(目的)
第一条 この法律は、武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(附則第二項を除き、以下「条約」という。)、武力紛争の際の文化財の保護に関する議定書(以下「議定書」という。)及び千九百九十九年三月二十六日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する千九百五十四年のハーグ条約の第二議定書(以下「第二議定書」という。)の適確な実施を確保するため、被占領地域流出文化財の輸入の規制等に関する措置を講じ、もって現在及び将来の世代にわたる人類の貴重な文化的資産である文化財の国際的な保護に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 国内文化財 次に掲げるものをいう。
イ 条約第一条(a)に掲げるもののうち、重要文化財(文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)第二十七条第一項に規定する重要文化財をいう。)、重要有形民俗文化財(同法第七十八条第一項に規定する重要有形民俗文化財をいう。)又は史跡名勝天然記念物(同法第百九条第一項に規定する史跡名勝天然記念物をいう。)であるもの
ロ 特定文化財(次条第一項の規定により文部科学大臣が指定したものをいう。)
二 議定書締約国文化財 条約第一条(a)、(b)又は(c)に掲げるもののうち、議定書の締約国である外国が議定書により保護の義務を負うものとして定めたものをいう。
三 第二議定書締約国等文化財 条約第一条(a)、(b)又は(c)に掲げるもののうち、第二議定書の締約国又は第二議定書適用国(第二議定書第三条2の規定により第二議定書の規定を受諾し、かつ、適用する第二議定書の非締約国をいう。以下同じ。)である外国が第二議定書により保護の義務を負うものとして定めたものをいう。
四 被占領地域流出文化財 議定書締約国文化財のうち、第四条第二項の規定により文部科学大臣が指定したものをいう。
五 特別保護文化財 条約第一条(a)、(b)又は(c)に掲げるもののうち、条約第八条6の規定により登録されたものをいう。
六 強化保護文化財 国内文化財又は第二議定書締約国等文化財のうち、一覧表(第二議定書第一条(h)に規定する一覧表をいう。以下同じ。)に記載されたもの(第二議定書第二十四条1に規定する武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会(次条第二項において「委員会」という。)が、第二議定書第十一条9の規定により暫定的な強化された保護を付与する旨の決定をしたものを含み、第二議定書第十四条1の規定により強化された保護を停止したものを除く。)をいう。
七 特殊標章 条約第十六条1に規定する特殊標章をいう。
八 身分証明書 武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の施行規則(第六条第三項において「施行規則」という。)第二十一条2に規定する身分証明書をいう。
(特定文化財の指定等)
第三条 文部科学大臣は、条約第一条(b)又は(c)に掲げるもの(国内にあるものに限る。)のうち、文部科学省令で定める基準に該当するものを、文部科学省令で定めるところにより、特定文化財として指定するものとする。
2 政府は、第二議定書第十一条1の規定により国内文化財のうち強化された保護の付与が必要と認められるものを記載した表を委員会に提出し、同条2の規定により一覧表に記載することを要請するものとする。
3 文部科学大臣は、第一項の規定による指定をしたとき、前項の規定による要請が行われた国内文化財が一覧表に記載されたとき又は第二議定書第十一条9の規定により国内文化財について暫定的な強化された保護を付与する旨の決定がされたときは、その旨を官報に公示しなければならない。
(被占領地域流出文化財)
第四条 外務大臣は、議定書の締約国から次に掲げる議定書締約国文化財を管理すべき旨の要請を受けたときは、遅滞なく、その内容を文部科学大臣に通知するものとする。
一 当該締約国が他の議定書の締約国の地域を占領している場合において、当該占領している地域から輸出された議定書締約国文化財
二 当該締約国の地域が他の議定書の締約国に占領されている場合において、当該占領されている地域から輸出された議定書締約国文化財
2 文部科学大臣は、前項の規定により外務大臣から通知を受けたときは、当該通知に係る議定書締約国文化財を、文部科学省令で定めるところにより、被占領地域流出文化財として指定するものとする。
3 文部科学大臣は、前項の規定による指定をしようとするときは、経済産業大臣に協議しなければならない。
4 文部科学大臣は、第二項の規定による指定をしたときは、その旨を官報に公示しなければならない。
(輸入の承認)
第五条 被占領地域流出文化財を輸入しようとする者は、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第五十二条の規定により、輸入の承認を受ける義務を課せられるものとする。
(特殊標章の使用等)
