新聞紙法
法令番号: 法律第四十一號
公布年月日: 明治42年5月6日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル新聞紙法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年五月五日
內閣總理大臣 侯爵 桂太郞
陸軍大臣 子爵 寺內正毅
外務大臣 伯爵 小村壽太郞
海軍大臣 男爵 齋藤實
內務大臣 法學博士 男爵 平田東助
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第四十一號
新聞紙法
第一條 本法ニ於テ新聞紙ト稱スルハ一定ノ題號ヲ用井時期ヲ定メ又ハ六箇月以內ノ期間ニ於テ時期ヲ定メスシテ發行スル著作物及定時期以外ニ本著作物ト同一題號ヲ用井テ臨時發行スル著作物ヲ謂フ
同一題號ノ新聞紙ヲ他ノ地方ニ於テ發行スルトキハ各別種ノ新聞紙ト看做ス
第二條 左ニ揭クル者ハ新聞紙ノ發行人又ハ編輯人タルコトヲ得ス
一 本法ヲ施行スル帝國領土內ニ居住セサル者
二 陸海軍軍人ニシテ現役若ハ召集中ノ者
三 未成年者、禁治產者及準禁治產者
四 懲役又ハ禁錮ノ刑ノ執行中又ハ執行猶豫中ノ者
第三條 印刷所ハ本法ヲ施行スル帝國領土外ニ之ヲ設クルコトヲ得ス
第四條 新聞紙ノ發行人ハ左ノ事項ヲ內務大臣ニ屆出ツヘシ
一 題號
二 揭載事項ノ種類
三 時事ニ關スル事項ノ揭載ノ有無
四 發行ノ時期、若時期ヲ定メサルトキハ其ノ旨
五 第一囘發行ノ年月日
六 發行所及印刷所
七 持主ノ氏名、若法人ナルトキハ其ノ名稱及代表者ノ氏名
八 發行人、編輯人及印刷人ノ氏名年齡但シ編輯人二人以上アルトキハ其ノ主トシテ編輯事務ヲ擔當スル者ノ氏名年齡
前項ノ屆出ハ持主又ハ其ノ法定代理人ノ連署シタル書面ヲ以テシ第一囘發行ノ日ヨリ十日以前ニ管轄地方官廳ニ差出スヘシ
第五條 前條第一項第一號乃至第三號ノ事項ノ變更ハ變更ノ日ヨリ十日以前ニ第四號若ハ第六號ノ事項又ハ持主、編輯人、印刷人ノ變更ハ變更前又ハ變更後七日以內ニ前條ノ手續ニ依リ發行人ヨリ之ヲ內務大臣ニ屆出ツヘシ但シ持主變更ノ屆出ニハ死亡ニ因ル場合ノ外新舊持主又ハ其ノ法定代理人ノ連署ヲ要ス
第六條 死亡シ又ハ第二條ニ該當スルニ至リタル發行人ノ權利及義務ヲ承繼シタル發行人ハ其ノ發行人ト爲リタル日ヨリ七日以內ニ前條ノ手續ヲ爲スヘシ
前項ノ場合ノ外發行人ノ變更ハ變更ノ日ヨリ十日以前ニ前條ノ手續ヲ爲スヘシ
第七條 新聞紙ハ屆出ヲ爲シタル發行時期又ハ發行休止ノ日ヨリ起算シテ百日間、三囘發行ノ期間ヲ通シテ百日ヲ超ユル新聞紙ニ在リテハ三囘發行ノ期間之ヲ發行セサルトキハ其ノ發行ヲ廢止シタルモノト看做ス
第八條 發行人若ハ編輯人死亡シ又ハ第二條ニ該當スルニ至リ後任ノ發行人若ハ編輯人ヲ定メサル間又ハ發行人若ハ編輯人一箇月以上本法ヲ施行スル帝國領土外ニ旅行スル場合ニ於テハ假發行人若ハ假編輯人ヲ設クルニ非サレハ新聞紙ノ發行ヲ爲スコトヲ得ス
發行人及編輯人ニ關スル本法ノ規定ハ假發行人及假編輯人ニ之ヲ準用ス
第九條 編輯人ノ責任ニ關スル本法ノ規定ハ左ニ揭クル者ニ之ヲ準用ス
一 編輯人以外ニ於テ實際編輯ヲ擔當シタル者
二 揭載ノ事項ニ署名シタル者
三 正誤書、辯駁書ノ事項ニ付テハ其ノ揭載ヲ請求シタル者
第十條 新聞紙ニハ發行人、編輯人、印刷人ノ氏名及發行所ヲ揭載スヘシ
第十一條 新聞紙ハ發行ト同時ニ內務省ニ二部、管轄地方官廳、地方裁判所檢事局及區裁判所檢事局ニ各一部ヲ納ムヘシ
第十二條 時事ニ關スル事項ヲ揭載スル新聞紙ハ管轄地方官廳ニ保證トシテ左ノ金額ヲ納ムルニ非サレハ之ヲ發行スルコトヲ得ス
一 東京市、大阪市及其ノ市外三里以內ノ地ニ於テハ二千圓
