陸運統制令
法令番号: 勅令第九百七十號
公布年月日: 昭和16年11月15日
法令の形式: 勅令
朕陸運統制令改正ノ件ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十六年十一月十四日
內閣總理大臣兼內務大臣 東條英機
拓務大臣 東鄕茂德
鐵道大臣 寺島健
大藏大臣 賀屋興宣
勅令第九百七十號
陸運統制令
第一條 國家總動員法第八條ノ規定ニ基ク車輛其ノ他陸上ニ於ケル輸送用物資ノ讓渡其ノ他ノ處分及使用ニ關スル命令、同法第十三條第一項ノ規定ニ基ク陸上運送ノ施設ノ管理、使用又ハ收用、同條第二項ノ規定ニ基ク從業者ノ供用、同法第十六條ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ新設、擴張又ハ改良ノ制限又ハ禁止、同法第十六條ノ二ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ讓渡其ノ他ノ處分及使用ニ關スル命令、同法第十六條ノ三ノ規定ニ基ク陸上運送事業ノ開始、委託、讓渡、廢止若ハ休止、陸上運送ノ設備ヲ有スル會社ノ目的變更又ハ陸上運送事業ヲ營ム會社ノ合併ニ關スル命令、同法第十七條ノ規定ニ基ク陸上運送事業者間ニ於ケル統制協定ニ關スル命令、同法第十八條ノ二ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ讓渡人ノ負擔スル債務ノ承繼及其ノ擔保ノ處理ニ關スル事項、同法第十八條ノ三ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備若ハ陸上運送事業ノ讓渡又ハ陸上運送事業ヲ營ム會社ノ合併ニ付テノ租稅ノ輕減竝ニ同法第十九條ノ規定ニ基ク運送賃其ノ他運輸ニ關スル料金ニ付テノ公吿ニ關スル命令ニ付テハ本令ノ定ムル所ニ依ル
第二條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國ノ營ム運送事業ニ關シ一定ノ人若ハ物ノ運送ヲ拒絕シ又ハ運送ノ順序若ハ方法其ノ他ノ事項ヲ指定シテ運送ヲ引受クルコトヲ得
第三條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ對シ運送ノ拒絕、引受若ハ順序又ハ運送品(託送手荷物ヲ含ム以下同ジ)ノ受取若ハ引渡ニ關シ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第四條 鐵道大臣前條ノ場合ニ於テ陸上運送ノ統制上特ニ必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ業務ニ關シ自動車其ノ他陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ使用スル者ニ對シ其ノ使用ヲ制限スルコトヲ得
第五條 鐵道大臣必要アリト認ムルトキハ運送品ノ引渡ヲ請求シ又ハ運送品ノ引取ニ應ジタル荷受人其ノ他運送品ノ引取ヲ爲スベキ者ニシテ引取ヲ爲スベキ期間內ニ引取ヲ爲サザルモノニ對シ期日又ハ期間、數量等ヲ指定シ運送品ノ引取ヲ命ズルコトヲ得
第六條 鐵道大臣ハ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ依リ相當期間繼續シテ運送スル必要アル總動員物資ニシテ命令ヲ以テ指定スルモノニ付命令ノ定ムル出貨者ニ對シ當該貨物ノ託送ニ關シ必要ナル事項ノ報吿ヲ爲サシムルコトヲ得
鐵道大臣前項ノ出貨者ニ對シ同項ノ報吿ニ基キ託送ノ期日又ハ期間、數量等ヲ指定シタルトキハ出貨者ハ已ムコトヲ得ザル事由アル場合ヲ除クノ外其ノ指定ニ從ヒ貨物ノ託送ヲ爲シ又ハ爲サシムベシ
第七條 鐵道大臣必要アリト認ムルトキハ陸上運送ノ施設ヲ管理スルコトヲ得
鐵道大臣ハ其ノ管理ニ係ル施設ノ運營ニ付事業主又ハ之ニ準ズル者ヲ指揮監督ス
工場事業場管理令第三條乃至第五條(第二條ノ規定ヲ準用スル部分ヲ除ク)、第七條、第八條、第九條第一項第二項第四項第五項及第十條乃至第十二條ノ規定ハ第一項ノ規定ニ依ル施設ノ管理ニ之ヲ準用ス但シ同令中主務大臣トアルハ鐵道大臣トシ同令第四條第三號中第十四條ノ規定ニ依リ主務大臣ノ職權ノ一部ヲ行フ官衙ノ長トアルハ陸運統制令第二十八條ノ規定ニ依リ同令第七條ノ管理ニ關スル鐵道大臣ノ職權ノ一部ヲ行フ鐵道局長又ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監ヲ含ム)トス
第八條 鐵道大臣必要アリト認ムルトキハ陸上運送ノ施設ヲ使用又ハ收用スルコトヲ得
鐵道大臣ハ前項ノ規定ニ依リ陸上運送ノ施設ヲ使用又ハ收用スル場合ニ於テ其ノ從業者ヲ供用セシムルコトヲ得
工場事業場使用收用令第三條、第四條、第五條第一號乃至第五號第七號、第六條乃至第十二條及第十八條乃至第二十八條ノ規定ハ第一項ノ規定ニ依ル施設ノ使用又ハ收用及前項ノ規定ニ依ル從業者ノ供用ニ之ヲ準用ス但シ同令中主務大臣トアルハ鐵道大臣トシ同令第二十四條第二項、第二十六條及第二十七條中閣令トアルハ命令トス
第九條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ所有スル者ニ對シ其ノ者ガ使用ノ目的ヲ以テ所有スル輸送用物資ノ讓渡若ハ貸渡ヲ命ジ又ハ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ對シ當該物資ノ讓受若ハ借受ヲ命ズルコトヲ得
鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ對シ當該事業ニ屬スル陸上運送ノ設備ノ讓渡若ハ貸渡ヲ命ジ又ハ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ對シ當該設備ノ讓受若ハ借受ヲ命ズルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル命令ヲ受ケタル者ハ他ノ法令ニ拘ラズ讓渡又ハ貸借ヲ爲スコトヲ得
第十條 前條ノ場合ニ於ケル讓渡又ハ貸借ノ條件ハ當事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ爲スコト能ハザルトキハ鐵道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鐵道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十一條 陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ所有スル者陸上ニ於ケル輸送用物資ニシテ命令ヲ以テ指定スルモノニ付讓渡、貸渡其ノ他ノ處分ヲ爲サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ鐵道大臣ノ認可ヲ受クベシ
第十二條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ對シ當該事業ニ屬スル陸上運送ノ設備ノ新設、擴張又ハ改良ヲ制限又ハ禁止スルコトヲ得
第十三條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ旅客運送事業ヲ營ム地方鐵道事業者若ハ軌道事業者ニ對シ貨物運送事業ノ開始ヲ命ジ又ハ專用鐵道ノ設備ヲ有スル者ニ對シ旅客運送事業若ハ貨物運送事業ノ開始ヲ命ジ若ハ一定ノ者ト其ノ設備ヲ共用スベキコトヲ命ズルコトヲ得
鐵道大臣ハ前項ノ規定ニ依ル命令ヲ爲サントスル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ當該會社ノ目的ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第十四條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ對シ陸上運送事業ノ委託、受託、讓渡若ハ讓受又ハ會社ノ合併ヲ命ズルコトヲ得
第九條第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十五條 前條ノ場合ニ於ケル委託、讓渡又ハ合併ノ條件ハ當事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ爲スコト能ハザルトキハ鐵道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鐵道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十六條 鐵道財團、軌道財團、自動車交通事業財團、工場財團又ハ鑛業財團ニ屬スルモノハ第九條ノ規定ニ依ル命令ニ基キ讓渡アリタル後ト雖モ仍原財團ニ屬スルモノトス
前項ノ規定ニ依リ原財團ニ屬スルモノハ同時ニ他ノ財團ニ屬スルコトヲ得ズ
第十七條 鐵道大臣ハ第九條ノ規定ニ依ル命令ニ基キ鐵道財團、軌道財團、自動車交通事業財團、工場財團又ハ鑛業財團ニ屬スル物資又ハ設備ヲ讓渡シタル者ヲシテ第十八條ノ規定ニ依リ債務ノ承繼アリタル場合ヲ除クノ外讓受人ガ抵當權ノ實行ニ因リ受クルコトアルベキ損失ノ補償ニ充ツル爲命令ノ定ムル所ニ依リ相當ノ擔保ヲ供託セシムルコトヲ得
讓受人ハ前項ノ規定ニ依リ供託セラレタルモノノ上ニ質權ヲ有ス
第十八條 鐵道大臣ハ第九條ノ規定ニ依リ物資又ハ設備ノ讓渡ヲ命ジタル場合ニ於テ當該讓渡人ヲシテ當該物資又ハ設備ノ屬スル鐵道財團、軌道財團、自動車交通事業財團、工場財團又ハ鑛業財團ヲ抵當トスル債務ヲ引續キ負擔セシメ置クコトヲ適當ナラズト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ讓受人ヲシテ當該債務ノ全部又ハ一部ヲ承繼セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於ケル承繼價格其ノ他ノ承繼ニ關スル條件ハ當事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ爲スコト能ハザルトキハ鐵道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鐵道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十九條 第十四條ノ規定ニ依ル命令ニ基キ事業ヲ讓受ケタル場合ニ於テ鐵道財團、軌道財團又ハ自動車交通事業財團ニ屬スルモノノ全部ヲ讓受ケタルトキハ讓受人ハ當該財團ヲ承繼ス
前項ノ場合ニ於テ當該事業ノ讓受人ニ屬シタル當該財團ハ從前ト同一ノ態樣ニ於テ當該債務ヲ擔保ス
第十七條及前條ノ規定ハ第一項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十條 第十六條乃至第十八條ノ規定ハ第十四條ノ規定ニ依ル命令ニ基キ事業ヲ讓受ケタル場合ニ於テ鐵道財團、軌道財團又ハ自動車交通事業財團ニ屬スルモノノ一部ヲ讓受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十一條 第十六條乃至前條ニ規定スルモノノ外第九條ノ規定ニ依リ物資又ハ設備ノ讓渡ヲ命ジタル場合及第十四條ノ規定ニ依リ事業ノ讓渡ヲ命ジタル場合ニ於ケル讓渡人ノ負擔スル債務ノ承繼及其ノ擔保ノ處理ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ對シ陸上運送事業ノ全部又ハ一部ノ廢止又ハ休止ヲ命ズルコトヲ得
第九條第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十三條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ對シ設備ノ共用、連絡運輸、直通運輸、運送賃其ノ他ノ事項ニ關スル統制協定ノ設定、變更又ハ取消ヲ命ズルコトヲ得
第二十四條 鐵道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ鐵道營業法第三條第二項(同法第十八條ノ二ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル公吿期間ヲ短縮スルコトヲ得
第二十五條 第九條又ハ第十四條ノ規定ニ依ル命令ニ基キ左ノ事項ニ付登記ヲ受クル場合ニ於テハ其ノ登錄稅ノ額ハ左ノ額トス但シ登錄稅法ニ依リ算出シタル登錄稅ノ額ガ左ノ額ヨリ少キトキハ其ノ額ニ依ル
一 合併ニ因ル會社ノ設立
金錢出資ニ依ル拂込株金額及金錢ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ價格ノ千分ノ五ト金錢以外ノ財產ノ出資ニ依ル拂込株金額及金錢以外ノ財產ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ價格ノ千分ノ一トノ合計額
二 合併ニ因ル會社資本ノ增加
金錢出資ニ依ル增資拂込株金額及金錢ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ價格ノ千分ノ五ト金錢以外ノ財產ノ出資ニ依ル增資拂込株金額及金錢以外ノ財產ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ價格ノ千分ノ一トノ合計額
三 陸上運送ノ設備又ハ陸上運送事業ノ讓受ノ場合ニ於ケル不動產ニ關スル權利ノ取得
不動產ノ價格ノ千分ノ三
第二十六條 國家總動員法第二十七條ノ規定ニ依リ補償スベキ損失ハ第二十二條ノ規定ニ依ル事業ノ廢止又ハ休止ノ命令ニ因ル通常生ズベキ損失トス
前項ノ規定ニ依ル損失ノ補償請求ノ時期其ノ他損失補償ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
鐵道財團、軌道財團又ハ自動車交通事業財團ヲ目的トスル抵當權ヲ有スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第一項ノ規定ニ依ル補償金及當該事業ノ廢止當時當該財團ニ屬シタルモノニ對シテモ其ノ權利ヲ行フコトヲ得
第二十七條 鐵道大臣ハ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ依リ陸上運送事業者、陸上運送ノ設備ヲ有スル者、陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ使用若ハ所有スル者、運送ノ申込ヲ爲ス者、旅客又ハ貨主ヨリ陸上運送ノ統制ニ關シ必要ナル報吿ヲ徵シ又ハ當該官吏ヲシテ店舖、事業場、事務所、倉庫、貨物置場其ノ他ノ場所ニ臨檢シ業務ノ狀況若ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ檢査セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ當該官吏ヲシテ臨檢檢査セシムル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶セシムベシ
第二十八條 鐵道大臣ハ本令ニ定ムル職權ノ一部ヲ鐵道局長又ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監ヲ含ム)ニ委任スルコトヲ得
第二十九條 第九條乃至第十五條、第十七條(第十九條及第二十條ノ規定ニ依リ準用スル場合ヲ含ム)、第十八條(第十九條及第二十條ノ規定ニ依リ準用スル場合ヲ含ム)、第二十二條、第二十三條、第二十七條及前條中鐵道大臣トアルハ軌道事業ニ關シテハ鐵道大臣及內務大臣トス
本令中鐵道大臣トアルハ前項ノ規定ニ拘ラズ朝鮮ニ在リテハ朝鮮總督、臺灣ニ在リテハ臺灣總督、樺太ニ在リテハ樺太廳長官トシ鐵道局長又ハ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮總督府鐵道局長又ハ道知事、臺灣ニ在リテハ臺灣總督府交通局總長又ハ州知事若ハ廳長トス
第八條第三項ニ於テ準用スル工場事業場使用收用令中官報トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮總督府官報、臺灣ニ在リテハ臺灣總督府報、樺太ニ在リテハ樺太廳公報トシ不動產登記法トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮不動產登記令トス
第十三條中地方鐵道事業者トアルハ朝鮮及臺灣ニ在リテハ私設鐵道事業者トシ專用鐵道トアルハ臺灣ニ在リテハ個人ノ專用ニ供スル鐵道トス
第二十四條中鐵道營業法トアルハ朝鮮ニ在リテハ明治四十五年制令第二十四號ニ於テ依ルコトヲ定メタル鐵道營業法トス
第二十五條ノ規定ハ朝鮮ニ在リテハ之ヲ適用セズ
附 則
本令ハ昭和十六年十一月二十日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、臺灣及樺太ニ在リテハ昭和十六年十二月五日ヨリ之ヲ施行ス
朕陸運統制令改正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十六年十一月十四日
内閣総理大臣兼内務大臣 東条英機
拓務大臣 東郷茂徳
鉄道大臣 寺島健
大蔵大臣 賀屋興宣
勅令第九百七十号
陸運統制令
第一条 国家総動員法第八条ノ規定ニ基ク車輛其ノ他陸上ニ於ケル輸送用物資ノ譲渡其ノ他ノ処分及使用ニ関スル命令、同法第十三条第一項ノ規定ニ基ク陸上運送ノ施設ノ管理、使用又ハ収用、同条第二項ノ規定ニ基ク従業者ノ供用、同法第十六条ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ新設、拡張又ハ改良ノ制限又ハ禁止、同法第十六条ノ二ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ譲渡其ノ他ノ処分及使用ニ関スル命令、同法第十六条ノ三ノ規定ニ基ク陸上運送事業ノ開始、委託、譲渡、廃止若ハ休止、陸上運送ノ設備ヲ有スル会社ノ目的変更又ハ陸上運送事業ヲ営ム会社ノ合併ニ関スル命令、同法第十七条ノ規定ニ基ク陸上運送事業者間ニ於ケル統制協定ニ関スル命令、同法第十八条ノ二ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備ノ譲渡人ノ負担スル債務ノ承継及其ノ担保ノ処理ニ関スル事項、同法第十八条ノ三ノ規定ニ基ク陸上運送ノ設備若ハ陸上運送事業ノ譲渡又ハ陸上運送事業ヲ営ム会社ノ合併ニ付テノ租税ノ軽減並ニ同法第十九条ノ規定ニ基ク運送賃其ノ他運輸ニ関スル料金ニ付テノ公告ニ関スル命令ニ付テハ本令ノ定ムル所ニ依ル
第二条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ国ノ営ム運送事業ニ関シ一定ノ人若ハ物ノ運送ヲ拒絶シ又ハ運送ノ順序若ハ方法其ノ他ノ事項ヲ指定シテ運送ヲ引受クルコトヲ得
第三条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ対シ運送ノ拒絶、引受若ハ順序又ハ運送品(託送手荷物ヲ含ム以下同ジ)ノ受取若ハ引渡ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第四条 鉄道大臣前条ノ場合ニ於テ陸上運送ノ統制上特ニ必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ業務ニ関シ自動車其ノ他陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ使用スル者ニ対シ其ノ使用ヲ制限スルコトヲ得
第五条 鉄道大臣必要アリト認ムルトキハ運送品ノ引渡ヲ請求シ又ハ運送品ノ引取ニ応ジタル荷受人其ノ他運送品ノ引取ヲ為スベキ者ニシテ引取ヲ為スベキ期間内ニ引取ヲ為サザルモノニ対シ期日又ハ期間、数量等ヲ指定シ運送品ノ引取ヲ命ズルコトヲ得
第六条 鉄道大臣ハ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ依リ相当期間継続シテ運送スル必要アル総動員物資ニシテ命令ヲ以テ指定スルモノニ付命令ノ定ムル出貨者ニ対シ当該貨物ノ託送ニ関シ必要ナル事項ノ報告ヲ為サシムルコトヲ得
鉄道大臣前項ノ出貨者ニ対シ同項ノ報告ニ基キ託送ノ期日又ハ期間、数量等ヲ指定シタルトキハ出貨者ハ已ムコトヲ得ザル事由アル場合ヲ除クノ外其ノ指定ニ従ヒ貨物ノ託送ヲ為シ又ハ為サシムベシ
第七条 鉄道大臣必要アリト認ムルトキハ陸上運送ノ施設ヲ管理スルコトヲ得
鉄道大臣ハ其ノ管理ニ係ル施設ノ運営ニ付事業主又ハ之ニ準ズル者ヲ指揮監督ス
工場事業場管理令第三条乃至第五条(第二条ノ規定ヲ準用スル部分ヲ除ク)、第七条、第八条、第九条第一項第二項第四項第五項及第十条乃至第十二条ノ規定ハ第一項ノ規定ニ依ル施設ノ管理ニ之ヲ準用ス但シ同令中主務大臣トアルハ鉄道大臣トシ同令第四条第三号中第十四条ノ規定ニ依リ主務大臣ノ職権ノ一部ヲ行フ官衙ノ長トアルハ陸運統制令第二十八条ノ規定ニ依リ同令第七条ノ管理ニ関スル鉄道大臣ノ職権ノ一部ヲ行フ鉄道局長又ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監ヲ含ム)トス
第八条 鉄道大臣必要アリト認ムルトキハ陸上運送ノ施設ヲ使用又ハ収用スルコトヲ得
鉄道大臣ハ前項ノ規定ニ依リ陸上運送ノ施設ヲ使用又ハ収用スル場合ニ於テ其ノ従業者ヲ供用セシムルコトヲ得
工場事業場使用収用令第三条、第四条、第五条第一号乃至第五号第七号、第六条乃至第十二条及第十八条乃至第二十八条ノ規定ハ第一項ノ規定ニ依ル施設ノ使用又ハ収用及前項ノ規定ニ依ル従業者ノ供用ニ之ヲ準用ス但シ同令中主務大臣トアルハ鉄道大臣トシ同令第二十四条第二項、第二十六条及第二十七条中閣令トアルハ命令トス
第九条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ所有スル者ニ対シ其ノ者ガ使用ノ目的ヲ以テ所有スル輸送用物資ノ譲渡若ハ貸渡ヲ命ジ又ハ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ対シ当該物資ノ譲受若ハ借受ヲ命ズルコトヲ得
鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ対シ当該事業ニ属スル陸上運送ノ設備ノ譲渡若ハ貸渡ヲ命ジ又ハ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ対シ当該設備ノ譲受若ハ借受ヲ命ズルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル命令ヲ受ケタル者ハ他ノ法令ニ拘ラズ譲渡又ハ貸借ヲ為スコトヲ得
第十条 前条ノ場合ニ於ケル譲渡又ハ貸借ノ条件ハ当事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ鉄道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鉄道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
第十一条 陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ所有スル者陸上ニ於ケル輸送用物資ニシテ命令ヲ以テ指定スルモノニ付譲渡、貸渡其ノ他ノ処分ヲ為サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ鉄道大臣ノ認可ヲ受クベシ
第十二条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者其ノ他陸上運送ノ設備ヲ有スル事業者ニ対シ当該事業ニ属スル陸上運送ノ設備ノ新設、拡張又ハ改良ヲ制限又ハ禁止スルコトヲ得
第十三条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ旅客運送事業ヲ営ム地方鉄道事業者若ハ軌道事業者ニ対シ貨物運送事業ノ開始ヲ命ジ又ハ専用鉄道ノ設備ヲ有スル者ニ対シ旅客運送事業若ハ貨物運送事業ノ開始ヲ命ジ若ハ一定ノ者ト其ノ設備ヲ共用スベキコトヲ命ズルコトヲ得
鉄道大臣ハ前項ノ規定ニ依ル命令ヲ為サントスル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ当該会社ノ目的ノ変更ヲ命ズルコトヲ得
第十四条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ対シ陸上運送事業ノ委託、受託、譲渡若ハ譲受又ハ会社ノ合併ヲ命ズルコトヲ得
第九条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十五条 前条ノ場合ニ於ケル委託、譲渡又ハ合併ノ条件ハ当事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ鉄道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鉄道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
第十六条 鉄道財団、軌道財団、自動車交通事業財団、工場財団又ハ鉱業財団ニ属スルモノハ第九条ノ規定ニ依ル命令ニ基キ譲渡アリタル後ト雖モ仍原財団ニ属スルモノトス
前項ノ規定ニ依リ原財団ニ属スルモノハ同時ニ他ノ財団ニ属スルコトヲ得ズ
第十七条 鉄道大臣ハ第九条ノ規定ニ依ル命令ニ基キ鉄道財団、軌道財団、自動車交通事業財団、工場財団又ハ鉱業財団ニ属スル物資又ハ設備ヲ譲渡シタル者ヲシテ第十八条ノ規定ニ依リ債務ノ承継アリタル場合ヲ除クノ外譲受人ガ抵当権ノ実行ニ因リ受クルコトアルベキ損失ノ補償ニ充ツル為命令ノ定ムル所ニ依リ相当ノ担保ヲ供託セシムルコトヲ得
譲受人ハ前項ノ規定ニ依リ供託セラレタルモノノ上ニ質権ヲ有ス
第十八条 鉄道大臣ハ第九条ノ規定ニ依リ物資又ハ設備ノ譲渡ヲ命ジタル場合ニ於テ当該譲渡人ヲシテ当該物資又ハ設備ノ属スル鉄道財団、軌道財団、自動車交通事業財団、工場財団又ハ鉱業財団ヲ抵当トスル債務ヲ引続キ負担セシメ置クコトヲ適当ナラズト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ譲受人ヲシテ当該債務ノ全部又ハ一部ヲ承継セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於ケル承継価格其ノ他ノ承継ニ関スル条件ハ当事者間ノ協議ニ依ル協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ鉄道大臣之ヲ裁定ス
前項ノ協議ハ鉄道大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
第十九条 第十四条ノ規定ニ依ル命令ニ基キ事業ヲ譲受ケタル場合ニ於テ鉄道財団、軌道財団又ハ自動車交通事業財団ニ属スルモノノ全部ヲ譲受ケタルトキハ譲受人ハ当該財団ヲ承継ス
前項ノ場合ニ於テ当該事業ノ譲受人ニ属シタル当該財団ハ従前ト同一ノ態様ニ於テ当該債務ヲ担保ス
第十七条及前条ノ規定ハ第一項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十条 第十六条乃至第十八条ノ規定ハ第十四条ノ規定ニ依ル命令ニ基キ事業ヲ譲受ケタル場合ニ於テ鉄道財団、軌道財団又ハ自動車交通事業財団ニ属スルモノノ一部ヲ譲受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十一条 第十六条乃至前条ニ規定スルモノノ外第九条ノ規定ニ依リ物資又ハ設備ノ譲渡ヲ命ジタル場合及第十四条ノ規定ニ依リ事業ノ譲渡ヲ命ジタル場合ニ於ケル譲渡人ノ負担スル債務ノ承継及其ノ担保ノ処理ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ対シ陸上運送事業ノ全部又ハ一部ノ廃止又ハ休止ヲ命ズルコトヲ得
第九条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十三条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ陸上運送事業者ニ対シ設備ノ共用、連絡運輸、直通運輸、運送賃其ノ他ノ事項ニ関スル統制協定ノ設定、変更又ハ取消ヲ命ズルコトヲ得
第二十四条 鉄道大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ鉄道営業法第三条第二項(同法第十八条ノ二ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル公告期間ヲ短縮スルコトヲ得
第二十五条 第九条又ハ第十四条ノ規定ニ依ル命令ニ基キ左ノ事項ニ付登記ヲ受クル場合ニ於テハ其ノ登録税ノ額ハ左ノ額トス但シ登録税法ニ依リ算出シタル登録税ノ額ガ左ノ額ヨリ少キトキハ其ノ額ニ依ル
一 合併ニ因ル会社ノ設立
金銭出資ニ依ル払込株金額及金銭ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ価格ノ千分ノ五ト金銭以外ノ財産ノ出資ニ依ル払込株金額及金銭以外ノ財産ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ価格ノ千分ノ一トノ合計額
二 合併ニ因ル会社資本ノ増加
金銭出資ニ依ル増資払込株金額及金銭ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ価格ノ千分ノ五ト金銭以外ノ財産ノ出資ニ依ル増資払込株金額及金銭以外ノ財産ヲ目的トスル株金以外ノ出資ノ価格ノ千分ノ一トノ合計額
三 陸上運送ノ設備又ハ陸上運送事業ノ譲受ノ場合ニ於ケル不動産ニ関スル権利ノ取得
不動産ノ価格ノ千分ノ三
第二十六条 国家総動員法第二十七条ノ規定ニ依リ補償スベキ損失ハ第二十二条ノ規定ニ依ル事業ノ廃止又ハ休止ノ命令ニ因ル通常生ズベキ損失トス
前項ノ規定ニ依ル損失ノ補償請求ノ時期其ノ他損失補償ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
鉄道財団、軌道財団又ハ自動車交通事業財団ヲ目的トスル抵当権ヲ有スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第一項ノ規定ニ依ル補償金及当該事業ノ廃止当時当該財団ニ属シタルモノニ対シテモ其ノ権利ヲ行フコトヲ得
第二十七条 鉄道大臣ハ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ依リ陸上運送事業者、陸上運送ノ設備ヲ有スル者、陸上ニ於ケル輸送用物資ヲ使用若ハ所有スル者、運送ノ申込ヲ為ス者、旅客又ハ貨主ヨリ陸上運送ノ統制ニ関シ必要ナル報告ヲ徴シ又ハ当該官吏ヲシテ店舗、事業場、事務所、倉庫、貨物置場其ノ他ノ場所ニ臨検シ業務ノ状況若ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ検査セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ当該官吏ヲシテ臨検検査セシムル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス証票ヲ携帯セシムベシ
第二十八条 鉄道大臣ハ本令ニ定ムル職権ノ一部ヲ鉄道局長又ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監ヲ含ム)ニ委任スルコトヲ得
第二十九条 第九条乃至第十五条、第十七条(第十九条及第二十条ノ規定ニ依リ準用スル場合ヲ含ム)、第十八条(第十九条及第二十条ノ規定ニ依リ準用スル場合ヲ含ム)、第二十二条、第二十三条、第二十七条及前条中鉄道大臣トアルハ軌道事業ニ関シテハ鉄道大臣及内務大臣トス
本令中鉄道大臣トアルハ前項ノ規定ニ拘ラズ朝鮮ニ在リテハ朝鮮総督、台湾ニ在リテハ台湾総督、樺太ニ在リテハ樺太庁長官トシ鉄道局長又ハ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮総督府鉄道局長又ハ道知事、台湾ニ在リテハ台湾総督府交通局総長又ハ州知事若ハ庁長トス
第八条第三項ニ於テ準用スル工場事業場使用収用令中官報トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮総督府官報、台湾ニ在リテハ台湾総督府報、樺太ニ在リテハ樺太庁公報トシ不動産登記法トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮不動産登記令トス
第十三条中地方鉄道事業者トアルハ朝鮮及台湾ニ在リテハ私設鉄道事業者トシ専用鉄道トアルハ台湾ニ在リテハ個人ノ専用ニ供スル鉄道トス
第二十四条中鉄道営業法トアルハ朝鮮ニ在リテハ明治四十五年制令第二十四号ニ於テ依ルコトヲ定メタル鉄道営業法トス
第二十五条ノ規定ハ朝鮮ニ在リテハ之ヲ適用セズ
附 則
本令ハ昭和十六年十一月二十日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、台湾及樺太ニ在リテハ昭和十六年十二月五日ヨリ之ヲ施行ス