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本データベースについて
海軍刑法
法令番号: 法律第四十八號
公布年月日: 明治41年4月10日
法令の形式: 法律
沿革
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改正:
昭和17年2月20日 法律第36号
改正:
昭和19年2月10日 法律第1号
廃止:
昭和22年5月17日 政令第52号
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国立国会図書館『法令全書』
国立公文書館『御署名原本』
日本法令索引
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル海軍刑法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年四月九日
內閣總理大臣 侯爵 西園寺公望
海軍大臣 男爵 齋藤實
法律第四十八號
海軍刑法
第一編
總則
第二編
罪
第一章
叛亂ノ罪
第二章
擅權ノ罪
第三章
辱職ノ罪
第四章
抗命ノ罪
第五章
暴行脅迫ノ罪
第六章
侮辱ノ罪
第七章
逃亡ノ罪
第八章
軍用物損壞ノ罪
第九章
掠奪ノ罪
第十章
俘虜ニ關スル罪
第十一章
違令ノ罪
海軍刑法
第一編 總則
第一條
本法ハ海軍軍人ニシテ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス
第二條
本法ハ海軍軍人ニ非スト雖左ニ記載シタル罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス
一
第六十二條乃至第六十五條ノ罪及此等ノ罪ノ未遂罪
二
第七十二條ノ罪
三
第七十八條乃至第八十五條ノ罪
四
第八十六條乃至第八十九條ノ罪
五
第九十一條乃至第九十三條ノ罪及第九十一條、第九十二條ノ未遂罪
六
第九十五條、第九十六條、第九十七條第二項、第九十八條及第百條ノ罪
第三條
本法ハ前二條ニ記載シタル者帝國外ニ於テ罪ヲ犯シタルトキト雖之ヲ適用ス
第四條
帝國軍ノ占領地ニ於テ海軍軍人刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキハ之ヲ帝國內ニ於テ犯シタルモノト看做ス
海軍軍人ニ非スト雖帝國臣民、從軍外國人及俘虜ノ犯シタルトキ亦前項ニ同シ
第五條
帝國外ニ在ル海軍官衙團隊ニ屬シ若ハ從フ者又ハ之ニ俘虜タル者其ノ官衙團隊ノ所在地ニ於テ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキ亦前條ニ同シ
第六條
海軍ト共同作戰ニ從フ陸軍軍人ニ對スル行爲ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相當スル海軍軍人ニ對スル行爲ト看做ス
第七條
海軍ト共同作戰ニ從フ外國ノ陸海軍ニ屬スル者ニ對スル行爲ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相當スル海軍軍人ニ對スル行爲ト看做ス但シ其ノ外國ニ於テ同一ノ取扱ヲ爲スコトヲ保セサル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第八條
海軍軍人ト稱スルハ海軍ノ高等武官、候補生、准士官及下士卒ニシテ左ニ記載シタル者ヲ謂フ
一
現役ニ在ル者但シ召集中ニ非サル歸休兵ヲ除ク
二
豫備役、後備役ニ在リ召集中ノ者
三
前二號ニ記載シタル者ノ外海軍制服著用中ノ者
第九條
左ニ記載シタル者ハ海軍軍人ニ準ス
一
海軍所屬ノ學生、生徒
二
海軍軍屬
三
海軍ノ勤務ニ服スル陸軍軍人
前項第一號ニ記載シタル者ノ中特ニ除外スヘキ者アルトキハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十條
海軍軍屬ト稱スルハ海軍文官、同待遇者及宣誓シテ海軍ノ勤務ニ服スル者ヲ謂フ
第十一條
陸軍軍人ト稱スルハ陸軍刑法ニ於テ陸軍軍人ト爲ス者ヲ謂フ
第十二條
上官ト稱スルハ命令關係アル海軍軍人間ニ於テ命令權ヲ有スル者ヲ謂フ
命令關係ナキ者ノ間ニ於テハ官等、等級又ハ階級ノ上ナル者ハ之ヲ上官ニ準ス但シ卒ハ總テ同等トス
第十三條
指揮官ト稱スルハ艦船、軍隊ヲ指揮スル海軍軍人ヲ謂フ
陸海軍用船又ハ拿捕船舶ニ乘組ミ之ヲ監督スル海軍軍人ハ指揮官ニ準ス
第十四條
守兵ト稱スルハ儀仗又ハ警戒ノ爲守所ニ在ル海軍軍人ヲ謂フ
第十五條
事變又ハ一地方ノ騷擾ニ際シ其ノ鎭定ニ從事スル艦船、軍隊ニハ戰時ノ規定ヲ適用ス
第十六條
海軍ニ於テ死刑ヲ執行スルトキハ海軍法衙ヲ管轄スル長官ノ定ムル場所ニ於テ銃殺ス
第十七條
多衆共同ノ暴行ヲ鎭壓スル爲又ハ敵前若ハ艦船危急ノ際ニ於テ軍紀ヲ保持スル爲已ムコトヲ得サルニ出テタル行爲ハ之ヲ罰セス
必要ノ程度ヲ超エタル行爲ハ情狀ニ因リ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得
第十八條
前條ノ規定ハ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ト爲ルヘキ行爲ニ亦之ヲ適用ス
第十九條
本法及陸軍刑法ニ於テ俱ニ罰スヘキ正條アリ且其ノ刑ニ輕重ナキトキハ海軍軍人ニ準スル者ト雖陸軍軍人ニ對シテハ陸軍刑法ヲ適用ス
第二編 罪
第一章 叛亂ノ罪
第二十條
黨ヲ結ヒ兵器ヲ執リ反亂ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
首魁ハ死刑ニ處ス
二
謀議ニ參與シ又ハ群衆ノ指揮ヲ爲シタル者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他諸般ノ職務ニ從事シタル者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
三
附和隨行シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第二十一條
反亂ヲ爲ス目的ヲ以テ黨ヲ結ヒ兵器、彈藥其ノ他軍用ニ供スル物ヲ劫掠シタル者ハ前條ノ例ニ同シ
第二十二條
左ニ記載シタル行爲ヲ爲シタル者ハ死刑ニ處ス
一
軍隊又ハ艦船、兵器、彈藥其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ敵國ニ交付スルコト
二
敵國ノ爲ニ間諜ヲ爲シ又ハ敵國ノ間諜ヲ幫助スルコト
三
軍事上ノ機密ヲ敵國ニ漏泄スルコト
四
敵國ノ爲ニ嚮導ヲ爲シ又ハ地理ヲ指示スルコト
五
敵國ニ降ラシムル爲指揮官ヲ强要スルコト
六
敵國ノ爲ニ俘虜ヲ奪取シ又ハ之ヲ逃走セシムルコト
第二十三條
敵國ヲ利スル爲左ニ記載シタル行爲ヲ爲シタル者ハ死刑ニ處ス
一
艦船、兵器、彈藥其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ損壞シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシムルコト
二
