金銭債務臨時調停法
法令番号: 法律第二十六號
公布年月日: 昭和7年9月7日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル金錢債務臨時調停法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和七年九月六日
內閣總理大臣 子爵 齋藤實
司法大臣 小山松吉
法律第二十六號
金錢債務臨時調停法
第一條 負債ノ整理ニ依リ誠實ナル債務者ヲ更生セシムル爲債權者債務者ノ互讓ヲ必要トスルトキハ當事者ハ本法ニ依リ調停ノ申立ヲ爲スコトヲ得
第二條 調停ノ申立ハ昭和七年七月三十一日以前ニ發生シタル私法上ノ金錢債務ニシテ金額千圓ヲ超過セザルモノニ付之ヲ爲スコトヲ但得シ小作料其ノ他小作關係ヨリ生ジタルモノ及地代、家賃其ノ他借地借家關係ヨリ生ジタルモノニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ金額ニハ附帶ノ利息、違約金、費用又ハ手數料ノ額ヲ算入セズ既ニ元本ニ組入レタル此等ノモノニ付亦同ジ
第一項ノ金額ヲ超過スル債務ニ付調停ノ申立アリタル場合ト雖モ裁判所調停ヲ爲スヲ相當ト認メ且相手方ニ異議ナキトキハ調停ヲ爲スコトヲ得相手方期日ニ出頭シテ事件ノ內容ニ付陳述ヲ始メタルトキハ異議ナキモノト看做ス
第三條 調停ノ申立ハ相手方ノ住所、居所、營業所若ハ事務所ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所又ハ當事者ノ合意ニ依リテ定ムル區裁判所ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
調停ノ申立ヲ受ケタル裁判所相當ト認ムルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ他ノ區裁判所ニ移送スルコトヲ得管轄權ナキ裁判所ガ調停ノ申立ヲ受ケタルトキ亦同ジ
前項ノ決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第四條 本法ノ調停ニ關シテハ借地借家調停法第二條、第四條ノ二、第六條乃至第二十三條及第二十六條乃至第三十二條ノ規定ヲ準用ス
第五條 事件ガ性質上調停ヲ爲スニ適セズ又ハ當事者不當ノ目的ヲ以テ濫ニ調停ノ申立ヲ爲シタリト認ムルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ調停ノ申立ヲ却下ス第七條第二項ニ該當スルトキ其ノ他調停ヲ爲スニ適當ナラザル事情存スルトキ亦同ジ
調停委員會前項ノ事由アリト認ムルトキハ調停ヲ爲サズ
第六條 調停ノ申立ヲ受理シタル事件ニ付訴訟ガ繫屬スルトキ又ハ裁判所ノ職權ヲ以テ事件ガ調停ニ付セラレタルトキハ受訴裁判所ハ決定ヲ以テ調停ノ終了又ハ第七條ノ規定ニ依ル裁判確定ニ至ル迄訴訟手續ヲ中止スルコトヲ得
調停事件ノ繫屬スル裁判所ハ申立ニ因リ決定ヲ以テ擔保ヲ供シ又ハ供セシメズシテ强制執行手續又ハ競賣法ニ依ル競賣手續ヲ一時停止スルコトヲ得
民事訴訟法第百十二條、第百十三條、第百十五條及第百十六條ノ規定ハ前項ノ擔保ニ之ヲ準用ス
第一項及第二項ノ決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第七條 調停委員會ニ於テ調停成ラザル場合ニ裁判所相當ト認ムルトキハ職權ヲ以テ調停委員ノ意見ヲ聽キ當事者雙方ノ利益ヲ衡平ニ考慮シ其ノ資力、業務ノ性質、旣ニ債務者ノ支拂ヒタル利息手數料內入金等ノ額其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ調停ニ代ヘ利息、期限其ノ他債務關係ノ變更ヲ命ズル裁判ヲ爲スコトヲ得此ノ裁判ニ於テハ債務ノ履行其ノ他財產上ノ給付ヲ命ズルコトヲ得
銀行其ノ他官廳ノ監督ヲ受ケテ金融業務ヲ取扱フ者ノ債權ニ付テハ其ノ業務ノ機構ヲ害スル虞アルトキハ前項ノ裁判ヲ爲スコトヲ得ズ
第八條 前條ノ規定ニ依ル裁判ハ調停事件ノ繫屬スル裁判所ニ於テ非訟事件手續法ニ依リ之ヲ爲ス
第九條 第七條ノ規定ニ依ル裁判ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
前項ノ卽時抗吿ハ執行停止ノ效力ヲ有ス
第十條 第七條ノ規定ニ依ル裁判確定シタルトキハ其ノ裁判ハ裁判上ノ和解ト同一ノ效力ヲ有ス
第十一條 調停委員又ハ調停委員タリシ者故ナク評議ノ顚末又ハ調停主任、調停委員ノ意見若ハ其ノ多少ノ數ヲ漏泄シタルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行ノ日ヨリ三年間其ノ效力ヲ有ス
本法失效ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル金銭債務臨時調停法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和七年九月六日
内閣総理大臣 子爵 斎藤実
司法大臣 小山松吉
法律第二十六号
金銭債務臨時調停法
第一条 負債ノ整理ニ依リ誠実ナル債務者ヲ更生セシムル為債権者債務者ノ互譲ヲ必要トスルトキハ当事者ハ本法ニ依リ調停ノ申立ヲ為スコトヲ得
第二条 調停ノ申立ハ昭和七年七月三十一日以前ニ発生シタル私法上ノ金銭債務ニシテ金額千円ヲ超過セザルモノニ付之ヲ為スコトヲ但得シ小作料其ノ他小作関係ヨリ生ジタルモノ及地代、家賃其ノ他借地借家関係ヨリ生ジタルモノニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ金額ニハ附帯ノ利息、違約金、費用又ハ手数料ノ額ヲ算入セズ既ニ元本ニ組入レタル此等ノモノニ付亦同ジ
第一項ノ金額ヲ超過スル債務ニ付調停ノ申立アリタル場合ト雖モ裁判所調停ヲ為スヲ相当ト認メ且相手方ニ異議ナキトキハ調停ヲ為スコトヲ得相手方期日ニ出頭シテ事件ノ内容ニ付陳述ヲ始メタルトキハ異議ナキモノト看做ス
第三条 調停ノ申立ハ相手方ノ住所、居所、営業所若ハ事務所ノ所在地ヲ管轄スル区裁判所又ハ当事者ノ合意ニ依リテ定ムル区裁判所ニ之ヲ為スコトヲ要ス
調停ノ申立ヲ受ケタル裁判所相当ト認ムルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ他ノ区裁判所ニ移送スルコトヲ得管轄権ナキ裁判所ガ調停ノ申立ヲ受ケタルトキ亦同ジ
前項ノ決定ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第四条 本法ノ調停ニ関シテハ借地借家調停法第二条、第四条ノ二、第六条乃至第二十三条及第二十六条乃至第三十二条ノ規定ヲ準用ス
第五条 事件ガ性質上調停ヲ為スニ適セズ又ハ当事者不当ノ目的ヲ以テ濫ニ調停ノ申立ヲ為シタリト認ムルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ調停ノ申立ヲ却下ス第七条第二項ニ該当スルトキ其ノ他調停ヲ為スニ適当ナラザル事情存スルトキ亦同ジ
調停委員会前項ノ事由アリト認ムルトキハ調停ヲ為サズ
第六条 調停ノ申立ヲ受理シタル事件ニ付訴訟ガ繋属スルトキ又ハ裁判所ノ職権ヲ以テ事件ガ調停ニ付セラレタルトキハ受訴裁判所ハ決定ヲ以テ調停ノ終了又ハ第七条ノ規定ニ依ル裁判確定ニ至ル迄訴訟手続ヲ中止スルコトヲ得
調停事件ノ繋属スル裁判所ハ申立ニ因リ決定ヲ以テ担保ヲ供シ又ハ供セシメズシテ強制執行手続又ハ競売法ニ依ル競売手続ヲ一時停止スルコトヲ得
民事訴訟法第百十二条、第百十三条、第百十五条及第百十六条ノ規定ハ前項ノ担保ニ之ヲ準用ス
第一項及第二項ノ決定ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第七条 調停委員会ニ於テ調停成ラザル場合ニ裁判所相当ト認ムルトキハ職権ヲ以テ調停委員ノ意見ヲ聴キ当事者双方ノ利益ヲ衡平ニ考慮シ其ノ資力、業務ノ性質、既ニ債務者ノ支払ヒタル利息手数料内入金等ノ額其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ調停ニ代ヘ利息、期限其ノ他債務関係ノ変更ヲ命ズル裁判ヲ為スコトヲ得此ノ裁判ニ於テハ債務ノ履行其ノ他財産上ノ給付ヲ命ズルコトヲ得
銀行其ノ他官庁ノ監督ヲ受ケテ金融業務ヲ取扱フ者ノ債権ニ付テハ其ノ業務ノ機構ヲ害スル虞アルトキハ前項ノ裁判ヲ為スコトヲ得ズ
第八条 前条ノ規定ニ依ル裁判ハ調停事件ノ繋属スル裁判所ニ於テ非訟事件手続法ニ依リ之ヲ為ス
第九条 第七条ノ規定ニ依ル裁判ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
前項ノ即時抗告ハ執行停止ノ効力ヲ有ス
第十条 第七条ノ規定ニ依ル裁判確定シタルトキハ其ノ裁判ハ裁判上ノ和解ト同一ノ効力ヲ有ス
第十一条 調停委員又ハ調停委員タリシ者故ナク評議ノ顛末又ハ調停主任、調停委員ノ意見若ハ其ノ多少ノ数ヲ漏泄シタルトキハ千円以下ノ罰金ニ処ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス
本法失効ノ際ニ於テ必要ナル経過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム