海軍治罪法
法令番号: 法律第五號
公布年月日: 明治22年2月15日
法令の形式: 法律
朕海軍治罪法ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年二月十二日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
海軍大臣 伯爵 西鄕從道
法律第五號
海軍治罪法左ノ通改正シ明治二十二年三月十五日ヨリ施行ス
海軍治罪法
第一章 總則
第一條 軍人ノ犯シタル重罪輕罪ノ審判ハ軍法會議ニ於テ之ヲ爲ス
海軍官署若クハ軍人ノ損害ニ係ル本案附帶ノ私訴アルトキハ軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス
第二條 軍法會議ハ傍聽ヲ許サス但其裁判宣吿ヲ爲ストキハ軍人ニ限リ之ヲ許ス
第三條 軍人ト稱スルハ海軍刑法第五十條第五十一條ニ記載シタル者ヲ謂フ
陸軍軍人ト稱スルハ陸軍刑法第三條第九條ニ記載シタル者ヲ謂フ
第四條 長官ト稱スルハ海軍大臣及ヒ司令官ヲ謂フ
司令官ト稱スルハ鎭守府司令長官艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官及ヒ合圍ノ地ノ司令官ヲ謂フ
第五條 親屬ト稱スルハ普通刑法第百十四條第百十五條ニ記載シタル者ヲ謂フ
第六條 普通治罪法第九條第十條第十一條第十二條第十三條第十四條第十八條第三十九條第百條第百一條第百三十三條第三項第百四十六條第百五十六條第二百六十一條第一項ハ此治罪法ニ於テ之ヲ適用ス
第七條 歸休兵及ヒ豫備後備ノ軍籍ニ在ル者ハ召集中ノ外軍人ノ例ニ依ルコトヲ得ス
第八條 臨戰合圍ノ地ニ於テハ司令官審判ノ手續ヲ省略スルコトヲ得
第二章 軍法會議ノ構成
第九條 軍法會議ヲ設クルコト左ノ如シ
東京軍法會議
鎭守府軍法會議
艦隊軍法會議
高等軍法會議
合圍地軍法會議
東京軍法會議及ヒ各鎭守府軍法會議ハ常設ト爲シ艦隊軍法會議ハ臨時各艦隊ニ之ヲ設ケ高等軍法會議ハ臨時東京ニ之ヲ設ケ合圍地軍法會議ハ臨戰合圍ノ戒嚴間之ヲ設ク
第十條 軍法會議ハ判士長判士主理若クハ主理試補及ヒ錄事ヲ以テ構成ス
第十一條 判士長判士ハ高等軍法會議ニ於テハ第一表ニ據リ他ノ軍法會議ニ於テハ第二表ニ據リ將校ヲ以テ之ニ充ツ
臨戰合圍ノ地ニ於テハ判士二名ヲ減スルコトヲ得
第一表
判士長
判士
被吿人
佐官
一名
尉官
四名
陸海軍下士以下ノ軍人
佐官
一名
大尉
少尉
二名
二名
海軍少尉及同等ノ陸海軍人竝ニ准士官
佐官
一名
大尉(奏任官四等)
大尉(同  五等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官五等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐
一名
少佐
大尉(奏任官四等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官四等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐(奏任官一等)
一名
大佐(奏任官二等)
少佐
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少佐及ヒ同等ノ陸海軍人
少將
一名
大佐(奏任官一等)
大佐(同  二等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官二等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中將
一名
少將
大佐(奏任官一等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官一等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中將
一名
中將
少將
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少將及ヒ同等ノ陸海軍人
大將
一名
中將
少將
三名若クハ二名
一名若クハ二名
海軍中將及ヒ同等ノ陸海軍人
大將
一名
大將
中將
一名
三名
陸海軍大將
第二表
判士長
判士
被吿人
佐官
一名
尉官
四名
陸海軍下士以下ノ軍人
佐官
一名
大尉
少尉
二名
二名
海軍少尉及ヒ同等ノ陸海軍人竝ニ准士官
佐官
一名
大尉(奏任官四等)
大尉(同  五等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官五等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐
一名
少佐
大尉(奏任官四等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官四等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐(奏任官一等)
一名
大佐(奏任官二等)
少佐
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少佐及ヒ同等ノ陸海軍人
少將
一名
大佐(奏任官一等)
大佐(同  二等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官二等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中將
一名
少將
大佐(奏任官一等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官一等)及ヒ同等ノ陸海軍人
第十二條 軍人ニ非サル者ヲ軍法會議ニ於テ審判ス可キトキハ其身分ニ依リ前條ノ各表ニ照シテ判士長判士ヲ定ム
第十三條 外國又ハ戰地ニ數隻ノ艦船ヲ差遣スルトキハ海軍大臣其先任艦長ニ軍法會議ヲ開クノ權ヲ附與スルコトヲ得此場合ニ於テハ其權限艦隊司令官ニ同シ
第十四條 將官ヲ以テ判士長判士ト爲ストキハ海軍大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ勅命ス
佐官ヲ以テ判士長判士ト爲シ尉官ヲ以テ判士ト爲ストキ東京ニ於テハ海軍大臣之ヲ命シ鎭守府若クハ艦隊ニ於テハ司令官其部下中ヨリ之ヲ命ス
艦隊ニ於テ判士ト爲ル可キ將校缺乏スルトキハ准將校ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
鎭守府若クハ艦隊ニ於テ部下ニ非サル者ヲ以テ判士長判士ト爲スヲ要スルトキハ司令官ノ上申ニ依リ海軍大臣之ヲ命ス
第十五條 艦隊軍法會議ニ於テハ司令官部下ノ將校准將校ヲシテ主理ノ職務ヲ行ハシメ士官若クハ下士ヲシテ錄事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十六條 合圍地軍法會議ノ判士長判士ハ司令官其部下中ヨリ之ヲ命ス
第十七條 臨戰合圍ノ地ニ於テハ司令官專任判士ヲ命スルコトヲ得又部下ノ下士ヲシテ錄事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
合圍ノ地ニ於テハ司令官其地所在ノ高等官ヲ以テ判士若クハ主理ニ充テ判任官ヲ以テ錄事ニ充ツルコトヲ得
第十八條 判士長判士主理左ニ記載シタル者ナルトキハ其審判ニ從事スルコトヲ得ス
一 被吿人被害者及ヒ其配偶者ノ親屬
二 被吿人被害者ノ後見人
三 吿發人被害者及證據ヲ陳述シタル者
第十九條 原裁判ニ從事シタル判士長判士主理ハ再議及ヒ再審ノ裁判ニ列スルコトヲ得ス
海軍檢察ノ職務ヲ行ヒタル者ハ其事件ノ審判ヲ爲スコトヲ得ス
第十五條ノ場合ニ於テ審問ヲ爲シタル者ニハ其事件ノ判士長判士ヲ命スルコトヲ得ス
第二十條 第十四條第四項ノ場合ニ於テ海軍大臣ハ判士長判士ヲ命セスシテ被吿人ヲ他ノ常設ノ軍法會議ニ移シテ其審判ヲ爲サシムルコトヲ得
第三章 軍法會議ノ權限
第二十一條 東京軍法會議ハ左ニ記載シタル者ヲ審判ス
一 司令官ノ部下ニ屬セサル佐官以下ノ軍人其他海軍ノ用ニ供スル船舶ノ乘員ニシテ重罪輕罪ヲ犯シタル者
二 第二十三條第二項第三項ニ依リ審判ノ委託ヲ受ケタル者
第二十二條 鎭守府軍法會議ハ左ニ記載シタル者ヲ審判ス
一 鎭守府司令長官ノ部下ニ屬スル佐官以下ノ軍人其他鎭守府ノ用ニ供スル船舶ノ乘員ニシテ重罪輕罪ヲ犯シタル者
二 第二十三條第二項第三項ニ依リ審判ノ委託ヲ受ケタル者
第二十三條 艦隊軍法會議ハ艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官ノ部下ニ屬スル佐官以下ノ軍人其他從軍諸員及ヒ艦隊ノ用ニ供スル船舶ノ乘員ニシテ重罪輕罪ヲ犯シタル者ヲ審判ス
艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官ハ時機ニ依リ前項ニ記載シタル者ノ審判ヲ常設ノ軍法會議ニ委スルコトヲ得
艦隊ニ屬スル艦船長ハ事件急速ヲ要スル場合ニ於テハ直チニ前項ノ處分ヲ爲スコトヲ得但其事由ヲ速ニ其艦隊司令長官艦隊司令官若クハ分遣艦隊司令官ニ報吿ス可シ
第二十四條 艦隊若クハ數隻ノ艦船外國ニ出發ノ後其司令官若クハ先任艦長ノ部下ニ屬スル者內國ニ在テ犯罪發覺シタルトキハ本人所在ノ地最近ノ軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス可シ
第二十五條 佐官以下ノ軍人軍法會議所在ノ軍區內ニ於テ重罪輕罪ヲ犯シタルトキハ管轄外ノ者ト雖モ其地ノ軍法會議ニ於テ之ヲ審判スルコトヲ得
第二十六條 高等軍法會議ハ將官若クハ其同等軍人ノ犯シタル重罪輕罪ヲ審判シ及ヒ再審ノ審判ヲ爲ス
第二十七條 合圍地軍法會議ハ第二十一條第二十二條第二十三條ニ記載シタル者ノ臨戰合圍ノ地ニ在リテ犯シタル重罪輕罪ヲ審判ス
第二十八條 合圍地軍法會議ニ於テハ從軍常人ノ犯罪ヲ審判シ又何人ト雖モ海軍刑法ヲ以テ論ス可キ罪ヲ犯シタルトキハ其審判ヲ爲ス可シ
合圍ノ地ノ特別裁判權ハ戒嚴令定ムル所ニ依ル
第二十九條 臨戰合圍ノ地ニ於テ專任判士ヲ以テ構成シタル軍法會議ハ高等軍法會議ノ管轄ニ屬スル事件ノ外被吿人ノ身分ニ抅ハラス其犯罪ヲ審判スルコトヲ得
第三十條 俘虜降人ノ犯罪ハ軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十一條 軍人任官就役前ノ犯罪ト雖モ在官現役中ハ軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス在官現役中ノ犯罪ト雖モ免官若クハ現役ヲ去リタル後吿訴吿發アリタルトキハ普通裁判所ノ裁判ニ付ス
第三十二條 軍人二人以上共ニ重罪輕罪ヲ犯シ若クハ附帶犯ニシテ各其管轄ヲ異ニスルトキハ先キニ審判ニ著手シタル軍法會議ニ於テ之ヲ審判シ高等軍法會議ノ管轄ニ屬スル者ト共犯若クハ附帶犯ニ係ルトキハ高等軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス陸軍軍人ト共犯若クハ附帶犯ニ係ルトキモ亦同シ
第三十三條 數罪倶ニ發シテ各其管轄ヲ異ニシ又ハ審判中裁判管轄變更シタルトキハ既ニ審判ニ著手シタル軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十四條 重罪輕罪ト倶ニ發シ若クハ重罪輕罪ニ附帶シ若クハ重罪輕罪ト認メ審判ニ著手シタル違警罪ハ軍法會議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十五條 合圍地軍法會議ヲ廢スルトキ其軍法會議ニ於テ管轄シタル被吿事件ハ通常ノ權限ニ照シ管轄軍法會議ヲ以テ其管轄ト爲ス
第四章 海軍檢察
