四日以内ニ行政官庁ニ航空免状ヲ返付スヘシ
第四章 飛行場及其ノ経営者
第二十一条 飛行場ヲ設置セムトスル者、其ノ区域ヲ変更セムトスル者又ハ公共ノ用ニ供スル飛行場ヲ廃止セムトスル者ハ行政官庁ノ許可ヲ受クヘシ公共ノ用ニ供スル飛行場ヲ公共ノ用ニ供セサル飛行場ニ変更シ又ハ公共ノ用ニ供セサル飛行場ヲ公共ノ用ニ供スル飛行場ニ変更セムトスル者亦同シ
第二十二条 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ経営者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ航空ニ必要ナル設備ヲ為スヘシ
第二十三条 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ経営者ハ行政官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ其ノ飛行場ヲ他ノ目的ニ使用シ又ハ使用セシムルコトヲ得ス
第二十四条 行政官庁ハ飛行場ノ境界ヨリ外方五百「メートル」ノ区域内ニ於テ航空ノ障碍ト為ルヘキモノアルトキハ飛行場ノ経営者ニ対シ必要ナル航空標識ノ設置ヲ命スルコトヲ得
飛行場ノ経営者ハ前項ノ航空標識ノ設置又ハ維持ノ為必要アルトキハ行政官庁ノ許可ヲ受ケ日出後日没前ニ限リ他人ノ土地ニ立入リ若ハ障碍ト為ルヘキ物件ヲ除去シ又ハ必要ナル土地若ハ物件ヲ使用スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ経営者ハ予メ其ノ土地又ハ物件ノ占有者ニ其ノ旨通知スヘシ
飛行場ノ経営者ハ第一項ノ航空標識ノ維持ノ為緊急ノ必要アルトキハ前項ノ規定ニ拘ラス他人ノ土地ニ立入リ若ハ障碍ト為ルヘキ物件ヲ除去シ又ハ必要ナル土地若ハ物件ヲ使用スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ経営者ハ遅滞ナク其ノ旨行政官庁ニ届出テ且其ノ土地又ハ物件ノ占有者ニ通知スヘシ
第二十五条 前条ノ規定ニ依ル立入、除去又ハ使用ニ因リ生シタル損害ハ飛行場ノ経営者之ヲ補償スヘシ
前項ノ規定ニ依ル補償ノ金額ニ関シ協議調ハサルトキハ行政官庁ノ決定ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ決定ニ不服アル者ハ其ノ決定ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ起算シ三月以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十六条 第二十四条第二項第三項及前条ノ規定ハ許可又ハ届出ニ関スル規定ヲ除クノ外軍用ニ供スル飛行場ノ境界ヨリ外方五百「メートル」ノ区域内ニ於テ航空ノ障碍ト為ルヘキモノアルトキ必要ナル航空標識ヲ設置又ハ維持スル場合ニ之ヲ準用ス
第二十七条 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ経営者ハ他人ノ運航スル航空船又ハ飛行機ニ対シ其ノ飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸スルコトヲ拒ムコトヲ得ス但シ行政官庁ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ経営者其ノ飛行場ノ使用ニ対シ使用料ヲ請求セムトスルトキハ予メ其ノ額ヲ定メ行政官庁ノ認可ヲ受クヘシ
第二十八条 公共ノ用ニ供セサル飛行場ノ経営者ハ行政官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ他人ノ運航スル他人ニ属スル航空機ヲシテ其ノ飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸セシムルコトヲ得ス
第五章 航空及運送
第二十九条 航空船及飛行機ハ陸上ニ在リテハ飛行場ニ非サル場所、水上ニ在リテハ命令ヲ以テ禁止スル場所ニ於テ離陸又ハ著陸スルコトヲ得ス但シ故障若ハ避難ノ為其ノ他已ムコトヲ得サル事由アルトキ又ハ行政官庁ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十条 故ナク皇居、禁苑、離宮、行在所若ハ神宮ノ上空ニ於テ又ハ皇陵ノ上空千「メートル」以下ニ於テ航空機ノ運航ヲ為スコトヲ得ス
前項ニ掲クル場所ノ外航空ニ関スル制限又ハ禁止ヲ必要トスル場所ニ関シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十一条 戦時又ハ事変ニ際シ必要アルトキハ行政官庁ハ航空機ノ航空ヲ禁止スルコトヲ得
第三十二条 日本航空機ニ非サル航空機ハ行政官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ航空ノ用ニ供スルコトヲ得ス
第三十三条 日本国外ヨリ発航シテ日本国内ニ至リ若ハ日本国内ヨリ発航シテ日本国外ニ至ル航空機又ハ日本国外ヨリ発航シ著陸スルコトナクシテ日本国ヲ通過シ日本国外ニ至ル航空機ハ行政官庁ノ指定スル航空路ニ由リ航空スヘシ
