民法(証拠編)
法令番号: 法律第二十八號
公布年月日: 明治23年4月21日
法令の形式: 法律
朕民法中財產編財產取得編債權擔保編證據編ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
內閣總理大臣兼內務大臣 伯爵 山縣有朋
海軍大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
文部大臣 子爵 榎本武揚
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
農商務大臣 岩村通俊
法律第二十八號
民法證據編目錄
第一部
證據
總則
第一章
判事ノ考覈
第一節
當事者申述ノ聽取、係爭物竝ニ證書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釋
第二節
臨檢
第三節
鑑定
第二章
直接證據
第一節
私書
第一款
私署證書
第二款
署名、捺印セサル證書
第二節
口頭自白
第一款
裁判上ノ自白
第二款
裁判外ノ自白
第三節
公正證書
第四節
反對證書
第五節
追認證書
第六節
證書ノ謄本
第七節
證人ノ陳述
第八節
世評
第三章
間接證據
第一節
法律上ノ推定
第一款
公益ニ關スル完全ナル法律上ノ推定
第二款
私益ニ關スル完全ナル法律上ノ推定
第三款
輕易ナル法律上ノ推定
第二節
事實ノ推定
第二部
時效
第一章
時效ノ性質及ヒ適用
第二章
時效ノ抛棄
第三章
時效ノ中斷
第四章
時效ノ停止
第五章
不動產ノ取得時效
第六章
動產ノ取得時效
第七章
免責時效
第八章
特別ノ時效
附則
民法
證據編
第一部 證據
總則
第一條 有的又ハ無的ノ事實ヨリ利益ヲ得ンカ爲メ裁判上ニテ之ヲ主張スル者ハ其事實ヲ證スル責アリ
相手方ハ亦自己ニ對シテ證セラレタル事實ノ反對ヲ證シ或ハ其事實ノ效力ヲ滅却セシムル事實トシテ主張スルモノヲ證スル責アリ
第二條 自己ノ主張ノ全部又ハ一分ヲ法律ニ從ヒテ證セス又ハ判事カ證據ヲ査定スル權ノ自由ナル場合ニ於テ判事ニ此主張ノ心證ヲ起サシメサリシ原吿若クハ被吿ハ其證セサリシ㸃ニ付キ請求又ハ抗辯ニ於テ敗訴ス
第三條 當事者ノ一方ハ或ル事實ノ證據カ將來己レノ爲メニ利益アルトキハ其利益ト證據喪失ノ危險トヲ疏明シテ訴訟ノ起ラサル前ト雖モ其事實ノ證據ヲ擧クルコトヲ裁判上主トシテ請求スルコトヲ得
第四條 下ニ定メタル規則ハ物權、人權及ヒ人ノ身分ニ關スル證據ニ共通ノモノトス但特別ノ規定ヲ妨ケス
第五條 證據ハ左ノ諸件ヨリ成ル
第一 判事ノ考覈
第二 直接證據
第三 間接證據
第一章 判事ノ考覈
第六條 判事ハ左ノ諸件ニ依リ主張セラレタル事實ノ確實ヲ得タルトキハ自己ノ考覈ニ依リテ爭ヲ決スルコトヲ得
第一 當事者又ハ其代人ノ申述ノ聽取、係爭物竝ニ證書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釋
第二 臨檢
第三 鑑定
第一節 當事者申述ノ聽取、係爭物竝ニ證書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釋
第七條 當事者ノ自白アル場合ノ外當事者又ハ其代人ノ申述及ヒ說明ヨリ請求若クハ抗辯ノ證セラレサルコト又ハ尙ホ早キコトノ顯ハルルニ於テハ判事ハ其請求若クハ抗辯ヲ棄却シ又ハ他日本案ノ判決ヲ爲ス可キ旨ヲ言渡ス
右判事ノ心證カ係爭物及ヒ證書外ノ書類ノ調査ヨリ生スルトキモ亦同シ
第八條 受ケタル損害若クハ失ヒタル利益其他原因ニ爭ナク供給ス可キ價額ニ付キ爲ス可キ評價ノミニ爭ノ存スル場合ニ於テ判事ハ當事者又ハ其代人ノ陳述ヲ聽キ此評價ニ必要ナル元素ヲ得タルトキハ自ラ其評價ヲ爲スコトヲ得
第九條 事實ニ爭ナク法律ノ㸃ノミニ爭ノ存スルトキハ判事ハ當事者又ハ其代人ノ陳述ヲ聽キ法律ノ規定ヲ其精神ト明文トニ依リテ解釋シ且條理ト公道トノ普通原則ニ依リテ之ヲ補完シ自己ノ心證ヲ取ル
第二節 臨檢
第十條 境界、地役、占有、財產ノ損害及ヒ不動產工事ノ執行ニ關スル爭其他此ニ類似ノ爭ニ付テハ勿論裁判所ニ移送スルコトヲ得サル動產ノ形狀ヲ證スルニ關スルトキト雖モ判事ハ主張セラレタル事實ヲ直接ニ知ルコトヲ以テ訴訟事件ヲ明カナラシムルニ有益ナリト思考スルトキハ或ハ職權ヲ以テ或ハ當事者ノ申立ニ因リテ係爭物又ハ爭ヲ決定ス可キ元素ノ存在スル場所ニ臨檢スルコトヲ得
第三節 鑑定
第十一條 法律ニ於テ鑑定ニ依ル可キ旨ヲ定メタル場合ノ外判事ハ爭ノ判決ニ付キ特別ノ知識ヲ要スルトキハ何時ニテモ或ハ職權ヲ以テ或ハ當事者ノ申立ニ因リテ自己ノ考覈ヲ助ケシムル爲メ鑑定人ノ報吿ヲ爲ス可キ旨ヲ命スルコトヲ得
判事ハ鑑定人總員一致ノ說ト雖モ之ニ從フ義務ナシ
第二章 直接證據
第十二條 左ノ諸件ニ於テハ人ノ證言ヨリ生スル直接ノ證據アリトス
第一 私書
第二 口頭自白
第三 公正證書
第四 證人ノ陳述
第一節 私書
第十三條 私書ノ證據力ハ其私書ノ對抗ヲ受クル當事者ノ之ニ署名シ又ハ捺印シタルト否トニ從ヒテ輕重アリ
第一款 私署證書
第十四條 私署證書ハ之ヲ以テ對抗セラルル者ニ不利ナル事實ノ陳述又ハ追認ヲ記載シ且其署名及ヒ印章又ハ其一アルトキハ署名者、捺印者ノ裁判外ノ自白即チ證書ヲ成スモノトス
右同一ノ條件ヲ有スル書狀ハ私署證書ト同一ノ證據力ヲ有ス
第十五條 自己ノ利益ニ於テ私署證書ヲ有スル者カ或ル者ヲ其署名者ナリト主張シ又ハ思考スル場合ニ於テハ爭ノ生スル前ト雖モ其者ニ對シ手跡、署名及ヒ印章ノ追認ヲ請求スルコトヲ得
署名者ナリト主張セラレタル者ハ其手跡、署名及ヒ印章ノ眞正ナルコト又ハ其一ノ眞正ナルコトヲ明確ニ追認シ又ハ否認スルコトヲ得ルノミ
裁判所ヨリ本條ノ規定ノ口諭ヲ受ケタル者否認ヲ爲ササルトキハ裁判所ハ其否認セサルモノニ付テハ之ヲ追認シタリト認定スルコトヲ得
第十六條 印章ニ關シテハ其印章ヲ提示セラレタル者ハ其印章ノ自己ノ印章ニ相違ナキコトヲ追認スルモ押捺ハ自身又ハ自己ノ許諾ニテ之ヲ爲シタルヲ否認スルコトヲ得但總テノ方法ヲ以テ其證據ヲ供スルコトヲ要ス
此追認證書ヲ與フル前ニ右ノ異議ヲ留メサリシトキハ其後ニ至リ右ノ抗辯ヲ爲スコトヲ得ス
又其署名又ハ印章ヲ追認シタルトキハ其署名又ハ印章ノ獲ラレシ手段タル强暴、錯誤又ハ詐欺ヲ最早主張スルコトヲ得ス但强暴カ既ニ止ミ又ハ錯誤若クハ詐欺ヲ既ニ發見シ且此事ニ付キ何等ノ異議ヲモ留メスシテ追認ヲ爲シタルトキニ限ル
異議ヲ留メタルトキハ追認證書ニ之ヲ記ス可シ
第十七條 署名者ナリト主張セラレタル者ノ相續人、承繼人又ハ代人ニ對シテ追認ノ請求アリタルトキハ被吿ハ或ハ自己ノ代表スル者ノ署名若クハ印章ヲ知ラサル旨或ハ其使用ノ不確實ナル旨ヲ陳述スルニ止マルコトヲ得
右ノ相續人、承繼人又ハ代人ハ印章ノ不正當ナル押捺又ハ承諾ノ瑕疵ヨリ生スル無效ノ方法ヲ申立ツル權利ヲ失ハス但此事ニ關シ異議ヲ留ムルコトヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ
第十八條 被吿ハ異議ヲ留メスシテ署名又ハ印章ヲ追認シタリト雖モ後ニ捺印白紙ノ濫用又ハ署名若クハ印章ノ僞造アリタルコトヲ證スル權利ヲ失ハス
然レトモ右ノ追認アリタルコトヲ知リ其證書ニ依リ善意ニテ約定シタル第三者ニ證書無效ノ方法トシテ捺印白紙ノ濫用ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
第十九條 一人又ハ數人ノ證人カ私署證書ニ加署シ又ハ加印シタルトキハ其證人ヲ手跡驗眞ニ召喚ス
第二十條 手跡、印章又ハ署名ノ驗眞ノ請求ニ關スル方式竝ニ期間及ヒ被吿又ハ其代人ノ出席セサルニ因リ此等ノ者ニ於テ印章又ハ署名ヲ追認シタリト爲スコトヲ得ヘキ場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ定ム
署名者ナリト主張セラレタル者ノ明確ニ否認シ又ハ其相續人若クハ承繼人ノ追認ヲ爲ササル場合ニ於ケル手跡驗眞手續ノ規則ニ付テモ亦同シ
第二十一條 雙務契約ヲ證スル私署證書ハ反對ノ利益ヲ有スル當事者間ニ正本二通ヲ作リ且之ニ署名又ハ捺印スルコトヲ要ス
又各正本ニハ二通ヲ作リタル旨ヲ附記スルコトヲ要ス
然レトモ當事者ハ一通ノ證書ヲ作ルコトヲ得但其證書中指定シタル第三者ニ之ヲ寄託スルコトヲ合意シタルトキニ限ル
右ノ場合ニ於テ第三者ハ各當事者ノ求ニ應シテ其證書ヲ示ササル可カラス但當事者雙方ノ承諾ナクシテ之ヲ交付スルコトヲ得ス
第二十二條 證書ノ調製及ヒ其數ノ附記又ハ證書ノ寄託ハ當事者カ合意ノ組成ヲ繫ラシメタル條件ト看做ス
然レトモ前條ニ從ヒテ調書ノ錄製アラサリシ契約ノ全部又ハ一分ヲ履行シタル當事者ハ最早條件ノ不履行ヲ申立ツルコトヲ得ス
第二十三條 片務契約ヲ證スル私署證書ニ金錢其他ノ定量物ヲ供與シ辨濟シ又ハ返還スル諾約ヲ包有スル場合ニ於テ債務者カ證書ノ本文ヲ自書セサルトキハ債務者ハ其署名若クハ捺印ノ外尙ホ金額若クハ數量ノ文字ニ捺印スルコトヲ要ス但數人ノ債務者アルトキハ其中ノ一人此捺印ヲ爲スヲ以テ足レリトス
第二十四條 二通ノ正本及ヒ前條ノ方式ハ商事ニ付テハ之ヲ要セス
第二十五條 前數條ノ方式ニ從ヒ調製シタル私署證書ニシテ其對抗ヲ受クル者カ追認シ又ハ裁判上ニテ其者カ追認シタリト爲シタルモノハ其主文及ヒ之ト直接ノ關係ヲ有シ且之ヲ補完スル文言ニ付テハ其者ニ對シテ完全ナル證據トス
此他ノ文言ハ書面ニ因ル證據端緖ノミニ之ヲ用ユルコトヲ得
第三十八條ニ記載シタル自白不可分ナル原則ハ證書ノ各部分ニ之ヲ適用ス
第二十六條 證書カ第十八條ニ規定シタル如ク捺印白紙ノ濫用又ハ僞造ノ攻擊ヲ受ケタルトキハ其證據力ハ刑事裁判所ニ被吿ノ送致アルニ因リテ停止セラレ其裁判所ノ判決ノ確定ト爲ルマテ民事ノ判決ヲ中止ス
嫌疑アル人ノ死亡其他ノ原因ニ由リテ刑事審問ノ開カレサリシトキハ民事裁判所ハ刑事不受理ノ理由ニ付キ裁判アルマテ本案ノ判決ヲ中止ス
又刑事審問中ナルトキハ民事裁判所ハ當事者ノ要求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ其判決ヲ中止スルコトヲ得
第二款 署名、捺印セサル證書
第二十七條 商人ノ帳簿ハ總テノ人ノ爲メ其商人ニ對シテ證據ヲ爲ス然レトモ其帳簿ヲ援用スル者ハ此ヨリ生スル自白ヲ分ツコトヲ得ス
此他右帳簿ノ證據力ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
第二十八條 非商人ノ帳簿及ヒ覺書ハ其者ノ爲メ證據ヲ爲サス
右ノ帳簿及ヒ覺書ハ其者ニ對シ下ノ區別ニ從ヒテ證據ヲ爲ス
第二十九條 債權者ノ書面ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ爲メ其債權者ニ對シテ證據ヲ爲ス
第一 債務者ノ辨濟其他ノ免責ヲ明カニ揭クルトキ但債權者ニ於テ債務者ニ交付スル爲メ準備セル受取證書タルコトヲ證スルトキハ此限ニ在ラス
第二 債務者ノ證書又ハ從來ノ受取證書ニ免責ヲ書込ミ且其書類カ債務者ノ手ニ存スルトキ
第三十條 債務者ノ書面ニ其義務ヲ揭ケ且之ヲ以テ債權者ノ證書ノ用ニ供スルモノタルコトヲ記載スルトキハ其書面ハ債務者ニ對シテ證據ヲ爲ス
第三十一條 前二條ノ場合ニ於テ抹殺シタル書面ハ之ヲ斟酌セス但其抹殺カ詐害又ハ錯誤ニ出テタルコトノ證アルトキハ此限ニ在ラス
第三十二條 非商人ハ裁判上ニテ帳簿及ヒ覺書ヲ差出タス義務ナシ然レトモ任意ニテ之ヲ差出シタルトキハ爭ニ關スルモノヲ抄錄シタル後ニ非サレハ之ヲ取戾スコトヲ得ス但抄錄ヲ爲スニハ其者ノ出席ノ上又ハ之ヲ合式ニ召喚シタルトキニ限ル
第二節 口頭自白
第三十三條 口頭自白ハ一方ノ當事者ガ己レニ不利ナル權利上ノ結果ヲ生スルコト有ル可キ事實ニ付キ爲スモノナリ其自白ハ裁判上ノモノ有リ裁判外ノモノ有リ
第一款 裁判上ノ自白
第三十四條 裁判上ノ自白ハ自發ノモノ有リ又ハ民事訴訟法ニ規定シタル本人訊問ニ因リテ爲スモノ有リ
第三十五條 自白ハ其自白ニ繫ル權利ヲ處分スル能力ヲ有スル者ニ非サレハ有効ニ之ヲ爲スコトヲ得ス但法律上自白ノ證據ヲ禁シタル事實ニ非サルトキニ限ル
代理人ノ爲シタル自白ハ其管理行爲ニ關スル外特別ノ委任ニ依リタルトキニ非サレハ有効ナラス但裁判上ノ代人ノ自白ト其陳述取消ノ方式及ヒ條件トニ關スル民事訴訟法ノ規定ヲ妨ケス
第三十六條 前條ニ從ヒテ爲シタル自白ヲ相手方ノ受諾シ又ハ之ヲ裁判所ニ於テ認メタルトキハ其自白ハ之ヲ爲シタル者ニ對シテ完全ノ證據ヲ爲ス
然レトモ其自白ハ事實ノ錯誤ノ爲メニ之ヲ言消スコトヲ得
第三十七條 自白ハ法律ノ錯誤ノ爲メ之ヲ言消スコトヲ得ス
然レトモ相手方ノ權利ヲ直接又ハ間接ニ追認シタル者ハ其權利ノ原因及ヒ存續ヲ爭フ權能ヲ失ハス
