高等試験令
法令番号: 勅令第七號
公布年月日: 大正7年1月18日
法令の形式: 勅令
朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ高等試驗令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正七年一月十七日
內閣總理大臣 伯爵 寺內正毅
外務大臣 法學博士 子爵 本野一郞
司法大臣 松室致
文部大臣 岡田良平
勅令第七號
高等試驗令
第一條 奏任文官ノ任用資格試驗、外交官及領事官ノ任用資格試驗竝裁判所構成法第五十八條ノ試驗ハ高等試驗ト稱シ本令ニ依リ之ヲ行フ但シ特別ノ規程アルモノハ此ノ限ニ在ラス
第二條 高等試驗ハ每年一囘東京ニ於テ之ヲ行フ其ノ期日及場所ハ豫メ官報ヲ以テ之ヲ公吿ス
本試驗各科ノ試驗ハ各別ノ期日ニ之ヲ行フ
第三條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ高等試驗ヲ受クルコトヲ得ス
一 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
二 破產若ハ家資分散ノ宣吿ヲ受ケ復權セサル者又ハ身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨償ヲ終ヘサル者
第四條 高等試驗ヲ分チテ豫備試驗及本試驗トス豫備試驗ニ合格シタル者ニ非サレハ本試驗ヲ受クルコトヲ得ス
第五條 豫備試驗ハ受驗者本試驗ヲ受クルニ相當ナル學識ヲ有スル者ト認ムヘキヤ否ヲ考試スルヲ以テ目的トス
第六條 豫備試驗ハ論文及外國語ニ就キ之ヲ行フ
外國語試驗ハ英語、佛語及獨語ノ中ニ就キ受驗者ヲシテ豫メ一種ヲ選擇セシメ之ヲ行フ但シ受驗者ノ願ニ依リ他ノ外國語ヲ以テ之ニ代フルコトアルヘシ
第七條 豫備試驗ヲ受ケムトスル者ハ中學校ヲ卒業シタル者、文部大臣ニ於テ普通敎育ニ關シ之ト同等以上ノ學歷ヲ有スト定メタル者及高等試驗委員ニ於テ普通敎育ニ關シ中學校ト同等以上ト認ムル外國ノ學校ヲ卒業シタル者ヲ除クノ外文部大臣ノ定ムル所ニ依リ國語、漢文、歷史、地理、數學、物理及化學ノ七科目ニ就キ中學校卒業ノ程度ニ於テ行フ試驗ニ合格シタル者ナルコトヲ要ス
第八條 高等學校大學豫科又ハ文部大臣ニ於テ之ト同等以上ト認ムル學校ヲ卒業シタル者ハ豫備試驗ヲ免ス
豫備試驗ニ合格シタル者ハ爾後豫備試驗ヲ免ス
第九條 本試驗ハ受驗者學理上ノ原則及現行法令ニ通曉シ且之ヲ實務ニ應用スルノ能力アルヤ否ヲ考試スルヲ以テ目的トス
第十條 本試驗ヲ分チテ行政科、外交科及司法科ノ三科トス
受驗者ハ二科以上ノ試驗ヲ併セ受クルコトヲ得
第十一條 本試驗ハ筆記及口述トス筆記試驗ニ合格シタル者ニ非サレハ口述試驗ヲ受クルコトヲ得ス
第十二條 民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法其ノ他高等試驗委員ニ於テ必要ト認ムル科目ノ筆記試驗及口述試驗ハ受驗者ニ法文ヲ示シテ之ヲ行フ
第十三條 行政科試驗ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 行政法
三 民法
四 刑法
五 國際公法
六 經濟學
以上ノ科目ハ必須トス
一 商法
二 民事訴訟法
三 刑事訴訟法
四 財政學
以上ノ科目ハ受驗者ヲシテ豫メ其ノ一ヲ選擇セシム
第十四條 外交科試驗ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 國際公法
三 國際私法
四 經濟學
五 外交史
六 外國語
以上ノ科目ハ必須トス
