陸軍衛生部現役士官補充条例
法令番号: 勅令第九十四號
公布年月日: 明治21年12月26日
法令の形式: 勅令
朕陸軍衞生部現役士官補充條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十一年十二月二十四日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
陸軍大臣 伯爵 大山巖
勅令第九十四號
陸軍衞生部現役士官補充條例
第一條 衞生部現役士官ノ補充ハ左ノ二項ニ據ル
一 醫科大學ノ學生中陸軍出身志願ニシテ才學適當ノ者ヲ選ンテ醫官候補生或ハ藥劑官候補生トナシ陸軍軍醫學校ニ入レ醫科大學ニ通學セシメ卒業ノ上見習醫官又ハ見習藥劑官トナシ三箇月以上衞生部士官ノ勤務ニ服シタル者
二 一年志願兵中醫術若クハ藥舖開業免狀及醫科大學若クハ高等中學校醫學部卒業證書ヲ所持シ入隊後六箇月以上軍事上ノ敎育ヲ受ケタル者ニシテ志願ニ依リ見習醫官又ハ見習藥劑官ヲ命セラレ三箇月以上衞生部士官ノ勤務ニ服シタル者
第二條 醫科大學學生ヲ衞生部士官候補生トナスハ陸軍省醫務局長其人名書ニ考科表ヲ添ヘ陸軍大臣ニ進達ス陸軍大臣ハ其書類ニ依リ衞生部士官候補生ニ採用スヘキ者ヲ決定シ醫務局長ヲシテ之ニ其候補生ヲ命セシム
第三條 衞生部現役士官候補生ハ陸軍軍醫學校ニ入校ノ日ヨリ志願兵トシテ常備兵籍ニ編入シ陸軍一定ノ規則ニ依リ服役セシム且被服ハ衞生部下士ト同一トナシ袖章側章及定色ノ徽章ヲ除キ袖口ニ鏑ヲ付ス
學資及被服裝具等ハ總テ之ヲ官給ス其身分取扱ハ三等看護長ト同一トス
第四條 衞生部現役士官候補生中左ニ揭クル事項ニ當ル者ハ候補生ヲ免シ其二項ニ當ル者ハ入校後ノ費用ヲ償ハシム
一 傷痍疾病ニ由リ學業ニ堪ヘサル者
二 軍紀ヲ紊リ若クハ屢法則ヲ犯シ又ハ品行不良ノ者
三 學力乏クシテ候補生ニ適セサル者
四 上官ノ認定ニ由リ候補生タルヲ得可カラサル者
第五條 第四條ニ當ル者ハ陸軍軍醫學校長ヨリ其事由ヲ悉シテ陸軍省醫務局長ニ上申シ醫務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ノ決定ヲ得テ之ヲ處分ス
第六條 衞生部現役士官候補生ヲ見習醫官又ハ見習藥劑官ト爲スハ陸軍軍醫學校長其人名書ニ考科表及履歷書ヲ添ヘ陸軍省醫務局長ニ上申シ醫務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ニ進達ス
第七條 一年志願兵ニシテ見習醫官又ハ見習藥劑官タランコトヲ志願スル者ハ願書ニ履歷書及醫術若クハ藥舖開業免狀並卒業證書ノ寫ヲ添ヘ所屬部隊長ニ出シ部隊長ハ本人ノ性質品行等ヲ調査シテ其書類ヲ當該軍醫長ニ移シ軍醫長ハ之ヲ審査シテ考科表ヲ添ヘ陸軍省醫務局長ニ上申シ醫務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ニ進達ス
第八條 陸軍大臣ハ第六條第七條ノ書類ヲ審査シタル上之ニ見習醫官見習藥劑官ヲ命シ醫務局長ヲシテ直ニ之ヲ部隊ニ配付セシム
見習醫官見習藥劑官ハ近衞及師團司令部所在地ニ之ヲ配付シ見習醫官ハ各隊ニ見習藥劑官ハ衞戍病院ニ於テ勤務ニ服セシム但定員外トス
第九條 見習醫官見習藥劑官ハ營外ニ居住スルモノトス
