朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ鐵道軍事供用令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年一月二十三日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
海軍大臣 男爵 山本權兵衞
陸軍大臣 寺內正毅
遞信大臣 大浦兼武
勅令第十二號
鐵道軍事供用令
第一條 本令ニ於テ會社ト稱スルハ私設鐵道株式會社ヲ謂フ
本令ニ於テ軍事輸送ト稱スルハ特ニ準備シタル列車ニ依リ又ハ普通列車中一車輛以上ヲ專用シテ陸海軍團隊及其ノ携行シ又ハ之ニ宛テ追送スル馬匹及軍需品ヲ輸送スルヲ謂フ
本令ニ於テ軍用列車ト稱スルハ軍事輸送ノ爲特ニ準備シタル列車ヲ謂フ
第二條 會社ハ陸海軍官憲ノ要求ニ從ヒ軍事輸送ヲ爲スヘシ
軍事列車ニハ陸海軍官憲ノ承認アルトキハ郵便物ヲ搭載シ又ハ郵便車ヲ聯結スルコトヲ得
第三條 會社ハ他ノ會社ヨリ軍事輸送上必要ナル幇助ヲ請求セラレタルトキハ業務ニ支障ナキ限リ之ニ應スヘシ
第四條 軍用列車ハ搭載地ヨリ卸下地迄直通ノ運轉ヲ爲スヘシ
第五條 乘用ニ供スル車輛ハ將校、同相當官、准士官及軍屬タル高等文官若ハ之ニ準スヘキ者ニ在リテハ一等又ハ二等客車、下士卒及判任文官以下ノ軍屬ニ在リテハ三等客車トス
前項車輛ノ乘車人員ハ普通旅客定員ノ十分ノ八ヲ標準トス
第六條 馬匹ハ有蓋貨車ニ搭載スヘシ
第七條 戰用器材ハ無蓋貨車ニ搭載シ其ノ他ノ軍需品ハ其ノ種類及形狀ニ應シ有蓋貨車又ハ無蓋貨車ニ搭載スヘシ
第八條 客車ニハ普通旅客ニ供スルト同一ノ設備ヲ爲シ第六條ノ貨車ニハ燈器、敷藁及馬栓棒若ハ胸板ヲ備ヘ第七條ノ貨車中戰用車輛ヲ搭載スルモノニハ搭載品固定用ノ木楔、鎹、釘等ヲ備フヘシ
第九條 車輛ノ缺乏其ノ他己ヲ得サル場合ニ於テ陸海軍官憲ノ承認アルトキ又ハ陸海軍官憲ノ要求アル場合ニ於テ會社ニ支障ナキトキハ第四條乃至第八條ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第十條 軍事輸送ニ供スル車輛ハ淸潔ニ掃除シ必要ナル場合ニ於テハ消毒ヲ爲スヘシ
第十一條 會社ハ馬匹及軍需品ノ積卸ノ爲ニ要スル踏板及輸送上必要ナル雨覆等ヲ準備スヘシ
第十二條 會社ハ軍事輸送ニ際シ停車場內ノ㸃燈、公衆待合所、乘降場、厠等ヲ軍用ニ供スヘシ
第十三條 陸海軍官憲ニ於テ軍事輸送ニ際シ搭載卸下ノ爲必要ナル補足工事又ハ特別ノ施設ヲ爲サムトスルトキハ會社ハ正當ノ事由ナクシテ其ノ供用線ニ屬スル土地建物機械器具又ハ材料ノ供用ヲ拒ムコトヲ得ス
會社ニ於テ前項ノ工事又ハ施設ヲ爲スヘキ要求ヲ受ケタルトキハ正當ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス
前二項ノ場合ニ於テ供用ノ費用又ハ工事若ハ施設ニ要スル費用ハ之ヲ補償ス但シ其ノ金額ハ陸軍大臣又ハ海軍大臣遞信大臣ト協議シテ之ヲ決定ス
第十四條 會社ハ陸海軍官憲ノ要求アルトキハ無償ニテ其ノ電信電話ニ依リ軍事輸送上直接ニ必要ナル通信ヲ取扱フヘシ
第十五條 軍事輸送ノ料金ハ別表ニ依リ之ヲ交付ス
前項ノ料金ハ陸海軍官憲會社ト協議シテ之ヲ低減スルコトヲ得
第十六條 軍事輸送ノ實施ニ關スル規定ハ陸軍大臣海軍大臣遞信大臣協議シテ之ヲ定ム
第十七條 前數條ノ規定ハ官設鐵道ニ之ヲ準用ス
第十八條 第二條第一項及第十三條ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ二百圓以下ノ罰金又ハ一年以下ノ重禁錮ニ處シ第三條第四條第六條乃至第八條及第十四條ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ百圓以下ノ罰金又ハ三月以下ノ重禁錮ニ處シ第十條乃至第十二條ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ五十圓以下ノ罰金又ハ一月以下ノ重禁錮ニ處ス
附 則
本令ハ明治三十七年一月二十六日ヨリ之ヲ施行ス
(別表)
軍事輸送料金表
供用車輛ノ種類
一輛一哩ニ對スル金額
一、二等客車
旅客定員ニ金一錢ヲ乘シタル額
三等客車
旅客定員ニ金五厘ヲ乘シタル額
等級合造客車
旅客定員ニ一、二等ハ金一錢三等ハ金五厘ヲ乘シタル額ノ和
有蓋貨車
金十二錢
無蓋貨車
金十錢
貨物緩急車
金六錢
備考
二十哩未滿ノ輸送ニ在リテハ二十哩分ノ料金ヲ給ス
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ鉄道軍事供用令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年一月二十三日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
海軍大臣 男爵 山本権兵衛
陸軍大臣 寺内正毅
逓信大臣 大浦兼武
勅令第十二号
鉄道軍事供用令
第一条 本令ニ於テ会社ト称スルハ私設鉄道株式会社ヲ謂フ
本令ニ於テ軍事輸送ト称スルハ特ニ準備シタル列車ニ依リ又ハ普通列車中一車輛以上ヲ専用シテ陸海軍団隊及其ノ携行シ又ハ之ニ宛テ追送スル馬匹及軍需品ヲ輸送スルヲ謂フ
本令ニ於テ軍用列車ト称スルハ軍事輸送ノ為特ニ準備シタル列車ヲ謂フ
第二条 会社ハ陸海軍官憲ノ要求ニ従ヒ軍事輸送ヲ為スヘシ
軍事列車ニハ陸海軍官憲ノ承認アルトキハ郵便物ヲ搭載シ又ハ郵便車ヲ連結スルコトヲ得
第三条 会社ハ他ノ会社ヨリ軍事輸送上必要ナル幇助ヲ請求セラレタルトキハ業務ニ支障ナキ限リ之ニ応スヘシ
第四条 軍用列車ハ搭載地ヨリ卸下地迄直通ノ運転ヲ為スヘシ
第五条 乗用ニ供スル車輛ハ将校、同相当官、准士官及軍属タル高等文官若ハ之ニ準スヘキ者ニ在リテハ一等又ハ二等客車、下士卒及判任文官以下ノ軍属ニ在リテハ三等客車トス
前項車輛ノ乗車人員ハ普通旅客定員ノ十分ノ八ヲ標準トス
第六条 馬匹ハ有蓋貨車ニ搭載スヘシ
第七条 戦用器材ハ無蓋貨車ニ搭載シ其ノ他ノ軍需品ハ其ノ種類及形状ニ応シ有蓋貨車又ハ無蓋貨車ニ搭載スヘシ
第八条 客車ニハ普通旅客ニ供スルト同一ノ設備ヲ為シ第六条ノ貨車ニハ灯器、敷藁及馬栓棒若ハ胸板ヲ備ヘ第七条ノ貨車中戦用車輛ヲ搭載スルモノニハ搭載品固定用ノ木楔、鎹、釘等ヲ備フヘシ
第九条 車輛ノ欠乏其ノ他己ヲ得サル場合ニ於テ陸海軍官憲ノ承認アルトキ又ハ陸海軍官憲ノ要求アル場合ニ於テ会社ニ支障ナキトキハ第四条乃至第八条ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第十条 軍事輸送ニ供スル車輛ハ清潔ニ掃除シ必要ナル場合ニ於テハ消毒ヲ為スヘシ
第十一条 会社ハ馬匹及軍需品ノ積卸ノ為ニ要スル踏板及輸送上必要ナル雨覆等ヲ準備スヘシ
第十二条 会社ハ軍事輸送ニ際シ停車場内ノ点灯、公衆待合所、乗降場、厠等ヲ軍用ニ供スヘシ
第十三条 陸海軍官憲ニ於テ軍事輸送ニ際シ搭載卸下ノ為必要ナル補足工事又ハ特別ノ施設ヲ為サムトスルトキハ会社ハ正当ノ事由ナクシテ其ノ供用線ニ属スル土地建物機械器具又ハ材料ノ供用ヲ拒ムコトヲ得ス
会社ニ於テ前項ノ工事又ハ施設ヲ為スヘキ要求ヲ受ケタルトキハ正当ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス
前二項ノ場合ニ於テ供用ノ費用又ハ工事若ハ施設ニ要スル費用ハ之ヲ補償ス但シ其ノ金額ハ陸軍大臣又ハ海軍大臣逓信大臣ト協議シテ之ヲ決定ス
第十四条 会社ハ陸海軍官憲ノ要求アルトキハ無償ニテ其ノ電信電話ニ依リ軍事輸送上直接ニ必要ナル通信ヲ取扱フヘシ
第十五条 軍事輸送ノ料金ハ別表ニ依リ之ヲ交付ス
前項ノ料金ハ陸海軍官憲会社ト協議シテ之ヲ低減スルコトヲ得
第十六条 軍事輸送ノ実施ニ関スル規定ハ陸軍大臣海軍大臣逓信大臣協議シテ之ヲ定ム
第十七条 前数条ノ規定ハ官設鉄道ニ之ヲ準用ス
第十八条 第二条第一項及第十三条ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ二百円以下ノ罰金又ハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ第三条第四条第六条乃至第八条及第十四条ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ百円以下ノ罰金又ハ三月以下ノ重禁錮ニ処シ第十条乃至第十二条ノ規定ニ違反シタルトキハ取締役ヲ五十円以下ノ罰金又ハ一月以下ノ重禁錮ニ処ス
附 則
本令ハ明治三十七年一月二十六日ヨリ之ヲ施行ス
(別表)
軍事輸送料金表
供用車輛ノ種類
一輛一哩ニ対スル金額
一、二等客車
旅客定員ニ金一銭ヲ乗シタル額
三等客車
旅客定員ニ金五厘ヲ乗シタル額
等級合造客車
旅客定員ニ一、二等ハ金一銭三等ハ金五厘ヲ乗シタル額ノ和
有蓋貨車
金十二銭
無蓋貨車
金十銭
貨物緩急車
金六銭
備考
二十哩未満ノ輸送ニ在リテハ二十哩分ノ料金ヲ給ス