郡制
法令番号: 法律第三十六號
公布年月日: 明治23年5月17日
法令の形式: 法律
朕郡制ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年五月十七日
內閣總理大臣兼內務大臣 伯爵 山縣有朋
法律第三十六號
郡制
第一章 總則
第一條 郡ノ廢置分合及郡界ノ變更ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
郡界ニ當ル市町村ノ境界ヲ變更スルトキハ郡界モ亦自ラ變更スルモノトス
第二條 郡內ノ町村ヲ變シテ市ト爲シ若ハ市ヲ變シテ郡內ノ町村ト爲スハ其市會町村會ノ申請ニ依リ內務大臣之ヲ定ム
第三條 第一條第二條ノ處分ニ付其財產處分ヲ要スルトキハ府縣參事會之ヲ議決スヘシ但特ニ法律ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第二章 郡會
第四條 郡會ハ郡內町村ニ於テ選擧シタル議員及大地主ニ於テ選擧シタル議員ヲ以テ之ヲ組織ス
第五條 町村ニ於テ選擧スヘキ郡會議員ノ數ハ每町村各一名トス
郡會議員ノ數二十名以上ニ及フトキハ二十名ヲ以テ制限トス此場合ニ於テ議員配當法ハ首トシテ人口ヲ標準トシ郡會ニ於テ議決シ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
郡會議員ノ數十名ニ滿タサルトキハ郡會ノ議決ニ依リ府縣知事ノ認可ヲ經其數ヲ增シテ十名ニ至ルコトヲ得其配當法ハ首トシテ人口ヲ標準トシ郡會ニ於テ議決シ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
本條議員配當法ハ郡內ノ町村數ニ增減アリタル場合ノ外初囘ハ三年間爾後ハ十二年以上ニ至リ町村ノ人口ニ著シキ增減アルニ非サレハ改正セサルモノトス
議員配當法ヲ改正スルトキハ議員全數ヲ改選スヘシ
第六條 一町村ニ於テ一名以上ノ議員ヲ選擧スルハ其町村會之ヲ行ヒ數町村ニ於テ一名若ハ一名以上ノ議員ヲ選擧スルハ其各町村會會同シテ之ヲ行フヘシ
第七條 町村組合ニシテ組合會ヲ設ケ其町村一切ノ事務ヲ共同處分スルモノハ第四條乃至第六條ノ規定ニ關シテハ之ヲ一町村ト同視シ其組合會ニ於テ議員選擧ヲ行フヘシ
第八條 大地主ハ町村ニ於テ選擧スヘキ議員定數ノ外其定數ノ三分ノ一ヲ互選スルモノトス若端數ヲ生スルトキハ之ヲ棄却スヘシ
選擧ヲ行フコトヲ得ヘキ大地主ニシテ其員數町村ニ於テ選擧スヘキ議員定數ノ三分ノ一以下ナルトキハ其大地主ハ選擧ニ依ラスシテ郡會議員タルモノトス但定期改選ノ期限內ニ於テハ大地主ノ員數減シテ三分ノ一以下ニ至ルト雖解散ノ爲改選スル場合ヲ除クノ外ハ本項ヲ適用スルノ限ニ在ラス
第九條 大地主トハ郡內ニ於テ町村稅ノ賦課ヲ受クル所有地ニシテ地價總計一萬圓以上ヲ有スル地主ヲ云フ
第十條 郡內町村公民ニシテ町村會ノ選擧ニ參與スルコトヲ得ヘキ者及大地主中自ラ選擧ニ加ハルコトヲ得ヘキ者ハ總テ郡會ノ被選權ヲ有ス
住居ヲ移シタル爲町村ノ公民權ヲ失ヒタル者其住居同郡內ニ在リ且他ノ要件ヲ失ハサルトキハ仍郡會ノ被選權ヲ有ス
左ニ揭クル者ハ選擧ニ係ルト否トヲ問ハス郡會議員タルコトヲ得ス
一 所屬府東京府ハ警視廳トモ縣竝ニ其郡ノ官吏
二 其郡ノ有給吏員
三 神官及諸宗ノ僧侶又ハ敎師
四 小學校敎員
前項ノ外ノ官吏ニシテ當選ニ應シ又ハ第八條第二項ノ權利ヲ行ハントスルトキハ本屬長官ノ許可ヲ受クヘシ
第十一條 大地主ニシテ選擧權ヲ有スルハ帝國臣民ニシテ公權ヲ有スル男子ニ限ル
年齡二十歲未滿ノ者及治產ノ禁ヲ受ケタル者ハ選擧權ヲ有セサルモノトス
大地主ノ選擧權ハ身代限處分中又ハ租稅滯納處分中又ハ公權ノ剝奪若ハ停止ヲ附加スヘキ重輕罪ノ爲裁判上ノ訊問若ハ勾留中ハ之ヲ停止ス
本條ノ規定ハ選擧ニ依ラスシテ郡會議員タル者ニモ適用ス
第十二條 選擧權ヲ有スル大地主ハ代人ヲ以テ選擧ヲ行フコトヲ得
陸海軍ノ現役ニ服スル者ハ代人ヲ以テスルニ非サレハ選擧ヲ行フコトヲ得ス
代人ハ帝國臣民ニシテ公權ヲ有シ町村制ニ定メタル獨立ノ男子ニ限ル但一人ニシテ數人ノ代理ヲ爲スコトヲ得ス且代人ハ委任狀ヲ以テ代理ノ證トスヘシ
本條ノ規定ハ第八條第二項ノ權利ヲ行フ場合ニモ適用スルモノトス但其代人ハ郡會ニ被選權ヲ有スル者ニシテ郡會議員タラサル者ニ限ル
第十三條 郡會議員ハ名譽職トス
町村ニ於テ選擧シタル議員ノ任期ハ六年トシ每三年其半數ヲ改選ス若其員數二分シ難キトキハ初囘ニ於テ多數ノ一半ヲ解任セシム初囘ニ於テ解任スヘキ者ハ郡會議長郡會ニ於テ自ラ抽籤シテ之ヲ定ム
大地主ニ於テ選擧シタル議員ノ任期ハ三年トシ每三年其全數ヲ改選ス
解任ノ議員ハ再選セラルヽコトヲ得
第十四條 議員中闕員アルトキハ遲クトモ六箇月以內ニ補闕選擧ヲ行フヘシ
補闕議員ハ其前任者ノ殘任期間在職スルモノトス
第十五條 郡長ハ郡會議員改選前選擧權アル大地主ノ名簿ヲ製シ之ニ其資格ヲ記載シ其氏名ヲ吿示スヘシ
關係者ニ於テ大地主名簿ノ正否ニ關シ異議アルトキハ吿示後二十一日以內ニ郡長ニ申立テ其郡長ノ裁決ニ不服ナル者ハ府縣參事會ニ訴願シ其府縣參事會ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
大地主名簿ニ登錄セラレサル者ハ選擧ニ參與シ及第八條第二項ニ依リ郡會議員タルコトヲ得ス
大地主名簿ハ次ノ定期改選前ニ行フヘキ補闕選擧ニモ亦適用スルモノトス但大地主ノ資格ヲ失ヒ又ハ選擧權ノ要件ヲ失ヒタル者ハ之ヲ削除シ其氏名ヲ吿示スヘシ其處分ニ對シ異議アルトキハ本條第二項ノ例ニ依ル
定期改選ノ期限內新ニ選擧權ヲ得又ハ選擧ニ依ラスシテ郡會議員タルノ權利ヲ得タル者ハ解散ノ爲改選スル場合ヲ除ク外期限內ニ於テ其名簿ニ登錄セサルモノトス
第十六條 郡會議員ノ選擧ハ郡長ノ吿示ニ依リ之ヲ行フヘシ其吿示ハ遲クトモ選擧ノ日ヨリ七日前ニ之ヲ發スヘシ
第十七條 選擧ノ順序ハ先ツ町村之ヲ行ヒ次ニ大地主之ヲ行フヘシ
町村ニ於テ行フ選擧ハ町村制第四十六條ノ規定ニ從フヘシ但數町村會會同シテ行フ選擧ハ郡長又ハ郡長ノ指定スル町村長ヲ選擧會長トシテ之ヲ行フヘシ
大地主ニ於テ行フ選擧ハ郡長ヲ選擧會長トシテ之ヲ行フヘシ
第十八條 大地主ニ於テ選擧ヲ行フトキハ左ノ規定ニ依ルヘシ
一 郡長ハ遲クトモ選擧ノ日ヨリ七日前選擧人ニ招集狀ヲ發シ選擧ノ場所日時ヲ吿知スヘシ
二 選擧掛ハ選擧會長ニ於テ臨時ニ選擧人中ヨリ選任シタル立會人二名若ハ四名及選擧會長ヲ以テ之ヲ組織ス
選擧會長ハ選擧會ヲ開閉シ其會場ノ取締ニ任ス
三 選擧開會中ハ選擧人ノ外何人タリトモ選擧會場ニ入ルコトヲ得ス
四 投票ハ選擧人自ラ選擧會長ノ面前ニ於テ之ヲ投票函ニ投入ス
投票ハ匿名トス
五 左ノ投票ハ之ヲ無効トス
一 記載セル人名ノ讀ミ難キモノ
二 被選人ノ何人タルヲ確認シ難キモノ
三 被選權ナキ人名ヲ記載スルモノ
四 被選人氏名ノ外他ノ文字ヲ記入スルモノ但爵位職業身分住所又ハ敬稱ハ此限ニ在ラス
本項一ヨリ三ニ至ルノ場合ニ於テ票中他ニ列記ノ被選人ニ付テハ仍其効アリトス
投票ノ受理竝ニ効力ニ關スル事項ハ選擧掛假ニ之ヲ議決ス可否同數ナルトキハ選擧會長之ヲ決ス
六 有効投票ノ多數ヲ得タル者ヲ以テ當選トス投票ノ數相同キモノハ年長者ヲ取リ年齡相同キトキハ選擧會長自ラ抽籤シテ其當選ヲ定ム
七 選擧掛ハ選擧錄ヲ製シテ選擧ノ顚末ヲ記錄シ選擧ヲ終リタル後之ヲ朗讀シテ署名スヘシ
八 投票ハ選擧ノ効力確定スル迄之ヲ保存スヘシ
第十九條 選擧ヲ終リ當選人定マリタルトキハ町村會ニ於テ行フ選擧ニ在テハ町村長數町村會會同シテ行フ選擧及大地主ニ於テ行フ選擧ニ在テハ選擧會長直ニ當選人ニ通知シ町村長ハ之ヲ郡長ニ報吿スヘシ
當選人當選ノ通知ヲ受ケタルトキハ五日以內ニ其當選ヲ承諾スルヤ否ヲ郡長ニ屆出ヘシ
一人ニシテ數箇所ノ選擧ニ當リタルトキハ同期限內ニ何レノ選擧ニ應スヘキコト及選擧ニ依ラスシテ郡會議員タルヘキ大地主ニシテ町村ノ選擧ニ當選シタルトキハ其選擧ニ應スルコト又ハ應セサルコトヲ同期限內ニ郡長ニ屆出ヘシ
前二項ノ屆出ヲ其期限內ニ爲サヽルトキハ選擧ヲ辭スル者ト視做スヘシ
町村ノ選擧ニ應スル大地主ハ第八條第二項ノ權利ヲ有スル者ト雖二重ニ其權ヲ行フコトヲ得サルモノトス
第二十條 議員ノ當選ヲ辭シ又ハ承諾ノ屆出ヲ爲サヽル者アルトキハ郡長ハ七日以內ニ更ニ選擧ヲ行ヒ又ハ町村長ニ命シテ更ニ選擧ヲ行ハシムヘシ
第二十一條 當選人確定シタルトキハ郡長ハ直ニ當選證書ヲ付與シ及管內ニ吿示スヘシ
第二十二條 選擧人選擧ノ効力ニ關シテ訴願セントスルトキハ選擧ノ日ヨリ十四日以內ニ之ヲ郡長ニ申立ツルコトヲ得
第二十三條 當選人其當選ノ際資格ノ要件ヲ有セサリシコト發覺スルトキハ其當選ハ無効トス
當選人當選後資格ノ要件ヲ失フトキハ議員ノ職ヲ失フモノトス
第二十四條 郡會ニ於テ其議員中議員ノ資格ヲ有セサル者アルコトヲ發見スルトキハ其議決ヲ以テ之ヲ郡長ニ通知スヘシ
第二十五條 郡會議員被選權ノ有無及選擧ノ効力ハ郡參事會之ヲ裁決ス
郡參事會ノ裁決ニ不服ナル者ハ府縣參事會ニ訴願シ其府縣參事會ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十六條 郡會ノ議決スヘキ事件左ノ如シ
一 郡ノ歲入出豫算ヲ定ムル事
二 決算報吿ヲ認定スル事
三 郡有不動產ノ賣買交換讓渡讓受竝ニ質入書入ノ事
四 歲入出豫算ヲ以テ定ムルモノヲ除ク外新ニ義務ノ負擔ヲ爲シ及權利ノ棄却ヲ爲ス事
五 郡有財產ノ管理及營造物ノ維持方法ヲ定ムル事
其他法律命令ニ依リ郡會ノ權限ニ屬スル事項ヲ議決ス
第二十七條 郡會ハ其權限ニ屬スル事件ヲ郡參事會ニ委任スルコトヲ得
第二十八條 郡會ハ官廳ノ諮問アルトキハ意見ヲ陳述スヘシ
郡會ハ其郡ノ全部又ハ一部ノ公益ニ關スル事件ニ付郡長又ハ府縣知事ニ建議スルコトヲ得
第二十九條 郡會議員ハ選擧人ノ指示若ハ委囑ヲ受クヘカラサルモノトス
第三十條 郡會ハ郡長ヲ以テ議長トス
郡會ハ改選後ノ初會ニ於テ議長代理者一名ヲ互選スヘシ
議長及議長代理者共ニ故障アルトキハ臨時議長代理ヲ互選スヘシ
第三十一條 郡長若ハ特ニ郡長ノ委任ヲ受ケタル郡吏員ハ郡會ノ議事ニ參與スルコトヲ得但議決ニ加ハルコトヲ得ス
前項ノ列席者ニ於テ發言ヲ求ムルトキハ議長ハ何時ニテモ之ヲ許スヘシ
第三十二條 郡會ハ每年一囘通常會ヲ開クヘシ其他必要アルトキハ其事件ニ限リ臨時會ヲ開クコトヲ得
郡會ハ郡長之ヲ招集ス若議員三分ノ一以上ニ於テ臨時ノ招集ヲ請求スルトキハ之ヲ招集スヘシ招集ハ開會ノ日ヨリ十四日前迄ニ吿示スヘシ但急施ヲ要スル場合ハ此限ニ在ラス
郡會ハ郡長之ヲ開閉ス
第三十三條 郡會ハ議員半數以上出席スルニ非サレハ會議ヲ開キ議決ヲ爲スコトヲ得ス但同一ノ議事ニ付開會再囘ニ至ルモ議員猶其半數ニ滿タサルトキハ此限ニ在ラス
第三十四條 郡會ノ議決ハ過半數ニ依ル可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第三十五條 議員ハ自己及其父母兄弟若ハ妻子ノ一身上ニ關スル事件ニ付テハ會議ノ承諾ヲ經ルニ非サレハ郡會ノ議事ニ參與シ及議決ニ加ハルコトヲ得ス
第三十六條 郡會ニ於テ選擧ヲ行フトキハ第十八條四ヨリ六ニ至ル規定ニ依ルヘシ
第三十七條 郡會ノ會議ハ公開ス但左ノ場合ハ此限ニ在ラス
一 郡長ヨリ傍聽禁止ノ要求ヲ受ケタルトキ
二 議長又ハ議員三名以上ノ發議ニ由リ傍聽禁止ヲ可決シタルトキ
議長又ハ議員ノ發議ハ討論ヲ用井スシテ其可否ヲ決スヘシ
第三十八條 議長ハ議事ノ順序ヲ定メ會議及選擧ノ事ヲ總理シ其日ノ會議ヲ開閉シ竝ニ延會シ議場ノ秩序ヲ保持ス
第三十九條 議員ハ會議中無禮ノ語ヲ用井及他人ノ身上ニ涉リ言論スルコトヲ得ス
第四十條 會議中此法律若ハ議事規則ニ違ヒ其他議場ノ秩序ヲ紊ル議員アルトキハ議長ハ之ヲ警戒シ又ハ制止シ又ハ發言ヲ取消サシム命ニ從ハサルトキハ議長ハ當日ノ會議ヲ終ルマテ發言ヲ禁止シ又ハ議場ノ外ニ退去セシムヘシ若强抗ニ涉ル者アルトキハ警察官ノ處分ヲ求ムルコトヲ得
議場騷擾ニシテ整理シ難キトキハ議長ハ當日ノ會議ヲ中止シ又ハ之ヲ閉ツルコトヲ得
第四十一條 會議ノ傍聽人公然可否ヲ表シ又ハ喧騷ニ涉リ其他議事ノ妨害ヲ爲ス者アルトキハ議長ハ之ヲ制止シ若命ニ從ハサルトキハ之ヲ退場セシメ必要ナル場合ニ於テハ警察官ノ處分ヲ求ムルコトヲ得
傍聽席騷擾ナルトキハ議長ハ總テノ傍聽人ヲ退場セシムルコトヲ得
第四十二條 郡長若ハ特ニ其委任ヲ受ケタル吏員及議員ハ議場ノ秩序ヲ紊リ又ハ議場ノ妨害ヲ爲ス者アルトキハ議長ノ注意ヲ喚起スルコトヲ得
第四十三條 郡會ニ書記ヲ置キ議長ニ隸屬シテ庶務ヲ掌理セシム
書記ハ議長之ヲ選任ス但郡吏員ヲシテ之ヲ兼シムルコトヲ得
第四十四條 郡會ハ書記ヲシテ議事錄ヲ製シ議決及選擧ノ顚末竝ニ出席議員ノ氏名ヲ記錄セシムヘシ議事錄ハ議長及議員二名以上之ニ署名スヘシ其議員ハ會議ノ前郡會ニ於テ豫メ之ヲ定メ議事錄中ニ其氏名ヲ記載シ置クヘシ
第四十五條 郡會ハ議事規則及傍聽人取締規則ヲ設ケ府縣知事ノ認可ヲ受ケテ之ヲ施行スヘシ
第三章 郡參事會、吏員及委員