水陸ノ通路、橋梁、燈臺、浮標ヲ損壞又ハ壅塞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ艦船、軍隊ノ往來ノ妨害ヲ生セシムルコト
三
指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率井テ守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離ルルコト
四
艦隊、隊兵ヲ解散シ又ハ其ノ潰走混亂ヲ誘起シ又ハ艦船、隊兵ノ連絡集合ヲ妨害スルコト
五
兵器、彈藥、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ヲ缺乏セシムルコト
六
命令、通報若ハ報吿ヲ詐リ傳ヘ又ハ虛僞ノ命令、通報若ハ報吿ヲ爲スコト
七
造言飛語シ又ハ敵前ニ於テ叫呼喧噪スルコト
第二十四條
前二條ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵國ニ軍事上ノ利益ヲ與ヘ又ハ帝國ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ五年以上ノ懲役ニ處ス
第二十五條
反亂者又ハ內亂者ヲ利スル爲前三條ニ記載シタル行爲ヲ爲シタル者ハ死刑、無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第二十六條
前六條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第二十七條
第二十條乃至第二十五條ノ罪ノ豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第二十八條
第二十條又ハ第二十一條ノ罪ノ豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者未タ事ヲ行ハサル前自首シタルトキハ其ノ刑ヲ免除ス
第二十九條
本章ノ規定ハ戰時同盟國ニ對スル行爲ニ亦之ヲ適用ス
第二章 擅權ノ罪
第三十條
指揮官外國ニ對シ故ナク戰鬪ヲ開始シタルトキハ死刑ニ處ス
第三十一條
指揮官休戰又ハ媾和ノ吿知ヲ受ケタル後故ナク戰鬪ヲ爲シタルトキハ死刑ニ處ス
第三十二條
指揮官權外ノ事ニ於テ已ムコトヲ得サル理由ナクシテ擅ニ艦船、軍隊ヲ進退シタルトキハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ處ス
第三十三條
命令ヲ待タス故ナク戰鬪ヲ爲シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ處ス
第三十四條
本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第三章 辱職ノ罪
第三十五條
指揮官其ノ盡スヘキ所ヲ盡サスシテ敵ニ降リ又ハ其ノ艦船若ハ守所ヲ敵ニ委シタルトキハ死刑ニ處ス
第三十六條
指揮官敵前ニ於テ其ノ盡スヘキ所ヲ盡サスシテ艦船、軍隊ヲ率井逃避シタルトキハ死刑ニ處ス
第三十七條
指揮官其ノ艦船危急ノ時ニ當リ故ナク救護ノ方法ヲ盡サス又ハ衆ニ先チテ其ノ艦船ヲ退去シタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハ三年以上ノ禁錮ニ處ス
第三十八條
指揮官敵ノ船舶ヲ拿捕スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ拿捕セサルトキハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第三十九條
指揮官敵前ニ於テ帝國又ハ帝國ト共同作戰ニ從フ外國ノ艦船ヲ救護スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ救護セサルトキハ一年以上ノ有期禁錮ニ處ス
第四十條
指揮官護衞ノ命ヲ受ケタル艦船ヲ故ナク委棄シタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ處ス
二
戰時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十一條
指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率井故ナク守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ處ス
二
戰時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十二條
指揮官又ハ乘員故ナク其ノ艦船ヲ覆沒又ハ破壞シタルトキハ死刑ニ處シ之ヲ損壞シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
第四十三條
指揮官出兵ヲ要求スル權アル官憲ヨリ其ノ要求ヲ受ケ故ナク之ニ應セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十四條
指揮官衝突、坐礁其ノ他ノ危難ニ罹リタル艦船アルニ當リ救護ノ請求ヲ受ケ故ナク之ニ應セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十五條
部下多衆共同シテ罪ヲ犯スニ當リ鎭定ノ方法ヲ盡ササル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十六條
艦船當直將校、守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者故ナク其ノ勤務ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑又ハ無期ノ禁錮ニ處ス
二
戰時又ハ擱岸、坐礁其ノ他艦船危險ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十七條
艦船當直將校睡眠又ハ酪酊シテ其ノ職務ヲ怠リタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ處ス
二
戰時又ハ航海中ナルトキハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十八條
守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者前條ノ罪ヲ犯シタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ處ス
第四十九條
戰時又ハ事變ニ際シ偵察ノ勤務ニ服スル者虛僞ノ報吿ヲ爲シタルトキハ七年以下ノ懲役ニ處ス
戰時又ハ事變ニ際シ軍事ニ關スル命令、通報又ハ報吿ノ傳達ヲ掌ル者其ノ命令、通報若ハ報吿ヲ詐リ傳ヘ又ハ故ナク之ヲ傳達セサルトキ亦前項ニ同シ
第五十條
軍事機密ノ圖書、物件ヲ保管スル者危急ノ時ニ當リ之ヲ敵ニ委セサル方法ヲ盡ササルトキハ五年以下ノ禁錮ニ處ス
第五十一條
戰時又ハ事變ニ際シ兵器、彈藥、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ノ運搬又ハ支給ヲ掌ル者故ナク之ヲ缺乏セシメタルトキハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス
第五十二條
健康ヲ害スヘキ飮食物ヲ配給シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ處ス
第五十三條
從軍ヲ免レ又ハ危險ナル勤務ヲ避クル目的ヲ以テ疾病ヲ作爲シ、身體ヲ毀傷シ其ノ他詐僞ノ行爲ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ五年以上ノ有期懲役ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ懲役ニ處ス
第五十四條
第三十五條乃至第三十七條、第四十條乃至第四十二條、第四十六條、第四十九條及第五十一條乃至第五十三條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第四章 抗命ノ罪
第五十五條
上官ノ命令ニ反抗シ又ハ之ニ服從セサル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ禁錮ニ處ス
二
戰時又ハ艦船救護ノ爲緊要ノ方略ヲ爲ス際ナルトキハ一年以上七年以下ノ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第五十六條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ處シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期禁錮ニ處ス
二
戰時又ハ艦船救護ノ爲緊要ノ方略ヲ爲ス際ナルトキハ首魁ハ無期又ハ五年以上ノ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ一年以上十年以下ノ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ三年以上十年以下ノ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ禁錮ニ處ス
第五十七條
暴行ヲ爲スニ當リ上官ノ制止ニ從ハサル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第五章 暴行脅迫ノ罪
第五十八條
上官ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第五十九條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ五年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十條
上官ニ對シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十一條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ處シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十二條
守兵ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十三條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十四條
守兵ニ對シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十五條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十六條
上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ當リ之ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
黨與シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十七條
上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ當リ之ニ對シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
黨與シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十八條
多衆聚合シテ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ率先シテ勢ヲ助ケタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
三
附和隨行シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第六十九條
職權ヲ濫用シテ陵虐ノ行爲ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第七十條
第五十八條乃至第六十八條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第六章 侮辱ノ罪
第七十一條
上官ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
文書、圖畫若ハ偶像ヲ公示シ又ハ演說ヲ爲シ其ノ他公然ノ方法ヲ以テ上官ヲ侮辱シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第七十二條
守兵ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第七章 逃亡ノ罪
第七十三條
故ナク職役ヲ離レ又ハ職役ニ就カサル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
戰時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第七十四條
黨與シテ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
二
戰時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ首魁ハ五年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ首魁ハ一年以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第七十五條
艦船ノ乘員故ナク其ノ艦船發航ノ期ニ後レタルトキハ其ノ經過日數ヲ問ハス前二條ノ規定ヲ適用ス
第七十六條
敵ニ奔リタル者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處ス
第七十七條
