砲兵工廠職工扶助令
法令番号: 勅令第百九十一號
公布年月日: 明治35年7月19日
法令の形式: 勅令
朕砲兵工廠職工扶助令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十五年七月十八日
陸軍大臣 寺內正毅
勅令第百九十一號
砲兵工廠職工扶助令
第一條 本令ニ於テ職工ト稱スルハ東京砲兵工廠及大阪砲兵工廠ノ定期職工ヲ謂フ
本令ニ於テ遺族ト稱スルハ職工ノ配偶者、子、父、母、孫、祖父及祖母ニシテ職工死亡ノ當時ヨリ引續キ其ノ家ニ在ル者ヲ謂フ但シ職工死亡後出生シタル嫡出ノ子ハ死亡ノ當時其ノ家ニ在ル者ト看做ス
本令ニ於テ滿期ト稱スルハ就業引續キ滿二十五年ニ達シタルトキヲ謂フ
第二條 職工及遺族ニハ本令ニ依リ扶助金ヲ給ス
扶助金ハ終身年金及一時賜金トス
第三條 職工左ノ各號ノ一ニ當ルトキハ終身年金ヲ給ス
一 滿期ニ達シタルトキ
二 業務ノ爲傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ一肢以上ノ用ヲ失ヒ又ハ之ニ準スヘキ者其ノ業務ニ堪ヘス退業シタルトキ
前項ニ該當スル場合ニ於テ請求アルトキハ終身年金ニ代ヘ一時賜金ヲ給ス
第四條 職工左ノ各號ノ一ニ當ルトキハ一時賜金ヲ給ス
一 就業引續キ滿十年以上二十五年未滿ニシテ死亡シ又ハ官廳ノ都合ニ依リ退業セシメラレタルトキ
二 業務ノ爲傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ死亡シタルトキ
三 業務ノ爲傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ前條第一項第二號ヨリ輕症ニシテ其ノ業務ニ堪ヘス退業シタルトキ
四 前條第一項ニ該當スル者終身年金若ハ之ニ代ハル一時賜金ヲ受ケス又ハ終身年金ヲ受クルコト五年未滿ニシテ死亡シタルトキ
前項第二號及第三號ノ場合ニ於テハ就業年數ニ十年ヲ加算ス但シ之カ爲滿二十五年以上ニ達スルトキハ前條及前項第四號ノ規定ニ依リ扶助金ヲ給ス
第五條 職工死亡ノ後ニ於テ與フヘキ扶助金ハ其ノ遺族ニ給ス
扶助金ヲ受クヘキ遺族ノ順位ハ第一條第二項ニ揭ケタル順序ニ依リ同順序內ニ於テハ男ハ女ニ先チ長ハ幼ニ先ツ但シ死亡者ノ家督相續人ハ同順序內ニ在リテハ最先トス
第六條 終身年金額ハ滿期又ハ退業前三箇年ノ給料平均月額ノ三倍トス
第七條 一時賜金額ハ就業最終三箇年ノ給料平均月額五分ノ二ヲ就業年數ニ乘シタル金額トス
第三條第二項及第四條第一項第四號ノ場合ニ於ケル一時賜金額ハ終身年金額ノ五倍トス但シ旣ニ給シタル金額竝第十七條第二項及第十九條ニ依リ給セラレサル金額ハ之ヲ控除ス
第八條 前二條ノ場合ニ於テ就業三箇年ニ滿タサルトキハ其ノ就業中ノ給料平均月額ニ依リテ扶助金額ヲ定ム
第九條 前三條ノ場合ニ於ケル給料月額ハ其ノ月ノ最高及最低ノ辭令面日給ノ平均額ノ三十倍トス
第十條 扶助金ヲ受ケ又ハ受ケタル者引續キ又ハ再就業シ復第三條又ハ第四條ニ該當スルニ至リタルトキハ更ニ扶助金ヲ給ス
第十一條 就業年數ハ職工就業ノ翌月ニ始マリ滿期又ハ最終就業ノ月ニ終ル
東京大阪兩砲兵工廠ノ間ニ於ケル轉勤ハ就業年數ノ繼續ヲ妨ケス
第十二條 私事ノ故障又ハ業務ニ起因セサル疾病ニ因リ休業十五日以上ニ及ヒタル月數ハ之ヲ就業年數ニ算入セス
第十三條 扶助金額圓位未滿ハ圓位ニ滿タシム
第十四條 終身年金ノ支給ハ滿期又ハ退業ノ翌月ニ始マリ死亡ノ月ニ終ル
第十五條 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルカ爲又ハ職工服務ニ關スル規程ニ違反シタルカ爲退業ヲ命セラレタル者ニハ其ノ退業前ノ就業年數ニ對シテハ一時賜金ヲ給セス
第十六條 終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者ニ對シテ公訴ノ提起アリタルトキハ其ノ事件ノ裁判所ニ繫屬スル間第三條第二項ニ依ル請求ヲ爲スコトヲ得ス公訴ノ提起前ニ爲シタル請求ハ其ノ效力ヲ失フ
第十七條 終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者公權ヲ剝奪セラレ又ハ國籍ヲ喪失シタルトキハ其ノ以後ノ終身年金ヲ給セス
終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者公權ヲ停止セラレタルトキハ其ノ期間ノ終身年金ヲ給セス
一時賜金ヲ受クヘキ者第一項ニ該當シタルトキハ之ヲ給セス但シ遺族ナルトキハ第五條第二項ノ順位ニ依リ之ヲ轉給ス
第十八條 扶助金ハ之ヲ受クヘキ事由ノ生シタル後一箇年以內ニ請求セサルトキハ之ヲ受クルノ資格ヲ失フ
第十九條 終身年金ヲ受クル者其ノ支給期限後六箇月以內ニ請求セサルトキハ其ノ年金額ヲ給セス
第二十條 本令ニ依リ扶助金ヲ受ケタル事由ニ對シテハ官役人夫死傷手當規則ニ依ル扶助料及埋葬料ヲ給セス
第二十一條 扶助金ニ關スル裁定ハ主務官廳之ヲ行フ
附 則
第二十二條 本令施行ノ際定期職工ヲ命セラレタル者ノ本令施行前引續キ就業シタル年月數ハ之ヲ折半シテ本令ヲ適用ス但シ未成年又ハ職工見習中ノ就業日數ハ此ノ限ニ在ラス
第二十三條 本令ハ明治三十五年九月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕砲兵工廠職工扶助令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十五年七月十八日
陸軍大臣 寺内正毅
勅令第百九十一号
砲兵工廠職工扶助令
第一条 本令ニ於テ職工ト称スルハ東京砲兵工廠及大阪砲兵工廠ノ定期職工ヲ謂フ
本令ニ於テ遺族ト称スルハ職工ノ配偶者、子、父、母、孫、祖父及祖母ニシテ職工死亡ノ当時ヨリ引続キ其ノ家ニ在ル者ヲ謂フ但シ職工死亡後出生シタル嫡出ノ子ハ死亡ノ当時其ノ家ニ在ル者ト看做ス
本令ニ於テ満期ト称スルハ就業引続キ満二十五年ニ達シタルトキヲ謂フ
第二条 職工及遺族ニハ本令ニ依リ扶助金ヲ給ス
扶助金ハ終身年金及一時賜金トス
第三条 職工左ノ各号ノ一ニ当ルトキハ終身年金ヲ給ス
一 満期ニ達シタルトキ
二 業務ノ為傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ一肢以上ノ用ヲ失ヒ又ハ之ニ準スヘキ者其ノ業務ニ堪ヘス退業シタルトキ
前項ニ該当スル場合ニ於テ請求アルトキハ終身年金ニ代ヘ一時賜金ヲ給ス
第四条 職工左ノ各号ノ一ニ当ルトキハ一時賜金ヲ給ス
一 就業引続キ満十年以上二十五年未満ニシテ死亡シ又ハ官庁ノ都合ニ依リ退業セシメラレタルトキ
二 業務ノ為傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ死亡シタルトキ
三 業務ノ為傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ前条第一項第二号ヨリ軽症ニシテ其ノ業務ニ堪ヘス退業シタルトキ
四 前条第一項ニ該当スル者終身年金若ハ之ニ代ハル一時賜金ヲ受ケス又ハ終身年金ヲ受クルコト五年未満ニシテ死亡シタルトキ
前項第二号及第三号ノ場合ニ於テハ就業年数ニ十年ヲ加算ス但シ之カ為満二十五年以上ニ達スルトキハ前条及前項第四号ノ規定ニ依リ扶助金ヲ給ス
第五条 職工死亡ノ後ニ於テ与フヘキ扶助金ハ其ノ遺族ニ給ス
扶助金ヲ受クヘキ遺族ノ順位ハ第一条第二項ニ掲ケタル順序ニ依リ同順序内ニ於テハ男ハ女ニ先チ長ハ幼ニ先ツ但シ死亡者ノ家督相続人ハ同順序内ニ在リテハ最先トス
第六条 終身年金額ハ満期又ハ退業前三箇年ノ給料平均月額ノ三倍トス
第七条 一時賜金額ハ就業最終三箇年ノ給料平均月額五分ノ二ヲ就業年数ニ乗シタル金額トス
第三条第二項及第四条第一項第四号ノ場合ニ於ケル一時賜金額ハ終身年金額ノ五倍トス但シ既ニ給シタル金額並第十七条第二項及第十九条ニ依リ給セラレサル金額ハ之ヲ控除ス
第八条 前二条ノ場合ニ於テ就業三箇年ニ満タサルトキハ其ノ就業中ノ給料平均月額ニ依リテ扶助金額ヲ定ム
第九条 前三条ノ場合ニ於ケル給料月額ハ其ノ月ノ最高及最低ノ辞令面日給ノ平均額ノ三十倍トス
第十条 扶助金ヲ受ケ又ハ受ケタル者引続キ又ハ再就業シ復第三条又ハ第四条ニ該当スルニ至リタルトキハ更ニ扶助金ヲ給ス
第十一条 就業年数ハ職工就業ノ翌月ニ始マリ満期又ハ最終就業ノ月ニ終ル
東京大阪両砲兵工廠ノ間ニ於ケル転勤ハ就業年数ノ継続ヲ妨ケス
第十二条 私事ノ故障又ハ業務ニ起因セサル疾病ニ因リ休業十五日以上ニ及ヒタル月数ハ之ヲ就業年数ニ算入セス
第十三条 扶助金額円位未満ハ円位ニ満タシム
第十四条 終身年金ノ支給ハ満期又ハ退業ノ翌月ニ始マリ死亡ノ月ニ終ル
第十五条 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルカ為又ハ職工服務ニ関スル規程ニ違反シタルカ為退業ヲ命セラレタル者ニハ其ノ退業前ノ就業年数ニ対シテハ一時賜金ヲ給セス
第十六条 終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者ニ対シテ公訴ノ提起アリタルトキハ其ノ事件ノ裁判所ニ繋属スル間第三条第二項ニ依ル請求ヲ為スコトヲ得ス公訴ノ提起前ニ為シタル請求ハ其ノ効力ヲ失フ
第十七条 終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者公権ヲ剥奪セラレ又ハ国籍ヲ喪失シタルトキハ其ノ以後ノ終身年金ヲ給セス
終身年金ヲ受ケ又ハ受クヘキ者公権ヲ停止セラレタルトキハ其ノ期間ノ終身年金ヲ給セス
一時賜金ヲ受クヘキ者第一項ニ該当シタルトキハ之ヲ給セス但シ遺族ナルトキハ第五条第二項ノ順位ニ依リ之ヲ転給ス
第十八条 扶助金ハ之ヲ受クヘキ事由ノ生シタル後一箇年以内ニ請求セサルトキハ之ヲ受クルノ資格ヲ失フ
第十九条 終身年金ヲ受クル者其ノ支給期限後六箇月以内ニ請求セサルトキハ其ノ年金額ヲ給セス
第二十条 本令ニ依リ扶助金ヲ受ケタル事由ニ対シテハ官役人夫死傷手当規則ニ依ル扶助料及埋葬料ヲ給セス
第二十一条 扶助金ニ関スル裁定ハ主務官庁之ヲ行フ
附 則
第二十二条 本令施行ノ際定期職工ヲ命セラレタル者ノ本令施行前引続キ就業シタル年月数ハ之ヲ折半シテ本令ヲ適用ス但シ未成年又ハ職工見習中ノ就業日数ハ此ノ限ニ在ラス
第二十三条 本令ハ明治三十五年九月一日ヨリ之ヲ施行ス