第四十六條 郡ニ郡參事會ヲ置キ郡長及名譽職參事會員四名ヲ以テ之ヲ組織ス
名譽職參事會員中三名ハ郡會ニ於テ其議員中ヨリ互選シ一名ハ府縣知事ニ於テ郡會議員若ハ郡內町村ノ公民中ヨリ選任スヘシ
第四十七條 郡參事會ハ郡長ヲ以テ議長トス議長故障アルトキハ會員ニ於テ臨時議長代理ヲ互選スヘシ
第四十八條 郡會ハ每通常會ニ於テ郡會ノ互選シタル名譽職參事會員ノ補充員三名ヲ互選シ其名譽職參事會員ノ闕員アルトキハ郡長ニ於テ補充員中投票多數ノ順次ニ依リ之ヲ補充スヘシ但其既ニ補充シタル者ハ前任者ノ任期中在職スルモノトス
第四十九條 名譽職參事會員ノ任期ハ議員ノ任期ニ從フ但任期滿限ノ後ト雖後任者就職ノ日迄在職スルモノトス
郡會ノ互選シタル名譽職參事會員ハ補充員ヲ以テ其闕員ヲ補充シ仍闕員ヲ生シタル場合ニ於テハ二箇月以內ニ臨時其選擧ヲ行フヘシ
第五十條 郡參事會ノ職務權限左ノ如シ
一 郡會ノ權限ニ屬スル事件ニシテ其委任ヲ受ケタルモノヲ議決スル事
二 郡會ノ權限ニ屬スル事件ニシテ臨時急施ヲ要シ郡長ニ於テ郡會ヲ招集スルノ暇ナシト認ルトキ郡會ニ代テ議決ヲ爲ス事
三 郡會ノ定メタル方法ノ範圍內ニ於テ郡有財產ノ管理又ハ營造物ノ維持ニ關シ必要ナル事件ニ付議決ヲ爲ス事
四 郡ノ費用ヲ以テ支辨スル工事ノ次第順序其他必要ナル事件ニ付議決ヲ爲ス事
五 郡長其他官廳ノ諮問ニ對シ意見ヲ述フル事
六 郡長ヨリ發スル郡會議案ニ付郡長ニ意見ヲ述ヘ及會議ニ報吿スル事
七 臨時必要アルトキ郡ノ出納ヲ檢査スル事
其他法律命令ニ依リ郡參事會ノ權限ニ屬スル事務ヲ處理ス
第五十一條 郡參事會ハ郡長之ヲ招集ス
會員半數以上ノ請求アルトキハ郡長ハ郡參事會ヲ招集スヘシ
第五十二條 郡參事會ノ會議ハ傍聽ヲ許サス
第五十三條 郡參事會ハ議長又ハ其代理者及會員半數以上出席スルニ非サレハ會議ヲ開キ議決ヲ爲スコトヲ得ス
郡參事會ノ議決ハ過半數ニ依ル可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
議決ノ事件ハ之ヲ議事錄ニ登記シ議長及名譽職參事會員二名以上之ニ署名スヘシ
第五十四條 郡參事會員ハ自己及其父母兄弟若ハ妻子ノ一身上ニ關スル事件ニ付郡參事會ノ議事ニ參與シ及議決ニ加ハルコトヲ得ス
前項ノ規定ノ爲出席ノ參事會員減少シテ前條第一項ノ數ヲ得サルトキハ郡長ハ補充員ヲ以テ臨時之ニ充テ仍其數ヲ得サルトキハ郡會議員ニシテ該事件ニ關係ナキ者ノ內ヨリ臨時ニ指名シ名譽職參事會員ノ不足ヲ補充シテ第四十六條ノ定數ニ滿タシムヘシ
第五十五條 町村制ノ規定ニ依リ郡參事會ノ權限ニ屬スル事件ニシテ二郡以上ノ町村ニ交涉スルモノアルトキハ其郡長ノ具狀ニ依リ府縣知事ニ於テ其事件ヲ管理スヘキ郡參事會ヲ指定スヘシ二府縣以上ノ町村ニ交捗スルモノアルトキハ其府縣知事ノ具狀ニ依リ內務大臣ニ於テ之ヲ指定スヘシ
第五十六條 郡長ハ郡會及郡參事會ノ議決ヲ施行シ及郡有ノ財產及營造物ヲ管理シ竝ニ郡ノ費用ヲ以テ支辨スル工事ヲ執行ス
郡ニ於テ他人ニ對シ義務ヲ負擔スヘキ證書及委任狀ニハ郡長ノ外名譽職參事會員二名以上之ニ署名捺印スヘシ
前項ノ文書中郡會又ハ參事會ノ權限ニ屬スル事件ニシテ其議決ヲ經タルモノハ其旨ヲ記入スヘシ
第五十七條 郡會ニ於テ名譽職參事會員ヲ選擧セス又ハ參事會成立セス又ハ招集ニ應セサルトキハ參事會成立シ又ハ招集ニ應スル迄郡長ハ郡參事會ノ權限ニ屬スル事件ヲ專決處分スルコトヲ得
非常事變ニ際シ郡參事會ヲ招集スルノ暇ナク又ハ名譽職參事會員ノ出席半數以上ニ至ラサルトキハ郡長ハ郡參事會ノ權限ニ屬スル事件ヲ專決處分スルコトヲ得
本條ノ處分ハ次囘ノ郡會會議ニ於テ之ヲ報吿スヘシ
第五十八條 郡ハ府縣稅ヲ以テ支辨スル郡吏員ノ外郡會ノ議決ニ依リ郡ノ費用ヲ以テ郡有財產又ハ營造物ノ管理若ハ土木工事ニ必要ナル有給郡吏員ヲ置クコトヲ得但其郡吏員ハ他ノ郡吏員ニ準シ府縣知事ニ於テ之ヲ任免監督ス
前項郡吏員ノ給料手當退隱料等ハ郡會ノ議決スル所ニ依ル其身元保證金ヲ要スルトキ其金額ヲ定ムルモ亦同シ
第五十九條 郡長ハ郡會ノ議決ヲ經テ臨時又ハ常設ノ委員ヲ置キ郡事務ノ一部ヲ調査セシメ又ハ郡有財產及營造物ノ一部ヲ管理セシムルコトヲ得
委員ハ郡會ニ於テ之ヲ選擧ス其選擧ノ方法及任期ハ郡會ノ議決スル所ニ依ル
委員ハ名譽職トス
第四章 郡ノ會計
第六十條 郡有財產及營造物管理ノ費用郡會郡參事會及委員ノ費用第五十八條ノ郡吏員ノ給料退隱料其他諸給與及法律勅令ニ依リ郡ノ負擔ト定ムル事件ノ費用ハ其郡ニ於テ之ヲ支辨スヘシ
第六十一條 郡會議員名譽職參事會員及委員ニハ旅費及日當ヲ給スルコトヲ得但日當ハ一日五十錢ヲ超ユルコトヲ得ス
第六十二條 郡ノ支出ニ充ツル費用ハ郡有財產ヨリ生スル收入其他雜收入ヲ以テ充ツルモノヽ外ハ郡內各町村ニ分賦ス各町村分賦ノ割合ハ各町村前年度ノ直接國稅府縣稅ノ徵收額ニ據ル
各町村分賦ノ額ハ各町村ニ於テ之ヲ町村ノ豫算ニ編入シ町村稅トシテ徵收シ其總額ヲ郡金庫ニ納ムヘシ
第六十三條 郡內ノ或ル部分ニ對シ特ニ利益アル土木事業ヲ起ストキハ郡會ノ議決ニ依リ該部分ノ町村ニ對シ通常分賦額ノ外其利益ノ厚薄ニ應シ特ニ夫役現品ヲ增課スルコトヲ得
第六十四條 郡ハ天災事變ノ爲已ムヲ得サル支出又ハ其郡ノ永久ノ利益ト爲ルヘキ支出ヲ要スルニ方リ通常ノ歲入ヲ增加スルトキハ郡內町村ノ負擔ニ堪ヘサルノ場合ニ限リ勅令ノ定ムル所ニ依リ郡會ノ議決ヲ以テ郡債ヲ起スコトヲ得
郡債ヲ起スノ議決ヲ爲ストキハ併セテ起債ノ方法利息ノ定率及償還ノ方法ヲ定ムヘシ
郡債償還ノ初期ハ三年以內ト爲シ年々ノ償還步合ヲ定メ起債ノ時ヨリ三十年以內ニ還了スヘシ
歲入出豫算內ノ支出ヲ爲スカ爲必要ナル一時ノ借入金ニシテ其年度內ノ收入ヲ以テ償還スヘキモノハ本條ノ例ニ依ルノ限ニ在ラス但郡參事會ノ議決ヲ經ルコトヲ要ス
第六十五條 郡長ハ每年其翌年度ニ係ル歲入出豫算ヲ調製スヘシ但郡ノ會計年度ハ政府ノ會計年度ニ同シ
豫算ハ郡會ノ議決ニ付スルノ前郡參事會ノ審査ニ付スヘシ若郡長ト郡參事會ト意見ヲ異ニスルトキハ郡長ハ參事會ノ意見ヲ豫算ニ添ヘ郡會ニ提出スヘシ追加又ハ臨時ノ豫算ニ付テモ亦同シ
內務大臣ハ省令ヲ以テ豫算調製ノ式ヲ定メ竝ニ費目流用ニ關スル規定ヲ設クルコトヲ得
第六十六條 豫算ハ每年郡會ノ議決ヲ取リ之ヲ府縣知事ニ報吿シ竝ニ郡慣行ノ公吿式ニ依リ其要領ヲ吿示スヘシ追加又ハ臨時ノ豫算ヲ議決シタル場合ニ於テモ亦同シ
郡ノ費用ヲ以テ支辨スル事業ニシテ數年ヲ期シテ施行スヘキモノ又ハ數年ヲ期シテ其費用ヲ支出スヘキモノハ郡會ノ議決ヲ以テ其年期間各年度ノ支出額ヲ定メ繼續費ト爲スコトヲ得
