国税徴収法
法令番号: 法律第九號
公布年月日: 明治22年3月14日
法令の形式: 法律
朕國稅徵收法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年三月十三日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第九號
國稅徵收法
第一章 總則
第一條 國稅ハ關稅ヲ除ク外總テ此法律ニ據テ之ヲ徵收ス
第二條 市町村ハ其市町村內ノ地租ヲ徵收シ之ヲ金庫ニ納付スルノ義務アルモノトス
前項ノ事務ニ關スル費用ハ市町村ノ負擔トス
第三條 其他ノ國稅ハ勅令ヲ以テ命スルトキハ前條ノ例ニ依ル
前項ノ場合ニ於テハ徵收金額ノ百分ノ四ヲ其市町村ニ交付スヘシ
第四條 市町村ハ過誤怠慢ニ依リ其徵收シタル稅金ヲ亡失シタルトキハ之ヲ辨償スルノ責ニ任スヘシ
第五條 市町村ハ避クヘカラサル變災ニ罹リ其徵收シタル稅金ヲ亡失シタルトキハ府縣知事ヲ經テ其責任ノ免除ヲ大藏大臣ニ訴願スルコトヲ得
第六條 納稅人納期限ヲ過キ國稅ヲ完納セサルトキハ別ニ定ムル所ノ法律ニ據リ之ヲ處分ス
第七條 國稅納期ノ末日日曜日又ハ大祭日祝日ニ當ルトキハ其翌日ヲ以テ納期ノ末日トス
第二章 徵收
第八條 地租及勅令ニ依リ市町村ニ於テ徵收スヘキ國稅ヲ徵收スルトキハ府縣知事ハ市ニ郡長ハ町村ニ對シ徵稅令書ヲ發スヘシ
前項外ノ國稅ヲ徵收スルトキハ市ニ於テハ府縣知事町村ニ於テハ郡長ヨリ各納稅人ニ對シ徵稅令書ヲ發スヘシ
第九條 市町村長ハ徵稅令書ニ據リ徵稅傳令書ヲ調製シ之ヲ各納稅人ニ發スヘシ
第十條 納期アルモノハ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外該納期ノ十五日以前納期數日ニ涉ルモノハ初日ノ十五日以前ヲ云フ隨時收入ニ係ルモノハ其納期日ヲ定メ徵稅令書若クハ徵稅傳令書ヲ發スヘシ
第十一條 第八條第一項ノ場合ニ於テハ各納稅人ハ稅金ヲ市町村收入役ニ拂込ミ其領收證ニ市町村長ノ檢印ヲ得テ納稅ノ義務ヲ了ルモノトス但町村會ノ議決ヲ以テ町村長ニ收入役ノ事務ヲ委任スルコトヲ得
第八條第二項ノ場合ニ於テハ各納稅人ハ稅金ヲ金庫ニ拂込ミ其別符附領收證ヲ得之ヲ收入官吏ニ差出シ其別符ノ切離及領收證ノ檢印ヲ得テ其納稅義務ヲ了ルモノトス
第十二條 市町村長ハ市町村收入役ニ於テ受領シタル稅金ヲ受取之ヲ金庫ニ拂込ミ其別符附領收證ヲ得之ヲ收入官吏ニ差出シ其別符ノ切離及領收證ノ檢印ヲ得テ其義務ヲ了ルモノトス
第十三條 市町村長ハ納期限ヲ過キ稅金ヲ完納セサル者アルトキハ其滯納ノ稅目金額及滯納人ノ住所氏名ヲ記載シ之ヲ收入官吏ニ報吿スヘシ
第十四條 納稅人他ノ負債ニ依リ身代限リノ處分ヲ受ルトキ其既ニ徵稅令書ヲ發シタルモノアルトキハ未タ其納期ニ至ラサルモ他ノ債主ニ先チ其稅金ヲ徵收スヘシ
前項ノ場合ニ於テ酒類醬油造石稅ニ限リ其課額既ニ定リタル稅金ハ未タ其納期ニ至ラサルモ他ノ債主ニ先チ之ヲ徵收スヘシ
第十五條 前條ノ場合ニ於テ負債ノ抵償物件中徵收ヲ要スル稅金ノ納期限ヨリ一箇年前ニ質入書入ト爲シタルモノアルトキハ其賣却代金ヨリ先ツ其負債金額ニ充テタル後稅金ヲ徵收スヘシ
第十六條 地方稅備荒儲蓄金市町村稅ヲ滯納シタル爲メ滯納者ノ財產ヲ賣却シタル場合ニ於テ既ニ徵稅令書ヲ發シタルモノアルトキハ國稅ヲ先取スヘシ
第三章 期滿免除
第十七條 徵稅令書若クハ徵稅傳令書ヲ發セスシテ納期限ノ翌日ヨリ起算シ滿三年ヲ經過スルトキハ納稅人ハ其義務ヲ免ルヽモノトス
第十八條 納稅人法律命令ヲ犯シ脫稅ヲナシタル場合ニ於テ其公訴ノ期滿免除ト爲ルトキハ其脫稅金ノ追徵モ亦同時ニ免ルヽモノトス
第十九條 國稅期滿免除ノ期限內ニ於テ徵稅令書若クハ徵稅傳令書ヲ發シタルトキハ期限ノ經過ヲ中斷スルモノトス
期滿免除ノ期限ノ經過ヲ中斷シタルトキハ更ニ其翌日ヨリ期限ヲ起算スヘシ但前後ノ日數ヲ通算シ滿五年ヲ過ルコトヲ得ス
第四章 附則
第二十條 市制町村制ノ施行ニ至ラサル地方ニ於テハ此法律ニ據リ市町村ノ爲スヘキ職務ハ區戶長ニ於テ之ヲ行フヘシ
第二十一條 此法律ハ明治二十二年四月一日ヨリ施行ス但沖繩縣及東京府管轄小笠原島伊豆七島ニハ當分之ヲ施行セス
朕国税徴収法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年三月十三日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第九号
国税徴収法
第一章 総則
第一条 国税ハ関税ヲ除ク外総テ此法律ニ拠テ之ヲ徴収ス
第二条 市町村ハ其市町村内ノ地租ヲ徴収シ之ヲ金庫ニ納付スルノ義務アルモノトス
前項ノ事務ニ関スル費用ハ市町村ノ負担トス
第三条 其他ノ国税ハ勅令ヲ以テ命スルトキハ前条ノ例ニ依ル
前項ノ場合ニ於テハ徴収金額ノ百分ノ四ヲ其市町村ニ交付スヘシ
第四条 市町村ハ過誤怠慢ニ依リ其徴収シタル税金ヲ亡失シタルトキハ之ヲ弁償スルノ責ニ任スヘシ
第五条 市町村ハ避クヘカラサル変災ニ罹リ其徴収シタル税金ヲ亡失シタルトキハ府県知事ヲ経テ其責任ノ免除ヲ大蔵大臣ニ訴願スルコトヲ得
第六条 納税人納期限ヲ過キ国税ヲ完納セサルトキハ別ニ定ムル所ノ法律ニ拠リ之ヲ処分ス
第七条 国税納期ノ末日日曜日又ハ大祭日祝日ニ当ルトキハ其翌日ヲ以テ納期ノ末日トス
第二章 徴収
第八条 地租及勅令ニ依リ市町村ニ於テ徴収スヘキ国税ヲ徴収スルトキハ府県知事ハ市ニ郡長ハ町村ニ対シ徴税令書ヲ発スヘシ