外國語ハ英語、佛語及獨語ノ中ニ就キ受驗者ヲシテ豫メ一種ヲ選擇セシム
受驗者ノ願ニ依リ其ノ選擇シタル外國語ノ外他ノ外國語ヲ併セ試驗スルコトアルヘシ
一 行政法
二 民法
三 商法
四 刑法
五 財政學
六 商業學
七 商業史
以上ノ科目ハ受驗者ヲシテ豫メ其ノ一ヲ選擇セシム
第十五條 司法科試驗ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 民法
三 商法
四 刑法
五 民事訴訟法
六 刑事訴訟法
七 國際私法
以上ノ科目ハ必須トス
一 行政法
二 國際公法
三 經濟學
以上ノ科目ハ受驗者ヲシテ豫メ其ノ一ヲ選擇セシム
第十六條 一ノ科ノ筆記試驗ニ合格シタル者ハ翌年ニ限リ其ノ科ノ筆記試驗ヲ免ス
第十七條 一ノ科ノ本試驗ニ合格シタル者ニシテ他ノ科ノ本試驗ヲ受ケムトスル者ニ付テハ必須科目ノ試驗ニ在リテハ受驗セサリシ科目ニ就キテノミ之ヲ行ヒ選擇科目ノ試驗ニ在リテハ其ノ科目中ニ受驗シタル科目ナキトキニ於テノミ之ヲ行フ
第十八條 試驗ノ合格者ヲ定ムル方法ハ高等試驗委員ノ議定スル所ニ依ル
第十九條 高等試驗ノ合格者ニハ合格證書ヲ付與ス
第二十條 不正ノ方法ニ依リ試驗ヲ受ケムトシタル者又ハ試驗ニ關スル規程ニ違反シタル者ハ其ノ試驗ヲ受クルコトヲ得ス試驗合格決定後發覺シタルトキハ其ノ合格ヲ無效トス
第二十一條 高等試驗ヲ受ケムトスル者ハ手數料トシテ本試驗ノ一科ニ付十圓ヲ納ムヘシ
第二十二條 高等試驗ニ關スル細則ハ閣令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
本令ハ大正七年三月一日ヨリ之ヲ施行ス
文官試驗規則竝外交官及領事官試驗規則ハ之ヲ廢止ス
大正三年法律第三十九號中第五十七條乃至第五十九條、第六十二條及第六十五條ノ改正規定、大正三年法律第四十號竝本令中司法科試驗ニ關スル規定ハ大正十二年三月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ高等試験令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正七年一月十七日
内閣総理大臣 伯爵 寺内正毅
外務大臣 法学博士 子爵 本野一郎
司法大臣 松室致
文部大臣 岡田良平
勅令第七号
高等試験令
第一条 奏任文官ノ任用資格試験、外交官及領事官ノ任用資格試験並裁判所構成法第五十八条ノ試験ハ高等試験ト称シ本令ニ依リ之ヲ行フ但シ特別ノ規程アルモノハ此ノ限ニ在ラス
第二条 高等試験ハ毎年一回東京ニ於テ之ヲ行フ其ノ期日及場所ハ予メ官報ヲ以テ之ヲ公告ス
本試験各科ノ試験ハ各別ノ期日ニ之ヲ行フ
第三条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ高等試験ヲ受クルコトヲ得ス
一 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者
二 破産若ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケ復権セサル者又ハ身代限ノ処分ヲ受ケ債務ノ弁償ヲ終ヘサル者
第四条 高等試験ヲ分チテ予備試験及本試験トス予備試験ニ合格シタル者ニ非サレハ本試験ヲ受クルコトヲ得ス
第五条 予備試験ハ受験者本試験ヲ受クルニ相当ナル学識ヲ有スル者ト認ムヘキヤ否ヲ考試スルヲ以テ目的トス
第六条 予備試験ハ論文及外国語ニ就キ之ヲ行フ
外国語試験ハ英語、仏語及独語ノ中ニ就キ受験者ヲシテ予メ一種ヲ選択セシメ之ヲ行フ但シ受験者ノ願ニ依リ他ノ外国語ヲ以テ之ニ代フルコトアルヘシ
