砂鉱採取法
法令番号: 法律第十號
公布年月日: 明治26年3月6日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル砂鑛採取法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年三月四日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 伯爵 後藤象二郞
法律第十號
砂鑛採取法
第一條 此ノ法律ニ於テ砂鑛トハ砂金、砂錫及砂鐵ヲ謂フ
第二條 砂鑛ヲ採取セムト欲スル者ハ所轄鑛山監督署長ヲ經由シ農商務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
第三條 帝國臣民ニ非サレハ採取人トナリ又ハ採取業ニ關スル組合員又ハ會社員トナルコトヲ得ス
採取人未成年、瘋癲、白痴又ハ瘖瘂ナルトキハ後見人ヲ立ツヘシ
農商務省鑛山局及鑛山監督署ノ官吏ハ在職中採取人トナリ又ハ採取業ニ關スル組合員又ハ會社員トナルコトヲ得ス
第四條 採取區域內ノ土地他人ノ所有ニ係ルトキハ所有者又ハ關係人ノ承諾ヲ受クヘシ
土地所有者又ハ關係人ハ自ラ採取ヲ出願スルトキノ外前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス但シ承諾ヲ與フルトキハ相當ノ砂鑛採取料ヲ要求スルコトヲ得
第五條 採取ノ事業公益ヲ害スト認ムルトキハ農商務大臣ハ其ノ出願ヲ許可セス
第六條 採取ノ事業公益ニ害アルトキハ農商務大臣ハ既ニ與ヘタル許可ヲ取消スコトヲ得
第七條 採取業上ニ危險ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ所轄鑛山監督署長ハ採取人ニ其ノ豫防ヲ命シ又ハ採取業ヲ停止スヘシ
所轄鑛山監督署長ニ於テ採取業ヲ停止セムトスルトキハ其ノ猶豫シ難キ場合ヲ除クノ外ハ農商務大臣ノ認可ヲ經ヘシ
採取業ヲ停止シタル後其ノ事故止ミタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ其ノ停止ヲ解クヘシ
第八條 採取人前條ニ依リ命セラレタル豫防ヲ怠ルトキハ農商務大臣ハ既ニ與ヘタル許可ヲ取消スコトヲ得
第九條 採取人正當ノ理由ナクシテ一箇年以上休業シ又ハ採取ノ許可ヲ受ケタル日ヨリ一箇年以內ニ採取ニ著手セサルトキハ農商務大臣ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第十條 詐僞又ハ錯誤ニ由リ採取ノ許可ヲ得タルコトヲ發見シタルトキハ農商務大臣ハ其ノ許可ヲ取消スヘシ若其ノ許可ニ付利害ノ關係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ發見シタルトキハ許可ノ日ヨリ三十日以內ニ其ノ許可ノ取消ヲ農商務大臣ニ請求スルコトヲ得
第十一條 第六條第八條第九條及第十條ノ處分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十二條 採取許可取消ノ處分ヲ受ケタル採取人ハ同一區域ニ付一箇年間採取ノ出願ヲ爲スコトヲ得ス
第十三條 左ノ場合ニ於テ採取人他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ必要トシ其ノ貸渡ヲ請求シタルトキハ其ノ土地所有者又ハ關係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
一 洗鑛ノ爲
一 製鍊所建設ノ爲
一 洗滌用水路及溜池開設ノ爲
第十四條 採取人ハ使用スル土地ニ對シ其ノ土地所有者ニ相當ノ借地料ヲ仕拂フヘシ
其ノ質入トナリタル土地ニ對スル借地料ハ質取主ニ於テ之ヲ受領スルモノトス
土地使用ニ依リ貸渡人又ハ關係人ニ損害ヲ加フルトキハ採取人ハ之ニ對シ相當ノ賠償ヲ爲スヘシ
第十五條 採取人借地料ノ仕拂ヲ延滯シタルトキハ土地所有者ハ其ノ土地ヲ取戾スコトヲ得
第十六條 第十三條ノ場合ニ於テ採取人五箇年以上土地ヲ使用スルトキハ其ノ土地所有者ハ土地ノ買取ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ採取人ハ其ノ買取ヲ拒ムコトヲ得ス
