消費者教育の推進に関する法律
法令番号: 法律第61号
公布年月日: 平成24年8月22日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

消費者基本法では消費者の自主的・合理的行動が求められているが、消費者教育は学校での授業時間確保が不十分で、成人向け社会教育も効果的な取組がなされていない。消費者庁設置時の国会審議でも消費者教育が議論され、消費者基本計画にも法制整備が盛り込まれた。また、東日本大震災時の買い急ぎ等の経験から、非常時における消費者の適切な行動のためにも消費者教育の充実は急務である。さらに、消費者と事業者間の情報・交渉力の格差による被害防止や、消費者の自立支援のため、消費者教育を受ける機会を消費者の権利として位置付け、総合的・一体的に推進する必要がある。

参照した発言:
第180回国会 参議院 消費者問題に関する特別委員会 第6号

審議経過

第180回国会

参議院
(平成24年6月20日)
衆議院
(平成24年8月10日)
消費者教育の推進に関する法律をここに公布する。
御名御璽
平成二十四年八月二十二日
内閣総理大臣 野田佳彦
法律第六十一号
消費者教育の推進に関する法律
目次
第一章
総則(第一条―第八条)
第二章
基本方針等(第九条・第十条)
第三章
基本的施策(第十一条―第十八条)
第四章
消費者教育推進会議等(第十九条・第二十条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、消費者教育が、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する消費者被害を防止するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようその自立を支援する上で重要であることに鑑み、消費者教育の機会が提供されることが消費者の権利であることを踏まえ、消費者教育に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の消費者教育の推進に関し必要な事項を定めることにより、消費者教育を総合的かつ一体的に推進し、もって国民の消費生活の安定及び向上に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「消費者教育」とは、消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育(消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む。)及びこれに準ずる啓発活動をいう。
2 この法律において「消費者市民社会」とは、消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会をいう。
(基本理念)
第三条 消費者教育は、消費生活に関する知識を修得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行われなければならない。
2 消費者教育は、消費者が消費者市民社会を構成する一員として主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与することができるよう、その育成を積極的に支援することを旨として行われなければならない。
3 消費者教育は、幼児期から高齢期までの各段階に応じて体系的に行われるとともに、年齢、障害の有無その他の消費者の特性に配慮した適切な方法で行われなければならない。
4 消費者教育は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により、かつ、それぞれの場における消費者教育を推進する多様な主体の連携及び他の消費者政策(消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策をいう。第九条第二項第三号において同じ。)との有機的な連携を確保しつつ、効果的に行われなければならない。
5 消費者教育は、消費者の消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に与える影響に関する情報その他の多角的な視点に立った情報を提供することを旨として行われなければならない。
6 消費者教育は、災害その他非常の事態においても消費者が合理的に行動することができるよう、非常の事態における消費生活に関する知識と理解を深めることを旨として行われなければならない。
7 消費者教育に関する施策を講ずるに当たっては、環境教育、食育、国際理解教育その他の消費生活に関連する教育に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされなければならない。
(国の責務)
第四条 国は、自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができる自立した消費者の育成が極めて重要であることに鑑み、前条の基本理念(以下この章において「基本理念」という。)にのっとり、消費者教育の推進に関する総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、前項の施策が適切かつ効率的に策定され、及び実施されるよう、相互に又は関係行政機関の長との間の緊密な連携協力を図りつつ、それぞれの所掌に係る消費者教育の推進に関する施策を推進しなければならない。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、消費生活センター(消費者安全法(平成二十一年法律第五十号)第十条第三項に規定する消費生活センターをいう。第十三条第二項及び第二十条第一項において同じ。)、教育委員会その他の関係機関相互間の緊密な連携の下に、消費者教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(消費者団体の努力)
第六条 消費者団体は、基本理念にのっとり、消費者教育の推進のための自主的な活動に努めるとともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われる消費者教育に協力するよう努めるものとする。
(事業者及び事業者団体の努力)
第七条 事業者及び事業者団体は、事業者が商品及び役務を供給する立場において消費者の消費生活に密接に関係していることに鑑み、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が実施する消費者教育の推進に関する施策に協力するよう努めるとともに、消費者教育の推進のための自主的な活動に努めるものとする。
(財政上の措置等)
