朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル狩獵法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月二十日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 子爵 榎本武揚
法律第二十號
狩獵法
第一章 獵具獵法
第一條 此ノ法律ニ於テ狩獵ト稱スルハ銃器、各種ノ網、放鷹、黐繩又ハ擌ヲ以テ鳥獸ヲ捕獲スルヲ謂フ
前項各獵具ノ種類及制限ハ農商務大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二條 爆發物、据銃若ハ危險ナル罠及陷穽ヲ以テ鳥獸ヲ捕獲スルコトヲ得ス
前項ノ外ノ獵具獵法ニシテ第一條ニ揭ケサルモノニ就テハ地方長官東京府下ハ警視總監以下傚之ハ農商務大臣ノ認可ヲ經テ便宜取締規則ヲ設クルコトヲ得
第三條 日出前、日沒後又ハ市街、人家稠密ノ場所、衆人群集ノ場所ニ於テ若ハ銃丸ノ達スヘキ虞アル建物、船舶、汽車ニ向テ銃獵ヲ爲スコトヲ得ス
第四條 左ニ揭クル場所ニ於テハ狩獵ヲ爲スコトヲ得ス
一 御獵場
二 禁獵制札アル場所
三 公道
四 公園
五 社寺境內
六 墓地
七 欄、柵、圍障又ハ作物植付アル他人ノ所有地及免許ヲ受ケタル他人ノ共同狩獵地但シ所有者又ハ管理人ノ承諾ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五條 地方長官ハ土地所有者ノ出願又ハ其ノ他ノ理由ニ因リ必要ト認ムル場合ニ於テハ禁獵制札ヲ建ツルコトヲ得
第二章 狩獵免許
第六條 狩獵ヲ爲サムト欲スル者ハ地方長官ニ願出テ免狀ヲ受クヘシ但シ欄、柵、圍障アル所有地內ニ於テ銃器ヲ使用セスシテ狩獵ヲ爲ス者ハ此ノ限ニ在ラス
第二十一條ノ處罰ヲ受ケタル者ハ滿一箇年ヲ經過セサレハ再ヒ免狀ヲ受クルコトヲ得ス
第七條 從來地方ノ慣行ニ依リ一定ノ區域內ニ於テ共同狩獵ヲ爲ス者ハ地方長官ヲ經由シテ農商務大臣ニ願出テ免許ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ出願ニ關スル規則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第八條 免狀ヲ分チテ甲乙ノ二種トス
甲種免狀ハ銃器ヲ使用セスシテ狩獵ヲ爲ス者ニ下付シ乙種免狀ハ銃器ヲ使用シテ狩獵ヲ爲ス者ニ下付スルモノトス
第九條 免狀ヲ受クル者ハ左ノ區別ニ從ヒ免許稅ヲ納ムヘシ
一等 所得稅十五圓以上若ハ地租二百圓以上納ムル者
甲種金五圓
乙種金十圓
二等 所得稅三圓以上若ハ地租四十圓以上納ムル者又ハ一等ニ相當スル者ノ家族
甲種金一圓五十錢
乙種金三圓
三等 一等二等以外ノ者
甲種金五十錢
乙種金一圓
第十條 甲種免狀ノ有效期限ハ十月十五日ヨリ滿一箇年トシ乙種免狀ノ有效期限ハ十月十五日ヨリ翌年四月十五日マテトス
地方長官ハ土地ノ狀況ニ因リ農商務大臣ノ認可ヲ經テ前項ノ期限ヲ三十日以內伸縮スルコトヲ得
第十一條 免狀ノ使用ハ本人ニ限ルモノトス但シ助手ヲ要スル獵法ニアリテハ免狀ヲ有セサル者ヲ同伴スルコトヲ得
第十二條 獵者ハ出獵ノ際免狀ヲ携帶スヘシ
警察官、憲兵、森林官及市町村長ハ獵者ノ免狀ヲ檢査スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ獵者ハ免狀ノ檢査ヲ拒ムコトヲ得ス
第十三條 免狀ヲ亡失シタルトキハ其ノ地ノ所轄警察官署及當初之ヲ下付シタル官廳ニ屆出ヘシ
免狀ヲ亡失シ若ハ毀損シタルトキハ其ノ再渡又ハ書換ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ手數料金二十五錢ヲ納ムヘシ
第十四條 十六歲未滿ノ者ハ乙種免狀ヲ受クルコトヲ得ス
第十五條 免狀ハ其ノ效力ヲ失ヒタル日ヨリ三十日以內ニ當初之ヲ下付シタル官廳ニ返納スヘシ
第十六條 遊步規程ノ制限アル外國人ニシテ狩獵免狀ヲ受クル者ハ甲種金五圓乙種金十圓ノ免許稅ヲ納メ其ノ規程內ニ限リ狩獵スルコトヲ得若其ノ規程外ニ於テ狩獵シタルトキハ該免狀ハ爾後無效ノモノトス
第三章 鳥獸保護