第七十三條第一號、第七十四條第一號及前條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第八章 軍用物損壞ノ罪
第七十八條
海軍ノ艦船、工場、戰鬪ノ用ニ供スル建造物、汽車、電車若ハ橋梁又ハ海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ貯藏スル倉庫ヲ燒燬シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ處ス
第七十九條
露積シタル兵器、彈藥、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ燒燬シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
戰時ナルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ處ス
第八十條
火藥、汽罐其ノ他激發スヘキ物ヲ破裂セシメテ前二條ニ記載シタル物ヲ損壞シタル者ハ燒燬ノ例ニ同シ
第八十一條
海軍ノ艦船ヲ覆沒又ハ破壞シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
第八十二條
第七十八條ニ記載シタル物又ハ海軍戰鬪ノ用ニ供スル鐵道、電線若ハ水陸ノ通路ヲ損壞シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ處ス
第八十三條
兵器、彈藥、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ毀棄又ハ傷害シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第八十四條
第七十八條乃至第八十二條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第八十五條
本章ノ規定ハ海軍ト共同作戰ニ從フ外國陸海軍ノ軍用物ニ對スル行爲ニ亦之ヲ適用ス
第九章 掠奪ノ罪
第八十六條
戰地又ハ帝國軍ノ占領地ニ於テ住民ノ財物ヲ掠奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯スニ當リ婦女ヲ强姦シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ處ス
第八十七條
戰場ニ於テ戰死者又ハ戰傷病者ノ衣服其ノ他ノ財物ヲ褫奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス
第八十八條
前二條ノ罪ヲ犯ス者人ヲ傷シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ處シ死ニ致シタルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
第八十九條
本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十章 俘虜ニ關スル罪
第九十條
俘虜ヲ看守又ハ護送スル者其ノ俘虜ヲ逃走セシメタルトキハ三年以上ノ有期懲役ニ處ス
第九十一條
俘虜ヲ逃走セシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
俘虜ヲ逃走セシムル目的ヲ以テ器具ヲ給與シ其ノ他逃走ヲ容易ナラシムヘキ行爲ヲ爲シタル者ハ七年以下ノ懲役ニ處ス
前項ノ目的ヲ以テ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス
第九十二條
俘虜ヲ奪取シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
第九十三條
逃走シタル俘虜ヲ藏匿シ又ハ隱避セシメタル者ハ五年以下ノ懲役ニ處ス
第九十四條
第九十條乃至第九十二條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十一章 違令ノ罪
第九十五條
守兵ヲ欺キテ守所ヲ通過シ又ハ守兵ノ制止ニ背キタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ一年以上五年以下ノ禁錮ニ處ス
二
戰時ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ處ス
第九十六條
歸休兵及豫備役、後備役ニ在ル者故ナク召集ノ期限ニ後レタルトキハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
戰時ニ際シ又ハ事變ノ爲召集ヲ受ケタル場合ニ於テ五日ヲ過キタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ニ於テ十日ヲ過キタル者ハ一年以下ノ禁錮ニ處ス
第九十七條
兵役ヲ免ルル目的ヲ以テ疾病ヲ作爲シ、身體ヲ毀傷シ其ノ他詐僞ノ行爲ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ處ス
歸休兵及豫備役、後備役ニ在ル者召集ヲ免ルル目的ヲ以テ前項ノ行爲ヲ爲シタルトキ亦前項ニ同シ
第九十八條
艦船ノ危急ニ際シ指揮官ノ指揮ヲ待タス其ノ艦船ヲ退去シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一
敵前ナルトキハ三年以上ノ有期禁錮ニ處ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ處ス
第九十九條
戰時又ハ事變ニ際シ軍事ニ關スル虛僞ノ命令、通報又ハ報吿ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲役ニ處ス
第百條
戰時又ハ事變ニ際シ軍事ニ關シ造言飛語ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第百一條
禮砲、號砲其ノ他空包ヲ發スヘキ場合ニ於テ彈丸、瓦石其ノ他ノ物ヲ裝塡シテ發シタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第百二條
守兵故ナク銃砲ヲ發シタルトキハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第百三條
戰時又ハ事變ニ際シ急呼ノ號報アリタル場合ニ故ナク來會セサル者ハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
第百四條
政治ニ關シ上書、建白其ノ他請願ヲ爲シ又ハ演說若ハ文書ヲ以テ意見ヲ公ニシタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ處ス
第百五條
服從ノ義務ニ違フヘキ事ヲ目的トシテ黨ヲ結ヒタルトキハ首魁ハ六月以上五年以下ノ禁錮ニ處シ其ノ他ノ者ハ二年以下ノ禁錮ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治十四年第七十號布吿海軍刑法ハ之ヲ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル海軍刑法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年四月九日