第七条 予備試験ヲ受ケムトスル者ハ中学校ヲ卒業シタル者、文部大臣ニ於テ普通教育ニ関シ之ト同等以上ノ学歴ヲ有スト定メタル者及高等試験委員ニ於テ普通教育ニ関シ中学校ト同等以上ト認ムル外国ノ学校ヲ卒業シタル者ヲ除クノ外文部大臣ノ定ムル所ニ依リ国語、漢文、歴史、地理、数学、物理及化学ノ七科目ニ就キ中学校卒業ノ程度ニ於テ行フ試験ニ合格シタル者ナルコトヲ要ス
第八条 高等学校大学予科又ハ文部大臣ニ於テ之ト同等以上ト認ムル学校ヲ卒業シタル者ハ予備試験ヲ免ス
予備試験ニ合格シタル者ハ爾後予備試験ヲ免ス
第九条 本試験ハ受験者学理上ノ原則及現行法令ニ通暁シ且之ヲ実務ニ応用スルノ能力アルヤ否ヲ考試スルヲ以テ目的トス
第十条 本試験ヲ分チテ行政科、外交科及司法科ノ三科トス
受験者ハ二科以上ノ試験ヲ併セ受クルコトヲ得
第十一条 本試験ハ筆記及口述トス筆記試験ニ合格シタル者ニ非サレハ口述試験ヲ受クルコトヲ得ス
第十二条 民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法其ノ他高等試験委員ニ於テ必要ト認ムル科目ノ筆記試験及口述試験ハ受験者ニ法文ヲ示シテ之ヲ行フ
第十三条 行政科試験ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 行政法
三 民法
四 刑法
五 国際公法
六 経済学
以上ノ科目ハ必須トス
一 商法
二 民事訴訟法
三 刑事訴訟法
四 財政学
以上ノ科目ハ受験者ヲシテ予メ其ノ一ヲ選択セシム
第十四条 外交科試験ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 国際公法
三 国際私法
四 経済学
五 外交史
六 外国語
以上ノ科目ハ必須トス
外国語ハ英語、仏語及独語ノ中ニ就キ受験者ヲシテ予メ一種ヲ選択セシム
受験者ノ願ニ依リ其ノ選択シタル外国語ノ外他ノ外国語ヲ併セ試験スルコトアルヘシ
一 行政法
二 民法
三 商法
四 刑法
五 財政学
六 商業学
七 商業史
以上ノ科目ハ受験者ヲシテ予メ其ノ一ヲ選択セシム
第十五条 司法科試験ハ左ノ科目ニ就キ之ヲ行フ
一 憲法
二 民法
三 商法
四 刑法
五 民事訴訟法
六 刑事訴訟法
七 国際私法
以上ノ科目ハ必須トス
一 行政法
二 国際公法
三 経済学
以上ノ科目ハ受験者ヲシテ予メ其ノ一ヲ選択セシム
第十六条 一ノ科ノ筆記試験ニ合格シタル者ハ翌年ニ限リ其ノ科ノ筆記試験ヲ免ス
第十七条 一ノ科ノ本試験ニ合格シタル者ニシテ他ノ科ノ本試験ヲ受ケムトスル者ニ付テハ必須科目ノ試験ニ在リテハ受験セサリシ科目ニ就キテノミ之ヲ行ヒ選択科目ノ試験ニ在リテハ其ノ科目中ニ受験シタル科目ナキトキニ於テノミ之ヲ行フ
第十八条 試験ノ合格者ヲ定ムル方法ハ高等試験委員ノ議定スル所ニ依ル
第十九条 高等試験ノ合格者ニハ合格証書ヲ付与ス
第二十条 不正ノ方法ニ依リ試験ヲ受ケムトシタル者又ハ試験ニ関スル規程ニ違反シタル者ハ其ノ試験ヲ受クルコトヲ得ス試験合格決定後発覚シタルトキハ其ノ合格ヲ無効トス
第二十一条 高等試験ヲ受ケムトスル者ハ手数料トシテ本試験ノ一科ニ付十円ヲ納ムヘシ
第二十二条 高等試験ニ関スル細則ハ閣令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
本令ハ大正七年三月一日ヨリ之ヲ施行ス
文官試験規則並外交官及領事官試験規則ハ之ヲ廃止ス
大正三年法律第三十九号中第五十七条乃至第五十九条、第六十二条及第六十五条ノ改正規定、大正三年法律第四十号並本令中司法科試験ニ関スル規定ハ大正十二年三月一日ヨリ之ヲ施行ス