第一條 有爵者ハ其ノ家格ヲ維持スルニ必要ナル範圍內ニ於テ世襲財產ヲ設定スルコトヲ得
第二條 世襲財產ノ設定ハ遺言ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
第三條 世襲財產ハ家寶、不動產、登錄國債又ハ記名ノ有價證券ニ限ル
第四條 世襲財產ヲ設定セムトスルトキハ其ノ財產ノ目錄ヲ添ヘ宮內大臣ニ認可ヲ申請スヘシ
第五條 有爵者カ未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人、準禁治產者ナルトキハ其ノ保佐人ハ豫メ家政協議員會ノ決議ヲ經テ世襲財產設定ノ認可ヲ申請スルコトヲ得
有爵者カ疾病其ノ他ノ事由ニ因リ家產ヲ治ムルニ堪ヘス又ハ之ヲ傾クルノ虞アルトキハ家政協議員會ハ本人ニ代リテ前項ノ認可ヲ申請スルコトヲ得
第六條 世襲財產設定ノ認可ノ申請アリタルトキハ宮內大臣ハ其ノ當否ヲ調査スヘシ
前項ノ場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ宮內大臣ハ本人ノ財產ノ狀況ヲ調査スルコトヲ得
第七條 宮內大臣ハ世襲財產設定ノ認可ノ申請ヲ相當ナリト認ムルトキハ其ノ申請アリタル旨ヲ一週間公吿スヘシ
前項ノ公吿ニハ土地ニ付テハ其ノ所在地目及面積、建物ニ付テハ其ノ所在種類構造及建坪其ノ他ノ物件ニ付テハ其ノ品目種類箇數其ノ他必要ナル事項ヲ揭クヘシ
第八條 前條ノ規定ニ依リ公吿シタル財產ニ關シ權利ヲ有スル者及債權者ハ前條第一項ノ公吿期間內又ハ其ノ期間滿了後二月內ニ之ヲ宮內大臣ニ申出ツヘシ
世襲財產設定ノ認可ハ前項ニ定メタル期間滿了ノ後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第九條 宮內大臣ハ世襲財產設定ノ認可ノ申請ノ全部又ハ一部ヲ認可スヘカラサル理由アリト認ムルトキハ華族世襲財產審議會ニ諮詢スヘシ
第十條 宮內大臣ハ世襲財產ノ設定ヲ認可シタルトキハ其ノ旨及第七條第二項ニ揭クル事項ヲ公吿スヘシ
第十一條 前十條ノ規定ハ世襲財產ヲ增加スル場合ニ亦之ヲ適用ス
第十二條 宮內大臣ハ華族世襲財產臺帳ヲ設ケ世襲財產ニ關スル事項ヲ登錄スヘシ
第十三條 世襲財產タル登錄國債ニ付テハ國債登錄簿ニ世襲財產タル旨ヲ登錄シ有價證券ニ付テハ宮內大臣ハ之ニ世襲財產タル旨ヲ記入スヘシ
株券及社債券ニ付テハ前項ノ規定ニ依ルノ外株主名簿又ハ社債原簿ニ世襲財產タル旨ヲ記入スヘシ
登錄國債又ハ有價證券ノ世襲財產タル效力ハ前二項ノ手續ヲ踐ミタル後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第十四條 世襲財產ノ效力ヲ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルニ至リタル日以後ハ其ノ前ノ原因ニ基キ世襲財產ニ付所有權、質權又ハ抵當權ヲ有スル者ハ確定判決又ハ確定日附アル證書ニ依リテノミ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ權利ヲ主張セムトスル者ハ其ノ旨ヲ宮內大臣ニ申出ツヘシ
第十六條 世襲財產及其ノ法定果實ヲ收取スル權利ハ之ヲ讓渡シ又ハ質權若ハ抵當權ノ目的ト爲スコトヲ得ス株券カ世襲財產タル場合ニ於テ利益又ハ利息ノ配當ヲ受クル權利ニ付亦同シ
第十七條 土地カ世襲財產タル場合ニ於テ地上權又ハ永小作權ノ設定又ハ變更ハ宮內大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第十八條 世襲財產及第十六條ニ揭クル權利ハ世襲財產ノ管理ニ因リテ生シタル權利及不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ニ基ク場合ヲ除クノ外民事上ノ强制執行ノ目的ヲ以テ之ヲ差押ヘ又ハ一般ノ先取特權ニ基キ之ヲ競賣スルコトヲ得ス
世襲財產ノ果實及第十六條ノ利益又ハ利息カ他ノ財產ト混合セサル間其ノ三分ノ二ニ付亦前項ニ同シ
前二項ノ規定ハ世襲財產ノ效力ヲ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルニ至リタル日前ニ爲シタル假差押ニ基キ差押ヲ爲シ又ハ一般ノ先取特權ニ基キ著手シタル競賣ヲ續行スルコトヲ妨ケス
第十九條 世襲財產ハ重大ナル事由アルトキニ限リ其ノ一部ヲ廢止スルコトヲ得
世襲財產ハ他ノ世襲財產ニ換フル爲其ノ全部又ハ一部ヲ廢止スルコトヲ得
第四條、第五條第一項及第六條ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十條 宮內大臣ハ世襲財產ノ廢止ヲ認可スヘキヤ否ヤニ付華族世襲財產審議會ニ諮詢スヘシ
第二十一條 第十九條第二項ノ規定ニ依リ世襲財產ヲ廢止シタル場合ニ於テハ廢止ノ認可ヲ受ケタル者又ハ其ノ家督相續人ハ認可アリタル日ヨリ六月內ニ世襲財產設定ノ認可ヲ申請スヘシ
前項ノ期間內ニ申請ヲ爲ササルトキハ宮內大臣ハ相當ノ期間ヲ定メ其ノ申請ヲ爲スヘキ旨ヲ命スルコトヲ得
第二十二條 世襲財產カ收用、滯納處分、償還、滅失、競賣其ノ他ノ事由ニ因リ他ノ財產ニ代リタルトキハ所有者ハ其ノ財產ヲ以テ世襲財產ヲ補充スヘシ此ノ場合ニ於テハ前條第一項ノ規定ヲ準用ス
世襲財產ニ代リタル財產ニシテ他ノ財產ト混合セサルモノニ付テハ第十八條第一項ノ規定ヲ準用ス
宮內大臣ハ相當ノ事由アリト認ムルトキハ前條第一項ノ認可ノ申請ヲ免除スルコトヲ得
第二十三條 前二條ノ場合ニ於テ宮內大臣ハ必要アリト認ムルトキハ管理人ヲ選任シ世襲財產タリシ財產又ハ前條ノ財產及其ノ財產ノ處分ニ因リテ得タル財產ヲ管理セシムルコトヲ得果實又ハ配當ヲ受ケタル利益若ハ利息ニシテ管理財產ト混合シタルモノニ付亦同シ
宮內大臣ハ管理人ヲ改任シ其ノ他財產ノ管理ニ付必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第二十四條 管理人ノ選任アリタル場合ニ於テ本人、其ノ法定代理人又ハ保佐人カ世襲財產設定ノ認可ヲ申請セサルトキハ管理人ハ遲滯ナク管理財產ニ付其ノ申請ヲ爲スヘシ
第二十五條 管理財產ハ管理人ニ於テノミ之ヲ處分シ又ハ管理ニ因リテ生シタル權利若ハ不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ニ基キテノミ民事上ノ强制執行若ハ競賣ヲ爲スコトヲ得
第十六條及第十八條第二項ノ規定ハ管理財產ノ果實ニ之ヲ準用ス管理財產中株券アル場合ニ於テ利益又ハ利息ニ付亦同シ
第二十六條 有爵者爵ヲ失ヒ又ハ襲爵者ナキコト確定シタルトキハ世襲財產ハ失爵又ハ家督相續開始ノ時ヨリ其ノ效力ヲ失フ
第二十七條 世襲財產ニ付第十四條第二項ノ申出アリタル後二月內ニ主張ニ係ル權利ヲ消滅セシメ又ハ主張ニ對シ訴ヲ提起セサルトキハ其ノ財產ハ初ヨリ世襲財產タル效力ヲ失フ
前項ノ期間內ハ主張ニ係ル權利ニ基キテ競賣ヲ爲スコトヲ得ス
第二十八條 第二十三條乃至第二十五條ノ規定ハ前條第一項ノ規定ニ依リテ世襲財產タル效力ヲ失ヒタル財產アル場合ニ之ヲ準用ス
前項ノ財產ニ代リ其ノ所有者ニ歸シタル財產アル場合ニ於テハ第二十二條ノ規定ヲ準用ス
第二十九條 世襲財產ノ廢止、失效其ノ他ノ異動アリタルトキハ宮內大臣ハ其ノ旨ヲ公吿スヘシ管理人ヲ選任又ハ改任シタルトキ亦同シ
登錄國債又ハ有價證券ニ付世襲財產ノ廢止又ハ失效アリタルトキハ第十三條ノ登錄又ハ記入ヲ抹消スヘシ
第三十條 管理財產中登錄國債アルトキハ國債登錄簿ニ管理財產タル旨ヲ登錄シ管理終了シタルトキハ其ノ登錄ヲ抹消スヘシ
第三十一條 世襲財產ニ關スル公吿、登記又ハ登錄ノ費用ハ其ノ名義人ノ負擔トス
第三十二條 宮內大臣ハ必要アリト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ世襲財產ノ檢査ヲ爲サシムルコトヲ得
宮內大臣ハ世襲財產ノ管理ニ付必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第三十三條 本法ノ施行ニ關スル規程ハ宮內大臣之ヲ定ム