朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル電信法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十三日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
遞信大臣 子爵 芳川顯正
法律第五十九號
電信法
第一條 電信及電話ハ政府之ヲ管掌ス
第二條 左ニ揭クル電信又ハ電話ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ私設スルコトヲ得
一 一邸宅內若ハ一構內ニ於テ專用ニ供スル爲施設スルモノ
二 鐵道業其ノ他電信電話ノ專用ヲ必要トスル事業ノ爲施設スルモノ
三 公共團體ノ事務執行ノ爲一市區町村內若ハ鄰接市區町村間ニ於テ公署相互間又ハ一郡市區內ニ於テ公署ト第一次監督官廳トノ間ニ施設スルモノ
四 電報送受ノ目的ヲ以テ一人ノ專用ニ供スル爲電信官署トノ間ニ施設スルモノ
五 一市區町村內若ハ鄰接市區町村間ニ於テ又ハ電信電話ノ連絡ナク且第四號ニ依ルヲ不適當トスル市區町村間ニ於テ一人又ハ一營業ノ專用ニ供スル爲施設スルモノ
第三條 主務大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ前條ニ依リ施設シタル電信又ハ電話ヲ公衆通信又ハ軍事上必要ナル通信ノ用ニ供セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ主務大臣ハ吏員ヲ派遣シテ其ノ取扱ヲ爲サシムルコトヲ得
第四條 主務大臣ハ公安ノ爲必要ト認ムルトキハ區域ヲ定メ電信又ハ電話ニ依ル通信ヲ停止若ハ制限スルコトヲ得
第五條 電信又ハ電話ニ依ル通信ニシテ公安ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壞亂スルモノト認ムルトキハ主務大臣ノ指定シタル電信官署又ハ電話官署ニ於テ之ヲ停止スルコトヲ得
第六條 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用車馬等ハ道路ニ障碍アリテ通行シ難キ場合ニ於テ墻壁又ハ欄柵ナキ宅地田畑其ノ他ノ場所ヲ通行スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ政府ハ被害者ノ請求ニ因リ其ノ損害ノ賠償ヲ爲スヘシ
第七條 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用舟車馬等事故ニ遭遇シタル場合ニ於テ電信又ハ電話ノ工夫配達人若ハ吏員ヨリ助力ヲ求メラレタル者ハ正當ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス此ノ場合ニ於テハ政府ハ助力者ノ請求ニ因リ相當ノ報酬ヲ爲スヘシ
第八條 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用舟車馬等ニ對シテハ渡津、運河、道路、橋梁其ノ他ノ場所ニ於ケル通行錢ヲ請求スルコトヲ得ス
前項ノ工夫及配達人ハ何時ニテモ渡津ノ出船ヲ求ムルコトヲ得
第九條 政府ハ電信又ハ電話ノ用ニ供スル爲鐵道用地及停車場建物ノ一部ヲ使用シ必要アルトキハ建物ノ建築又ハ改築ヲ命スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ土地建物ノ使用料及建築改築ノ費用ハ請求ニ因リ政府之ヲ支給ス
第十條 政府カ鐵道用地內ニ電信線又ハ電話線ヲ施設シタルトキハ使用料ヲ支給セス
第十一條 電信若ハ電話專用ノ物件又ハ現ニ其ノ用ニ供スル物件ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
前項專用ノ物件ハ何等ノ賦課ヲ受クルコトナシ
第十二條 電信又ハ電話取扱ニ關シ電信官署又ハ電話官署ニ對シテ無能力者ノ爲シタル行爲ハ能力者ノ爲シタルモノト看做ス
第十三條 電報ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外其ノ宛所ニ配達ス
第十四條 電報ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニ限リ發信人ノ請求ニ因リ其ノ送達ヲ停止スルコトヲ得
第十五條 宛所ニ配達シ又ハ受信人ニ交付シ得サル電報ハ之ヲ公示ス其ノ公示ノ日ヨリ三十日間ニ交付ノ請求ナキトキハ之ヲ棄却ス
第十六條 電信官署ニ於テ必要ト認ムルトキハ發信人ニ對シ其ノ電報ニ用井タル祕辭隱語ノ說明ヲ求ムルコトヲ得發信人若其ノ說明ヲ拒ミタルトキハ其ノ電報ノ取扱ヲ拒絕ス
