移民保護法
法令番号: 法律第七十號
公布年月日: 明治29年4月8日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル移民保護法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月七日
內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
外務大臣 伯爵 陸奧宗光
內務大臣 芳川顯正
法律第七十號
移民保護法
第一章 移民
第一條 本法ニ於テ移民ト稱スルハ勞働ニ從事スルノ目的ヲ以テ外國ニ渡航スル者及其ノ家族ニシテ之ト同行シ又ハ其ノ所在地ニ渡航スル者ヲ謂フ
前項勞働ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二條 移民ハ行政廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外國ニ渡航スルコトヲ得ス
渡航ノ許可ハ其ノ許可ノ日ヨリ六箇月以內ニ出發セサルトキハ效力ヲ失フモノトス
第三條 行政廳ハ渡航スヘキ地ノ情況ニ因リ移民取扱人ニ依ラサル移民ヲシテ適當ト認ムル二人以上ノ保證人ヲ定メシムルコトヲ得
保證人ハ移民ノ疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ之ヲ救助シ若ハ歸國セシムヘシ又行政廳ニ於テ移民ヲ救助シ若ハ歸國セシメタルトキハ其ノ費用ヲ辨償スヘシ
第四條 行政廳ハ移民保護ノ爲若ハ公安保持ノ爲又ハ外交上必要ト認ムルトキハ移民ノ渡航ヲ差止メ又ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
渡航差止中ノ日數ハ第二條第二項ノ期間ニ算入セス
第二章 移民取扱人
第五條 本法ニ於テ移民取扱人ト稱スルハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ヲ周旋スルヲ以テ營業ト爲ス者ヲ謂フ
第六條 移民取扱人タラムト欲スル者ハ行政廳ノ許可ヲ受クヘシ
移民取扱人ノ許可ハ其ノ許可ノ日ヨリ六箇月以內ニ營業ヲ開始セサルトキハ效力ヲ失フモノトス
第七條 帝國臣民又ハ帝國臣民ノミヲ社員若ハ株主トスル商事會社ニシテ帝國ニ於テ主タル營業所ヲ有スルモノニ非サレハ移民取扱人タルコトヲ得ス
前項ノ外移民取扱人ニ要スル資格ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 行政廳ハ移民取扱人ノ行爲法律命令ニ違反シタルトキ若ハ公安ヲ害スルモノト認ムルトキ又ハ移民取扱人保證金ノ納付ヲ遲滯シタルトキハ其ノ營業ヲ停止シ又ハ營業ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第九條 移民取扱人ハ營業ヲ停止セラレ又ハ休業シタルトキト雖旣ニ渡航セシメタル移民ニ對シ契約ノ履行ヲ中止スルコトヲ得ス
第十條 移民取扱人代理人ヲ定メ其ノ業務ヲ行ハシムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政廳ノ許可ヲ受クヘシ
第十一條 移民取扱人ハ業務擔當社員若ハ取締役又ハ代理人ヲ在留セシメサル地ニ移民ヲ渡航セシムルコトヲ得ス
第十二條 移民取扱人ハ移民トシテ渡航スル者ニ非サレハ其ノ周旋又ハ募集ヲ爲スコトヲ得ス
第十三條 移民取扱人渡航ノ周旋又ハ募集ヲ爲ストキハ移民ト書面契約ヲ爲シ行政廳ノ認可ヲ受クヘシ
前項契約ニ必要ナル條件ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十四條 移民取扱人ハ前條認可ヲ受ケタル書面契約ニ定ムル所ノ渡航周旋料若ハ手數料ノ外何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス移民ヨリ金錢又ハ物品ヲ受クルコトヲ得ス
第十五條 移民取扱人移民ヲ募集スルトキハ出發セシムヘキ期日ヲ豫定シテ之ヲ示スヘシ移民取扱人正當ノ理由ナクシテ豫定ノ期日內ニ移民ヲ出發セシメサルトキハ其ノ出發延期ノ爲ニ生スル移民ノ費用ヲ負擔スヘシ
第三章 保證金
第十六條 移民取扱人ハ行政廳ニ保證金ヲ納付シタル後ニ非サレハ其ノ營業ヲ開始スルコトヲ得ス
保證金額ハ一萬圓以上トシ行政廳之ヲ定ム
第十七條 行政廳ハ必要ト認ムルトキハ保證金額ヲ增減スルコトヲ得但シ前條ノ金額以下ニ下スコトヲ得ス
第十八條 行政廳ニ於テ移民取扱人移民ニ對シ契約ヲ履行セスト認メタルトキハ保證金ヨリ其ノ費用ヲ支出シテ移民ヲ救助シ又ハ歸國セシムルコトヲ得
第十九條 移民取扱人死亡、解散、營業許可ノ取消又ハ其ノ他ノ理由ニ依リ營業ヲ廢止スルモ保證金ハ行政廳ニ於テ領置ノ必要アリト認ムル間ハ其ノ全部又ハ一部ヲ還付セサルコトヲ得
