実用新案法
法令番号: 法律第二十一號
公布年月日: 明治38年2月16日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル實用新案法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 淸浦奎吾
司法大臣 波多野敬直
法律第二十一號
實用新案法
第一章 總則
第一條 工業上ノ物品ニ關シ其ノ形狀、構造又ハ組合ハセニ係リ實用アル新規ノ考案ヲ爲シタル者又ハ之ヲ承繼シタル者ハ本法ニ依リ實用新案ノ登錄ヲ受クルコトヲ得
左ノ各號ニ該當セサルモノハ新規ナルモノト看做ス
一 登錄出願前同一又ハ類似ノ物品ニ關シ帝國內ニ於テ公ニ用井ラレタルモノ又ハ之ニ類似スルモノ
二 登錄出願前同一又ハ類似ノ物品ニ關シ容易ニ應用スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ公刊物ニ記載セラレタルモノ又ハ之ニ類似スルモノ
第二條 左ニ揭クル實用新案ハ之ヲ登錄セス
一 菊花御紋章又ハ之ニ類似スルモノ
二 秩序若ハ風俗ヲ紊リ又ハ衞生ヲ害スルノ虞アルモノ
第三條 實用新案ニ關シ出願若ハ請求ヲ爲サムトスル者又ハ實用新案權者ニシテ帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ帝國內ニ住所ヲ有スル者ニ就キ代理人ヲ定メ特許局長ニ屆出ツヘシ
前項ノ代理人ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ爲スヘキ手續及實用新案ニ關スル民事訴訟、私訴及吿訴ニ付本人ヲ代表スルモノトス
第四條 特許局長ハ實用新案ニ關スル代理人ヲ適當ナラスト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトヲ得
第五條 特許代理業者ニ非サレハ實用新案ニ關スル代理ヲ常業トスルコトヲ得ス
第六條 實用新案ニ關シ出願又ハ請求ヲ爲シタル者本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ特許局長又ハ審判長ノ定ムル期間內ニ成規又ハ指定ノ手續ヲ爲ササルトキハ特許局長又ハ審判長ハ其ノ出願又ハ請求ヲ無效ト爲スコトヲ得
第七條 本法ニ依リ特許局ニ於テ爲ス書類ノ送付ハ書留郵便又ハ特許局ノ使丁ヲ以テ之ヲ爲ス
第八條 實用新案ニ關シ條約ニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ從フ
第二章 實用新案權
第九條 實用新案權ハ實用新案ノ登錄ニ依リ發生ス
實用新案權者ハ其ノ登錄ヲ受ケタル物品ヲ製作、販賣、擴布又ハ使用スル權利ヲ專有ス
第十條 實用新案權ノ存續期間ハ三箇年トス
前項ノ期間ハ三箇年間之ヲ延長スルコトヲ得
第十一條 實用新案權ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ之ヲ讓渡スルコトヲ得
第十二條 實用新案權存續期間ノ延長ハ特許局長ニ請求シテ登錄ヲ受クルニ非サレハ其ノ效ヲ生セス
實用新案權ノ移轉又ハ質入ハ特許局長ニ請求シテ登錄ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第十三條 無效ノ審判確定シタルトキハ特許局長ハ實用新案ノ登錄ヲ取消スヘシ此ノ場合ニ於テハ實用新案權ハ初メヨリ存立セサルモノト看做ス
實用新案權者正當ノ事由ナクシテ六箇月以上第三條ノ手續ヲ怠リタルトキハ特許局長ハ實用新案ノ登錄ヲ取消スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ實用新案權ハ以後效力ヲ失フ
第十四條 登錄實用新案カ其ノ出願前ノ出願ニ係ル特許發明、登錄意匠又ハ登錄實用新案ヲ使用スルニ非サレハ實施スルコト能ハサルトキハ其ノ發明特許權者、意匠權者又ハ實用新案權者ノ許諾ヲ得タル場合ニ限リ之ヲ實施スルコトヲ得