内閣総理大臣 侯爵 西園寺公望
海軍大臣 男爵 斎藤実
法律第四十八号
海軍刑法
第一編
総則
第二編
罪
第一章
叛乱ノ罪
第二章
擅権ノ罪
第三章
辱職ノ罪
第四章
抗命ノ罪
第五章
暴行脅迫ノ罪
第六章
侮辱ノ罪
第七章
逃亡ノ罪
第八章
軍用物損壊ノ罪
第九章
掠奪ノ罪
第十章
俘虜ニ関スル罪
第十一章
違令ノ罪
海軍刑法
第一編 総則
第一条
本法ハ海軍軍人ニシテ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス
第二条
本法ハ海軍軍人ニ非スト雖左ニ記載シタル罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス
一
第六十二条乃至第六十五条ノ罪及此等ノ罪ノ未遂罪
二
第七十二条ノ罪
三
第七十八条乃至第八十五条ノ罪
四
第八十六条乃至第八十九条ノ罪
五
第九十一条乃至第九十三条ノ罪及第九十一条、第九十二条ノ未遂罪
六
第九十五条、第九十六条、第九十七条第二項、第九十八条及第百条ノ罪
第三条
本法ハ前二条ニ記載シタル者帝国外ニ於テ罪ヲ犯シタルトキト雖之ヲ適用ス
第四条
帝国軍ノ占領地ニ於テ海軍軍人刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキハ之ヲ帝国内ニ於テ犯シタルモノト看做ス
海軍軍人ニ非スト雖帝国臣民、従軍外国人及俘虜ノ犯シタルトキ亦前項ニ同シ
第五条
帝国外ニ在ル海軍官衙団隊ニ属シ若ハ従フ者又ハ之ニ俘虜タル者其ノ官衙団隊ノ所在地ニ於テ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキ亦前条ニ同シ
第六条
海軍ト共同作戦ニ従フ陸軍軍人ニ対スル行為ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相当スル海軍軍人ニ対スル行為ト看做ス
第七条
海軍ト共同作戦ニ従フ外国ノ陸海軍ニ属スル者ニ対スル行為ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相当スル海軍軍人ニ対スル行為ト看做ス但シ其ノ外国ニ於テ同一ノ取扱ヲ為スコトヲ保セサル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第八条
海軍軍人ト称スルハ海軍ノ高等武官、候補生、准士官及下士卒ニシテ左ニ記載シタル者ヲ謂フ
一
現役ニ在ル者但シ召集中ニ非サル帰休兵ヲ除ク
二
予備役、後備役ニ在リ召集中ノ者
三
前二号ニ記載シタル者ノ外海軍制服著用中ノ者
第九条
左ニ記載シタル者ハ海軍軍人ニ準ス
一
海軍所属ノ学生、生徒
二
海軍軍属
三
海軍ノ勤務ニ服スル陸軍軍人
前項第一号ニ記載シタル者ノ中特ニ除外スヘキ者アルトキハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十条
海軍軍属ト称スルハ海軍文官、同待遇者及宣誓シテ海軍ノ勤務ニ服スル者ヲ謂フ
第十一条
陸軍軍人ト称スルハ陸軍刑法ニ於テ陸軍軍人ト為ス者ヲ謂フ
第十二条
上官ト称スルハ命令関係アル海軍軍人間ニ於テ命令権ヲ有スル者ヲ謂フ
命令関係ナキ者ノ間ニ於テハ官等、等級又ハ階級ノ上ナル者ハ之ヲ上官ニ準ス但シ卒ハ総テ同等トス
第十三条
指揮官ト称スルハ艦船、軍隊ヲ指揮スル海軍軍人ヲ謂フ
陸海軍用船又ハ拿捕船舶ニ乗組ミ之ヲ監督スル海軍軍人ハ指揮官ニ準ス
第十四条
守兵ト称スルハ儀仗又ハ警戒ノ為守所ニ在ル海軍軍人ヲ謂フ
第十五条
事変又ハ一地方ノ騒擾ニ際シ其ノ鎮定ニ従事スル艦船、軍隊ニハ戦時ノ規定ヲ適用ス
第十六条
海軍ニ於テ死刑ヲ執行スルトキハ海軍法衙ヲ管轄スル長官ノ定ムル場所ニ於テ銃殺ス
第十七条
多衆共同ノ暴行ヲ鎮圧スル為又ハ敵前若ハ艦船危急ノ際ニ於テ軍紀ヲ保持スル為已ムコトヲ得サルニ出テタル行為ハ之ヲ罰セス
必要ノ程度ヲ超エタル行為ハ情状ニ因リ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
第十八条
前条ノ規定ハ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ト為ルヘキ行為ニ亦之ヲ適用ス
第十九条
本法及陸軍刑法ニ於テ俱ニ罰スヘキ正条アリ且其ノ刑ニ軽重ナキトキハ海軍軍人ニ準スル者ト雖陸軍軍人ニ対シテハ陸軍刑法ヲ適用ス
第二編 罪
第一章 叛乱ノ罪
第二十条
党ヲ結ヒ兵器ヲ執リ反乱ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
首魁ハ死刑ニ処ス
二
謀議ニ参与シ又ハ群衆ノ指揮ヲ為シタル者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他諸般ノ職務ニ従事シタル者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
三
附和随行シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第二十一条
反乱ヲ為ス目的ヲ以テ党ヲ結ヒ兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル物ヲ劫掠シタル者ハ前条ノ例ニ同シ
第二十二条
左ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑ニ処ス
一
軍隊又ハ艦船、兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ敵国ニ交付スルコト
二
敵国ノ為ニ間諜ヲ為シ又ハ敵国ノ間諜ヲ幫助スルコト
三
軍事上ノ機密ヲ敵国ニ漏泄スルコト
四
敵国ノ為ニ嚮導ヲ為シ又ハ地理ヲ指示スルコト
五
敵国ニ降ラシムル為指揮官ヲ強要スルコト
六
敵国ノ為ニ俘虜ヲ奪取シ又ハ之ヲ逃走セシムルコト
第二十三条
敵国ヲ利スル為左ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑ニ処ス
一
艦船、兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ損壊シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシムルコト
二
水陸ノ通路、橋梁、灯台、浮標ヲ損壊又ハ壅塞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ艦船、軍隊ノ往来ノ妨害ヲ生セシムルコト
三
指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率井テ守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離ルルコト
四