第八条 政府は、消費者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
2 地方公共団体は、消費者教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
第二章 基本方針等
(基本方針)
第九条 政府は、消費者教育の推進に関する基本的な方針(以下この章及び第四章において「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 消費者教育の推進の意義及び基本的な方向に関する事項
二 消費者教育の推進の内容に関する事項
三 関連する他の消費者政策との連携に関する基本的な事項
四 その他消費者教育の推進に関する重要事項
3 基本方針は、消費者基本法(昭和四十三年法律第七十八号)第九条第一項に規定する消費者基本計画との調和が保たれたものでなければならない。
4 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
5 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、消費者教育推進会議及び消費者委員会の意見を聴くほか、消費者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
6 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、第四項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
7 政府は、消費生活を取り巻く環境の変化を勘案し、並びに消費者教育の推進に関する施策の実施の状況についての調査、分析及び評価を踏まえ、おおむね五年ごとに基本方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。
8 第四項から第六項までの規定は、基本方針の変更について準用する。
(都道府県消費者教育推進計画等)
第十条 都道府県は、基本方針を踏まえ、その都道府県の区域における消費者教育の推進に関する施策についての計画(以下この条及び第二十条第二項第二号において「都道府県消費者教育推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 市町村は、基本方針(都道府県消費者教育推進計画が定められているときは、基本方針及び都道府県消費者教育推進計画)を踏まえ、その市町村の区域における消費者教育の推進に関する施策についての計画(以下この条及び第二十条第二項第二号において「市町村消費者教育推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
3 都道府県及び市町村は、都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画を定めようとするときは、あらかじめ、その都道府県又は市町村の区域の消費者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。この場合において、第二十条第一項の規定により消費者教育推進地域協議会を組織している都道府県及び市町村にあっては、当該消費者教育推進地域協議会の意見を聴かなければならない。
4 都道府県及び市町村は、都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。
5 都道府県及び市町村は、都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画を定めた場合は、その都道府県又は市町村の区域における消費者教育の推進に関する施策の実施の状況についての調査、分析及び評価を行うよう努めるとともに、必要があると認めるときは、都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画を変更するものとする。
6 第三項及び第四項の規定は、都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画の変更について準用する。
第三章 基本的施策
(学校における消費者教育の推進)
第十一条 国及び地方公共団体は、幼児、児童及び生徒の発達段階に応じて、学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、大学及び高等専門学校を除く。第三項において同じ。)の授業その他の教育活動において適切かつ体系的な消費者教育の機会を確保するため、必要な施策を推進しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、教育職員に対する消費者教育に関する研修を充実するため、教育職員の職務の内容及び経験に応じ、必要な措置を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、学校において実践的な消費者教育が行われるよう、その内外を問わず、消費者教育に関する知識、経験等を有する人材の活用を推進するものとする。
(大学等における消費者教育の推進)
第十二条 国及び地方公共団体は、大学等(学校教育法第一条に規定する大学及び高等専門学校並びに専修学校、各種学校その他の同条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うものをいう。以下この条及び第十六条第二項において同じ。)において消費者教育が適切に行われるようにするため、大学等に対し、学生等の消費生活における被害を防止するための啓発その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。
2 国及び地方公共団体は、大学等が行う前項の取組を促進するため、関係団体の協力を得つつ、学生等に対する援助に関する業務に従事する教職員に対し、研修の機会の確保、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。
(地域における消費者教育の推進)
第十三条 国、地方公共団体及び独立行政法人国民生活センター(以下この章において「国民生活センター」という。)は、地域において高齢者、障害者等に対する消費者教育が適切に行われるようにするため、民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉主事、介護福祉士その他の高齢者、障害者等が地域において日常生活を営むために必要な支援を行う者に対し、研修の実施、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。
2 国、地方公共団体及び国民生活センターは、公民館その他の社会教育施設等において消費生活センター等の収集した情報の活用による実例を通じた消費者教育が行われるよう、必要な措置を講じなければならない。