特許發明又ハ登錄意匠カ其ノ出願前ノ出願ニ係ル登錄實用新案ヲ使用スルニ非サレハ實施スルコト能ハサルトキハ實用新案權者ノ許諾ヲ得タル場合ニ限リ之ヲ實施スルコトヲ得
第十五條 實用新案權者ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ登錄實用新案ノ實施ヲ他人ニ許諾スルコトヲ得
實用新案實施ノ許諾ヲ得タル者ニシテ特許局長ニ請求シ其ノ登錄ヲ受クルトキハ爾後其ノ實用新案權ヲ取得シタル者又ハ其ノ實用新案權ニ付質權ヲ取得シタル者ニ對シテモ其ノ效力ヲ生ス
第十六條 實用新案權者又ハ實用新案實施ノ許諾ヲ得タル者ハ其ノ登錄實用新案ニ係ル物品ニ登錄標記ヲ附スヘシ物品ノ性質ニ依リ之ニ標記ヲ附スルコト能ハサルトキハ其ノ包裝上ニ之ヲ附スヘシ
標記ヲ附スルコトヲ怠リタル爲登錄實用新案品ナルコトヲ知ラスシテ其ノ權利ヲ侵害シタル者ニ對シテハ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス
第三章 出願、審査及登錄
第十七條 實用新案ノ登錄ヲ受ケムトスル者ハ一實用新案ニ付一物品每ニ願書ニ圖面ヲ添ヘ特許局長ニ差出スヘシ
特許局長ハ必要ト認ムルトキハ出願人ニ解說書、圖面、見本又ハ雛形ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第十八條 同一又ハ類似ノ實用新案ニ付テハ最先ニ出願ヲ爲シタル者ニ非サレハ登錄ヲ受クルノ權利ヲ有セス但シ同日ノ出願ニ係ルトキハ各出願者協議シテ權利者ヲ定ムヘシ協議調ハサルトキハ共ニ之ヲ登錄セス
第十九條 發明特許又ハ意匠登錄ノ出願ヲ爲シ特許又ハ登錄スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者其ノ最初ノ査定ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ其ノ發明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付實用新案ノ登錄ヲ出願シタルトキハ其ノ發明特許又ハ意匠登錄ヲ出願シタル日ニ於テ出願シタルモノト看做ス
第二十條 政府又ハ道府縣ノ開設シタル博覽會又ハ共進會ニ出品スル物品ニ付其ノ出品前豫メ之ヲ特許局長ニ屆出テ博覽會又ハ共進會ニ於テ其ノ物品ヲ受領セシ日ヨリ六箇月以內ニ其ノ實用新案ノ登錄ヲ出願スルトキハ先ノ屆出ノ日ニ於テ登錄ヲ出願シタルモノト看做ス
工業所有權ニ付帝國ト相互保護ニ關スル條約アル國ニ於テ萬國博覽會ノ開設アルニ當リ其ノ國ニ於テ出品ニ對シ與ヘタル登錄願保護ノ期間ハ帝國內ニ於テモ有效トス
第二十一條 實用新案登錄ノ出願アリタルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ之ヲ審査セシムヘシ
第二十二條 特許局審査官ニ於テ査定ヲ爲シタルトキハ特許局長ハ其ノ査定ヲ出願人ニ送付スヘシ
第二十三條 特許局審査官ハ第二條及第十八條ノ規定ニ該當スルヤ否ニ付審査スヘシ但シ第一條ノ規定ニ該當セサルコトヲ發見シタルトキハ之ヲ理由トシテ登錄拒絕ノ査定ヲ爲スヘシ
第二十四條 登錄拒絕ノ査定ヲ受ケタル者之ニ不服ナルトキハ其ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ特許局ニ再審査ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ請求アリタルトキハ特許局長ハ前審査ニ關與セサル特許局審査官ヲシテ之ヲ審査セシムヘシ
前條但書ニ依ル査定ニ對シ不服アル者再審査ノ請求ヲ爲シタル場合ニ於テハ特許局審査官ハ其ノ理由ニ付テモ亦審査スヘシ
第二十五條 第三十八條及第三十九條ノ規定ハ審査ニ之ヲ準用ス
第二十六條 登錄スヘシトノ査定ヲ受ケタル者其ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ登錄ヲ請求スルトキハ特許局長ハ其ノ實用新案ヲ登錄シ登錄證ヲ下付スヘシ
第二十七條 實用新案ノ登錄ヲ請求スル者ハ一實用新案ニ付一物品每ニ登錄料金十五圓ヲ納ムヘシ
實用新案權存續期間ノ延長ヲ請求スル者ハ一實用新案ニ付一物品每ニ登錄料金三十圓ヲ納ムヘシ
第二十八條 實用新案ニ關スル登錄ハ實用新案原簿ニ之ヲ爲スヘシ
第二十九條 登錄實用新案ニ關スル書類ノ謄本、登錄證ノ複本、證明、圖面ノ調製又ハ書類ノ閱覽ヲ要スル者ハ其ノ事由ヲ疏明シ之ヲ特許局ニ請求スルコトヲ得但シ祕密ヲ要スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第三十條 特許局ハ實用新案公報ヲ發行スヘシ
實用新案公報ニハ登錄實用新案ニ關スル重要ナル事項ヲ揭載スヘシ
第四章 審判及出訴
第三十一條 登錄實用新案カ第一條第二條又ハ第十八條ノ規定ニ違フモノナルコトヲ發見シタル者ハ特許局ニ無效ノ審判ヲ請求スルコトヲ得
第三十二條 登錄實用新案カ互ニ撞著スルヤ否又ハ登錄實用新案ト實用新案ノ登錄ヲ受ケサル物品ト撞著スルヤ否ニ付利害關係人ハ特許局ニ撞著ノ審判ヲ請求スルコナヲ得
第三十三條 審判ノ請求ハ審判請求書ヲ差出シテ之ヲ爲スヘシ審判請求書ニハ一定ノ申立及理由ヲ記載スルコトヲ要ス
第三十四條 特許局ニ於テ審判請求書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ被請求人ニ送付シ相當ノ期間ヲ指定シ答辯書ヲ差出サシムヘシ
特許局ハ必要ト認ムルトキハ相當ノ期間ヲ指定シ請求人又ハ被請求人ヲシテ辯駁書又ハ答辯書ヲ差出サシムルコトヲ得
第三十五條 審判ハ審判官三人又ハ五人ノ合議ニ依リ之ヲ行ヒ審判官中一人ヲ審判長トス
第三十六條 審判長ハ職權又ハ當事者ノ申立ニ依リ口頭審理ヲ爲スコトヲ得
口頭審理ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十七條 審判請求人又ハ被請求人成規又ハ指定ノ期間內ニ答辯書又ハ辯駁書ヲ差出サス其ノ他指定ノ手續ヲ爲サス又ハ口頭審理期日ニ出頭セサルトキハ審判長ハ直ニ審判ヲ終結スルコトヲ得
第三十八條 審判ニ關シ必要アルトキハ特許局ハ職權又ハ當事者ノ申立ニ依リ證據調ヲ爲シ且當事者ノ申立サル事實ヲ斟酌スルコトヲ得
前項證據調ハ區裁判所又ハ臺灣地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官廳ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
第三十九條 證據調ニ付テハ民事訴訟法中證據調ニ關スル規定ヲ準用ス但シ特許局ニ於テ爲ス證據調ニ關シテハ罰金ノ言渡ヲ爲シ又ハ勾引ヲ命スルコトヲ得ス
第四十條 審判ニ關スル費用ノ負擔ハ終局審決ニ依リ之ヲ定ム
費用ノ負擔ニ付テハ民事訴訟法中訴訟費用ニ關スル規定ヲ準用ス
第四十一條 審決アリタルトキハ特許局長ハ之ヲ當事者ニ送付スヘシ
第四十二條 終局審決ニ對シ不服アル者ハ其ノ審決カ法律ヲ適用セス又ハ不當ニ適用シタルコトヲ理由トスルトキニ限リ審決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ大審院ニ出訴スルコトヲ得
前項ノ出訴及裁判ニ付テハ民事訴訟ノ上吿及其ノ裁判ニ關スル規定ヲ準用ス
第四十三條 大審院ニ於テ出訴ヲ理由アリトスルトキハ原審決ヲ破毀シ更ニ審判ヲ爲サシムル爲事件ヲ特許局ニ差戾スヘシ
大審院ニ於テ裁判ヲ爲スニ當リ法律ノ㸃ニ付表シタル意見ハ其ノ事件ニ關シ特許局ヲ覊束スルモノトス
第四十四條 民事又ハ刑事ノ訴訟ニ付實用新案權ニ關シ爭アル場合ニ於テ裁判所ハ第三十一條又ハ第三十二條ノ請求ニ依ル審決ノ確定ニ至ル迄其ノ訴訟ヲ中止スルコトヲ得
第四十五條 審判及出訴ノ費用額ニ關シテハ民事訴訟費用法ヲ準用シ特許局長請求ニ依リ之ヲ決定ス
前項ノ決定ハ强制執行ニ關シテハ公證人ノ作リタル債務名義ト看做ス但シ其ノ執行力アル正本ハ特許局官吏之ヲ付與ス
第五章 罰則
第四十六條 實用新案ノ登錄ヲ受ケタル物品ヲ僞造、模造シ又ハ僞造品、模造品ヲ販賣、擴布若ハ使用シタル者ハ十五日以上一年以下ノ重禁錮又ハ十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
實用新案ノ登錄ヲ受ケタル物品ト同一又ハ類似ノモノナルコトヲ知リ之ヲ外國ヨリ輸入シタル者ハ罰前項ニ同シ
本條ノ犯罪ハ實用新案權者ノ吿訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
第四十七條 前條ノ場合ニ於テハ其ノ僞造品、模造品、輸入品ハ之ヲ沒收シ實用新案權者ニ給付ス
第四十八條 詐僞ノ所爲ヲ以テ實用新案ノ登錄ヲ受ケタル者又ハ實用新案ノ登錄ヲ受ケサル物品又ハ其ノ包裝上ニ實用新案登錄ノ標記ヲ附シ若ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者又ハ情ヲ知リテ其ノ物品ヲ販賣シタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮又ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
實用新案ノ登錄ヲ受ケサル物品ヲ販賣又ハ擴布スル爲廣吿、看板、引札等ニ於テ實用新案登錄品タルニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者ハ罰前項ニ同シ
第四十九條 證人、鑑定人又ハ通事ニシテ特許局又ハ其ノ囑託ヲ受ケタル區裁判所又ハ臺灣地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官廳ニ對シ僞證又ハ詐僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
賄賂其ノ他ノ方法ヲ以テ人ニ囑託シ僞證又ハ詐僞ノ陳述ヲ爲サシメタル者ハ罰前項ニ同シ
前二項ノ罪ヲ犯シタル者其ノ事件ノ査定又ハ審決ニ至ラサル前特許局又ハ其ノ囑託ヲ受ケタル區裁判所又ハ臺灣地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官廳ニ自首シタルトキハ本刑ヲ免ス
第五十條 特許局ヨリ證人、鑑定人又ハ通事トシテ呼出サレタル者正當ノ理由ナクシテ呼出ニ應セス又ハ其ノ義務ヲ盡ササルトキハ四圓以上四十圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
第五十一條 本法ハ明治三十八年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
第五十二條 左ノ場合ニ於テハ發明特許又ハ意匠登錄ノ出願ヲ爲シタル日ヲ以テ第十四條及第十八條ノ適用上實用新案ノ登錄出願ノ日ト看做ス
一 本法施行前一箇年以內ニ於テ發明特許又ハ意匠登錄ヲ出願シ本法施行前特許スヘカラス又ハ登錄スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者本法施行後三十日以內ニ其ノ發明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付實用新案ノ登錄ヲ出願シタルトキ
二 本法施行前發明特許又ハ意匠登錄ヲ出願シ本法施行後ニ於テ特許スヘカラス又ハ登錄スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者其ノ査定ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ其ノ發明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付實用新案ノ登錄ヲ出願シタルトキ
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル実用新案法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 清浦奎吾
司法大臣 波多野敬直
法律第二十一号
実用新案法
第一章 総則
第一条 工業上ノ物品ニ関シ其ノ形状、構造又ハ組合ハセニ係リ実用アル新規ノ考案ヲ為シタル者又ハ之ヲ承継シタル者ハ本法ニ依リ実用新案ノ登録ヲ受クルコトヲ得
左ノ各号ニ該当セサルモノハ新規ナルモノト看做ス
一 登録出願前同一又ハ類似ノ物品ニ関シ帝国内ニ於テ公ニ用井ラレタルモノ又ハ之ニ類似スルモノ
二 登録出願前同一又ハ類似ノ物品ニ関シ容易ニ応用スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ公刊物ニ記載セラレタルモノ又ハ之ニ類似スルモノ
第二条 左ニ掲クル実用新案ハ之ヲ登録セス
一 菊花御紋章又ハ之ニ類似スルモノ
二 秩序若ハ風俗ヲ紊リ又ハ衛生ヲ害スルノ虞アルモノ
第三条 実用新案ニ関シ出願若ハ請求ヲ為サムトスル者又ハ実用新案権者ニシテ帝国内ニ住所ヲ有セサルトキハ帝国内ニ住所ヲ有スル者ニ就キ代理人ヲ定メ特許局長ニ届出ツヘシ
前項ノ代理人ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ為スヘキ手続及実用新案ニ関スル民事訴訟、私訴及告訴ニ付本人ヲ代表スルモノトス
第四条 特許局長ハ実用新案ニ関スル代理人ヲ適当ナラスト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトヲ得
第五条 特許代理業者ニ非サレハ実用新案ニ関スル代理ヲ常業トスルコトヲ得ス
第六条 実用新案ニ関シ出願又ハ請求ヲ為シタル者本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ特許局長又ハ審判長ノ定ムル期間内ニ成規又ハ指定ノ手続ヲ為ササルトキハ特許局長又ハ審判長ハ其ノ出願又ハ請求ヲ無効ト為スコトヲ得
第七条 本法ニ依リ特許局ニ於テ為ス書類ノ送付ハ書留郵便又ハ特許局ノ使丁ヲ以テ之ヲ為ス
第八条 実用新案ニ関シ条約ニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ従フ
第二章 実用新案権
第九条 実用新案権ハ実用新案ノ登録ニ依リ発生ス
実用新案権者ハ其ノ登録ヲ受ケタル物品ヲ製作、販売、拡布又ハ使用スル権利ヲ専有ス
第十条 実用新案権ノ存続期間ハ三箇年トス
前項ノ期間ハ三箇年間之ヲ延長スルコトヲ得
第十一条 実用新案権ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ之ヲ譲渡スルコトヲ得
第十二条 実用新案権存続期間ノ延長ハ特許局長ニ請求シテ登録ヲ受クルニ非サレハ其ノ効ヲ生セス
実用新案権ノ移転又ハ質入ハ特許局長ニ請求シテ登録ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第十三条 無効ノ審判確定シタルトキハ特許局長ハ実用新案ノ登録ヲ取消スヘシ此ノ場合ニ於テハ実用新案権ハ初メヨリ存立セサルモノト看做ス
実用新案権者正当ノ事由ナクシテ六箇月以上第三条ノ手続ヲ怠リタルトキハ特許局長ハ実用新案ノ登録ヲ取消スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ実用新案権ハ以後効力ヲ失フ
