高齢社会対策基本法
法令番号: 法律第129号
公布年月日: 平成7年11月15日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

我が国は経済的繁栄とともに長寿社会を実現しつつあるが、世界に例を見ない速度で高齢化が進展している一方、国民意識や社会システムの対応が遅れており、国民の間に不安が生じている。このため、雇用、年金、医療、福祉等のシステムを高齢社会にふさわしいものとするよう不断の見直しが必要である。本法案は、高齢社会対策の基本理念を定め、国・地方公共団体・企業・地域社会等が相互に協力しながらそれぞれの役割を果たし、社会システムを再構築することで、高齢社会対策を総合的に推進し、経済社会の健全な発展と国民生活の安定向上を図ることを目的とするものである。

参照した発言:
第132回国会 参議院 国民生活に関する調査会 第3号

審議経過

第132回国会

参議院
(平成7年6月5日)

第134回国会

衆議院
(平成7年11月7日)
(平成7年11月7日)
参議院
(平成7年11月7日)
(平成7年11月8日)
高齢社会対策基本法をここに公布する。
御名御璽
平成七年十一月十五日
内閣総理大臣 村山富市
法律第百二十九号
高齢社会対策基本法
目次
前文
第一章
総則(第一条―第八条)
第二章
基本的施策(第九条―第十四条)
第三章
高齢社会対策会議(第十五条・第十六条)
附則
我が国は、国民のたゆまぬ努力により、かつてない経済的繁栄を築き上げるとともに、人類の願望である長寿を享受できる社会を実現しつつある。今後、長寿をすべての国民が喜びの中で迎え、高齢者が安心して暮らすことのできる社会の形成が望まれる。そのような社会は、すべての国民が安心して暮らすことができる社会でもある。
しかしながら、我が国の人口構造の高齢化は極めて急速に進んでおり、遠からず世界に例を見ない水準の高齢社会が到来するものと見込まれているが、高齢化の進展の速度に比べて国民の意識や社会のシステムの対応は遅れている。早急に対応すべき課題は多岐にわたるが、残されている時間は極めて少ない。
このような事態に対処して、国民一人一人が生涯にわたって真に幸福を享受できる高齢社会を築き上げていくためには、雇用、年金、医療、福祉、教育、社会参加、生活環境等に係る社会のシステムが高齢社会にふさわしいものとなるよう、不断に見直し、適切なものとしていく必要があり、そのためには、国及び地方公共団体はもとより、企業、地域社会、家庭及び個人が相互に協力しながらそれぞれの役割を積極的に果たしていくことが必要である。
ここに、高齢社会対策の基本理念を明らかにしてその方向を示し、国を始め社会全体として高齢社会対策を総合的に推進していくため、この法律を制定する。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、我が国における急速な高齢化の進展が経済社会の変化と相まって、国民生活に広範な影響を及ぼしている状況にかんがみ、高齢化の進展に適切に対処するための施策(以下「高齢社会対策」という。)に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、高齢社会対策の基本となる事項を定めること等により、高齢社会対策を総合的に推進し、もって経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上を図ることを目的とする。
(基本理念)
第二条 高齢社会対策は、次の各号に掲げる社会が構築されることを基本理念として、行われなければならない。
一 国民が生涯にわたって就業その他の多様な社会的活動に参加する機会が確保される公正で活力ある社会
二 国民が生涯にわたって社会を構成する重要な一員として尊重され、地域社会が自立と連帯の精神に立脚して形成される社会
三 国民が生涯にわたって健やかで充実した生活を営むことができる豊かな社会
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、高齢社会対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、高齢社会対策に関し、国と協力しつつ、当該地域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(国民の努力)
第五条 国民は、高齢化の進展に伴う経済社会の変化についての理解を深め、及び相互の連帯を一層強めるとともに、自らの高齢期において健やかで充実した生活を営むことができることとなるよう努めるものとする。
(施策の大綱)
第六条 政府は、政府が推進すべき高齢社会対策の指針として、基本的かつ総合的な高齢社会対策の大綱を定めなければならない。
(法制上の措置等)
第七条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)