第二十條 移民取扱人營業中及前條行政廳ニ於テ保證金領置ノ必要アリト認ムル間ハ移民又ハ其ノ相續人カ本法ニ從ヒタル契約ニ基キ權利ヲ執行スル場合ノ外何人ト雖保證金ニ對シテ債權取立ヲ爲スコトヲ得ス
第四章 罰則
第二十一條 渡航ノ許可ヲ受ケス又ハ渡航地ヲ詐リテ許可ヲ受ケ又ハ渡航差止命令ニ違反シテ渡航シタル移民ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十二條 法律命令ニ違反シタル移民ノ渡航ヲ周旋シ又ハ渡航差止中ニ移民ヲ渡航セシメタル移民取扱人及代理人ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十三條 行政廳ノ許可ヲ受ケスシテ移民取扱人ノ行爲ヲ爲シタル者又ハ營業停止中ニ移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ爲シタル移民取扱人及代理人ハ二百圓以上千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十四條 移民取扱人行政廳ノ許可ヲ受ケサル代理人ヲシテ其ノ行爲ヲ爲サシメタルトキハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ行爲ヲ爲シタル代理人亦同シ
第二十五條 第十一條、第十二條、第十三條、第十四條及第十六條第一項ニ違反シタル移民取扱人及代理人ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十六條 誘惑ノ手段ヲ以テ移民ヲ募集シ若ハ渡航ノ周旋ヲナシタル移民取扱人及代理人ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處ス
第二十七條 本法ノ罰則ハ商事會社ニ在テハ其ノ各條ニ揭クル行爲ヲ爲シタル業務擔當社員又ハ取締役ニ之ヲ適用ス
第五章 附則
第二十八條 本法施行以前ヨリ當該官廳ノ許可ヲ受ケ營業スル移民取扱人ハ本法施行ノ際別ニ許可ヲ受クルヲ要セス本法ノ規程ニ依リ其ノ營業ヲ繼續スルコトヲ得但シ其ノ營業ヲ繼續セサルトキト雖其ノ旣ニ納付シタル保證金ニ對シテハ仍本法ノ規程ヲ適用ス
第二十九條 本法ハ帝國ト締結シタル特別ノ條約ニ基キ渡航スル移民及其ノ取扱人ニ適用セス
第三十條 本法施行ノ爲ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十一條 本法ハ明治二十九年六月一日ヨリ施行ス
明治二十七年勅令第四十二號移民保護規則ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル移民保護法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月七日
内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文
外務大臣 伯爵 陸奥宗光
内務大臣 芳川顕正
法律第七十号
移民保護法
第一章 移民
第一条 本法ニ於テ移民ト称スルハ労働ニ従事スルノ目的ヲ以テ外国ニ渡航スル者及其ノ家族ニシテ之ト同行シ又ハ其ノ所在地ニ渡航スル者ヲ謂フ
前項労働ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二条 移民ハ行政庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外国ニ渡航スルコトヲ得ス
渡航ノ許可ハ其ノ許可ノ日ヨリ六箇月以内ニ出発セサルトキハ効力ヲ失フモノトス
第三条 行政庁ハ渡航スヘキ地ノ情況ニ因リ移民取扱人ニ依ラサル移民ヲシテ適当ト認ムル二人以上ノ保証人ヲ定メシムルコトヲ得
保証人ハ移民ノ疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ之ヲ救助シ若ハ帰国セシムヘシ又行政庁ニ於テ移民ヲ救助シ若ハ帰国セシメタルトキハ其ノ費用ヲ弁償スヘシ
第四条 行政庁ハ移民保護ノ為若ハ公安保持ノ為又ハ外交上必要ト認ムルトキハ移民ノ渡航ヲ差止メ又ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
渡航差止中ノ日数ハ第二条第二項ノ期間ニ算入セス
第二章 移民取扱人
第五条 本法ニ於テ移民取扱人ト称スルハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ヲ周旋スルヲ以テ営業ト為ス者ヲ謂フ
第六条 移民取扱人タラムト欲スル者ハ行政庁ノ許可ヲ受クヘシ
移民取扱人ノ許可ハ其ノ許可ノ日ヨリ六箇月以内ニ営業ヲ開始セサルトキハ効力ヲ失フモノトス
第七条 帝国臣民又ハ帝国臣民ノミヲ社員若ハ株主トスル商事会社ニシテ帝国ニ於テ主タル営業所ヲ有スルモノニ非サレハ移民取扱人タルコトヲ得ス