前項外ノ国税ヲ徴収スルトキハ市ニ於テハ府県知事町村ニ於テハ郡長ヨリ各納税人ニ対シ徴税令書ヲ発スヘシ
第九条 市町村長ハ徴税令書ニ拠リ徴税伝令書ヲ調製シ之ヲ各納税人ニ発スヘシ
第十条 納期アルモノハ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外該納期ノ十五日以前納期数日ニ渉ルモノハ初日ノ十五日以前ヲ云フ随時収入ニ係ルモノハ其納期日ヲ定メ徴税令書若クハ徴税伝令書ヲ発スヘシ
第十一条 第八条第一項ノ場合ニ於テハ各納税人ハ税金ヲ市町村収入役ニ払込ミ其領収証ニ市町村長ノ検印ヲ得テ納税ノ義務ヲ了ルモノトス但町村会ノ議決ヲ以テ町村長ニ収入役ノ事務ヲ委任スルコトヲ得
第八条第二項ノ場合ニ於テハ各納税人ハ税金ヲ金庫ニ払込ミ其別符附領収証ヲ得之ヲ収入官吏ニ差出シ其別符ノ切離及領収証ノ検印ヲ得テ其納税義務ヲ了ルモノトス
第十二条 市町村長ハ市町村収入役ニ於テ受領シタル税金ヲ受取之ヲ金庫ニ払込ミ其別符附領収証ヲ得之ヲ収入官吏ニ差出シ其別符ノ切離及領収証ノ検印ヲ得テ其義務ヲ了ルモノトス
第十三条 市町村長ハ納期限ヲ過キ税金ヲ完納セサル者アルトキハ其滞納ノ税目金額及滞納人ノ住所氏名ヲ記載シ之ヲ収入官吏ニ報告スヘシ
第十四条 納税人他ノ負債ニ依リ身代限リノ処分ヲ受ルトキ其既ニ徴税令書ヲ発シタルモノアルトキハ未タ其納期ニ至ラサルモ他ノ債主ニ先チ其税金ヲ徴収スヘシ
前項ノ場合ニ於テ酒類醬油造石税ニ限リ其課額既ニ定リタル税金ハ未タ其納期ニ至ラサルモ他ノ債主ニ先チ之ヲ徴収スヘシ
第十五条 前条ノ場合ニ於テ負債ノ抵償物件中徴収ヲ要スル税金ノ納期限ヨリ一箇年前ニ質入書入ト為シタルモノアルトキハ其売却代金ヨリ先ツ其負債金額ニ充テタル後税金ヲ徴収スヘシ
第十六条 地方税備荒儲蓄金市町村税ヲ滞納シタル為メ滞納者ノ財産ヲ売却シタル場合ニ於テ既ニ徴税令書ヲ発シタルモノアルトキハ国税ヲ先取スヘシ
第三章 期満免除
第十七条 徴税令書若クハ徴税伝令書ヲ発セスシテ納期限ノ翌日ヨリ起算シ満三年ヲ経過スルトキハ納税人ハ其義務ヲ免ルヽモノトス
第十八条 納税人法律命令ヲ犯シ脱税ヲナシタル場合ニ於テ其公訴ノ期満免除ト為ルトキハ其脱税金ノ追徴モ亦同時ニ免ルヽモノトス
第十九条 国税期満免除ノ期限内ニ於テ徴税令書若クハ徴税伝令書ヲ発シタルトキハ期限ノ経過ヲ中断スルモノトス
期満免除ノ期限ノ経過ヲ中断シタルトキハ更ニ其翌日ヨリ期限ヲ起算スヘシ但前後ノ日数ヲ通算シ満五年ヲ過ルコトヲ得ス
第四章 附則
第二十条 市制町村制ノ施行ニ至ラサル地方ニ於テハ此法律ニ拠リ市町村ノ為スヘキ職務ハ区戸長ニ於テ之ヲ行フヘシ
第二十一条 此法律ハ明治二十二年四月一日ヨリ施行ス但沖縄県及東京府管轄小笠原島伊豆七島ニハ当分之ヲ施行セス