第十七條 保護ヲ必要トスル鳥獸ヲ捕獲シ又ハ之ヲ販賣スルコトヲ禁ス但シ捕獲ノ禁止又ハ停止以前ニ於テ捕獲シタル鳥獸ハ其ノ禁止又ハ停止ノ日ヨリ二週間以內ニ於テ販賣スルハ此ノ限ニ在ラス
飼養ニ係ル保護鳥獸ハ前項期日後ト雖農商務大臣定ムル所ノ規則ニ依リ販賣スルコトヲ得
捕獲ヲ禁止シ又ハ停止スヘキ保護鳥獸ノ種類及期限ハ農商務大臣之ヲ定ム
第十八條 捕獲ヲ禁スル鳥類ノ卵又ハ雛ヲ取リ若ハ之ヲ販賣スルコトヲ禁ス
第十九條 捕獲ヲ禁スル鳥獸ト雖學術硏究其ノ他特別ノ理由ニ因リ捕獲ヲ要スルトキハ地方長官ハ特ニ其ノ許可ヲ與フルコトヲ得
有害鳥獸ヲ驅除スル爲必要ト認ムル場合ニ於テモ亦同シ
第四章 罰則
第二十條 第六條第一項ニ違背シテ狩獵ヲ爲シ又ハ第十四條ニ違背シテ乙種免狀ヲ受ケタル者ハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處シ第九條ニ違背シテ免狀ヲ受ケタル者ハ七圓以上七十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十一條 第二條第一項、第三條、第四條第一乃至第六ニ違背シタル者ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ處罰ヲ受ケタル者ノ免狀ハ其ノ效力ヲ失フモノトス
第二十二條 第四條第七、第十二條第三項、第十七條第一項、第十八條ニ違背シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス但シ第四條第七ニ付テハ土地所有者又ハ管理人ノ吿訴ヲ待テ處斷ス
第二十三條 第十二條第一項、第十三條第一項、第十五條ニ違背シタル者ハ一圓以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
附 則
第二十四條 狩獵ニ關スル從前ノ規則ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス
此ノ法律施行以前設定ノ免許ヲ受ケタル獵區ハ其ノ免許期限間效力ヲ有スルモノトス
第二十五條 此ノ法律施行以前免狀ヲ受ケタル者ハ更ニ免狀ノ下付ヲ要セス引續キ狩獵ヲ爲スコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル狩猟法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月二十日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 子爵 榎本武揚
法律第二十号
狩猟法
第一章 猟具猟法
第一条 此ノ法律ニ於テ狩猟ト称スルハ銃器、各種ノ網、放鷹、黐縄又ハ擌ヲ以テ鳥獣ヲ捕獲スルヲ謂フ
前項各猟具ノ種類及制限ハ農商務大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二条 爆発物、据銃若ハ危険ナル罠及陥穽ヲ以テ鳥獣ヲ捕獲スルコトヲ得ス
前項ノ外ノ猟具猟法ニシテ第一条ニ掲ケサルモノニ就テハ地方長官東京府下ハ警視総監以下倣之ハ農商務大臣ノ認可ヲ経テ便宜取締規則ヲ設クルコトヲ得
第三条 日出前、日没後又ハ市街、人家稠密ノ場所、衆人群集ノ場所ニ於テ若ハ銃丸ノ達スヘキ虞アル建物、船舶、汽車ニ向テ銃猟ヲ為スコトヲ得ス
第四条 左ニ掲クル場所ニ於テハ狩猟ヲ為スコトヲ得ス
一 御猟場
二 禁猟制札アル場所
三 公道
四 公園
五 社寺境内
六 墓地
七 欄、柵、囲障又ハ作物植付アル他人ノ所有地及免許ヲ受ケタル他人ノ共同狩猟地但シ所有者又ハ管理人ノ承諾ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五条 地方長官ハ土地所有者ノ出願又ハ其ノ他ノ理由ニ因リ必要ト認ムル場合ニ於テハ禁猟制札ヲ建ツルコトヲ得
第二章 狩猟免許
第六条 狩猟ヲ為サムト欲スル者ハ地方長官ニ願出テ免状ヲ受クヘシ但シ欄、柵、囲障アル所有地内ニ於テ銃器ヲ使用セスシテ狩猟ヲ為ス者ハ此ノ限ニ在ラス
第二十一条ノ処罰ヲ受ケタル者ハ満一箇年ヲ経過セサレハ再ヒ免状ヲ受クルコトヲ得ス