第十七條 電信又ハ電話ニ關スル料金及電信又ハ電話ニ依ル通信ノ取扱ニ必要ナル制限ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十八條 電信又ハ電話ニ關スル旣納及過納ノ料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外之ヲ還付セス
第十九條 發信人ニ於テ前納スヘキ電信ニ關スル料金ニ不足アルトキハ發信人ヨリ其ノ不足額ノ二倍ノ料金ヲ徵收ス
第二十條 電信又ハ電話ニ關スル料金納付ノ義務ハ其ノ納付スヘキ日ヨリ六箇月內ニ納付ノ吿知ヲ受ケサルニ因リテ消滅ス
第二十一條 電信又ハ電話ニ關スル料金ノ不納金額ハ電信官署又ハ電話官署ニ於テ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收ス
前項ノ不納金額ニ付電信官署又ハ電話官署ハ國稅ニ次キ先取特權ヲ有ス
第二十二條 電信又ハ電話ニ依ル通信ニシテ電信、電話及郵便、郵便爲替、郵便貯金ノ事務又ハ氣象報吿ニ關スルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ無料ト爲スコトヲ得
第二十三條 電信又ハ電話ニ關スル料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外郵便切手ヲ以テ納付スヘシ
第二十四條 電信又ハ電話ノ取扱ニ關シテハ政府ハ損害賠償ノ責ニ任セス
第二十五條 本法ニ依ル損害賠償又ハ報酬ノ請求權ハ主務大臣ノ指定シタル電信官署又ハ電話官署ニ對シ其ノ事實アリタル日ヨリ三箇月間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
第二十六條 電信官署若ハ電話官署ノ賠償又ハ報酬ニ關スル決定ニ對シ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十七條 權利ナクシテ電信若ハ電話ヲ私設シタル者又ハ權利ヲ失ヒタル後主務官署ノ指定シタル期間內ニ私設ノ電信若ハ電話ヲ撤去セサル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ電信線又ハ電話線及電信又ハ電話ノ機器ヲ沒收ス
前項ノ場合ニ於テ其ノ電信又ハ電話ヲ他人ノ用ニ供シ因テ金錢物品ヲ收得シタルトキハ之ヲ沒收ス旣ニ消費又ハ讓渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代價ヲ追徵ス
第一項ノ電信又ハ電話ヲ使用シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十八條 第三條第一項ニ依ル場合ヲ除クノ外私設ノ電信若ハ電話ヲ他人ノ用ニ供シタル者又ハ其ノ私設者ニアラスシテ之ヲ使用シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ場合ニ於テ金錢物品ヲ收得シタルトキハ之ヲ沒收ス旣ニ消費又ハ讓渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代價ヲ追徵ス
第二十九條 第三條第一項ノ場合ニ於テ正當ノ事由ナクシテ電信若ハ電話ノ供用ヲ拒ミ又ハ第九條第一項ノ場合ニ於テ正當ノ事由ナクシテ用地、建物ノ使用ヲ拒ミ若ハ建物ノ建築改築ヲ爲ササル者ハ五圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條 第六條ノ場合ニ於テ通行ヲ拒ミ又ハ第七條ノ場合ニ於テ正當ノ事由ナクシテ助力ヲ拒ミ又ハ第八條ノ場合ニ於テ通行錢ヲ强要シ若ハ正當ノ理由ナクシテ渡津ノ出船ヲ拒ミタル者ハ科料ニ處ス
第三十一條 電信官署又ハ電話官署ノ取扱中ニ係ル通信ノ祕密ヲ侵シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
電信又ハ電話ノ事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
本條ノ罪ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ之ヲ論ス
第三十二條 不正ノ手段ヲ以テ電信又ハ電話ニ關スル料金ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
電信又ハ電話ノ事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十三條 自己若ハ他人ニ利益ヲ與ヘ又ハ他人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ虛僞ノ電報ヲ發シタル者ハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ場合ニ於テ電信爲替ニ要スヘキ電報ニ係ルトキハ輕懲役ニ處ス
