(領事官ノ職務ニ関スル法律)
法令番号: 法律第七十號
公布年月日: 明治32年3月20日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル領事官ノ職務ニ關スル法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月十八日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
外務大臣 子爵 靑木周藏
司法大臣 淸浦奎吾
法律第七十號
第一條 條約中特ニ領事官ノ權限ニ屬セシメタル事項ニ關シテハ法律ニ牴觸セサル範圍ニ於テ命令ヲ以テ其ノ制限ヲ設クルコトヲ得
第二條 條約中領事官ノ職務ニ關シ法律ノ規定ヲ要スル事項ニ付法律ノ規定ナキトキハ命令ヲ以テ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
第三條 領事官其ノ他本法ニ依リテ職務ヲ行フ者ハ法令及條約ノ規定ニ從テ其ノ職務ヲ行フヘシ但シ國際法ニ基因スル慣例又ハ駐在地特別ノ慣例ニ從フコトヲ得
前項ニ依リ難キトキハ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第四條 外國ニ於ケル施行期日ヲ定メサル法律ニ付テハ命令ヲ以テ其ノ施行期日ヲ定ムルコトヲ得
第五條 領事官ノ職務ニ關スル管轄區域ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六條 條約又ハ慣例ニ因リ領事裁判權ヲ行フコトヲ得ル領事官ハ第七條乃至第十七條ノ規定ニ從ヒ訴訟事件竝非訟事件ニ關スル事務及登記事務ヲ行フ
第七條 前條ノ事務ニ關シテハ領事官ハ法令、條約及慣例ニ牴觸セサル範圍ニ於テ地方裁判所及區裁判所ノ職務ヲ行フ
第八條 領事官ハ重罪ノ公判ヲ爲スコトヲ得ス
輕罪ノ裁判ニ付テハ豫審ヲ須井ス
第九條 領事官ノ豫審ヲ爲シタル重罪ノ公判ハ長崎地方裁判所之ヲ管轄ス
第十條 領事官ノ管轄ニ屬スル刑事ニ關シ國交上必要アルトキハ外務大臣ハ其ノ事件ヲ管轄スヘカラサルコトヲ領事官ニ命シ且被吿人ヲ內國ノ監獄ニ移送セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ司法大臣ハ其ノ事件地方裁判所ノ權限ニ屬スヘキモノナルトキハ長崎控訴院檢事ヲシテ裁判管轄指定ノ申請ヲ其ノ控訴院ニ爲サシメ其ノ事件區裁判所ノ權限ニ屬スヘキモノナルトキハ長崎地方裁判所檢事ヲシテ裁判管轄指定ノ申請ヲ其ノ地方裁判所ニ爲サシムヘシ
第十一條 前條ノ申請及裁判ニ關シテハ刑事訴訟法第三十三條ノ規定ヲ準用ス
第十二條 地方裁判所ノ權限ニ屬スル事項ニ關シ領事官ノ爲シタル裁判ニ對スル控訴又ハ抗吿ハ長崎控訴院之ヲ管轄ス
區裁判所ノ權限ニ屬スル事項ニ關シ領事官ノ爲シタル裁判ニ對スル控訴又ハ抗吿ハ長崎地方裁判所之ヲ管轄ス
第十三條 領事官ハ領事館員又ハ警察官ヲシテ檢事又ハ裁判所書記ノ職務ヲ行ハシムヘシ
裁判所書記ノ職務ヲ行ハシムヘキ前項ノ官吏ナキトキハ領事官ハ其ノ管轄區域內ニ在留スル帝國臣民中ヨリ選任シテ臨時其ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十四條 領事官ハ領事館員又ハ警察官吏ヲシテ執達吏ノ職務ヲ行ハシムヘシ
前項ノ職務ヲ行フ者ハ自己ノ責任ヲ以テ自ラ適當ト認ムル者ニ臨時其ノ職務ノ執行ヲ委任スルコトヲ得
第十五條 法令ノ規定ニ依ルモノヲ除ク外訴訟代理人又ハ辯護人タラントスル者ハ領事官ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第十六條 通常裁判所ニ於ケル忌避又ハ囘避ニ關スル規定ハ領事官其ノ他本法ニ依リテ職務ヲ行フ者ニハ之ヲ適用セス
第十七條 第十三條及第十四條ニ揭ケタル職務ヲ行フ者ナキトキハ外務大臣ハ同一國內ノ他ノ領事館官吏ヲ派遣シ其ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十八條 領事館ノ設置ナキ地ニ限リ命令ノ規定ヲ以テ本法其ノ他ノ法律中領事官ノ取扱フヘキ事項ハ領事官ニアラサル者ヲシテ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第十九條 本法其ノ他ノ法律中單ニ領事又ハ領事官ト稱スルハ名譽領事ニアラサル領事及其ノ代理ヲ謂フ