第七条 従来地方ノ慣行ニ依リ一定ノ区域内ニ於テ共同狩猟ヲ為ス者ハ地方長官ヲ経由シテ農商務大臣ニ願出テ免許ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ出願ニ関スル規則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第八条 免状ヲ分チテ甲乙ノ二種トス
甲種免状ハ銃器ヲ使用セスシテ狩猟ヲ為ス者ニ下付シ乙種免状ハ銃器ヲ使用シテ狩猟ヲ為ス者ニ下付スルモノトス
第九条 免状ヲ受クル者ハ左ノ区別ニ従ヒ免許税ヲ納ムヘシ
一等 所得税十五円以上若ハ地租二百円以上納ムル者
甲種金五円
乙種金十円
二等 所得税三円以上若ハ地租四十円以上納ムル者又ハ一等ニ相当スル者ノ家族
甲種金一円五十銭
乙種金三円
三等 一等二等以外ノ者
甲種金五十銭
乙種金一円
第十条 甲種免状ノ有効期限ハ十月十五日ヨリ満一箇年トシ乙種免状ノ有効期限ハ十月十五日ヨリ翌年四月十五日マテトス
地方長官ハ土地ノ状況ニ因リ農商務大臣ノ認可ヲ経テ前項ノ期限ヲ三十日以内伸縮スルコトヲ得
第十一条 免状ノ使用ハ本人ニ限ルモノトス但シ助手ヲ要スル猟法ニアリテハ免状ヲ有セサル者ヲ同伴スルコトヲ得
第十二条 猟者ハ出猟ノ際免状ヲ携帯スヘシ
警察官、憲兵、森林官及市町村長ハ猟者ノ免状ヲ検査スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ猟者ハ免状ノ検査ヲ拒ムコトヲ得ス
第十三条 免状ヲ亡失シタルトキハ其ノ地ノ所轄警察官署及当初之ヲ下付シタル官庁ニ届出ヘシ
免状ヲ亡失シ若ハ毀損シタルトキハ其ノ再渡又ハ書換ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ手数料金二十五銭ヲ納ムヘシ
第十四条 十六歳未満ノ者ハ乙種免状ヲ受クルコトヲ得ス
第十五条 免状ハ其ノ効力ヲ失ヒタル日ヨリ三十日以内ニ当初之ヲ下付シタル官庁ニ返納スヘシ
第十六条 遊歩規程ノ制限アル外国人ニシテ狩猟免状ヲ受クル者ハ甲種金五円乙種金十円ノ免許税ヲ納メ其ノ規程内ニ限リ狩猟スルコトヲ得若其ノ規程外ニ於テ狩猟シタルトキハ該免状ハ爾後無効ノモノトス
第三章 鳥獣保護
第十七条 保護ヲ必要トスル鳥獣ヲ捕獲シ又ハ之ヲ販売スルコトヲ禁ス但シ捕獲ノ禁止又ハ停止以前ニ於テ捕獲シタル鳥獣ハ其ノ禁止又ハ停止ノ日ヨリ二週間以内ニ於テ販売スルハ此ノ限ニ在ラス
飼養ニ係ル保護鳥獣ハ前項期日後ト雖農商務大臣定ムル所ノ規則ニ依リ販売スルコトヲ得
捕獲ヲ禁止シ又ハ停止スヘキ保護鳥獣ノ種類及期限ハ農商務大臣之ヲ定ム
第十八条 捕獲ヲ禁スル鳥類ノ卵又ハ雛ヲ取リ若ハ之ヲ販売スルコトヲ禁ス
第十九条 捕獲ヲ禁スル鳥獣ト雖学術研究其ノ他特別ノ理由ニ因リ捕獲ヲ要スルトキハ地方長官ハ特ニ其ノ許可ヲ与フルコトヲ得
有害鳥獣ヲ駆除スル為必要ト認ムル場合ニ於テモ亦同シ
第四章 罰則
第二十条 第六条第一項ニ違背シテ狩猟ヲ為シ又ハ第十四条ニ違背シテ乙種免状ヲ受ケタル者ハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処シ第九条ニ違背シテ免状ヲ受ケタル者ハ七円以上七十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十一条 第二条第一項、第三条、第四条第一乃至第六ニ違背シタル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ処罰ヲ受ケタル者ノ免状ハ其ノ効力ヲ失フモノトス
第二十二条 第四条第七、第十二条第三項、第十七条第一項、第十八条ニ違背シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス但シ第四条第七ニ付テハ土地所有者又ハ管理人ノ告訴ヲ待テ処断ス
第二十三条 第十二条第一項、第十三条第一項、第十五条ニ違背シタル者ハ一円以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
附 則
第二十四条 狩猟ニ関スル従前ノ規則ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス
此ノ法律施行以前設定ノ免許ヲ受ケタル猟区ハ其ノ免許期限間効力ヲ有スルモノトス
第二十五条 此ノ法律施行以前免状ヲ受ケタル者ハ更ニ免状ノ下付ヲ要セス引続キ狩猟ヲ為スコトヲ得