電信事務ニ從事スル者前二項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十四條 電信又ハ電話ノ事務ニ從事スル者電信官署又ハ電話官署ノ取扱中ニ係ル電信又ハ電話ノ用紙ニ貼用シタル郵便切手ヲ剝脫シタルトキハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ未タ消印ヲ爲ササルモノニ關シテハ刑法竊盜ノ罪ニ照シテ處斷ス
第三十五條 電信官署ノ取扱中ニ係ル電報ヲ正當ノ事由ナクシテ開披、毀損、隱匿若ハ放棄シタル者又ハ受取人ニ非サル者ニ交付シ若ハ情ヲ知リテ之ヲ受取リタル者又ハ其ノ傳送配達ヲ妨害シタル者ハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
電信事務ニ從事スル者前項ノ所爲アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十六條 電信若ハ電話ノ事務ニ從事スル者正當ノ事由ナクシテ其ノ通信ノ取扱ヲ拒絕シ又ハ其ノ傳送ヲ遲延セシメタルトキハ四圓以上四十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十七條 電信線又ハ電話線其ノ他電信又ハ電話ノ機器建造物ヲ毀損シ若ハ通信ヲ障碍シタル者ハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
過失ニ因リ通信ヲ障碍シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十八條 電信線若ハ電話線ノ建築修理又ハ線路ノ巡視測量ヲ妨害シタル者ハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十九條 電信、電話ノ線條若ハ其ノ支持物ニ物品ヲ懸ケ若ハ擲チ又ハ之ニ動物若ハ舟筏ヲ繫キ又ハ之ヲ汚穢シタル者ハ科料ニ處ス
電信又ハ電話線路ノ測量標ヲ毀棄汚穢シタル者亦同シ
第四十條 主務官署ノ指定シタル水底電信線路若ハ水底電話線路ノ區域內ニ於テ船舶ヲ繫留シ又ハ漁業採藻ヲ爲シ若ハ土砂ヲ掘鑿シ又ハ水底電信線若ハ水底電話線ノ號標ニ舟筏ヲ繫キ又ハ其ノ號標ヲ毀棄シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
水底電信線若ハ水底電話線ノ布設若ハ修理ノ爲其ノ位置ヲ示スヘキ浮標又ハ其ノ布設若ハ修理ニ從事スル船舶ヨリ主務官署ノ指定シタル距離以內ニ於テ前項ノ所爲ヲ爲シ若ハ航行シタル者亦同シ
第四十一條 第三十二條ヲ除クノ外前數條ニ記載シタル輕罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ照シテ處斷ス
第四十二條 法人ノ業務ニ關シ其ノ代表者又ハ雇人其ノ他ノ從業者前數條ノ罪ヲ犯シタルトキハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス但シ罰金科料以外ノ刑ニ處スヘキ場合ニ於テハ法人ヲ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
法人ヲ處罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被吿人トス
法人ヲ處罰スルノ裁判確定シタル日ヨリ罰金ニ關シテハ一月以內科料ニ關シテハ十日以內ニ之ヲ納完セサルトキハ民事訴訟法第六編ノ規定ニ從ヒテ其ノ執行ヲ爲ス此ノ場合ニ於テハ檢事ノ命令ヲ以テ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ效力アルモノトス
前項ニ依リ執行ヲ爲スニハ執行前裁判ノ送達ヲ爲スコトヲ要セス
第四十三條 公衆通信又ハ第三條第一項ニ依リ現ニ軍事通信ノ用ニ供スル私設ノ電信又ハ電話ニ關シテハ第九條ヲ除クノ外本法中政府ノ施設ニ係ル電信又ハ電話ニ關スル規定ヲ準用ス
第四十四條 電信又ハ電話ニ非スト雖通報信號ヲ爲スモノニ關シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第四十五條 帝國外國間ニ於ケル電信ニ關シ別ニ法令條約又ハ特許ノ條款ニ明文アルモノハ各其ノ定ムル所ニ依ル
附 則
第四十六條 本法ハ明治三十三年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
電信條例ハ之ヲ廢止ス
第四十七條 本法施行前電信條例ニ依リ電信又ハ電話私設ノ許可ヲ得タル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ更ニ許可ノ申請ヲ爲スコトヲ要ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル電信法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十三日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
