民法(財產取得編)
法令番号: 法律第九十八號
公布年月日: 明治23年10月7日
法令の形式: 法律
朕民法中財產取得編人事編ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年十月六日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
內務大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顯正
農商務大臣 陸奧宗光
法律第九十八號
民法財產取得編目錄
第十三章
相續
總則
第一節
家督相續
第一款
家督相續ノ通則
第二款
家督相續人ノ順位
第三款
隱居家督相續ノ特別規則
第二節
遺產相續
第三節
國ニ屬スル相續
第四節
相續ノ受諾及ヒ抛棄
第一款
單純ノ受諾
第二款
限定ノ受諾
第三款
抛棄
第四款
相續人ノ曠缺セル相續財產ノ處分
第十四章
贈與及ヒ遺贈
總則
第一節
贈與又ハ遺贈ヲ爲シ又ハ收受スル能力
第二節
贈與
第一款
贈與ノ方式
第二款
贈與ノ廢罷
第三節
夫婦間ノ贈與ノ特例
第四節
遺贈
第一款
遺言ノ方式
第二款
遺言ノ特別方式
第三款
遺贈ヲ爲スコトヲ得ル財產ノ部分
第四款
遺言ノ效力及ヒ執行
第五款
遺言ノ廢罷及ヒ失效
第五節
包括ノ贈與又ハ遺贈ニ基ク不分財產ノ分割
第一款
分割
第二款
分割ノ效力及ヒ擔保
第三款
分割ノ銷除
第十五章
夫婦財產契約
第一節
總則
第二節
法定ノ制
民法
財產取得編
第十三章 相續
總則
第二百八十六條 相續ニ二種アリ家督相續及ヒ遺產相續是ナリ
第一節 家督相續
第二百八十七條 家督相續トハ戶主ノ死亡又ハ隱居ニ因ル相續ヲ謂フ
第一款 家督相續ノ通則
第二百八十八條 家督相續ヲ爲スハ一家一人ニ限ル
何人ト雖モ二家以上ノ家督相續ヲ爲スコトヲ得ス
第二百八十九條 婚姻又ハ養子緣組ニ因リ他家ニ入リテ其家ニ在ル者ハ實家其他ノ家ノ家督相續ヲ爲スコトヲ得ス
第二百九十條 一人ニシテ數家ノ家督相續人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタル者ハ其中ノ一ヲ選擇スルコトヲ得
第二百九十一條 推定家督相續人ハ他家ノ家督相續人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタルモ其指定又ハ選定ハ無效トス
第二百九十二條 被相續人ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル爲メ刑ニ處セラレタル者ハ相續ヨリ除斥セラル但過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス
第二百九十三條 相續除斥ノ訴權ハ被相續人ノ明示ノ宥免ニ因リテ消滅ス
第二百九十四條 家督相續人ハ姓氏、系統、貴號及ヒ一切ノ財產ヲ相續シテ戶主ト爲ル
系譜、世襲財產、祭具、墓地、商號及ヒ商標ハ家督相續ノ特權ヲ組成ス
第二款 家督相續人ノ順位
第二百九十五條 法律ニ於テ家督相續人ト爲ル可キ者ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ
第一 被相續人ノ家族タル卑屬親中親等ノ最モ近キ者
第二 卑屬親中同親等ノ男子ト女子ト有ルトキハ男子
第三 男子數人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子
第四 女子ノミ數人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子
然レトモ右ノ規定ニ從ヒテ家督相續人タル可キ者カ被相續人ニ先タチテ死亡シ又ハ第二百九十七條ニ揭ケタル原因ニ由リテ廢除セラレタル場合ニ於テ其者ニ卑屬親アルトキハ其卑屬親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相續人ト爲ル
第二百九十六條 被相續人ハ正當ノ原因アルニ非サレハ法定ノ推定家督相續人ヲ廢除スルコトヲ得ス
第二百九十七條 法定ノ推定家督相續人ヲ廢除スルコトヲ得ヘキ正當ノ原因ハ左ノ如シ
第一 失踪ノ宣言
第二 民事上禁治產及ヒ准禁治產
第三 重禁錮一年以上ノ處刑
第四 家政ヲ執ルニ堪ヘサル不治ノ疾病
第五 祖父母、父母ニ對スル罪ノ處刑
第六 重罪ニ因レル處刑
第二百九十八條 推定家督相續人ノ廢除ハ遺言書ヲ以テ之ヲ爲シ又ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ爲スコトヲ得
申述ニ基ク家督相續人ノ廢除ハ被相續人之ヲ取消スコトヲ得
廢除ノ取消ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ爲ス
第二百九十九條 法定ノ家督相續人アルトキハ被相續人ハ家督相續人ヲ指定スルコトヲ得ス但此規定ニ違ヒタル指定ト雖モ被相續人ノ死亡ノ日ニ法定ノ家督相續人アラサルトキハ有效トス
第三百條 家督相續人ノ指定ハ遺言書ヲ以テ之ヲ爲ス可シ
第三百一條 法定又ハ指定ノ家督相續人アラサル場合ニ於テ其家ニ死亡者ノ父アルトキハ父、父アラサルトキハ母ハ左ノ順序ニ從ヒ家族中ヨリ家督相續人ヲ選定ス
第一 兄弟
第二 姊妹
第三 兄弟姊妹ノ卑屬親中親等ノ最モ近キ男子若シ男子アラス又ハ抛棄シタルトキハ女子
第三百二條 前條ノ場合ニ於テ父母アラサルトキハ家督相續人選定ノ權利ハ親族會ニ屬ス但親族會ハ前條ニ定メタル選定ノ順序ヲ變更スルコトヲ得ス
第三百三條 第三百一條ノ規定ニ從ヒ選定ス可キ家督相續人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキハ其家ニ在ル尊屬親中親等ノ最モ近キ者任意ニ家督相續ヲ爲スコトヲ得
第三百四條 前條ノ家督相續人アラサルトキハ配偶者家督相續ヲ爲スコトヲ得
第三百五條 親族會ハ前數條ニ記載シタル相續人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキニ非サレハ他人ヲ選定スルコトヲ得ス
第三款 隱居家督相續ノ特別規則
第三百六條 隱居ヲ爲スニハ左ノ條件ノ具備スルコトヲ要ス
第一 滿六十年以上ナルコト
第二 任意ニ出タルコト
第三 成年ニシテ且實際家政ヲ執ルノ能力アル家督相續人カ單純ノ受諾ヲ爲シタルコト
第四 配偶者ノ承諾シタルコト
第三百七條 隱居者カ重病其他ノ原因ノ爲メニ實際家政ヲ執ル能ハサルトキ又ハ分家ノ戶主カ本家ヲ承繼スルノ必要アルトキハ本人ノ申立ニ因リ區裁判所ハ年齡ノ條件ヲ宥恕スルコトヲ得
第三百八條 隱居者ノ配偶者、親族及ヒ檢事ハ左ノ原因ノ一ニ基キ隱居屆出ノ日ヨリ六十日內ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第一 第三百六條第一號乃至第三號ノ條件ニ違ヒタル事實
第二 家督相續ヲ爲ス者カ推定家督相續人ニ非サル事實
又隱居カ任意ニ出テサリシ場合ニ於テハ隱居者モ亦故障ヲ申立ツルコトヲ得
第三百九條 隱居カ第三百六條第四號ノ條件ニ違ヒタル事實アルトキハ隱居者ノ配偶者ニ限リ故障ヲ申立ツルコトヲ得
又隱居者カ債權者ヲ詐害スルノ意思ヲ以テ隱居ヲ爲サントスルトキハ債權者ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得
前條ノ期間ハ本條ニモ亦之ヲ適用ス
第三百十條 隱居ヲ爲ストキハ當事者ヨリ其旨ヲ身分取扱吏ニ屆出ツ可シ
第三百十一條 隱居家督相續ハ屆出前ノ利害關係人ニ對シテハ第三百八條ニ定メタル期間滿限ノ日ヨリ又故障アリタルトキハ其故障ノ棄却確定シタル日ヨリ死亡ニ因ル相續ト同一ノ效力ヲ生ス但隱居者ノ終身ヲ限度トスル權利及ヒ義務ヲ消滅セシメス
第二節 遺產相續
第三百十二條 遺產相續トハ家族ノ死亡ニ因ル相續ヲ謂フ
第三百十三條 家族ノ遺產ハ其家族ト家ヲ同フスル卑屬親之ヲ相續シ卑屬親ナキトキハ配偶者之ヲ相續シ配偶者ナキトキハ戶主之ヲ相續ス
第三百十四條 卑屬親カ遺產ヲ相續スル場合ニ於テハ第二百九十五條ノ規定ヲ適用ス
第三節 國ニ屬スル相續
第三百十五條 相續人アラサル財產ハ當然國ニ屬ス
國ハ限定ノ受諾ヲ以テ相續ス
第三百十六條 國ニ屬ス可キ相續財產ハ其領收ヲ爲スニ至ルマテ相續人曠缺ノ財產ヲ管理スル如ク之ヲ管理ス
第四節 相續ノ受諾及ヒ抛棄
第三百十七條 相續人ハ相續ニ付キ單純若クハ限定ノ受諾ヲ爲シ又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得但法定家督相續人ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ス又隱居家督相續人ハ限定ノ受諾ヲ爲スコトヲ得ス
第三百十八條 隱居家督相續ヲ除ク外相續人ハ相續財產ヲ調査スル爲メ相續ノ日ヨリ三个月ノ期間ヲ有ス但裁判所ハ情況ニ因リ更ニ三个月內ノ延期ヲ許スコトヲ得
受諾又ハ抛棄ヲ決定スル爲メ一个月ノ期間ヲ有ス此期間ハ調査期間滿限ノ日又ハ其前ニ實際ノ調査ヲ終了シタル日ヨリ之ヲ算ス
第三百十九條 相續人ハ調査又ハ決定ノ期間內相續財產ニ關スル一切ノ訴訟手續ヲ停止セシムルコトヲ得
第三百二十條 相續財產ニ關スル訴訟ニ要セシ費用ハ法律上ノ期間內ニ係ルモノト裁判所ノ許シタル延期內ニ係ルモノトヲ問ハス總テ相續財產ノ負擔トス但相續人ノ所爲又ハ過失ニ因リテ要セシ費用ハ此限ニ在ラス
第三百二十一條 相續財產中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調査又ハ決定ノ期間內ト雖モ區裁判所ノ認可ヲ得テ其物品ヲ競賣ニ付スルコトヲ得但日用品ハ裁判所ノ認可ヲ經スシテ之ヲ處分スルコトヲ得
第一款 單純ノ受諾
第三百二十二條 相續人カ被相續人ノ財產ニ關シ明示又ハ默示ニテ其代表者ト爲ルノ意思ヲ顯ハストキハ單純ノ受諾トス
第三百二十三條 左ノ如キ場合ニ於テハ默示ノ受諾アリトス
第一 相續財產ノ一箇又ハ數箇ニ付キ他人ノ爲メニ所有權ヲ讓渡シ又ハ其他ノ物權ヲ設定シタルトキ但財產編第百十九條以下ノ制限ニ從ヒタル賃借權ノ設定ハ此限ニ在ラス
第二 相續人カ第三百十八條ノ期間內ニ限定受諾又ハ抛棄ヲ爲ササルトキ
右ノ外尙ホ第三百二十七條第二號ノ場合ハ單純ノ受諾ヲ成ス
第三百二十四條 受諾ハ左ノ原因ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
第一 身體又ハ財產ニ强暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ受諾シタルトキ
第二 詐欺ノ爲メニ受諾シタルトキ
第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ受諾シタルトキ
第四 受諾ノ時成立セルコトヲ知ラサル債務ノ爲メ破產又ハ無資力ト爲ルニ至ル可キトキ
此銷除訴權ハ財產編第五百四十四條以下ニ規定シタル銷除訴權ノ期間及ヒ條件ニ從フ
第二款 限定ノ受諾
第三百二十五條 相續人カ相續財產ノ限度マテニ非サレハ債務ノ辨償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス
第三百二十六條 相續人ニシテ限定ノ受諾ヲ爲スノ意思ヲ有スル者ハ第三百十八條ノ期間內ニ調査シタル財產ノ目錄ヲ相續地ノ區裁判所ニ差出タシ其申述ヲ爲シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ
第三百二十七條 左ノ場合ニ於テハ相續人ハ限定受諾ヲ爲スノ權利ヲ失フ
第一 單純ノ受諾ヲ爲シタルトキ
第二 相續財產ヲ私取シ若クハ隱匿シ又ハ惡意ヲ以テ財產調査目錄中ニ相續財產ノ幾分ヲ記載セサリシトキ
第三百二十八條 限定受諾者ハ其特有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ヲ管理シ債權者及ヒ受遺者ニ其計算ヲ爲ス可シ但此計算ハ債務及ヒ遺贈ノ辨濟ノ爲メ相續財產ヲ拂盡シタル後一个月內ニ之ヲ完了スルコトヲ要ス
第三百二十九條 限定受諾者ハ動產ト不動產トヲ問ハス總テ相續財產ノ賣却ヲ要スルトキハ區裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競賣ニ付ス可シ
第三百三十條 限定受諾者ハ適法ニ賣却シタル財產ノ各箇ニ付テ得タル代價ヲ混同セス其各箇ニ付テ優先權ヲ有スル債權者ニ順次ニ辨濟ス可シ
第三百三十一條 相續ノ負擔スル債務又ハ遺贈ノ辨濟ヲ差押ヘ又ハ其辨濟ニ付キ異議ヲ述フル債權者又ハ受遺者アルトキハ限定受諾者ハ裁判ヲ以テ定メタル順次及ヒ方法ニ從フニ非サレハ其辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
第三百三十二條 前條ノ差押又ハ異議アラサルトキハ債權者又ハ受遺者ノ要求ニ從ヒテ辨濟ヲ爲ス
辨濟ノ爲メニ相續財產ヲ拂盡シタル後ト雖モ第三百二十八條ニ規定シタル計算ヲ完了セサル前ニ要求ヲ爲ス債權者又ハ受遺者ハ左ノ區別ニ從ヒ既ニ辨濟ヲ得タル債權者及ヒ受遺者ニ對シテ求償權ヲ行フコトヲ得
第一 債權者ハ先ツ受遺者ニ對シ次ニ債權者ニ對スルコト
第二 受遺者ハ單ニ受遺者ニ對スルコト
第三百三十三條 相續人カ計算ノ完了ヲ遲延シタル場合ニ於テハ債權者中未タ辨濟ヲ得サル者ヨリ既ニ辨濟ヲ得タル受遺者及ヒ債權者ニ求償スルコトヲ得ヘキ額ヲ直チニ相續人ノ特有財產ニ付キ求償スルコトヲ得
第三百三十四條 相續財產ヲ拂盡シ計算ヲ完了シタル後ニ要求ヲ爲ス債權者ハ單ニ辨濟ヲ得タル受遺者ニ對スルニ非サレハ求償權ヲ行フコトヲ得ス
第三百三十五條 前三條ノ求償權ハ三个年間之ヲ行フコトヲ得但此期間ハ計算ノ完了前ニ係ルトキハ初メ相續人ニ要求シタル日又完了後ニ係ルトキハ其完了ノ日ヨリ之ヲ算ス
第三款 抛棄
第三百三十六條 相續ヲ抛棄セントスル相續人ハ相續地ノ區裁判所ニ其旨ヲ申述シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ
第三百三十七條 抛棄シタル相續ハ他ニ受諾シタル相續人アラサル間ハ抛棄者更ニ之ヲ受諾スルコトヲ得然レトモ此受諾ハ第三百十八條ノ期間內ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス但相續財產ニ付キ第三者ノ有效ニ得タル權利ヲ害スルコト無シ
第三百三十八條 相續ヲ抛棄シタル者ハ他ニ受諾シタル相續人アリト雖モ左ノ場合ニ於テハ其抛棄ヲ銷除スルコトヲ得
第一 身體又ハ財產ニ强暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ抛棄シタルトキ
第二 詐欺ノ爲メニ抛棄シタルトキ
第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ抛棄シタルトキ
此銷除訴權ハ財產編第五百四十四條以下ニ規定シタル期間及ヒ條件ニ從フ
第三百三十九條 債權者ヲ詐害スル意思ニ出テタル抛棄ハ財產編第三百四十一條以下ニ定メタル區別及ヒ期間ニ從ヒ債權者自己ノ利益ノ爲メ之ヲ廢罷スルコトヲ得
第三百四十條 適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推定セラレタル者ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ス
第三百四十一條 相續ニ包含スル物ヲ私取シ又ハ隱匿シタル相續人ハ其相續ヲ抛棄スル權利ヲ失フ
第四款 相續人ノ曠缺セル相續財產ノ處分
第三百四十二條 相續人現出セス相續人ノ有無分明ナラス又ハ相續人相續ヲ抛棄シタルトキハ相續人ノ曠缺セルモノト看做ス
第三百四十三條 相續地ノ區裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リテ相續財產ノ管理人ヲ命ス可シ
第三百四十四條 管理人ハ利害關係人ヲ召喚シテ相續財產ヲ調査シ其目錄ヲ作リ財產ノ形狀ヲ檢證セシム可シ
管理人ハ此手續ヲ終了シタル後相續ニ屬スル權利ヲ行使シ之ヲ訟求シ又其相續ニ對スル訟求ニ答辯ス可シ
金錢ハ相續財產中ニ存スルモノト其賣却ヨリ得タルモノトヲ問ハス供託所ニ之ヲ供託ス可シ
相續ノ負擔スル債務ハ區裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ辨濟スルコトヲ得ス
第三百四十五條 限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ關シ第三百二十八條以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ之ヲ適用ス
第三百四十六條 管理人ハ計算ヲ完了シテ尙ホ相續財產ノ存スルニ於テハ區裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競賣ニ付シ其得タル金額ヲ供託所ニ供託ス可シ
管理人ハ其領收證ヲ區裁判所ニ差出タシ區裁判所ハ之ヲ保存ス可シ
第三百四十七條 相續人現出スルトキハ其相續人ハ區裁判所ヨリ供託所ノ領收證及ヒ相續人タル身分ノ證明書ヲ得テ之ヲ供託所ニ提出シ供託金額ヲ領收ス可シ
第三百四十八條 相續人アラサルコト確實ニ至リタルトキハ國ハ特別法ニ從ヒ供託金額ヲ領收ス可シ
第十四章 贈與及ヒ遺贈
總則
第三百四十九條 贈與トハ當事者ノ一方カ無償ニテ他ノ一方ニ自己ノ財產ヲ移轉スル要式ノ合意ヲ謂フ
第三百五十條 贈與ハ單純、有期又ハ條件附ナルコト有リ
贈與ハ法律ノ認メタル原因アルニ非サレハ之ヲ廢罷スルコトヲ得ス
第三百五十一條 贈與者ハ贈與物ノ妨碍及ヒ追奪ヲ擔保セス但其贈與以後ニ係ル贈與者ノ所爲ヨリ生シタル妨碍及ヒ追奪ハ此限ニ在ラス
第三百五十二條 遺贈トハ當事者ノ一方カ他ノ一方ニ無償ニテ自己ノ財產ヲ遺言ニ因リテ死亡ノ時ニ移轉スル行爲ヲ謂フ
遺贈ハ遺言者隨意ニ之ヲ廢罷スルコトヲ得
第三百五十三條 遺言書中ニ存スル不能又ハ不法ノ條件ハ之ヲ記セサルモノト看做ス
贈與書中ニ不能又ハ不法ノ條件アルトキハ其贈與ヲ無效ト爲ス
第一節 贈與又ハ遺贈ヲ爲シ又ハ收受スル能力
第三百五十四條 法律上特ニ無能力者ト定メタル者ヲ除ク外何人ニ限ラス贈與及ヒ遺贈ヲ爲シ又ハ收受スル能力ヲ有ス
第三百五十五條 左ニ揭クル者ハ贈與ヲ爲ス能力ヲ有セス
第一 贈與ヲ爲ス時ニ於テ喪心シタル者
第二 禁治產者
第三 瘋癲ノ爲メ病院又ハ監置ニ在ル者
第四 未成年者但夫婦財產契約ノ爲メ法律ノ特ニ許ス場合ハ例外トス
第三百五十六條 准禁治產者ハ財產讓渡ノ爲メ法律ノ要スル方式ニ從フニ非サレハ贈與ヲ爲スコトヲ得ス
第三百五十七條 左ニ揭クル者ハ遺贈ヲ爲ス能力ヲ有セス
第一 遺贈ヲ爲ス時ニ於テ喪心シタル者
第二 民事上ノ禁治產者
第三 瘋癲ノ爲メ病院又ハ監置ニ在ル者
第四 未成年者但自治產者ハ此限ニ在ラス
第二節 贈與
第一款 贈與ノ方式
第三百五十八條 贈與ハ分家ノ爲メニスルモノト其他ノ原因ノ爲メニスルモノトヲ問ハス普通ノ合意ノ成立ニ必要ナル條件ヲ具備スル外尙ホ公正證書ヲ以テスルニ非サレハ成立セス
然レトモ慣習ノ贈物及ヒ單一ノ手渡ニ成ル贈與ニ付テハ此方式ヲ要セス
第三百五十九條 贈與ハ贈與者ノ現有ノ財產ノミヲ包含ス若シ將來ノ財產ヲ包含シタルトキハ其財產ニ付テハ贈與ハ無效トス
然レトモ數額ノ定マリタル金錢又ハ定量物ノ贈與ハ贈與者ノ現有スルト否トヲ問ハス有效トス
第三百六十條 贈與ノ性質又ハ諾約ニ因リテ受贈者カ贈與者ノ債務ヲ辨濟スル義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈與ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セス
受贈者カ贈與者ノ將來ノ債務ヲ辨濟ス可キノ諾約ヲ爲シタルトキハ其諾約ハ無效トス
第三百六十一條 贈與者ハ自己ノ利益ニ於テスルニ非サレハ自己ニ先タチテ受贈者ノ死亡スルトキ其贈與ヲ解除ス可キ條件ヲ要約スルコトヲ得ス
若シ贈與者カ其相續人又ハ第三者ノ利益ニ於テ此解除條件ヲ要約シタルトキハ其條件ハ無效トス
第三百六十二條 前條第一項ノ規定ニ從ヒテ有效ニ要約シタル解除條件ノ成就ハ受贈者ノ相續人ニ對スルト第三者ニ對スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ於テ要約シタル解除條件ト同一ノ效力ヲ生ス
然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ハラス左ノ二箇ノ條件具備スルトキハ贈與財產ニ付キ法律上ノ抵當權ヲ保有ス
第一 贈與カ夫婦財產契約ヲ以テ夫ノ爲メ爲サレタルモノナルトキ
第二 贈與財產ノ外ナル夫ノ財產ヲ以テ婦ノ特有財產ノ返還ヲ擔保スルニ足ラサルトキ
第二款 贈與ノ廢罷
第三百六十三條 贈與ハ合意ヲ無效ト爲ス普通ノ原因ノ外尙ホ贈與者ノ要約シタル條件ノ不履行ノ爲メ之ヲ廢罷スルコトヲ得
第三百六十四條 條件ノ不履行ニ基ク贈與ノ廢罷ハ贈與者又ハ其承繼人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得
第三百六十五條 條件ノ不履行ニ基キ贈與ヲ廢罷シタル場合ニ於テハ受贈者ニ對スルト第三者ニ對スルトヲ問ハス未必條件ノ成就ニ因リテ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ效力ヲ生ス
第三節 夫婦間ノ贈與ノ特例
第三百六十六條 未成年ノ夫又ハ婦ハ婚姻ノ許諾ヲ與フ可キ人ノ許諾及ヒ立會ヲ得且夫婦財產契約ヲ以テスルニ非サレハ贈與ヲ爲スコトヲ得ス
第三百六十七條 夫婦間ノ贈與ハ何等ノ約款アルニ拘ハラス婚姻中贈與者隨意ニ之ヲ廢罷スルコトヲ得
贈與ノ廢罷ハ第三者ニ對シテ效力ヲ有セス但贈與ノ登記ニ廢罷ノ訴狀ヲ附記シタル後ニ受贈者ノ遺產所持者ヨリ贈與財產ニ付キ物權ヲ取得シタル第三者ニ對シテハ此限ニ在ラス
第四節 遺贈
第一款 遺言ノ方式
第三百六十八條 遺言ハ遺言者ノ自筆ノ證書、公正證書又ハ祕密ノ方式ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得
然レトモ二人以上ノ人ハ一箇ノ證書ヲ以テ遺言ヲ爲スコトヲ得ス
第三百六十九條 自筆ノ遺言書ハ遺言者カ其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其效ヲ有セス
第三百七十條 公正證書ニ依ル遺言ハ公證人一人及ヒ證人二人ノ前ニ於テ遺言者カ遺言ノ旨趣ヲ口授シ公證人之ヲ筆記シ朗讀シタル後遺言者及ヒ證人各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其效ヲ有セス
然レトモ氏名ヲ自書スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ證書ニ記載スルヲ以テ足ル
第三百七十一條 祕密ノ方式ニ依ル遺言書ハ遺言者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ書シタルトヲ問ハス左ノ諸件ヲ具備スルニ非サレハ其效ヲ有セス
第一 遺言者カ氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト
第二 遺言書ヲ封シテ遺言者カ之ニ封印シタルコト
第三 遺言者カ公證人一人及ヒ證人二人ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書タル旨ヲ陳述シタルコト
第四 公證人カ遺言者ノ陳述ト之ヲ聽キタル日附トヲ封紙ニ記シテ遺言者及ヒ證人ト共ニ各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト但此場合ニ於テ氏名ヲ自書スル能ハサル證人アルトキハ公證人其事由ヲ封紙ニ記スルヲ以テ足ル
公證人ハ遺言者ノ死亡ノ後其相續人ノ立會ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記シタル領收書ヲ遺言者又ハ其指定シタル證人中ノ一人ニ授付ス可シ
第三百七十二條 祕密ノ方式ニ依ル遺言トシテ有效ナル爲メ前條ニ定メタル條件ニ缺クルモノ有リト雖モ其全文、日附及ヒ氏名共ニ遺言者ノ自書ニ係ルトキハ自筆ノ遺言書トシテ有效トス
第三百七十三條 受遺者、遺言ニ立會フ公證人ノ筆生其他普通ノ無能力者ハ證人ト爲ルコトヲ得ス
第二款 遺言ノ特別方式
第三百七十四條 軍人及ヒ軍屬ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ內地ト雖モ交戰中若クハ合圍中ニ在ル者ハ將校一人證人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十五條 遠征中、交戰中又ハ合圍中ニ在ル軍人及ヒ軍屬ニシテ疾病又ハ傷痍ノ爲メ病院ニ在ル者ハ其院ノ醫官及ヒ事務官ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十六條 傳染病ノ爲メ行政處分ヲ以テ交通ヲ遮斷シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ナルト否トヲ問ハス警察官一人及ヒ證人一人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十七條 航海中ニ在ル者ハ軍艦ニ在テハ將校一人其他ノ船舶ニ在テハ事務員一人及ヒ證人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十八條 海上ニテ遺言書ヲ作リタルトキハ其旨ヲ航海日誌ニ記載ス可シ
第三百七十九條 本款ノ規定ニ從ヒテ作リタル遺言書ニハ遺言者、代書者及ヒ立會人各其氏名ヲ自書シテ捺印ス可シ
氏名ヲ自書シ又ハ捺印スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺言書ニ記載スルヲ以テ足ル
第三百八十條 外國ニ在ル日本人ハ第三百六十九條ニ定メタル自筆ノ方式ニ依リ又ハ其地ニ用ユル公正ノ方式ニ從ヒテ遺言ヲ爲スコトヲ得
第三百八十一條 外國ニ於テ作リタル遺言書ハ遺言者ノ日本國內ニ有スル住所ノ區裁判所ノ簿册ニ之ヲ登錄シ若シ住所ノ知レサルトキハ最終居所ノ區裁判所ノ簿册ニ之ヲ登錄シタル後ニ非サレハ日本國內ニ在ル財產ニ付キ其遺言ヲ執行スルコトヲ得ス
又其遺言書ニ日本國內ニ在ル不動產ノ處分ヲ包含スルトキハ其不動產所在地ノ區裁判所ニ登記ヲ求メタル後ニ非サレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三百八十二條 日本ニ在ル外國人ハ日本ノ法律ニ從ヒ又ハ其本國ノ法律ニ從ヒテ遺言ヲ爲スコトヲ得
第三款 遺贈ヲ爲スコトヲ得ル財產ノ部分
第三百八十三條 遺贈ヲ爲スコトヲ得ル財產ト相續人ニ貯存ス可キ財產トノ部分ヲ定ムルニハ家督相續ノ特權ヲ組成スルモノヲ控除ス
第三百八十四條 法定家督相續人アルトキハ被相續人ハ相續財產ノ半額マテニ非サレハ他人ノ爲メ遺贈ヲ爲スコトヲ得ス
家族ノ遺產ヲ相續スル卑屬親アルトキモ亦同シ
第三百八十五條 用益權ノ如キ其存立時間ノ不確實ナル權利ハ相續ノ時ニ於ケル價額ヲ査定シテ遺贈ヲ爲スコトヲ得ル部分ヲ定ム
其權利ノ價額カ遺贈ヲ爲スコトヲ得ル部分ヲ超過スルトキハ相續人ハ或ハ被相續人ノ遺贈ヲ履行シ或ハ遺贈ヲ爲スコトヲ得ル部分ノ完全ナル所有權ヲ與ヘテ其權利ヲ受戾スコトヲ得
第三百八十六條 遺贈ヲ爲スコトヲ得ル部分ヲ超過スル遺贈ハ之ヲ其部分マテニ減殺ス
第三百八十七條 減殺ス可キ分量ハ相續ノ時ニ現存スル總テノ財產ノ評價額ヨリ被相續人ノ債務額ヲ控除シタル剩餘額ニ付キ之ヲ算定ス
第三百八十八條 遺贈ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財產ノ分量ヲ組成ス可キトキハ包括ノ遺贈ト特定ノ遺贈トヲ問ハス其價額ノ割合ヲ以テ總テノ遺贈ヲ減殺ス可シ
第三百八十九條 總テ贈與ニシテ贈與者ノ死亡ノ後執行ス可キモノハ遺贈ト其效力ヲ同フス
第四款 遺言ノ效力及ヒ執行
第三百九十條 單純又ハ有期ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ受遺者ノ知ルト否トヲ問ハス包括ノ遺贈ニ付テハ其包含スル財產及ヒ債務ヲ受遺者ニ移轉シ特定ノ遺贈ニ付テハ其遺贈物ノ權利ヲ受遺者ニ移轉ス然レトモ有期ノ遺贈ハ滿期ニ至ルマテ其執行ヲ止ム
停止又ハ解除ノ條件附ニ於ケル遺贈ノ效力ハ合意ノ事項ニ關シテ規定シタル如ク其條件ノ成就如何ニ從フ
遺贈ノ目的物カ代替物ナルトキハ其所有權ハ財產編第三百三十二條ノ規定ニ從ヒテ移轉ス
如何ナル場合ニ於テモ受遺者ハ遺贈ヲ抛棄スルコトヲ得
第三百九十一條 遺言者カ不分ノ權利ヲ有スル物ヲ遺贈シタルトキハ受遺者ハ遺言者ト同一ナル權利ヲ取得ス
第三百九十二條 受遺者ハ遺贈物ノ引渡ヲ要求シタル時ヨリ後ニ非サレハ遺贈物ノ果實ヲ收受スル權利ヲ有セス但期限ノ到來シ又ハ未必條件ノ成就シタルコトヲ要ス
然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テハ受遺者ハ遺言者ノ死亡、滿期又ハ條件成就ノ時ヨリ要求ヲ待タスシテ直チニ果實ヲ收受スル權利ヲ有ス
第一 遺言者カ果實ヲ收受スル權利ヲ明示シタルトキ
第二 遺贈カ養料ノ性質ヲ有スルトキ
第三 相續人カ惡意ヲ以テ遺言ヲ隱祕シタルトキ
第三百九十三條 遺贈物ハ其遺贈ノ單純ナルトキハ當然ノ附從物ト共ニ遺言者ノ死亡ノ時ニ於ケル現狀ニテ之ヲ引渡ス可シ其遺贈ノ有期又ハ未必條件附ナルトキハ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキ時ニ於ケル現狀ニテ之ヲ引渡ス可シ
相續人カ遺贈物ニ加ヘタル改良又ハ毀損ハ相續人ト受遺者トノ間相互ニ賠償ヲ請求スル權利ヲ生ス
解除ノ未必條件ヲ以テ遺贈ヲ爲シタル場合ニ於テ其條件ノ成就シタルトキハ受遺者又ハ其相續人ヨリ遺贈物ヲ現狀ニテ返還ス可シ但人爲ニ因ル改良又ハ毀損ニ付キ雙方ノ間ニ於ケル相互ノ賠償ヲ妨ケス
第三百九十四條 遺言者カ遺言ノ後ニ取得シタル土地又ハ建物ハ遺贈ノ不動產ニ接著シ又ハ其不動產ノ利用ヲ改良スル爲メニ供ヘタルモノト雖モ其不動產ノ受遺者ヲ利セス
第三百九十五條 遺言書ハ公正證書ヲ除ク外相續地ノ區裁判所ノ檢認ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
封印アル遺言書ハ區裁判所ニ於テスルニ非サレハ開封スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ニ違フ者ハ百圓以下ノ過料ニ處ス
第三百九十六條 遺言ノ執行及ヒ遺贈物ノ引渡ニ關スル費用ハ相續財產ノ負擔トス但貯存財產ニ負擔セシムルコトヲ得ス
第三百九十七條 不動產物權ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ後受遺者カ其遺贈ヲ知リタル時ヨリ三十日內ニ之ヲ登記シタルニ非サレハ遺言者ノ死亡ノ日ニ遡リテ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
登記ノ費用ハ受遺者ノ負擔トス
第三百九十八條 遺言者ハ合意又ハ遺言ヲ以テ遺贈ノ執行ヲ一人又ハ數人ニ委託スルコトヲ得
遺言執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服ス
第五款 遺言ノ廢罷及ヒ失效
第三百九十九條 遺言ハ遺言者隨意ニ之ヲ廢罷スルコトヲ得廢罷ハ明示又ハ默示ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
第四百條 遺言者カ遺言ノ方式ニ從ヒ遺言ノ全部又ハ一分ヲ廢罷スル意思ヲ證書ニ記載シタルトキハ其廢罷ハ明示ノモノトス
第四百一條 後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ニ包含スル特定物ヲ處分シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺言ヲ默示ニテ廢罷シタルモノトス
遺言者カ生存中遺言ニ包含スル特定物ヲ有償又ハ無償ニテ處分シタルトキモ亦同シ
第四百二條 廢罷ニ歸シタル遺言ハ前條ノ處分ノ無效ト爲ルトキト雖モ有效ニ復セス
第四百三條 遺言ハ受遺者ノ條件不履行ノ爲メ又ハ遺言者ヲ死ニ致シタル原因ノ爲メ相續人ヨリ廢罷ヲ請求スルコトヲ得
第四百四條 遺言ハ方式上完全ノモノト雖モ左ノ場合ニ於テハ其效ヲ失フ
第一 受遺者カ遺言者ヨリ先ニ死亡シタルトキ
第二 停止條件附ノ遺言ニ付キ其條件ノ成就前ニ受遺者ノ死亡シタルトキ
第四百五條 廢罷又ハ失效ニ歸シタル遺言ノ部分ニ付テハ曾テ遺言アラサリシモノト看做ス但遺言者カ明示ヲ以テ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス
第五節 包括ノ贈與又ハ遺贈ニ基ク不分財產ノ分割
第四百六條 包括ノ贈與又ハ遺贈ヲ爲シタルニ因リ贈與者又ハ相續人ト受贈者又ハ受遺者トノ間ニ不分財產ヲ生シタルトキハ下ノ規定ニ從ヒ之ヲ分割ス受贈者又ハ受遺者數人アルトキモ亦同シ
第一款 分割
第四百七條 不分財產ノ所有者ノ各自ハ其財產ノ分割ヲ要求スルコトヲ得但財產編第三十九條ノ規定ニ從ヒテ分割セサルコトヲ約シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百八條 分割ハ明示ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ要ス財產ヲ區別シテ收益スル事實ハ分割トセス
第四百九條 不分財產ノ分割ハ所有者各自ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ爲スコトヲ得
然レトモ左ノ場合ニ於テハ裁判ヲ以テスルニ非サレハ其分割ヲ爲スコトヲ得ス
第一 所有者中ニ未成年者、禁治產者又ハ瘋癲者アリテ其後見人又ハ假管理人アラサルトキ
第二 所有者中ニ不在者アリテ有效ニ分割ヲ承諾スル權限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ
第三 所有者中ニ合意上ノ分割ヲ承諾セサル者アルトキ
第四百十條 裁判上ノ分割ヲ要スルトキハ相續地ノ區裁判所ハ相續人、債權者又ハ檢事ノ請求ニ因リ封印ヲ爲シ及ヒ目錄ヲ作ラシム可シ
第四百十一條 裁判上ノ分割ヲ要セサルトキト雖モ債權者ハ區裁判所ノ許可ヲ得テ封印及ヒ目錄調製ヲ請求スルコトヲ得但執行力アル證書ヲ有スルトキハ此許可ヲ要セス
封印ノ除去ニ付テハ總テノ債權者異議ヲ述フルコトヲ得
第四百十二條 所有者ノ各自ハ不分財產ノ現物ニテ其部分ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得但債權者其引渡ヲ差押ヘタルトキ又ハ所有者ノ多數ヲ以テ其財產ノ負擔スル債務及ヒ費用ヲ豫メ辨濟スル爲メ賣却ヲ必要ト決シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十三條 未成年者、禁治產者、瘋癲者又ハ不在者ノ爲メ定メタル規則ニ違ヘル分割ハ其者ノ利益ニ於テノミ假定ノモノトス
第四百十四條 分割ノ際利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者ノ數人アルトキハ其各自ノ爲メ臨時保佐人又ハ管理人ヲ指定ス可シ
第四百十五條 分割ノ結了シタルトキハ各所有者ハ其領收シタル物ノ證書ヲ保有ス
所有者ノ總體又ハ數人ニ分割シタル一箇ノ物ノ證書ハ其最大ノ部分ヲ領收シタル者之ヲ保有ス最大ノ部分ヲ領收シタル者ナキトキハ各所有者ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム若シ議協ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス
何レノ場合ニ於テモ證書ノ保有者ハ他ノ所有者ノ求メニ應シテ之ヲ便用セシム可シ
第四百十六條 所有者ハ各自ニ受クル部分ノ割合ヲ以テ債務ヲ分擔ス
第二款 分割ノ效力及ヒ擔保
第四百十七條 分割ノ效力ニ付テハ第百五十五條ノ規定ヲ適用ス
第四百十八條 各所有者ハ分割前ノ原因ニ基ク分割物ノ妨碍及ヒ追奪ニ付キ互ニ擔保ノ責ニ任ス但別段ノ合意ヲ以テ擔保ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十九條 債權ニ付テハ分割ノ當時ニ於ケル債務者ノ資力ノ限度マテニ非サレハ各所有者擔保ノ責ニ任セス
第三款 分割ノ銷除
第四百二十條 分割ハ財產編第三百四條以下ニ定メタル區別ニ從ヒ不成立又ハ無效タル外尙ホ所有者ノ一人カ其領收シタル部分ニ付キ四分一以上ノ缺損ヲ被フリタルトキハ其缺損ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得
缺損ノ査定ハ分割ノ時ニ於ケル物ノ價格ニ從ヒテ之ヲ爲ス可シ
第四百二十一條 分割銷除ノ訴權ハ財產編第五百四十四條以下ニ定メタル時效及ヒ認諾ニ因リテ消滅ス
第十五章 夫婦財產契約
第一節 總則
第四百二十二條 夫婦財產契約ハ婚姻ノ儀式前ニ之ヲ爲シ及ヒ公證人ヲシテ其證書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス
婚姻ノ儀式後ハ契約ヲ變更スルコトヲ得ス
第四百二十三條 婚姻ヲ爲スコトヲ得ル未成年者ハ婚姻ノ許諾ヲ與フ可キ尊屬親又ハ後見人ノ立會ニテ財產契約ヲ爲スコトヲ得
第四百二十四條 財產契約ヲ爲サスシテ婚姻ヲ爲シタルトキハ財產ノ關係ハ法定ノ制ニ從フ
第四百二十五條 日本ニ於テ財產契約ヲ爲サスシテ婚姻ヲ爲シタル外國人ハ夫タル者ノ本國ニ行ハルル普通ノ制ニ從ヒタルモノト看做ス
第二節 法定ノ制
第四百二十六條 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ現ニ所有シ又ハ將來ニ所有ス可キ特有財產ヨリ婚姻中ニ生スル果實及ヒ自己ノ勞力ニ因リテ婚姻中ニ得タル所得ハ婚姻中ノ費用分擔ノ爲メニ之ヲ配偶者ニ供出シタルモノト看做ス
第四百二十七條 夫又ハ戶主タル婦カ配偶者ノ特有財產ニ付テ有スル權利ハ用益者ノ權利ニ同シ又配偶者ノ特有財產ニ關シテ收益ヲ爲ス夫又ハ戶主タル婦ハ用益者ノ負擔スル修繕其他收益ヲ以テ辨濟ス可キ義務ヲ負フ
第四百二十八條 夫ハ婦ノ特有財產入夫ハ戶主タル婦ノ財產ヲ管理ス
第四百二十九條 夫又ハ入夫ハ婦又ハ戶主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婦ノ特有財產又ハ戶主タル婦ノ財產ヲ讓渡シ又ハ之ヲ擔保ニ供スルコトヲ得ス但人事編第二百二十九條及ヒ第二百七十五條ノ場合ハ此限ニ在ラス
第四百三十條 入夫ハ戶主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婚姻中ノ所得ヲ讓渡シ又ハ之ヲ擔保ニ供スルコトヲ得ス但其特有財產ヨリ生スル果實及ヒ自己ノ勞力ニ因リテ得タル所得ハ此限ニ在ラス
第四百三十一條 夫カ婦ノ特有財產ニ付キ入夫カ戶主タル婦ノ財產ニ付キ其承諾ヲ得スシテ爲ス賃貸借ニ關シテハ財產編第百十九條以下ノ規定ヲ適用ス
第四百三十二條 管理ノ失當ニ因リ夫又ハ入夫カ婦ノ特有財產又ハ戶主タル婦ノ財產ヲ危險ニ置クトキハ婦又ハ戶主タル婦ハ自ラ其財產ヲ管理セント請求スルコトヲ得
第四百三十三條 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ負ヘル債務及ヒ婚姻中ニ生スル債務ニ付テハ債權者ハ婦又ハ入夫ノ特有財產ニ對シテ權利ヲ行フコトヲ得
第四百三十四條 婦ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債權者ハ其債務カ家事管理ノ爲メニ生シタルコトヲ證スルトキニ限リ夫ニ對シテ其辨濟ヲ請求スルコトヲ得
入夫ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債權者ハ其債務ノ財產管理ノ爲メニ生シタルコトヲ證スルトキニ限リ戶主タル婦ニ對シテ其辨濟ヲ請求スルコトヲ得
第四百三十五條 婦又ハ入夫ノ特有財產タルコトヲ證セサル財產ハ總テ夫又ハ戶主タル婦ニ屬スルモノト看做ス
朕民法中財産取得編人事編ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年十月六日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
内務大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顕正
農商務大臣 陸奥宗光
法律第九十八号
民法財産取得編目録
第十三章
相続
総則
第一節
家督相続
第一款
家督相続ノ通則
第二款
家督相続人ノ順位
第三款
隠居家督相続ノ特別規則
第二節
遺産相続
第三節
国ニ属スル相続
第四節
相続ノ受諾及ヒ抛棄
第一款
単純ノ受諾
第二款
限定ノ受諾
第三款
抛棄
第四款
相続人ノ曠欠セル相続財産ノ処分
第十四章
贈与及ヒ遺贈
総則
第一節
贈与又ハ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力
第二節
贈与
第一款
贈与ノ方式
第二款
贈与ノ廃罷
第三節
夫婦間ノ贈与ノ特例
第四節
遺贈
第一款
遺言ノ方式
第二款
遺言ノ特別方式
第三款
遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ノ部分
第四款
遺言ノ効力及ヒ執行
第五款
遺言ノ廃罷及ヒ失効
第五節
包括ノ贈与又ハ遺贈ニ基ク不分財産ノ分割
第一款
分割
第二款
分割ノ効力及ヒ担保
第三款
分割ノ銷除
第十五章
夫婦財産契約
第一節
総則
第二節
法定ノ制
民法
財産取得編
第十三章 相続
総則
第二百八十六条 相続ニ二種アリ家督相続及ヒ遺産相続是ナリ
第一節 家督相続
第二百八十七条 家督相続トハ戸主ノ死亡又ハ隠居ニ因ル相続ヲ謂フ
第一款 家督相続ノ通則