第八条 政府は、毎年、国会に、高齢化の状況及び政府が講じた高齢社会対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、前項の報告に係る高齢化の状況を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
第二章 基本的施策
(就業及び所得)
第九条 国は、活力ある社会の構築に資するため、高齢者がその意欲と能力に応じて就業することができる多様な機会を確保し、及び勤労者が長期にわたる職業生活を通じて職業能力を開発し、高齢期までその能力を発揮することができるよう必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、高齢期の生活の安定に資するため、公的年金制度について雇用との連携を図りつつ適正な終付水準を確保するよう必要な施策を講ずるものとする。
3 国は、高齢期のより豊かな生活の実現に資するため、国民の自主的な努力による資産の形成等を支援するよう必要な施策を講ずるものとする。
(健康及び福祉)
第十条 国は、高齢期の健全で安らかな生活を確保するため、国民が生涯にわたって自らの健康の保持増進に努めることができるよう総合的な施策を講ずるものとする。
2 国は、高齢者の保健及び医療並びに福祉に関する多様な需要に的確に対応するため、地域における保健及び医療並びに福祉の相互の有機的な連携を図りつつ適正な保健医療サービス及び福祉サービスを総合的に提供する体制の整備を図るとともに、民間事業者が提供する保健医療サービス及び福祉サービスについて健全な育成及び活用を図るよう必要な施策を講ずるものとする。
3 国は、介護を必要とする高齢者が自立した日常生活を営むことができるようにするため、適切な介護のサービスを受けることができる基盤の整備を推進するよう必要な施策を講ずるものとする。
(学習及び社会参加)
第十一条 国は、国民が生きがいを持って豊かな生活を営むことができるようにするため、生涯学習の機会を確保するよう必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、活力ある地域社会の形成を図るため、高齢者の社会的活動への参加を促進し、及びボランティア活動の基盤を整備するよう必要な施策を講ずるものとする。
(生活環境)
第十二条 国は、高齢者が自立した日常生活を営むことができるようにするため、高齢者に適した住宅等の整備を促進し、及び高齢者のための住宅を確保し、並びに高齢者の円滑な利用に配慮された公共的施設の整備を促進するよう必要な政策を講ずるものとする。
2 国は、高齢者が不安のない生活を営むことができるようにするため、高齢者の交通の安全を確保するとともに、高齢者を犯罪の被害、災害等から保護する体制を整備するよう必要な施策を講ずるものとする。
(調査研究等の推進)
第十三条 国は、高齢者の健康の確保、自立した日常生活への支援等を図るため、高齢者に特有の疾病の予防及び治療についての調査研究、福祉用具についての研究開発等を推進するよう努めるものとする。
(国民の意見の反映)
第十四条 国は、高齢社会対策の適正な策定及び実施に資するため、国民の意見を国の施策に反映させるための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。
第三章 高齢社会対策会議
(設置及び所掌事務)
第十五条 総理府に、特別の機関として、高齢社会対策会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第六条の大綱の案を作成すること。
二 高齢社会対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
三 前二号に掲げるもののほか、高齢社会対策に関する重要事項について審議し、及び高齢社会対策の実施を推進すること。
(組織等)
第十六条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣総理大臣をもって充てる。
3 委員は、関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が任命する。
4 会議に、幹事を置く。
5 幹事は、関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
6 幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
7 会議の庶務は、総務庁において処理する。
8 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(総理府設置法の一部改正)
2 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十四条の次に次の一条を加える。
(高齢社会対策会議)
第十四条の二 本府に、高齢社会対策会議を置く。
2 高齢社会対策会議の組織及び所掌事務については、高齢社会対策基本法(平成七年法律第百二十九号)の定めるところによる。
内閣総理大臣 村山富市