逓信大臣 子爵 芳川顕正
法律第五十九号
電信法
第一条 電信及電話ハ政府之ヲ管掌ス
第二条 左ニ掲クル電信又ハ電話ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ私設スルコトヲ得
一 一邸宅内若ハ一構内ニ於テ専用ニ供スル為施設スルモノ
二 鉄道業其ノ他電信電話ノ専用ヲ必要トスル事業ノ為施設スルモノ
三 公共団体ノ事務執行ノ為一市区町村内若ハ隣接市区町村間ニ於テ公署相互間又ハ一郡市区内ニ於テ公署ト第一次監督官庁トノ間ニ施設スルモノ
四 電報送受ノ目的ヲ以テ一人ノ専用ニ供スル為電信官署トノ間ニ施設スルモノ
五 一市区町村内若ハ隣接市区町村間ニ於テ又ハ電信電話ノ連絡ナク且第四号ニ依ルヲ不適当トスル市区町村間ニ於テ一人又ハ一営業ノ専用ニ供スル為施設スルモノ
第三条 主務大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ前条ニ依リ施設シタル電信又ハ電話ヲ公衆通信又ハ軍事上必要ナル通信ノ用ニ供セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ主務大臣ハ吏員ヲ派遣シテ其ノ取扱ヲ為サシムルコトヲ得
第四条 主務大臣ハ公安ノ為必要ト認ムルトキハ区域ヲ定メ電信又ハ電話ニ依ル通信ヲ停止若ハ制限スルコトヲ得
第五条 電信又ハ電話ニ依ル通信ニシテ公安ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壊乱スルモノト認ムルトキハ主務大臣ノ指定シタル電信官署又ハ電話官署ニ於テ之ヲ停止スルコトヲ得
第六条 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用車馬等ハ道路ニ障碍アリテ通行シ難キ場合ニ於テ墻壁又ハ欄柵ナキ宅地田畑其ノ他ノ場所ヲ通行スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ政府ハ被害者ノ請求ニ因リ其ノ損害ノ賠償ヲ為スヘシ
第七条 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用舟車馬等事故ニ遭遇シタル場合ニ於テ電信又ハ電話ノ工夫配達人若ハ吏員ヨリ助力ヲ求メラレタル者ハ正当ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス此ノ場合ニ於テハ政府ハ助力者ノ請求ニ因リ相当ノ報酬ヲ為スヘシ
第八条 職務執行中ノ電信又ハ電話ノ工夫配達人及配達用舟車馬等ニ対シテハ渡津、運河、道路、橋梁其ノ他ノ場所ニ於ケル通行銭ヲ請求スルコトヲ得ス
前項ノ工夫及配達人ハ何時ニテモ渡津ノ出船ヲ求ムルコトヲ得
第九条 政府ハ電信又ハ電話ノ用ニ供スル為鉄道用地及停車場建物ノ一部ヲ使用シ必要アルトキハ建物ノ建築又ハ改築ヲ命スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ土地建物ノ使用料及建築改築ノ費用ハ請求ニ因リ政府之ヲ支給ス
第十条 政府カ鉄道用地内ニ電信線又ハ電話線ヲ施設シタルトキハ使用料ヲ支給セス
第十一条 電信若ハ電話専用ノ物件又ハ現ニ其ノ用ニ供スル物件ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
前項専用ノ物件ハ何等ノ賦課ヲ受クルコトナシ
第十二条 電信又ハ電話取扱ニ関シ電信官署又ハ電話官署ニ対シテ無能力者ノ為シタル行為ハ能力者ノ為シタルモノト看做ス
第十三条 電報ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外其ノ宛所ニ配達ス
第十四条 電報ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニ限リ発信人ノ請求ニ因リ其ノ送達ヲ停止スルコトヲ得
第十五条 宛所ニ配達シ又ハ受信人ニ交付シ得サル電報ハ之ヲ公示ス其ノ公示ノ日ヨリ三十日間ニ交付ノ請求ナキトキハ之ヲ棄却ス
第十六条 電信官署ニ於テ必要ト認ムルトキハ発信人ニ対シ其ノ電報ニ用井タル秘辞隠語ノ説明ヲ求ムルコトヲ得発信人若其ノ説明ヲ拒ミタルトキハ其ノ電報ノ取扱ヲ拒絶ス
第十七条 電信又ハ電話ニ関スル料金及電信又ハ電話ニ依ル通信ノ取扱ニ必要ナル制限ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十八条 電信又ハ電話ニ関スル既納及過納ノ料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外之ヲ還付セス