豫算ヲ郡會ニ提出スルトキハ郡長ハ併セテ其郡有財產表ヲ提出スヘシ
第六十七條 歲入出豫算中ニ豫備費ヲ設クヘシ豫備費ハ郡長ニ於テ郡參事會ノ議決ヲ經テ已ムヲ得サル豫算外ノ支出又ハ豫算超過ノ支出ニ充ツルコトヲ得但郡會ノ否決シタル費途ニ充ツルコトヲ得ス
第六十八條 郡ノ收支命令ハ郡長之ヲ發スヘシ
第六十九條 會計事務ヲ管理スル郡役所會計吏ハ前條ノ命令アルニ非サレハ支拂ヲ爲スコトヲ得ス及其命令アルモ支出ノ豫算ナキカ又ハ豫備費支出及費目流用ノ規定ニ依ラサルトキハ支拂ヲ爲スコトヲ得ス
第七十條 郡ノ出納ハ每月例日ヲ定メテ檢査シ及每年少クトモ一囘臨時檢査ヲ爲スヘシ檢査ハ郡長又ハ其代理者之ヲ爲シ臨時檢査ニハ郡參事會員一名以上ノ立會ヲ要ス
第七十一條 決算ハ會計事務ヲ管理スル郡役所會計吏ニ於テ會計年度後三箇月以內ニ之ヲ郡長ニ提出シ郡長ハ郡參事會ヲシテ之ヲ檢査セシメ次囘ノ通常郡會ノ認定ニ付スヘシ
決算報吿書竝ニ之ニ關スル郡會ノ議決ハ郡長ヨリ之ヲ府縣知事ニ報吿シ竝ニ決算ハ郡慣行ノ公吿式ニ依リ其要領ヲ吿示スヘシ
第五章 監督
第七十二條 郡ノ行政ハ第一次ニ於テ府縣知事之ヲ監督シ第二次ニ於テ內務大臣之ヲ監督ス
第七十三條 此法律中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外郡ノ行政ニ關スル府縣知事又ハ府縣參事會ノ處分若ハ裁決ニ不服ナル者ハ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得
郡ノ行政ニ關スル訴願ハ其事件ノ處分若ハ裁決ヲ受ケタル日ヨリ十四日以內ニ其理由ヲ具シテ之ヲ提出スヘシ
此法律ニ指定スル場合ニ於テ府縣知事ノ處分又ハ府縣參事會ノ裁決ニ不服アリテ行政裁判所ニ出訴セントスル者ハ裁決ヲ受ケタル日ヨリ二十一日以內ニ出訴スヘシ
行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ヘキ場合ニ於テハ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第七十四條 監督官廳ハ郡行政ノ法律命令ニ背戾セサルヤ其事務錯亂澁滯セサルヤ否ヲ監視スヘシ監督官廳ハ之カ爲行政事務ニ關シテ報吿ヲ爲サシメ豫算及決算等ノ書類帳簿ヲ徵シ竝ニ實地ニ就テ事務ノ現況ヲ視察シ出納ヲ檢閱スルノ權ヲ有ス
第七十五條 郡會又ハ郡參事會ノ議決其權限ヲ越エ法律命令ニ背キ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ郡長ハ自己ノ意見ニ依リ又ハ監督官廳ノ指揮ニ依リ理由ヲ示シテ議決ノ執行ヲ停止シ之ヲ再議セシメ猶其議決ヲ更メサルトキハ直ニ府縣知事ノ裁決ヲ請フヘシ其權限ヲ越エ又ハ法律命令ニ背クニ依テ議決ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テ府縣知事ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第七十六條 郡會又ハ郡參事會ニ於テ法律命令又ハ慣行ニ依テ郡ノ負擔ニ屬スル行政上又ハ公益上必要ノ費用ヲ否決シ又ハ議決スト雖必要ノ給需ヲ缺クトキハ郡長ハ府縣知事ニ具狀シ其指揮ヲ請ヒ原案ヲ執行スルコトヲ得但府縣知事ハ原案金額ヲ不相當ト認ムルトキハ原案金額以內ニ於テ適當ノ金額ヲ定メ指揮スルコトヲ得
第七十七條 郡會招集ニ應セス又ハ成立セサルトキハ郡長ハ府縣知事ノ指揮ヲ請ヒ處分スルコトヲ得
前項ノ處分ハ次囘ノ會議ニ於テ之ヲ報吿スヘシ
第七十八條 郡會又ハ郡參事會ニ於テ其議決スヘキ議案ヲ議決セサル場合ニ於テ其事緊急ヲ要スルトキハ郡長ハ府縣知事ニ具狀シ其指揮ヲ請ヒ原案ヲ執行スルコトヲ得但其議決セサル議案歲入出豫算ニ係リ府縣知事ニ於テ原案金額ヲ不相當ト認ムルトキハ原案金額以內ニ於テ適當ノ金額ヲ定メ指揮スルコトヲ得
第七十九條 府縣知事ハ郡ノ歲入出豫算中不適當ノ支出ト認ムル費目アルトキハ之ヲ削除シ及其郡ノ資力ニ比シ不急ノ支出ト認ムル費目アルトキハ之ヲ削除若ハ減殺スルコトヲ得此場合ニ於テハ收入科目中ニ就キ之ニ相當スル收入額ヲ減殺スヘシ
第八十條 郡會ハ內務大臣之ヲ解散セシムルコトヲ得此場合ニ於テハ三箇月以內ニ議員ヲ改選スヘシ
前項解散ノ場合ニ於テハ名譽職參事會員モ亦解職スルモノトス
郡委員ハ郡會ノ解散ニ依リ解職スルノ限ニ在ラス但改選郡會ノ議決ヲ以テ之ヲ改選スルコトヲ得
郡會解散ノ後改選結了ニ至ル迄ノ間急施ヲ要スル事件アルトキハ郡長之ヲ專決處分スルコトヲ得
前項ノ處分ハ次囘ノ會議ニ於テ之ヲ報吿スヘシ
第八十一條 左ノ事件ニ關スル郡會ノ議決ハ內務大臣及大藏大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
一 新ニ郡債ヲ起シ又ハ其額ヲ增加シ若ハ償還ノ方法ヲ變更スル事
第八十二條 左ノ事件ニ關スル郡會ノ議決ハ府縣知事ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
一 郡有不動產ノ賣却讓渡竝ニ質入書入ノ事
二 第六十三條ニ依リ郡內ノ或ル部分ニ對シ特ニ夫役現品ヲ增課スル事
三 第六十六條第二項ニ依リ繼續費ヲ定メ及其年期內ニ議決ヲ變更スル事
第六章 附則
第八十三條 郡內總町村ノ共有ニ屬スル財產及營造物ハ郡內總町村ノ聯合又ハ組合ヲ以テ設立セル小學校ヲ除クノ外此法律施行ノ日ヨリ郡ノ所有ニ歸シ其權利義務トモ同時ニ郡ニ移ルモノトス
第八十四條 府縣參事會及行政裁判所ヲ開設スル迄ノ間此法律ニ依リ府縣參事會ニ屬スル職務ハ府縣知事、行政裁判所ニ屬スル職務ハ現行ノ行政裁判手續ニ從ヒ控訴院ニ於テ之ヲ行フヘシ
第八十五條 島司ヲ置ケル島嶼ニ於テハ別ニ勅令ヲ以テ其制ヲ定ム
第八十六條 此法律ニ依リ始メテ議員ヲ選擧スルニ付郡會及郡參事會ノ職務ハ郡長ニ於テ之ヲ行フヘシ
第八十七條 町村制施行ノ爲ニ定ムル直接稅ノ種類ハ此法律ノ施行ニ付テモ亦適用ス
第八十八條 此法律施行ノ後ハ町村制第百二十六條第三ニ定ムル附加稅徵收ノ許可ハ地租七分ノ一、五(十四分ノ三)ヲ超過スルトキ之ヲ要スルモノトス
第八十九條 此法律ハ町村制ヲ施行シタル各府縣ニ施行スルモノトス其施行ノ時期ハ府縣知事ノ具申ニ依リ內務大臣之ヲ定ム
第九十條 明治十一年七月第十七號布吿郡區町村編制法其他此法律ニ牴觸スル成規ハ此法律施行ノ地ニ於テ其施行ノ時期ヨリ總テ之ヲ廢止ス
第九十一條 內務大臣ハ此法律施行ノ責ニ任シ之カ爲必要ナル命令ヲ發布スヘシ
朕郡制ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年五月十七日
内閣総理大臣兼内務大臣 伯爵 山県有朋
法律第三十六号
郡制
第一章 総則
第一条 郡ノ廃置分合及郡界ノ変更ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
郡界ニ当ル市町村ノ境界ヲ変更スルトキハ郡界モ亦自ラ変更スルモノトス
第二条 郡内ノ町村ヲ変シテ市ト為シ若ハ市ヲ変シテ郡内ノ町村ト為スハ其市会町村会ノ申請ニ依リ内務大臣之ヲ定ム
第三条 第一条第二条ノ処分ニ付其財産処分ヲ要スルトキハ府県参事会之ヲ議決スヘシ但特ニ法律ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第二章 郡会
第四条 郡会ハ郡内町村ニ於テ選挙シタル議員及大地主ニ於テ選挙シタル議員ヲ以テ之ヲ組織ス
第五条 町村ニ於テ選挙スヘキ郡会議員ノ数ハ毎町村各一名トス
郡会議員ノ数二十名以上ニ及フトキハ二十名ヲ以テ制限トス此場合ニ於テ議員配当法ハ首トシテ人口ヲ標準トシ郡会ニ於テ議決シ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
郡会議員ノ数十名ニ満タサルトキハ郡会ノ議決ニ依リ府県知事ノ認可ヲ経其数ヲ増シテ十名ニ至ルコトヲ得其配当法ハ首トシテ人口ヲ標準トシ郡会ニ於テ議決シ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
本条議員配当法ハ郡内ノ町村数ニ増減アリタル場合ノ外初回ハ三年間爾後ハ十二年以上ニ至リ町村ノ人口ニ著シキ増減アルニ非サレハ改正セサルモノトス
議員配当法ヲ改正スルトキハ議員全数ヲ改選スヘシ
第六条 一町村ニ於テ一名以上ノ議員ヲ選挙スルハ其町村会之ヲ行ヒ数町村ニ於テ一名若ハ一名以上ノ議員ヲ選挙スルハ其各町村会会同シテ之ヲ行フヘシ
第七条 町村組合ニシテ組合会ヲ設ケ其町村一切ノ事務ヲ共同処分スルモノハ第四条乃至第六条ノ規定ニ関シテハ之ヲ一町村ト同視シ其組合会ニ於テ議員選挙ヲ行フヘシ
第八条 大地主ハ町村ニ於テ選挙スヘキ議員定数ノ外其定数ノ三分ノ一ヲ互選スルモノトス若端数ヲ生スルトキハ之ヲ棄却スヘシ
選挙ヲ行フコトヲ得ヘキ大地主ニシテ其員数町村ニ於テ選挙スヘキ議員定数ノ三分ノ一以下ナルトキハ其大地主ハ選挙ニ依ラスシテ郡会議員タルモノトス但定期改選ノ期限内ニ於テハ大地主ノ員数減シテ三分ノ一以下ニ至ルト雖解散ノ為改選スル場合ヲ除クノ外ハ本項ヲ適用スルノ限ニ在ラス
第九条 大地主トハ郡内ニ於テ町村税ノ賦課ヲ受クル所有地ニシテ地価総計一万円以上ヲ有スル地主ヲ云フ
第十条 郡内町村公民ニシテ町村会ノ選挙ニ参与スルコトヲ得ヘキ者及大地主中自ラ選挙ニ加ハルコトヲ得ヘキ者ハ総テ郡会ノ被選権ヲ有ス
住居ヲ移シタル為町村ノ公民権ヲ失ヒタル者其住居同郡内ニ在リ且他ノ要件ヲ失ハサルトキハ仍郡会ノ被選権ヲ有ス
左ニ掲クル者ハ選挙ニ係ルト否トヲ問ハス郡会議員タルコトヲ得ス
一 所属府東京府ハ警視庁トモ県並ニ其郡ノ官吏
二 其郡ノ有給吏員
三 神官及諸宗ノ僧侶又ハ教師
四 小学校教員
前項ノ外ノ官吏ニシテ当選ニ応シ又ハ第八条第二項ノ権利ヲ行ハントスルトキハ本属長官ノ許可ヲ受クヘシ
第十一条 大地主ニシテ選挙権ヲ有スルハ帝国臣民ニシテ公権ヲ有スル男子ニ限ル
年齢二十歳未満ノ者及治産ノ禁ヲ受ケタル者ハ選挙権ヲ有セサルモノトス
大地主ノ選挙権ハ身代限処分中又ハ租税滞納処分中又ハ公権ノ剥奪若ハ停止ヲ附加スヘキ重軽罪ノ為裁判上ノ訊問若ハ勾留中ハ之ヲ停止ス
本条ノ規定ハ選挙ニ依ラスシテ郡会議員タル者ニモ適用ス
第十二条 選挙権ヲ有スル大地主ハ代人ヲ以テ選挙ヲ行フコトヲ得
陸海軍ノ現役ニ服スル者ハ代人ヲ以テスルニ非サレハ選挙ヲ行フコトヲ得ス
代人ハ帝国臣民ニシテ公権ヲ有シ町村制ニ定メタル独立ノ男子ニ限ル但一人ニシテ数人ノ代理ヲ為スコトヲ得ス且代人ハ委任状ヲ以テ代理ノ証トスヘシ
本条ノ規定ハ第八条第二項ノ権利ヲ行フ場合ニモ適用スルモノトス但其代人ハ郡会ニ被選権ヲ有スル者ニシテ郡会議員タラサル者ニ限ル
第十三条 郡会議員ハ名誉職トス
町村ニ於テ選挙シタル議員ノ任期ハ六年トシ毎三年其半数ヲ改選ス若其員数二分シ難キトキハ初回ニ於テ多数ノ一半ヲ解任セシム初回ニ於テ解任スヘキ者ハ郡会議長郡会ニ於テ自ラ抽籤シテ之ヲ定ム
大地主ニ於テ選挙シタル議員ノ任期ハ三年トシ毎三年其全数ヲ改選ス
解任ノ議員ハ再選セラルヽコトヲ得
第十四条 議員中闕員アルトキハ遅クトモ六箇月以内ニ補闕選挙ヲ行フヘシ
補闕議員ハ其前任者ノ残任期間在職スルモノトス
第十五条 郡長ハ郡会議員改選前選挙権アル大地主ノ名簿ヲ製シ之ニ其資格ヲ記載シ其氏名ヲ告示スヘシ
関係者ニ於テ大地主名簿ノ正否ニ関シ異議アルトキハ告示後二十一日以内ニ郡長ニ申立テ其郡長ノ裁決ニ不服ナル者ハ府県参事会ニ訴願シ其府県参事会ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
大地主名簿ニ登録セラレサル者ハ選挙ニ参与シ及第八条第二項ニ依リ郡会議員タルコトヲ得ス
大地主名簿ハ次ノ定期改選前ニ行フヘキ補闕選挙ニモ亦適用スルモノトス但大地主ノ資格ヲ失ヒ又ハ選挙権ノ要件ヲ失ヒタル者ハ之ヲ削除シ其氏名ヲ告示スヘシ其処分ニ対シ異議アルトキハ本条第二項ノ例ニ依ル
定期改選ノ期限内新ニ選挙権ヲ得又ハ選挙ニ依ラスシテ郡会議員タルノ権利ヲ得タル者ハ解散ノ為改選スル場合ヲ除ク外期限内ニ於テ其名簿ニ登録セサルモノトス
第十六条 郡会議員ノ選挙ハ郡長ノ告示ニ依リ之ヲ行フヘシ其告示ハ遅クトモ選挙ノ日ヨリ七日前ニ之ヲ発スヘシ
第十七条 選挙ノ順序ハ先ツ町村之ヲ行ヒ次ニ大地主之ヲ行フヘシ
町村ニ於テ行フ選挙ハ町村制第四十六条ノ規定ニ従フヘシ但数町村会会同シテ行フ選挙ハ郡長又ハ郡長ノ指定スル町村長ヲ選挙会長トシテ之ヲ行フヘシ
大地主ニ於テ行フ選挙ハ郡長ヲ選挙会長トシテ之ヲ行フヘシ
第十八条 大地主ニ於テ選挙ヲ行フトキハ左ノ規定ニ依ルヘシ
一 郡長ハ遅クトモ選挙ノ日ヨリ七日前選挙人ニ招集状ヲ発シ選挙ノ場所日時ヲ告知スヘシ
二 選挙掛ハ選挙会長ニ於テ臨時ニ選挙人中ヨリ選任シタル立会人二名若ハ四名及選挙会長ヲ以テ之ヲ組織ス
選挙会長ハ選挙会ヲ開閉シ其会場ノ取締ニ任ス
三 選挙開会中ハ選挙人ノ外何人タリトモ選挙会場ニ入ルコトヲ得ス
四 投票ハ選挙人自ラ選挙会長ノ面前ニ於テ之ヲ投票函ニ投入ス