艦隊、隊兵ヲ解散シ又ハ其ノ潰走混乱ヲ誘起シ又ハ艦船、隊兵ノ連絡集合ヲ妨害スルコト
五
兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ヲ欠乏セシムルコト
六
命令、通報若ハ報告ヲ詐リ伝ヘ又ハ虚偽ノ命令、通報若ハ報告ヲ為スコト
七
造言飛語シ又ハ敵前ニ於テ叫呼喧噪スルコト
第二十四条
前二条ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵国ニ軍事上ノ利益ヲ与ヘ又ハ帝国ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ五年以上ノ懲役ニ処ス
第二十五条
反乱者又ハ内乱者ヲ利スル為前三条ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑、無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第二十六条
前六条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第二十七条
第二十条乃至第二十五条ノ罪ノ予備又ハ陰謀ヲ為シタル者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第二十八条
第二十条又ハ第二十一条ノ罪ノ予備又ハ陰謀ヲ為シタル者未タ事ヲ行ハサル前自首シタルトキハ其ノ刑ヲ免除ス
第二十九条
本章ノ規定ハ戦時同盟国ニ対スル行為ニ亦之ヲ適用ス
第二章 擅権ノ罪
第三十条
指揮官外国ニ対シ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス
第三十一条
指揮官休戦又ハ媾和ノ告知ヲ受ケタル後故ナク戦闘ヲ為シタルトキハ死刑ニ処ス
第三十二条
指揮官権外ノ事ニ於テ已ムコトヲ得サル理由ナクシテ擅ニ艦船、軍隊ヲ進退シタルトキハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス
第三十三条
命令ヲ待タス故ナク戦闘ヲ為シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス
第三十四条
本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第三章 辱職ノ罪
第三十五条
指揮官其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ敵ニ降リ又ハ其ノ艦船若ハ守所ヲ敵ニ委シタルトキハ死刑ニ処ス
第三十六条
指揮官敵前ニ於テ其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ艦船、軍隊ヲ率井逃避シタルトキハ死刑ニ処ス
第三十七条
指揮官其ノ艦船危急ノ時ニ当リ故ナク救護ノ方法ヲ尽サス又ハ衆ニ先チテ其ノ艦船ヲ退去シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハ三年以上ノ禁錮ニ処ス
第三十八条
指揮官敵ノ船舶ヲ拿捕スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ拿捕セサルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第三十九条
指揮官敵前ニ於テ帝国又ハ帝国ト共同作戦ニ従フ外国ノ艦船ヲ救護スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ救護セサルトキハ一年以上ノ有期禁錮ニ処ス
第四十条
指揮官護衛ノ命ヲ受ケタル艦船ヲ故ナク委棄シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
二
戦時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十一条
指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率井故ナク守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
二
戦時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十二条
指揮官又ハ乗員故ナク其ノ艦船ヲ覆没又ハ破壊シタルトキハ死刑ニ処シ之ヲ損壊シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
第四十三条
指揮官出兵ヲ要求スル権アル官憲ヨリ其ノ要求ヲ受ケ故ナク之ニ応セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十四条
指揮官衝突、坐礁其ノ他ノ危難ニ罹リタル艦船アルニ当リ救護ノ請求ヲ受ケ故ナク之ニ応セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十五条
部下多衆共同シテ罪ヲ犯スニ当リ鎮定ノ方法ヲ尽ササル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十六条
艦船当直将校、守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者故ナク其ノ勤務ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑又ハ無期ノ禁錮ニ処ス
二
戦時又ハ擱岸、坐礁其ノ他艦船危険ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十七条
艦船当直将校睡眠又ハ酪酊シテ其ノ職務ヲ怠リタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
二
戦時又ハ航海中ナルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十八条
守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者前条ノ罪ヲ犯シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス
第四十九条
戦時又ハ事変ニ際シ偵察ノ勤務ニ服スル者虚偽ノ報告ヲ為シタルトキハ七年以下ノ懲役ニ処ス
戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関スル命令、通報又ハ報告ノ伝達ヲ掌ル者其ノ命令、通報若ハ報告ヲ詐リ伝ヘ又ハ故ナク之ヲ伝達セサルトキ亦前項ニ同シ
第五十条
軍事機密ノ図書、物件ヲ保管スル者危急ノ時ニ当リ之ヲ敵ニ委セサル方法ヲ尽ササルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
第五十一条