第六条 何人も、次項から第四項までに規定する場合を除くほか、武力攻撃事態(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号に規定する武力攻撃事態(条約の締約国又は条約適用国(条約第十八条3の規定により条約の規定を受諾し、かつ、適用する条約の非締約国をいう。)からの武力攻撃に係るものに限る。)をいう。以下同じ。)において、特殊標章(これに類似する標章を含む。第十一条において同じ。)を使用してはならない。
2 国内文化財を正当な権原に基づき管理する者は、武力攻撃事態において、当該国内文化財又は当該国内文化財の輸送(条約第十二条又は第十三条に定める条件に従って行われるものに限る。)のために使用する車両その他の輸送手段を識別させるため、文部科学省令で定めるところにより、特殊標章を使用することができる。ただし、不動産である国内文化財を識別させるため特殊標章を使用しようとする場合(当該国内文化財を文部科学大臣が管理している場合を除く。)においては、文部科学大臣の許可(当該国内文化財を文部科学大臣以外の各省各庁の長(国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第四条第二項に規定する各省各庁の長をいう。)が管理している場合にあっては、文部科学大臣の同意)を受けなければならない。
3 文部科学大臣は、国内文化財の保護に関する職務を行う国又は地方公共団体の職員、利益保護国の代表(施行規則第三条の規定により任命された者をいう。以下この項において同じ。)、文化財管理官(施行規則第四条1の規定により選定され、又は同条2の規定により任命された者をいう。以下この項において同じ。)、査察員(施行規則第七条1の規定により文化財管理官がその派遣先の国に対し推薦し、その承認を得て任命した者をいう。以下この項において同じ。)及び専門家(同条2の規定により利益保護国の代表、文化財管理官又は査察員がそれらの派遣先の国に対し推薦し、その承認を得て任命した者をいう。)に対し、武力攻撃事態において、これらの者を識別させるため、文部科学省令で定めるところにより、特殊標章を表示した腕章及び身分証明書を交付するものとする。
4 前項の規定により特殊標章を表示した腕章及び身分証明書の交付を受けた者は、その職務を行うに際し、当該腕章を着用し、かつ、当該身分証明書を携帯するものとする。
5 前三項に規定するもののほか、特殊標章の使用に関する手続その他必要な事項は、文部科学省令で定める。
(罰則)
第七条 次に掲げる事態(次項及び次条において「武力紛争事態」という。)において、正当な理由がないのに、その戦闘行為として、国内文化財又は第二議定書締約国等文化財(これらのうち特別保護文化財又は強化保護文化財であるものに限る。)を損壊した者(第二議定書の締約国又は第二議定書適用国の軍隊その他これに類する組織の構成員である者に限る。)は、七年以下の懲役に処する。
一 第二議定書の締約国間において生ずる武力紛争又は第二議定書の締約国と第二議定書適用国との間において生ずる武力紛争の事態
二 第二議定書の締約国の領域が他の第二議定書の締約国に占領される事態、第二議定書の締約国の領域が第二議定書適用国に占領される事態又は第二議定書適用国の領域が第二議定書の締約国に占領される事態
三 第二議定書第二十二条1に規定する武力紛争の事態
2 武力紛争事態において、正当な理由がないのに、その戦闘行為として、国内文化財又は第二議定書締約国等文化財(これらのうち特別保護文化財又は強化保護文化財であるものを除く。)を損壊した者(第二議定書の締約国又は第二議定書適用国の軍隊その他これに類する組織の構成員である者に限る。)は、五年以下の懲役に処する。
4 第一項及び第二項の規定は、これらの規定の罪に当たる行為が国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律(平成十六年法律第百十五号)第三条の罪に触れるときは、適用しない。
第八条 武力紛争事態において、正当な理由がないのに、強化保護文化財又はその周囲を戦闘行為又は戦闘行為を支援するための活動の用に供し、もって当該強化保護文化財について、当該武力紛争の相手方の戦闘行為による損壊の危険を生じさせた者(第二議定書の締約国又は第二議定書適用国の軍隊その他これに類する組織の構成員である者に限る。)は、三年以下の懲役に処する。
第九条 第四条第四項の規定により公示された被占領地域流出文化財であって本邦に輸入されたものを損壊し、又は廃棄した者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する者が当該被占領地域流出文化財の所有者であるときは、二年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
第十条 第四条第四項の規定により公示された被占領地域流出文化財であって本邦に輸入されたものを譲り渡し、又は譲り受けた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。ただし、同条第一項に規定する要請をした議定書の締約国又は当該締約国が指定する者に譲り渡すときは、この限りでない。
第十一条 第六条第一項の規定に違反して特殊標章を使用した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第十二条 第七条第一項から第三項まで及び第八条の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第四条の二の例に従う。