華族世襲財産法
法令番号: 勅令第三十四號
公布年月日: 明治19年4月29日
法令の形式: 勅令
朕華族世襲財產法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年四月二十八日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
勅令第三十四號
華族世襲財產法
第一條 華族戶主滿二十年以上ノ者ハ此法ニ依リ世襲財產ヲ創設スルコトヲ得但滿二十年以下ノ者ト雖モ前代戶主ノ遺言アルトキハ世襲財產ヲ創設スルコトヲ得
第二條 世襲財產ハ總テ家督相續者ヲシテ之ヲ相續セシムルモノトス
第三條 世襲財產ハ左ニ揭クル所ノ二類ニ限ル但第十五國立銀行株券ハ第二類ニ準シ世襲財產ト爲スコトヲ得
第一類 田畑山林宅地鹽田牧場池沼等
第二類 政府發行ノ公債證書又ハ政府ノ保證若クハ特別ノ監督ニ屬スル銀行若クハ會社ノ株券
第四條 世襲財產ハ前條二類中ノ一種又ハ數種ニシテ其總額每年金五百圓ニ下ラサル純收益ヲ生スル財產タルヘシ但其財產中收益ナキ地所ヲ加フルモ妨ケナシ
第五條 世襲財產ノ所有者ハ特ニ世襲スヘキ建物庭園圖書寶器等ヲ以テ世襲財產附屬物ト爲スコトヲ得
第六條 負債償却ノ義務アル財產ハ世襲財產及ヒ附屬物ト爲スコトヲ得ス
第七條 世襲財產ノ所有者ハ宮內大臣ノ認可ヲ得テ其財產ヲ增加スルコトヲ得
第八條 世襲財產ノ所有者ハ宮內大臣ノ認可ヲ得テ第二類ノ財產ヲ更換シテ第一類ノ財產ト爲スコトヲ得但第一類ヲ第二類ト爲スコトヲ得ス
第九條 第一類ノ財產若シ災害又ハ其他ノ事故ニ依リ第四條ノ制限額ヨリ減シタルトキハ五箇年以內ニ其缺額ヲ補充スヘシ
第十條 第二類ノ財產其元金ノ仕拂ヲ受ケタルトキハ一箇年以內ニ第一類又ハ第二類ノ財產ヲ以テ其缺額ヲ補充スヘシ
第十一條 世襲財產ノ所有者ハ其財產ノ純收益ヲ抵當トシテ負債ヲ爲スコトヲ得但每年其純收益ノ三分一以上ノ償却ヲ爲スヘキ義務ヲ負擔スルコトヲ得ス
第十二條 世襲財產ノ純收益ハ如何ナル場合ト雖モ債主ヨリ每年其三分一以上ヲ差押フルコトヲ得ス
第十三條 世襲財產及ヒ附屬物ハ之ヲ賣却讓與シ又ハ質入書入ト爲スコトヲ得ス
第十四條 世襲財產及ヒ附屬物ハ負債ノ抵償トシテ差押フルコトヲ得ス
第十五條 世襲財產ハ左ノ場合ニ於テハ其效力ヲ失フモノトス
一 戶主死亡ノ後家督相續スヘキ男子ナキトキ
一 爵ヲ奪ハレ又ハ族ヲ除カレ家督相續者ナキトキ
一 第九條第十條ニ揭ケタル缺額ヲ其期限內ニ補充セサルトキ
第十六條 世襲財產及ヒ附屬物ハ其所有者ニ於テ之ヲ廢止スルコトヲ得ス
第十七條 世襲財產ハ宮內大臣之ヲ管理シ華族局ヲシテ其事務ヲ取扱ハシム
第十八條 華族局ハ世襲財產臺帳ヲ備ヘ置キ世襲財產及ヒ之ニ關スル事項ヲ記入スヘシ
第十九條 世襲財產ヲ創設增加更換又ハ補充セントスル者ハ其願書ニ財產目錄ヲ添ヘ宮內大臣ニ差出シ其認可ヲ受クヘシ世襲財產附屬物ヲ設ケントスル者亦同シ
第二十條 宮內大臣ハ前條ノ願書目錄ヲ審査シ第一類ノ財產及ヒ第二類ノ公債證書ハ所轄ノ地方廳ニ命シ株券ハ銀行若クハ會社ニ命シ世襲財產ト爲スヘキ旨ヲ官報及ヒ其地方一定ノ新聞紙ニ揭ケ一週日間之ヲ公吿セシムヘシ
世襲財產附屬物ハ華族局ニ於テ之ヲ公吿スヘシ
第二十一條 前條公吿ヲ了リタル後三十日ヲ經テ該財產ニ關シ故障ヲ申出ル者ナキトキハ宮內大臣ハ世襲財產臺帳ニ記入セシメ第一類ノ財產ハ所轄ノ地方廳ニ命シ地券臺帳ニ記入セシメ地方廳ハ戶長ニ命シ公證簿ニ記入セシムヘシ第二類ノ公債證書ハ所轄ノ地方廳ニ株券ハ銀行若クハ會社ニ命シ帳簿ニ記入セシムヘシ
華族局ニ於テハ該地券又ハ公債證書若クハ株券ノ券面ニ世襲財產ト爲リタル旨ヲ記入スヘシ
第二十二條 世襲財產其效力ヲ失ヒタルトキハ宮內大臣ヨリ地方廳又ハ銀行若クハ會社ニ命シ之ヲ公吿セシムヘシ
世襲財產附屬物ハ華族局ニ於テ之ヲ公吿スヘシ
第二十三條 第二十條及ヒ第二十二條ニ關スル公吿費用ハ其財產所有者ヨリ之ヲ華族局ニ納ムヘシ
第二十四條 世襲財產ニ關スル事件ヲ協議スルカ爲メ戶主及ヒ滿二十年以上ノ相續者若クハ後見人ト親屬三名以上トヲ以テ親屬會議ヲ組織シ豫メ宮內大臣ニ屆出ヘシ但親屬ナキトキハ宮內大臣ノ認可ヲ得テ一族又ハ他ノ華族ヲ以テ親族會議員ニ充ルコトヲ得
第二十五條 世襲財產ニ關スル願書屆書ハ親屬會議各員ノ連署ヲ要ス
第二十六條 此法施行ノ手續ハ宮內大臣之ヲ定ム
第二十七條 此法ハ明治十九年八月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕華族世襲財産法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年四月二十八日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
勅令第三十四号
華族世襲財産法
第一条 華族戸主満二十年以上ノ者ハ此法ニ依リ世襲財産ヲ創設スルコトヲ得但満二十年以下ノ者ト雖モ前代戸主ノ遺言アルトキハ世襲財産ヲ創設スルコトヲ得
第二条 世襲財産ハ総テ家督相続者ヲシテ之ヲ相続セシムルモノトス
第三条 世襲財産ハ左ニ掲クル所ノ二類ニ限ル但第十五国立銀行株券ハ第二類ニ準シ世襲財産ト為スコトヲ得
第一類 田畑山林宅地塩田牧場池沼等
第二類 政府発行ノ公債証書又ハ政府ノ保証若クハ特別ノ監督ニ属スル銀行若クハ会社ノ株券
第四条 世襲財産ハ前条二類中ノ一種又ハ数種ニシテ其総額毎年金五百円ニ下ラサル純収益ヲ生スル財産タルヘシ但其財産中収益ナキ地所ヲ加フルモ妨ケナシ
第五条 世襲財産ノ所有者ハ特ニ世襲スヘキ建物庭園図書宝器等ヲ以テ世襲財産附属物ト為スコトヲ得
第六条 負債償却ノ義務アル財産ハ世襲財産及ヒ附属物ト為スコトヲ得ス
第七条 世襲財産ノ所有者ハ宮内大臣ノ認可ヲ得テ其財産ヲ増加スルコトヲ得
第八条 世襲財産ノ所有者ハ宮内大臣ノ認可ヲ得テ第二類ノ財産ヲ更換シテ第一類ノ財産ト為スコトヲ得但第一類ヲ第二類ト為スコトヲ得ス
第九条 第一類ノ財産若シ災害又ハ其他ノ事故ニ依リ第四条ノ制限額ヨリ減シタルトキハ五箇年以内ニ其欠額ヲ補充スヘシ
第十条 第二類ノ財産其元金ノ仕払ヲ受ケタルトキハ一箇年以内ニ第一類又ハ第二類ノ財産ヲ以テ其欠額ヲ補充スヘシ
第十一条 世襲財産ノ所有者ハ其財産ノ純収益ヲ抵当トシテ負債ヲ為スコトヲ得但毎年其純収益ノ三分一以上ノ償却ヲ為スヘキ義務ヲ負担スルコトヲ得ス
第十二条 世襲財産ノ純収益ハ如何ナル場合ト雖モ債主ヨリ毎年其三分一以上ヲ差押フルコトヲ得ス
第十三条 世襲財産及ヒ附属物ハ之ヲ売却譲与シ又ハ質入書入ト為スコトヲ得ス
第十四条 世襲財産及ヒ附属物ハ負債ノ抵償トシテ差押フルコトヲ得ス
第十五条 世襲財産ハ左ノ場合ニ於テハ其効力ヲ失フモノトス
一 戸主死亡ノ後家督相続スヘキ男子ナキトキ
一 爵ヲ奪ハレ又ハ族ヲ除カレ家督相続者ナキトキ
一 第九条第十条ニ掲ケタル欠額ヲ其期限内ニ補充セサルトキ
第十六条 世襲財産及ヒ附属物ハ其所有者ニ於テ之ヲ廃止スルコトヲ得ス
第十七条 世襲財産ハ宮内大臣之ヲ管理シ華族局ヲシテ其事務ヲ取扱ハシム
第十八条 華族局ハ世襲財産台帳ヲ備ヘ置キ世襲財産及ヒ之ニ関スル事項ヲ記入スヘシ
第十九条 世襲財産ヲ創設増加更換又ハ補充セントスル者ハ其願書ニ財産目録ヲ添ヘ宮内大臣ニ差出シ其認可ヲ受クヘシ世襲財産附属物ヲ設ケントスル者亦同シ
第二十条 宮内大臣ハ前条ノ願書目録ヲ審査シ第一類ノ財産及ヒ第二類ノ公債証書ハ所轄ノ地方庁ニ命シ株券ハ銀行若クハ会社ニ命シ世襲財産ト為スヘキ旨ヲ官報及ヒ其地方一定ノ新聞紙ニ掲ケ一週日間之ヲ公告セシムヘシ
世襲財産附属物ハ華族局ニ於テ之ヲ公告スヘシ
第二十一条 前条公告ヲ了リタル後三十日ヲ経テ該財産ニ関シ故障ヲ申出ル者ナキトキハ宮内大臣ハ世襲財産台帳ニ記入セシメ第一類ノ財産ハ所轄ノ地方庁ニ命シ地券台帳ニ記入セシメ地方庁ハ戸長ニ命シ公証簿ニ記入セシムヘシ第二類ノ公債証書ハ所轄ノ地方庁ニ株券ハ銀行若クハ会社ニ命シ帳簿ニ記入セシムヘシ
華族局ニ於テハ該地券又ハ公債証書若クハ株券ノ券面ニ世襲財産ト為リタル旨ヲ記入スヘシ
第二十二条 世襲財産其効力ヲ失ヒタルトキハ宮内大臣ヨリ地方庁又ハ銀行若クハ会社ニ命シ之ヲ公告セシムヘシ
世襲財産附属物ハ華族局ニ於テ之ヲ公告スヘシ
第二十三条 第二十条及ヒ第二十二条ニ関スル公告費用ハ其財産所有者ヨリ之ヲ華族局ニ納ムヘシ
第二十四条 世襲財産ニ関スル事件ヲ協議スルカ為メ戸主及ヒ満二十年以上ノ相続者若クハ後見人ト親属三名以上トヲ以テ親属会議ヲ組織シ予メ宮内大臣ニ届出ヘシ但親属ナキトキハ宮内大臣ノ認可ヲ得テ一族又ハ他ノ華族ヲ以テ親族会議員ニ充ルコトヲ得
第二十五条 世襲財産ニ関スル願書届書ハ親属会議各員ノ連署ヲ要ス
第二十六条 此法施行ノ手続ハ宮内大臣之ヲ定ム
第二十七条 此法ハ明治十九年八月一日ヨリ之ヲ施行ス