戦時又ハ事変ニ際シ兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ノ運搬又ハ支給ヲ掌ル者故ナク之ヲ欠乏セシメタルトキハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス
第五十二条
健康ヲ害スヘキ飲食物ヲ配給シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ処ス
第五十三条
従軍ヲ免レ又ハ危険ナル勤務ヲ避クル目的ヲ以テ疾病ヲ作為シ、身体ヲ毀傷シ其ノ他詐偽ノ行為ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ五年以上ノ有期懲役ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス
第五十四条
第三十五条乃至第三十七条、第四十条乃至第四十二条、第四十六条、第四十九条及第五十一条乃至第五十三条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第四章 抗命ノ罪
第五十五条
上官ノ命令ニ反抗シ又ハ之ニ服従セサル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ禁錮ニ処ス
二
戦時又ハ艦船救護ノ為緊要ノ方略ヲ為ス際ナルトキハ一年以上七年以下ノ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第五十六条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期禁錮ニ処ス
二
戦時又ハ艦船救護ノ為緊要ノ方略ヲ為ス際ナルトキハ首魁ハ無期又ハ五年以上ノ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ一年以上十年以下ノ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ三年以上十年以下ノ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
第五十七条
暴行ヲ為スニ当リ上官ノ制止ニ従ハサル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第五章 暴行脅迫ノ罪
第五十八条
上官ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第五十九条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ五年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十条
上官ニ対シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十一条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十二条
守兵ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十三条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十四条
守兵ニ対シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十五条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十六条
上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
党与シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十七条
上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シ兵器又ハ兇器ヲ用井テ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
党与シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十八条
多衆聚合シテ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ率先シテ勢ヲ助ケタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
三
附和随行シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第六十九条
職権ヲ濫用シテ陵虐ノ行為ヲ為シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第七十条
第五十八条乃至第六十八条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第六章 侮辱ノ罪
第七十一条
上官ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
文書、図画若ハ偶像ヲ公示シ又ハ演説ヲ為シ其ノ他公然ノ方法ヲ以テ上官ヲ侮辱シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第七十二条
守兵ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第七章 逃亡ノ罪
第七十三条
故ナク職役ヲ離レ又ハ職役ニ就カサル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
戦時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第七十四条
党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
二
戦時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ首魁ハ五年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ首魁ハ一年以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第七十五条
艦船ノ乗員故ナク其ノ艦船発航ノ期ニ後レタルトキハ其ノ経過日数ヲ問ハス前二条ノ規定ヲ適用ス
第七十六条
敵ニ奔リタル者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス
第七十七条
第七十三条第一号、第七十四条第一号及前条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第八章 軍用物損壊ノ罪
第七十八条
海軍ノ艦船、工場、戦闘ノ用ニ供スル建造物、汽車、電車若ハ橋梁又ハ海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ貯蔵スル倉庫ヲ焼燬シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ処ス
第七十九条
露積シタル兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ焼燬シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
戦時ナルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ処ス
第八十条
火薬、汽缶其ノ他激発スヘキ物ヲ破裂セシメテ前二条ニ記載シタル物ヲ損壊シタル者ハ焼燬ノ例ニ同シ
第八十一条
海軍ノ艦船ヲ覆没又ハ破壊シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
第八十二条
第七十八条ニ記載シタル物又ハ海軍戦闘ノ用ニ供スル鉄道、電線若ハ水陸ノ通路ヲ損壊シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ処ス
第八十三条
兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ毀棄又ハ傷害シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第八十四条
第七十八条乃至第八十二条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第八十五条
本章ノ規定ハ海軍ト共同作戦ニ従フ外国陸海軍ノ軍用物ニ対スル行為ニ亦之ヲ適用ス
第九章 掠奪ノ罪
第八十六条
戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ住民ノ財物ヲ掠奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯スニ当リ婦女ヲ強姦シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ処ス
第八十七条
戦場ニ於テ戦死者又ハ戦傷病者ノ衣服其ノ他ノ財物ヲ褫奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
第八十八条
前二条ノ罪ヲ犯ス者人ヲ傷シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ処シ死ニ致シタルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
第八十九条
本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十章 俘虜ニ関スル罪
第九十条
俘虜ヲ看守又ハ護送スル者其ノ俘虜ヲ逃走セシメタルトキハ三年以上ノ有期懲役ニ処ス
第九十一条
俘虜ヲ逃走セシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス
俘虜ヲ逃走セシムル目的ヲ以テ器具ヲ給与シ其ノ他逃走ヲ容易ナラシムヘキ行為ヲ為シタル者ハ七年以下ノ懲役ニ処ス
前項ノ目的ヲ以テ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス
第九十二条
俘虜ヲ奪取シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス
第九十三条
逃走シタル俘虜ヲ蔵匿シ又ハ隠避セシメタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス
第九十四条
第九十条乃至第九十二条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十一章 違令ノ罪
第九十五条
守兵ヲ欺キテ守所ヲ通過シ又ハ守兵ノ制止ニ背キタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ一年以上五年以下ノ禁錮ニ処ス
二
戦時ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
三
其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス
第九十六条
帰休兵及予備役、後備役ニ在ル者故ナク召集ノ期限ニ後レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
戦時ニ際シ又ハ事変ノ為召集ヲ受ケタル場合ニ於テ五日ヲ過キタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ニ於テ十日ヲ過キタル者ハ一年以下ノ禁錮ニ処ス
第九十七条
兵役ヲ免ルル目的ヲ以テ疾病ヲ作為シ、身体ヲ毀傷シ其ノ他詐偽ノ行為ヲ為シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ処ス
帰休兵及予備役、後備役ニ在ル者召集ヲ免ルル目的ヲ以テ前項ノ行為ヲ為シタルトキ亦前項ニ同シ
第九十八条
艦船ノ危急ニ際シ指揮官ノ指揮ヲ待タス其ノ艦船ヲ退去シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一
敵前ナルトキハ三年以上ノ有期禁錮ニ処ス
二
其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
第九十九条
戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関スル虚偽ノ命令、通報又ハ報告ヲ為シタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス
第百条
戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関シ造言飛語ヲ為シタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第百一条
礼砲、号砲其ノ他空包ヲ発スヘキ場合ニ於テ弾丸、瓦石其ノ他ノ物ヲ装填シテ発シタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第百二条
守兵故ナク銃砲ヲ発シタルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第百三条
戦時又ハ事変ニ際シ急呼ノ号報アリタル場合ニ故ナク来会セサル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
第百四条
政治ニ関シ上書、建白其ノ他請願ヲ為シ又ハ演説若ハ文書ヲ以テ意見ヲ公ニシタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
第百五条
服従ノ義務ニ違フヘキ事ヲ目的トシテ党ヲ結ヒタルトキハ首魁ハ六月以上五年以下ノ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治十四年第七十号布告海軍刑法ハ之ヲ廃止ス
本文
詳細・沿革