憲兵条例
法令番号: 勅令第二百三十一號
公布年月日: 明治29年5月26日
法令の形式: 勅令
朕憲兵條例ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年五月二十五日
海軍大臣 侯爵 西鄕從道
陸軍大臣 侯爵 大山巖
內務大臣 伯爵 板垣退助
司法大臣 芳川顯正
拓殖務大臣 子爵 高島鞆之助
勅令第二百三十一號
憲兵條例
第一章 總則
第一條 憲兵ハ陸軍兵ノ一ニシテ陸軍大臣ノ管轄ニ屬シ軍事警察、行政警察、司法警察ヲ掌ル其ノ戰時若クハ事變ニ際シ特ニ要スル服務ノ規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二條 憲兵ノ職掌軍事警察ニ係ルモノハ陸軍大臣及海軍大臣ニ隸シ行政警察ニ係ルモノハ內務大臣ニ隸シ司法警察ニ係ルモノハ司法大臣ニ隸ス但北海道ノ行政警察ニ係ルモノハ拓殖務大臣ニ隸ス
第三條 憲兵ハ行政警察、司法警察ニ係ル事件ニ付警視總監、北海道廳長官、府縣知事東京府ヲ除ク及檢事ノ指示ヲ承ク
第四條 憲兵ハ其ノ職務上ニ關シ正當ノ職權ヲ有スル者ヨリ要求アルトキハ直ニ之ニ應スヘシ
第五條 憲兵ハ左ニ記載スル場合ニアラサレハ兵器ヲ用ウルコトヲ得ス
一 暴行ヲ受クルトキ
二 其ノ占守スル土地若クハ委託セラレタル場所又ハ人ヲ防衞スルニ兵力ヲ用ウルノ外他ニ手段ナキトキ又ハ兵力ヲ以テセサレハ抗抵ニ勝ツ能ハサルトキ
第六條 必要ノ場合ニ際シ內務大臣、陸軍大臣、拓殖務大臣協議シテ憲兵ヲ一時其ノ管區外ニ分派スルコトヲ得
第二章 配置編制
第七條 東京ニ憲兵司令部ヲ置キ各管區ニ憲兵隊ヲ配置ス
憲兵管區ハ別表ニ依ル
第八條 各府縣廳所在地及北海道樞要ノ地ニ漸次憲兵分隊ヲ置ク其ノ管轄區域ヲ憲兵警察區トス
第九條 憲兵警察區ヲ數箇ノ憲兵巡察區ニ分畫シ各巡察區ニ憲兵一伍若クハ數伍ヲ配置ス
第十條 憲兵警察區ノ區域ハ府縣ハ其ノ區域ニ從ヒ北海道ニ在テハ陸軍大臣拓殖務大臣協議シテ之ヲ定メ憲兵巡察區ハ憲兵隊長ヨリ警視總監、北海道廳長官、府縣知事東京府ヲ除クニ協議シテ之ヲ定ム
第十一條 憲兵司令部ノ職員左ノ如シ
憲兵司令官 少將若クハ憲兵大佐
副官 憲兵少佐、憲兵大中尉
軍吏
書記 憲兵下士、軍吏部下士若クハ屬
第十二條 憲兵隊ノ職員左ノ如シ
本部
隊長 憲兵中少佐
副官 憲兵大中尉
軍吏
下副官(准士官) 憲兵曹長
書記 憲兵下士若クハ軍吏部下士
分隊
分隊長 憲兵大中尉
分隊副長 憲兵中尉
書記 憲兵下士
上等伍長(准士官)
伍長
憲兵曹長
憲兵上等兵
分隊副長及上等伍長ハ之ヲ置カサルコトヲ得
第十三條 憲兵上等兵五名乃至十二名ヲ以テ一伍トシ數伍ヲ以テ一分隊トシ數分隊ヲ以テ一隊ト爲ス
時宜ニ依リ一伍中ノ若干名ヲ乘馬兵ト爲ス
第十四條 憲兵隊ハ番號ヲ附シ憲兵分隊ハ府縣名北海道ニ在テハ分隊首部所在地名ヲ冠ス
第三章 職務
第十五條 憲兵司令官ハ全國ノ憲兵隊ヲ統轄シ司令部ノ事務ヲ總理ス
第十六條 憲兵司令官非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ速ニ內務大臣、陸軍大臣、海軍大臣、司法大臣、拓殖務大臣ニ申報スヘシ
第十七條 憲兵司令官ハ軍紀、風紀、訓練、敎育及職務服行ノ程度ヲ檢閱スル爲メ必要ト認ムル時機ニ於テ各憲兵隊ヲ巡視シ其ノ景況ヲ陸軍大臣ニ申報スヘシ
第十八條 憲兵隊長ハ各分隊ヲ統轄シ其ノ勤務方法ヲ指定シ隊中ノ事務ヲ總理ス
第十九條 憲兵隊長ハ管區內ノ情勢ヲ審ニシ非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ速ニ憲兵司令官ニ申報シ且其ノ事件ノ必要ニ依リ衞戍司令官、要塞司令官、鎭守府司令長官、要港部司令官、北海道廳長官及管轄控訴院檢事長ニ申報スヘシ
第二十條 憲兵分隊長ハ部下ヲ指揮監督シ其ノ勤務方法ヲ指定シ分隊ノ事務ヲ處理ス又警察區內ノ情勢ヲ審ニシ非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ警視總監、府縣知事東京府ヲ除ク及管轄地方裁判所檢事正及憲兵隊長ニ申報シ且其ノ事件ノ必要ニ依リ直ニ衞戍司令官、要塞司令官、鎭守府司令長官、要港部司令官ニ申報スヘシ
第二十一條 憲兵分隊長ハ常ニ警部長其ノ他警察署長ト交互諜報シ其ノ地方ノ情況ヲ知悉スヘシ
第二十二條 憲兵分隊副長ハ分隊ノ一部ヲ指揮ス其ノ職掌分隊長ニ亞ク
第二十三條 憲兵上等伍長及伍長ハ憲兵上等兵ノ勤務ヲ指示監督シ且巡察區內ヲ巡視シ其ノ事情ヲ知悉スヘシ又必要ノ事件ハ常ニ其ノ地方警察官ト相互諜報スヘシ
第二十四條 憲兵上等兵ハ常ニ巡察區內ヲ巡察シ其ノ事情ヲ審ニスヘシ
第二十五條 憲兵ノ勤務諸報吿等ニ係ル細則ハ各主管大臣之ヲ定ム
附 則
第二十六條 當分ノ內憲兵少尉ヲ以テ分隊長若クハ分隊副長ノ職ニ充ツルコトヲ得
第二十七條 明治二十八年勅令第九十五號憲兵條例第四章及第五章ハ更ニ補充及服役ニ關スル規程ヲ設クル迄仍其ノ效力ヲ有ス
(別表)
【表】
朕憲兵条例ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年五月二十五日
海軍大臣 侯爵 西郷従道
陸軍大臣 侯爵 大山巌
内務大臣 伯爵 板垣退助
司法大臣 芳川顕正
拓殖務大臣 子爵 高島鞆之助
勅令第二百三十一号
憲兵条例
第一章 総則
第一条 憲兵ハ陸軍兵ノ一ニシテ陸軍大臣ノ管轄ニ属シ軍事警察、行政警察、司法警察ヲ掌ル其ノ戦時若クハ事変ニ際シ特ニ要スル服務ノ規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二条 憲兵ノ職掌軍事警察ニ係ルモノハ陸軍大臣及海軍大臣ニ隷シ行政警察ニ係ルモノハ内務大臣ニ隷シ司法警察ニ係ルモノハ司法大臣ニ隷ス但北海道ノ行政警察ニ係ルモノハ拓殖務大臣ニ隷ス
第三条 憲兵ハ行政警察、司法警察ニ係ル事件ニ付警視総監、北海道庁長官、府県知事東京府ヲ除ク及検事ノ指示ヲ承ク
第四条 憲兵ハ其ノ職務上ニ関シ正当ノ職権ヲ有スル者ヨリ要求アルトキハ直ニ之ニ応スヘシ
第五条 憲兵ハ左ニ記載スル場合ニアラサレハ兵器ヲ用ウルコトヲ得ス
一 暴行ヲ受クルトキ
二 其ノ占守スル土地若クハ委託セラレタル場所又ハ人ヲ防衛スルニ兵力ヲ用ウルノ外他ニ手段ナキトキ又ハ兵力ヲ以テセサレハ抗抵ニ勝ツ能ハサルトキ
第六条 必要ノ場合ニ際シ内務大臣、陸軍大臣、拓殖務大臣協議シテ憲兵ヲ一時其ノ管区外ニ分派スルコトヲ得
第二章 配置編制
第七条 東京ニ憲兵司令部ヲ置キ各管区ニ憲兵隊ヲ配置ス
憲兵管区ハ別表ニ依ル
第八条 各府県庁所在地及北海道枢要ノ地ニ漸次憲兵分隊ヲ置ク其ノ管轄区域ヲ憲兵警察区トス
第九条 憲兵警察区ヲ数箇ノ憲兵巡察区ニ分画シ各巡察区ニ憲兵一伍若クハ数伍ヲ配置ス
第十条 憲兵警察区ノ区域ハ府県ハ其ノ区域ニ従ヒ北海道ニ在テハ陸軍大臣拓殖務大臣協議シテ之ヲ定メ憲兵巡察区ハ憲兵隊長ヨリ警視総監、北海道庁長官、府県知事東京府ヲ除クニ協議シテ之ヲ定ム
第十一条 憲兵司令部ノ職員左ノ如シ
憲兵司令官 少将若クハ憲兵大佐
副官 憲兵少佐、憲兵大中尉
軍吏
書記 憲兵下士、軍吏部下士若クハ属
第十二条 憲兵隊ノ職員左ノ如シ
本部
隊長 憲兵中少佐
副官 憲兵大中尉
軍吏
下副官(准士官) 憲兵曹長
書記 憲兵下士若クハ軍吏部下士
分隊
分隊長 憲兵大中尉
分隊副長 憲兵中尉
書記 憲兵下士
上等伍長(准士官)
伍長
憲兵曹長
憲兵上等兵
分隊副長及上等伍長ハ之ヲ置カサルコトヲ得
第十三条 憲兵上等兵五名乃至十二名ヲ以テ一伍トシ数伍ヲ以テ一分隊トシ数分隊ヲ以テ一隊ト為ス
時宜ニ依リ一伍中ノ若干名ヲ乗馬兵ト為ス
第十四条 憲兵隊ハ番号ヲ附シ憲兵分隊ハ府県名北海道ニ在テハ分隊首部所在地名ヲ冠ス
第三章 職務
第十五条 憲兵司令官ハ全国ノ憲兵隊ヲ統轄シ司令部ノ事務ヲ総理ス
第十六条 憲兵司令官非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ速ニ内務大臣、陸軍大臣、海軍大臣、司法大臣、拓殖務大臣ニ申報スヘシ
第十七条 憲兵司令官ハ軍紀、風紀、訓練、教育及職務服行ノ程度ヲ検閲スル為メ必要ト認ムル時機ニ於テ各憲兵隊ヲ巡視シ其ノ景況ヲ陸軍大臣ニ申報スヘシ
第十八条 憲兵隊長ハ各分隊ヲ統轄シ其ノ勤務方法ヲ指定シ隊中ノ事務ヲ総理ス
第十九条 憲兵隊長ハ管区内ノ情勢ヲ審ニシ非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ速ニ憲兵司令官ニ申報シ且其ノ事件ノ必要ニ依リ衛戍司令官、要塞司令官、鎮守府司令長官、要港部司令官、北海道庁長官及管轄控訴院検事長ニ申報スヘシ
第二十条 憲兵分隊長ハ部下ヲ指揮監督シ其ノ勤務方法ヲ指定シ分隊ノ事務ヲ処理ス又警察区内ノ情勢ヲ審ニシ非常若クハ緊要ノ事件アルコトヲ知リタルトキハ警視総監、府県知事東京府ヲ除ク及管轄地方裁判所検事正及憲兵隊長ニ申報シ且其ノ事件ノ必要ニ依リ直ニ衛戍司令官、要塞司令官、鎮守府司令長官、要港部司令官ニ申報スヘシ
第二十一条 憲兵分隊長ハ常ニ警部長其ノ他警察署長ト交互諜報シ其ノ地方ノ情況ヲ知悉スヘシ
第二十二条 憲兵分隊副長ハ分隊ノ一部ヲ指揮ス其ノ職掌分隊長ニ亜ク
第二十三条 憲兵上等伍長及伍長ハ憲兵上等兵ノ勤務ヲ指示監督シ且巡察区内ヲ巡視シ其ノ事情ヲ知悉スヘシ又必要ノ事件ハ常ニ其ノ地方警察官ト相互諜報スヘシ
第二十四条 憲兵上等兵ハ常ニ巡察区内ヲ巡察シ其ノ事情ヲ審ニスヘシ
第二十五条 憲兵ノ勤務諸報告等ニ係ル細則ハ各主管大臣之ヲ定ム
附 則
第二十六条 当分ノ内憲兵少尉ヲ以テ分隊長若クハ分隊副長ノ職ニ充ツルコトヲ得
第二十七条 明治二十八年勅令第九十五号憲兵条例第四章及第五章ハ更ニ補充及服役ニ関スル規程ヲ設クル迄仍其ノ効力ヲ有ス
(別表)
【表】