第三十八條 複雜ナル自白ヲ援用セント欲スル者ハ陳述セラレタル數箇ノ事實ニ關シ其自白ヲ分ツコトヲ得ス但此等ノ事實カ相牽連シタルトキニ限ル
然レトモ主タル事實ヲ變更スル事實ノ主張ハ通常ノ證據方法ヲ以テ駁擊スルコトヲ得
第三十九條 裁判上ノ自白ノ効力ハ裁判所ノ管轄違カ公ノ秩序ニ關セサルモノタルトキハ其管轄違ニ因リテ無効ト爲ラス
反對ノ場合ニ於テハ自白ハ裁判外ノモノトシテノミ有効ナリ
第四十條 一方ノ當事者カ訴訟事件ノ或ル事實ノ存在ニ付キ陳述ス可キノ求ヲ受ケテ其事實ヲ爭ハサルニ因リ之ヲ追認シタリト看做ス場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第四十一條 一方ノ當事者カ廢疾其他ノ原因ニ由リテ語ルコトヲ得スト雖モ書面又ハ容態ヲ以テ裁判所ニ答フルコトヲ得ルニ於テハ裁判上ノ自白ノ規則ヲ之ニ適用ス
第二款 裁判外ノ自白
第四十二條 裁判外ノ自白ハ相手方又ハ其代人ノ面前ニ於テ口頭ニテ又ハ此等ノ者ニ送付シタル信書若クハ書類ニテ之ヲ爲シタルニ非サレハ其効ヲ有セス
此求ノ場合ノ外口頭ノ自白ヲ受ケ及ヒ證スル資格ヲ有スル官廳ニ於テ更ニ其自白ヲ爲ササリシトキハ人證ヲ許ス場合ニ非サレハ證人ヲ以テ之ヲ證スルコトヲ得ス
第四十三條 裁判上ノ自白ノ有効ナル爲メ要スル能力、其證據力、其言消及ヒ其不可分ニ關スル前數條ノ規定ハ裁判外ノ自白ニ之ヲ適用ス
然レトモ判事ハ確實ニシテ明白ナル自白ニ非サレハ之ヲ採用スルコトヲ得ス
第四十四條 上ノ規定ハ義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ法律上ニテ默示ノ自白ト看做ス可キ場合ヲ妨ケス
第四十五條 裁判外ノ自白ハ有効ニ之ヲ言消シタリト雖モ相手方ノ利益ニ於テ時効ノ中斷ヲ生ス然レトモ自白ノ日以後ニ經過ス可キ時効ハ言消ノ日ヨリ再ヒ進行ス
第三節 公正證書
第四十六條 公正證書ハ公吏カ當事者ヨリ證スルコトヲ託セラレタル事實ニ付テノ證言ナリ
又官廳ノ代人トシテ事ヲ行フ官吏ノ調製シタル證書ハ公正ナリ
證書ハ公吏カ場所、證書ノ性質及ヒ其證書ニ關係スル人ニ付キ管轄ヲ有シ且法律ニ定メタル方式ニ從ヒテ之ヲ作リタルニ非サレハ公正ナラス
公證人其他當事者ノ囑託ニ應ス可キ公吏ノ管轄及ヒ其證書ノ方式ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
第四十七條 前條ニ從ヒテ作リタル證書ハ僞造ノ申立アルマテハ公吏自身ニテ又ハ其面前ニテ爲シタル行爲及ヒ申述ニ付キ其吏員ノ陳述ノ證據ヲ爲ス
此證書ハ之ニ記載シタル日附ニ付キ右同一ノ證據ヲ爲ス
公吏ノ名ニテ作リ且其署名及ヒ印章ヲ具ヘタル證書ハ僞造ノ申立アルマテハ其吏員ヨリ出テタルモノト推定ス
僞造申立手續ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第四十八條 公正證書ノ證據力ハ僞造ノ申立ニ因リテ之ヲ停止ス其執行力ニ付テモ亦同シ
主文ト直接又ハ間接ノ關係アル文言ニ關シテハ第二十五條ノ規定ヲ適用ス
第四十九條 證書ニ公正證書トシテ有効ナル爲メ上ニ定メタル條件ノ一ヲ缺クコト有ルモ出捐ヲ爲ス總テノ當事者カ現實ニ之ニ署名シ又ハ捺印シタルトキハ其證書ハ第二十一條及ヒ第二十三條ニ定メタル條件ヲ履行セスト雖モ私署證書トシテ有効ナリ
第四節 反對證書
第五十條 當事者ハ祕密ニ存シ置ク可キ反對證書ヲ以テ公正證書又ハ私署證書ノ効力ノ全部又ハ一分ヲ變更シ又ハ滅却スルコトヲ得然レトモ其反對證書ハ公正證書タルトキト雖モ署名者及ヒ其相續人ニ對スルニ非サレハ効力ヲ有セス
然レトモ當事者ノ債權者及ヒ特定承繼人カ當事者ト約定スルニ當リ反對證書アルヲ知リタルコトヲ證スルニ於テハ之ヲ以テ其債權者及ヒ承繼人ニ對抗スルコトヲ得
第五十一條 不動產權利ニ關スル反對證書カ或ハ登記ニ因リ或ハ其附記ニ因リテ公ニ爲サレタルトキハ其反對證書ハ通常ノ効力ヲ取得ス總テ遡及ノ効力ヲ有セス
第五十二條 孰レノ場合ニ於テモ一方ノ當事者ノ總テノ承繼人ハ他ノ當事者及ヒ其相續人ニ反對證書ヲ以テ對抗スルコトヲ得
第五節 追認證書
第五十三條 追認證書ハ當事者ノ一方カ己レニ不利ナル公正又ハ私署ノ原證書ノ成立ヲ追認スル證書ナリ
右ノ證書ハ下ノ二箇ノ場合ヲ除キ原吿ヲシテ原證書ヲ差出タス義務ヲ免カレシメス又其證書中ニ原證書ヨリ更ニ多ク又ハ更ニ少キ事項ヲ記シ又ハ之ト異ナリタル事項ヲ記スルモノハ其効ナシ但追認證書中ニ之ヲ原證書ニ代用ス可キ旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第五十四條 左ノ二箇ノ場合ニ於テハ追認證書ハ原證書滅失ノ證アルトキ之ニ代ハルモノトス
第一 追認證書ニ原證書ノ事項ヲ再揭シタル旨ヲ記載スルトキ
第二 追認證書ノ日附ヨリ二十个年ヲ經過シ且之ヲ援用スル者カ其證書ノミヲ既ニ權利ノ行使ニ用井タルトキ
第五十五條 前條ノ場合ノ外原吿カ原證書ヲ差出タスコトヲ得サルトキハ追認證書ハ其利益ニ於テハ書面ニ因ル證據端緖トシテ有效ナリ
總テノ場合ニ於テ追認證書ハ時效ヲ中斷ス
第六節 證書ノ謄本
第五十六條 裁判所又ハ當事者ヨリ正本ノ差出ヲ求ムルニ於テハ證書ノ謄本ハ之ヲ援用スル者ヲシテ其正本ヲ差出タス義務ヲ免カレシメス但其者カ正本ノ滅失ヲ證シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ公正ノ正本又ハ裁判上追認アリタル私署ノ正本カ原本トシテ公吏ノ許ニ藏メラレタル場合ニ於テ裁判所ニ其正本ヲ差出タスコトハ裁判所ノ命令ニ依リ民事訴訟法及ヒ公吏ノ規則ニ從ヒテ之ヲ爲ス
第五十七條 正本ノ滅失シタルトキ其謄本ハ左ノ四箇ノ場合ニ於テハ正本ト同一ノ證據力ヲ有ス
第一 公吏ノ作リシ公正證書ノ正式謄本タルトキ
第二 公正證書ノ謄本又ハ裁判上追認アリ且原本トシテ公吏ノ許ニ藏メタル私署證書ノ謄本ヲ當事者ノ要求ニ因リ其相手方ノ面前ニテ其公吏ノ作リタルトキ
第三 當事者出席ノ上又ハ合式ニ之ヲ召喚シタル上ニテ公吏カ裁判所ノ命ニ依リテ其謄本ヲ作リタルトキ
第四 右三箇ノ場合ノ外適法ニ正本ヲ預リタル公吏ノ作リシ謄本カ異議ヲ受ケスシテ其日附ヨリ二十个年ヲ經過シ且當事者間ニ於テ主張セラレタル權利ニ關シ裁判上又ハ裁判外ニテ既ニ援用セラレタルトキ
謄本ニハ左ノ諸件ヲ附記スルコトヲ要ス
右第一ノ場合ニ於テハ其謄本ハ正式謄本タルコト
第二ノ場合ニ於テハ當事者ノ面前ニテ作リタルコト
第三ノ場合ニ於テハ裁判所ノ命ニ依リテ作リタルコト
總テノ場合ニ於テ其謄本ヲ正本ト校合シタル旨又ハ其謄本ノ正本ニ符合スル旨ヲ之ニ附記スルコトヲ要ス
第五十八條 前條ニ記載シタル四箇ノ場合ノ外ハ公吏ノ作リタル證書ノ謄本ハ書面ニ因ル證據端緖ノ用ヲ爲スノミ
第五十九條 公吏ノ作リタル謄本ノ復寫ハ人證ヲ許ス可キ場合ニ限リ單純ナル參考書ノ用ヲ爲スノミ
然レトモ公正證書ノ謄本ヲ登記ノ公簿ニ謄寫シタルトキハ其謄寫ハ書面ニ因ル證據端緖ナリ
裁判上追認アリタル私署證書ノ正本ノ右ニ同シキ謄寫ハ亦書面ニ因ル證據端緖ノ效力ヲ有ス
謄寫カ其日附ヨリ二十个年ヲ經過シ且異議ヲ受クルコト無ク既ニ行使セラレタルトキハ其謄寫ハ第五十七條第四號ニ從ヒテ完全ノ證據トス
第七節 證人ノ陳述
第六十條 物權又ハ人權ヲ創設シ、移轉シ、變更シ又ハ消滅セシムル性質アル總テノ所爲ニ付テハ其所爲ヨリ各當事者又ハ其一方ノ爲メニ生スル利益カ當時五十圓ノ價額ヲ超過スルトキハ公正證書又ハ私署證書ヲ作ルコトヲ要ス
人證ハ右ノ價額ヲ超過スルニ於テハ法律上明示若クハ默示ニテ例外ト爲シタルトキニ非サレハ裁判所之ヲ受理セス
第六十一條 雙務契約ニ於ケル證書ノ必要ハ權利ノ最高ナル價額ニ依ル
第六十二條 請求又ハ抗辯ノ目的カ金錢ニ非サル場合ニ於テ相手方カ爭ノ價額五拾圓ヲ超過スル旨ヲ陳述シテ人證ニ異議ヲ申立ツルトキハ裁判所ハ訴訟ノ元素ニ從ヒ又ハ鑑定ニ從ヒテ豫メ假ノ評價ヲ爲ス
第六十三條 書面ヲ作リタル場合ニ於テハ書面ニ反スル事項若クハ書面外ノ事項ヲ證スル爲メ又ハ書面ノ意義ヲ變更ス可キ樣其調製ノ際若クハ其前後ニ申述シタルモノヲ證スル爲メニハ縱令五拾圓ヨリ少ナキ利益ニ關スルモ人證ヲ許サス
此禁止ハ辨濟、免除、更改其他ノ義務消滅ノ原因ヲ證スル爲メ又ハ書面ヲ以テ證シタル物權ノ消滅又ハ變更ヲ證スル爲メ上ニ定メタル制限內ニ於ケル人證ヲ妨ケス
總テノ場合ニ於テ主張セラレタル事實ノ日附及ヒ場所又ハ履行ノ爲メ口頭ニテ定メタル時期及ヒ場所ノ脫漏ハ人證ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得但此事ヨリ生スル利益ヲ主タル利益ニ加ヘテ價額五拾圓ヲ超過セサルトキニ限ル
第六十四條 爭ノ利益カ五拾圓ヲ超過スル場合ニ於テハ原吿又ハ被吿ハ縱令其以下ノ數額ニ請求又ハ抗辯ヲ減スルモ人證ヲ許サス
五拾圓ヲ超過セサル請求又ハ抗辯カ此數額ヲ超過シタル價額ノ殘餘ナルトキ亦同シ
第六十五條 前條ニ規定シタル二箇ノ場合ニ於テ證人訊問ニ因リ五拾圓ヲ超過シタル利益ナルコトヲ發見シタルトキハ人證ヲ許シタル裁判所ハ之ヲ取消スコトヲ要ス
此他證人訊問ニ因リ法律上之ヲ許ササル事情ヲ發見シタル場合ニ於テモ亦同シ
第六十六條 上ノ規定ハ塡補利息、過怠約款又ハ契約ニ從ヒテ返還ヲ受ク可キ果實ノ計算ヲ加フルカ爲メニ五拾圓ノ額ヲ超過スル場合ニ於テ原吿又ハ被吿カ證人ヲ以テ其主タル債權ヲ證スル爲メ此從タル債權ヲ抛棄シ得ル妨ト爲ラス
右ノ超過カ遲延利息又ハ要約セサル損害賠償又ハ請求後ニ返還ヲ受ク可キ果實ノミヨリ生スルトキハ全部ニ付キ人證ヲ許ス
第六十七條 書面ニ依リ全ク證セラレスシテ各別ニ人證ノ許サル可キ數箇ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘキ者ハ其原因ノ如何ニ拘ハラス一箇ノ訴狀ニ其數箇ノ請求ヲ併合スルコトヲ要ス但其請求カ總テ滿期ノモノニシテ同一裁判所ノ管轄ニ屬スルモノタルトキニ限ル
右ノ手續ヲ爲ササルニ於テハ最早其脫漏シタル請求ニ付キ人證ヲ許サス
右ノ規定ハ同一ノ請求ニ對シ數箇ノ抗辯ヲ以テ對抗セント主張スル者ニ之ヲ適用ス
第六十八條 前條ニ記載シタル如ク併合シタル數箇ノ請求又ハ抗辯カ五拾圓ノ價額ヲ超過スルトキハ人證ヲ許サス但此請求又ハ抗辯カ相異ナル原因ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
第六十九條 左ノ場合ニ於テハ爭ノ價額ノ如何ニ拘ハラス人證ヲ許ス
第一 書面ニ因ル證據端緖ノ存スルトキ
證據端緖トハ之ヲ以テ對抗セラルル人又ハ其人ヲ代表シタル者ヨリ出テタル總テノ書面ニシテ主張シタル事柄ニ付キ事實タルノ感ヲ起サシムルモノヲ謂フ
主張シタル事柄ノ書面ニ因ル證據端緖アルトキハ書面外ノ事項又ハ書面ニ反スル事項ニ付キ人證ヲ許ス
第二 原吿又ハ被吿カ不可抗力ニ因リ又ハ自己ノ過失若クハ懈怠ニ歸ス可カラサル意外ノ事ニ因リテ其證書ヲ失ヒタルコトヲ證スルトキ
第三 主張シタル事柄ノ有リタル當時利害關係人カ書證ヲ得ル能ハサリシトキ
第七十條 前條第三號ハ殊ニ左ノ場合ニ之ヲ適用ス
第一 財產取得編第二百二十條及ヒ第二百二十一條第一項ニ規定シタル急迫寄託
第二 事變、不期ノ危險又ハ急迫ナル必要ノ場合ニ於テ負擔シタル義務
第三 合意外ノ原因ヲ有スル義務但此場合ニ於テ不當ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ヨリ生シタリト主張スル義務カ書面ヲ以テ證ス可キ性質ノモノタル權利行爲ヲ推量セシムルトキハ豫メ其證據ヲ供スルコトヲ要ス
第七十一條 法律カ人證ヲ許ス場合ノ外人證ヲ拒ムニ利益ヲ有スル當事者カ人證ニ依リテ證據ヲ擧クルコトヲ承諾スルトキハ裁判所ハ人證ヲ拒絕シ又ハ之ヲ許可スルコトヲ得
第七十二條 判事ハ證人ノ證據ニ因リテ拘束セラレス其心證ニ從ヒテ判決ス
第八節 世評
第七十三條 法律上特ニ世評ニ因ル證據ヲ許ス場合ノ外或ル事實カ顯著ナルトキ法律カ其規定ヲ此事實ニ適用ス可キコトヲ定メタル各箇ノ場合ニ於テハ此證ヲ用ユルコトヲ得
世評ニ因ル證據ニ於テハ證人ハ事實ニ付キ直接ニ自ラ知ラサルモ傳聞ニ因リ又ハ公然顯著ナルニ因リテ知リタル所ノモノヲ陳述スルコトヲ得
第三章 間接證據
第七十四條 間接證據ナル推定ハ法律カ直接證據ナキ場合ニ於テ知レタル事實ヨリ知レサル事實ニ自ラ推及シ又ハ裁判官ノ明識ト思慮トニ委ヌル結果ナリ
右第一ノ推定ヲ法律上ノ推定ト謂ヒ第二ノ推定ヲ事實ノ推定ト謂フ
第一節 法律上ノ推定
第七十五條 法律上ノ推定ニハ其證據力ト其原因トニ從ヒテ左ノ區別アリ
第一 完全ニシテ公益ニ關スルモノ
第二 完全ニシテ私益ニ關スルモノ
第三 輕易ナルモノ
第一款 公益ニ關スル完全ナル法律上ノ推定