第十九条 発信人ニ於テ前納スヘキ電信ニ関スル料金ニ不足アルトキハ発信人ヨリ其ノ不足額ノ二倍ノ料金ヲ徴収ス
第二十条 電信又ハ電話ニ関スル料金納付ノ義務ハ其ノ納付スヘキ日ヨリ六箇月内ニ納付ノ告知ヲ受ケサルニ因リテ消滅ス
第二十一条 電信又ハ電話ニ関スル料金ノ不納金額ハ電信官署又ハ電話官署ニ於テ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ徴収ス
前項ノ不納金額ニ付電信官署又ハ電話官署ハ国税ニ次キ先取特権ヲ有ス
第二十二条 電信又ハ電話ニ依ル通信ニシテ電信、電話及郵便、郵便為替、郵便貯金ノ事務又ハ気象報告ニ関スルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ無料ト為スコトヲ得
第二十三条 電信又ハ電話ニ関スル料金ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外郵便切手ヲ以テ納付スヘシ
第二十四条 電信又ハ電話ノ取扱ニ関シテハ政府ハ損害賠償ノ責ニ任セス
第二十五条 本法ニ依ル損害賠償又ハ報酬ノ請求権ハ主務大臣ノ指定シタル電信官署又ハ電話官署ニ対シ其ノ事実アリタル日ヨリ三箇月間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
第二十六条 電信官署若ハ電話官署ノ賠償又ハ報酬ニ関スル決定ニ対シ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十七条 権利ナクシテ電信若ハ電話ヲ私設シタル者又ハ権利ヲ失ヒタル後主務官署ノ指定シタル期間内ニ私設ノ電信若ハ電話ヲ撤去セサル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ電信線又ハ電話線及電信又ハ電話ノ機器ヲ没収ス
前項ノ場合ニ於テ其ノ電信又ハ電話ヲ他人ノ用ニ供シ因テ金銭物品ヲ収得シタルトキハ之ヲ没収ス既ニ消費又ハ譲渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代価ヲ追徴ス
第一項ノ電信又ハ電話ヲ使用シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十八条 第三条第一項ニ依ル場合ヲ除クノ外私設ノ電信若ハ電話ヲ他人ノ用ニ供シタル者又ハ其ノ私設者ニアラスシテ之ヲ使用シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ場合ニ於テ金銭物品ヲ収得シタルトキハ之ヲ没収ス既ニ消費又ハ譲渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代価ヲ追徴ス
第二十九条 第三条第一項ノ場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ電信若ハ電話ノ供用ヲ拒ミ又ハ第九条第一項ノ場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ用地、建物ノ使用ヲ拒ミ若ハ建物ノ建築改築ヲ為ササル者ハ五円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十条 第六条ノ場合ニ於テ通行ヲ拒ミ又ハ第七条ノ場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ助力ヲ拒ミ又ハ第八条ノ場合ニ於テ通行銭ヲ強要シ若ハ正当ノ理由ナクシテ渡津ノ出船ヲ拒ミタル者ハ科料ニ処ス
第三十一条 電信官署又ハ電話官署ノ取扱中ニ係ル通信ノ秘密ヲ侵シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
電信又ハ電話ノ事務ニ従事スル者前項ノ所為アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
本条ノ罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス
第三十二条 不正ノ手段ヲ以テ電信又ハ電話ニ関スル料金ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
電信又ハ電話ノ事務ニ従事スル者前項ノ所為アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十三条 自己若ハ他人ニ利益ヲ与ヘ又ハ他人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ虚偽ノ電報ヲ発シタル者ハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ場合ニ於テ電信為替ニ要スヘキ電報ニ係ルトキハ軽懲役ニ処ス