第十四条 登録実用新案カ其ノ出願前ノ出願ニ係ル特許発明、登録意匠又ハ登録実用新案ヲ使用スルニ非サレハ実施スルコト能ハサルトキハ其ノ発明特許権者、意匠権者又ハ実用新案権者ノ許諾ヲ得タル場合ニ限リ之ヲ実施スルコトヲ得
特許発明又ハ登録意匠カ其ノ出願前ノ出願ニ係ル登録実用新案ヲ使用スルニ非サレハ実施スルコト能ハサルトキハ実用新案権者ノ許諾ヲ得タル場合ニ限リ之ヲ実施スルコトヲ得
第十五条 実用新案権者ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ登録実用新案ノ実施ヲ他人ニ許諾スルコトヲ得
実用新案実施ノ許諾ヲ得タル者ニシテ特許局長ニ請求シ其ノ登録ヲ受クルトキハ爾後其ノ実用新案権ヲ取得シタル者又ハ其ノ実用新案権ニ付質権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其ノ効力ヲ生ス
第十六条 実用新案権者又ハ実用新案実施ノ許諾ヲ得タル者ハ其ノ登録実用新案ニ係ル物品ニ登録標記ヲ附スヘシ物品ノ性質ニ依リ之ニ標記ヲ附スルコト能ハサルトキハ其ノ包装上ニ之ヲ附スヘシ
標記ヲ附スルコトヲ怠リタル為登録実用新案品ナルコトヲ知ラスシテ其ノ権利ヲ侵害シタル者ニ対シテハ要償ノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第三章 出願、審査及登録
第十七条 実用新案ノ登録ヲ受ケムトスル者ハ一実用新案ニ付一物品毎ニ願書ニ図面ヲ添ヘ特許局長ニ差出スヘシ
特許局長ハ必要ト認ムルトキハ出願人ニ解説書、図面、見本又ハ雛形ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第十八条 同一又ハ類似ノ実用新案ニ付テハ最先ニ出願ヲ為シタル者ニ非サレハ登録ヲ受クルノ権利ヲ有セス但シ同日ノ出願ニ係ルトキハ各出願者協議シテ権利者ヲ定ムヘシ協議調ハサルトキハ共ニ之ヲ登録セス
第十九条 発明特許又ハ意匠登録ノ出願ヲ為シ特許又ハ登録スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者其ノ最初ノ査定ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ其ノ発明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付実用新案ノ登録ヲ出願シタルトキハ其ノ発明特許又ハ意匠登録ヲ出願シタル日ニ於テ出願シタルモノト看做ス
第二十条 政府又ハ道府県ノ開設シタル博覧会又ハ共進会ニ出品スル物品ニ付其ノ出品前予メ之ヲ特許局長ニ届出テ博覧会又ハ共進会ニ於テ其ノ物品ヲ受領セシ日ヨリ六箇月以内ニ其ノ実用新案ノ登録ヲ出願スルトキハ先ノ届出ノ日ニ於テ登録ヲ出願シタルモノト看做ス
工業所有権ニ付帝国ト相互保護ニ関スル条約アル国ニ於テ万国博覧会ノ開設アルニ当リ其ノ国ニ於テ出品ニ対シ与ヘタル登録願保護ノ期間ハ帝国内ニ於テモ有効トス
第二十一条 実用新案登録ノ出願アリタルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ之ヲ審査セシムヘシ
第二十二条 特許局審査官ニ於テ査定ヲ為シタルトキハ特許局長ハ其ノ査定ヲ出願人ニ送付スヘシ
第二十三条 特許局審査官ハ第二条及第十八条ノ規定ニ該当スルヤ否ニ付審査スヘシ但シ第一条ノ規定ニ該当セサルコトヲ発見シタルトキハ之ヲ理由トシテ登録拒絶ノ査定ヲ為スヘシ
第二十四条 登録拒絶ノ査定ヲ受ケタル者之ニ不服ナルトキハ其ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ特許局ニ再審査ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ請求アリタルトキハ特許局長ハ前審査ニ関与セサル特許局審査官ヲシテ之ヲ審査セシムヘシ
前条但書ニ依ル査定ニ対シ不服アル者再審査ノ請求ヲ為シタル場合ニ於テハ特許局審査官ハ其ノ理由ニ付テモ亦審査スヘシ
第二十五条 第三十八条及第三十九条ノ規定ハ審査ニ之ヲ準用ス
第二十六条 登録スヘシトノ査定ヲ受ケタル者其ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ登録ヲ請求スルトキハ特許局長ハ其ノ実用新案ヲ登録シ登録証ヲ下付スヘシ
第二十七条 実用新案ノ登録ヲ請求スル者ハ一実用新案ニ付一物品毎ニ登録料金十五円ヲ納ムヘシ
実用新案権存続期間ノ延長ヲ請求スル者ハ一実用新案ニ付一物品毎ニ登録料金三十円ヲ納ムヘシ
第二十八条 実用新案ニ関スル登録ハ実用新案原簿ニ之ヲ為スヘシ
第二十九条 登録実用新案ニ関スル書類ノ謄本、登録証ノ複本、証明、図面ノ調製又ハ書類ノ閲覧ヲ要スル者ハ其ノ事由ヲ疏明シ之ヲ特許局ニ請求スルコトヲ得但シ秘密ヲ要スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第三十条 特許局ハ実用新案公報ヲ発行スヘシ
実用新案公報ニハ登録実用新案ニ関スル重要ナル事項ヲ掲載スヘシ
第四章 審判及出訴
第三十一条 登録実用新案カ第一条第二条又ハ第十八条ノ規定ニ違フモノナルコトヲ発見シタル者ハ特許局ニ無効ノ審判ヲ請求スルコトヲ得
第三十二条 登録実用新案カ互ニ撞著スルヤ否又ハ登録実用新案ト実用新案ノ登録ヲ受ケサル物品ト撞著スルヤ否ニ付利害関係人ハ特許局ニ撞著ノ審判ヲ請求スルコナヲ得
第三十三条 審判ノ請求ハ審判請求書ヲ差出シテ之ヲ為スヘシ審判請求書ニハ一定ノ申立及理由ヲ記載スルコトヲ要ス
第三十四条 特許局ニ於テ審判請求書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ被請求人ニ送付シ相当ノ期間ヲ指定シ答弁書ヲ差出サシムヘシ
特許局ハ必要ト認ムルトキハ相当ノ期間ヲ指定シ請求人又ハ被請求人ヲシテ弁駁書又ハ答弁書ヲ差出サシムルコトヲ得
第三十五条 審判ハ審判官三人又ハ五人ノ合議ニ依リ之ヲ行ヒ審判官中一人ヲ審判長トス
第三十六条 審判長ハ職権又ハ当事者ノ申立ニ依リ口頭審理ヲ為スコトヲ得
口頭審理ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三十七条 審判請求人又ハ被請求人成規又ハ指定ノ期間内ニ答弁書又ハ弁駁書ヲ差出サス其ノ他指定ノ手続ヲ為サス又ハ口頭審理期日ニ出頭セサルトキハ審判長ハ直ニ審判ヲ終結スルコトヲ得
第三十八条 審判ニ関シ必要アルトキハ特許局ハ職権又ハ当事者ノ申立ニ依リ証拠調ヲ為シ且当事者ノ申立サル事実ヲ斟酌スルコトヲ得
前項証拠調ハ区裁判所又ハ台湾地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官庁ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
第三十九条 証拠調ニ付テハ民事訴訟法中証拠調ニ関スル規定ヲ準用ス但シ特許局ニ於テ為ス証拠調ニ関シテハ罰金ノ言渡ヲ為シ又ハ勾引ヲ命スルコトヲ得ス
第四十条 審判ニ関スル費用ノ負担ハ終局審決ニ依リ之ヲ定ム
費用ノ負担ニ付テハ民事訴訟法中訴訟費用ニ関スル規定ヲ準用ス
第四十一条 審決アリタルトキハ特許局長ハ之ヲ当事者ニ送付スヘシ
第四十二条 終局審決ニ対シ不服アル者ハ其ノ審決カ法律ヲ適用セス又ハ不当ニ適用シタルコトヲ理由トスルトキニ限リ審決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ大審院ニ出訴スルコトヲ得
前項ノ出訴及裁判ニ付テハ民事訴訟ノ上告及其ノ裁判ニ関スル規定ヲ準用ス
第四十三条 大審院ニ於テ出訴ヲ理由アリトスルトキハ原審決ヲ破毀シ更ニ審判ヲ為サシムル為事件ヲ特許局ニ差戻スヘシ
大審院ニ於テ裁判ヲ為スニ当リ法律ノ点ニ付表シタル意見ハ其ノ事件ニ関シ特許局ヲ羈束スルモノトス
第四十四条 民事又ハ刑事ノ訴訟ニ付実用新案権ニ関シ争アル場合ニ於テ裁判所ハ第三十一条又ハ第三十二条ノ請求ニ依ル審決ノ確定ニ至ル迄其ノ訴訟ヲ中止スルコトヲ得
第四十五条 審判及出訴ノ費用額ニ関シテハ民事訴訟費用法ヲ準用シ特許局長請求ニ依リ之ヲ決定ス
前項ノ決定ハ強制執行ニ関シテハ公証人ノ作リタル債務名義ト看做ス但シ其ノ執行力アル正本ハ特許局官吏之ヲ付与ス
第五章 罰則
第四十六条 実用新案ノ登録ヲ受ケタル物品ヲ偽造、模造シ又ハ偽造品、模造品ヲ販売、拡布若ハ使用シタル者ハ十五日以上一年以下ノ重禁錮又ハ十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
実用新案ノ登録ヲ受ケタル物品ト同一又ハ類似ノモノナルコトヲ知リ之ヲ外国ヨリ輸入シタル者ハ罰前項ニ同シ
本条ノ犯罪ハ実用新案権者ノ告訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
第四十七条 前条ノ場合ニ於テハ其ノ偽造品、模造品、輸入品ハ之ヲ没収シ実用新案権者ニ給付ス
第四十八条 詐偽ノ所為ヲ以テ実用新案ノ登録ヲ受ケタル者又ハ実用新案ノ登録ヲ受ケサル物品又ハ其ノ包装上ニ実用新案登録ノ標記ヲ附シ若ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ為シタル者又ハ情ヲ知リテ其ノ物品ヲ販売シタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮又ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
実用新案ノ登録ヲ受ケサル物品ヲ販売又ハ拡布スル為広告、看板、引札等ニ於テ実用新案登録品タルニ紛ハシキ表示ヲ為シタル者ハ罰前項ニ同シ
第四十九条 証人、鑑定人又ハ通事ニシテ特許局又ハ其ノ嘱託ヲ受ケタル区裁判所又ハ台湾地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官庁ニ対シ偽証又ハ詐偽ノ陳述ヲ為シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
賄賂其ノ他ノ方法ヲ以テ人ニ嘱託シ偽証又ハ詐偽ノ陳述ヲ為サシメタル者ハ罰前項ニ同シ
前二項ノ罪ヲ犯シタル者其ノ事件ノ査定又ハ審決ニ至ラサル前特許局又ハ其ノ嘱託ヲ受ケタル区裁判所又ハ台湾地方法院其ノ他裁判事務ヲ行フ官庁ニ自首シタルトキハ本刑ヲ免ス
第五十条 特許局ヨリ証人、鑑定人又ハ通事トシテ呼出サレタル者正当ノ理由ナクシテ呼出ニ応セス又ハ其ノ義務ヲ尽ササルトキハ四円以上四十円以下ノ罰金ニ処ス
附 則
第五十一条 本法ハ明治三十八年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
第五十二条 左ノ場合ニ於テハ発明特許又ハ意匠登録ノ出願ヲ為シタル日ヲ以テ第十四条及第十八条ノ適用上実用新案ノ登録出願ノ日ト看做ス
一 本法施行前一箇年以内ニ於テ発明特許又ハ意匠登録ヲ出願シ本法施行前特許スヘカラス又ハ登録スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者本法施行後三十日以内ニ其ノ発明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付実用新案ノ登録ヲ出願シタルトキ
二 本法施行前発明特許又ハ意匠登録ヲ出願シ本法施行後ニ於テ特許スヘカラス又ハ登録スヘカラストノ査定ヲ受ケタル者其ノ査定ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ其ノ発明又ハ意匠ニ係ル物品ニ付実用新案ノ登録ヲ出願シタルトキ