第二百八十八条 家督相続ヲ為スハ一家一人ニ限ル
何人ト雖モ二家以上ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス
第二百八十九条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リ他家ニ入リテ其家ニ在ル者ハ実家其他ノ家ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス
第二百九十条 一人ニシテ数家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタル者ハ其中ノ一ヲ選択スルコトヲ得
第二百九十一条 推定家督相続人ハ他家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタルモ其指定又ハ選定ハ無効トス
第二百九十二条 被相続人ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル為メ刑ニ処セラレタル者ハ相続ヨリ除斥セラル但過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス
第二百九十三条 相続除斥ノ訴権ハ被相続人ノ明示ノ宥免ニ因リテ消滅ス
第二百九十四条 家督相続人ハ姓氏、系統、貴号及ヒ一切ノ財産ヲ相続シテ戸主ト為ル
系譜、世襲財産、祭具、墓地、商号及ヒ商標ハ家督相続ノ特権ヲ組成ス
第二款 家督相続人ノ順位
第二百九十五条 法律ニ於テ家督相続人ト為ル可キ者ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ
第一 被相続人ノ家族タル卑属親中親等ノ最モ近キ者
第二 卑属親中同親等ノ男子ト女子ト有ルトキハ男子
第三 男子数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子
第四 女子ノミ数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子
然レトモ右ノ規定ニ従ヒテ家督相続人タル可キ者カ被相続人ニ先タチテ死亡シ又ハ第二百九十七条ニ掲ケタル原因ニ由リテ廃除セラレタル場合ニ於テ其者ニ卑属親アルトキハ其卑属親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相続人ト為ル
第二百九十六条 被相続人ハ正当ノ原因アルニ非サレハ法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ス
第二百九十七条 法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ヘキ正当ノ原因ハ左ノ如シ
第一 失踪ノ宣言
第二 民事上禁治産及ヒ准禁治産
第三 重禁錮一年以上ノ処刑
第四 家政ヲ執ルニ堪ヘサル不治ノ疾病
第五 祖父母、父母ニ対スル罪ノ処刑
第六 重罪ニ因レル処刑
第二百九十八条 推定家督相続人ノ廃除ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為スコトヲ得
申述ニ基ク家督相続人ノ廃除ハ被相続人之ヲ取消スコトヲ得
廃除ノ取消ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為ス
第二百九十九条 法定ノ家督相続人アルトキハ被相続人ハ家督相続人ヲ指定スルコトヲ得ス但此規定ニ違ヒタル指定ト雖モ被相続人ノ死亡ノ日ニ法定ノ家督相続人アラサルトキハ有効トス
第三百条 家督相続人ノ指定ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第三百一条 法定又ハ指定ノ家督相続人アラサル場合ニ於テ其家ニ死亡者ノ父アルトキハ父、父アラサルトキハ母ハ左ノ順序ニ従ヒ家族中ヨリ家督相続人ヲ選定ス
第一 兄弟
第二 姉妹
第三 兄弟姉妹ノ卑属親中親等ノ最モ近キ男子若シ男子アラス又ハ抛棄シタルトキハ女子
第三百二条 前条ノ場合ニ於テ父母アラサルトキハ家督相続人選定ノ権利ハ親族会ニ属ス但親族会ハ前条ニ定メタル選定ノ順序ヲ変更スルコトヲ得ス
第三百三条 第三百一条ノ規定ニ従ヒ選定ス可キ家督相続人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキハ其家ニ在ル尊属親中親等ノ最モ近キ者任意ニ家督相続ヲ為スコトヲ得
第三百四条 前条ノ家督相続人アラサルトキハ配偶者家督相続ヲ為スコトヲ得
第三百五条 親族会ハ前数条ニ記載シタル相続人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキニ非サレハ他人ヲ選定スルコトヲ得ス
第三款 隠居家督相続ノ特別規則
第三百六条 隠居ヲ為スニハ左ノ条件ノ具備スルコトヲ要ス
第一 満六十年以上ナルコト
第二 任意ニ出タルコト
第三 成年ニシテ且実際家政ヲ執ルノ能力アル家督相続人カ単純ノ受諾ヲ為シタルコト
第四 配偶者ノ承諾シタルコト
第三百七条 隠居者カ重病其他ノ原因ノ為メニ実際家政ヲ執ル能ハサルトキ又ハ分家ノ戸主カ本家ヲ承継スルノ必要アルトキハ本人ノ申立ニ因リ区裁判所ハ年齢ノ条件ヲ宥恕スルコトヲ得
第三百八条 隠居者ノ配偶者、親族及ヒ検事ハ左ノ原因ノ一ニ基キ隠居届出ノ日ヨリ六十日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第一 第三百六条第一号乃至第三号ノ条件ニ違ヒタル事実
第二 家督相続ヲ為ス者カ推定家督相続人ニ非サル事実
又隠居カ任意ニ出テサリシ場合ニ於テハ隠居者モ亦故障ヲ申立ツルコトヲ得
第三百九条 隠居カ第三百六条第四号ノ条件ニ違ヒタル事実アルトキハ隠居者ノ配偶者ニ限リ故障ヲ申立ツルコトヲ得
又隠居者カ債権者ヲ詐害スルノ意思ヲ以テ隠居ヲ為サントスルトキハ債権者ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得
前条ノ期間ハ本条ニモ亦之ヲ適用ス
第三百十条 隠居ヲ為ストキハ当事者ヨリ其旨ヲ身分取扱吏ニ届出ツ可シ
第三百十一条 隠居家督相続ハ届出前ノ利害関係人ニ対シテハ第三百八条ニ定メタル期間満限ノ日ヨリ又故障アリタルトキハ其故障ノ棄却確定シタル日ヨリ死亡ニ因ル相続ト同一ノ効力ヲ生ス但隠居者ノ終身ヲ限度トスル権利及ヒ義務ヲ消滅セシメス
第二節 遺産相続
第三百十二条 遺産相続トハ家族ノ死亡ニ因ル相続ヲ謂フ
第三百十三条 家族ノ遺産ハ其家族ト家ヲ同フスル卑属親之ヲ相続シ卑属親ナキトキハ配偶者之ヲ相続シ配偶者ナキトキハ戸主之ヲ相続ス
第三百十四条 卑属親カ遺産ヲ相続スル場合ニ於テハ第二百九十五条ノ規定ヲ適用ス
第三節 国ニ属スル相続
第三百十五条 相続人アラサル財産ハ当然国ニ属ス
国ハ限定ノ受諾ヲ以テ相続ス
第三百十六条 国ニ属ス可キ相続財産ハ其領収ヲ為スニ至ルマテ相続人曠欠ノ財産ヲ管理スル如ク之ヲ管理ス
第四節 相続ノ受諾及ヒ抛棄
第三百十七条 相続人ハ相続ニ付キ単純若クハ限定ノ受諾ヲ為シ又ハ抛棄ヲ為スコトヲ得但法定家督相続人ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス又隠居家督相続人ハ限定ノ受諾ヲ為スコトヲ得ス
第三百十八条 隠居家督相続ヲ除ク外相続人ハ相続財産ヲ調査スル為メ相続ノ日ヨリ三个月ノ期間ヲ有ス但裁判所ハ情況ニ因リ更ニ三个月内ノ延期ヲ許スコトヲ得
受諾又ハ抛棄ヲ決定スル為メ一个月ノ期間ヲ有ス此期間ハ調査期間満限ノ日又ハ其前ニ実際ノ調査ヲ終了シタル日ヨリ之ヲ算ス
第三百十九条 相続人ハ調査又ハ決定ノ期間内相続財産ニ関スル一切ノ訴訟手続ヲ停止セシムルコトヲ得
第三百二十条 相続財産ニ関スル訴訟ニ要セシ費用ハ法律上ノ期間内ニ係ルモノト裁判所ノ許シタル延期内ニ係ルモノトヲ問ハス総テ相続財産ノ負担トス但相続人ノ所為又ハ過失ニ因リテ要セシ費用ハ此限ニ在ラス
第三百二十一条 相続財産中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調査又ハ決定ノ期間内ト雖モ区裁判所ノ認可ヲ得テ其物品ヲ競売ニ付スルコトヲ得但日用品ハ裁判所ノ認可ヲ経スシテ之ヲ処分スルコトヲ得
第一款 単純ノ受諾
第三百二十二条 相続人カ被相続人ノ財産ニ関シ明示又ハ黙示ニテ其代表者ト為ルノ意思ヲ顕ハストキハ単純ノ受諾トス
第三百二十三条 左ノ如キ場合ニ於テハ黙示ノ受諾アリトス
第一 相続財産ノ一箇又ハ数箇ニ付キ他人ノ為メニ所有権ヲ譲渡シ又ハ其他ノ物権ヲ設定シタルトキ但財産編第百十九条以下ノ制限ニ従ヒタル賃借権ノ設定ハ此限ニ在ラス
第二 相続人カ第三百十八条ノ期間内ニ限定受諾又ハ抛棄ヲ為ササルトキ
右ノ外尚ホ第三百二十七条第二号ノ場合ハ単純ノ受諾ヲ成ス
第三百二十四条 受諾ハ左ノ原因ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ受諾シタルトキ
第二 詐欺ノ為メニ受諾シタルトキ
第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ受諾シタルトキ
第四 受諾ノ時成立セルコトヲ知ラサル債務ノ為メ破産又ハ無資力ト為ルニ至ル可キトキ
此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル銷除訴権ノ期間及ヒ条件ニ従フ
第二款 限定ノ受諾
第三百二十五条 相続人カ相続財産ノ限度マテニ非サレハ債務ノ弁償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス
第三百二十六条 相続人ニシテ限定ノ受諾ヲ為スノ意思ヲ有スル者ハ第三百十八条ノ期間内ニ調査シタル財産ノ目録ヲ相続地ノ区裁判所ニ差出タシ其申述ヲ為シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ
第三百二十七条 左ノ場合ニ於テハ相続人ハ限定受諾ヲ為スノ権利ヲ失フ
第一 単純ノ受諾ヲ為シタルトキ
第二 相続財産ヲ私取シ若クハ隠匿シ又ハ悪意ヲ以テ財産調査目録中ニ相続財産ノ幾分ヲ記載セサリシトキ
第三百二十八条 限定受諾者ハ其特有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理シ債権者及ヒ受遺者ニ其計算ヲ為ス可シ但此計算ハ債務及ヒ遺贈ノ弁済ノ為メ相続財産ヲ払尽シタル後一个月内ニ之ヲ完了スルコトヲ要ス
第三百二十九条 限定受諾者ハ動産ト不動産トヲ問ハス総テ相続財産ノ売却ヲ要スルトキハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付ス可シ
第三百三十条 限定受諾者ハ適法ニ売却シタル財産ノ各箇ニ付テ得タル代価ヲ混同セス其各箇ニ付テ優先権ヲ有スル債権者ニ順次ニ弁済ス可シ
第三百三十一条 相続ノ負担スル債務又ハ遺贈ノ弁済ヲ差押ヘ又ハ其弁済ニ付キ異議ヲ述フル債権者又ハ受遺者アルトキハ限定受諾者ハ裁判ヲ以テ定メタル順次及ヒ方法ニ従フニ非サレハ其弁済ヲ為スコトヲ得ス
第三百三十二条 前条ノ差押又ハ異議アラサルトキハ債権者又ハ受遺者ノ要求ニ従ヒテ弁済ヲ為ス
弁済ノ為メニ相続財産ヲ払尽シタル後ト雖モ第三百二十八条ニ規定シタル計算ヲ完了セサル前ニ要求ヲ為ス債権者又ハ受遺者ハ左ノ区別ニ従ヒ既ニ弁済ヲ得タル債権者及ヒ受遺者ニ対シテ求償権ヲ行フコトヲ得
第一 債権者ハ先ツ受遺者ニ対シ次ニ債権者ニ対スルコト
第二 受遺者ハ単ニ受遺者ニ対スルコト
第三百三十三条 相続人カ計算ノ完了ヲ遅延シタル場合ニ於テハ債権者中未タ弁済ヲ得サル者ヨリ既ニ弁済ヲ得タル受遺者及ヒ債権者ニ求償スルコトヲ得ヘキ額ヲ直チニ相続人ノ特有財産ニ付キ求償スルコトヲ得
第三百三十四条 相続財産ヲ払尽シ計算ヲ完了シタル後ニ要求ヲ為ス債権者ハ単ニ弁済ヲ得タル受遺者ニ対スルニ非サレハ求償権ヲ行フコトヲ得ス
第三百三十五条 前三条ノ求償権ハ三个年間之ヲ行フコトヲ得但此期間ハ計算ノ完了前ニ係ルトキハ初メ相続人ニ要求シタル日又完了後ニ係ルトキハ其完了ノ日ヨリ之ヲ算ス
第三款 抛棄
第三百三十六条 相続ヲ抛棄セントスル相続人ハ相続地ノ区裁判所ニ其旨ヲ申述シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ
第三百三十七条 抛棄シタル相続ハ他ニ受諾シタル相続人アラサル間ハ抛棄者更ニ之ヲ受諾スルコトヲ得然レトモ此受諾ハ第三百十八条ノ期間内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但相続財産ニ付キ第三者ノ有効ニ得タル権利ヲ害スルコト無シ
第三百三十八条 相続ヲ抛棄シタル者ハ他ニ受諾シタル相続人アリト雖モ左ノ場合ニ於テハ其抛棄ヲ銷除スルコトヲ得
第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ抛棄シタルトキ
第二 詐欺ノ為メニ抛棄シタルトキ
第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ抛棄シタルトキ
此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル期間及ヒ条件ニ従フ
第三百三十九条 債権者ヲ詐害スル意思ニ出テタル抛棄ハ財産編第三百四十一条以下ニ定メタル区別及ヒ期間ニ従ヒ債権者自己ノ利益ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得
第三百四十条 適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推定セラレタル者ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス
第三百四十一条 相続ニ包含スル物ヲ私取シ又ハ隠匿シタル相続人ハ其相続ヲ抛棄スル権利ヲ失フ
第四款 相続人ノ曠欠セル相続財産ノ処分
第三百四十二条 相続人現出セス相続人ノ有無分明ナラス又ハ相続人相続ヲ抛棄シタルトキハ相続人ノ曠欠セルモノト看做ス
第三百四十三条 相続地ノ区裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リテ相続財産ノ管理人ヲ命ス可シ
第三百四十四条 管理人ハ利害関係人ヲ召喚シテ相続財産ヲ調査シ其目録ヲ作リ財産ノ形状ヲ検証セシム可シ
管理人ハ此手続ヲ終了シタル後相続ニ属スル権利ヲ行使シ之ヲ訟求シ又其相続ニ対スル訟求ニ答弁ス可シ
金銭ハ相続財産中ニ存スルモノト其売却ヨリ得タルモノトヲ問ハス供託所ニ之ヲ供託ス可シ
相続ノ負担スル債務ハ区裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ弁済スルコトヲ得ス
第三百四十五条 限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ関シ第三百二十八条以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ之ヲ適用ス
第三百四十六条 管理人ハ計算ヲ完了シテ尚ホ相続財産ノ存スルニ於テハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付シ其得タル金額ヲ供託所ニ供託ス可シ
管理人ハ其領収証ヲ区裁判所ニ差出タシ区裁判所ハ之ヲ保存ス可シ
第三百四十七条 相続人現出スルトキハ其相続人ハ区裁判所ヨリ供託所ノ領収証及ヒ相続人タル身分ノ証明書ヲ得テ之ヲ供託所ニ提出シ供託金額ヲ領収ス可シ
第三百四十八条 相続人アラサルコト確実ニ至リタルトキハ国ハ特別法ニ従ヒ供託金額ヲ領収ス可シ
第十四章 贈与及ヒ遺贈
総則
第三百四十九条 贈与トハ当事者ノ一方カ無償ニテ他ノ一方ニ自己ノ財産ヲ移転スル要式ノ合意ヲ謂フ
第三百五十条 贈与ハ単純、有期又ハ条件附ナルコト有リ
贈与ハ法律ノ認メタル原因アルニ非サレハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス
第三百五十一条 贈与者ハ贈与物ノ妨碍及ヒ追奪ヲ担保セス但其贈与以後ニ係ル贈与者ノ所為ヨリ生シタル妨碍及ヒ追奪ハ此限ニ在ラス
第三百五十二条 遺贈トハ当事者ノ一方カ他ノ一方ニ無償ニテ自己ノ財産ヲ遺言ニ因リテ死亡ノ時ニ移転スル行為ヲ謂フ
遺贈ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得
第三百五十三条 遺言書中ニ存スル不能又ハ不法ノ条件ハ之ヲ記セサルモノト看做ス
贈与書中ニ不能又ハ不法ノ条件アルトキハ其贈与ヲ無効ト為ス
第一節 贈与又ハ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力
第三百五十四条 法律上特ニ無能力者ト定メタル者ヲ除ク外何人ニ限ラス贈与及ヒ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力ヲ有ス
第三百五十五条 左ニ掲クル者ハ贈与ヲ為ス能力ヲ有セス
第一 贈与ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者
第二 禁治産者
第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者
第四 未成年者但夫婦財産契約ノ為メ法律ノ特ニ許ス場合ハ例外トス
第三百五十六条 准禁治産者ハ財産譲渡ノ為メ法律ノ要スル方式ニ従フニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス
第三百五十七条 左ニ掲クル者ハ遺贈ヲ為ス能力ヲ有セス
第一 遺贈ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者
第二 民事上ノ禁治産者
第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者
第四 未成年者但自治産者ハ此限ニ在ラス
第二節 贈与
第一款 贈与ノ方式
第三百五十八条 贈与ハ分家ノ為メニスルモノト其他ノ原因ノ為メニスルモノトヲ問ハス普通ノ合意ノ成立ニ必要ナル条件ヲ具備スル外尚ホ公正証書ヲ以テスルニ非サレハ成立セス
然レトモ慣習ノ贈物及ヒ単一ノ手渡ニ成ル贈与ニ付テハ此方式ヲ要セス
第三百五十九条 贈与ハ贈与者ノ現有ノ財産ノミヲ包含ス若シ将来ノ財産ヲ包含シタルトキハ其財産ニ付テハ贈与ハ無効トス
然レトモ数額ノ定マリタル金銭又ハ定量物ノ贈与ハ贈与者ノ現有スルト否トヲ問ハス有効トス
第三百六十条 贈与ノ性質又ハ諾約ニ因リテ受贈者カ贈与者ノ債務ヲ弁済スル義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈与ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セス
受贈者カ贈与者ノ将来ノ債務ヲ弁済ス可キノ諾約ヲ為シタルトキハ其諾約ハ無効トス
第三百六十一条 贈与者ハ自己ノ利益ニ於テスルニ非サレハ自己ニ先タチテ受贈者ノ死亡スルトキ其贈与ヲ解除ス可キ条件ヲ要約スルコトヲ得ス
若シ贈与者カ其相続人又ハ第三者ノ利益ニ於テ此解除条件ヲ要約シタルトキハ其条件ハ無効トス
第三百六十二条 前条第一項ノ規定ニ従ヒテ有効ニ要約シタル解除条件ノ成就ハ受贈者ノ相続人ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ於テ要約シタル解除条件ト同一ノ効力ヲ生ス
然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ハラス左ノ二箇ノ条件具備スルトキハ贈与財産ニ付キ法律上ノ抵当権ヲ保有ス
第一 贈与カ夫婦財産契約ヲ以テ夫ノ為メ為サレタルモノナルトキ
第二 贈与財産ノ外ナル夫ノ財産ヲ以テ婦ノ特有財産ノ返還ヲ担保スルニ足ラサルトキ
第二款 贈与ノ廃罷
第三百六十三条 贈与ハ合意ヲ無効ト為ス普通ノ原因ノ外尚ホ贈与者ノ要約シタル条件ノ不履行ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得
第三百六十四条 条件ノ不履行ニ基ク贈与ノ廃罷ハ贈与者又ハ其承継人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得
第三百六十五条 条件ノ不履行ニ基キ贈与ヲ廃罷シタル場合ニ於テハ受贈者ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス未必条件ノ成就ニ因リテ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ効力ヲ生ス
第三節 夫婦間ノ贈与ノ特例
第三百六十六条 未成年ノ夫又ハ婦ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ人ノ許諾及ヒ立会ヲ得且夫婦財産契約ヲ以テスルニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス
第三百六十七条 夫婦間ノ贈与ハ何等ノ約款アルニ拘ハラス婚姻中贈与者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得
贈与ノ廃罷ハ第三者ニ対シテ効力ヲ有セス但贈与ノ登記ニ廃罷ノ訴状ヲ附記シタル後ニ受贈者ノ遺産所持者ヨリ贈与財産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者ニ対シテハ此限ニ在ラス
第四節 遺贈
第一款 遺言ノ方式
第三百六十八条 遺言ハ遺言者ノ自筆ノ証書、公正証書又ハ秘密ノ方式ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得
然レトモ二人以上ノ人ハ一箇ノ証書ヲ以テ遺言ヲ為スコトヲ得ス
第三百六十九条 自筆ノ遺言書ハ遺言者カ其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス
第三百七十条 公正証書ニ依ル遺言ハ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ於テ遺言者カ遺言ノ旨趣ヲ口授シ公証人之ヲ筆記シ朗読シタル後遺言者及ヒ証人各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス
然レトモ氏名ヲ自書スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ証書ニ記載スルヲ以テ足ル
第三百七十一条 秘密ノ方式ニ依ル遺言書ハ遺言者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ書シタルトヲ問ハス左ノ諸件ヲ具備スルニ非サレハ其効ヲ有セス
第一 遺言者カ氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト
第二 遺言書ヲ封シテ遺言者カ之ニ封印シタルコト
第三 遺言者カ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書タル旨ヲ陳述シタルコト
第四 公証人カ遺言者ノ陳述ト之ヲ聴キタル日附トヲ封紙ニ記シテ遺言者及ヒ証人ト共ニ各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト但此場合ニ於テ氏名ヲ自書スル能ハサル証人アルトキハ公証人其事由ヲ封紙ニ記スルヲ以テ足ル
公証人ハ遺言者ノ死亡ノ後其相続人ノ立会ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記シタル領収書ヲ遺言者又ハ其指定シタル証人中ノ一人ニ授付ス可シ
第三百七十二条 秘密ノ方式ニ依ル遺言トシテ有効ナル為メ前条ニ定メタル条件ニ欠クルモノ有リト雖モ其全文、日附及ヒ氏名共ニ遺言者ノ自書ニ係ルトキハ自筆ノ遺言書トシテ有効トス
第三百七十三条 受遺者、遺言ニ立会フ公証人ノ筆生其他普通ノ無能力者ハ証人ト為ルコトヲ得ス
第二款 遺言ノ特別方式
第三百七十四条 軍人及ヒ軍属ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ内地ト雖モ交戦中若クハ合囲中ニ在ル者ハ将校一人証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十五条 遠征中、交戦中又ハ合囲中ニ在ル軍人及ヒ軍属ニシテ疾病又ハ傷痍ノ為メ病院ニ在ル者ハ其院ノ医官及ヒ事務官ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十六条 伝染病ノ為メ行政処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ナルト否トヲ問ハス警察官一人及ヒ証人一人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十七条 航海中ニ在ル者ハ軍艦ニ在テハ将校一人其他ノ船舶ニ在テハ事務員一人及ヒ証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得
第三百七十八条 海上ニテ遺言書ヲ作リタルトキハ其旨ヲ航海日誌ニ記載ス可シ
第三百七十九条 本款ノ規定ニ従ヒテ作リタル遺言書ニハ遺言者、代書者及ヒ立会人各其氏名ヲ自書シテ捺印ス可シ
氏名ヲ自書シ又ハ捺印スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺言書ニ記載スルヲ以テ足ル
第三百八十条 外国ニ在ル日本人ハ第三百六十九条ニ定メタル自筆ノ方式ニ依リ又ハ其地ニ用ユル公正ノ方式ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得
第三百八十一条 外国ニ於テ作リタル遺言書ハ遺言者ノ日本国内ニ有スル住所ノ区裁判所ノ簿冊ニ之ヲ登録シ若シ住所ノ知レサルトキハ最終居所ノ区裁判所ノ簿冊ニ之ヲ登録シタル後ニ非サレハ日本国内ニ在ル財産ニ付キ其遺言ヲ執行スルコトヲ得ス
又其遺言書ニ日本国内ニ在ル不動産ノ処分ヲ包含スルトキハ其不動産所在地ノ区裁判所ニ登記ヲ求メタル後ニ非サレハ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百八十二条 日本ニ在ル外国人ハ日本ノ法律ニ従ヒ又ハ其本国ノ法律ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得
第三款 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ノ部分
第三百八十三条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ト相続人ニ貯存ス可キ財産トノ部分ヲ定ムルニハ家督相続ノ特権ヲ組成スルモノヲ控除ス
第三百八十四条 法定家督相続人アルトキハ被相続人ハ相続財産ノ半額マテニ非サレハ他人ノ為メ遺贈ヲ為スコトヲ得ス
家族ノ遺産ヲ相続スル卑属親アルトキモ亦同シ
第三百八十五条 用益権ノ如キ其存立時間ノ不確実ナル権利ハ相続ノ時ニ於ケル価額ヲ査定シテ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ定ム
其権利ノ価額カ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スルトキハ相続人ハ或ハ被相続人ノ遺贈ヲ履行シ或ハ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ノ完全ナル所有権ヲ与ヘテ其権利ヲ受戻スコトヲ得
第三百八十六条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スル遺贈ハ之ヲ其部分マテニ減殺ス
第三百八十七条 減殺ス可キ分量ハ相続ノ時ニ現存スル総テノ財産ノ評価額ヨリ被相続人ノ債務額ヲ控除シタル剰余額ニ付キ之ヲ算定ス
第三百八十八条 遺贈ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財産ノ分量ヲ組成ス可キトキハ包括ノ遺贈ト特定ノ遺贈トヲ問ハス其価額ノ割合ヲ以テ総テノ遺贈ヲ減殺ス可シ
第三百八十九条 総テ贈与ニシテ贈与者ノ死亡ノ後執行ス可キモノハ遺贈ト其効力ヲ同フス
第四款 遺言ノ効力及ヒ執行
第三百九十条 単純又ハ有期ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ受遺者ノ知ルト否トヲ問ハス包括ノ遺贈ニ付テハ其包含スル財産及ヒ債務ヲ受遺者ニ移転シ特定ノ遺贈ニ付テハ其遺贈物ノ権利ヲ受遺者ニ移転ス然レトモ有期ノ遺贈ハ満期ニ至ルマテ其執行ヲ止ム
停止又ハ解除ノ条件附ニ於ケル遺贈ノ効力ハ合意ノ事項ニ関シテ規定シタル如ク其条件ノ成就如何ニ従フ
遺贈ノ目的物カ代替物ナルトキハ其所有権ハ財産編第三百三十二条ノ規定ニ従ヒテ移転ス
如何ナル場合ニ於テモ受遺者ハ遺贈ヲ抛棄スルコトヲ得
第三百九十一条 遺言者カ不分ノ権利ヲ有スル物ヲ遺贈シタルトキハ受遺者ハ遺言者ト同一ナル権利ヲ取得ス
第三百九十二条 受遺者ハ遺贈物ノ引渡ヲ要求シタル時ヨリ後ニ非サレハ遺贈物ノ果実ヲ収受スル権利ヲ有セス但期限ノ到来シ又ハ未必条件ノ成就シタルコトヲ要ス
然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テハ受遺者ハ遺言者ノ死亡、満期又ハ条件成就ノ時ヨリ要求ヲ待タスシテ直チニ果実ヲ収受スル権利ヲ有ス
第一 遺言者カ果実ヲ収受スル権利ヲ明示シタルトキ
第二 遺贈カ養料ノ性質ヲ有スルトキ
第三 相続人カ悪意ヲ以テ遺言ヲ隠秘シタルトキ
第三百九十三条 遺贈物ハ其遺贈ノ単純ナルトキハ当然ノ附従物ト共ニ遺言者ノ死亡ノ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ其遺贈ノ有期又ハ未必条件附ナルトキハ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ
相続人カ遺贈物ニ加ヘタル改良又ハ毀損ハ相続人ト受遺者トノ間相互ニ賠償ヲ請求スル権利ヲ生ス
解除ノ未必条件ヲ以テ遺贈ヲ為シタル場合ニ於テ其条件ノ成就シタルトキハ受遺者又ハ其相続人ヨリ遺贈物ヲ現状ニテ返還ス可シ但人為ニ因ル改良又ハ毀損ニ付キ双方ノ間ニ於ケル相互ノ賠償ヲ妨ケス
第三百九十四条 遺言者カ遺言ノ後ニ取得シタル土地又ハ建物ハ遺贈ノ不動産ニ接著シ又ハ其不動産ノ利用ヲ改良スル為メニ供ヘタルモノト雖モ其不動産ノ受遺者ヲ利セス
第三百九十五条 遺言書ハ公正証書ヲ除ク外相続地ノ区裁判所ノ検認ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
封印アル遺言書ハ区裁判所ニ於テスルニ非サレハ開封スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ニ違フ者ハ百円以下ノ過料ニ処ス
第三百九十六条 遺言ノ執行及ヒ遺贈物ノ引渡ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但貯存財産ニ負担セシムルコトヲ得ス
