陸軍予備後備下士兵卒服役条例
法令番号: 勅令第百四十四號
公布年月日: 明治22年12月30日
法令の形式: 勅令
朕陸軍豫備後備下士兵卒服役條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年十二月二十八日
陸軍大臣 伯爵 大山巖
勅令第百四十四號
陸軍豫備後備下士兵卒服役條例
第一條 陸軍豫備後備下士兵卒ハ本籍師管ノ兵籍ニ編入シ大隊區司令官ノ管轄ニ屬ス
第二條 豫備後備下士ハ戰時若クハ事變ニ際シ之ヲ召集ス平常ニ在テハ每年一度簡閱㸃呼ヲ爲シ又勤務演習ノ爲メ召集スルコトアル可シ
第三條 豫備後備下士ニシテ文官ニ任セラレ餘人ヲ以テ代フ可カラサル職務ヲ奉スル者及市町村長、助役、收入役ト爲ル者ハ勤務演習簡閱㸃呼ノ爲メ召集スルコトナシ
法律ヲ以テ設立シタル議會ノ議員ト爲ル者其開會中亦同シ
餘人ヲ以テ代フ可カラサル職務ヲ奉スル者ハ豫メ當該官廳ヨリ內閣ニ具狀シ認可ヲ請ケ本人所管ノ大隊區司令官ニ通報ス可シ其事故止ミタルトキ亦同シ
第四條 豫備後備下士兵卒服役滿期ニ至リタルトキハ辭令ヲ用井スシテ豫備ハ後備ニ後備ハ國民兵役ニ入ルモノトス但下士ニ在テ後備滿期ニ至リタルトキハ其官消滅スルモノトス
第五條 豫備後備下士及下士適任證書ヲ所持スル者滿期後引續キ服役セント欲スルトキハ年數ヲ定メ市町村長東京京都大阪ノ三市ニ在テハ區長以下之ニ傚フ及監視區長ヲ經テ大隊區司令官ニ願出可シ
第六條 豫備後備下士兵卒ニシテ止ムヲ得サル事故アリ勤務演習召集ノ猶豫若クハ簡閱㸃呼免除ヲ願ハント欲スルトキハ其願書ニ市町村長ノ奧書證印ヲ受ケ監視區長ヲ經テ大隊區司令官ニ差出ス可シ
第七條 豫備後備下士兵卒ニシテ監視區外ニ寄留スル者ハ願ニ由リ其地ニ於テ簡閱㸃呼ヲ受クルコトヲ得
一箇年以上師管歩兵ニ在テハ旅管外ニ寄留スル者ハ願ニ由リ寄留地師管又ハ旅管ニ於テ勤務演習ヲ爲スコトヲ得
前二項ニ依リ願出ル者ハ本籍市町村長ノ奧書證印ヲ受ケ監視區長ヲ經テ大隊區司令官ニ差出ス可シ但許可ヲ受ケタルトキハ寄留地到著後寄留後出願ノ者ハ指令書受領後三日以內ニ其由ヲ寄留地ノ監視區長ニ屆出可シ
第八條 現役ヨリ豫備役若クハ後備役ニ入ル下士兵卒ハ十四日以內ニ衞戍地又ハ從前ノ在職地ヲ出發シ一日行程十里詰ヨリ尠ナカラサル日數間ニ歸鄕シ著後十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
衞戍地又ハ從前ノ在職地若クハ其他ノ地ニ十五日以上滯在若クハ寄留セント欲スルトキハ本條ノ出發期日內ニ本籍市町村ニ於テ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但歸鄕シタルトキハ前項ノ屆出ヲ爲ス可シ
第九條 豫備後備下士兵卒傷痍若クハ疾病ニ由リ永久服役ニ堪ヘスト思惟スルトキハ陸軍醫官ノ診斷證書若クハ地方醫師ノ病況書ヲ添ヘ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
第十條 豫備後備下士兵卒兵籍上異動ヲ生シタルトキハ十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但監視區外ニ戶籍ヲ轉換シタルトキハ新舊所管ノ監視區長ニ屆出可シ
第十一條 豫備後備下士兵卒十四日以上ノ旅行或ハ寄留セント欲スルトキハ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但歸鄕シタルトキハ十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
外國ニ旅行中又ハ寄留中ハ勤務演習簡閱㸃呼ノ爲メ召集スルコトナシ但對馬警備隊區ニ在テ朝鮮國釜山ニ旅行又ハ寄留スル者ハ此限ニアラス
第十二條 豫備後備下士兵卒ニシテ市町村長、助役、收入役ト爲リ又ハ法律ヲ以テ設立シタル議會ノ議員ト爲リタルトキ竝ニ之ヲ罷メタルトキハ十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
第十三條 豫備後備下士兵卒ニシテ死亡又ハ失踪シタル者アルトキハ其親族ヨリ十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ失踪ノ者歸鄕シタルトキ若クハ踪跡ヲ知得シタルトキ亦同シ
第十四條 豫備後備下士兵卒重罪輕罪罰金ヲ除クノ刑ニ處セラレタルトキハ刑名及刑期ヲ記シ其親族ヨリ十四日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
第十五條 本條例中兵卒ト稱スルハ雜卒職工ヲ包含ス
第十六條 第七條第三項但書第八條第十條第十一條第十二條ノ屆出ヲ爲サヽル者ハ五錢以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
第十七條 第八條第十一條ノ通報人正當ノ事由ナクシテ召集ノ命ヲ通報セス若クハ其通報ヲ遲緩シタル者ハ一日以上十日以下ノ抅留ニ處ス
第十八條 豫備後備下士兵卒正當ノ事由ナクシテ簡閱㸃呼ニ會セサル者ハ五十錢以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
第十九條 本條例中大隊區司令官トアルハ警備隊區ニ於テハ警備隊區司令官監視區長トアルハ警備隊區副官監視區トアルハ警備隊區トス
附 則
第二十條 市制町村制ヲ實施セサル地方ニ在テ本條例中市町村長ノ職務ハ戶長ニ於テ之ヲ行フ可シ
朕陸軍予備後備下士兵卒服役条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年十二月二十八日
陸軍大臣 伯爵 大山巌
勅令第百四十四号
陸軍予備後備下士兵卒服役条例
第一条 陸軍予備後備下士兵卒ハ本籍師管ノ兵籍ニ編入シ大隊区司令官ノ管轄ニ属ス
第二条 予備後備下士ハ戦時若クハ事変ニ際シ之ヲ召集ス平常ニ在テハ毎年一度簡閲点呼ヲ為シ又勤務演習ノ為メ召集スルコトアル可シ
第三条 予備後備下士ニシテ文官ニ任セラレ余人ヲ以テ代フ可カラサル職務ヲ奉スル者及市町村長、助役、収入役ト為ル者ハ勤務演習簡閲点呼ノ為メ召集スルコトナシ
法律ヲ以テ設立シタル議会ノ議員ト為ル者其開会中亦同シ
余人ヲ以テ代フ可カラサル職務ヲ奉スル者ハ予メ当該官庁ヨリ内閣ニ具状シ認可ヲ請ケ本人所管ノ大隊区司令官ニ通報ス可シ其事故止ミタルトキ亦同シ
第四条 予備後備下士兵卒服役満期ニ至リタルトキハ辞令ヲ用井スシテ予備ハ後備ニ後備ハ国民兵役ニ入ルモノトス但下士ニ在テ後備満期ニ至リタルトキハ其官消滅スルモノトス
第五条 予備後備下士及下士適任証書ヲ所持スル者満期後引続キ服役セント欲スルトキハ年数ヲ定メ市町村長東京京都大阪ノ三市ニ在テハ区長以下之ニ倣フ及監視区長ヲ経テ大隊区司令官ニ願出可シ
第六条 予備後備下士兵卒ニシテ止ムヲ得サル事故アリ勤務演習召集ノ猶予若クハ簡閲点呼免除ヲ願ハント欲スルトキハ其願書ニ市町村長ノ奥書証印ヲ受ケ監視区長ヲ経テ大隊区司令官ニ差出ス可シ
第七条 予備後備下士兵卒ニシテ監視区外ニ寄留スル者ハ願ニ由リ其地ニ於テ簡閲点呼ヲ受クルコトヲ得
一箇年以上師管歩兵ニ在テハ旅管外ニ寄留スル者ハ願ニ由リ寄留地師管又ハ旅管ニ於テ勤務演習ヲ為スコトヲ得
前二項ニ依リ願出ル者ハ本籍市町村長ノ奥書証印ヲ受ケ監視区長ヲ経テ大隊区司令官ニ差出ス可シ但許可ヲ受ケタルトキハ寄留地到著後寄留後出願ノ者ハ指令書受領後三日以内ニ其由ヲ寄留地ノ監視区長ニ届出可シ
第八条 現役ヨリ予備役若クハ後備役ニ入ル下士兵卒ハ十四日以内ニ衛戍地又ハ従前ノ在職地ヲ出発シ一日行程十里詰ヨリ尠ナカラサル日数間ニ帰郷シ著後十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
衛戍地又ハ従前ノ在職地若クハ其他ノ地ニ十五日以上滞在若クハ寄留セント欲スルトキハ本条ノ出発期日内ニ本籍市町村ニ於テ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但帰郷シタルトキハ前項ノ届出ヲ為ス可シ
第九条 予備後備下士兵卒傷痍若クハ疾病ニ由リ永久服役ニ堪ヘスト思惟スルトキハ陸軍医官ノ診断証書若クハ地方医師ノ病況書ヲ添ヘ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
第十条 予備後備下士兵卒兵籍上異動ヲ生シタルトキハ十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但監視区外ニ戸籍ヲ転換シタルトキハ新旧所管ノ監視区長ニ届出可シ
第十一条 予備後備下士兵卒十四日以上ノ旅行或ハ寄留セント欲スルトキハ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但帰郷シタルトキハ十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
外国ニ旅行中又ハ寄留中ハ勤務演習簡閲点呼ノ為メ召集スルコトナシ但対馬警備隊区ニ在テ朝鮮国釜山ニ旅行又ハ寄留スル者ハ此限ニアラス
第十二条 予備後備下士兵卒ニシテ市町村長、助役、収入役ト為リ又ハ法律ヲ以テ設立シタル議会ノ議員ト為リタルトキ並ニ之ヲ罷メタルトキハ十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
第十三条 予備後備下士兵卒ニシテ死亡又ハ失踪シタル者アルトキハ其親族ヨリ十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ失踪ノ者帰郷シタルトキ若クハ踪跡ヲ知得シタルトキ亦同シ
第十四条 予備後備下士兵卒重罪軽罪罰金ヲ除クノ刑ニ処セラレタルトキハ刑名及刑期ヲ記シ其親族ヨリ十四日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
第十五条 本条例中兵卒ト称スルハ雑卒職工ヲ包含ス
第十六条 第七条第三項但書第八条第十条第十一条第十二条ノ届出ヲ為サヽル者ハ五銭以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
第十七条 第八条第十一条ノ通報人正当ノ事由ナクシテ召集ノ命ヲ通報セス若クハ其通報ヲ遅緩シタル者ハ一日以上十日以下ノ拘留ニ処ス
第十八条 予備後備下士兵卒正当ノ事由ナクシテ簡閲点呼ニ会セサル者ハ五十銭以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
第十九条 本条例中大隊区司令官トアルハ警備隊区ニ於テハ警備隊区司令官監視区長トアルハ警備隊区副官監視区トアルハ警備隊区トス
附 則
第二十条 市制町村制ヲ実施セサル地方ニ在テ本条例中市町村長ノ職務ハ戸長ニ於テ之ヲ行フ可シ