第三十四条 日本国外ヨリ発航シテ日本国内ニ至リ又ハ日本国内ヨリ発航シテ日本国外ニ至ル航空機ハ行政官庁ノ許可ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外行政官庁ノ指定スル飛行場ニ於テ著陸又ハ離陸スヘシ
第三十五条 日本航空機ニ非サル航空機ニ依リ有償ニテ日本各地ノ間ニ於テ旅客又ハ貨物ノ運送ヲ為スコトヲ得ス但シ行政官庁ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十六条 行政官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ日本航空機ニ依リ運送業ヲ営ムコトヲ得ス
第六章 雑則
第三十七条 航空標識ノ用地又ハ公共ノ用ニ供スル飛行場ノ用地トスル為必要ナル土地及水ノ使用ニ関スル権利其ノ他土地ニ関スル所有権以外ノ権利ハ之ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル収用又ハ使用ニ関シテハ土地収用法ヲ適用ス
第三十八条 公共ノ用ニ供スル飛行場ノ用地ニ付テハ納税義務者ノ申請ニ因リ其ノ地租ヲ免除ス但シ一時ノ使用ニ供スルモノ又ハ有料借地ノモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第三十九条 関税法中船舶、船長、船用品及海路運送並之ニ関スル犯則事件ノ調査、処分及処罰ニ付テノ規定ハ航空機、航空機ノ長、航空機ノ機用品及航空機ニ依ル外国貨物ノ運送並之ニ関スル犯則事件ノ調査、処分及処罰ニ付之ヲ準用ス但シ関税法中開港トアルハ第三十四条ノ飛行場トス
第四十条 第三十三条ノ航空機カ故障又ハ避難ノ為其ノ他已ムコトヲ得サル事由ニ因リ第三十四条ニ規定スル著陸ノ場所以外ニ著陸シタルトキハ税関官吏其ノ地ニ在ル場合ニ於テハ警察官吏ニ遅滞ナク届出ツヘシ
前項ニ規定スル航空機ハ行政官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ離陸スルコトヲ得ス
第四十一条 日本国外ヨリ発航シテ日本国内ニ至ル航空機ニ関シテハ伝染病予防ノ為検疫ヲ施行ス
前項ノ検疫ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十二条 前条ノ規定ハ内地、朝鮮、台湾相互間ニ付之ヲ準用ス
前項ノ内地ニハ樺太ヲ包含ス
第四十三条 航空機ノ救難及之ニ関スル処罰ニ付テハ水難救護法ヲ準用ス
第四十四条 左ノ事項ニ関シ必要ナル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
一 航空機ニ備附クヘキ日誌其ノ他ノ帳簿書類及附属品其ノ他ノ物件ニ関スル事項
二 保安上又ハ軍事上ノ必要ノ為航空機ニ搭載スルコトヲ制限又ハ禁止スル火薬類、写真機其ノ他ノ物件ニ関スル事項
三 航空機ニ関スル灯火及信号ニ関スル事項
四 航空ニ関スル保安上必要ナル制限及航空機ト航空機又ハ船舶トノ衝突予防ニ関スル事項
五 航空標識及其ノ設置ニ関スル事項
六 飛行場ノ設備ニ関スル事項
第四十五条 当該官吏ハ其ノ職権ノ執行ニ必要ナリト認ムルトキハ航空機ノ離陸差止又ハ著陸ヲ命スルコトヲ得
第四十六条 当該官吏ハ其ノ職権ノ執行ニ必要ナリト認ムルトキハ航空機、飛行場又ハ格納庫ニ臨検シ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ之ニ備附ヲ要スル帳簿書類及物件ニ関シ検査ヲ為スコトヲ得
第四十七条 朝鮮及台湾ニ於テハ第三十七条第二項、第三十八条及第四十三条ノ規定ニ関シ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第七章 罰則
第四十八条 航空標識ヲ損壊シタル者又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ之ヲ無効タラシメタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
第四十九条 詐偽ノ信号ヲ為シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ航空ノ危険ヲ生セシメタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス
第五十条 現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ヲ墜落、顛覆若ハ覆没セシメ又ハ破壊シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
前条ノ罪ヲ犯シ因テ現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ノ墜落、顛覆、覆没又ハ破壊ヲ致シタル者亦前項ノ例ニ同シ
第五十一条 前二条ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