第十七條 採取人ノ請求ニ依リ土地ヲ分割シテ賣渡シ又ハ貸渡シタルカ爲殘地ノ利用ヲ害スルトキハ土地所有者ハ採取人ニ對シ其ノ土地全部ノ買取若ハ借受ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ採取人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第十八條 土地所有者又ハ關係人ト採取人トノ間ニ於テ土地貸渡、採取料、借地料、損害賠償金又ハ土地賣買代金ニ付協議調ハサルトキハ所轄鑛山監督署長ニ其ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
所轄鑛山監督署長ノ判定ニ不服アルトキハ其ノ判定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ土地貸渡ニ就テハ農商務大臣ニ其ノ裁定ヲ請求シ採取料、借地料、損害賠償金若ハ土地賣買代金ニ就テハ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ對シテハ他ニ出訴スルコトヲ得ス
第十九條 所轄鑛山監督署長ノ判定又ハ農商務大臣ノ裁定請求ノ爲ニ要スル費用ハ民事訴訟費用ノ例ニ依リ負擔スヘキモノトス
第二十條 採取人ハ土地所有者又ハ關係人ニ於テ所轄鑛山監督署長ノ判定シタル採取料、借地料、損害賠償金又ハ土地賣買代金ニ不服アルモ其ノ金額ヲ土地所有者又ハ關係人ニ渡シ若之ヲ受ケサルトキハ其ノ金額ヲ供託所ニ預置キ土地ヲ使用スルコトヲ得
第二十一條 許可ヲ得スシテ採取ヲ爲シタル者又ハ詐僞ニ由リテ許可ヲ得タル者ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
第二十二條 此ノ法律施行以前ニ許可ヲ得タル採取人ハ此ノ法律ニ依リ引續キ其ノ業ヲ爲スコトヲ得
第二十三條 砂鑛採取ノ警察其ノ他國土保安ニ關シ必要ナル規定及此ノ法律ノ施行細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第二十四條 此ノ法律ハ明治二十六年四月一日ヨリ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル砂鉱採取法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年三月四日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 伯爵 後藤象二郎
法律第十号
砂鉱採取法
第一条 此ノ法律ニ於テ砂鉱トハ砂金、砂錫及砂鉄ヲ謂フ
第二条 砂鉱ヲ採取セムト欲スル者ハ所轄鉱山監督署長ヲ経由シ農商務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
第三条 帝国臣民ニ非サレハ採取人トナリ又ハ採取業ニ関スル組合員又ハ会社員トナルコトヲ得ス
採取人未成年、瘋癲、白痴又ハ瘖瘂ナルトキハ後見人ヲ立ツヘシ
農商務省鉱山局及鉱山監督署ノ官吏ハ在職中採取人トナリ又ハ採取業ニ関スル組合員又ハ会社員トナルコトヲ得ス
第四条 採取区域内ノ土地他人ノ所有ニ係ルトキハ所有者又ハ関係人ノ承諾ヲ受クヘシ
土地所有者又ハ関係人ハ自ラ採取ヲ出願スルトキノ外前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス但シ承諾ヲ与フルトキハ相当ノ砂鉱採取料ヲ要求スルコトヲ得
第五条 採取ノ事業公益ヲ害スト認ムルトキハ農商務大臣ハ其ノ出願ヲ許可セス
第六条 採取ノ事業公益ニ害アルトキハ農商務大臣ハ既ニ与ヘタル許可ヲ取消スコトヲ得
第七条 採取業上ニ危険ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ所轄鉱山監督署長ハ採取人ニ其ノ予防ヲ命シ又ハ採取業ヲ停止スヘシ
所轄鉱山監督署長ニ於テ採取業ヲ停止セムトスルトキハ其ノ猶予シ難キ場合ヲ除クノ外ハ農商務大臣ノ認可ヲ経ヘシ
採取業ヲ停止シタル後其ノ事故止ミタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ其ノ停止ヲ解クヘシ
第八条 採取人前条ニ依リ命セラレタル予防ヲ怠ルトキハ農商務大臣ハ既ニ与ヘタル許可ヲ取消スコトヲ得
第九条 採取人正当ノ理由ナクシテ一箇年以上休業シ又ハ採取ノ許可ヲ受ケタル日ヨリ一箇年以内ニ採取ニ著手セサルトキハ農商務大臣ハ其ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第十条 詐偽又ハ錯誤ニ由リ採取ノ許可ヲ得タルコトヲ発見シタルトキハ農商務大臣ハ其ノ許可ヲ取消スヘシ若其ノ許可ニ付利害ノ関係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ発見シタルトキハ許可ノ日ヨリ三十日以内ニ其ノ許可ノ取消ヲ農商務大臣ニ請求スルコトヲ得
第十一条 第六条第八条第九条及第十条ノ処分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十二条 採取許可取消ノ処分ヲ受ケタル採取人ハ同一区域ニ付一箇年間採取ノ出願ヲ為スコトヲ得ス
第十三条 左ノ場合ニ於テ採取人他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ必要トシ其ノ貸渡ヲ請求シタルトキハ其ノ土地所有者又ハ関係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
一 洗鉱ノ為
一 製錬所建設ノ為
一 洗滌用水路及溜池開設ノ為
第十四条 採取人ハ使用スル土地ニ対シ其ノ土地所有者ニ相当ノ借地料ヲ仕払フヘシ
其ノ質入トナリタル土地ニ対スル借地料ハ質取主ニ於テ之ヲ受領スルモノトス
土地使用ニ依リ貸渡人又ハ関係人ニ損害ヲ加フルトキハ採取人ハ之ニ対シ相当ノ賠償ヲ為スヘシ
第十五条 採取人借地料ノ仕払ヲ延滞シタルトキハ土地所有者ハ其ノ土地ヲ取戻スコトヲ得
第十六条 第十三条ノ場合ニ於テ採取人五箇年以上土地ヲ使用スルトキハ其ノ土地所有者ハ土地ノ買取ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ採取人ハ其ノ買取ヲ拒ムコトヲ得ス
第十七条 採取人ノ請求ニ依リ土地ヲ分割シテ売渡シ又ハ貸渡シタルカ為残地ノ利用ヲ害スルトキハ土地所有者ハ採取人ニ対シ其ノ土地全部ノ買取若ハ借受ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ採取人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第十八条 土地所有者又ハ関係人ト採取人トノ間ニ於テ土地貸渡、採取料、借地料、損害賠償金又ハ土地売買代金ニ付協議調ハサルトキハ所轄鉱山監督署長ニ其ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
所轄鉱山監督署長ノ判定ニ不服アルトキハ其ノ判定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ土地貸渡ニ就テハ農商務大臣ニ其ノ裁定ヲ請求シ採取料、借地料、損害賠償金若ハ土地売買代金ニ就テハ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ対シテハ他ニ出訴スルコトヲ得ス
第十九条 所轄鉱山監督署長ノ判定又ハ農商務大臣ノ裁定請求ノ為ニ要スル費用ハ民事訴訟費用ノ例ニ依リ負担スヘキモノトス
第二十条 採取人ハ土地所有者又ハ関係人ニ於テ所轄鉱山監督署長ノ判定シタル採取料、借地料、損害賠償金又ハ土地売買代金ニ不服アルモ其ノ金額ヲ土地所有者又ハ関係人ニ渡シ若之ヲ受ケサルトキハ其ノ金額ヲ供託所ニ預置キ土地ヲ使用スルコトヲ得
第二十一条 許可ヲ得スシテ採取ヲ為シタル者又ハ詐偽ニ由リテ許可ヲ得タル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
附 則
第二十二条 此ノ法律施行以前ニ許可ヲ得タル採取人ハ此ノ法律ニ依リ引続キ其ノ業ヲ為スコトヲ得
第二十三条 砂鉱採取ノ警察其ノ他国土保安ニ関シ必要ナル規定及此ノ法律ノ施行細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第二十四条 此ノ法律ハ明治二十六年四月一日ヨリ施行ス