(事業者及び事業者団体による消費者教育の支援)
第十四条 事業者及び事業者団体は、消費者団体その他の関係団体との情報の交換その他の連携を通じ、消費者の消費生活に関する知識の向上が図られるよう努めるものとする。
2 事業者は、消費者からの問合せ、相談等を通じて得た消費者に有用な消費生活に関する知識を広く提供するよう努めるものとする。
3 事業者は、その従業者に対し、研修を実施し、又は事業者団体等が行う講習会を受講させること等を通じ、消費生活に関する知識及び理解を深めるよう努めるものとする。
4 事業者団体は、消費者団体その他の民間の団体が行う消費者教育の推進のための活動に対し、資金の提供その他の援助に努めるものとする。
(教材の充実等)
第十五条 国及び地方公共団体は、消費者教育に使用される教材の充実を図るとともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において当該教材が有効に活用されるよう、消費者教育に関連する実務経験を有する者等の意見を反映した教材の開発及びその効果的な提供に努めなければならない。
(人材の育成等)
第十六条 国、地方公共団体及び国民生活センターは、消費者安全法第十一条に規定する相談員その他の消費者の利益の擁護又は増進を図るための活動を行う者に対し、消費者教育に関する専門的知識を修得するための研修の実施その他その資質の向上のために必要な措置を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、大学等、研究機関、消費者団体その他の関係機関及び関係団体に対し、消費者教育を担う人材の育成及び資質の向上のための講座の開設その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。
(調査研究等)
第十七条 国及び地方公共団体は、消費者教育に関する調査研究を行う大学、研究機関その他の関係機関及び関係団体と協力を図りつつ、諸外国の学校における総合的、体系的かつ効果的な消費者教育の内容及び方法その他の国の内外における消費者教育の内容及び方法に関し、調査研究並びにその成果の普及及び活用に努めなければならない。
(情報の収集及び提供等)
第十八条 国、地方公共団体及び国民生活センターは、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われている消費者教育に関する先進的な取組に関する情報その他の消費者教育に関する情報について、年齢、障害の有無その他の消費者の特性に配慮しつつ、これを収集し、及び提供するよう努めなければならない。
2 国は、消費生活における被害の防止を図るため、年齢、障害の有無その他の消費者の特性を勘案して、その収集した消費生活に関する情報が消費者教育の内容に的確かつ迅速に反映されるよう努めなければならない。
第四章 消費者教育推進会議等
(消費者教育推進会議)
第十九条 消費者庁に、消費者教育推進会議を置く。
2 消費者教育推進会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 消費者教育の総合的、体系的かつ効果的な推進に関して消費者教育推進会議の委員相互の情報の交換及び調整を行うこと。
二 基本方針に関し、第九条第五項(同条第八項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。
3 消費者教育推進会議の委員は、消費者、事業者及び教育関係者、消費者団体、事業者団体その他の関係団体を代表する者、学識経験を有する者並びに関係行政機関及び関係する独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
4 前二項に定めるもののほか、消費者教育推進会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
(消費者教育推進地域協議会)
第二十条 都道府県及び市町村は、その都道府県又は市町村の区域における消費者教育を推進するため、消費者、消費者団体、事業者、事業者団体、教育関係者、消費生活センターその他の当該都道府県又は市町村の関係機関等をもって構成する消費者教育推進地域協議会を組織するよう努めなければならない。
2 消費者教育推進地域協議会は、次に掲げる事務を行うものとする。
一 当該都道府県又は市町村の区域における消費者教育の総合的、体系的かつ効果的な推進に関して消費者教育推進地域協議会の構成員相互の情報の交換及び調整を行うこと。
二 都道府県又は市町村が都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画を作成し、又は変更しようとする場合においては、当該都道府県消費者教育推進計画又は市町村消費者教育推進計画の作成又は変更に関して意見を述べること。
3 前二項に定めるもののほか、消費者教育推進地域協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、消費者教育推進地域協議会が定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
2 国は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(消費者庁及び消費者委員会設置法の一部改正)
3 消費者庁及び消費者委員会設置法(平成二十一年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
目次中「第五条の二」の下に「―第五条の四」を加える。
第四条第十三号の次に次の一号を加える。
十三の二 消費者教育の推進に関する法律(平成二十四年法律第六十一号)第九条第一項に規定する消費者教育の推進に関する基本的な方針の策定及び推進に関すること。
第五条の二を次のように改める。
(設置)
第五条の二 別に法律で定めるところにより消費者庁に置かれる審議会等は、次のとおりとする。
消費者安全調査委員会
消費者教育推進会議
第二章第三節中第五条の二の次に次の二条を加える。
(消費者安全調査委員会)
第五条の三 消費者安全調査委員会については、消費者安全法(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
(消費者教育推進会議)
第五条の四 消費者教育推進会議については、消費者教育の推進に関する法律(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
第六条第二項第四号中「食品安全基本法」の下に「、消費者教育の推進に関する法律」を加える。
内閣総理大臣 野田佳彦
文部科学大臣 平野博文