移民保護規則
法令番号: 勅令第四十二號
公布年月日: 明治27年4月13日
法令の形式: 勅令
朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ移民保護規則ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十七年四月十二日
內務大臣 伯爵 井上馨
外務大臣 陸奧宗光
勅令第四十二號
移民保護規則
第一條 本令ニ於テ移民ト稱スルハ勞働ヲ目的トシテ外國ニ渡航スル者ヲ謂ヒ移民取扱人ト稱スルハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民ヲ募集シ又ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルヲ以テ營業トナス者ヲ謂フ
前項勞働ノ種類ハ外務大臣內務大臣協議シテ之ヲ定ム
第二條 移民ハ旅券ヲ携帶スヘシ
第三條 移民ニシテ帝國ト條約ヲ締結セサル國ノ領地ニ移住セントスル者又ハ移住スヘキ地ノ國法ニ違反シテ移住セントスル者ニハ旅券ヲ下付セサルコトヲ得
第四條 移住スヘキ地ノ情況ニ因リ必要ト認ムルトキハ旅券ヲ下付スルニ方リ移民取扱人ニ依ラサル移民ヲシテ二人以上ノ身元引受人ヲ定メシムルコトヲ得
身元引受人ハ疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ移民ヲ救助シ又ハ歸國セシムルノ資力アリト地方長官ニ於テ認メタル者ニ限ル
第五條 移民取扱人タラント欲スル者ハ地方長官ヲ經由シ內務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
第六條 移民取扱人ハ地方長官ニ保證金ヲ納メタル後ニアラサレハ移民ヲ募集シ又ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルコトヲ得ス
第七條 前條ニ揭クル保證金ハ一萬圓以上トシ地方長官內務大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ定ム
第八條 移民取扱人ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルニ當リ移民トノ間ニ書面契約ヲ爲スヘシ
前項契約ニ關スル條件ハ豫メ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ
第九條 前條ノ條件中ニハ左ノ事項ヲ具フルコトヲ要ス
一 契約期限
二 渡航周旋料
三 疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ救助又ハ歸國ノ手續
第十條 移民取扱人又ハ代理人ハ渡航周旋料ノ外何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス移民ヨリ手數料ヲ受クルコトヲ得ス
第十一條 移民取扱人ハ其ノ取扱ニ係ル移民ノ旅券願書ニ連署スヘシ
既ニ旅券ヲ受ケタル移民ヲ取扱フトキハ旅券ヲ下付シタル官廳ニ旅券ヲ添ヘ其ノ旨ヲ申出テ證認ヲ受クヘシ
第十二條 移民取扱人又ハ代理人ハ移民トシテ渡航スル者ニアラサレハ其ノ周旋又ハ募集ヲ爲スコトヲ得ス
第十三條 移民取扱人ハ他人ヲシテ其ノ業務ヲ代理セシムルトキハ地方長官ニ豫メ其ノ人名ヲ申出テ認可ヲ受クヘシ
第十四條 移民取扱人ニシテ法律命令ニ違反シテ其ノ營業ヲ爲シ又ハ保證金ノ塡補ヲ遲滯シ又ハ其ノ行爲公安若クハ風俗ヲ害スル者ト認ムルトキハ內務大臣ハ其ノ營業ヲ停止シ又ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第十五條 移民ニシテ外國ニ在ル帝國官廳ノ保護ヲ出願スルノ必要アルトキハ旅券ヲ差出シテ其ノ身元ヲ證明スヘシ移民取扱人ニ依リタルトキハ移民取扱人トノ契約書ヲモ差出スヘシ
第十六條 移住地又ハ移住地ニ於テ執ルヘキ業務ヲ詐リ旅券ヲ受ケタル者及旅券ヲ携帶セスシテ渡航シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第十七條 移民取扱人ニシテ第六條第八條第十一條及第十三條ニ違反シタルトキ又ハ本令ニ違反シタル移民ナルコトヲ知リテ其ノ周旋若クハ募集ヲ爲シタルトキハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ場合ニ於テ既ニ渡航シタル者アルトキハ五十圓以上百五十圓以下ノ罰金ニ處ス
移民取扱人又ハ代理人ニシテ第十條及第十二條ニ違反シタルトキハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十八條 何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民取扱人タルノ許可ヲ受ケス若クハ營業停止中ニ移民ノ募集又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ爲シタル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
移民取扱人又ハ代理人ニシテ誘惑ノ手段ヲ以テ移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ爲シタル者ハ前項ノ罰金ニ處ス
第十九條 前二條ハ商事會社ニ在リテハ其ノ各條ニ揭クル所爲ヲ爲シタル業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ニ之ヲ適用ス
附 則
第二十條 本令施行前ヨリ官廳ノ公認ヲ經テ移民取扱ノ營業ヲ爲ス者ハ本令施行ノ日ヨリ三箇月間ハ第五條及第六條ノ規程ニ拘ラス其ノ營業ヲ繼續スルコトヲ得
前項ノ營業者ニシテ前項ノ期間後仍其ノ營業ヲ繼續セントスル者ハ同期間內ニ本令ニ依リ更ニ許可ヲ受クヘシ
第二十一條 本令ハ帝國ト締結シタル特別條約ニ基キ渡航スル者及其ノ取扱人ニ適用スルノ限ニアラス
第二十二條 本令施行ノ爲メ必要ナル細則ハ外務大臣內務大臣協議シテ之ヲ定ム
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ移民保護規則ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十七年四月十二日
内務大臣 伯爵 井上馨
外務大臣 陸奥宗光
勅令第四十二号
移民保護規則
第一条 本令ニ於テ移民ト称スルハ労働ヲ目的トシテ外国ニ渡航スル者ヲ謂ヒ移民取扱人ト称スルハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民ヲ募集シ又ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルヲ以テ営業トナス者ヲ謂フ
前項労働ノ種類ハ外務大臣内務大臣協議シテ之ヲ定ム
第二条 移民ハ旅券ヲ携帯スヘシ
第三条 移民ニシテ帝国ト条約ヲ締結セサル国ノ領地ニ移住セントスル者又ハ移住スヘキ地ノ国法ニ違反シテ移住セントスル者ニハ旅券ヲ下付セサルコトヲ得
第四条 移住スヘキ地ノ情況ニ因リ必要ト認ムルトキハ旅券ヲ下付スルニ方リ移民取扱人ニ依ラサル移民ヲシテ二人以上ノ身元引受人ヲ定メシムルコトヲ得
身元引受人ハ疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ移民ヲ救助シ又ハ帰国セシムルノ資力アリト地方長官ニ於テ認メタル者ニ限ル
第五条 移民取扱人タラント欲スル者ハ地方長官ヲ経由シ内務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
第六条 移民取扱人ハ地方長官ニ保証金ヲ納メタル後ニアラサレハ移民ヲ募集シ又ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルコトヲ得ス
第七条 前条ニ掲クル保証金ハ一万円以上トシ地方長官内務大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ定ム
第八条 移民取扱人ハ移民ノ渡航ヲ周旋スルニ当リ移民トノ間ニ書面契約ヲ為スヘシ
前項契約ニ関スル条件ハ予メ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ
第九条 前条ノ条件中ニハ左ノ事項ヲ具フルコトヲ要ス
一 契約期限
二 渡航周旋料
三 疾病其ノ他困難ノ場合ニ於テ救助又ハ帰国ノ手続
第十条 移民取扱人又ハ代理人ハ渡航周旋料ノ外何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス移民ヨリ手数料ヲ受クルコトヲ得ス
第十一条 移民取扱人ハ其ノ取扱ニ係ル移民ノ旅券願書ニ連署スヘシ
既ニ旅券ヲ受ケタル移民ヲ取扱フトキハ旅券ヲ下付シタル官庁ニ旅券ヲ添ヘ其ノ旨ヲ申出テ証認ヲ受クヘシ
第十二条 移民取扱人又ハ代理人ハ移民トシテ渡航スル者ニアラサレハ其ノ周旋又ハ募集ヲ為スコトヲ得ス
第十三条 移民取扱人ハ他人ヲシテ其ノ業務ヲ代理セシムルトキハ地方長官ニ予メ其ノ人名ヲ申出テ認可ヲ受クヘシ
第十四条 移民取扱人ニシテ法律命令ニ違反シテ其ノ営業ヲ為シ又ハ保証金ノ填補ヲ遅滞シ又ハ其ノ行為公安若クハ風俗ヲ害スル者ト認ムルトキハ内務大臣ハ其ノ営業ヲ停止シ又ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第十五条 移民ニシテ外国ニ在ル帝国官庁ノ保護ヲ出願スルノ必要アルトキハ旅券ヲ差出シテ其ノ身元ヲ証明スヘシ移民取扱人ニ依リタルトキハ移民取扱人トノ契約書ヲモ差出スヘシ
第十六条 移住地又ハ移住地ニ於テ執ルヘキ業務ヲ詐リ旅券ヲ受ケタル者及旅券ヲ携帯セスシテ渡航シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第十七条 移民取扱人ニシテ第六条第八条第十一条及第十三条ニ違反シタルトキ又ハ本令ニ違反シタル移民ナルコトヲ知リテ其ノ周旋若クハ募集ヲ為シタルトキハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ場合ニ於テ既ニ渡航シタル者アルトキハ五十円以上百五十円以下ノ罰金ニ処ス
移民取扱人又ハ代理人ニシテ第十条及第十二条ニ違反シタルトキハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第十八条 何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス移民取扱人タルノ許可ヲ受ケス若クハ営業停止中ニ移民ノ募集又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ為シタル者ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
移民取扱人又ハ代理人ニシテ誘惑ノ手段ヲ以テ移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ為シタル者ハ前項ノ罰金ニ処ス
第十九条 前二条ハ商事会社ニ在リテハ其ノ各条ニ掲クル所為ヲ為シタル業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ニ之ヲ適用ス
附 則
第二十条 本令施行前ヨリ官庁ノ公認ヲ経テ移民取扱ノ営業ヲ為ス者ハ本令施行ノ日ヨリ三箇月間ハ第五条及第六条ノ規程ニ拘ラス其ノ営業ヲ継続スルコトヲ得
前項ノ営業者ニシテ前項ノ期間後仍其ノ営業ヲ継続セントスル者ハ同期間内ニ本令ニ依リ更ニ許可ヲ受クヘシ
第二十一条 本令ハ帝国ト締結シタル特別条約ニ基キ渡航スル者及其ノ取扱人ニ適用スルノ限ニアラス
第二十二条 本令施行ノ為メ必要ナル細則ハ外務大臣内務大臣協議シテ之ヲ定ム