二 人口七萬以上ノ市又ハ區及其ノ市又ハ區外一里以內ノ地ニ於テハ千圓
三 其ノ他ノ地方ニ於テハ五百圓
前項ノ金額ハ一箇月三囘以下發行スルモノニ在リテハ其ノ半額トス
保證金ハ命令ヲ以テ定ムル種類ノ有價證券ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
第十三條 保證金ニ對スル權利及義務ハ發行人變更ノ場合ニ於テ後任發行人之ヲ承繼スルモノトス
第十四條 保證金ハ發行ヲ廢止シタルトキニ非サレハ其ノ還附ヲ請求シ又ハ其ノ債權ヲ讓渡スルコトヲ得ス但シ國稅徵收法及之ヲ準用スル法令ヲ適用シ又ハ名譽ニ對スル罪ニ因ル損害賠償ノ判決ヲ執行スルハ此ノ限ニ在ラス
第十五條 保證金ヲ納ムル新聞紙ニ關シ發行人又ハ編輯人罰金又ハ刑事訴訟費用ノ言渡確定ノ日ヨリ十日以內ニ之ヲ完納セサルトキハ檢事ハ保證金ノ全部又ハ一部ヲ之ニ充ツルコトヲ得
第十六條 保證金ハ其ノ闕額ヲ生シタル場合ニ於テ之ヲ塡補スルニ非サレハ其ノ新聞紙ヲ發行スルコトヲ得ス但シ闕額ヲ生シタル日ヨリ七日以內ハ此ノ限ニ在ラス
第十七條 新聞紙ニ揭載シタル事項ノ錯誤ニ付其ノ事項ニ關スル本人又ハ直接關係者ヨリ正誤又ハ正誤書、辯駁書ノ揭載ヲ請求シタルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル後次囘又ハ第三囘ノ發行ニ於テ正誤ヲ爲シ又ハ正誤書、辯駁書ノ全文ヲ揭載スヘシ
正誤、辯駁ハ原文ト同號ノ活字ヲ用ウヘシ
正誤、辯駁ノ趣旨法令ニ違反スルトキ又ハ請求者ノ氏名住所ヲ明記セサルトキハ之ヲ揭載スルコトヲ要セス
正誤書、辯駁書ノ字數原文ノ字數ヲ超過シタルトキハ其ノ超過ノ字數ニ付發行人ノ定メタル普通廣吿料ト同一ノ料金ヲ要求スルコトヲ得
第十八條 官報又ハ他ノ新聞紙ヨリ抄錄セシ事項ニシテ官報又ハ新聞紙ニ於テ正誤シ又ハ正誤書、辯駁書ヲ揭載シタルトキハ本人又ハ直接關係者ノ請求ナシト雖其ノ官報又ハ新聞紙ヲ得タル後前條ノ例ニ依リ正誤シ又ハ正誤書、辯駁書ヲ揭載スヘシ但シ料金ヲ要求スルコトヲ得ス
第十九條 新聞紙ハ公判ニ付スル以前ニ於テ豫審ノ內容其ノ他檢事ノ差止メタル搜査又ハ豫審中ノ被吿事件ニ關スル事項又ハ公開ヲ停メタル訴訟ノ辯論ヲ揭載スルコトヲ得ス
第二十條 新聞紙ハ官署、公署又ハ法令ヲ以テ組織シタル議會ニ於テ公ニセサル文書又ハ公開セサル會議ノ議事ヲ許可ヲ受ケスシテ揭載スルコトヲ得ス請願書又ハ訴願書ニシテ公ニセラレサルモノ亦同シ
第二十一條 新聞紙ハ犯罪ヲ煽動若ハ曲庇シ又ハ犯罪人若ハ刑事被吿人ヲ賞恤若ハ救護シ又ハ刑事被吿人ヲ陷害スルノ事項ヲ揭載スルコトヲ得ス
第二十二條 第四條乃至第六條ノ屆出ヲ爲サス若ハ屆出ヲ爲スモ實ヲ以テセス又ハ保證金ヲ納メ若ハ之ヲ塡補スヘキ場合ニ於テ之ヲ納メ若ハ之ヲ塡補セスシテ發行シタルトキハ正當ノ屆出ヲ爲シ又ハ保證金ヲ納メ若ハ之ヲ塡補スル迄管轄地方官廳ニ於テ新聞紙ノ發行ヲ差止ムヘシ
第二十三條 內務大臣ハ新聞紙揭載ノ事項ニシテ安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スルモノト認ムルトキハ其ノ發賣及頒布ヲ禁止シ必要ノ場合ニ於テハ之ヲ差押フルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ內務大臣ハ同一主旨ノ事項ノ揭載ヲ差止ムルコトヲ得
第二十四條 內務大臣ハ外國若ハ本法ヲ施行セサル帝國領土ニ於テ發行シタル新聞紙揭載ノ事項ニシテ安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スルモノト認ムルトキハ其ノ本法施行ノ地域內ニ於ケル發賣及頒布ヲ禁止シ必要ナル場合ニ於テハ之ヲ差押フルコトヲ得
新聞紙ニ對シ一年以內ニ二囘以上前項ノ處分ヲ爲シタルトキハ內務大臣ハ其ノ新聞紙ヲ本法施行ノ地域內ニ輸入又ハ移入スルヲ禁止スルコトヲ得
第二十五條 前條第二項ニ依ル禁止ノ命令ニ違反シテ輸入又ハ移入シタル新聞紙及第四十三條ニ依ル禁止ノ裁判ニ違反シテ發賣又ハ頒布スルノ目的ヲ以テ印刷シタル新聞紙ハ管轄地方官廳ニ於テ之ヲ差押フルコトヲ得
第二十六條 本法ニ依リ差押ヘタル新聞紙ニシテ二年以上其ノ差押ヲ解除セラレサルトキハ差押ヲ執行シタル行政官廳ニ於テ之ヲ處分スルコトヲ得
第二十七條 陸軍大臣、海軍大臣及外務大臣ハ新聞紙ニ對シ命令ヲ以テ軍事若ハ外交ニ關スル事項ノ揭載ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得
第二十八條 第二條ニ該當スル者ニシテ事實ヲ詐リ發行人又ハ編輯人ト爲リタルトキハ三月以下ノ懲役又ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十九條 第三條ニ違反シタル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條 第四條乃至第六條ノ屆出ヲ爲サス若ハ屆出ヲ爲スモ實ヲ以テセス又ハ第四條第一項第一號、第四號乃至第六號ニ關シ屆出ノ事項ニ違反シタル行爲ヲ爲シ又ハ第十一條ニ違反シタルトキハ發行人ヲ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第三十一條 第四條第一項第二號又ハ第三號ニ關シ屆出ノ事項ニ違反シタル行爲ヲ爲シタルトキハ發行人及編輯人ヲ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第三十二條 第八條第一項ニ違反シタルトキハ發行人死亡シ又ハ第二條ニ該當スルニ至リタル場合ニ於テハ實際發行ヲ爲シタル者、其ノ他ノ場合ニ於テハ發行人ヲ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第三十三條 第十條ニ違反シ又ハ揭載ニ實ヲ以テセサルトキハ發行人及編輯人ヲ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第三十四條 第十二條第一項、第二項、第十六條ニ違反シ又ハ第二十二條ニ依ル差止ノ命令ニ違反シタルトキハ發行人ヲ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十五條 第十七條第一項、第二項又ハ第十八條ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ五十圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
前項ノ罪ハ私事ニ係ル場合ニ於テ吿訴ヲ待テ之ヲ論ス
第三十六條 第十九條、第二十條ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十七條 第二十一條ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ三月以下ノ禁錮又ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十八條 第二十三條ニ依ル禁止若ハ差止ノ命令、第二十四條ニ依ル禁止ノ命令、第四十三條ニ依ル禁止ノ裁判ニ違反シタルトキハ發行人、編輯人ヲ六月以下ノ禁錮又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス情ヲ知リテ其ノ新聞紙ヲ發賣又ハ頒布シタル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十九條 第二十三條第一項、第二十四條第一項、第二十五條ニ依ル差押處分ノ執行ヲ妨害シタル者ハ六月以下ノ禁錮又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十條 第二十七條ニ依ル禁止又ハ制限ノ命令ニ違反シタルトキハ發行人、編輯人ヲ二年以下ノ禁錮又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十一條 安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スル事項ヲ新聞紙ニ揭載シタルトキハ發行人、編輯人ヲ六月以下ノ禁錮又ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十二條 皇室ノ尊嚴ヲ冒瀆シ政體ヲ變改シ又ハ朝憲ヲ紊亂セムトスルノ事項ヲ新聞紙ニ揭載シタルトキハ發行人、編輯人、印刷人ヲ二年以下ノ禁錮及三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十三條 第四十條乃至第四十二條ニ依リ處罰スル場合ニ於テ裁判所ハ其ノ新聞紙ノ發行ヲ禁止スルコトヲ得
第四十四條 本法ニ定メタル犯罪ニハ刑法併合罪ノ規定ヲ適用セス
第四十五條 新聞紙ニ揭載シタル事項ニ付名譽ニ對スル罪ノ公訴ヲ提起シタル場合ニ於テ其ノ私行ニ涉ルモノヲ除クノ外裁判所ニ於テ惡意ニ出テス專ラ公益ノ爲ニスルモノト認ムルトキハ被吿人ニ事實ヲ證明スルコトヲ許スコトヲ得若其ノ證明ノ確立ヲ得タルトキハ其ノ行爲ハ之ヲ罰セス公訴ニ關聯スル損害賠償ノ訴ニ對シテハ其ノ義務ヲ免ル
附 則
新聞紙條例ハ之ヲ廢止ス
本法施行前ヨリ發行スル新聞紙ニシテ本法ノ規定ニ依リ保證金ニ闕額ヲ生スルニ至リタルトキハ本法施行ノ日ヨリ三年間其ノ塡補ヲ猶豫ス
第二十六條ノ規定ハ本法施行前ノ差押ニ係ル新聞紙ニ之ヲ準用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル新聞紙法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年五月五日
内閣総理大臣 侯爵 桂太郎
陸軍大臣 子爵 寺内正毅
外務大臣 伯爵 小村寿太郎
海軍大臣 男爵 斎藤実
内務大臣 法学博士 男爵 平田東助
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第四十一号
新聞紙法
第一条 本法ニ於テ新聞紙ト称スルハ一定ノ題号ヲ用井時期ヲ定メ又ハ六箇月以内ノ期間ニ於テ時期ヲ定メスシテ発行スル著作物及定時期以外ニ本著作物ト同一題号ヲ用井テ臨時発行スル著作物ヲ謂フ
同一題号ノ新聞紙ヲ他ノ地方ニ於テ発行スルトキハ各別種ノ新聞紙ト看做ス
第二条 左ニ掲クル者ハ新聞紙ノ発行人又ハ編輯人タルコトヲ得ス
一 本法ヲ施行スル帝国領土内ニ居住セサル者
二 陸海軍軍人ニシテ現役若ハ召集中ノ者
三 未成年者、禁治産者及準禁治産者
四 懲役又ハ禁錮ノ刑ノ執行中又ハ執行猶予中ノ者
第三条 印刷所ハ本法ヲ施行スル帝国領土外ニ之ヲ設クルコトヲ得ス
第四条 新聞紙ノ発行人ハ左ノ事項ヲ内務大臣ニ届出ツヘシ
一 題号
二 掲載事項ノ種類
三 時事ニ関スル事項ノ掲載ノ有無
四 発行ノ時期、若時期ヲ定メサルトキハ其ノ旨
五 第一回発行ノ年月日
六 発行所及印刷所
七 持主ノ氏名、若法人ナルトキハ其ノ名称及代表者ノ氏名
八 発行人、編輯人及印刷人ノ氏名年齢但シ編輯人二人以上アルトキハ其ノ主トシテ編輯事務ヲ担当スル者ノ氏名年齢
前項ノ届出ハ持主又ハ其ノ法定代理人ノ連署シタル書面ヲ以テシ第一回発行ノ日ヨリ十日以前ニ管轄地方官庁ニ差出スヘシ
第五条 前条第一項第一号乃至第三号ノ事項ノ変更ハ変更ノ日ヨリ十日以前ニ第四号若ハ第六号ノ事項又ハ持主、編輯人、印刷人ノ変更ハ変更前又ハ変更後七日以内ニ前条ノ手続ニ依リ発行人ヨリ之ヲ内務大臣ニ届出ツヘシ但シ持主変更ノ届出ニハ死亡ニ因ル場合ノ外新旧持主又ハ其ノ法定代理人ノ連署ヲ要ス
第六条 死亡シ又ハ第二条ニ該当スルニ至リタル発行人ノ権利及義務ヲ承継シタル発行人ハ其ノ発行人ト為リタル日ヨリ七日以内ニ前条ノ手続ヲ為スヘシ
前項ノ場合ノ外発行人ノ変更ハ変更ノ日ヨリ十日以前ニ前条ノ手続ヲ為スヘシ
第七条 新聞紙ハ届出ヲ為シタル発行時期又ハ発行休止ノ日ヨリ起算シテ百日間、三回発行ノ期間ヲ通シテ百日ヲ超ユル新聞紙ニ在リテハ三回発行ノ期間之ヲ発行セサルトキハ其ノ発行ヲ廃止シタルモノト看做ス
第八条 発行人若ハ編輯人死亡シ又ハ第二条ニ該当スルニ至リ後任ノ発行人若ハ編輯人ヲ定メサル間又ハ発行人若ハ編輯人一箇月以上本法ヲ施行スル帝国領土外ニ旅行スル場合ニ於テハ仮発行人若ハ仮編輯人ヲ設クルニ非サレハ新聞紙ノ発行ヲ為スコトヲ得ス
発行人及編輯人ニ関スル本法ノ規定ハ仮発行人及仮編輯人ニ之ヲ準用ス
第九条 編輯人ノ責任ニ関スル本法ノ規定ハ左ニ掲クル者ニ之ヲ準用ス
一 編輯人以外ニ於テ実際編輯ヲ担当シタル者
二 掲載ノ事項ニ署名シタル者
三 正誤書、弁駁書ノ事項ニ付テハ其ノ掲載ヲ請求シタル者
第十条 新聞紙ニハ発行人、編輯人、印刷人ノ氏名及発行所ヲ掲載スヘシ
第十一条 新聞紙ハ発行ト同時ニ内務省ニ二部、管轄地方官庁、地方裁判所検事局及区裁判所検事局ニ各一部ヲ納ムヘシ
第十二条 時事ニ関スル事項ヲ掲載スル新聞紙ハ管轄地方官庁ニ保証トシテ左ノ金額ヲ納ムルニ非サレハ之ヲ発行スルコトヲ得ス
一 東京市、大阪市及其ノ市外三里以内ノ地ニ於テハ二千円
二 人口七万以上ノ市又ハ区及其ノ市又ハ区外一里以内ノ地ニ於テハ千円
三 其ノ他ノ地方ニ於テハ五百円
前項ノ金額ハ一箇月三回以下発行スルモノニ在リテハ其ノ半額トス
保証金ハ命令ヲ以テ定ムル種類ノ有価証券ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
第十三条 保証金ニ対スル権利及義務ハ発行人変更ノ場合ニ於テ後任発行人之ヲ承継スルモノトス
第十四条 保証金ハ発行ヲ廃止シタルトキニ非サレハ其ノ還附ヲ請求シ又ハ其ノ債権ヲ譲渡スルコトヲ得ス但シ国税徴収法及之ヲ準用スル法令ヲ適用シ又ハ名誉ニ対スル罪ニ因ル損害賠償ノ判決ヲ執行スルハ此ノ限ニ在ラス
第十五条 保証金ヲ納ムル新聞紙ニ関シ発行人又ハ編輯人罰金又ハ刑事訴訟費用ノ言渡確定ノ日ヨリ十日以内ニ之ヲ完納セサルトキハ検事ハ保証金ノ全部又ハ一部ヲ之ニ充ツルコトヲ得
第十六条 保証金ハ其ノ闕額ヲ生シタル場合ニ於テ之ヲ填補スルニ非サレハ其ノ新聞紙ヲ発行スルコトヲ得ス但シ闕額ヲ生シタル日ヨリ七日以内ハ此ノ限ニ在ラス
第十七条 新聞紙ニ掲載シタル事項ノ錯誤ニ付其ノ事項ニ関スル本人又ハ直接関係者ヨリ正誤又ハ正誤書、弁駁書ノ掲載ヲ請求シタルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル後次回又ハ第三回ノ発行ニ於テ正誤ヲ為シ又ハ正誤書、弁駁書ノ全文ヲ掲載スヘシ
正誤、弁駁ハ原文ト同号ノ活字ヲ用ウヘシ
正誤、弁駁ノ趣旨法令ニ違反スルトキ又ハ請求者ノ氏名住所ヲ明記セサルトキハ之ヲ掲載スルコトヲ要セス
正誤書、弁駁書ノ字数原文ノ字数ヲ超過シタルトキハ其ノ超過ノ字数ニ付発行人ノ定メタル普通広告料ト同一ノ料金ヲ要求スルコトヲ得
第十八条 官報又ハ他ノ新聞紙ヨリ抄録セシ事項ニシテ官報又ハ新聞紙ニ於テ正誤シ又ハ正誤書、弁駁書ヲ掲載シタルトキハ本人又ハ直接関係者ノ請求ナシト雖其ノ官報又ハ新聞紙ヲ得タル後前条ノ例ニ依リ正誤シ又ハ正誤書、弁駁書ヲ掲載スヘシ但シ料金ヲ要求スルコトヲ得ス
第十九条 新聞紙ハ公判ニ付スル以前ニ於テ予審ノ内容其ノ他検事ノ差止メタル捜査又ハ予審中ノ被告事件ニ関スル事項又ハ公開ヲ停メタル訴訟ノ弁論ヲ掲載スルコトヲ得ス
第二十条 新聞紙ハ官署、公署又ハ法令ヲ以テ組織シタル議会ニ於テ公ニセサル文書又ハ公開セサル会議ノ議事ヲ許可ヲ受ケスシテ掲載スルコトヲ得ス請願書又ハ訴願書ニシテ公ニセラレサルモノ亦同シ
第二十一条 新聞紙ハ犯罪ヲ煽動若ハ曲庇シ又ハ犯罪人若ハ刑事被告人ヲ賞恤若ハ救護シ又ハ刑事被告人ヲ陥害スルノ事項ヲ掲載スルコトヲ得ス
第二十二条 第四条乃至第六条ノ届出ヲ為サス若ハ届出ヲ為スモ実ヲ以テセス又ハ保証金ヲ納メ若ハ之ヲ填補スヘキ場合ニ於テ之ヲ納メ若ハ之ヲ填補セスシテ発行シタルトキハ正当ノ届出ヲ為シ又ハ保証金ヲ納メ若ハ之ヲ填補スル迄管轄地方官庁ニ於テ新聞紙ノ発行ヲ差止ムヘシ
第二十三条 内務大臣ハ新聞紙掲載ノ事項ニシテ安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スルモノト認ムルトキハ其ノ発売及頒布ヲ禁止シ必要ノ場合ニ於テハ之ヲ差押フルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ内務大臣ハ同一主旨ノ事項ノ掲載ヲ差止ムルコトヲ得
第二十四条 内務大臣ハ外国若ハ本法ヲ施行セサル帝国領土ニ於テ発行シタル新聞紙掲載ノ事項ニシテ安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スルモノト認ムルトキハ其ノ本法施行ノ地域内ニ於ケル発売及頒布ヲ禁止シ必要ナル場合ニ於テハ之ヲ差押フルコトヲ得
新聞紙ニ対シ一年以内ニ二回以上前項ノ処分ヲ為シタルトキハ内務大臣ハ其ノ新聞紙ヲ本法施行ノ地域内ニ輸入又ハ移入スルヲ禁止スルコトヲ得
第二十五条 前条第二項ニ依ル禁止ノ命令ニ違反シテ輸入又ハ移入シタル新聞紙及第四十三条ニ依ル禁止ノ裁判ニ違反シテ発売又ハ頒布スルノ目的ヲ以テ印刷シタル新聞紙ハ管轄地方官庁ニ於テ之ヲ差押フルコトヲ得
第二十六条 本法ニ依リ差押ヘタル新聞紙ニシテ二年以上其ノ差押ヲ解除セラレサルトキハ差押ヲ執行シタル行政官庁ニ於テ之ヲ処分スルコトヲ得
第二十七条 陸軍大臣、海軍大臣及外務大臣ハ新聞紙ニ対シ命令ヲ以テ軍事若ハ外交ニ関スル事項ノ掲載ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得
第二十八条 第二条ニ該当スル者ニシテ事実ヲ詐リ発行人又ハ編輯人ト為リタルトキハ三月以下ノ懲役又ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十九条 第三条ニ違反シタル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十条 第四条乃至第六条ノ届出ヲ為サス若ハ届出ヲ為スモ実ヲ以テセス又ハ第四条第一項第一号、第四号乃至第六号ニ関シ届出ノ事項ニ違反シタル行為ヲ為シ又ハ第十一条ニ違反シタルトキハ発行人ヲ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第三十一条 第四条第一項第二号又ハ第三号ニ関シ届出ノ事項ニ違反シタル行為ヲ為シタルトキハ発行人及編輯人ヲ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第三十二条 第八条第一項ニ違反シタルトキハ発行人死亡シ又ハ第二条ニ該当スルニ至リタル場合ニ於テハ実際発行ヲ為シタル者、其ノ他ノ場合ニ於テハ発行人ヲ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第三十三条 第十条ニ違反シ又ハ掲載ニ実ヲ以テセサルトキハ発行人及編輯人ヲ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第三十四条 第十二条第一項、第二項、第十六条ニ違反シ又ハ第二十二条ニ依ル差止ノ命令ニ違反シタルトキハ発行人ヲ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十五条 第十七条第一項、第二項又ハ第十八条ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ五十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
前項ノ罪ハ私事ニ係ル場合ニ於テ告訴ヲ待テ之ヲ論ス
第三十六条 第十九条、第二十条ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十七条 第二十一条ニ違反シタルトキハ編輯人ヲ三月以下ノ禁錮又ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十八条 第二十三条ニ依ル禁止若ハ差止ノ命令、第二十四条ニ依ル禁止ノ命令、第四十三条ニ依ル禁止ノ裁判ニ違反シタルトキハ発行人、編輯人ヲ六月以下ノ禁錮又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス情ヲ知リテ其ノ新聞紙ヲ発売又ハ頒布シタル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十九条 第二十三条第一項、第二十四条第一項、第二十五条ニ依ル差押処分ノ執行ヲ妨害シタル者ハ六月以下ノ禁錮又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十条 第二十七条ニ依ル禁止又ハ制限ノ命令ニ違反シタルトキハ発行人、編輯人ヲ二年以下ノ禁錮又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スル事項ヲ新聞紙ニ掲載シタルトキハ発行人、編輯人ヲ六月以下ノ禁錮又ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十二条 皇室ノ尊厳ヲ冒涜シ政体ヲ変改シ又ハ朝憲ヲ紊乱セムトスルノ事項ヲ新聞紙ニ掲載シタルトキハ発行人、編輯人、印刷人ヲ二年以下ノ禁錮及三百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十三条 第四十条乃至第四十二条ニ依リ処罰スル場合ニ於テ裁判所ハ其ノ新聞紙ノ発行ヲ禁止スルコトヲ得
第四十四条 本法ニ定メタル犯罪ニハ刑法併合罪ノ規定ヲ適用セス
第四十五条 新聞紙ニ掲載シタル事項ニ付名誉ニ対スル罪ノ公訴ヲ提起シタル場合ニ於テ其ノ私行ニ渉ルモノヲ除クノ外裁判所ニ於テ悪意ニ出テス専ラ公益ノ為ニスルモノト認ムルトキハ被告人ニ事実ヲ証明スルコトヲ許スコトヲ得若其ノ証明ノ確立ヲ得タルトキハ其ノ行為ハ之ヲ罰セス公訴ニ関連スル損害賠償ノ訴ニ対シテハ其ノ義務ヲ免ル
附 則
新聞紙条例ハ之ヲ廃止ス
本法施行前ヨリ発行スル新聞紙ニシテ本法ノ規定ニ依リ保証金ニ闕額ヲ生スルニ至リタルトキハ本法施行ノ日ヨリ三年間其ノ填補ヲ猶予ス
第二十六条ノ規定ハ本法施行前ノ差押ニ係ル新聞紙ニ之ヲ準用ス