宇品港域軍事取締法
法令番号: 法律第二十九號
公布年月日: 昭和8年3月29日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル宇品港域軍事取締法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年三月二十八日
內閣總理大臣 子爵 齋藤實
陸軍大臣 荒木貞夫
法律第二十九號
宇品港域軍事取締法
第一條 本法ニ於テ宇品港域トハ廣島市、廣島縣安藝郡船越町、海田市町、矢野町、府中村及坂村ノ各一部竝ニ其ノ附近ノ水面ニシテ命令ヲ以テ指定スル區域ヲ謂フ
第二條 宇品港域ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ第一區及第二區ニ分ツ
第三條 宇品港域第一區內ニ於テ左ノ各號ノ一ニ該當スル行爲ヲ爲サントスル者ハ陸軍大臣ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 棧橋、埠頭、橋梁、道路、運河、鐵道又ハ軌道ノ新設、增設又ハ改修
二 水面ノ埋立又ハ干拓
三 鑛物ノ試掘若ハ採掘又ハ砂鑛ノ採取
四 航空
第四條 宇品港域第一區內ニ於テ左ノ各號ノ一ニ該當スル行爲ヲ爲サントスル者ハ陸軍運輸部長ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 不燃質物ヲ材料トスル家屋、工場、倉庫其ノ他ノ工作物ノ新築、改築又ハ增築
二 土石ノ採掘
三 水深ノ變更ヲ生ズベキ物件ノ委棄
四 爆發物又ハ容易ニ燃燒スベキ物件ノ運搬、積卸又ハ貯藏
五 船舟ノ航行又ハ繫泊
六 漁獵又ハ採藻
前項ノ不燃質物、爆發物及容易ニ燃燒スベキ物件ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條 宇品港域第一區內ノ水陸ノ形狀又ハ軍事施設ノ狀況ヲ測量、撮影、模寫、模造若ハ錄取シ又ハ其ノ複寫若ハ複製ヲ爲サントスル者ハ陸軍運輸部長ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第六條 前三條ノ規定ニ依ル許可ニハ條件ヲ附スルコトヲ得
前項ノ條件ハ軍事上必要アルトキハ之ヲ變更スルコトヲ得
第七條 陸軍運輸部長ハ宇品港域內ニ立入リ軍事施設ノ狀況其ノ他地形等ヲ視察スル者ト認ムルトキハ其ノ者ニ對シ港域外ニ退去ヲ命ズルコトヲ得
第八條 戰時又ハ事變ニ際シ必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ第三條乃至第六條及第十條ノ規定竝ニ之ニ關スル罰則ノ規定ヲ宇品港域第二區ノ全部又ハ一部ニ適用スルコトヲ得
戰時又ハ事變ニ際シ必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ宇品港域第二區ノ境界線ヨリ外方十キロメートル以內ノ區域ニ於ケル航空ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得
第九條 陸軍運輸部長ハ戰時又ハ事變ニ際シ必要アルトキハ宇品港域內ニ在ル船舟ニ對シ錨地ノ變更又ハ退去ヲ命ズルコトヲ得
第十條 陸軍大臣ハ第三條若ハ第四條ノ規定又ハ第三條若ハ第四條ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル條件ニ違反シタル者ニ對シ原狀囘復ヲ命ズルコトヲ得
第十一條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ付陸軍大臣又ハ陸軍運輸部長ノ爲シタル處分ニ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
第十二條 陸軍大臣ハ宇品港域各區及第八條第二項ノ區域ヲ標示スル爲必要ナル場所ニ標識ヲ設置スルコトヲ得
當該官吏ハ前項ノ標識ヲ設置スル爲必要ナル土地ニ立入リ實地調查ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ豫メ其ノ旨ヲ土地ノ占有者ニ通知スベシ
第十三條 前條ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ之ヲ補償ス
前項ノ規定ニ依ル補償金額ハ陸軍大臣之ヲ決定ス其ノ決定ニ對シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願スルコトヲ得ズ
第十四條 本法ノ禁止及制限ハ陸海軍又ハ陸海軍官廳ノ行動又ハ施設ニ關シテハ之ヲ適用セズ
第十五條 陸海軍以外ノ官廳ニ於テ第三條乃至第五條ニ揭グル行爲ヲ爲サントスルトキハ主務大臣ニ在リテハ陸軍大臣ニ協議シ其ノ他ノ官廳ニ在リテハ各本條ノ規定ニ準ジ陸軍大臣又ハ陸軍運輸部長ノ承認ヲ受クベシ
第十六條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第三條第四號ノ規定ニ違反シタル者
二 第九條ノ規定ニ依ル命令ニ從ハザル船舟ノ長又ハ其ノ職務ヲ執ル者
第十七條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第三條第一號乃至第三號ノ規定ニ違反シタル者
二 第三條第四號ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル條件ニ違反シタル者
三 第四條第一項ノ規定ニ違反シタル者
四 第五條ノ規定ニ違反シタル者
五 第七條ノ規定ニ依ル命令ニ從ハザル者
六 第八條第二項ノ規定ニ依ル禁止又ハ制限ニ違反シタル者
前項第四號ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十八條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第三條第一號乃至第三號ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル條件ニ違反シタル者
二 第四條第一項ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル條件ニ違反シタル者
三 第五條ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル條件ニ違反シタル者
第十九條 宇品港域各區又ハ第八條第二項ノ區域ヲ標示スル標識ヲ損壞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ之ヲ無效ナラシメタル者ハ三百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ作業中ノモノニハ第三條第一號乃至第三號及第四條第一項第一號ノ規定ヲ適用セズ
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル宇品港域軍事取締法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年三月二十八日
内閣総理大臣 子爵 斎藤実
陸軍大臣 荒木貞夫
法律第二十九号
宇品港域軍事取締法
第一条 本法ニ於テ宇品港域トハ広島市、広島県安芸郡船越町、海田市町、矢野町、府中村及坂村ノ各一部並ニ其ノ附近ノ水面ニシテ命令ヲ以テ指定スル区域ヲ謂フ
第二条 宇品港域ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ第一区及第二区ニ分ツ
第三条 宇品港域第一区内ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スル行為ヲ為サントスル者ハ陸軍大臣ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 桟橋、埠頭、橋梁、道路、運河、鉄道又ハ軌道ノ新設、増設又ハ改修
二 水面ノ埋立又ハ干拓
三 鉱物ノ試掘若ハ採掘又ハ砂鉱ノ採取
四 航空
第四条 宇品港域第一区内ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スル行為ヲ為サントスル者ハ陸軍運輸部長ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 不燃質物ヲ材料トスル家屋、工場、倉庫其ノ他ノ工作物ノ新築、改築又ハ増築
二 土石ノ採掘
三 水深ノ変更ヲ生ズベキ物件ノ委棄
四 爆発物又ハ容易ニ燃焼スベキ物件ノ運搬、積卸又ハ貯蔵
五 船舟ノ航行又ハ繋泊
六 漁猟又ハ採藻
前項ノ不燃質物、爆発物及容易ニ燃焼スベキ物件ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五条 宇品港域第一区内ノ水陸ノ形状又ハ軍事施設ノ状況ヲ測量、撮影、模写、模造若ハ録取シ又ハ其ノ複写若ハ複製ヲ為サントスル者ハ陸軍運輸部長ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第六条 前三条ノ規定ニ依ル許可ニハ条件ヲ附スルコトヲ得
前項ノ条件ハ軍事上必要アルトキハ之ヲ変更スルコトヲ得
第七条 陸軍運輸部長ハ宇品港域内ニ立入リ軍事施設ノ状況其ノ他地形等ヲ視察スル者ト認ムルトキハ其ノ者ニ対シ港域外ニ退去ヲ命ズルコトヲ得
第八条 戦時又ハ事変ニ際シ必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ第三条乃至第六条及第十条ノ規定並ニ之ニ関スル罰則ノ規定ヲ宇品港域第二区ノ全部又ハ一部ニ適用スルコトヲ得
戦時又ハ事変ニ際シ必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ宇品港域第二区ノ境界線ヨリ外方十キロメートル以内ノ区域ニ於ケル航空ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得
第九条 陸軍運輸部長ハ戦時又ハ事変ニ際シ必要アルトキハ宇品港域内ニ在ル船舟ニ対シ錨地ノ変更又ハ退去ヲ命ズルコトヲ得
第十条 陸軍大臣ハ第三条若ハ第四条ノ規定又ハ第三条若ハ第四条ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル条件ニ違反シタル者ニ対シ原状回復ヲ命ズルコトヲ得
第十一条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ付陸軍大臣又ハ陸軍運輸部長ノ為シタル処分ニ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
第十二条 陸軍大臣ハ宇品港域各区及第八条第二項ノ区域ヲ標示スル為必要ナル場所ニ標識ヲ設置スルコトヲ得
当該官吏ハ前項ノ標識ヲ設置スル為必要ナル土地ニ立入リ実地調査ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ予メ其ノ旨ヲ土地ノ占有者ニ通知スベシ
第十三条 前条ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ之ヲ補償ス
前項ノ規定ニ依ル補償金額ハ陸軍大臣之ヲ決定ス其ノ決定ニ対シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願スルコトヲ得ズ
第十四条 本法ノ禁止及制限ハ陸海軍又ハ陸海軍官庁ノ行動又ハ施設ニ関シテハ之ヲ適用セズ
第十五条 陸海軍以外ノ官庁ニ於テ第三条乃至第五条ニ掲グル行為ヲ為サントスルトキハ主務大臣ニ在リテハ陸軍大臣ニ協議シ其ノ他ノ官庁ニ在リテハ各本条ノ規定ニ準ジ陸軍大臣又ハ陸軍運輸部長ノ承認ヲ受クベシ
第十六条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第三条第四号ノ規定ニ違反シタル者
二 第九条ノ規定ニ依ル命令ニ従ハザル船舟ノ長又ハ其ノ職務ヲ執ル者
第十七条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第三条第一号乃至第三号ノ規定ニ違反シタル者
二 第三条第四号ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル条件ニ違反シタル者
三 第四条第一項ノ規定ニ違反シタル者
四 第五条ノ規定ニ違反シタル者
五 第七条ノ規定ニ依ル命令ニ従ハザル者
六 第八条第二項ノ規定ニ依ル禁止又ハ制限ニ違反シタル者
前項第四号ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十八条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第三条第一号乃至第三号ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル条件ニ違反シタル者
二 第四条第一項ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル条件ニ違反シタル者
三 第五条ノ規定ニ依ル許可ニ附シタル条件ニ違反シタル者
第十九条 宇品港域各区又ハ第八条第二項ノ区域ヲ標示スル標識ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ之ヲ無効ナラシメタル者ハ三百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ作業中ノモノニハ第三条第一号乃至第三号及第四条第一項第一号ノ規定ヲ適用セズ