訴願法
法令番号: 法律第百五號
公布年月日: 明治23年10月10日
法令の形式: 法律
朕訴願法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年十月九日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
內務大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顯正
農商務大臣 陸奧宗光
法律第百五號
訴願法
第一條 訴願ハ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノヲ除ク外左ニ揭クル事件ニ付之ヲ提起スルコトヲ得
一 租稅及手數料ノ賦課ニ關スル事件
二 租稅滯納處分ニ關スル事件
三 營業免許ノ拒否又ハ取消ニ關スル事件
四 水利及土木ニ關スル事件
五 土地ノ官民有區分ニ關スル事件
六 地方警察ニ關スル事件
其他法律勅令ニ於テ特ニ訴願ヲ許シタル事件
第二條 訴願セントスル者ハ處分ヲ爲シタル行政廳ヲ經由シ直接上級行政廳ニ之ヲ提起スヘシ
訴願ノ裁決ヲ受ケタル後更ニ上級行政廳ニ訴願スルトキハ其裁決ヲ爲シタル行政廳ヲ經由スヘシ
國ノ行政ニ付此法律ニ依リ郡參事會又ハ市參事會ノ處分若クハ裁決ニ對シテ訴願セントスル者ハ其處分若クハ裁決ヲ爲シタル郡參事會又ハ市參事會ヲ經由シテ府縣參事會ニ之ヲ提起スヘシ
第三條 各省大臣ノ處分ニ對シ訴願セントスル者ハ其省ニ之ヲ提起スヘシ
第四條 裁判所ノ裁判各省ノ裁決及第二條第三項府縣參事會ノ裁決ヲ經タルモノハ其事件ニ付更ニ訴願スルコトヲ得ス
第五條 訴願ハ文書ヲ以テ之ヲ提起スヘシ
訴願書ノ侮辱誹毀ニ涉ルモノハ之ヲ受理セス
第六條 訴願書ハ其不服ノ要㸃理由要求及訴願人ノ身分職業住所年齡ヲ記載シ之ニ署名捺印スヘシ
訴願書ニハ證據書類ヲ添ヘ竝下級行政廳ノ裁決ヲ經タルモノハ其裁決書ヲ添フヘシ
第七條 多數ノ人員共同シテ訴願セントスルトキハ其訴願書ニ各訴願人ノ身分職業住所年齡ヲ記載シ署名捺印シ其中ヨリ三名以下ノ總代人ヲ選ヒ之ニ委任シ總代委任ノ正當ナルコトヲ證明スヘシ
法律ニ依リ法人ト認メラレタル者ハ其名ヲ以テ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第八條 行政處分ヲ受ケタル後六十日ヲ經過シタルトキハ其處分ニ對シ訴願スルコトヲ得ス
行政廳ノ裁決ヲ經タル訴願ニシテ其裁決ヲ受ケタル後三十日ヲ經過シタルモノハ更ニ上級行政廳ニ訴願スルコトヲ得ス
行政廳ニ於テ宥恕スヘキ事由アリト認ムルトキハ期限經過後ニ於テモ仍之ヲ受理スルコトヲ得
第九條 法律勅令ニ依リ訴願ヲ提起スヘカラサルモノナルカ又ハ適法ノ手續ニ違背スルモノナルトキハ之ヲ却下ス
其訴願書ノ方式ヲ缺クニ止マルモノハ期限ヲ指定シテ還付スヘシ
第十條 訴願書ハ郵便ヲ以テ之ヲ差出スコトヲ得
郵便遞送ノ日數ハ第八條ノ訴願期限內ニ之ヲ算入セス
第十一條 第二條第一項ノ場合ニ於テ訴願書ノ經由ニ當レル行政廳ハ訴願書ヲ受取リタル日ヨリ十日以內ニ辯明書及必要文書ヲ添ヘ上級行政廳ニ之ヲ發送スヘシ
第二條第二項ノ場合ニ於テ訴願書ノ經由ニ當レル行政廳ハ訴願書ヲ受取リタル日ヨリ三日以內ニ上級行政廳ニ之ヲ發送スヘシ
