第一條 本法ハ國防ノ整備及產業ノ發達ヲ期スル爲本邦ニ於ケル有機合成事業ノ確立ヲ圖ルコトヲ目的トス
第二條 本法ニ於テ有機合成事業ト稱スルハ勅令ヲ以テ定ムル有機合成品ノ製造ヲ爲ス事業ヲ謂フ
第三條 有機合成事業ヲ營マントスル者ハ政府ノ許可ヲ受クベシ但シ勅令ヲ以テ定ムル有機合成事業ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
本法ニ定ムルモノノ外前項ノ許可ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 前條ノ許可ヲ受クルコトヲ得ベキ者ハ帝國法令ニ依リ設立シタル株式會社ニシテ其ノ株主ノ半數以上、取締役ノ半數以上、資本ノ半額以上及議決權ノ過半數ガ帝國臣民又ハ帝國法令ニ依リ設立シタル法人ニ屬スルモノニ限ル
前項ノ法人ハ其ノ社員、株主若ハ業務ヲ執行スル役員ノ半數以上又ハ資本ノ半額以上若ハ議決權ノ過半數ガ外國人又ハ外國法人ニ屬セザルモノナルコトヲ要ス
前條ノ許可ヲ受ケタル者前二項ノ規定ニ該當セザルニ至リタルトキハ許可ハ其ノ效力ヲ失フ
第五條 第三條ノ許可ヲ受ケタル會社(有機合成事業會社)ハ政府ノ指定スル期間內ニ其ノ事業ヲ開始スベシ
政府ハ正當ノ事由アリト認ムル場合ニ限リ前項ノ期間ノ延長ヲ許可スルコトヲ得
有機合成事業會社前二項ノ期間內ニ其ノ事業ヲ開始セザルトキハ第三條ノ許可ハ其ノ效力ヲ失フ
第六條 有機合成事業會社其ノ設備ヲ增設シ又ハ變更セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
第七條 勅令ヲ以テ指定スル有機合成事業(指定有機合成事業)ヲ營ム有機合成事業會社政府ノ認可ヲ受ケ勅令ヲ以テ定ムル期間內ニ於テ政府ノ指定スル時期迄ニ勅令ヲ以テ定ムル設備ヲ新設シ又ハ增設シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ設備完成ノ年及其ノ翌年ヨリ五年間其ノ新設シ又ハ增設シタル設備ヲ以テ營ム指定有機合成事業ニ付所得ニ對スル法人稅及營業稅ヲ免除ス
前項ノ事業ヨリ生ズル所得又ハ純益ガ各事業年度ノ資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユルトキハ其ノ超過額ニ相當スル所得又ハ純益ニ付テハ同項ノ規定ヲ適用セズ但シ設備完成ノ年及其ノ翌年ヨリ三年間其ノ新設シ又ハ增設シタル設備ヲ以テ營ム指定有機合成事業ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第一項ノ有機合成事業會社其ノ設備ノ完成前其ノ一部ヲ以テ指定有機合成事業ヲ營ム場合ニ於テモ其ノ事業ニ付所得ニ對スル法人稅及營業稅ヲ免除ス但シ同項ノ規定ニ依リ政府ノ指定シタル時期迄ニ設備ヲ完成セザルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第八條 北海道、府縣及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ前條ノ規定ニ依リ所得ニ對スル法人稅及營業稅ヲ免除セラレタル有機合成事業會社ニハ同條第二項ノ規定ニ依リ賦課セラレタル營業稅ノ附加稅ヲ除クノ外其ノ免除セラレタル事業ニ對シ課稅スルコトヲ得ズ但シ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第九條 第七條ノ規定ニ依リ所得ニ對スル法人稅及營業稅ノ免除ヲ受クベキ事業ヲ繼續スル者又ハ其ノ事業ヲ繼續スルモノト認ムベキ事實アル者ハ前事業者ガ同條ノ規定ニ依ル所得ニ對スル法人稅及營業稅免除期間內ニ在ルトキハ其ノ期間ヲ承繼ス
第十條 指定有機合成事業ヲ營ム有機合成事業會社其ノ事業ノ爲必要ナル器具又ハ機械ヲ政府ノ認可ヲ受ケ輸入スルトキハ勅令ヲ以テ定ムル期間內勅令ノ定ムル所ニ依リ輸入稅ヲ免除ス
第十一條 有機合成事業會社ノ營ム有機合成事業ニシテ勅令ヲ以テ定ムルモノハ土地收用法第二條ノ土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得ル事業トシ同法ヲ適用ス
第十二條 政府ハ有機合成事業會社ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ製造シタル有機合成品ニ付豫算ノ範圍內ニ於テ奬勵金ヲ交付スルコトヲ得
第十三條 詐欺ノ行爲ヲ以テ前條ノ奬勵金ノ交付ヲ受ケタル者ニ對シテハ其ノ金額ヲ返還セシム
前項ノ規定ニ依ル返還金ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノトス
第十四條 有機合成事業會社ハ政府ノ認可ヲ受ケ其ノ事業ニ屬スル設備ノ費用ニ充ツル爲商法第二百九十七條ノ規定ニ依ル制限ヲ超エテ社債ヲ募集スルコトヲ得但シ社債ノ總額ハ拂込ミタル株金額ノ二倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
最終ノ貸借對照表ニ依リ會社ニ現存スル純財產額ガ拂込ミタル株金額ニ滿タザルトキハ前項ノ規定ヲ適用セズ
第一項ノ規定ニ依リ募集スル社債ニ付テハ工場抵當法ニ依リ會社ノ事業ニ屬スルモノヲ抵當ト爲スコトヲ要ス但シ特別ノ事情アル場合ニ於テ政府其ノ必要ナシト認メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十五條 有機合成事業會社其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ讓渡シ、廢止シ又ハ休止セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
有機合成事業會社ノ合併又ハ解散ノ決議ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十六條 有機合成事業會社ハ命令ノ定ムル所ニ依リ事業計畫ヲ定メ政府ニ之ヲ屆出ヅベシ之ヲ變更セントスルトキ亦同ジ
政府必要アリト認ムルトキハ事業計畫ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第十七條 政府ハ有機合成事業會社ニ對シ業務及財產ノ狀況ニ關シ報吿ヲ爲サシムルコトヲ得
政府ハ有機合成事業會社ニ對シ業務及會計ニ關シ監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
政府監督上必要アリト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ有機合成事業會社ノ事務所、營業所、工場、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ業務若ハ財產ノ狀況又ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ檢査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶セシムベシ
第十八條 政府公益上必要アリト認ムルトキハ有機合成事業會社ニ對シ有機合成品ノ製造又ハ販賣ニ關シ有機合成品ノ需給ノ圓滑又ハ價格ノ公正ヲ圖ル爲必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
政府公益上必要アリト認ムルトキハ有機合成事業會社ニ對シ其ノ設備ノ擴張若ハ改良又ハ製造方法ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第十九條 政府軍事上必要アリト認ムルトキハ有機合成事業會社ニ對シ有機合成品ノ製造ニ關スル特殊事項ノ硏究又ハ特殊設備ノ施設其ノ他軍事上必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
第二十條 第十八條第二項又ハ前條ノ規定ニ依リ爲シタル命令ニ因リ生ジタル損失ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ政府之ヲ補償ス
前項ノ補償ヲ伴フベキ命令ハ之ニ因リ要スベキ補償金ノ總額ガ帝國議會ノ協贊ヲ經タル金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二十一條 政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル有機合成品ノ製造ニ關スル硏究又ハ試驗ヲ爲ス者ニ對シ豫算ノ範圍內ニ於テ奬勵金ヲ交付スルコトヲ得
第二十二條 勅令ヲ以テ定ムル有機合成品又ハ之ト同一若ハ類似ノ性狀ヲ有シ且之ト同種ノ用途ヲ有スル物品ノ輸入ガ有機合成事業ノ確立ヲ妨グルノ虞アルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ期間ヲ定メ當該物品ノ輸入ヲ制限スルコトヲ得
第二十三條 勅令ヲ以テ定ムル有機合成品又ハ之ト同一若ハ類似ノ性狀ヲ有シ且之ト同種ノ用途ヲ有スル物品ノ輸入ニ因リ有機合成品ノ市價ノ低落ヲ來シ有機合成事業ノ確立ヲ妨グルノ虞アルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ關稅調査委員會ノ議ヲ經テ期間及物品ヲ指定シ關稅定率法別表輸入稅表ニ定ムル輸入稅ノ外其ノ物品ノ價格ノ五割ニ相當スル金額以下ノ輸入稅ヲ課スルコトヲ得
第二十四條 政府第三條若ハ第六條ノ許可、第十八條ノ規定ニ依ル命令、第二十條ノ規定ニ依ル補償金額ノ決定又ハ第二十二條ノ規定ニ依ル制限ヲ爲サントスルトキハ勅令ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外有機合成事業委員會ノ議ヲ經ベシ
有機合成事業委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十五條 有機合成事業會社本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シ又ハ公益ヲ害スル行爲ヲ爲シタルトキハ政府ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ、第三條ノ許可ヲ取消シ又ハ取締役若ハ其ノ職務ヲ行フ監査役ノ解任ヲ爲スコトヲ得
第二十六條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第三條ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ有機合成事業ヲ營ミタル者
二 第二十二條ノ規定ニ依ル制限ニ違反シテ有機合成品又ハ之ト同一若ハ類似ノ性狀ヲ有シ且之ト同種ノ用途ヲ有スル物品ノ輸入ヲ爲シタル者
第二十七條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第六條ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ設備ヲ增設シ又ハ變更シタル者
二 第十五條第一項ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ事業ノ全部又ハ一部ヲ讓渡シ、廢止シ又ハ休止シタル者
三 第十六條第一項ノ規定ニ違反シ事業計畫ノ屆出ヲ爲サズ又ハ屆出デタル事業計畫ヲ實施セザル者
四 第十六條第二項ノ規定ニ依ル變更命令ニ違反シ事業計畫ヲ變更セズシテ之ヲ實施シタル者
五 第十八條又ハ第十九條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
第二十八條 第十七條第二項ノ命令又ハ處分ニ違反シタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十九條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第十七條第一項ノ規定ニ依ル報吿ヲ爲サズ又ハ虛僞ノ報吿ヲ爲シタル者
二 第十七條第三項ノ規定ニ依ル當該官吏ノ臨檢檢査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
第三十條 當該官吏又ハ其ノ職ニ在リタル者本法ニ依ル職務執行ニ關シ知得シタル個人又ハ法人ノ業務上ノ祕密ヲ漏洩シ又ハ竊用シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十一條 營業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ第二十六條乃至第二十八條又ハ第二十九條第一號ノ違反行爲ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十二條 第二十六條乃至第二十八條及第二十九條第一號ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