投票ハ匿名トス
五 左ノ投票ハ之ヲ無効トス
一 記載セル人名ノ読ミ難キモノ
二 被選人ノ何人タルヲ確認シ難キモノ
三 被選権ナキ人名ヲ記載スルモノ
四 被選人氏名ノ外他ノ文字ヲ記入スルモノ但爵位職業身分住所又ハ敬称ハ此限ニ在ラス
本項一ヨリ三ニ至ルノ場合ニ於テ票中他ニ列記ノ被選人ニ付テハ仍其効アリトス
投票ノ受理並ニ効力ニ関スル事項ハ選挙掛仮ニ之ヲ議決ス可否同数ナルトキハ選挙会長之ヲ決ス
六 有効投票ノ多数ヲ得タル者ヲ以テ当選トス投票ノ数相同キモノハ年長者ヲ取リ年齢相同キトキハ選挙会長自ラ抽籤シテ其当選ヲ定ム
七 選挙掛ハ選挙録ヲ製シテ選挙ノ顛末ヲ記録シ選挙ヲ終リタル後之ヲ朗読シテ署名スヘシ
八 投票ハ選挙ノ効力確定スル迄之ヲ保存スヘシ
第十九条 選挙ヲ終リ当選人定マリタルトキハ町村会ニ於テ行フ選挙ニ在テハ町村長数町村会会同シテ行フ選挙及大地主ニ於テ行フ選挙ニ在テハ選挙会長直ニ当選人ニ通知シ町村長ハ之ヲ郡長ニ報告スヘシ
当選人当選ノ通知ヲ受ケタルトキハ五日以内ニ其当選ヲ承諾スルヤ否ヲ郡長ニ届出ヘシ
一人ニシテ数箇所ノ選挙ニ当リタルトキハ同期限内ニ何レノ選挙ニ応スヘキコト及選挙ニ依ラスシテ郡会議員タルヘキ大地主ニシテ町村ノ選挙ニ当選シタルトキハ其選挙ニ応スルコト又ハ応セサルコトヲ同期限内ニ郡長ニ届出ヘシ
前二項ノ届出ヲ其期限内ニ為サヽルトキハ選挙ヲ辞スル者ト視做スヘシ
町村ノ選挙ニ応スル大地主ハ第八条第二項ノ権利ヲ有スル者ト雖二重ニ其権ヲ行フコトヲ得サルモノトス
第二十条 議員ノ当選ヲ辞シ又ハ承諾ノ届出ヲ為サヽル者アルトキハ郡長ハ七日以内ニ更ニ選挙ヲ行ヒ又ハ町村長ニ命シテ更ニ選挙ヲ行ハシムヘシ
第二十一条 当選人確定シタルトキハ郡長ハ直ニ当選証書ヲ付与シ及管内ニ告示スヘシ
第二十二条 選挙人選挙ノ効力ニ関シテ訴願セントスルトキハ選挙ノ日ヨリ十四日以内ニ之ヲ郡長ニ申立ツルコトヲ得
第二十三条 当選人其当選ノ際資格ノ要件ヲ有セサリシコト発覚スルトキハ其当選ハ無効トス
当選人当選後資格ノ要件ヲ失フトキハ議員ノ職ヲ失フモノトス
第二十四条 郡会ニ於テ其議員中議員ノ資格ヲ有セサル者アルコトヲ発見スルトキハ其議決ヲ以テ之ヲ郡長ニ通知スヘシ
第二十五条 郡会議員被選権ノ有無及選挙ノ効力ハ郡参事会之ヲ裁決ス
郡参事会ノ裁決ニ不服ナル者ハ府県参事会ニ訴願シ其府県参事会ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十六条 郡会ノ議決スヘキ事件左ノ如シ
一 郡ノ歳入出予算ヲ定ムル事
二 決算報告ヲ認定スル事
三 郡有不動産ノ売買交換譲渡譲受並ニ質入書入ノ事
四 歳入出予算ヲ以テ定ムルモノヲ除ク外新ニ義務ノ負担ヲ為シ及権利ノ棄却ヲ為ス事
五 郡有財産ノ管理及営造物ノ維持方法ヲ定ムル事
其他法律命令ニ依リ郡会ノ権限ニ属スル事項ヲ議決ス
第二十七条 郡会ハ其権限ニ属スル事件ヲ郡参事会ニ委任スルコトヲ得
第二十八条 郡会ハ官庁ノ諮問アルトキハ意見ヲ陳述スヘシ
郡会ハ其郡ノ全部又ハ一部ノ公益ニ関スル事件ニ付郡長又ハ府県知事ニ建議スルコトヲ得
第二十九条 郡会議員ハ選挙人ノ指示若ハ委嘱ヲ受クヘカラサルモノトス
第三十条 郡会ハ郡長ヲ以テ議長トス
郡会ハ改選後ノ初会ニ於テ議長代理者一名ヲ互選スヘシ
議長及議長代理者共ニ故障アルトキハ臨時議長代理ヲ互選スヘシ
第三十一条 郡長若ハ特ニ郡長ノ委任ヲ受ケタル郡吏員ハ郡会ノ議事ニ参与スルコトヲ得但議決ニ加ハルコトヲ得ス
前項ノ列席者ニ於テ発言ヲ求ムルトキハ議長ハ何時ニテモ之ヲ許スヘシ
第三十二条 郡会ハ毎年一回通常会ヲ開クヘシ其他必要アルトキハ其事件ニ限リ臨時会ヲ開クコトヲ得
郡会ハ郡長之ヲ招集ス若議員三分ノ一以上ニ於テ臨時ノ招集ヲ請求スルトキハ之ヲ招集スヘシ招集ハ開会ノ日ヨリ十四日前迄ニ告示スヘシ但急施ヲ要スル場合ハ此限ニ在ラス
郡会ハ郡長之ヲ開閉ス
第三十三条 郡会ハ議員半数以上出席スルニ非サレハ会議ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ス但同一ノ議事ニ付開会再回ニ至ルモ議員猶其半数ニ満タサルトキハ此限ニ在ラス
第三十四条 郡会ノ議決ハ過半数ニ依ル可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第三十五条 議員ハ自己及其父母兄弟若ハ妻子ノ一身上ニ関スル事件ニ付テハ会議ノ承諾ヲ経ルニ非サレハ郡会ノ議事ニ参与シ及議決ニ加ハルコトヲ得ス
第三十六条 郡会ニ於テ選挙ヲ行フトキハ第十八条四ヨリ六ニ至ル規定ニ依ルヘシ
第三十七条 郡会ノ会議ハ公開ス但左ノ場合ハ此限ニ在ラス
一 郡長ヨリ傍聴禁止ノ要求ヲ受ケタルトキ
二 議長又ハ議員三名以上ノ発議ニ由リ傍聴禁止ヲ可決シタルトキ
議長又ハ議員ノ発議ハ討論ヲ用井スシテ其可否ヲ決スヘシ
第三十八条 議長ハ議事ノ順序ヲ定メ会議及選挙ノ事ヲ総理シ其日ノ会議ヲ開閉シ並ニ延会シ議場ノ秩序ヲ保持ス
第三十九条 議員ハ会議中無礼ノ語ヲ用井及他人ノ身上ニ渉リ言論スルコトヲ得ス
第四十条 会議中此法律若ハ議事規則ニ違ヒ其他議場ノ秩序ヲ紊ル議員アルトキハ議長ハ之ヲ警戒シ又ハ制止シ又ハ発言ヲ取消サシム命ニ従ハサルトキハ議長ハ当日ノ会議ヲ終ルマテ発言ヲ禁止シ又ハ議場ノ外ニ退去セシムヘシ若強抗ニ渉ル者アルトキハ警察官ノ処分ヲ求ムルコトヲ得
議場騒擾ニシテ整理シ難キトキハ議長ハ当日ノ会議ヲ中止シ又ハ之ヲ閉ツルコトヲ得
第四十一条 会議ノ傍聴人公然可否ヲ表シ又ハ喧騒ニ渉リ其他議事ノ妨害ヲ為ス者アルトキハ議長ハ之ヲ制止シ若命ニ従ハサルトキハ之ヲ退場セシメ必要ナル場合ニ於テハ警察官ノ処分ヲ求ムルコトヲ得
傍聴席騒擾ナルトキハ議長ハ総テノ傍聴人ヲ退場セシムルコトヲ得
第四十二条 郡長若ハ特ニ其委任ヲ受ケタル吏員及議員ハ議場ノ秩序ヲ紊リ又ハ議場ノ妨害ヲ為ス者アルトキハ議長ノ注意ヲ喚起スルコトヲ得
第四十三条 郡会ニ書記ヲ置キ議長ニ隷属シテ庶務ヲ掌理セシム
書記ハ議長之ヲ選任ス但郡吏員ヲシテ之ヲ兼シムルコトヲ得
第四十四条 郡会ハ書記ヲシテ議事録ヲ製シ議決及選挙ノ顛末並ニ出席議員ノ氏名ヲ記録セシムヘシ議事録ハ議長及議員二名以上之ニ署名スヘシ其議員ハ会議ノ前郡会ニ於テ予メ之ヲ定メ議事録中ニ其氏名ヲ記載シ置クヘシ
第四十五条 郡会ハ議事規則及傍聴人取締規則ヲ設ケ府県知事ノ認可ヲ受ケテ之ヲ施行スヘシ
第三章 郡参事会、吏員及委員