第五十二条 過失ニ因リ航空ノ危険ヲ生セシメ又ハ現ニ航空ノ用ニ供スル航空機ノ墜落、顛覆、覆没又ハ破壊ヲ致シタル者ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
其ノ業務ニ従事スル者前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ三年以下ノ禁錮又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十三条 詐術ヲ用井第五条若ハ第十一条ノ検査ヲ受ケ又ハ不実ノ事項ヲ登録セシメタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十四条 第四十九条、第五十条第一項及前条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第五十五条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第五条又ハ第十一条ノ検査ニ合格セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ第三十二条ノ規定ニ違反シタル者
二 第十四条第一項ノ規定ニ依リ行政官庁ノ為シタル命令ニ違反シタル者
三 第九条ノ規定ニ違反シテ国籍記号若ハ登録記号ヲ表示セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ虚偽ノ国籍記号若ハ登録記号ヲ表示シタル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
第五十六条 第十五条第一項ノ規定ニ違反シタル者又ハ第二十条第一項ノ規定ニ依リ為シタル行政官庁ノ命令ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十七条 第三十条第一項ノ規定ニ違反シタル者ハ七年以下ノ懲役ニ処ス
第三十条第二項ノ規定ニ依ル制限若ハ禁止ニ違反シタル者、第三十一条ノ規定ニ依ル禁止ニ違反シタル者又ハ第三十三条ノ規定ニ違反シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十八条 第二十九条ノ規定ニ違反シタル者又ハ第四十五条ノ規定ニ依ル当該官吏ノ命令ニ違反シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十九条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第二十四条第一項ノ規定ニ依ル行政官庁ノ命令ニ違反シタル者
二 故ナク当該官吏ノ臨検若ハ検査ヲ拒ミ、妨ケ若ハ忌避シ又ハ尋問ニ対シ答弁ヲ為サス若ハ虚偽ノ陳述ヲ為シタル者
第六十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第九条ノ規定ニ違反シテ航空機所有者ノ氏名名称若ハ住所ヲ表示セサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者又ハ虚偽ノ氏名名称若ハ住所ヲ表示シタル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
二 第十条ノ規定ニ違反シテ堪航証明書又ハ登録証明書ヲ備附ケサル航空機ヲ航空ノ用ニ供シタル者
三 第十七条ノ規定ニ違反シタル者
第六十一条 第二十一条、第二十二条、第二十七条第一項、第二十八条、第三十四条乃至第三十六条又ハ第四十条第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
第六十二条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第二十三条ノ規定ニ違反シタル者
二 第二十七条第二項ノ規定ニ依ル認可ヲ受ケスシテ使用料ノ請求ヲ為シタル者
第六十三条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ二百円以下ノ過料ニ処ス
一 第五条第一項又ハ第二項ノ規定ニ違反シタル者
二 第七条第三項又ハ第八条第三項ノ規定ニ依ル登録ノ申請ヲ怠リタル者
三 第八条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依ル堪航証明書又ハ登録証明書ノ返付ヲ怠リタル者
四 第二十条第三項ノ規定ニ依ル航空免状ノ返付ヲ怠リタル者
五 第四十条第一項ノ規定ニ依ル届出ヲ怠リタル者
前項ニ規定スル過料ハ法人ニ在リテハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ之ヲ適用ス
第六十四条 非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ前条ノ過料ニ付之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム