陸軍将校分限令
法令番号: 勅令第六十七號
公布年月日: 大正3年4月16日
法令の形式: 勅令
朕陸軍將校分限令改正ノ件ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正三年四月十五日
內閣總理大臣 伯爵 山本權兵衞
陸軍大臣 楠瀨幸彥
勅令第六十七號
陸軍將校分限令
第一條 陸軍將校トハ將官竝各兵科上長官及士官ヲ謂フ
第二條 將校ハ終身其ノ官ヲ保有シ之ニ對スル禮遇ヲ享ク
第三條 將校ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ非サレハ其ノ官ヲ失フコトナシ
一 本人ノ願ニ依リ其ノ官ヲ免セラレタルトキ
二 將校タルノ本分ニ背キ又ハ其ノ體面ヲ汚シ勅裁ニ依リ免官ト爲リタルトキ
三 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルトキ但シ陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ一年未滿ノ禁錮ニ處セラレタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四條 武官ヲ以テ充ツヘキ官職ニ在ル者ハ現役トス但シ豫備役、後備役又ハ退役ニ在リテ任官又ハ就職スル者ハ此ノ限ニ在ラス
現役將校左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ前項ノ規定ニ拘ラス尙現役タルコトヲ失ハス
一 修學ヲ命セラレタルトキ
二 本人ノ願ニ依リ外國留學ヲ許可セラレタルトキ
三 待命、休職又ハ停職ト爲リタルトキ
第五條 現役將校左ノ各號ノ一ニ該當シ就職ノ命ナキトキハ待命トス
一 解隊、廢廳又ハ廢職ノトキ
二 修學滿期ト爲リタルトキ又ハ外國留學ヲ許可セラレタル者歸朝シタルトキ
三 法令ニ依リ定員外ト爲リタル者定員外ノ事由消滅シタルトキ
四 武官ヲ以テ充ツヘキ文官ニ任セラレタル者其ノ文官ヲ免セラレタルトキ
俘虜ト爲リタル者歸朝シ過員ト爲リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ外編制改正又ハ職務ノ關係ニ依リ待命ヲ命スルコトヲ得
第六條 現役將校左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ休職トス
一 待命ト爲リ一年ヲ經過シ就職ノ命ナキトキ
二 陸軍部內ノ文官ニ專任セラレタルトキ但シ武官ヲ以テ充ツヘキモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
三 本人ノ願ニ依リ內國ニ於ケル修學ヲ許可セラレタルトキ
四 生死不明ト爲リタルトキ但シ戰地ニ在リテハ此ノ限ニ在ラス
五 陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ一年未滿ノ禁錮ニ處セラレタルトキ
前項ノ外現役將校傷痍又ハ疾病ニ因リ執務セサルコト六月ニ及フトキハ之ニ休職ヲ命スルコトヲ得但シ本人ノ願アルトキ又ハ其ノ代員ヲ要スルトキハ六月ヲ待ツノ限ニ在ラス
第七條 現役將校ニシテ懲戒スヘキ行爲アリタルトキハ停職ヲ命スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ停職ヲ命セラレタル者ハ六月ノ後ニ非サレハ就職スルコトヲ得ス但シ戰時又ハ事變ニ際シテハ此ノ限ニ在ラス
第八條 現役將校左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ豫備役ニ入ルモノトス
一 休職ト爲リ二年ヲ經過シ就職ノ命ナキトキ但シ第六條第一項第二號又ハ第四號ニ該當スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
二 停職ト爲リ一年ヲ經過シ就職ノ命ナキトキ
三 待命及休職、休職及停職又ハ待命休職及停職ヲ通シテ二年ヲ經過シ就職ノ命ナキトキ但シ第六條第一項第二號又ハ第四號ニ該當スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
四 宮內官又ハ陸軍部外ノ文官ニ專任セラレタルトキ但シ武官ヲ以テ充ツヘキモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
五 貴族院令第四條ノ規定ニ依リ貴族院議員ト爲リタルトキ
前項ノ外傷痍又ハ疾病ノ爲現役ニ堪ヘサル者ハ本人ノ願ニ依リ豫備役ニ入ラシメ退職恩給ヲ受クヘキ服役年數ニ達シタル待命、休職又ハ停職中ノ將校ハ健康狀態又ハ補充上ノ必要ニ因リ將官ニ在リテハ上諭ニ依リ上長官又ハ士官ニ在リテハ陸軍大臣旨ヲ諭シテ豫備役ニ入ラシムルコトヲ得
第九條 現役將校現役定限年齡ニ達シタルトキ又ハ豫備役將校豫備役滿期ト爲リタルトキハ後備役ニ入ルモノトス
第十條 後備役將校後備役滿期ト爲リタルトキハ退役トス
前項ノ外現役豫備役後備役將校傷痍又ハ疾病ノ爲永久服役ニ堪ヘサルトキハ退役ヲ命スルコトヲ得
第十一條 現役定限年齡、豫備役後備役ノ服役年期及召集ニ關シテハ別ニ之ヲ定ム
第十二條 本令ハ將校相當官ニ之ヲ準用ス
附 則
舊陸軍刑法又ハ舊海軍刑法ニ依リ剝官ヲ附加スヘキ刑ニ處セラレタル者ハ第三條ノ適用ニ付テハ之ヲ陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ禁錮一年以上ノ刑ニ處セラレタル者ト看做ス
本令施行ノ際待命、休職又ハ停職ニ在ル者ニ付テハ仍從前ノ規定ニ依ル但シ第八條第二項ノ出願ニ依ル轉役ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
朕陸軍将校分限令改正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正三年四月十五日
内閣総理大臣 伯爵 山本権兵衛
陸軍大臣 楠瀬幸彦
勅令第六十七号
陸軍将校分限令
第一条 陸軍将校トハ将官並各兵科上長官及士官ヲ謂フ
第二条 将校ハ終身其ノ官ヲ保有シ之ニ対スル礼遇ヲ享ク
第三条 将校ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ非サレハ其ノ官ヲ失フコトナシ
一 本人ノ願ニ依リ其ノ官ヲ免セラレタルトキ
二 将校タルノ本分ニ背キ又ハ其ノ体面ヲ汚シ勅裁ニ依リ免官ト為リタルトキ
三 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルトキ但シ陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ一年未満ノ禁錮ニ処セラレタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四条 武官ヲ以テ充ツヘキ官職ニ在ル者ハ現役トス但シ予備役、後備役又ハ退役ニ在リテ任官又ハ就職スル者ハ此ノ限ニ在ラス
現役将校左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ前項ノ規定ニ拘ラス尚現役タルコトヲ失ハス
一 修学ヲ命セラレタルトキ
二 本人ノ願ニ依リ外国留学ヲ許可セラレタルトキ
三 待命、休職又ハ停職ト為リタルトキ
第五条 現役将校左ノ各号ノ一ニ該当シ就職ノ命ナキトキハ待命トス
一 解隊、廃庁又ハ廃職ノトキ
二 修学満期ト為リタルトキ又ハ外国留学ヲ許可セラレタル者帰朝シタルトキ
三 法令ニ依リ定員外ト為リタル者定員外ノ事由消滅シタルトキ
四 武官ヲ以テ充ツヘキ文官ニ任セラレタル者其ノ文官ヲ免セラレタルトキ
俘虜ト為リタル者帰朝シ過員ト為リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ外編制改正又ハ職務ノ関係ニ依リ待命ヲ命スルコトヲ得
第六条 現役将校左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ休職トス
一 待命ト為リ一年ヲ経過シ就職ノ命ナキトキ
二 陸軍部内ノ文官ニ専任セラレタルトキ但シ武官ヲ以テ充ツヘキモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
三 本人ノ願ニ依リ内国ニ於ケル修学ヲ許可セラレタルトキ
四 生死不明ト為リタルトキ但シ戦地ニ在リテハ此ノ限ニ在ラス
五 陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ一年未満ノ禁錮ニ処セラレタルトキ
前項ノ外現役将校傷痍又ハ疾病ニ因リ執務セサルコト六月ニ及フトキハ之ニ休職ヲ命スルコトヲ得但シ本人ノ願アルトキ又ハ其ノ代員ヲ要スルトキハ六月ヲ待ツノ限ニ在ラス
第七条 現役将校ニシテ懲戒スヘキ行為アリタルトキハ停職ヲ命スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ停職ヲ命セラレタル者ハ六月ノ後ニ非サレハ就職スルコトヲ得ス但シ戦時又ハ事変ニ際シテハ此ノ限ニ在ラス
第八条 現役将校左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ予備役ニ入ルモノトス
一 休職ト為リ二年ヲ経過シ就職ノ命ナキトキ但シ第六条第一項第二号又ハ第四号ニ該当スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
二 停職ト為リ一年ヲ経過シ就職ノ命ナキトキ
三 待命及休職、休職及停職又ハ待命休職及停職ヲ通シテ二年ヲ経過シ就職ノ命ナキトキ但シ第六条第一項第二号又ハ第四号ニ該当スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
四 宮内官又ハ陸軍部外ノ文官ニ専任セラレタルトキ但シ武官ヲ以テ充ツヘキモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
五 貴族院令第四条ノ規定ニ依リ貴族院議員ト為リタルトキ
前項ノ外傷痍又ハ疾病ノ為現役ニ堪ヘサル者ハ本人ノ願ニ依リ予備役ニ入ラシメ退職恩給ヲ受クヘキ服役年数ニ達シタル待命、休職又ハ停職中ノ将校ハ健康状態又ハ補充上ノ必要ニ因リ将官ニ在リテハ上諭ニ依リ上長官又ハ士官ニ在リテハ陸軍大臣旨ヲ諭シテ予備役ニ入ラシムルコトヲ得
第九条 現役将校現役定限年齢ニ達シタルトキ又ハ予備役将校予備役満期ト為リタルトキハ後備役ニ入ルモノトス
第十条 後備役将校後備役満期ト為リタルトキハ退役トス
前項ノ外現役予備役後備役将校傷痍又ハ疾病ノ為永久服役ニ堪ヘサルトキハ退役ヲ命スルコトヲ得
第十一条 現役定限年齢、予備役後備役ノ服役年期及召集ニ関シテハ別ニ之ヲ定ム
第十二条 本令ハ将校相当官ニ之ヲ準用ス
附 則
旧陸軍刑法又ハ旧海軍刑法ニ依リ剥官ヲ附加スヘキ刑ニ処セラレタル者ハ第三条ノ適用ニ付テハ之ヲ陸軍刑法又ハ海軍刑法ニ依リ禁錮一年以上ノ刑ニ処セラレタル者ト看做ス
本令施行ノ際待命、休職又ハ停職ニ在ル者ニ付テハ仍従前ノ規定ニ依ル但シ第八条第二項ノ出願ニ依ル転役ニ付テハ此ノ限ニ在ラス