第四十六条 郡ニ郡参事会ヲ置キ郡長及名誉職参事会員四名ヲ以テ之ヲ組織ス
名誉職参事会員中三名ハ郡会ニ於テ其議員中ヨリ互選シ一名ハ府県知事ニ於テ郡会議員若ハ郡内町村ノ公民中ヨリ選任スヘシ
第四十七条 郡参事会ハ郡長ヲ以テ議長トス議長故障アルトキハ会員ニ於テ臨時議長代理ヲ互選スヘシ
第四十八条 郡会ハ毎通常会ニ於テ郡会ノ互選シタル名誉職参事会員ノ補充員三名ヲ互選シ其名誉職参事会員ノ闕員アルトキハ郡長ニ於テ補充員中投票多数ノ順次ニ依リ之ヲ補充スヘシ但其既ニ補充シタル者ハ前任者ノ任期中在職スルモノトス
第四十九条 名誉職参事会員ノ任期ハ議員ノ任期ニ従フ但任期満限ノ後ト雖後任者就職ノ日迄在職スルモノトス
郡会ノ互選シタル名誉職参事会員ハ補充員ヲ以テ其闕員ヲ補充シ仍闕員ヲ生シタル場合ニ於テハ二箇月以内ニ臨時其選挙ヲ行フヘシ
第五十条 郡参事会ノ職務権限左ノ如シ
一 郡会ノ権限ニ属スル事件ニシテ其委任ヲ受ケタルモノヲ議決スル事
二 郡会ノ権限ニ属スル事件ニシテ臨時急施ヲ要シ郡長ニ於テ郡会ヲ招集スルノ暇ナシト認ルトキ郡会ニ代テ議決ヲ為ス事
三 郡会ノ定メタル方法ノ範囲内ニ於テ郡有財産ノ管理又ハ営造物ノ維持ニ関シ必要ナル事件ニ付議決ヲ為ス事
四 郡ノ費用ヲ以テ支弁スル工事ノ次第順序其他必要ナル事件ニ付議決ヲ為ス事
五 郡長其他官庁ノ諮問ニ対シ意見ヲ述フル事
六 郡長ヨリ発スル郡会議案ニ付郡長ニ意見ヲ述ヘ及会議ニ報告スル事
七 臨時必要アルトキ郡ノ出納ヲ検査スル事
其他法律命令ニ依リ郡参事会ノ権限ニ属スル事務ヲ処理ス
第五十一条 郡参事会ハ郡長之ヲ招集ス
会員半数以上ノ請求アルトキハ郡長ハ郡参事会ヲ招集スヘシ
第五十二条 郡参事会ノ会議ハ傍聴ヲ許サス
第五十三条 郡参事会ハ議長又ハ其代理者及会員半数以上出席スルニ非サレハ会議ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ス
郡参事会ノ議決ハ過半数ニ依ル可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
議決ノ事件ハ之ヲ議事録ニ登記シ議長及名誉職参事会員二名以上之ニ署名スヘシ
第五十四条 郡参事会員ハ自己及其父母兄弟若ハ妻子ノ一身上ニ関スル事件ニ付郡参事会ノ議事ニ参与シ及議決ニ加ハルコトヲ得ス
前項ノ規定ノ為出席ノ参事会員減少シテ前条第一項ノ数ヲ得サルトキハ郡長ハ補充員ヲ以テ臨時之ニ充テ仍其数ヲ得サルトキハ郡会議員ニシテ該事件ニ関係ナキ者ノ内ヨリ臨時ニ指名シ名誉職参事会員ノ不足ヲ補充シテ第四十六条ノ定数ニ満タシムヘシ
第五十五条 町村制ノ規定ニ依リ郡参事会ノ権限ニ属スル事件ニシテ二郡以上ノ町村ニ交渉スルモノアルトキハ其郡長ノ具状ニ依リ府県知事ニ於テ其事件ヲ管理スヘキ郡参事会ヲ指定スヘシ二府県以上ノ町村ニ交捗スルモノアルトキハ其府県知事ノ具状ニ依リ内務大臣ニ於テ之ヲ指定スヘシ
第五十六条 郡長ハ郡会及郡参事会ノ議決ヲ施行シ及郡有ノ財産及営造物ヲ管理シ並ニ郡ノ費用ヲ以テ支弁スル工事ヲ執行ス
郡ニ於テ他人ニ対シ義務ヲ負担スヘキ証書及委任状ニハ郡長ノ外名誉職参事会員二名以上之ニ署名捺印スヘシ
前項ノ文書中郡会又ハ参事会ノ権限ニ属スル事件ニシテ其議決ヲ経タルモノハ其旨ヲ記入スヘシ
第五十七条 郡会ニ於テ名誉職参事会員ヲ選挙セス又ハ参事会成立セス又ハ招集ニ応セサルトキハ参事会成立シ又ハ招集ニ応スル迄郡長ハ郡参事会ノ権限ニ属スル事件ヲ専決処分スルコトヲ得
非常事変ニ際シ郡参事会ヲ招集スルノ暇ナク又ハ名誉職参事会員ノ出席半数以上ニ至ラサルトキハ郡長ハ郡参事会ノ権限ニ属スル事件ヲ専決処分スルコトヲ得
本条ノ処分ハ次回ノ郡会会議ニ於テ之ヲ報告スヘシ
第五十八条 郡ハ府県税ヲ以テ支弁スル郡吏員ノ外郡会ノ議決ニ依リ郡ノ費用ヲ以テ郡有財産又ハ営造物ノ管理若ハ土木工事ニ必要ナル有給郡吏員ヲ置クコトヲ得但其郡吏員ハ他ノ郡吏員ニ準シ府県知事ニ於テ之ヲ任免監督ス
前項郡吏員ノ給料手当退隠料等ハ郡会ノ議決スル所ニ依ル其身元保証金ヲ要スルトキ其金額ヲ定ムルモ亦同シ
第五十九条 郡長ハ郡会ノ議決ヲ経テ臨時又ハ常設ノ委員ヲ置キ郡事務ノ一部ヲ調査セシメ又ハ郡有財産及営造物ノ一部ヲ管理セシムルコトヲ得
委員ハ郡会ニ於テ之ヲ選挙ス其選挙ノ方法及任期ハ郡会ノ議決スル所ニ依ル
委員ハ名誉職トス
第四章 郡ノ会計
第六十条 郡有財産及営造物管理ノ費用郡会郡参事会及委員ノ費用第五十八条ノ郡吏員ノ給料退隠料其他諸給与及法律勅令ニ依リ郡ノ負担ト定ムル事件ノ費用ハ其郡ニ於テ之ヲ支弁スヘシ
第六十一条 郡会議員名誉職参事会員及委員ニハ旅費及日当ヲ給スルコトヲ得但日当ハ一日五十銭ヲ超ユルコトヲ得ス
第六十二条 郡ノ支出ニ充ツル費用ハ郡有財産ヨリ生スル収入其他雑収入ヲ以テ充ツルモノヽ外ハ郡内各町村ニ分賦ス各町村分賦ノ割合ハ各町村前年度ノ直接国税府県税ノ徴収額ニ拠ル
各町村分賦ノ額ハ各町村ニ於テ之ヲ町村ノ予算ニ編入シ町村税トシテ徴収シ其総額ヲ郡金庫ニ納ムヘシ
第六十三条 郡内ノ或ル部分ニ対シ特ニ利益アル土木事業ヲ起ストキハ郡会ノ議決ニ依リ該部分ノ町村ニ対シ通常分賦額ノ外其利益ノ厚薄ニ応シ特ニ夫役現品ヲ増課スルコトヲ得
第六十四条 郡ハ天災事変ノ為已ムヲ得サル支出又ハ其郡ノ永久ノ利益ト為ルヘキ支出ヲ要スルニ方リ通常ノ歳入ヲ増加スルトキハ郡内町村ノ負担ニ堪ヘサルノ場合ニ限リ勅令ノ定ムル所ニ依リ郡会ノ議決ヲ以テ郡債ヲ起スコトヲ得
郡債ヲ起スノ議決ヲ為ストキハ併セテ起債ノ方法利息ノ定率及償還ノ方法ヲ定ムヘシ
郡債償還ノ初期ハ三年以内ト為シ年々ノ償還歩合ヲ定メ起債ノ時ヨリ三十年以内ニ還了スヘシ
歳入出予算内ノ支出ヲ為スカ為必要ナル一時ノ借入金ニシテ其年度内ノ収入ヲ以テ償還スヘキモノハ本条ノ例ニ依ルノ限ニ在ラス但郡参事会ノ議決ヲ経ルコトヲ要ス
第六十五条 郡長ハ毎年其翌年度ニ係ル歳入出予算ヲ調製スヘシ但郡ノ会計年度ハ政府ノ会計年度ニ同シ
予算ハ郡会ノ議決ニ付スルノ前郡参事会ノ審査ニ付スヘシ若郡長ト郡参事会ト意見ヲ異ニスルトキハ郡長ハ参事会ノ意見ヲ予算ニ添ヘ郡会ニ提出スヘシ追加又ハ臨時ノ予算ニ付テモ亦同シ
内務大臣ハ省令ヲ以テ予算調製ノ式ヲ定メ並ニ費目流用ニ関スル規定ヲ設クルコトヲ得
第六十六条 予算ハ毎年郡会ノ議決ヲ取リ之ヲ府県知事ニ報告シ並ニ郡慣行ノ公告式ニ依リ其要領ヲ告示スヘシ追加又ハ臨時ノ予算ヲ議決シタル場合ニ於テモ亦同シ
郡ノ費用ヲ以テ支弁スル事業ニシテ数年ヲ期シテ施行スヘキモノ又ハ数年ヲ期シテ其費用ヲ支出スヘキモノハ郡会ノ議決ヲ以テ其年期間各年度ノ支出額ヲ定メ継続費ト為スコトヲ得