第三百九十七条 不動産物権ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ後受遺者カ其遺贈ヲ知リタル時ヨリ三十日内ニ之ヲ登記シタルニ非サレハ遺言者ノ死亡ノ日ニ遡リテ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
登記ノ費用ハ受遺者ノ負担トス
第三百九十八条 遺言者ハ合意又ハ遺言ヲ以テ遺贈ノ執行ヲ一人又ハ数人ニ委託スルコトヲ得
遺言執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服ス
第五款 遺言ノ廃罷及ヒ失効
第三百九十九条 遺言ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得廃罷ハ明示又ハ黙示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第四百条 遺言者カ遺言ノ方式ニ従ヒ遺言ノ全部又ハ一分ヲ廃罷スル意思ヲ証書ニ記載シタルトキハ其廃罷ハ明示ノモノトス
第四百一条 後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ニ包含スル特定物ヲ処分シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺言ヲ黙示ニテ廃罷シタルモノトス
遺言者カ生存中遺言ニ包含スル特定物ヲ有償又ハ無償ニテ処分シタルトキモ亦同シ
第四百二条 廃罷ニ帰シタル遺言ハ前条ノ処分ノ無効ト為ルトキト雖モ有効ニ復セス
第四百三条 遺言ハ受遺者ノ条件不履行ノ為メ又ハ遺言者ヲ死ニ致シタル原因ノ為メ相続人ヨリ廃罷ヲ請求スルコトヲ得
第四百四条 遺言ハ方式上完全ノモノト雖モ左ノ場合ニ於テハ其効ヲ失フ
第一 受遺者カ遺言者ヨリ先ニ死亡シタルトキ
第二 停止条件附ノ遺言ニ付キ其条件ノ成就前ニ受遺者ノ死亡シタルトキ
第四百五条 廃罷又ハ失効ニ帰シタル遺言ノ部分ニ付テハ曽テ遺言アラサリシモノト看做ス但遺言者カ明示ヲ以テ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス
第五節 包括ノ贈与又ハ遺贈ニ基ク不分財産ノ分割
第四百六条 包括ノ贈与又ハ遺贈ヲ為シタルニ因リ贈与者又ハ相続人ト受贈者又ハ受遺者トノ間ニ不分財産ヲ生シタルトキハ下ノ規定ニ従ヒ之ヲ分割ス受贈者又ハ受遺者数人アルトキモ亦同シ
第一款 分割
第四百七条 不分財産ノ所有者ノ各自ハ其財産ノ分割ヲ要求スルコトヲ得但財産編第三十九条ノ規定ニ従ヒテ分割セサルコトヲ約シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百八条 分割ハ明示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス財産ヲ区別シテ収益スル事実ハ分割トセス
第四百九条 不分財産ノ分割ハ所有者各自ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ為スコトヲ得
然レトモ左ノ場合ニ於テハ裁判ヲ以テスルニ非サレハ其分割ヲ為スコトヲ得ス
第一 所有者中ニ未成年者、禁治産者又ハ瘋癲者アリテ其後見人又ハ仮管理人アラサルトキ
第二 所有者中ニ不在者アリテ有効ニ分割ヲ承諾スル権限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ
第三 所有者中ニ合意上ノ分割ヲ承諾セサル者アルトキ
第四百十条 裁判上ノ分割ヲ要スルトキハ相続地ノ区裁判所ハ相続人、債権者又ハ検事ノ請求ニ因リ封印ヲ為シ及ヒ目録ヲ作ラシム可シ
第四百十一条 裁判上ノ分割ヲ要セサルトキト雖モ債権者ハ区裁判所ノ許可ヲ得テ封印及ヒ目録調製ヲ請求スルコトヲ得但執行力アル証書ヲ有スルトキハ此許可ヲ要セス
封印ノ除去ニ付テハ総テノ債権者異議ヲ述フルコトヲ得
第四百十二条 所有者ノ各自ハ不分財産ノ現物ニテ其部分ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得但債権者其引渡ヲ差押ヘタルトキ又ハ所有者ノ多数ヲ以テ其財産ノ負担スル債務及ヒ費用ヲ予メ弁済スル為メ売却ヲ必要ト決シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十三条 未成年者、禁治産者、瘋癲者又ハ不在者ノ為メ定メタル規則ニ違ヘル分割ハ其者ノ利益ニ於テノミ仮定ノモノトス
第四百十四条 分割ノ際利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者ノ数人アルトキハ其各自ノ為メ臨時保佐人又ハ管理人ヲ指定ス可シ
第四百十五条 分割ノ結了シタルトキハ各所有者ハ其領収シタル物ノ証書ヲ保有ス
所有者ノ総体又ハ数人ニ分割シタル一箇ノ物ノ証書ハ其最大ノ部分ヲ領収シタル者之ヲ保有ス最大ノ部分ヲ領収シタル者ナキトキハ各所有者ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム若シ議協ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス
何レノ場合ニ於テモ証書ノ保有者ハ他ノ所有者ノ求メニ応シテ之ヲ便用セシム可シ
第四百十六条 所有者ハ各自ニ受クル部分ノ割合ヲ以テ債務ヲ分担ス
第二款 分割ノ効力及ヒ担保
第四百十七条 分割ノ効力ニ付テハ第百五十五条ノ規定ヲ適用ス
第四百十八条 各所有者ハ分割前ノ原因ニ基ク分割物ノ妨碍及ヒ追奪ニ付キ互ニ担保ノ責ニ任ス但別段ノ合意ヲ以テ担保ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十九条 債権ニ付テハ分割ノ当時ニ於ケル債務者ノ資力ノ限度マテニ非サレハ各所有者担保ノ責ニ任セス
第三款 分割ノ銷除
第四百二十条 分割ハ財産編第三百四条以下ニ定メタル区別ニ従ヒ不成立又ハ無効タル外尚ホ所有者ノ一人カ其領収シタル部分ニ付キ四分一以上ノ欠損ヲ被フリタルトキハ其欠損ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得
欠損ノ査定ハ分割ノ時ニ於ケル物ノ価格ニ従ヒテ之ヲ為ス可シ
第四百二十一条 分割銷除ノ訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ定メタル時効及ヒ認諾ニ因リテ消滅ス
第十五章 夫婦財産契約
第一節 総則
第四百二十二条 夫婦財産契約ハ婚姻ノ儀式前ニ之ヲ為シ及ヒ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス
婚姻ノ儀式後ハ契約ヲ変更スルコトヲ得ス
第四百二十三条 婚姻ヲ為スコトヲ得ル未成年者ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ尊属親又ハ後見人ノ立会ニテ財産契約ヲ為スコトヲ得
第四百二十四条 財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタルトキハ財産ノ関係ハ法定ノ制ニ従フ
第四百二十五条 日本ニ於テ財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタル外国人ハ夫タル者ノ本国ニ行ハルル普通ノ制ニ従ヒタルモノト看做ス
第二節 法定ノ制
第四百二十六条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ現ニ所有シ又ハ将来ニ所有ス可キ特有財産ヨリ婚姻中ニ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ婚姻中ニ得タル所得ハ婚姻中ノ費用分担ノ為メニ之ヲ配偶者ニ供出シタルモノト看做ス
第四百二十七条 夫又ハ戸主タル婦カ配偶者ノ特有財産ニ付テ有スル権利ハ用益者ノ権利ニ同シ又配偶者ノ特有財産ニ関シテ収益ヲ為ス夫又ハ戸主タル婦ハ用益者ノ負担スル修繕其他収益ヲ以テ弁済ス可キ義務ヲ負フ
第四百二十八条 夫ハ婦ノ特有財産入夫ハ戸主タル婦ノ財産ヲ管理ス
第四百二十九条 夫又ハ入夫ハ婦又ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但人事編第二百二十九条及ヒ第二百七十五条ノ場合ハ此限ニ在ラス
第四百三十条 入夫ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婚姻中ノ所得ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但其特有財産ヨリ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ得タル所得ハ此限ニ在ラス
第四百三十一条 夫カ婦ノ特有財産ニ付キ入夫カ戸主タル婦ノ財産ニ付キ其承諾ヲ得スシテ為ス賃貸借ニ関シテハ財産編第百十九条以下ノ規定ヲ適用ス
第四百三十二条 管理ノ失当ニ因リ夫又ハ入夫カ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ危険ニ置クトキハ婦又ハ戸主タル婦ハ自ラ其財産ヲ管理セント請求スルコトヲ得
第四百三十三条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ負ヘル債務及ヒ婚姻中ニ生スル債務ニ付テハ債権者ハ婦又ハ入夫ノ特有財産ニ対シテ権利ヲ行フコトヲ得
第四百三十四条 婦ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務カ家事管理ノ為メニ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ夫ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得
入夫ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務ノ財産管理ノ為メニ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ戸主タル婦ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得
第四百三十五条 婦又ハ入夫ノ特有財産タルコトヲ証セサル財産ハ総テ夫又ハ戸主タル婦ニ属スルモノト看做ス