第七十六條 公益ニ關スル完全ナル法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ從フニ非サレハ反對ノ證據ヲ許サス此推定ハ之ヲ左ニ揭ク
第一 既判力
第二 取得又ハ免責ノ時效
第七十七條 既判力ハ判決主文ニ包含スルモノニ存ス
第七十八條 既判力ハ眞正ト推定セラル
然レトモ確定爲トラサル判決ハ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ期間ニ於テ之ヲ攻擊スルコトヲ得
第七十九條 判決ノ確定ト爲リタルトキ同一ノ爭ヲ再ヒ訴フルニ於テハ其爭ハ下ノ區別ニ從ヒ既判力ニ依リテ之ヲ斥ク
第八十條 判決カ全部又ハ一分ニ付キ公ノ秩序ニ關スルトキハ既判力ニ因ル不受理ノ理由ハ裁判所ノ職權ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ要ス
此他ノ場合ニ於テハ利害關係人ヨリ其不受理ノ理由ヲ以テ對抗スルコトヲ要ス
第八十一條 既判力ニ因ル不受理ノ理由ヲ以テ新請求又ハ新答辯ニ對抗スルコトヲ得ルニハ其請求又ハ答辯カ舊請求又ハ舊答辯ニ比較シテ左ノ諸件アルコトヲ要ス
第一 權利又ハ事實ニ關シ爭ノ目的ノ同一ナルコト
第二 主張ノ原因ノ同一ナルコト
第三 原吿、被吿ノ權利上ノ資格ノ同一ナルコト
第八十二條 新請求又ハ新答辯ノ目的カ數量ニ付テノミ舊請求又ハ舊答辯ノ目的ト異ナリタルトキハ新請求又ハ新答辯ノ目的ハ舊請求又ハ舊答辯ニ包含シタルモノト看做ス但舊請求又ハ舊答辯ヲ裁判セシ裁判所カ新請求又ハ新答辯ノ數量ヲ正當トスルニ於テハ之ヲ許與スル權力ヲ有セシトキニ限ル
第八十三條 舊爭カ合意又ハ遺言ノ銷除、廢罷又ハ解除ヲ目的トシタルトキハ其爭ノ際存在シタルモ當事者ノ知リテ申立テサリシ他ノ同性質ノ原因ハ當事者之ヲ抛棄シタリト推定セラレ更ニ之ヲ新爭ノ原因トシテ用ユルコトヲ得ス
方式ノ瑕疵アル證書ヲ其瑕疵ノ爲メ無效トスル舊爭中ニ申立テサリシ他ノ方式ノ瑕疵ニ付テモ亦同シ
本條ノ適用ニ於テ銷除ノ訴ノ爲メニハ承諾ノ各種ノ瑕疵及ヒ各種ノ無能力ヲ同性質ノ原因ト看做シ又解除ノ訴ノ爲メニハ合意不履行ノ各種ノ場合ヲ同性質ノ原因ト看做ス
第八十四條 當事者カ或ハ自身ニテ同一ノ資格ヲ以テ既ニ舊訴訟ニ出テタルトキ或ハ舊訴訟ニ於テ其前主若クハ代理人ニ因リテ代表セラレタルトキ或ハ利害關係人ノ結合カ暗ニ相互代理タルトキハ當事者ノ權利上ノ資格ハ同一ナリトス
第八十五條 刑事裁判所カ犯罪ノ所爲ノ爲メニ要求セシ民事上ノ賠償ニ付キ判決シタル場合ノ外尙ホ重罪、輕罪又ハ違警罪ノ判決ハ犯罪ニ附著スル民事上ノ利益ニ付キ既判力ヲ有ス但犯罪所爲ノ眞實、其犯罪ノ性質及ヒ被吿人ノ罪責ニ付テノ裁判ニ關スルモノニ限ル
第二款 私益ニ關スル完全ナル法律上ノ推定
第八十六條 法律上ノ推定ハ左ノ場合ニ於テハ私益ニ關スル完全ノモノタリ
第一 法律カ人ノ身分ニ關スル或ル資格ヲ付與シ又ハ拒絕スルトキ
第二 法律カ或ル所爲ヲ其規定ニ背キタルモノト推定シテ取消ストキ
第三 法律カ制規ノ公示ナキニ因リ第三者ニ知レサルモノト推定シテ或ル權利ノ行使ヲ拒絕スルトキ
此法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ從フニ非サレハ反對ノ證據ヲ許サス
然レトモ和解ヲ許ス場合ニ於テハ此推定ハ口頭自白ヲ以テ何時ニテモ之ヲ覆ヘスコトヲ得
第三款 輕易ナル法律上ノ推定
第八十七條 上ノ法律上ノ推定ニ非サルモノハ輕易ナル法律上ノ推定ナリ此推定ニ付テハ法律カ反對ノ證據ヲ明許セサルトキト雖モ總テ之ヲ許ス
右反對ノ證據ハ前二章ニ規定シタル條件ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ擧クルコトヲ得ス
又輕易ナル法律上ノ推定ハ次條ノ場合ニ於テハ事實ノ推定ヲ以テ之ヲ駁擊スルコトヲ得
第二節 事實ノ推定
第八十八條 法律カ裁判所ニ其裁判ノ元素ヲ訴訟ノ事情ニ付キ採取スルコトヲ許ス特別ナル場合ノ外尙ホ裁判所ハ人證ヲ許ス可キ場合ニ於テハ何等ノ直接ノ證據ヲモ擧ケサルトキト雖モ事情ヨリ生スル心證ニ從ヒテ爭ヲ決スルコトヲ得
第二部 時效
第一章 時效ノ性質及ヒ適用
第八十九條 時效ハ時ノ效力ト法律ニ定メタル其他ノ條件トヲ以テスル取得又ハ免責ノ法律上ノ推定ナリ但動產ノ瞬間時效ニ關スル第百四十四條以下ノ規定ヲ妨ケス
第九十條 正當ナル取得又ハ免責ノ推定ハ完全ニシテ公ノ秩序ニ關スルモノトス此推定ハ第九十六條及ヒ第百六十一條ニ規定シタル如ク法律ノ定メタル場合及ヒ方法ニ從フニ非サレハ反對ノ證據ヲ許サス
第九十一條 取得時效ノ效力ハ占有ノ有益ニ始マリタル日ニ遡ル
免責時效ノ效力ハ債權者カ其權利ヲ第百二十五條以下ニ記載シタル區別ニ從ヒテ行フコトヲ得ヘカリシ日ニ遡ル
第九十二條 或ル訴權ノ行使ノ爲メ法律ニ定メタル期間ハ其訴權ノ性質ニ因リテ取得時效又ハ免責時效ノ一般ノ規則ニ從フ但法律カ明示又ハ默示ニテ例外ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第九十三條 時效ハ總テノ人ヨリ之ヲ援用スルコトヲ得
又時效ハ總テノ人ニ對シテ進行ス但法律ニ依リ時效停止ノ利益ヲ受クル人ニ對シテハ此限ニ在ラス
第九十四條 總テ融通物ハ時效ニ罹ルコトヲ得但法律上之ニ異ナル規定ヲ設ケタルモノハ此限ニ在ラス
不融通物及ヒ讓渡スコトヲ得サル物ハ時效ニ罹ルコトヲ得ス
公有ノ財產ハ動產ト雖モ亦同シ
第九十五條 自己ノ財產ニ付キ又ハ他人ニ對シテ行フコトヲ得ル法律上ノ權能ハ幾許ノ時期間之ヲ行ハサルモ爲メニ喪失セス但法律、合意又ハ遺言ニ於テ之ニ異ナル定ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第九十六條 判事ハ職權ヲ以テ時效ヨリ生スル請求又ハ抗辯ノ方法ヲ補足スルコトヲ得ス時效ハ其條件ノ成就シタルカ爲メ利益ヲ受クル者ヨリ之ヲ援用スルコトヲ要ス
時效ヲ援用スル當時併セテ正當ノ取得又ハ免責ナキコトヲ追認スル者ハ時效ヲ抛棄シタリト看做ス
第九十七條 時效ヲ援用スルニ利益ヲ有スル當事者ノ總テノ承繼人ハ或ハ原吿ト爲リ或ハ被吿ト爲リ其當事者ノ權ニ基キテ時效ヲ援用スルコトヲ得
債權者ハ財產編第三百三十九條ニ從ヒテ右ト同一ノ權利ヲ有ス
第九十八條 時效ハ訴訟中何時ニテモ之ヲ援用スルコトヲ得又控訴ニ於テモ始メテ之ヲ援用スルコトヲ得然レトモ上吿ニ於テハ始メテ之ヲ援用スルコトヲ得ス
第九十九條 年又ハ月ニ依リテ成就ス可キ時效ハ曆ニ從ヒテ之ヲ算ス
日ニ依リテ成就ス可キ時效ハ午前零時ヨリ午後十二時マテヲ一日ト爲シテ之ヲ算ス
時效ノ進行ノ始マリタル日又ハ其中斷若クハ停止ノ後再ヒ進行ノ始マリタル日ハ之ヲ算セス
最後ノ日ハ全ク經過スルコトヲ要ス
第二章 時效ノ抛棄
第百條 時效ハ豫メ之ヲ抛棄スルコトヲ得ス但第百二十條第二項ニ記スル如ク占有者カ將來ニ向ヒテ其占有ノ容假ヲ認ムル權利ニ妨ナシ
成就シタル時效ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得又其進行中ト雖モ既ニ經過シタル時期ノ利益ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得
此場合ニ於テハ第百十八條以下ニ記載セル相手方ノ權利ヲ追認シタル場合ニ於ケルト同シク時效ハ中斷ス
第百一條 抛棄ハ默示タルコトヲ得ルト雖モ明カニ事情ヨリ顯ハルルコトヲ要ス
第百二條 成就シタル時效ヲ有效ニ抛棄スルニハ取得シタリト推定セラルル權利ヲ無償ニテ讓渡シ又ハ消滅シタリト推定セラルル義務ヲ無償ニテ負擔スル能力アルコトヲ要ス
第百三條 債權者ハ其權利ヲ詐害シテ債務者ノ爲シタル時效ノ抛棄ニ對シテハ財產編第三百四十條以下ニ定メタル條件及ヒ方法ニ從ヒ自己ノ名ヲ以テ之ヲ攻擊スルコトヲ得
第三章 時效ノ中斷
第百四條 經過シタル時期ノ利益カ下ニ記シタル原因ノ一ニ由リテ消滅スルトキハ時效ハ中斷ス
中斷シタル時效ハ中斷ノ原因ノ止ミシ時ヨリ更ニ進行ス
第百五條 時效ノ中斷ハ自然ノモノ有リ法定ノモノ有リ
自然ノ中斷ハ取得時效ニ關シテノミ生ス
法定ノ中斷ハ取得及ヒ免責ノ時效ニ共通ナリ
第百六條 動產不動產又ハ包括動產ノ占有者カ眞ノ所有者又ハ第三者ノ所爲ニ因リテ一个年以上其占有ヲ奪ハレタルトキハ自然ノ中斷アリ
占有ヲ取戾シタルトキハ時效ハ更ニ進行ス
若シ不可抗力ニ因リテ占有ヲ奪ハレタルトキハ自然ノ中斷ナシ
第百七條 自然ノ中斷ハ各利害關係人ノ爲メニ其效ヲ生ス
第百八條 占有者カ或ル時間任意ニテ其占有ヲ止メシトキハ其占有不繼續ノ效力ハ第百三十九條ニ於テ之ヲ規定ス
第百九條 法定ノ中斷ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 裁判上ノ請求
第二 勸解上ノ召喚又ハ任意出席
第三 執行文提示又ハ催吿
第四 差押
第五 任意ノ追認
右ノ手續又ハ追認ノ行爲カ時效ノ爲メ害ヲ受クル者ノ權利ニ明カニ關係スルコトヲ要ス
第百十條 法定ノ中斷ハ中斷ノ所爲ヲ行ヒタル者及ヒ其承繼人ノ爲メニ非サレハ其效ヲ生セス
第百十一條 本訴ト附帶訴ト反訴トヲ問ハス裁判上ノ請求ハ時效ヲ中斷ス但其請求カ方式ニ於テ無效タルトキ又ハ管轄違ノ裁判所ニ之ヲ爲シタルトキモ亦同シ
然レトモ右但書ノ場合ニ於テ中斷ハ初ノ請求ヲ棄却セシ判決アリタル時ヨリ二个月內ニ更ニ合式ノ訴ヲ提起セサルニ於テハ之ヲ不成立ト看做ス
第百十二條 中斷ハ左ノ場合ニ於テモ亦之ヲ不成立ト看做ス
第一 請求カ其基本ニ於テ棄却セラレタルトキ
第二 原吿カ取下ヲ爲シタルトキ
第三 訴訟手續カ民事訴訟法ニ定メタル時間休止シテ無效ト爲リタルトキ
第百十三條 裁判上ノ請求ヨリ生スル中斷ハ訴訟ノ提起ヨリ其判決ノ確定ト爲ルマテ繼續ス
第百十四條 勸解上ノ召喚又ハ任意出席ニ因ル時效ノ中斷ハ主タル請求ハ勿論其反對ノ請求ヨリモ生ス
召喚ノ無效ハ方式ノ瑕疵ニ因ルモ管轄違ニ因ルモ中斷ヲ妨ケス但初ノ召喚ノ無效ト爲リタルヨリ一个月內ニ更ニ合式ノ召喚ヲ爲スコトヲ要ス
合式ノ召喚ノ上勸解不調ノ場合及ヒ被吿ノ闕席ノ場合ニ於テ中斷ハ一个月內ニ裁判所ノ請求ヲ爲ササルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
第百十五條 執行文提示ヨリ生スル中斷ハ一个年內ニ差押ヲ爲ササルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
右ノ中斷ハ方式ノ瑕疵ニ因リテ其提示ノ無效ナルトキト雖モ尙ホ成立ス但催吿ヨリ生スル中斷ノ爲メ下ニ定メタル條件ヲ履行スルコトヲ要ス
第百十六條 義務履行ノ催吿ハ義務ノ目的、原因及ヒ債務者ヲ明カニ指示シ且六个月內ニ裁判上又ハ勸解上ノ請求ヲ爲シタルトキニ非サレハ時效ヲ中斷セス
第百十七條 差押ヨリ生スル中斷ハ其差押ノ手續カ合式ニ終結マテ繼續シタルニ非サレハ其效力ヲ存續セス
假差押ハ裁判所ノ定メタル期間ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルニ非サレハ時效ヲ中斷セス
時效ノ利益ヲ受クル者ニ對シテ差押ヲ爲ササルトキハ其差押ハ此者ニ吿知シタル後ニ非サレハ之ニ對シテ中斷ノ效力ヲ有セス
第百十八條 任意ノ追認ヨリ生スル時效ノ中斷ハ裁判上ヨリ又ハ口頭タルト書面タルトヲ問ハス裁判外ノ行爲ヨリ生スルコトヲ得
裁判上ノ追認ハ自發ナルコト有リ又ハ判事ノ訊問ヨリ生スルコト有リ
第百十九條 追認ハ明示又ハ默示ナルコトヲ得
占有者カ占有物ニ關スル果實又ハ賠償ノ要求ニ承服スルトキ又ハ之ニ反シテ占有者カ物ニ付キ爲シタル必要若クハ有益ノ費用ノ爲メ賠償ヲ要求スルトキハ殊ニ取得時效ニ對スル默示ノ追認アリトス
債務者カ利息又ハ債務ノ辨濟ノ請求ニ承服スルトキ又ハ之ニ反シテ債務者カ提供ヲ爲シ若クハ恩惠期限ノ請求ヲ爲ストキハ殊ニ免責時效ニ對スル默示ノ追認アリトス
第百二十條 眞ノ所有者ノ權利ヲ追認シタル占有者ハ其所有者及ヒ其承繼人ニ對シ新時效ヲ再ヒ始ムル權利ヲ失ハス然レトモ占有者ハ最早其以前ノ善意ノ利益ヲ援用スルコトヲ得ス
若シ其占有者カ容假ノ占有者ト爲リタルトキハ將來ニ向ヒ何人ニ對シテモ時效ノ利益ヲ失フ但財產編第百八十五條第二項及ヒ第三項ノ場合ノ適用ヲ妨ケス
第百二十一條 追認ニ因リテ中斷シタル免責時效ハ卽時更ニ進行ス然レトモ其時效ハ最初短期ノモノタリシトキト雖モ將來ニ向ヒテハ長期時效ノ期間ニ從フ
第百二十二條 時效ヲ中斷スル追認ハ自己ノ財產ヲ管理スル能力又ハ時效ニ罹ルコト有ル可キ財產ヲ他人ノ爲メニ管理スル權力ヲ有スル者ニ於テ之ヲ爲シタルトキハ有效ナリ