部隊ニ於テ食事スルトキハ將校會食所ニ於テ將校ト會食セシム
第十條 見習醫官見習藥劑官ノ位置ハ一等看護長ノ上位トシ其諸給與ハ一等看護長ト異ナルコトナシト雖トモ被服ハ第三條ニ同シ但劒、劒緖、帶革、脚絆ハ衞生部士官ト同一トス
第十一條 見習醫官見習藥劑官ヲ衞生部士官ニ選擧スルハ所管軍醫長先ツ其部隊高級醫官ヨリ其勤務勉勵品行方正學術適當ノ者ニシテ衞生部士官タルヲ得ヘキ保證書ヲ得且自ラ是認シタル後衞生部士官選擧會議ニ付スヘシ
第十二條 選擧會議ハ見習醫官見習藥劑官ヲ衞生部士官ト爲スノ可否ヲ議スル所トス議員ハ可否ヲ選擧報吿紙ニ記入シ署名捺印スヘシ
第十三條 選擧會議ハ近衞及師團軍醫部ニ於テ之ヲ開キ軍醫長ハ議長トナリ議員ハ師團司令部所在地近衞ハ部下又第一師團司令部所在地ニ在テハ陸軍省醫務局ヲ除ク一等軍醫一等藥劑官以上ノ者ヲ以テ之ニ充ツ但第十一條ノ保證者ハ其議ニ加ハルコトヲ得ス
第十四條 選擧會議ニ於テ議員皆可トスルトキハ軍醫長ハ自己ノ意見書ニ選擧報吿書ヲ添ヘ三等軍醫或ハ三等藥劑官ニ補任ノコトヲ陸軍省醫務局長ニ上申ス醫務局長ハ之ヲ審査シテ意見ヲ附シ陸軍大臣ニ進達ス
若シ多數可ナルモ幾分ノ否認者アルトキハ其理由ヲ報吿書ニ記入シテ上申スルコト前項ニ同シ
第十五條 第十四條第二項ニ反シテ否認者多數ナルトキハ其報吿書ヲ陸軍省醫務局長ニ上申シ醫務局長ハ本人ヲ他ノ師團ニ移シ更ニ三箇月間衞生部士官ノ勤務ニ服セシメタル後再ヒ選擧セシメ尙ホ當選セサルトキハ其理由ヲ具ヘ陸軍大臣ニ進達シ大臣ニ於テ之ヲ處分ス但此處分ヲ受ケタル者ハ一等看護長又ハ一等調劑手ニ任シ豫備役ニ編入ス
第十六條 衞生部現役士官ハ第一條ニ揭クルノ外當分ノ內特選ヲ以テ補充スルコトヲ得
朕陸軍衛生部現役士官補充条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十一年十二月二十四日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
陸軍大臣 伯爵 大山巌
勅令第九十四号
陸軍衛生部現役士官補充条例
第一条 衛生部現役士官ノ補充ハ左ノ二項ニ拠ル
一 医科大学ノ学生中陸軍出身志願ニシテ才学適当ノ者ヲ選ンテ医官候補生或ハ薬剤官候補生トナシ陸軍軍医学校ニ入レ医科大学ニ通学セシメ卒業ノ上見習医官又ハ見習薬剤官トナシ三箇月以上衛生部士官ノ勤務ニ服シタル者
二 一年志願兵中医術若クハ薬舗開業免状及医科大学若クハ高等中学校医学部卒業証書ヲ所持シ入隊後六箇月以上軍事上ノ教育ヲ受ケタル者ニシテ志願ニ依リ見習医官又ハ見習薬剤官ヲ命セラレ三箇月以上衛生部士官ノ勤務ニ服シタル者
第二条 医科大学学生ヲ衛生部士官候補生トナスハ陸軍省医務局長其人名書ニ考科表ヲ添ヘ陸軍大臣ニ進達ス陸軍大臣ハ其書類ニ依リ衛生部士官候補生ニ採用スヘキ者ヲ決定シ医務局長ヲシテ之ニ其候補生ヲ命セシム
第三条 衛生部現役士官候補生ハ陸軍軍医学校ニ入校ノ日ヨリ志願兵トシテ常備兵籍ニ編入シ陸軍一定ノ規則ニ依リ服役セシム且被服ハ衛生部下士ト同一トナシ袖章側章及定色ノ徽章ヲ除キ袖口ニ鏑ヲ付ス
学資及被服装具等ハ総テ之ヲ官給ス其身分取扱ハ三等看護長ト同一トス
第四条 衛生部現役士官候補生中左ニ掲クル事項ニ当ル者ハ候補生ヲ免シ其二項ニ当ル者ハ入校後ノ費用ヲ償ハシム
一 傷痍疾病ニ由リ学業ニ堪ヘサル者
二 軍紀ヲ紊リ若クハ屡法則ヲ犯シ又ハ品行不良ノ者
三 学力乏クシテ候補生ニ適セサル者
四 上官ノ認定ニ由リ候補生タルヲ得可カラサル者
第五条 第四条ニ当ル者ハ陸軍軍医学校長ヨリ其事由ヲ悉シテ陸軍省医務局長ニ上申シ医務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ノ決定ヲ得テ之ヲ処分ス
第六条 衛生部現役士官候補生ヲ見習医官又ハ見習薬剤官ト為スハ陸軍軍医学校長其人名書ニ考科表及履歴書ヲ添ヘ陸軍省医務局長ニ上申シ医務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ニ進達ス
第七条 一年志願兵ニシテ見習医官又ハ見習薬剤官タランコトヲ志願スル者ハ願書ニ履歴書及医術若クハ薬舗開業免状並卒業証書ノ写ヲ添ヘ所属部隊長ニ出シ部隊長ハ本人ノ性質品行等ヲ調査シテ其書類ヲ当該軍医長ニ移シ軍医長ハ之ヲ審査シテ考科表ヲ添ヘ陸軍省医務局長ニ上申シ医務局長ハ之ヲ審査シテ陸軍大臣ニ進達ス
第八条 陸軍大臣ハ第六条第七条ノ書類ヲ審査シタル上之ニ見習医官見習薬剤官ヲ命シ医務局長ヲシテ直ニ之ヲ部隊ニ配付セシム
見習医官見習薬剤官ハ近衛及師団司令部所在地ニ之ヲ配付シ見習医官ハ各隊ニ見習薬剤官ハ衛戍病院ニ於テ勤務ニ服セシム但定員外トス
第九条 見習医官見習薬剤官ハ営外ニ居住スルモノトス
部隊ニ於テ食事スルトキハ将校会食所ニ於テ将校ト会食セシム
第十条 見習医官見習薬剤官ノ位置ハ一等看護長ノ上位トシ其諸給与ハ一等看護長ト異ナルコトナシト雖トモ被服ハ第三条ニ同シ但剣、剣緒、帯革、脚絆ハ衛生部士官ト同一トス
第十一条 見習医官見習薬剤官ヲ衛生部士官ニ選挙スルハ所管軍医長先ツ其部隊高級医官ヨリ其勤務勉励品行方正学術適当ノ者ニシテ衛生部士官タルヲ得ヘキ保証書ヲ得且自ラ是認シタル後衛生部士官選挙会議ニ付スヘシ
第十二条 選挙会議ハ見習医官見習薬剤官ヲ衛生部士官ト為スノ可否ヲ議スル所トス議員ハ可否ヲ選挙報告紙ニ記入シ署名捺印スヘシ
第十三条 選挙会議ハ近衛及師団軍医部ニ於テ之ヲ開キ軍医長ハ議長トナリ議員ハ師団司令部所在地近衛ハ部下又第一師団司令部所在地ニ在テハ陸軍省医務局ヲ除ク一等軍医一等薬剤官以上ノ者ヲ以テ之ニ充ツ但第十一条ノ保証者ハ其議ニ加ハルコトヲ得ス
第十四条 選挙会議ニ於テ議員皆可トスルトキハ軍医長ハ自己ノ意見書ニ選挙報告書ヲ添ヘ三等軍医或ハ三等薬剤官ニ補任ノコトヲ陸軍省医務局長ニ上申ス医務局長ハ之ヲ審査シテ意見ヲ附シ陸軍大臣ニ進達ス
若シ多数可ナルモ幾分ノ否認者アルトキハ其理由ヲ報告書ニ記入シテ上申スルコト前項ニ同シ
第十五条 第十四条第二項ニ反シテ否認者多数ナルトキハ其報告書ヲ陸軍省医務局長ニ上申シ医務局長ハ本人ヲ他ノ師団ニ移シ更ニ三箇月間衛生部士官ノ勤務ニ服セシメタル後再ヒ選挙セシメ尚ホ当選セサルトキハ其理由ヲ具ヘ陸軍大臣ニ進達シ大臣ニ於テ之ヲ処分ス但此処分ヲ受ケタル者ハ一等看護長又ハ一等調剤手ニ任シ予備役ニ編入ス
第十六条 衛生部現役士官ハ第一条ニ掲クルノ外当分ノ内特選ヲ以テ補充スルコトヲ得