予算ヲ郡会ニ提出スルトキハ郡長ハ併セテ其郡有財産表ヲ提出スヘシ
第六十七条 歳入出予算中ニ予備費ヲ設クヘシ予備費ハ郡長ニ於テ郡参事会ノ議決ヲ経テ已ムヲ得サル予算外ノ支出又ハ予算超過ノ支出ニ充ツルコトヲ得但郡会ノ否決シタル費途ニ充ツルコトヲ得ス
第六十八条 郡ノ収支命令ハ郡長之ヲ発スヘシ
第六十九条 会計事務ヲ管理スル郡役所会計吏ハ前条ノ命令アルニ非サレハ支払ヲ為スコトヲ得ス及其命令アルモ支出ノ予算ナキカ又ハ予備費支出及費目流用ノ規定ニ依ラサルトキハ支払ヲ為スコトヲ得ス
第七十条 郡ノ出納ハ毎月例日ヲ定メテ検査シ及毎年少クトモ一回臨時検査ヲ為スヘシ検査ハ郡長又ハ其代理者之ヲ為シ臨時検査ニハ郡参事会員一名以上ノ立会ヲ要ス
第七十一条 決算ハ会計事務ヲ管理スル郡役所会計吏ニ於テ会計年度後三箇月以内ニ之ヲ郡長ニ提出シ郡長ハ郡参事会ヲシテ之ヲ検査セシメ次回ノ通常郡会ノ認定ニ付スヘシ
決算報告書並ニ之ニ関スル郡会ノ議決ハ郡長ヨリ之ヲ府県知事ニ報告シ並ニ決算ハ郡慣行ノ公告式ニ依リ其要領ヲ告示スヘシ
第五章 監督
第七十二条 郡ノ行政ハ第一次ニ於テ府県知事之ヲ監督シ第二次ニ於テ内務大臣之ヲ監督ス
第七十三条 此法律中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外郡ノ行政ニ関スル府県知事又ハ府県参事会ノ処分若ハ裁決ニ不服ナル者ハ内務大臣ニ訴願スルコトヲ得
郡ノ行政ニ関スル訴願ハ其事件ノ処分若ハ裁決ヲ受ケタル日ヨリ十四日以内ニ其理由ヲ具シテ之ヲ提出スヘシ
此法律ニ指定スル場合ニ於テ府県知事ノ処分又ハ府県参事会ノ裁決ニ不服アリテ行政裁判所ニ出訴セントスル者ハ裁決ヲ受ケタル日ヨリ二十一日以内ニ出訴スヘシ
行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ヘキ場合ニ於テハ内務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第七十四条 監督官庁ハ郡行政ノ法律命令ニ背戻セサルヤ其事務錯乱渋滞セサルヤ否ヲ監視スヘシ監督官庁ハ之カ為行政事務ニ関シテ報告ヲ為サシメ予算及決算等ノ書類帳簿ヲ徴シ並ニ実地ニ就テ事務ノ現況ヲ視察シ出納ヲ検閲スルノ権ヲ有ス
第七十五条 郡会又ハ郡参事会ノ議決其権限ヲ越エ法律命令ニ背キ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ郡長ハ自己ノ意見ニ依リ又ハ監督官庁ノ指揮ニ依リ理由ヲ示シテ議決ノ執行ヲ停止シ之ヲ再議セシメ猶其議決ヲ更メサルトキハ直ニ府県知事ノ裁決ヲ請フヘシ其権限ヲ越エ又ハ法律命令ニ背クニ依テ議決ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テ府県知事ノ裁決ニ不服ナル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第七十六条 郡会又ハ郡参事会ニ於テ法律命令又ハ慣行ニ依テ郡ノ負担ニ属スル行政上又ハ公益上必要ノ費用ヲ否決シ又ハ議決スト雖必要ノ給需ヲ欠クトキハ郡長ハ府県知事ニ具状シ其指揮ヲ請ヒ原案ヲ執行スルコトヲ得但府県知事ハ原案金額ヲ不相当ト認ムルトキハ原案金額以内ニ於テ適当ノ金額ヲ定メ指揮スルコトヲ得
第七十七条 郡会招集ニ応セス又ハ成立セサルトキハ郡長ハ府県知事ノ指揮ヲ請ヒ処分スルコトヲ得
前項ノ処分ハ次回ノ会議ニ於テ之ヲ報告スヘシ
第七十八条 郡会又ハ郡参事会ニ於テ其議決スヘキ議案ヲ議決セサル場合ニ於テ其事緊急ヲ要スルトキハ郡長ハ府県知事ニ具状シ其指揮ヲ請ヒ原案ヲ執行スルコトヲ得但其議決セサル議案歳入出予算ニ係リ府県知事ニ於テ原案金額ヲ不相当ト認ムルトキハ原案金額以内ニ於テ適当ノ金額ヲ定メ指揮スルコトヲ得
第七十九条 府県知事ハ郡ノ歳入出予算中不適当ノ支出ト認ムル費目アルトキハ之ヲ削除シ及其郡ノ資力ニ比シ不急ノ支出ト認ムル費目アルトキハ之ヲ削除若ハ減殺スルコトヲ得此場合ニ於テハ収入科目中ニ就キ之ニ相当スル収入額ヲ減殺スヘシ
第八十条 郡会ハ内務大臣之ヲ解散セシムルコトヲ得此場合ニ於テハ三箇月以内ニ議員ヲ改選スヘシ
前項解散ノ場合ニ於テハ名誉職参事会員モ亦解職スルモノトス
郡委員ハ郡会ノ解散ニ依リ解職スルノ限ニ在ラス但改選郡会ノ議決ヲ以テ之ヲ改選スルコトヲ得
郡会解散ノ後改選結了ニ至ル迄ノ間急施ヲ要スル事件アルトキハ郡長之ヲ専決処分スルコトヲ得
前項ノ処分ハ次回ノ会議ニ於テ之ヲ報告スヘシ
第八十一条 左ノ事件ニ関スル郡会ノ議決ハ内務大臣及大蔵大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
一 新ニ郡債ヲ起シ又ハ其額ヲ増加シ若ハ償還ノ方法ヲ変更スル事
第八十二条 左ノ事件ニ関スル郡会ノ議決ハ府県知事ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
一 郡有不動産ノ売却譲渡並ニ質入書入ノ事
二 第六十三条ニ依リ郡内ノ或ル部分ニ対シ特ニ夫役現品ヲ増課スル事
三 第六十六条第二項ニ依リ継続費ヲ定メ及其年期内ニ議決ヲ変更スル事
第六章 附則
第八十三条 郡内総町村ノ共有ニ属スル財産及営造物ハ郡内総町村ノ連合又ハ組合ヲ以テ設立セル小学校ヲ除クノ外此法律施行ノ日ヨリ郡ノ所有ニ帰シ其権利義務トモ同時ニ郡ニ移ルモノトス
第八十四条 府県参事会及行政裁判所ヲ開設スル迄ノ間此法律ニ依リ府県参事会ニ属スル職務ハ府県知事、行政裁判所ニ属スル職務ハ現行ノ行政裁判手続ニ従ヒ控訴院ニ於テ之ヲ行フヘシ
第八十五条 島司ヲ置ケル島嶼ニ於テハ別ニ勅令ヲ以テ其制ヲ定ム
第八十六条 此法律ニ依リ始メテ議員ヲ選挙スルニ付郡会及郡参事会ノ職務ハ郡長ニ於テ之ヲ行フヘシ
第八十七条 町村制施行ノ為ニ定ムル直接税ノ種類ハ此法律ノ施行ニ付テモ亦適用ス
第八十八条 此法律施行ノ後ハ町村制第百二十六条第三ニ定ムル附加税徴収ノ許可ハ地租七分ノ一、五(十四分ノ三)ヲ超過スルトキ之ヲ要スルモノトス
第八十九条 此法律ハ町村制ヲ施行シタル各府県ニ施行スルモノトス其施行ノ時期ハ府県知事ノ具申ニ依リ内務大臣之ヲ定ム
第九十条 明治十一年七月第十七号布告郡区町村編制法其他此法律ニ牴触スル成規ハ此法律施行ノ地ニ於テ其施行ノ時期ヨリ総テ之ヲ廃止ス
第九十一条 内務大臣ハ此法律施行ノ責ニ任シ之カ為必要ナル命令ヲ発布スヘシ