然レトモ婦、無能力者又ハ委任者ノ利益ニ於ケル不動產ノ取得時效ヲ中斷スル爲メ夫、後見人又ハ代理人ノ爲シタル追認ハ不動產ノ請求ニ承服スル一般又ハ特別ノ權力アルニ非サレハ有效ナラス
第百二十三條 時效ヲ中斷スル追認ノ所爲ニ付キ爭アルトキハ通常ノ證據方法ヲ以テ之ヲ證スルコトヲ得
第百二十四條 保證、連帶及ヒ不可分ノ場合ニ於テ各利害關係人ニ對スル追認其他ノ方法ニ因ル時效中斷ノ效力ハ債權擔保編第二十七條、第六十一條、第八十一條及ヒ第八十九條ニ於テ之ヲ規定ス
第四章 時效ノ停止
第百二十五條 權利ノ行使カ權利上又ハ恩惠上ノ確定若クハ不確定ノ期間ニ服シ又ハ其發生カ停止條件ニ繫ルトキハ其期間ノ滿了又ハ條件ノ成就ノ時ニ非サレハ時效ハ進行ヲ始メス
第百二十六條 時效ハ物權又ハ人權ニシテ其成立、廣狹又ハ行使カ相續ニ繫ルモノニ對シテハ其相續後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第百二十七條 遺言又ハ前主ノ合意ニ對シ相續人ニ屬スル銷除訴權又ハ抗辯ノ時效ハ其遺言又ハ合意ヲ相續人ニ對シテ援用シ又ハ其相續人ヲ害スル權利行使ノ基礎トシテ用井タル後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第百二十八條 上ノ場合ニ於テ時效ハ第三所持者ニ對シテ停止セス但所有權ノ取得時效又ハ抵當ノ消滅時效ヲ中斷セント欲スル利害關係人ニ於テ自己ノ未定ノ權利ノ追認證書ヲ得ント請求スルコト又ハ裁判上其權利ヲ單ニ追認セシムルコトヲ妨ケス
第百二十九條 時效カ其進行中ニ停止セラルルトキハ既ニ經過シタル時間ハ其時效ノ更ニ進行ヲ始ムル時ニ之ヲ通算ス
第百三十條 時效ハ法律ニ定メタル人ノ利益ニ於ケルニ非サレハ停止セス
第百三十一條 期間五个年以下ノ時效ハ成年者ニ對スル如ク未成年者及ヒ禁治產者ニ對シテ進行ス但後見人カ此等ノ者ノ權利ヲ行フコトヲ怠リ又ハ正當ノ原因ナクシテ此權利ヲ覺知セサル場合ニ於テハ此等ノ者ヨリ其後見人ニ對スル求償權ヲ妨ケス
五个年ヲ超ユル時效ニ關シテハ其期間ハ成年ニ達シタル未成年者又ハ精神ノ囘復シタル禁治產者ヲシテ常ニ其權利ヲ行フ猶豫ヲ得セシムル爲メ最後ノ一个年停止ス
第百三十二條 時效ハ婦ニ對シ第三者ノ利益ニ於テ進行ス但夫カ婦ノ爲メニ管理スル財產ニ關シ其夫ノ方ニ懈怠アル場合ニ於テハ婦ヨリ夫ニ對スル求償權ヲ妨ケス
然レトモ法律ニ規定シタル場合ニ於テハ時效ハ婦ノ爲メ最後ノ一个年停止ス
第百三十三條 前二條ノ規定ハ無能力者自身ニテ爲シタル行爲ノ銷除訴權ノ時效停止ニ關シ財產編第五百四十五條及ヒ第五百四十六條ニ定メタルモノヲ妨ケス
第百三十四條 配偶者ノ一人ヨリ他ノ一人ニ對シテ行フ可キ權利ニ關シテハ婚姻中ト雖モ時效ハ進行ス
然レトモ其時效ハ最後ノ一个年停止ス又一个年以下ノ時效ニ關シテハ其最後ノ半期間停止ス
第百四十四條ノ場合ニ於テハ動產囘復ノ期間ハ三个月トス
第百三十五條 時效ハ財產ノ管理人ト其管理ヲ受クル者トノ間ニ於テ其保存スルコトヲ任セラレタル權利ニ付テハ管理人ノ爲メニ停止ス
時效ハ管理カ止ミシ以後ニ非サレハ更ニ進行セス又第百四十四條ノ場合ニ於ケル動產ノ時效ニ關シテハ三个月ヲ以テスルニ非サレハ成就セス
第百三十六條 上ニ定メサル場合ニ於テ時效ノ期間ノ滿了スル時ニ當リ有權者カ交通ノ塞カリタルニ因リ又ハ地方ノ裁判事務ノ停止セラレタルニ因リテ其權利ノ效用ヲ致サシメ又ハ時效ヲ中斷スル爲メ手續ヲ爲スコト能ハサリシ時ハ有權者其妨碍ノ止ム後直チニ請求ヲ爲スニ於テハ其失權ヲ免カルルコトヲ得
右ノ規定ハ陸海軍人カ戰亂ノ時ニ於テ服役ノ爲メ其權利ヲ行フコトヲ妨ケラレタル場合ニ於テハ其利益ノ爲メ之ヲ適用ス
第百三十七條 物權又ハ人權ノ不可分ヨリ生スル時效ノ停止ハ財產編第二百九十一條、第四百四十六條及ヒ債權擔保編第八十九條第二項ニ於テ之ヲ規定ス
第五章 不動產ノ取得時效
第百三十八條 不動產ノ取得時效ニ付テハ所有者ノ名義ニテ占有シ其占有ハ繼續シテ中斷ナク且平穩、公然ニシテ下ニ定メタル繼續期間アルコトヲ要ス
財產編第百八十三條及ヒ第百八十五條ニ定メタル如キ强暴、隱密又ハ容假ノ占有ハ時效ヲ生セス
第百三十九條 占有者カ時效ニ因リテ取得セントスル物ニ付キ或ル長キ時間所有者ノ行爲ヲ爲スコトヲ任意ニテ止メシトキハ其占有ハ不繼續ニシテ時效ヲ生セス
占有者カ再ヒ所有者ノ行爲ヲ爲ストキハ其以前ノ占有ノ時間ハ占有者ノ爲メニ之ヲ算セス
第百四十條 占有カ上ニ定メタル條件ノ外財產編第百八十一條ニ記載シタル如キ正權原ニ基因シ且財產編第百八十二條ニ從ヒテ善意ナルトキハ占有者ハ不動產ノ所在地ト時效ノ爲メ害ヲ受クル者ノ住所又ハ居所トノ間ノ距離ヲ區別セス十五个年ヲ以テ時效ヲ取得ス
占有者カ正權原ヲ證スルコトヲ得ス又ハ之ヲ證スルモ財產編第百八十七條ニ規定シタル如ク其惡意カ證セラルルトキハ取得時效ノ期間ハ三十个年トス
第百四十一條 性質上登記ヲ爲ス可キ正權原ニ基因シタル時效ハ其證書ニ依リ登記ヲ爲シタル後ニ非サレハ之ヲ算セス
第百四十二條 方式上無效タリ又ハ裁判上取消サレタル權原ハ時效ノ爲メニ有益ナラス
第百四十三條 前主ノ占有ヲ其相續人及ヒ包括若クハ特定ノ承繼人ノ占有ニ併合シ又ハ繼續スルコトハ財產編第百九十二條ニ於テ之ヲ規定ス
第六章 動產ノ取得時效
第百四十四條 正權原且善意ニテ有體動產物ノ占有ヲ取得スル者ハ卽時ニ時效ノ利益ヲ得但第百三十四條及ヒ第百三十五條ニ記載シタルモノヲ妨ケス
此場合ニ於テ反對カ證セラレサルトキハ占有者ハ正權原且善意ニテ占有スルモノトノ推定ヲ受ク
第百四十五條 動產物ノ占有者カ正權原ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ其物カ所有者ノ盜取セラレタルモノ又ハ遺失シタルモノナルトキハ其所有者ハ盜難又ハ遺失ノ時ヨリ二个年間ハ占有者ニ對シテ其物ノ囘復ヲ請求スルコトヲ得但占有者カ其物ヲ有償ニテ受ケタルトキハ其讓渡人ニ對スル求償ヲ妨ケス
背信ニ因リテ隱匿シ又ハ詐欺ヲ以テ得タル物ニハ本條ヲ適用セスシテ前條ノ規定ニ從フ
第百四十六條 盜取セラレ又ハ遺失シタル物ヲ競賣又ハ公ノ市場ニ於テ又ハ此類ノ物ノ商人若クハ古物商人ヨリ善意ニテ買受ケタル者アルトキハ所有者ハ其買受代價ヲ辨償スルニ非サレハ囘復ヲ爲スコトヲ得ス
此場合ニ於テハ右ノ代價ニ付キ所有者ハ賣主ニ對シ又賣主ハ讓渡人ニ對シテ求償權ヲ有シ終ニ盜取者又ハ拾得者ニ遡ル
第百四十七條 無記名債權證書ヲ盜取セラレ又ハ遺失シタル場合ニ於テ其證書囘復ノ期間及ヒ條件ハ特別ノ規則ヲ以テ之ヲ定ム
第百四十八條 上ノ場合ニ於テ囘復者カ占有ノ無權原タリ又ハ惡意タルコトヲ證スルトキハ時效ハ三十个年ヲ經過スルニ非サレハ成就セス
第百四十九條 上ノ規定ハ用方ニ因リテ不動產ト爲リタル動產カ其附著シタル不動產ヨリ分離セラレタル場合ニ於テハ其動產ニ之ヲ適用ス
上ノ規定ハ財產編第十二條ニ從ヒ用方ニ因ル動產ニ之ヲ適用セス但其物カ土地ヨリ分離シタルトキハ此限ニ在ラス
又上ノ規定ハ記名債權ニモ包括動產ニモ之ヲ適用セス但此等ノ物ニ關スル時效ノ期間ハ第百三十八條以下ニ記載シタル區別ニ從ヒ不動產ニ關スルモノト同一ナリ
第七章 免責時效
第百五十條 義務ノ免責時效ハ債權者カ其權利ヲ行フコトヲ得ヘキ時ヨリ三十个年間之ヲ行ハサルニ因リテ成就ス但法律上別段短キ期間ヲ定メ又ハ債權ヲ時效ニ罹ラサルモノト定メタルトキハ此限ニ在ラス
第百五十一條 債務ノ元本カ年賦ニテ辨濟ス可キモノタルトキハ利息ヲ包含スルト否トヲ問ハス時效ハ各年賦ノ要求期ニ達シタル時ヨリ各別ニ之ヲ算ス
第百五十二條 債權カ無期又ハ終身ノ年金權ナルトキト雖モ其時效ハ證書ノ日附ヨリ三十个年ヲ以テ成就ス
然レトモ右ノ日附ヨリ二十八个年ノ後ニ至リ債權者ハ債務者ニ對シ時效ヲ中斷スル爲メ雙方ノ費用ヲ以テ其權利ノ追認證書ヲ得ント要求スルコトヲ得
若シ債務者右ノ要求ヲ拒絕シ債權者裁判上自己ノ權利ヲ追認セシムル必要アルトキハ其費用ハ全ク債務者ノ負擔タリ
第百五十三條 動產質又ハ不動產質ノ返還ヲ得ル爲メノ對人訴權ハ適法ナル方法ニ因リテ債務ノ消滅シタル後ニ非サレハ時效ニ罹ラス
第八章 特別ノ時效
第百五十四條 人ノ身分ニ關スル訴權ハ法律カ其行使ヲ特別ノ期間ニ繫ラシムル場合ニ非サレハ時效ニ罹ラス
第百五十五條 相續人又ハ包括權原ノ受遺者若クハ受贈者ノ分限ヲシテ效用ヲ致サシムル爲メノ遺產請求ノ訴權ハ相續人又ハ包括權原ノ受贈者若クハ受遺者ノ權原ニテ占有スル者ニ對シテハ相續ノ時ヨリ三十个年ヲ經過スルニ非サレハ時效ニ罹ラス
第百五十六條 免責時效ハ左ニ揭クル諸件ノ辨濟ノ訴權ニ對シテハ五个年トス
第一 明確ナル金額ノ塡補又ハ遲延ノ利息
第二 無期又ハ終身ノ年金權ノ年金
第三 養料又ハ恩給ノ一期ノ支拂金
第四 借家賃又ハ借地賃
第五 果實又ハ日用品ノ每期ノ給與額
第六 敎師、番頭、手代、使用人、乳母其他ノ雇人ノ謝金又ハ給料ニシテ一个年每ニ定メラレタルモノ
此他一般ニ一个年每ニ又ハ更ニ短キ時期ヲ以テ定メタル金額又ハ有價物ニ係ル債務ニ付テモ亦同シ但其辨濟ノ方法如何ニ拘ハラス且下ニ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス
第百五十七條 時效ハ左ノ訴權ニ對シテハ三个年トス
第一 醫師、產婆、藥劑者ノ治術、世話及ヒ調劑ニ關スル其訴權
第二 前條第六號ニ指定シタル敎師、使用人其他ノ者ノ謝金又ハ給料カ一个年ヨリ短ク一个月ヨリ長キ時期ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テハ其訴權
第三 技師、工匠、測量師、製圖師ノ經畫、意見及ヒ工事ニ關スル訴權
第四 不動產ニ關スル築造、地均其他ノ工作ニ付テノ請負人ノ訴權
第百五十八條 公證人、辯護士、執達吏其他ノ公吏カ職務ニ關シテ受ク可キモノニ付テノ其訴權ニ對スル時效ハ二个年トス
此場合ニ於テ時效ハ右各人ノ債權ヲ生セシメタル行爲又ハ訴訟ノ終了後ニ非サレハ進行ヲ始メス
然レトモ終了セサル事件ニ關シテハ右各人ハ五个年餘ニ遡ル行爲ノ爲メニ謝金ヲ要求スルコトヲ得ス
此規定ハ右各人カ其職務ノ爲メニ爲シタル立替金及ヒ支出金ニ之ヲ適用ス
第百五十九條 時效ハ左ノ訴權ニ對シテハ一个年トス
第一 非商人ニ爲シタル供給ニ關スル日用品、衣服其他動產物ノ卸賣商人又ハ小賣商人ノ訴權但商人又ハ工業人ニ爲シタル供給ト雖モ其者ノ商業又ハ工業ニ關セサル場合ニ於テハ亦同シ
第二 右ノ區別ヲ以テ注文者ノ材料又ハ動產物ニ付キ仕事ヲ爲ス居職ノ職工又ハ製造人ノ訴權
第三 生徒又ハ習業者ノ敎育、衣食及ヒ止宿ノ代料ニ關スル校長、塾主、師匠又ハ親方ノ訴權
第百六十條 時效ハ左ノ訴權ニ對シテハ六个月トス
第一 第百五十六條第六號及ヒ第百五十七條第二號ニ指定シタル敎師、使用人其他ノ者ノ謝金又ハ給料カ一个月又ハ更ニ短キ時期ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テハ其訴權
第二 旅店又ハ料理店ノ主人ヨリ供給シタル宿泊料、飮食料及ヒ消費物ニ關スル其訴權
第三 日雇、月雇ノ職工又ハ勞力者ノ給料及ヒ其仕事ニ際シ此等ノ者ノ爲シタル些少ノ供給ニ關スル其訴權
第百六十一條 前五條ニ規定シタル時效ハ現實ニ辨濟セサリシコトヲ自白シタル債務者之ヲ援用スルコトヲ得ス
第百六十二條 裁判所書記、辯護士ハ裁判ノ時ヨリ公證人ハ證書調製ノ時ヨリ執達吏ハ其職務執行ノ時ヨリ三个年ノ後ハ其職務ノ事件ニ關シテ交付セラレタル書類ニ付キ責任ヲ免カレ其書類返還ノ證ヲ提示スル義務ヲ免除セラル
第百六十三條 本章ニ規定シタル時效ハ當事者ノ間ニ明確ナル計算書、數額ヲ記載シタル債務ノ追認書又ハ債務者ニ對スル判決書アルトキハ之ヲ適用スルコトヲ得ス此場合ニ於テハ時效ハ三十个年トス
附則
第百六十四條 本法實施ノ當時ニ於テ進行中ナル時效ハ上ニ定メタル條件、禁止、中斷及ヒ停止ニ從フ
其期間ニ關シテハ舊時效カ新時效ヨリ一層長キ期間ヲ要スル場合ニ於テハ占有者又ハ債務者ハ本法實施ノ時ヨリ算シテ舊時效ノ經過ス可キ殘期カ新時效ノ期間ヨリ短キトキハ舊時效ヲ利スルコトヲ得
新時效ヨリ一層短キ期間ノ舊時效ニ關シテハ其期間ハ本法ニ定メタルモノニ等シキ期間ニ達スル樣之ヲ延長ス可シ
朕民法中財産編財産取得編債権担保編証拠編ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
内閣総理大臣兼内務大臣 伯爵 山県有朋
海軍大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
文部大臣 子爵 榎本武揚
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
農商務大臣 岩村通俊
法律第二十八号
民法証拠編目録
第一部
証拠
総則
第一章
判事ノ考覈
第一節
当事者申述ノ聴取、係争物並ニ証書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釈
第二節
臨検
第三節
鑑定
第二章
直接証拠
第一節
私書
第一款
私署証書
第二款
署名、捺印セサル証書
第二節
口頭自白
第一款
裁判上ノ自白
第二款
裁判外ノ自白
第三節
公正証書
第四節
反対証書
第五節
追認証書
第六節
証書ノ謄本
第七節
証人ノ陳述
第八節
世評
第三章
間接証拠
第一節
法律上ノ推定
第一款
公益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第二款
私益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第三款
軽易ナル法律上ノ推定
第二節
事実ノ推定
第二部
時効
第一章
時効ノ性質及ヒ適用
第二章
時効ノ抛棄
第三章
時効ノ中断
第四章
時効ノ停止
第五章
不動産ノ取得時効
第六章
動産ノ取得時効
第七章
免責時効
第八章
特別ノ時効
附則
民法
証拠編
第一部 証拠
総則
第一条 有的又ハ無的ノ事実ヨリ利益ヲ得ンカ為メ裁判上ニテ之ヲ主張スル者ハ其事実ヲ証スル責アリ
相手方ハ亦自己ニ対シテ証セラレタル事実ノ反対ヲ証シ或ハ其事実ノ効力ヲ滅却セシムル事実トシテ主張スルモノヲ証スル責アリ
第二条 自己ノ主張ノ全部又ハ一分ヲ法律ニ従ヒテ証セス又ハ判事カ証拠ヲ査定スル権ノ自由ナル場合ニ於テ判事ニ此主張ノ心証ヲ起サシメサリシ原告若クハ被告ハ其証セサリシ点ニ付キ請求又ハ抗弁ニ於テ敗訴ス
第三条 当事者ノ一方ハ或ル事実ノ証拠カ将来己レノ為メニ利益アルトキハ其利益ト証拠喪失ノ危険トヲ疏明シテ訴訟ノ起ラサル前ト雖モ其事実ノ証拠ヲ挙クルコトヲ裁判上主トシテ請求スルコトヲ得
第四条 下ニ定メタル規則ハ物権、人権及ヒ人ノ身分ニ関スル証拠ニ共通ノモノトス但特別ノ規定ヲ妨ケス
第五条 証拠ハ左ノ諸件ヨリ成ル
第一 判事ノ考覈
第二 直接証拠
第三 間接証拠
第一章 判事ノ考覈
第六条 判事ハ左ノ諸件ニ依リ主張セラレタル事実ノ確実ヲ得タルトキハ自己ノ考覈ニ依リテ争ヲ決スルコトヲ得
第一 当事者又ハ其代人ノ申述ノ聴取、係争物並ニ証書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釈
第二 臨検
第三 鑑定
第一節 当事者申述ノ聴取、係争物並ニ証書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釈
第七条 当事者ノ自白アル場合ノ外当事者又ハ其代人ノ申述及ヒ説明ヨリ請求若クハ抗弁ノ証セラレサルコト又ハ尚ホ早キコトノ顕ハルルニ於テハ判事ハ其請求若クハ抗弁ヲ棄却シ又ハ他日本案ノ判決ヲ為ス可キ旨ヲ言渡ス
右判事ノ心証カ係争物及ヒ証書外ノ書類ノ調査ヨリ生スルトキモ亦同シ
第八条 受ケタル損害若クハ失ヒタル利益其他原因ニ争ナク供給ス可キ価額ニ付キ為ス可キ評価ノミニ争ノ存スル場合ニ於テ判事ハ当事者又ハ其代人ノ陳述ヲ聴キ此評価ニ必要ナル元素ヲ得タルトキハ自ラ其評価ヲ為スコトヲ得
第九条 事実ニ争ナク法律ノ点ノミニ争ノ存スルトキハ判事ハ当事者又ハ其代人ノ陳述ヲ聴キ法律ノ規定ヲ其精神ト明文トニ依リテ解釈シ且条理ト公道トノ普通原則ニ依リテ之ヲ補完シ自己ノ心証ヲ取ル
第二節 臨検
第十条 境界、地役、占有、財産ノ損害及ヒ不動産工事ノ執行ニ関スル争其他此ニ類似ノ争ニ付テハ勿論裁判所ニ移送スルコトヲ得サル動産ノ形状ヲ証スルニ関スルトキト雖モ判事ハ主張セラレタル事実ヲ直接ニ知ルコトヲ以テ訴訟事件ヲ明カナラシムルニ有益ナリト思考スルトキハ或ハ職権ヲ以テ或ハ当事者ノ申立ニ因リテ係争物又ハ争ヲ決定ス可キ元素ノ存在スル場所ニ臨検スルコトヲ得
第三節 鑑定
第十一条 法律ニ於テ鑑定ニ依ル可キ旨ヲ定メタル場合ノ外判事ハ争ノ判決ニ付キ特別ノ知識ヲ要スルトキハ何時ニテモ或ハ職権ヲ以テ或ハ当事者ノ申立ニ因リテ自己ノ考覈ヲ助ケシムル為メ鑑定人ノ報告ヲ為ス可キ旨ヲ命スルコトヲ得
判事ハ鑑定人総員一致ノ説ト雖モ之ニ従フ義務ナシ
第二章 直接証拠
第十二条 左ノ諸件ニ於テハ人ノ証言ヨリ生スル直接ノ証拠アリトス
第一 私書
第二 口頭自白
第三 公正証書
第四 証人ノ陳述
第一節 私書
第十三条 私書ノ証拠力ハ其私書ノ対抗ヲ受クル当事者ノ之ニ署名シ又ハ捺印シタルト否トニ従ヒテ軽重アリ
第一款 私署証書
第十四条 私署証書ハ之ヲ以テ対抗セラルル者ニ不利ナル事実ノ陳述又ハ追認ヲ記載シ且其署名及ヒ印章又ハ其一アルトキハ署名者、捺印者ノ裁判外ノ自白即チ証書ヲ成スモノトス
右同一ノ条件ヲ有スル書状ハ私署証書ト同一ノ証拠力ヲ有ス
第十五条 自己ノ利益ニ於テ私署証書ヲ有スル者カ或ル者ヲ其署名者ナリト主張シ又ハ思考スル場合ニ於テハ争ノ生スル前ト雖モ其者ニ対シ手跡、署名及ヒ印章ノ追認ヲ請求スルコトヲ得
署名者ナリト主張セラレタル者ハ其手跡、署名及ヒ印章ノ真正ナルコト又ハ其一ノ真正ナルコトヲ明確ニ追認シ又ハ否認スルコトヲ得ルノミ
裁判所ヨリ本条ノ規定ノ口諭ヲ受ケタル者否認ヲ為ササルトキハ裁判所ハ其否認セサルモノニ付テハ之ヲ追認シタリト認定スルコトヲ得
第十六条 印章ニ関シテハ其印章ヲ提示セラレタル者ハ其印章ノ自己ノ印章ニ相違ナキコトヲ追認スルモ押捺ハ自身又ハ自己ノ許諾ニテ之ヲ為シタルヲ否認スルコトヲ得但総テノ方法ヲ以テ其証拠ヲ供スルコトヲ要ス
此追認証書ヲ与フル前ニ右ノ異議ヲ留メサリシトキハ其後ニ至リ右ノ抗弁ヲ為スコトヲ得ス
又其署名又ハ印章ヲ追認シタルトキハ其署名又ハ印章ノ獲ラレシ手段タル強暴、錯誤又ハ詐欺ヲ最早主張スルコトヲ得ス但強暴カ既ニ止ミ又ハ錯誤若クハ詐欺ヲ既ニ発見シ且此事ニ付キ何等ノ異議ヲモ留メスシテ追認ヲ為シタルトキニ限ル
異議ヲ留メタルトキハ追認証書ニ之ヲ記ス可シ
第十七条 署名者ナリト主張セラレタル者ノ相続人、承継人又ハ代人ニ対シテ追認ノ請求アリタルトキハ被告ハ或ハ自己ノ代表スル者ノ署名若クハ印章ヲ知ラサル旨或ハ其使用ノ不確実ナル旨ヲ陳述スルニ止マルコトヲ得
右ノ相続人、承継人又ハ代人ハ印章ノ不正当ナル押捺又ハ承諾ノ瑕疵ヨリ生スル無効ノ方法ヲ申立ツル権利ヲ失ハス但此事ニ関シ異議ヲ留ムルコトヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ
第十八条 被告ハ異議ヲ留メスシテ署名又ハ印章ヲ追認シタリト雖モ後ニ捺印白紙ノ濫用又ハ署名若クハ印章ノ偽造アリタルコトヲ証スル権利ヲ失ハス
然レトモ右ノ追認アリタルコトヲ知リ其証書ニ依リ善意ニテ約定シタル第三者ニ証書無効ノ方法トシテ捺印白紙ノ濫用ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第十九条 一人又ハ数人ノ証人カ私署証書ニ加署シ又ハ加印シタルトキハ其証人ヲ手跡験真ニ召喚ス
第二十条 手跡、印章又ハ署名ノ験真ノ請求ニ関スル方式並ニ期間及ヒ被告又ハ其代人ノ出席セサルニ因リ此等ノ者ニ於テ印章又ハ署名ヲ追認シタリト為スコトヲ得ヘキ場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ定ム
署名者ナリト主張セラレタル者ノ明確ニ否認シ又ハ其相続人若クハ承継人ノ追認ヲ為ササル場合ニ於ケル手跡験真手続ノ規則ニ付テモ亦同シ
第二十一条 双務契約ヲ証スル私署証書ハ反対ノ利益ヲ有スル当事者間ニ正本二通ヲ作リ且之ニ署名又ハ捺印スルコトヲ要ス
又各正本ニハ二通ヲ作リタル旨ヲ附記スルコトヲ要ス
然レトモ当事者ハ一通ノ証書ヲ作ルコトヲ得但其証書中指定シタル第三者ニ之ヲ寄託スルコトヲ合意シタルトキニ限ル
右ノ場合ニ於テ第三者ハ各当事者ノ求ニ応シテ其証書ヲ示ササル可カラス但当事者双方ノ承諾ナクシテ之ヲ交付スルコトヲ得ス
第二十二条 証書ノ調製及ヒ其数ノ附記又ハ証書ノ寄託ハ当事者カ合意ノ組成ヲ繋ラシメタル条件ト看做ス
然レトモ前条ニ従ヒテ調書ノ録製アラサリシ契約ノ全部又ハ一分ヲ履行シタル当事者ハ最早条件ノ不履行ヲ申立ツルコトヲ得ス
第二十三条 片務契約ヲ証スル私署証書ニ金銭其他ノ定量物ヲ供与シ弁済シ又ハ返還スル諾約ヲ包有スル場合ニ於テ債務者カ証書ノ本文ヲ自書セサルトキハ債務者ハ其署名若クハ捺印ノ外尚ホ金額若クハ数量ノ文字ニ捺印スルコトヲ要ス但数人ノ債務者アルトキハ其中ノ一人此捺印ヲ為スヲ以テ足レリトス
第二十四条 二通ノ正本及ヒ前条ノ方式ハ商事ニ付テハ之ヲ要セス
第二十五条 前数条ノ方式ニ従ヒ調製シタル私署証書ニシテ其対抗ヲ受クル者カ追認シ又ハ裁判上ニテ其者カ追認シタリト為シタルモノハ其主文及ヒ之ト直接ノ関係ヲ有シ且之ヲ補完スル文言ニ付テハ其者ニ対シテ完全ナル証拠トス
此他ノ文言ハ書面ニ因ル証拠端緒ノミニ之ヲ用ユルコトヲ得
第三十八条ニ記載シタル自白不可分ナル原則ハ証書ノ各部分ニ之ヲ適用ス
第二十六条 証書カ第十八条ニ規定シタル如ク捺印白紙ノ濫用又ハ偽造ノ攻撃ヲ受ケタルトキハ其証拠力ハ刑事裁判所ニ被告ノ送致アルニ因リテ停止セラレ其裁判所ノ判決ノ確定ト為ルマテ民事ノ判決ヲ中止ス
嫌疑アル人ノ死亡其他ノ原因ニ由リテ刑事審問ノ開カレサリシトキハ民事裁判所ハ刑事不受理ノ理由ニ付キ裁判アルマテ本案ノ判決ヲ中止ス
又刑事審問中ナルトキハ民事裁判所ハ当事者ノ要求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ其判決ヲ中止スルコトヲ得
第二款 署名、捺印セサル証書
第二十七条 商人ノ帳簿ハ総テノ人ノ為メ其商人ニ対シテ証拠ヲ為ス然レトモ其帳簿ヲ援用スル者ハ此ヨリ生スル自白ヲ分ツコトヲ得ス
此他右帳簿ノ証拠力ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
第二十八条 非商人ノ帳簿及ヒ覚書ハ其者ノ為メ証拠ヲ為サス
右ノ帳簿及ヒ覚書ハ其者ニ対シ下ノ区別ニ従ヒテ証拠ヲ為ス
第二十九条 債権者ノ書面ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ為メ其債権者ニ対シテ証拠ヲ為ス
第一 債務者ノ弁済其他ノ免責ヲ明カニ掲クルトキ但債権者ニ於テ債務者ニ交付スル為メ準備セル受取証書タルコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス
第二 債務者ノ証書又ハ従来ノ受取証書ニ免責ヲ書込ミ且其書類カ債務者ノ手ニ存スルトキ
第三十条 債務者ノ書面ニ其義務ヲ掲ケ且之ヲ以テ債権者ノ証書ノ用ニ供スルモノタルコトヲ記載スルトキハ其書面ハ債務者ニ対シテ証拠ヲ為ス
第三十一条 前二条ノ場合ニ於テ抹殺シタル書面ハ之ヲ斟酌セス但其抹殺カ詐害又ハ錯誤ニ出テタルコトノ証アルトキハ此限ニ在ラス
第三十二条 非商人ハ裁判上ニテ帳簿及ヒ覚書ヲ差出タス義務ナシ然レトモ任意ニテ之ヲ差出シタルトキハ争ニ関スルモノヲ抄録シタル後ニ非サレハ之ヲ取戻スコトヲ得ス但抄録ヲ為スニハ其者ノ出席ノ上又ハ之ヲ合式ニ召喚シタルトキニ限ル
第二節 口頭自白
第三十三条 口頭自白ハ一方ノ当事者ガ己レニ不利ナル権利上ノ結果ヲ生スルコト有ル可キ事実ニ付キ為スモノナリ其自白ハ裁判上ノモノ有リ裁判外ノモノ有リ
第一款 裁判上ノ自白
第三十四条 裁判上ノ自白ハ自発ノモノ有リ又ハ民事訴訟法ニ規定シタル本人訊問ニ因リテ為スモノ有リ
第三十五条 自白ハ其自白ニ繋ル権利ヲ処分スル能力ヲ有スル者ニ非サレハ有効ニ之ヲ為スコトヲ得ス但法律上自白ノ証拠ヲ禁シタル事実ニ非サルトキニ限ル
代理人ノ為シタル自白ハ其管理行為ニ関スル外特別ノ委任ニ依リタルトキニ非サレハ有効ナラス但裁判上ノ代人ノ自白ト其陳述取消ノ方式及ヒ条件トニ関スル民事訴訟法ノ規定ヲ妨ケス
第三十六条 前条ニ従ヒテ為シタル自白ヲ相手方ノ受諾シ又ハ之ヲ裁判所ニ於テ認メタルトキハ其自白ハ之ヲ為シタル者ニ対シテ完全ノ証拠ヲ為ス
然レトモ其自白ハ事実ノ錯誤ノ為メニ之ヲ言消スコトヲ得
第三十七条 自白ハ法律ノ錯誤ノ為メ之ヲ言消スコトヲ得ス
然レトモ相手方ノ権利ヲ直接又ハ間接ニ追認シタル者ハ其権利ノ原因及ヒ存続ヲ争フ権能ヲ失ハス
第三十八条 複雑ナル自白ヲ援用セント欲スル者ハ陳述セラレタル数箇ノ事実ニ関シ其自白ヲ分ツコトヲ得ス但此等ノ事実カ相牽連シタルトキニ限ル
然レトモ主タル事実ヲ変更スル事実ノ主張ハ通常ノ証拠方法ヲ以テ駁撃スルコトヲ得
第三十九条 裁判上ノ自白ノ効力ハ裁判所ノ管轄違カ公ノ秩序ニ関セサルモノタルトキハ其管轄違ニ因リテ無効ト為ラス
反対ノ場合ニ於テハ自白ハ裁判外ノモノトシテノミ有効ナリ
第四十条 一方ノ当事者カ訴訟事件ノ或ル事実ノ存在ニ付キ陳述ス可キノ求ヲ受ケテ其事実ヲ争ハサルニ因リ之ヲ追認シタリト看做ス場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第四十一条 一方ノ当事者カ廃疾其他ノ原因ニ由リテ語ルコトヲ得スト雖モ書面又ハ容態ヲ以テ裁判所ニ答フルコトヲ得ルニ於テハ裁判上ノ自白ノ規則ヲ之ニ適用ス
第二款 裁判外ノ自白
第四十二条 裁判外ノ自白ハ相手方又ハ其代人ノ面前ニ於テ口頭ニテ又ハ此等ノ者ニ送付シタル信書若クハ書類ニテ之ヲ為シタルニ非サレハ其効ヲ有セス
此求ノ場合ノ外口頭ノ自白ヲ受ケ及ヒ証スル資格ヲ有スル官庁ニ於テ更ニ其自白ヲ為ササリシトキハ人証ヲ許ス場合ニ非サレハ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス
第四十三条 裁判上ノ自白ノ有効ナル為メ要スル能力、其証拠力、其言消及ヒ其不可分ニ関スル前数条ノ規定ハ裁判外ノ自白ニ之ヲ適用ス
然レトモ判事ハ確実ニシテ明白ナル自白ニ非サレハ之ヲ採用スルコトヲ得ス
第四十四条 上ノ規定ハ義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ法律上ニテ黙示ノ自白ト看做ス可キ場合ヲ妨ケス
第四十五条 裁判外ノ自白ハ有効ニ之ヲ言消シタリト雖モ相手方ノ利益ニ於テ時効ノ中断ヲ生ス然レトモ自白ノ日以後ニ経過ス可キ時効ハ言消ノ日ヨリ再ヒ進行ス
第三節 公正証書
第四十六条 公正証書ハ公吏カ当事者ヨリ証スルコトヲ託セラレタル事実ニ付テノ証言ナリ
又官庁ノ代人トシテ事ヲ行フ官吏ノ調製シタル証書ハ公正ナリ
証書ハ公吏カ場所、証書ノ性質及ヒ其証書ニ関係スル人ニ付キ管轄ヲ有シ且法律ニ定メタル方式ニ従ヒテ之ヲ作リタルニ非サレハ公正ナラス
公証人其他当事者ノ嘱託ニ応ス可キ公吏ノ管轄及ヒ其証書ノ方式ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
第四十七条 前条ニ従ヒテ作リタル証書ハ偽造ノ申立アルマテハ公吏自身ニテ又ハ其面前ニテ為シタル行為及ヒ申述ニ付キ其吏員ノ陳述ノ証拠ヲ為ス
此証書ハ之ニ記載シタル日附ニ付キ右同一ノ証拠ヲ為ス
公吏ノ名ニテ作リ且其署名及ヒ印章ヲ具ヘタル証書ハ偽造ノ申立アルマテハ其吏員ヨリ出テタルモノト推定ス
偽造申立手続ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第四十八条 公正証書ノ証拠力ハ偽造ノ申立ニ因リテ之ヲ停止ス其執行力ニ付テモ亦同シ
主文ト直接又ハ間接ノ関係アル文言ニ関シテハ第二十五条ノ規定ヲ適用ス
第四十九条 証書ニ公正証書トシテ有効ナル為メ上ニ定メタル条件ノ一ヲ欠クコト有ルモ出捐ヲ為ス総テノ当事者カ現実ニ之ニ署名シ又ハ捺印シタルトキハ其証書ハ第二十一条及ヒ第二十三条ニ定メタル条件ヲ履行セスト雖モ私署証書トシテ有効ナリ
第四節 反対証書
第五十条 当事者ハ秘密ニ存シ置ク可キ反対証書ヲ以テ公正証書又ハ私署証書ノ効力ノ全部又ハ一分ヲ変更シ又ハ滅却スルコトヲ得然レトモ其反対証書ハ公正証書タルトキト雖モ署名者及ヒ其相続人ニ対スルニ非サレハ効力ヲ有セス
然レトモ当事者ノ債権者及ヒ特定承継人カ当事者ト約定スルニ当リ反対証書アルヲ知リタルコトヲ証スルニ於テハ之ヲ以テ其債権者及ヒ承継人ニ対抗スルコトヲ得
第五十一条 不動産権利ニ関スル反対証書カ或ハ登記ニ因リ或ハ其附記ニ因リテ公ニ為サレタルトキハ其反対証書ハ通常ノ効力ヲ取得ス総テ遡及ノ効力ヲ有セス
第五十二条 孰レノ場合ニ於テモ一方ノ当事者ノ総テノ承継人ハ他ノ当事者及ヒ其相続人ニ反対証書ヲ以テ対抗スルコトヲ得
第五節 追認証書
第五十三条 追認証書ハ当事者ノ一方カ己レニ不利ナル公正又ハ私署ノ原証書ノ成立ヲ追認スル証書ナリ
右ノ証書ハ下ノ二箇ノ場合ヲ除キ原告ヲシテ原証書ヲ差出タス義務ヲ免カレシメス又其証書中ニ原証書ヨリ更ニ多ク又ハ更ニ少キ事項ヲ記シ又ハ之ト異ナリタル事項ヲ記スルモノハ其効ナシ但追認証書中ニ之ヲ原証書ニ代用ス可キ旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第五十四条 左ノ二箇ノ場合ニ於テハ追認証書ハ原証書滅失ノ証アルトキ之ニ代ハルモノトス
第一 追認証書ニ原証書ノ事項ヲ再掲シタル旨ヲ記載スルトキ
第二 追認証書ノ日附ヨリ二十个年ヲ経過シ且之ヲ援用スル者カ其証書ノミヲ既ニ権利ノ行使ニ用井タルトキ
第五十五条 前条ノ場合ノ外原告カ原証書ヲ差出タスコトヲ得サルトキハ追認証書ハ其利益ニ於テハ書面ニ因ル証拠端緒トシテ有効ナリ
総テノ場合ニ於テ追認証書ハ時効ヲ中断ス
第六節 証書ノ謄本
第五十六条 裁判所又ハ当事者ヨリ正本ノ差出ヲ求ムルニ於テハ証書ノ謄本ハ之ヲ援用スル者ヲシテ其正本ヲ差出タス義務ヲ免カレシメス但其者カ正本ノ滅失ヲ証シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ公正ノ正本又ハ裁判上追認アリタル私署ノ正本カ原本トシテ公吏ノ許ニ蔵メラレタル場合ニ於テ裁判所ニ其正本ヲ差出タスコトハ裁判所ノ命令ニ依リ民事訴訟法及ヒ公吏ノ規則ニ従ヒテ之ヲ為ス
第五十七条 正本ノ滅失シタルトキ其謄本ハ左ノ四箇ノ場合ニ於テハ正本ト同一ノ証拠力ヲ有ス
第一 公吏ノ作リシ公正証書ノ正式謄本タルトキ
第二 公正証書ノ謄本又ハ裁判上追認アリ且原本トシテ公吏ノ許ニ蔵メタル私署証書ノ謄本ヲ当事者ノ要求ニ因リ其相手方ノ面前ニテ其公吏ノ作リタルトキ
第三 当事者出席ノ上又ハ合式ニ之ヲ召喚シタル上ニテ公吏カ裁判所ノ命ニ依リテ其謄本ヲ作リタルトキ
第四 右三箇ノ場合ノ外適法ニ正本ヲ預リタル公吏ノ作リシ謄本カ異議ヲ受ケスシテ其日附ヨリ二十个年ヲ経過シ且当事者間ニ於テ主張セラレタル権利ニ関シ裁判上又ハ裁判外ニテ既ニ援用セラレタルトキ
謄本ニハ左ノ諸件ヲ附記スルコトヲ要ス
右第一ノ場合ニ於テハ其謄本ハ正式謄本タルコト
第二ノ場合ニ於テハ当事者ノ面前ニテ作リタルコト
第三ノ場合ニ於テハ裁判所ノ命ニ依リテ作リタルコト
総テノ場合ニ於テ其謄本ヲ正本ト校合シタル旨又ハ其謄本ノ正本ニ符合スル旨ヲ之ニ附記スルコトヲ要ス
第五十八条 前条ニ記載シタル四箇ノ場合ノ外ハ公吏ノ作リタル証書ノ謄本ハ書面ニ因ル証拠端緒ノ用ヲ為スノミ
第五十九条 公吏ノ作リタル謄本ノ復写ハ人証ヲ許ス可キ場合ニ限リ単純ナル参考書ノ用ヲ為スノミ
然レトモ公正証書ノ謄本ヲ登記ノ公簿ニ謄写シタルトキハ其謄写ハ書面ニ因ル証拠端緒ナリ
裁判上追認アリタル私署証書ノ正本ノ右ニ同シキ謄写ハ亦書面ニ因ル証拠端緒ノ効力ヲ有ス
謄写カ其日附ヨリ二十个年ヲ経過シ且異議ヲ受クルコト無ク既ニ行使セラレタルトキハ其謄写ハ第五十七条第四号ニ従ヒテ完全ノ証拠トス
第七節 証人ノ陳述
第六十条 物権又ハ人権ヲ創設シ、移転シ、変更シ又ハ消滅セシムル性質アル総テノ所為ニ付テハ其所為ヨリ各当事者又ハ其一方ノ為メニ生スル利益カ当時五十円ノ価額ヲ超過スルトキハ公正証書又ハ私署証書ヲ作ルコトヲ要ス
人証ハ右ノ価額ヲ超過スルニ於テハ法律上明示若クハ黙示ニテ例外ト為シタルトキニ非サレハ裁判所之ヲ受理セス
第六十一条 双務契約ニ於ケル証書ノ必要ハ権利ノ最高ナル価額ニ依ル
第六十二条 請求又ハ抗弁ノ目的カ金銭ニ非サル場合ニ於テ相手方カ争ノ価額五拾円ヲ超過スル旨ヲ陳述シテ人証ニ異議ヲ申立ツルトキハ裁判所ハ訴訟ノ元素ニ従ヒ又ハ鑑定ニ従ヒテ予メ仮ノ評価ヲ為ス
第六十三条 書面ヲ作リタル場合ニ於テハ書面ニ反スル事項若クハ書面外ノ事項ヲ証スル為メ又ハ書面ノ意義ヲ変更ス可キ様其調製ノ際若クハ其前後ニ申述シタルモノヲ証スル為メニハ縦令五拾円ヨリ少ナキ利益ニ関スルモ人証ヲ許サス
此禁止ハ弁済、免除、更改其他ノ義務消滅ノ原因ヲ証スル為メ又ハ書面ヲ以テ証シタル物権ノ消滅又ハ変更ヲ証スル為メ上ニ定メタル制限内ニ於ケル人証ヲ妨ケス
総テノ場合ニ於テ主張セラレタル事実ノ日附及ヒ場所又ハ履行ノ為メ口頭ニテ定メタル時期及ヒ場所ノ脱漏ハ人証ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得但此事ヨリ生スル利益ヲ主タル利益ニ加ヘテ価額五拾円ヲ超過セサルトキニ限ル
第六十四条 争ノ利益カ五拾円ヲ超過スル場合ニ於テハ原告又ハ被告ハ縦令其以下ノ数額ニ請求又ハ抗弁ヲ減スルモ人証ヲ許サス
五拾円ヲ超過セサル請求又ハ抗弁カ此数額ヲ超過シタル価額ノ残余ナルトキ亦同シ
第六十五条 前条ニ規定シタル二箇ノ場合ニ於テ証人訊問ニ因リ五拾円ヲ超過シタル利益ナルコトヲ発見シタルトキハ人証ヲ許シタル裁判所ハ之ヲ取消スコトヲ要ス
此他証人訊問ニ因リ法律上之ヲ許ササル事情ヲ発見シタル場合ニ於テモ亦同シ
第六十六条 上ノ規定ハ填補利息、過怠約款又ハ契約ニ従ヒテ返還ヲ受ク可キ果実ノ計算ヲ加フルカ為メニ五拾円ノ額ヲ超過スル場合ニ於テ原告又ハ被告カ証人ヲ以テ其主タル債権ヲ証スル為メ此従タル債権ヲ抛棄シ得ル妨ト為ラス
右ノ超過カ遅延利息又ハ要約セサル損害賠償又ハ請求後ニ返還ヲ受ク可キ果実ノミヨリ生スルトキハ全部ニ付キ人証ヲ許ス
第六十七条 書面ニ依リ全ク証セラレスシテ各別ニ人証ノ許サル可キ数箇ノ請求ヲ為スコトヲ得ヘキ者ハ其原因ノ如何ニ拘ハラス一箇ノ訴状ニ其数箇ノ請求ヲ併合スルコトヲ要ス但其請求カ総テ満期ノモノニシテ同一裁判所ノ管轄ニ属スルモノタルトキニ限ル
右ノ手続ヲ為ササルニ於テハ最早其脱漏シタル請求ニ付キ人証ヲ許サス
右ノ規定ハ同一ノ請求ニ対シ数箇ノ抗弁ヲ以テ対抗セント主張スル者ニ之ヲ適用ス
第六十八条 前条ニ記載シタル如ク併合シタル数箇ノ請求又ハ抗弁カ五拾円ノ価額ヲ超過スルトキハ人証ヲ許サス但此請求又ハ抗弁カ相異ナル原因ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
第六十九条 左ノ場合ニ於テハ争ノ価額ノ如何ニ拘ハラス人証ヲ許ス
第一 書面ニ因ル証拠端緒ノ存スルトキ
証拠端緒トハ之ヲ以テ対抗セラルル人又ハ其人ヲ代表シタル者ヨリ出テタル総テノ書面ニシテ主張シタル事柄ニ付キ事実タルノ感ヲ起サシムルモノヲ謂フ
主張シタル事柄ノ書面ニ因ル証拠端緒アルトキハ書面外ノ事項又ハ書面ニ反スル事項ニ付キ人証ヲ許ス
第二 原告又ハ被告カ不可抗力ニ因リ又ハ自己ノ過失若クハ懈怠ニ帰ス可カラサル意外ノ事ニ因リテ其証書ヲ失ヒタルコトヲ証スルトキ
第三 主張シタル事柄ノ有リタル当時利害関係人カ書証ヲ得ル能ハサリシトキ
第七十条 前条第三号ハ殊ニ左ノ場合ニ之ヲ適用ス
第一 財産取得編第二百二十条及ヒ第二百二十一条第一項ニ規定シタル急迫寄託
第二 事変、不期ノ危険又ハ急迫ナル必要ノ場合ニ於テ負担シタル義務
第三 合意外ノ原因ヲ有スル義務但此場合ニ於テ不当ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ヨリ生シタリト主張スル義務カ書面ヲ以テ証ス可キ性質ノモノタル権利行為ヲ推量セシムルトキハ予メ其証拠ヲ供スルコトヲ要ス
第七十一条 法律カ人証ヲ許ス場合ノ外人証ヲ拒ムニ利益ヲ有スル当事者カ人証ニ依リテ証拠ヲ挙クルコトヲ承諾スルトキハ裁判所ハ人証ヲ拒絶シ又ハ之ヲ許可スルコトヲ得
第七十二条 判事ハ証人ノ証拠ニ因リテ拘束セラレス其心証ニ従ヒテ判決ス
第八節 世評
第七十三条 法律上特ニ世評ニ因ル証拠ヲ許ス場合ノ外或ル事実カ顕著ナルトキ法律カ其規定ヲ此事実ニ適用ス可キコトヲ定メタル各箇ノ場合ニ於テハ此証ヲ用ユルコトヲ得
世評ニ因ル証拠ニ於テハ証人ハ事実ニ付キ直接ニ自ラ知ラサルモ伝聞ニ因リ又ハ公然顕著ナルニ因リテ知リタル所ノモノヲ陳述スルコトヲ得
第三章 間接証拠
第七十四条 間接証拠ナル推定ハ法律カ直接証拠ナキ場合ニ於テ知レタル事実ヨリ知レサル事実ニ自ラ推及シ又ハ裁判官ノ明識ト思慮トニ委ヌル結果ナリ
右第一ノ推定ヲ法律上ノ推定ト謂ヒ第二ノ推定ヲ事実ノ推定ト謂フ
第一節 法律上ノ推定
第七十五条 法律上ノ推定ニハ其証拠力ト其原因トニ従ヒテ左ノ区別アリ
第一 完全ニシテ公益ニ関スルモノ
第二 完全ニシテ私益ニ関スルモノ
第三 軽易ナルモノ
第一款 公益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第七十六条 公益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証拠ヲ許サス此推定ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 既判力
第二 取得又ハ免責ノ時効
第七十七条 既判力ハ判決主文ニ包含スルモノニ存ス
第七十八条 既判力ハ真正ト推定セラル
然レトモ確定為トラサル判決ハ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ期間ニ於テ之ヲ攻撃スルコトヲ得
第七十九条 判決ノ確定ト為リタルトキ同一ノ争ヲ再ヒ訴フルニ於テハ其争ハ下ノ区別ニ従ヒ既判力ニ依リテ之ヲ斥ク
第八十条 判決カ全部又ハ一分ニ付キ公ノ秩序ニ関スルトキハ既判力ニ因ル不受理ノ理由ハ裁判所ノ職権ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ要ス
此他ノ場合ニ於テハ利害関係人ヨリ其不受理ノ理由ヲ以テ対抗スルコトヲ要ス
第八十一条 既判力ニ因ル不受理ノ理由ヲ以テ新請求又ハ新答弁ニ対抗スルコトヲ得ルニハ其請求又ハ答弁カ旧請求又ハ旧答弁ニ比較シテ左ノ諸件アルコトヲ要ス
第一 権利又ハ事実ニ関シ争ノ目的ノ同一ナルコト
第二 主張ノ原因ノ同一ナルコト
第三 原告、被告ノ権利上ノ資格ノ同一ナルコト
第八十二条 新請求又ハ新答弁ノ目的カ数量ニ付テノミ旧請求又ハ旧答弁ノ目的ト異ナリタルトキハ新請求又ハ新答弁ノ目的ハ旧請求又ハ旧答弁ニ包含シタルモノト看做ス但旧請求又ハ旧答弁ヲ裁判セシ裁判所カ新請求又ハ新答弁ノ数量ヲ正当トスルニ於テハ之ヲ許与スル権力ヲ有セシトキニ限ル
第八十三条 旧争カ合意又ハ遺言ノ銷除、廃罷又ハ解除ヲ目的トシタルトキハ其争ノ際存在シタルモ当事者ノ知リテ申立テサリシ他ノ同性質ノ原因ハ当事者之ヲ抛棄シタリト推定セラレ更ニ之ヲ新争ノ原因トシテ用ユルコトヲ得ス
方式ノ瑕疵アル証書ヲ其瑕疵ノ為メ無効トスル旧争中ニ申立テサリシ他ノ方式ノ瑕疵ニ付テモ亦同シ
本条ノ適用ニ於テ銷除ノ訴ノ為メニハ承諾ノ各種ノ瑕疵及ヒ各種ノ無能力ヲ同性質ノ原因ト看做シ又解除ノ訴ノ為メニハ合意不履行ノ各種ノ場合ヲ同性質ノ原因ト看做ス
第八十四条 当事者カ或ハ自身ニテ同一ノ資格ヲ以テ既ニ旧訴訟ニ出テタルトキ或ハ旧訴訟ニ於テ其前主若クハ代理人ニ因リテ代表セラレタルトキ或ハ利害関係人ノ結合カ暗ニ相互代理タルトキハ当事者ノ権利上ノ資格ハ同一ナリトス
第八十五条 刑事裁判所カ犯罪ノ所為ノ為メニ要求セシ民事上ノ賠償ニ付キ判決シタル場合ノ外尚ホ重罪、軽罪又ハ違警罪ノ判決ハ犯罪ニ附著スル民事上ノ利益ニ付キ既判力ヲ有ス但犯罪所為ノ真実、其犯罪ノ性質及ヒ被告人ノ罪責ニ付テノ裁判ニ関スルモノニ限ル
第二款 私益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第八十六条 法律上ノ推定ハ左ノ場合ニ於テハ私益ニ関スル完全ノモノタリ
第一 法律カ人ノ身分ニ関スル或ル資格ヲ付与シ又ハ拒絶スルトキ
第二 法律カ或ル所為ヲ其規定ニ背キタルモノト推定シテ取消ストキ
第三 法律カ制規ノ公示ナキニ因リ第三者ニ知レサルモノト推定シテ或ル権利ノ行使ヲ拒絶スルトキ
此法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証拠ヲ許サス
然レトモ和解ヲ許ス場合ニ於テハ此推定ハ口頭自白ヲ以テ何時ニテモ之ヲ覆ヘスコトヲ得
第三款 軽易ナル法律上ノ推定
第八十七条 上ノ法律上ノ推定ニ非サルモノハ軽易ナル法律上ノ推定ナリ此推定ニ付テハ法律カ反対ノ証拠ヲ明許セサルトキト雖モ総テ之ヲ許ス
右反対ノ証拠ハ前二章ニ規定シタル条件ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ挙クルコトヲ得ス
又軽易ナル法律上ノ推定ハ次条ノ場合ニ於テハ事実ノ推定ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得
第二節 事実ノ推定
第八十八条 法律カ裁判所ニ其裁判ノ元素ヲ訴訟ノ事情ニ付キ採取スルコトヲ許ス特別ナル場合ノ外尚ホ裁判所ハ人証ヲ許ス可キ場合ニ於テハ何等ノ直接ノ証拠ヲモ挙ケサルトキト雖モ事情ヨリ生スル心証ニ従ヒテ争ヲ決スルコトヲ得
第二部 時効
第一章 時効ノ性質及ヒ適用
第八十九条 時効ハ時ノ効力ト法律ニ定メタル其他ノ条件トヲ以テスル取得又ハ免責ノ法律上ノ推定ナリ但動産ノ瞬間時効ニ関スル第百四十四条以下ノ規定ヲ妨ケス
第九十条 正当ナル取得又ハ免責ノ推定ハ完全ニシテ公ノ秩序ニ関スルモノトス此推定ハ第九十六条及ヒ第百六十一条ニ規定シタル如ク法律ノ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証拠ヲ許サス
第九十一条 取得時効ノ効力ハ占有ノ有益ニ始マリタル日ニ遡ル
免責時効ノ効力ハ債権者カ其権利ヲ第百二十五条以下ニ記載シタル区別ニ従ヒテ行フコトヲ得ヘカリシ日ニ遡ル
第九十二条 或ル訴権ノ行使ノ為メ法律ニ定メタル期間ハ其訴権ノ性質ニ因リテ取得時効又ハ免責時効ノ一般ノ規則ニ従フ但法律カ明示又ハ黙示ニテ例外ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第九十三条 時効ハ総テノ人ヨリ之ヲ援用スルコトヲ得
又時効ハ総テノ人ニ対シテ進行ス但法律ニ依リ時効停止ノ利益ヲ受クル人ニ対シテハ此限ニ在ラス
第九十四条 総テ融通物ハ時効ニ罹ルコトヲ得但法律上之ニ異ナル規定ヲ設ケタルモノハ此限ニ在ラス
不融通物及ヒ譲渡スコトヲ得サル物ハ時効ニ罹ルコトヲ得ス
公有ノ財産ハ動産ト雖モ亦同シ
第九十五条 自己ノ財産ニ付キ又ハ他人ニ対シテ行フコトヲ得ル法律上ノ権能ハ幾許ノ時期間之ヲ行ハサルモ為メニ喪失セス但法律、合意又ハ遺言ニ於テ之ニ異ナル定ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第九十六条 判事ハ職権ヲ以テ時効ヨリ生スル請求又ハ抗弁ノ方法ヲ補足スルコトヲ得ス時効ハ其条件ノ成就シタルカ為メ利益ヲ受クル者ヨリ之ヲ援用スルコトヲ要ス
時効ヲ援用スル当時併セテ正当ノ取得又ハ免責ナキコトヲ追認スル者ハ時効ヲ抛棄シタリト看做ス
第九十七条 時効ヲ援用スルニ利益ヲ有スル当事者ノ総テノ承継人ハ或ハ原告ト為リ或ハ被告ト為リ其当事者ノ権ニ基キテ時効ヲ援用スルコトヲ得
債権者ハ財産編第三百三十九条ニ従ヒテ右ト同一ノ権利ヲ有ス
第九十八条 時効ハ訴訟中何時ニテモ之ヲ援用スルコトヲ得又控訴ニ於テモ始メテ之ヲ援用スルコトヲ得然レトモ上告ニ於テハ始メテ之ヲ援用スルコトヲ得ス
第九十九条 年又ハ月ニ依リテ成就ス可キ時効ハ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス
日ニ依リテ成就ス可キ時効ハ午前零時ヨリ午後十二時マテヲ一日ト為シテ之ヲ算ス
時効ノ進行ノ始マリタル日又ハ其中断若クハ停止ノ後再ヒ進行ノ始マリタル日ハ之ヲ算セス
最後ノ日ハ全ク経過スルコトヲ要ス
第二章 時効ノ抛棄
第百条 時効ハ予メ之ヲ抛棄スルコトヲ得ス但第百二十条第二項ニ記スル如ク占有者カ将来ニ向ヒテ其占有ノ容仮ヲ認ムル権利ニ妨ナシ
成就シタル時効ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得又其進行中ト雖モ既ニ経過シタル時期ノ利益ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得
此場合ニ於テハ第百十八条以下ニ記載セル相手方ノ権利ヲ追認シタル場合ニ於ケルト同シク時効ハ中断ス
第百一条 抛棄ハ黙示タルコトヲ得ルト雖モ明カニ事情ヨリ顕ハルルコトヲ要ス
第百二条 成就シタル時効ヲ有効ニ抛棄スルニハ取得シタリト推定セラルル権利ヲ無償ニテ譲渡シ又ハ消滅シタリト推定セラルル義務ヲ無償ニテ負担スル能力アルコトヲ要ス
第百三条 債権者ハ其権利ヲ詐害シテ債務者ノ為シタル時効ノ抛棄ニ対シテハ財産編第三百四十条以下ニ定メタル条件及ヒ方法ニ従ヒ自己ノ名ヲ以テ之ヲ攻撃スルコトヲ得
第三章 時効ノ中断
第百四条 経過シタル時期ノ利益カ下ニ記シタル原因ノ一ニ由リテ消滅スルトキハ時効ハ中断ス
中断シタル時効ハ中断ノ原因ノ止ミシ時ヨリ更ニ進行ス
第百五条 時効ノ中断ハ自然ノモノ有リ法定ノモノ有リ
自然ノ中断ハ取得時効ニ関シテノミ生ス
法定ノ中断ハ取得及ヒ免責ノ時効ニ共通ナリ
第百六条 動産不動産又ハ包括動産ノ占有者カ真ノ所有者又ハ第三者ノ所為ニ因リテ一个年以上其占有ヲ奪ハレタルトキハ自然ノ中断アリ
占有ヲ取戻シタルトキハ時効ハ更ニ進行ス
若シ不可抗力ニ因リテ占有ヲ奪ハレタルトキハ自然ノ中断ナシ
第百七条 自然ノ中断ハ各利害関係人ノ為メニ其効ヲ生ス
第百八条 占有者カ或ル時間任意ニテ其占有ヲ止メシトキハ其占有不継続ノ効力ハ第百三十九条ニ於テ之ヲ規定ス
第百九条 法定ノ中断ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 裁判上ノ請求
第二 勧解上ノ召喚又ハ任意出席
第三 執行文提示又ハ催告
第四 差押
第五 任意ノ追認
右ノ手続又ハ追認ノ行為カ時効ノ為メ害ヲ受クル者ノ権利ニ明カニ関係スルコトヲ要ス
第百十条 法定ノ中断ハ中断ノ所為ヲ行ヒタル者及ヒ其承継人ノ為メニ非サレハ其効ヲ生セス
第百十一条 本訴ト附帯訴ト反訴トヲ問ハス裁判上ノ請求ハ時効ヲ中断ス但其請求カ方式ニ於テ無効タルトキ又ハ管轄違ノ裁判所ニ之ヲ為シタルトキモ亦同シ
然レトモ右但書ノ場合ニ於テ中断ハ初ノ請求ヲ棄却セシ判決アリタル時ヨリ二个月内ニ更ニ合式ノ訴ヲ提起セサルニ於テハ之ヲ不成立ト看做ス
第百十二条 中断ハ左ノ場合ニ於テモ亦之ヲ不成立ト看做ス
第一 請求カ其基本ニ於テ棄却セラレタルトキ
第二 原告カ取下ヲ為シタルトキ
第三 訴訟手続カ民事訴訟法ニ定メタル時間休止シテ無効ト為リタルトキ
第百十三条 裁判上ノ請求ヨリ生スル中断ハ訴訟ノ提起ヨリ其判決ノ確定ト為ルマテ継続ス
第百十四条 勧解上ノ召喚又ハ任意出席ニ因ル時効ノ中断ハ主タル請求ハ勿論其反対ノ請求ヨリモ生ス
召喚ノ無効ハ方式ノ瑕疵ニ因ルモ管轄違ニ因ルモ中断ヲ妨ケス但初ノ召喚ノ無効ト為リタルヨリ一个月内ニ更ニ合式ノ召喚ヲ為スコトヲ要ス
合式ノ召喚ノ上勧解不調ノ場合及ヒ被告ノ闕席ノ場合ニ於テ中断ハ一个月内ニ裁判所ノ請求ヲ為ササルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
第百十五条 執行文提示ヨリ生スル中断ハ一个年内ニ差押ヲ為ササルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
右ノ中断ハ方式ノ瑕疵ニ因リテ其提示ノ無効ナルトキト雖モ尚ホ成立ス但催告ヨリ生スル中断ノ為メ下ニ定メタル条件ヲ履行スルコトヲ要ス
第百十六条 義務履行ノ催告ハ義務ノ目的、原因及ヒ債務者ヲ明カニ指示シ且六个月内ニ裁判上又ハ勧解上ノ請求ヲ為シタルトキニ非サレハ時効ヲ中断セス
第百十七条 差押ヨリ生スル中断ハ其差押ノ手続カ合式ニ終結マテ継続シタルニ非サレハ其効力ヲ存続セス
仮差押ハ裁判所ノ定メタル期間ニ裁判上ノ請求ヲ為シタルニ非サレハ時効ヲ中断セス
時効ノ利益ヲ受クル者ニ対シテ差押ヲ為ササルトキハ其差押ハ此者ニ告知シタル後ニ非サレハ之ニ対シテ中断ノ効力ヲ有セス
第百十八条 任意ノ追認ヨリ生スル時効ノ中断ハ裁判上ヨリ又ハ口頭タルト書面タルトヲ問ハス裁判外ノ行為ヨリ生スルコトヲ得
裁判上ノ追認ハ自発ナルコト有リ又ハ判事ノ訊問ヨリ生スルコト有リ
第百十九条 追認ハ明示又ハ黙示ナルコトヲ得
占有者カ占有物ニ関スル果実又ハ賠償ノ要求ニ承服スルトキ又ハ之ニ反シテ占有者カ物ニ付キ為シタル必要若クハ有益ノ費用ノ為メ賠償ヲ要求スルトキハ殊ニ取得時効ニ対スル黙示ノ追認アリトス
債務者カ利息又ハ債務ノ弁済ノ請求ニ承服スルトキ又ハ之ニ反シテ債務者カ提供ヲ為シ若クハ恩恵期限ノ請求ヲ為ストキハ殊ニ免責時効ニ対スル黙示ノ追認アリトス
第百二十条 真ノ所有者ノ権利ヲ追認シタル占有者ハ其所有者及ヒ其承継人ニ対シ新時効ヲ再ヒ始ムル権利ヲ失ハス然レトモ占有者ハ最早其以前ノ善意ノ利益ヲ援用スルコトヲ得ス
若シ其占有者カ容仮ノ占有者ト為リタルトキハ将来ニ向ヒ何人ニ対シテモ時効ノ利益ヲ失フ但財産編第百八十五条第二項及ヒ第三項ノ場合ノ適用ヲ妨ケス
第百二十一条 追認ニ因リテ中断シタル免責時効ハ即時更ニ進行ス然レトモ其時効ハ最初短期ノモノタリシトキト雖モ将来ニ向ヒテハ長期時効ノ期間ニ従フ
第百二十二条 時効ヲ中断スル追認ハ自己ノ財産ヲ管理スル能力又ハ時効ニ罹ルコト有ル可キ財産ヲ他人ノ為メニ管理スル権力ヲ有スル者ニ於テ之ヲ為シタルトキハ有効ナリ
然レトモ婦、無能力者又ハ委任者ノ利益ニ於ケル不動産ノ取得時効ヲ中断スル為メ夫、後見人又ハ代理人ノ為シタル追認ハ不動産ノ請求ニ承服スル一般又ハ特別ノ権力アルニ非サレハ有効ナラス
第百二十三条 時効ヲ中断スル追認ノ所為ニ付キ争アルトキハ通常ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得
第百二十四条 保証、連帯及ヒ不可分ノ場合ニ於テ各利害関係人ニ対スル追認其他ノ方法ニ因ル時効中断ノ効力ハ債権担保編第二十七条、第六十一条、第八十一条及ヒ第八十九条ニ於テ之ヲ規定ス
第四章 時効ノ停止
第百二十五条 権利ノ行使カ権利上又ハ恩恵上ノ確定若クハ不確定ノ期間ニ服シ又ハ其発生カ停止条件ニ繋ルトキハ其期間ノ満了又ハ条件ノ成就ノ時ニ非サレハ時効ハ進行ヲ始メス
第百二十六条 時効ハ物権又ハ人権ニシテ其成立、広狭又ハ行使カ相続ニ繋ルモノニ対シテハ其相続後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第百二十七条 遺言又ハ前主ノ合意ニ対シ相続人ニ属スル銷除訴権又ハ抗弁ノ時効ハ其遺言又ハ合意ヲ相続人ニ対シテ援用シ又ハ其相続人ヲ害スル権利行使ノ基礎トシテ用井タル後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第百二十八条 上ノ場合ニ於テ時効ハ第三所持者ニ対シテ停止セス但所有権ノ取得時効又ハ抵当ノ消滅時効ヲ中断セント欲スル利害関係人ニ於テ自己ノ未定ノ権利ノ追認証書ヲ得ント請求スルコト又ハ裁判上其権利ヲ単ニ追認セシムルコトヲ妨ケス
第百二十九条 時効カ其進行中ニ停止セラルルトキハ既ニ経過シタル時間ハ其時効ノ更ニ進行ヲ始ムル時ニ之ヲ通算ス
第百三十条 時効ハ法律ニ定メタル人ノ利益ニ於ケルニ非サレハ停止セス
第百三十一条 期間五个年以下ノ時効ハ成年者ニ対スル如ク未成年者及ヒ禁治産者ニ対シテ進行ス但後見人カ此等ノ者ノ権利ヲ行フコトヲ怠リ又ハ正当ノ原因ナクシテ此権利ヲ覚知セサル場合ニ於テハ此等ノ者ヨリ其後見人ニ対スル求償権ヲ妨ケス
五个年ヲ超ユル時効ニ関シテハ其期間ハ成年ニ達シタル未成年者又ハ精神ノ回復シタル禁治産者ヲシテ常ニ其権利ヲ行フ猶予ヲ得セシムル為メ最後ノ一个年停止ス
第百三十二条 時効ハ婦ニ対シ第三者ノ利益ニ於テ進行ス但夫カ婦ノ為メニ管理スル財産ニ関シ其夫ノ方ニ懈怠アル場合ニ於テハ婦ヨリ夫ニ対スル求償権ヲ妨ケス
然レトモ法律ニ規定シタル場合ニ於テハ時効ハ婦ノ為メ最後ノ一个年停止ス
第百三十三条 前二条ノ規定ハ無能力者自身ニテ為シタル行為ノ銷除訴権ノ時効停止ニ関シ財産編第五百四十五条及ヒ第五百四十六条ニ定メタルモノヲ妨ケス
第百三十四条 配偶者ノ一人ヨリ他ノ一人ニ対シテ行フ可キ権利ニ関シテハ婚姻中ト雖モ時効ハ進行ス
然レトモ其時効ハ最後ノ一个年停止ス又一个年以下ノ時効ニ関シテハ其最後ノ半期間停止ス
第百四十四条ノ場合ニ於テハ動産回復ノ期間ハ三个月トス
第百三十五条 時効ハ財産ノ管理人ト其管理ヲ受クル者トノ間ニ於テ其保存スルコトヲ任セラレタル権利ニ付テハ管理人ノ為メニ停止ス
時効ハ管理カ止ミシ以後ニ非サレハ更ニ進行セス又第百四十四条ノ場合ニ於ケル動産ノ時効ニ関シテハ三个月ヲ以テスルニ非サレハ成就セス
第百三十六条 上ニ定メサル場合ニ於テ時効ノ期間ノ満了スル時ニ当リ有権者カ交通ノ塞カリタルニ因リ又ハ地方ノ裁判事務ノ停止セラレタルニ因リテ其権利ノ効用ヲ致サシメ又ハ時効ヲ中断スル為メ手続ヲ為スコト能ハサリシ時ハ有権者其妨碍ノ止ム後直チニ請求ヲ為スニ於テハ其失権ヲ免カルルコトヲ得
右ノ規定ハ陸海軍人カ戦乱ノ時ニ於テ服役ノ為メ其権利ヲ行フコトヲ妨ケラレタル場合ニ於テハ其利益ノ為メ之ヲ適用ス
第百三十七条 物権又ハ人権ノ不可分ヨリ生スル時効ノ停止ハ財産編第二百九十一条、第四百四十六条及ヒ債権担保編第八十九条第二項ニ於テ之ヲ規定ス
第五章 不動産ノ取得時効
第百三十八条 不動産ノ取得時効ニ付テハ所有者ノ名義ニテ占有シ其占有ハ継続シテ中断ナク且平穏、公然ニシテ下ニ定メタル継続期間アルコトヲ要ス
財産編第百八十三条及ヒ第百八十五条ニ定メタル如キ強暴、隠密又ハ容仮ノ占有ハ時効ヲ生セス
第百三十九条 占有者カ時効ニ因リテ取得セントスル物ニ付キ或ル長キ時間所有者ノ行為ヲ為スコトヲ任意ニテ止メシトキハ其占有ハ不継続ニシテ時効ヲ生セス
占有者カ再ヒ所有者ノ行為ヲ為ストキハ其以前ノ占有ノ時間ハ占有者ノ為メニ之ヲ算セス
第百四十条 占有カ上ニ定メタル条件ノ外財産編第百八十一条ニ記載シタル如キ正権原ニ基因シ且財産編第百八十二条ニ従ヒテ善意ナルトキハ占有者ハ不動産ノ所在地ト時効ノ為メ害ヲ受クル者ノ住所又ハ居所トノ間ノ距離ヲ区別セス十五个年ヲ以テ時効ヲ取得ス
占有者カ正権原ヲ証スルコトヲ得ス又ハ之ヲ証スルモ財産編第百八十七条ニ規定シタル如ク其悪意カ証セラルルトキハ取得時効ノ期間ハ三十个年トス
第百四十一条 性質上登記ヲ為ス可キ正権原ニ基因シタル時効ハ其証書ニ依リ登記ヲ為シタル後ニ非サレハ之ヲ算セス
第百四十二条 方式上無効タリ又ハ裁判上取消サレタル権原ハ時効ノ為メニ有益ナラス
第百四十三条 前主ノ占有ヲ其相続人及ヒ包括若クハ特定ノ承継人ノ占有ニ併合シ又ハ継続スルコトハ財産編第百九十二条ニ於テ之ヲ規定ス
第六章 動産ノ取得時効
第百四十四条 正権原且善意ニテ有体動産物ノ占有ヲ取得スル者ハ即時ニ時効ノ利益ヲ得但第百三十四条及ヒ第百三十五条ニ記載シタルモノヲ妨ケス
此場合ニ於テ反対カ証セラレサルトキハ占有者ハ正権原且善意ニテ占有スルモノトノ推定ヲ受ク
第百四十五条 動産物ノ占有者カ正権原ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ其物カ所有者ノ盗取セラレタルモノ又ハ遺失シタルモノナルトキハ其所有者ハ盗難又ハ遺失ノ時ヨリ二个年間ハ占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得但占有者カ其物ヲ有償ニテ受ケタルトキハ其譲渡人ニ対スル求償ヲ妨ケス
背信ニ因リテ隠匿シ又ハ詐欺ヲ以テ得タル物ニハ本条ヲ適用セスシテ前条ノ規定ニ従フ
第百四十六条 盗取セラレ又ハ遺失シタル物ヲ競売又ハ公ノ市場ニ於テ又ハ此類ノ物ノ商人若クハ古物商人ヨリ善意ニテ買受ケタル者アルトキハ所有者ハ其買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス
此場合ニ於テハ右ノ代価ニ付キ所有者ハ売主ニ対シ又売主ハ譲渡人ニ対シテ求償権ヲ有シ終ニ盗取者又ハ拾得者ニ遡ル
第百四十七条 無記名債権証書ヲ盗取セラレ又ハ遺失シタル場合ニ於テ其証書回復ノ期間及ヒ条件ハ特別ノ規則ヲ以テ之ヲ定ム
第百四十八条 上ノ場合ニ於テ回復者カ占有ノ無権原タリ又ハ悪意タルコトヲ証スルトキハ時効ハ三十个年ヲ経過スルニ非サレハ成就セス
第百四十九条 上ノ規定ハ用方ニ因リテ不動産ト為リタル動産カ其附著シタル不動産ヨリ分離セラレタル場合ニ於テハ其動産ニ之ヲ適用ス
上ノ規定ハ財産編第十二条ニ従ヒ用方ニ因ル動産ニ之ヲ適用セス但其物カ土地ヨリ分離シタルトキハ此限ニ在ラス
又上ノ規定ハ記名債権ニモ包括動産ニモ之ヲ適用セス但此等ノ物ニ関スル時効ノ期間ハ第百三十八条以下ニ記載シタル区別ニ従ヒ不動産ニ関スルモノト同一ナリ
第七章 免責時効
第百五十条 義務ノ免責時効ハ債権者カ其権利ヲ行フコトヲ得ヘキ時ヨリ三十个年間之ヲ行ハサルニ因リテ成就ス但法律上別段短キ期間ヲ定メ又ハ債権ヲ時効ニ罹ラサルモノト定メタルトキハ此限ニ在ラス
第百五十一条 債務ノ元本カ年賦ニテ弁済ス可キモノタルトキハ利息ヲ包含スルト否トヲ問ハス時効ハ各年賦ノ要求期ニ達シタル時ヨリ各別ニ之ヲ算ス
第百五十二条 債権カ無期又ハ終身ノ年金権ナルトキト雖モ其時効ハ証書ノ日附ヨリ三十个年ヲ以テ成就ス
然レトモ右ノ日附ヨリ二十八个年ノ後ニ至リ債権者ハ債務者ニ対シ時効ヲ中断スル為メ双方ノ費用ヲ以テ其権利ノ追認証書ヲ得ント要求スルコトヲ得
若シ債務者右ノ要求ヲ拒絶シ債権者裁判上自己ノ権利ヲ追認セシムル必要アルトキハ其費用ハ全ク債務者ノ負担タリ
第百五十三条 動産質又ハ不動産質ノ返還ヲ得ル為メノ対人訴権ハ適法ナル方法ニ因リテ債務ノ消滅シタル後ニ非サレハ時効ニ罹ラス
第八章 特別ノ時効
第百五十四条 人ノ身分ニ関スル訴権ハ法律カ其行使ヲ特別ノ期間ニ繋ラシムル場合ニ非サレハ時効ニ罹ラス
第百五十五条 相続人又ハ包括権原ノ受遺者若クハ受贈者ノ分限ヲシテ効用ヲ致サシムル為メノ遺産請求ノ訴権ハ相続人又ハ包括権原ノ受贈者若クハ受遺者ノ権原ニテ占有スル者ニ対シテハ相続ノ時ヨリ三十个年ヲ経過スルニ非サレハ時効ニ罹ラス
第百五十六条 免責時効ハ左ニ掲クル諸件ノ弁済ノ訴権ニ対シテハ五个年トス
第一 明確ナル金額ノ填補又ハ遅延ノ利息
第二 無期又ハ終身ノ年金権ノ年金
第三 養料又ハ恩給ノ一期ノ支払金
第四 借家賃又ハ借地賃
第五 果実又ハ日用品ノ毎期ノ給与額
第六 教師、番頭、手代、使用人、乳母其他ノ雇人ノ謝金又ハ給料ニシテ一个年毎ニ定メラレタルモノ
此他一般ニ一个年毎ニ又ハ更ニ短キ時期ヲ以テ定メタル金額又ハ有価物ニ係ル債務ニ付テモ亦同シ但其弁済ノ方法如何ニ拘ハラス且下ニ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス
第百五十七条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ三个年トス
第一 医師、産婆、薬剤者ノ治術、世話及ヒ調剤ニ関スル其訴権
第二 前条第六号ニ指定シタル教師、使用人其他ノ者ノ謝金又ハ給料カ一个年ヨリ短ク一个月ヨリ長キ時期ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テハ其訴権
第三 技師、工匠、測量師、製図師ノ経画、意見及ヒ工事ニ関スル訴権
第四 不動産ニ関スル築造、地均其他ノ工作ニ付テノ請負人ノ訴権
第百五十八条 公証人、弁護士、執達吏其他ノ公吏カ職務ニ関シテ受ク可キモノニ付テノ其訴権ニ対スル時効ハ二个年トス
此場合ニ於テ時効ハ右各人ノ債権ヲ生セシメタル行為又ハ訴訟ノ終了後ニ非サレハ進行ヲ始メス
然レトモ終了セサル事件ニ関シテハ右各人ハ五个年余ニ遡ル行為ノ為メニ謝金ヲ要求スルコトヲ得ス
此規定ハ右各人カ其職務ノ為メニ為シタル立替金及ヒ支出金ニ之ヲ適用ス
第百五十九条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ一个年トス
第一 非商人ニ為シタル供給ニ関スル日用品、衣服其他動産物ノ卸売商人又ハ小売商人ノ訴権但商人又ハ工業人ニ為シタル供給ト雖モ其者ノ商業又ハ工業ニ関セサル場合ニ於テハ亦同シ
第二 右ノ区別ヲ以テ注文者ノ材料又ハ動産物ニ付キ仕事ヲ為ス居職ノ職工又ハ製造人ノ訴権
第三 生徒又ハ習業者ノ教育、衣食及ヒ止宿ノ代料ニ関スル校長、塾主、師匠又ハ親方ノ訴権
第百六十条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ六个月トス
第一 第百五十六条第六号及ヒ第百五十七条第二号ニ指定シタル教師、使用人其他ノ者ノ謝金又ハ給料カ一个月又ハ更ニ短キ時期ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テハ其訴権
第二 旅店又ハ料理店ノ主人ヨリ供給シタル宿泊料、飲食料及ヒ消費物ニ関スル其訴権
第三 日雇、月雇ノ職工又ハ労力者ノ給料及ヒ其仕事ニ際シ此等ノ者ノ為シタル些少ノ供給ニ関スル其訴権
第百六十一条 前五条ニ規定シタル時効ハ現実ニ弁済セサリシコトヲ自白シタル債務者之ヲ援用スルコトヲ得ス
第百六十二条 裁判所書記、弁護士ハ裁判ノ時ヨリ公証人ハ証書調製ノ時ヨリ執達吏ハ其職務執行ノ時ヨリ三个年ノ後ハ其職務ノ事件ニ関シテ交付セラレタル書類ニ付キ責任ヲ免カレ其書類返還ノ証ヲ提示スル義務ヲ免除セラル
第百六十三条 本章ニ規定シタル時効ハ当事者ノ間ニ明確ナル計算書、数額ヲ記載シタル債務ノ追認書又ハ債務者ニ対スル判決書アルトキハ之ヲ適用スルコトヲ得ス此場合ニ於テハ時効ハ三十个年トス
附則
第百六十四条 本法実施ノ当時ニ於テ進行中ナル時効ハ上ニ定メタル条件、禁止、中断及ヒ停止ニ従フ
其期間ニ関シテハ旧時効カ新時効ヨリ一層長キ期間ヲ要スル場合ニ於テハ占有者又ハ債務者ハ本法実施ノ時ヨリ算シテ旧時効ノ経過ス可キ残期カ新時効ノ期間ヨリ短キトキハ旧時効ヲ利スルコトヲ得
新時効ヨリ一層短キ期間ノ旧時効ニ関シテハ其期間ハ本法ニ定メタルモノニ等シキ期間ニ達スル様之ヲ延長ス可シ