航海奨励法
法令番号: 法律第十五號
公布年月日: 明治29年3月24日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル航海奬勵法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年三月二十三日
內閣總理大臣臨時代理 樞密院議長 伯爵 黑田淸隆
遞信大臣 白根專一
法律第十五號
航海奬勵法
第一條 帝國臣民又ハ帝國臣民ノミヲ社員若ハ株主トスル商事會社ニシテ自己ノ所有ニ專屬シ帝國船籍ニ登錄シタル船舶ヲ以テ帝國ト外國トノ間又ハ外國諸港ノ間ニ於テ貨物、旅客ノ運搬ヲ營業トスル者ニハ此ノ法律ノ規程ニ依リ其ノ船舶ニ對シ航海奬勵金ヲ下付ス
第二條 此ノ法律ニ依リ航海奬勵金ヲ受クヘキ船舶ハ總噸數一千噸以上ニシテ一時間十海里以上ノ最强速力ヲ有シ遞信大臣ノ定ムル造船規程ニ合格シタル鐵製又ハ鋼製汽船ニ限ル
第三條 航海奬勵金ヲ受ケムトスル船舶ノ所有者ハ其ノ船舶ニ對シ豫メ遞信大臣ノ認許ヲ受クヘシ
第四條 左ノ船舶ハ航海奬勵金ヲ受クルコトヲ得ス
第一 此ノ法律施行以後帝國船籍ニ登錄ノ際製造後五箇年ヲ經過シタル外國製造ノ船舶
第二 製造後十五箇年ヲ經過シタル船舶
第三 帝國政府ノ命令ニ依レル航路ニ使用スル船舶
第五條 航海奬勵金ハ總噸數一千噸ニシテ一時間十海里ノ最强速力ヲ有スル船舶ニ對シ總噸數一噸航海里數一千海里ニ付二十五錢ヲ支給シ總噸數五百噸ヲ增ス每ニ其ノ百分ノ十、最强速力一時間一海里ヲ增ス每ニ其ノ百分ノ二十ヲ增給ス但シ總噸數六千五百噸以上又ハ最强速力一時間十八海里以上ノ船舶ニ對シテハ總噸數六千噸又ハ最强速力一時間十七海里ノ船舶ニ對スル割合ニ依リ支給ス
航海奬勵金ハ製造後五箇年ヲ經過セサル船舶ニ對シテハ全額ヲ支給シ五箇年ヲ經過シタル船舶ニ對シテハ一年每ニ其ノ百分ノ五ヲ遞減ス
航海奬勵金ヲ算定スルニハ一噸未滿一海里未滿ノ端數ヲ算入セス
第六條 航海里數ハ各港間ノ最近航路ニ依リ之ヲ算定ス
帝國各港ヘ寄港シ外國ヘ發航スル船舶ニ在テハ最終ノ寄港地ヲ起㸃トシ又外國ヨリ發航シ帝國各港ニ寄港スル船舶ニ在テハ最初ノ寄港地ヲ終㸃トシテ其ノ航海里數ヲ算定ス
航海里數ヲ證明スルニハ寄港地官廳ノ寄港證明ヲ以テスヘシ
第七條 遞信大臣ハ命令ヲ發シ相當ノ金額ヲ給與シテ第三條ノ認許ヲ受ケタル船舶ヲ公用ノ爲ニ使用スルコトヲ得
船舶所有者前項ノ給與金額ニ對シ不服アルトキハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以內ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項ノ出訴ハ使用ヲ停止セス
第八條 第三條ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者ハ遞信大臣ノ命令ニ依リ左ノ割合以內ニ於テ其ノ費用ヲ以テ航海修業生ヲ該船舶ニ乘組マシメ同大臣ノ定ムル手當ヲ支給スヘシ
總噸數一千噸以上二千五百噸未滿 二人
總噸數二千五百噸以上四千噸未滿 三人
總噸數四千噸以上 四人
第九條 第三條ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者ハ遞信大臣ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外國人ヲ其ノ本支店ノ事務員若ハ該船舶ノ職員ト爲スコトヲ得ス但シ外國ニ於テ死亡其ノ他止ムヲ得サル事故ニ因リ船舶職員ニ缺員ヲ生シタルトキハ該地官廳ノ公認ヲ經テ之ヲ補フコトヲ得此ノ場合ニ於テハ該船舶ノ所有者又ハ船長ヨリ直ニ遞信大臣ノ許可ヲ請フヘシ
第十條 第三條ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者航海奬勵金ヲ受ケ航海スル場合ニ於テハ遞信大臣ノ命令ニ從ヒ該船舶ニ郵便吏員ヲ無賃乘船セシメ及該船舶ヲ以テ郵便物、小包郵便物、郵便用品及小包郵便用品ヲ無料ニテ遞送スヘシ
第十一條 第三條ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者及其ノ承繼人ハ航海奬勵金ヲ受ケ航海スル期間竝其ノ航海ヲ終リタル日ヨリ三箇年間其ノ船舶ヲ外國人ニ賣渡、貸渡、交換、贈與、質入、書入スルコトヲ得ス但シ其ノ船舶ノ既ニ受ケタル航海奬勵金ヲ償還シタルトキ又ハ天災其ノ他抗拒スヘカラサル强制ニ因リ航行ニ堪ヘサルトキ若ハ遞信大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十二條 遞信大臣ハ此ノ法律ニ依リ船舶所有者ノ義務ニ屬スル事項ニ付テハ直ニ其ノ代人若ハ船長ニ命令ヲ下スコトヲ得
第十三條 詐僞ノ所爲ヲ以テ航海奬勵金ヲ受ケタル者又ハ第十一條ノ規程ニ違背シタル者ハ一年以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ二百圓以上千圓以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ依リ處斷ス
第十四條 此ノ法律ニ依リ遞信大臣ノ發スル命令又ハ第九條ノ規程ニ違背シタル者ハ二十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十五條 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第十六條 詐僞ノ所爲ヲ以テ航海奬勵金ヲ受ケタル者ハ其ノ因テ得タル金額ヲ償還セシメ第十一條ノ規程ニ違背シタル者ハ其ノ既ニ受ケタル航海奬勵金ヲ償還セシム
第十七條 船舶所有者此ノ法律ヲ犯シタルトキハ遞信大臣ハ航海奬勵金ノ下付ヲ停止スルコトヲ得第十二條ノ場合ニ於テ其ノ代人又ハ船長ノ犯シタルトキ亦同シ
第十八條 前數條ノ罰則ハ商事會社ニ在テハ其ノ各條ニ揭クル所爲ヲ爲シタル業務擔當ノ任アル社員若ハ取締役ニ之ヲ適用ス
第十九條 此ノ法律ハ明治二十九年十月一日ヨリ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル航海奨励法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年三月二十三日
内閣総理大臣臨時代理 枢密院議長 伯爵 黒田清隆
逓信大臣 白根専一
法律第十五号
航海奨励法
第一条 帝国臣民又ハ帝国臣民ノミヲ社員若ハ株主トスル商事会社ニシテ自己ノ所有ニ専属シ帝国船籍ニ登録シタル船舶ヲ以テ帝国ト外国トノ間又ハ外国諸港ノ間ニ於テ貨物、旅客ノ運搬ヲ営業トスル者ニハ此ノ法律ノ規程ニ依リ其ノ船舶ニ対シ航海奨励金ヲ下付ス
第二条 此ノ法律ニ依リ航海奨励金ヲ受クヘキ船舶ハ総噸数一千噸以上ニシテ一時間十海里以上ノ最強速力ヲ有シ逓信大臣ノ定ムル造船規程ニ合格シタル鉄製又ハ鋼製汽船ニ限ル
第三条 航海奨励金ヲ受ケムトスル船舶ノ所有者ハ其ノ船舶ニ対シ予メ逓信大臣ノ認許ヲ受クヘシ
第四条 左ノ船舶ハ航海奨励金ヲ受クルコトヲ得ス
第一 此ノ法律施行以後帝国船籍ニ登録ノ際製造後五箇年ヲ経過シタル外国製造ノ船舶
第二 製造後十五箇年ヲ経過シタル船舶
第三 帝国政府ノ命令ニ依レル航路ニ使用スル船舶
第五条 航海奨励金ハ総噸数一千噸ニシテ一時間十海里ノ最強速力ヲ有スル船舶ニ対シ総噸数一噸航海里数一千海里ニ付二十五銭ヲ支給シ総噸数五百噸ヲ増ス毎ニ其ノ百分ノ十、最強速力一時間一海里ヲ増ス毎ニ其ノ百分ノ二十ヲ増給ス但シ総噸数六千五百噸以上又ハ最強速力一時間十八海里以上ノ船舶ニ対シテハ総噸数六千噸又ハ最強速力一時間十七海里ノ船舶ニ対スル割合ニ依リ支給ス
航海奨励金ハ製造後五箇年ヲ経過セサル船舶ニ対シテハ全額ヲ支給シ五箇年ヲ経過シタル船舶ニ対シテハ一年毎ニ其ノ百分ノ五ヲ逓減ス
航海奨励金ヲ算定スルニハ一噸未満一海里未満ノ端数ヲ算入セス
第六条 航海里数ハ各港間ノ最近航路ニ依リ之ヲ算定ス
帝国各港ヘ寄港シ外国ヘ発航スル船舶ニ在テハ最終ノ寄港地ヲ起点トシ又外国ヨリ発航シ帝国各港ニ寄港スル船舶ニ在テハ最初ノ寄港地ヲ終点トシテ其ノ航海里数ヲ算定ス
航海里数ヲ証明スルニハ寄港地官庁ノ寄港証明ヲ以テスヘシ
第七条 逓信大臣ハ命令ヲ発シ相当ノ金額ヲ給与シテ第三条ノ認許ヲ受ケタル船舶ヲ公用ノ為ニ使用スルコトヲ得
船舶所有者前項ノ給与金額ニ対シ不服アルトキハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項ノ出訴ハ使用ヲ停止セス
第八条 第三条ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者ハ逓信大臣ノ命令ニ依リ左ノ割合以内ニ於テ其ノ費用ヲ以テ航海修業生ヲ該船舶ニ乗組マシメ同大臣ノ定ムル手当ヲ支給スヘシ
総噸数一千噸以上二千五百噸未満 二人
総噸数二千五百噸以上四千噸未満 三人
総噸数四千噸以上 四人
第九条 第三条ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者ハ逓信大臣ノ許可ヲ受クルニ非サレハ外国人ヲ其ノ本支店ノ事務員若ハ該船舶ノ職員ト為スコトヲ得ス但シ外国ニ於テ死亡其ノ他止ムヲ得サル事故ニ因リ船舶職員ニ欠員ヲ生シタルトキハ該地官庁ノ公認ヲ経テ之ヲ補フコトヲ得此ノ場合ニ於テハ該船舶ノ所有者又ハ船長ヨリ直ニ逓信大臣ノ許可ヲ請フヘシ
第十条 第三条ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者航海奨励金ヲ受ケ航海スル場合ニ於テハ逓信大臣ノ命令ニ従ヒ該船舶ニ郵便吏員ヲ無賃乗船セシメ及該船舶ヲ以テ郵便物、小包郵便物、郵便用品及小包郵便用品ヲ無料ニテ逓送スヘシ
第十一条 第三条ノ認許ヲ受ケタル船舶ノ所有者及其ノ承継人ハ航海奨励金ヲ受ケ航海スル期間並其ノ航海ヲ終リタル日ヨリ三箇年間其ノ船舶ヲ外国人ニ売渡、貸渡、交換、贈与、質入、書入スルコトヲ得ス但シ其ノ船舶ノ既ニ受ケタル航海奨励金ヲ償還シタルトキ又ハ天災其ノ他抗拒スヘカラサル強制ニ因リ航行ニ堪ヘサルトキ若ハ逓信大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十二条 逓信大臣ハ此ノ法律ニ依リ船舶所有者ノ義務ニ属スル事項ニ付テハ直ニ其ノ代人若ハ船長ニ命令ヲ下スコトヲ得
第十三条 詐偽ノ所為ヲ以テ航海奨励金ヲ受ケタル者又ハ第十一条ノ規程ニ違背シタル者ハ一年以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ二百円以上千円以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ依リ処断ス
第十四条 此ノ法律ニ依リ逓信大臣ノ発スル命令又ハ第九条ノ規程ニ違背シタル者ハ二十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第十五条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第十六条 詐偽ノ所為ヲ以テ航海奨励金ヲ受ケタル者ハ其ノ因テ得タル金額ヲ償還セシメ第十一条ノ規程ニ違背シタル者ハ其ノ既ニ受ケタル航海奨励金ヲ償還セシム
第十七条 船舶所有者此ノ法律ヲ犯シタルトキハ逓信大臣ハ航海奨励金ノ下付ヲ停止スルコトヲ得第十二条ノ場合ニ於テ其ノ代人又ハ船長ノ犯シタルトキ亦同シ
第十八条 前数条ノ罰則ハ商事会社ニ在テハ其ノ各条ニ掲クル所為ヲ為シタル業務担当ノ任アル社員若ハ取締役ニ之ヲ適用ス
第十九条 此ノ法律ハ明治二十九年十月一日ヨリ施行ス