電信事務ニ従事スル者前二項ノ所為アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十四条 電信又ハ電話ノ事務ニ従事スル者電信官署又ハ電話官署ノ取扱中ニ係ル電信又ハ電話ノ用紙ニ貼用シタル郵便切手ヲ剥脱シタルトキハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス其ノ未タ消印ヲ為ササルモノニ関シテハ刑法窃盗ノ罪ニ照シテ処断ス
第三十五条 電信官署ノ取扱中ニ係ル電報ヲ正当ノ事由ナクシテ開披、毀損、隠匿若ハ放棄シタル者又ハ受取人ニ非サル者ニ交付シ若ハ情ヲ知リテ之ヲ受取リタル者又ハ其ノ伝送配達ヲ妨害シタル者ハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
電信事務ニ従事スル者前項ノ所為アリタルトキハ本刑ニ一等ヲ加フ
第三十六条 電信若ハ電話ノ事務ニ従事スル者正当ノ事由ナクシテ其ノ通信ノ取扱ヲ拒絶シ又ハ其ノ伝送ヲ遅延セシメタルトキハ四円以上四十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十七条 電信線又ハ電話線其ノ他電信又ハ電話ノ機器建造物ヲ毀損シ若ハ通信ヲ障碍シタル者ハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
過失ニ因リ通信ヲ障碍シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十八条 電信線若ハ電話線ノ建築修理又ハ線路ノ巡視測量ヲ妨害シタル者ハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十九条 電信、電話ノ線条若ハ其ノ支持物ニ物品ヲ懸ケ若ハ擲チ又ハ之ニ動物若ハ舟筏ヲ繋キ又ハ之ヲ汚穢シタル者ハ科料ニ処ス
電信又ハ電話線路ノ測量標ヲ毀棄汚穢シタル者亦同シ
第四十条 主務官署ノ指定シタル水底電信線路若ハ水底電話線路ノ区域内ニ於テ船舶ヲ繋留シ又ハ漁業採藻ヲ為シ若ハ土砂ヲ掘鑿シ又ハ水底電信線若ハ水底電話線ノ号標ニ舟筏ヲ繋キ又ハ其ノ号標ヲ毀棄シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
水底電信線若ハ水底電話線ノ布設若ハ修理ノ為其ノ位置ヲ示スヘキ浮標又ハ其ノ布設若ハ修理ニ従事スル船舶ヨリ主務官署ノ指定シタル距離以内ニ於テ前項ノ所為ヲ為シ若ハ航行シタル者亦同シ
第四十一条 第三十二条ヲ除クノ外前数条ニ記載シタル軽罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ照シテ処断ス
第四十二条 法人ノ業務ニ関シ其ノ代表者又ハ雇人其ノ他ノ従業者前数条ノ罪ヲ犯シタルトキハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス但シ罰金科料以外ノ刑ニ処スヘキ場合ニ於テハ法人ヲ三百円以下ノ罰金ニ処ス
法人ヲ処罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被告人トス
法人ヲ処罰スルノ裁判確定シタル日ヨリ罰金ニ関シテハ一月以内科料ニ関シテハ十日以内ニ之ヲ納完セサルトキハ民事訴訟法第六編ノ規定ニ従ヒテ其ノ執行ヲ為ス此ノ場合ニ於テハ検事ノ命令ヲ以テ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力アルモノトス
前項ニ依リ執行ヲ為スニハ執行前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
第四十三条 公衆通信又ハ第三条第一項ニ依リ現ニ軍事通信ノ用ニ供スル私設ノ電信又ハ電話ニ関シテハ第九条ヲ除クノ外本法中政府ノ施設ニ係ル電信又ハ電話ニ関スル規定ヲ準用ス
第四十四条 電信又ハ電話ニ非スト雖通報信号ヲ為スモノニ関シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第四十五条 帝国外国間ニ於ケル電信ニ関シ別ニ法令条約又ハ特許ノ条款ニ明文アルモノハ各其ノ定ムル所ニ依ル
附 則
第四十六条 本法ハ明治三十三年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
電信条例ハ之ヲ廃止ス
第四十七条 本法施行前電信条例ニ依リ電信又ハ電話私設ノ許可ヲ得タル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ更ニ許可ノ申請ヲ為スコトヲ要ス