前項ノ外移民取扱人ニ要スル資格ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第八条 行政庁ハ移民取扱人ノ行為法律命令ニ違反シタルトキ若ハ公安ヲ害スルモノト認ムルトキ又ハ移民取扱人保証金ノ納付ヲ遅滞シタルトキハ其ノ営業ヲ停止シ又ハ営業ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第九条 移民取扱人ハ営業ヲ停止セラレ又ハ休業シタルトキト雖既ニ渡航セシメタル移民ニ対シ契約ノ履行ヲ中止スルコトヲ得ス
第十条 移民取扱人代理人ヲ定メ其ノ業務ヲ行ハシムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政庁ノ許可ヲ受クヘシ
第十一条 移民取扱人ハ業務担当社員若ハ取締役又ハ代理人ヲ在留セシメサル地ニ移民ヲ渡航セシムルコトヲ得ス
第十二条 移民取扱人ハ移民トシテ渡航スル者ニ非サレハ其ノ周旋又ハ募集ヲ為スコトヲ得ス
第十三条 移民取扱人渡航ノ周旋又ハ募集ヲ為ストキハ移民ト書面契約ヲ為シ行政庁ノ認可ヲ受クヘシ
前項契約ニ必要ナル条件ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十四条 移民取扱人ハ前条認可ヲ受ケタル書面契約ニ定ムル所ノ渡航周旋料若ハ手数料ノ外何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス移民ヨリ金銭又ハ物品ヲ受クルコトヲ得ス
第十五条 移民取扱人移民ヲ募集スルトキハ出発セシムヘキ期日ヲ予定シテ之ヲ示スヘシ移民取扱人正当ノ理由ナクシテ予定ノ期日内ニ移民ヲ出発セシメサルトキハ其ノ出発延期ノ為ニ生スル移民ノ費用ヲ負担スヘシ
第三章 保証金
第十六条 移民取扱人ハ行政庁ニ保証金ヲ納付シタル後ニ非サレハ其ノ営業ヲ開始スルコトヲ得ス
保証金額ハ一万円以上トシ行政庁之ヲ定ム
第十七条 行政庁ハ必要ト認ムルトキハ保証金額ヲ増減スルコトヲ得但シ前条ノ金額以下ニ下スコトヲ得ス
第十八条 行政庁ニ於テ移民取扱人移民ニ対シ契約ヲ履行セスト認メタルトキハ保証金ヨリ其ノ費用ヲ支出シテ移民ヲ救助シ又ハ帰国セシムルコトヲ得
第十九条 移民取扱人死亡、解散、営業許可ノ取消又ハ其ノ他ノ理由ニ依リ営業ヲ廃止スルモ保証金ハ行政庁ニ於テ領置ノ必要アリト認ムル間ハ其ノ全部又ハ一部ヲ還付セサルコトヲ得
第二十条 移民取扱人営業中及前条行政庁ニ於テ保証金領置ノ必要アリト認ムル間ハ移民又ハ其ノ相続人カ本法ニ従ヒタル契約ニ基キ権利ヲ執行スル場合ノ外何人ト雖保証金ニ対シテ債権取立ヲ為スコトヲ得ス
第四章 罰則
第二十一条 渡航ノ許可ヲ受ケス又ハ渡航地ヲ詐リテ許可ヲ受ケ又ハ渡航差止命令ニ違反シテ渡航シタル移民ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十二条 法律命令ニ違反シタル移民ノ渡航ヲ周旋シ又ハ渡航差止中ニ移民ヲ渡航セシメタル移民取扱人及代理人ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第二十三条 行政庁ノ許可ヲ受ケスシテ移民取扱人ノ行為ヲ為シタル者又ハ営業停止中ニ移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ為シタル移民取扱人及代理人ハ二百円以上千円以下ノ罰金ニ処ス
第二十四条 移民取扱人行政庁ノ許可ヲ受ケサル代理人ヲシテ其ノ行為ヲ為サシメタルトキハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス其ノ行為ヲ為シタル代理人亦同シ
第二十五条 第十一条、第十二条、第十三条、第十四条及第十六条第一項ニ違反シタル移民取扱人及代理人ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第二十六条 誘惑ノ手段ヲ以テ移民ヲ募集シ若ハ渡航ノ周旋ヲナシタル移民取扱人及代理人ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処ス
第二十七条 本法ノ罰則ハ商事会社ニ在テハ其ノ各条ニ掲クル行為ヲ為シタル業務担当社員又ハ取締役ニ之ヲ適用ス
第五章 附則
第二十八条 本法施行以前ヨリ当該官庁ノ許可ヲ受ケ営業スル移民取扱人ハ本法施行ノ際別ニ許可ヲ受クルヲ要セス本法ノ規程ニ依リ其ノ営業ヲ継続スルコトヲ得但シ其ノ営業ヲ継続セサルトキト雖其ノ既ニ納付シタル保証金ニ対シテハ仍本法ノ規程ヲ適用ス
第二十九条 本法ハ帝国ト締結シタル特別ノ条約ニ基キ渡航スル移民及其ノ取扱人ニ適用セス
第三十条 本法施行ノ為ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十一条 本法ハ明治二十九年六月一日ヨリ施行ス
明治二十七年勅令第四十二号移民保護規則ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス