陸軍帰休兵条例
法令番号: 勅令第百四十五號
公布年月日: 明治22年12月30日
法令の形式: 勅令
朕陸軍歸休兵條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年十二月二十八日
陸軍大臣 伯爵 大山巖
勅令第百四十五號
陸軍歸休兵條例
第一條 陸軍現役兵中徵兵令第十三條ニ依リ歸休ヲ命ス可キ者ハ二箇年以上服役シタル者ニ限リ警備隊諸兵ハ八箇月以上在營シタル者ニ限ル
第二條 歸休ヲ命ス可キ人員ハ其都度陸軍大臣上裁ヲ經テ之ヲ定ム
第三條 歸休兵ハ戰時若クハ事變ニ際シ召集ス平常ト雖モ演習ノ爲メ又ハ原隊ニ於テ臨時兵員ノ補缺ヲ要スルトキハ之ヲ召集ス
第四條 歸休兵在鄕中ハ大隊區司令官ノ監視ニ屬ス
第五條 歸休兵在鄕中現役滿期ニ至リタルトキハ別ニ命ナクシテ豫備役ニ入ルモノトス
第六條 歸休兵ハ官廳ニ奉職スルコトヲ得但奉職ノ故ヲ以テ召集ヲ猶豫若クハ免除スルコトナシ
第七條 歸休兵ハ退營後七日以內ニ衞戍地ヲ出發シ一日行程十里詰ヨリ尠ナカラサル日數間ニ歸鄕シ著後七日以內ニ市町村長東京京都大阪ノ三市ニ在テハ區長以下之ニ傚フヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
退營後衞戍地若クハ其他ノ地ニ八日以上滯在若クハ寄留セント欲スルトキハ本條ノ出發期日內ニ本籍市町村ニ於テ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但歸鄕シタルトキハ前項ノ屆出ヲ爲ス可シ
第八條 歸休兵在鄕中傷痍若クハ疾病ニ由リ永久服役ニ堪ヘスト思惟スルトキハ陸軍醫官ノ診斷證書若クハ地方醫師ノ病況書ヲ添ヘ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
第九條 歸休兵在鄕中兵籍上異動ヲ生シタルトキハ七日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但監視區外ニ戶籍ヲ轉換シタルトキハ新舊所管ノ監視區長ニ屆出可シ
第十條 歸休兵在鄕中七日以上ノ旅行又ハ寄留セント欲スルトキハ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ但歸鄕シタルトキハ七日以內ニ市町村長ヲ經テ其由ヲ監視區長ニ屆出可シ
第十一條 歸休兵ハ外國ニ旅行又ハ寄留スルヲ許サス
對馬警備隊區ニ在テハ朝鮮國釜山ニ旅行又ハ寄留スルコトヲ得但此場合ニ於テハ第十條ノ例ニ依ル可シ
第十二條 歸休兵在鄕中死亡又ハ失踪シタル者アルトキハ其親族ヨリ七日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ失踪ノ者歸鄕シタルトキ若クハ踪跡ヲ知得シタルトキ亦同シ
第十三條 歸休兵在鄕中重罪輕罪罰金ヲ除クノ刑ニ處セラレタルトキハ刑名及刑期ヲ記シ其親族ヨリ七日以內ニ市町村長ヲ經テ監視區長ニ屆出可シ
第十四條 歸休兵召集ノ命ヲ受ケタルトキ傷痍疾病其他ノ事故ニテ歸營シ難キトキハ傷痍疾病ノ者ハ陸軍醫官ノ診斷證書若クハ地方醫師ノ病況書其他ノ事故ハ證明書ヲ添ヘ市町村長ノ奧書證印ヲ受ケ監視區長ニ屆出可シ
第十五條 本條例中兵ト稱スルハ徵兵令ニ依リ徵集シタル雜卒職工ヲ包含ス
第十六條 警備隊諸兵ニシテ定期退營シ又ハ輜重輸卒ニシテ退營シ尙ホ現役中ニ在ル者ハ總テ本條例ニ依ル
第十七條 第七條第九條第十條及第十一條第二項ノ屆出ヲ爲サヽル者ハ五錢以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
第十八條 第七條第十條ノ通報人ニシテ正當ノ事由ナク召集ノ命ヲ通報セス若クハ其通報ヲ遲緩シタル者及第十一條第一項ニ違背シタル者ハ一日以上十日以下ノ抅留ニ處ス
第十九條 本條例中大隊區司令官トアルハ警備隊區ニ於テハ警備隊區司官令監視區長トアルハ警備隊區副官監視區トアルハ警備隊區トス
附 則
第二十條 市制町村制ヲ實施セサル地方ニ在テ本條例中市町村長ノ職務ハ戶長ニ於テ之ヲ行フ可シ
朕陸軍帰休兵条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年十二月二十八日
陸軍大臣 伯爵 大山巌
勅令第百四十五号
陸軍帰休兵条例
第一条 陸軍現役兵中徴兵令第十三条ニ依リ帰休ヲ命ス可キ者ハ二箇年以上服役シタル者ニ限リ警備隊諸兵ハ八箇月以上在営シタル者ニ限ル
第二条 帰休ヲ命ス可キ人員ハ其都度陸軍大臣上裁ヲ経テ之ヲ定ム
第三条 帰休兵ハ戦時若クハ事変ニ際シ召集ス平常ト雖モ演習ノ為メ又ハ原隊ニ於テ臨時兵員ノ補欠ヲ要スルトキハ之ヲ召集ス
第四条 帰休兵在郷中ハ大隊区司令官ノ監視ニ属ス
第五条 帰休兵在郷中現役満期ニ至リタルトキハ別ニ命ナクシテ予備役ニ入ルモノトス
第六条 帰休兵ハ官庁ニ奉職スルコトヲ得但奉職ノ故ヲ以テ召集ヲ猶予若クハ免除スルコトナシ
第七条 帰休兵ハ退営後七日以内ニ衛戍地ヲ出発シ一日行程十里詰ヨリ尠ナカラサル日数間ニ帰郷シ著後七日以内ニ市町村長東京京都大阪ノ三市ニ在テハ区長以下之ニ倣フヲ経テ監視区長ニ届出可シ
退営後衛戍地若クハ其他ノ地ニ八日以上滞在若クハ寄留セント欲スルトキハ本条ノ出発期日内ニ本籍市町村ニ於テ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但帰郷シタルトキハ前項ノ届出ヲ為ス可シ
第八条 帰休兵在郷中傷痍若クハ疾病ニ由リ永久服役ニ堪ヘスト思惟スルトキハ陸軍医官ノ診断証書若クハ地方医師ノ病況書ヲ添ヘ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
第九条 帰休兵在郷中兵籍上異動ヲ生シタルトキハ七日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但監視区外ニ戸籍ヲ転換シタルトキハ新旧所管ノ監視区長ニ届出可シ
第十条 帰休兵在郷中七日以上ノ旅行又ハ寄留セント欲スルトキハ召集ノ命アルトキ之ヲ通報ス可キ者ヲ定メ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ但帰郷シタルトキハ七日以内ニ市町村長ヲ経テ其由ヲ監視区長ニ届出可シ
第十一条 帰休兵ハ外国ニ旅行又ハ寄留スルヲ許サス
対馬警備隊区ニ在テハ朝鮮国釜山ニ旅行又ハ寄留スルコトヲ得但此場合ニ於テハ第十条ノ例ニ依ル可シ
第十二条 帰休兵在郷中死亡又ハ失踪シタル者アルトキハ其親族ヨリ七日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ失踪ノ者帰郷シタルトキ若クハ踪跡ヲ知得シタルトキ亦同シ
第十三条 帰休兵在郷中重罪軽罪罰金ヲ除クノ刑ニ処セラレタルトキハ刑名及刑期ヲ記シ其親族ヨリ七日以内ニ市町村長ヲ経テ監視区長ニ届出可シ
第十四条 帰休兵召集ノ命ヲ受ケタルトキ傷痍疾病其他ノ事故ニテ帰営シ難キトキハ傷痍疾病ノ者ハ陸軍医官ノ診断証書若クハ地方医師ノ病況書其他ノ事故ハ証明書ヲ添ヘ市町村長ノ奥書証印ヲ受ケ監視区長ニ届出可シ
第十五条 本条例中兵ト称スルハ徴兵令ニ依リ徴集シタル雑卒職工ヲ包含ス
第十六条 警備隊諸兵ニシテ定期退営シ又ハ輜重輸卒ニシテ退営シ尚ホ現役中ニ在ル者ハ総テ本条例ニ依ル
第十七条 第七条第九条第十条及第十一条第二項ノ届出ヲ為サヽル者ハ五銭以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
第十八条 第七条第十条ノ通報人ニシテ正当ノ事由ナク召集ノ命ヲ通報セス若クハ其通報ヲ遅緩シタル者及第十一条第一項ニ違背シタル者ハ一日以上十日以下ノ拘留ニ処ス
第十九条 本条例中大隊区司令官トアルハ警備隊区ニ於テハ警備隊区司官令監視区長トアルハ警備隊区副官監視区トアルハ警備隊区トス
附 則
第二十条 市制町村制ヲ実施セサル地方ニ在テ本条例中市町村長ノ職務ハ戸長ニ於テ之ヲ行フ可シ