第二條第三項ノ場合ニ於テ訴願書ヲ發送スルトキ亦前二項ノ例ニ依ルヘシ
第十二條 訴願ハ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノヲ除ク外行政處分ノ執行ヲ停止セス但行政廳ハ其職權ニ依リ又ハ訴願人ノ願ニ依リ必要ナリト認ムルトキハ其執行ヲ停止スルコトヲ得
第十三條 訴願ハ口頭審問ヲ爲サス其文書ニ就キ之ヲ裁決ス但行政廳ニ於テ必要ナリト認ムルトキハ口頭審問ヲ爲スコトヲ得
第十四條 訴願ノ裁決ハ文書ヲ以テ之ヲ爲シ其理由ヲ付スヘシ訴願ヲ却下スルトキ亦同シ
第十五條 訴願ノ裁決書ハ其處分ヲ爲シタル行政廳ヲ經由シテ之ヲ訴願人ニ交付スヘシ訴願書ヲ却下スルトキ亦同シ
第十六條 上級行政廳ニ於テ爲シタル裁決ハ下級行政廳ヲ覊束ス
第十七條 訴願ノ手續ニ關シ他ノ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノハ各其規程ニ依ル
附 則
第十八條 明治十五年十二月第五十八號布吿請願規則ハ此法律施行ノ日ヨリ廢止ス
第十九條 此法律施行ノ前請願規則ニ依リ受理シタル請願ハ仍其規則ニ依リ之ヲ處分ス
請願規則ニ依リ下級行政廳ノ指令ヲ受ケタル者訴願スルヲ得ヘキ場合ニ於テ更ニ訴願セントスルトキハ此法律ニ從ヒ其上級行政廳ニ之ヲ提起スヘシ
第二十條 第八條ノ訴願期限ハ此法律施行ノ前行政處分ヲ受ケ又ハ請願規則ニ依リ指令ヲ受ケタル事件ニシテ其處分又ハ指令ヲ受ケタル日ヨリ滿五年ヲ經過セサルモノニ對シテハ此法律施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第二十一條 行政廳ニ呈出スル請願ハ此法律ニ依ルノ限ニ在ラス
朕訴願法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年十月九日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
内務大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顕正
農商務大臣 陸奥宗光
法律第百五号
訴願法
第一条 訴願ハ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノヲ除ク外左ニ掲クル事件ニ付之ヲ提起スルコトヲ得
一 租税及手数料ノ賦課ニ関スル事件
二 租税滞納処分ニ関スル事件
三 営業免許ノ拒否又ハ取消ニ関スル事件
四 水利及土木ニ関スル事件
五 土地ノ官民有区分ニ関スル事件
六 地方警察ニ関スル事件
其他法律勅令ニ於テ特ニ訴願ヲ許シタル事件
第二条 訴願セントスル者ハ処分ヲ為シタル行政庁ヲ経由シ直接上級行政庁ニ之ヲ提起スヘシ
訴願ノ裁決ヲ受ケタル後更ニ上級行政庁ニ訴願スルトキハ其裁決ヲ為シタル行政庁ヲ経由スヘシ
国ノ行政ニ付此法律ニ依リ郡参事会又ハ市参事会ノ処分若クハ裁決ニ対シテ訴願セントスル者ハ其処分若クハ裁決ヲ為シタル郡参事会又ハ市参事会ヲ経由シテ府県参事会ニ之ヲ提起スヘシ
第三条 各省大臣ノ処分ニ対シ訴願セントスル者ハ其省ニ之ヲ提起スヘシ
第四条 裁判所ノ裁判各省ノ裁決及第二条第三項府県参事会ノ裁決ヲ経タルモノハ其事件ニ付更ニ訴願スルコトヲ得ス
第五条 訴願ハ文書ヲ以テ之ヲ提起スヘシ
訴願書ノ侮辱誹毀ニ渉ルモノハ之ヲ受理セス
第六条 訴願書ハ其不服ノ要点理由要求及訴願人ノ身分職業住所年齢ヲ記載シ之ニ署名捺印スヘシ
訴願書ニハ証拠書類ヲ添ヘ並下級行政庁ノ裁決ヲ経タルモノハ其裁決書ヲ添フヘシ
第七条 多数ノ人員共同シテ訴願セントスルトキハ其訴願書ニ各訴願人ノ身分職業住所年齢ヲ記載シ署名捺印シ其中ヨリ三名以下ノ総代人ヲ選ヒ之ニ委任シ総代委任ノ正当ナルコトヲ証明スヘシ
法律ニ依リ法人ト認メラレタル者ハ其名ヲ以テ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第八条 行政処分ヲ受ケタル後六十日ヲ経過シタルトキハ其処分ニ対シ訴願スルコトヲ得ス
行政庁ノ裁決ヲ経タル訴願ニシテ其裁決ヲ受ケタル後三十日ヲ経過シタルモノハ更ニ上級行政庁ニ訴願スルコトヲ得ス
行政庁ニ於テ宥恕スヘキ事由アリト認ムルトキハ期限経過後ニ於テモ仍之ヲ受理スルコトヲ得
第九条 法律勅令ニ依リ訴願ヲ提起スヘカラサルモノナルカ又ハ適法ノ手続ニ違背スルモノナルトキハ之ヲ却下ス
其訴願書ノ方式ヲ欠クニ止マルモノハ期限ヲ指定シテ還付スヘシ
第十条 訴願書ハ郵便ヲ以テ之ヲ差出スコトヲ得
郵便逓送ノ日数ハ第八条ノ訴願期限内ニ之ヲ算入セス
第十一条 第二条第一項ノ場合ニ於テ訴願書ノ経由ニ当レル行政庁ハ訴願書ヲ受取リタル日ヨリ十日以内ニ弁明書及必要文書ヲ添ヘ上級行政庁ニ之ヲ発送スヘシ
第二条第二項ノ場合ニ於テ訴願書ノ経由ニ当レル行政庁ハ訴願書ヲ受取リタル日ヨリ三日以内ニ上級行政庁ニ之ヲ発送スヘシ
第二条第三項ノ場合ニ於テ訴願書ヲ発送スルトキ亦前二項ノ例ニ依ルヘシ
第十二条 訴願ハ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノヲ除ク外行政処分ノ執行ヲ停止セス但行政庁ハ其職権ニ依リ又ハ訴願人ノ願ニ依リ必要ナリト認ムルトキハ其執行ヲ停止スルコトヲ得
第十三条 訴願ハ口頭審問ヲ為サス其文書ニ就キ之ヲ裁決ス但行政庁ニ於テ必要ナリト認ムルトキハ口頭審問ヲ為スコトヲ得
第十四条 訴願ノ裁決ハ文書ヲ以テ之ヲ為シ其理由ヲ付スヘシ訴願ヲ却下スルトキ亦同シ
第十五条 訴願ノ裁決書ハ其処分ヲ為シタル行政庁ヲ経由シテ之ヲ訴願人ニ交付スヘシ訴願書ヲ却下スルトキ亦同シ
第十六条 上級行政庁ニ於テ為シタル裁決ハ下級行政庁ヲ羈束ス
第十七条 訴願ノ手続ニ関シ他ノ法律勅令ニ別段ノ規程アルモノハ各其規程ニ依ル
附 則
第十八条 明治十五年十二月第五十八号布告請願規則ハ此法律施行ノ日ヨリ廃止ス
第十九条 此法律施行ノ前請願規則ニ依リ受理シタル請願ハ仍其規則ニ依リ之ヲ処分ス
請願規則ニ依リ下級行政庁ノ指令ヲ受ケタル者訴願スルヲ得ヘキ場合ニ於テ更ニ訴願セントスルトキハ此法律ニ従ヒ其上級行政庁ニ之ヲ提起スヘシ
第二十条 第八条ノ訴願期限ハ此法律施行ノ前行政処分ヲ受ケ又ハ請願規則ニ依リ指令ヲ受ケタル事件ニシテ其処分又ハ指令ヲ受ケタル日ヨリ満五年ヲ経過セサルモノニ対シテハ此法律施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第二十一条 行政庁ニ呈出スル請願ハ此法律ニ依ルノ限ニ在ラス