第二十條 本法施行ノ爲必要ナル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一條 淸國竝朝鮮國駐在領事裁判規則ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル領事官ノ職務ニ関スル法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月十八日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
外務大臣 子爵 青木周蔵
司法大臣 清浦奎吾
法律第七十号
第一条 条約中特ニ領事官ノ権限ニ属セシメタル事項ニ関シテハ法律ニ牴触セサル範囲ニ於テ命令ヲ以テ其ノ制限ヲ設クルコトヲ得
第二条 条約中領事官ノ職務ニ関シ法律ノ規定ヲ要スル事項ニ付法律ノ規定ナキトキハ命令ヲ以テ必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得
第三条 領事官其ノ他本法ニ依リテ職務ヲ行フ者ハ法令及条約ノ規定ニ従テ其ノ職務ヲ行フヘシ但シ国際法ニ基因スル慣例又ハ駐在地特別ノ慣例ニ従フコトヲ得
前項ニ依リ難キトキハ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第四条 外国ニ於ケル施行期日ヲ定メサル法律ニ付テハ命令ヲ以テ其ノ施行期日ヲ定ムルコトヲ得
第五条 領事官ノ職務ニ関スル管轄区域ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六条 条約又ハ慣例ニ因リ領事裁判権ヲ行フコトヲ得ル領事官ハ第七条乃至第十七条ノ規定ニ従ヒ訴訟事件並非訟事件ニ関スル事務及登記事務ヲ行フ
第七条 前条ノ事務ニ関シテハ領事官ハ法令、条約及慣例ニ牴触セサル範囲ニ於テ地方裁判所及区裁判所ノ職務ヲ行フ
第八条 領事官ハ重罪ノ公判ヲ為スコトヲ得ス
軽罪ノ裁判ニ付テハ予審ヲ須井ス
第九条 領事官ノ予審ヲ為シタル重罪ノ公判ハ長崎地方裁判所之ヲ管轄ス
第十条 領事官ノ管轄ニ属スル刑事ニ関シ国交上必要アルトキハ外務大臣ハ其ノ事件ヲ管轄スヘカラサルコトヲ領事官ニ命シ且被告人ヲ内国ノ監獄ニ移送セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ司法大臣ハ其ノ事件地方裁判所ノ権限ニ属スヘキモノナルトキハ長崎控訴院検事ヲシテ裁判管轄指定ノ申請ヲ其ノ控訴院ニ為サシメ其ノ事件区裁判所ノ権限ニ属スヘキモノナルトキハ長崎地方裁判所検事ヲシテ裁判管轄指定ノ申請ヲ其ノ地方裁判所ニ為サシムヘシ
第十一条 前条ノ申請及裁判ニ関シテハ刑事訴訟法第三十三条ノ規定ヲ準用ス
第十二条 地方裁判所ノ権限ニ属スル事項ニ関シ領事官ノ為シタル裁判ニ対スル控訴又ハ抗告ハ長崎控訴院之ヲ管轄ス
区裁判所ノ権限ニ属スル事項ニ関シ領事官ノ為シタル裁判ニ対スル控訴又ハ抗告ハ長崎地方裁判所之ヲ管轄ス
第十三条 領事官ハ領事館員又ハ警察官ヲシテ検事又ハ裁判所書記ノ職務ヲ行ハシムヘシ
裁判所書記ノ職務ヲ行ハシムヘキ前項ノ官吏ナキトキハ領事官ハ其ノ管轄区域内ニ在留スル帝国臣民中ヨリ選任シテ臨時其ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十四条 領事官ハ領事館員又ハ警察官吏ヲシテ執達吏ノ職務ヲ行ハシムヘシ
前項ノ職務ヲ行フ者ハ自己ノ責任ヲ以テ自ラ適当ト認ムル者ニ臨時其ノ職務ノ執行ヲ委任スルコトヲ得
第十五条 法令ノ規定ニ依ルモノヲ除ク外訴訟代理人又ハ弁護人タラントスル者ハ領事官ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第十六条 通常裁判所ニ於ケル忌避又ハ回避ニ関スル規定ハ領事官其ノ他本法ニ依リテ職務ヲ行フ者ニハ之ヲ適用セス
第十七条 第十三条及第十四条ニ掲ケタル職務ヲ行フ者ナキトキハ外務大臣ハ同一国内ノ他ノ領事館官吏ヲ派遣シ其ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十八条 領事館ノ設置ナキ地ニ限リ命令ノ規定ヲ以テ本法其ノ他ノ法律中領事官ノ取扱フヘキ事項ハ領事官ニアラサル者ヲシテ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第十九条 本法其ノ他ノ法律中単ニ領事又ハ領事官ト称スルハ名誉領事ニアラサル領事及其ノ代理ヲ謂フ
第二十条 本法施行ノ為必要ナル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一条 清国並朝鮮国駐在領事裁判規則ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廃止ス