第三十六條 海軍檢察ハ海軍ニ關スル犯罪ヲ搜査シ證憑ヲ收集ス
第三十七條 海軍檢察官ハ左ニ記載シタル諸官ヲ以テ之ニ充ツ
一 艦船營副長分隊長
二 生徒隊司令官生徒分隊長及ヒ學校監事
三 衞兵司令
四 軍法會議ノ主理及ヒ主理試補
第三十八條 各廳長及ヒ艦船營長ハ各其管スル所ノ事ニ關シ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ檢察ノ處分ヲ爲シ若クハ海軍檢察官ニ其處分ヲ委ス可シ
第三十九條 何人ヲ論セス軍人ノ犯罪ニ因リ損害ヲ受ケタル者ハ海軍檢察官若クハ被吿人ノ所屬長若クハ憲兵ノ將校下士又ハ豫審判事檢事司法警察官ニ之ヲ吿訴スルコトヲ得
第四十條 何人ヲ論セス軍人ノ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ前條ニ記載シタル諸官ニ吿發スルコトヲ得
第四十一條 海軍所屬ノ官吏職務ヲ行フニ因リ軍人及ヒ海軍ノ用ニ供スル船舶乘員ノ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ第三十九條ニ記載シタル諸官ニ吿發ス可シ
第四十二條 憲兵ノ將校下士又ハ豫審判事檢事司法警察官軍人ニ係ル重罪輕罪ノ吿訴吿發ヲ受ケタルトキハ其事件ヲ海軍檢察官若クハ被吿人ノ所屬長ニ交付ス可シ
第四十三條 海軍檢察官憲兵ノ將校下士卒又ハ司法警察官巡査ハ軍人ノ重罪輕罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ直ニ之ヲ逮捕ス可シ
第四十四條 何人ヲ論セス軍人ノ重罪輕罪ノ現行犯アルトキハ直ニ之ヲ逮捕スルコトヲ得
其逮捕シタル者ハ海軍檢察官又ハ司法警察官若クハ憲兵卒巡査ニ之ヲ交付ス可シ
第四十五條 憲兵卒巡査現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校下士又ハ司法警察官ニ之ヲ引致ス可シ
第四十六條 海軍檢察官現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ訊問及ヒ檢證處分ヲ爲シ調書ヲ作ル可シ各廳長艦船營長現行犯ノ軍人ヲ逮捕シタルトキハ前項ノ處分ヲ爲シ又ハ其處分ヲ海軍檢察官ニ委シ若クハ憲兵ノ將校下士ニ囑託スルコトヲ得
第四十七條 海軍檢察官各廳長艦船營長現行犯人ヲ逮捕シ若クハ其檢證處分ヲ爲ストキハ公力ヲ用フルコトヲ得
第四十八條 海軍檢察官及ヒ各廳長艦船營長軍人ト共犯ノ常人アルコトヲ知リタルトキハ前數條ニ照シ其處分ヲ爲ス可シ
第四十九條 憲兵ノ將校下士又ハ司法警察官現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ假リニ訊問及ヒ檢證處分ヲ爲シ調書ヲ作リ海軍檢察官ニ之ヲ送致ス可シ
第五十條 吿訴人吿發人ハ其願下ヲ爲シ若クハ其陳述ヲ變更センコトヲ請求スルコトヲ得
第五十一條 海軍檢察官各廳長艦船營長檢察ノ處分ヲ爲シタルトキハ被吿事件ニ證憑物件ヲ添ヘ左ノ手續ヲ爲ス可シ
一 重罪輕罪ト認ムルトキハ之ヲ長官ニ具申ス可シ但艦隊ニ於テハ被吿人所屬ノ艦船長ヲ經由ス可シ
二 違警罪ト認ムルトキハ之ヲ管轄ス可キ官司ニ交付ス可シ
三 裁判管轄ニ非サル者軍人ナルトキハ之ヲ其事件ヲ管理ス可キ長官部下ノ海軍檢察官ニ送致シ陸軍軍人ナルトキハ其事件ヲ管轄ス可キ軍法會議所在ノ地ノ陸軍檢察官ニ送致シ常人ナルトキハ檢察處分ヲ爲シタル地ノ檢事ニ送致ス可シ但軍人ト共犯ノ常人ナルトキハ長官ニ具申ス可シ
四 高等軍法會議ノ管轄ニ屬スルモノナルトキハ之ヲ海軍大臣ニ具申ス可シ
第五章 審問
第五十二條 長官被吿事件ノ具申ヲ受ケタルトキハ左ノ手續ヲ爲ス可シ
一 其犯罪輕罪以上ノ刑ニ該ル可キモノト認ムルトキハ審問若クハ審判ノ命令ヲ下シ禁錮以下ノ刑ニ該ル可キモノニシテ審問ヲ要セスト認ムルトキハ直チニ判決ノ命令ヲ下ス可シ
二 審問若クハ審判若クハ判決ノ命令ヲ下シタルトキハ其事件ヲ主理ニ下付ス可シ
第五十三條 主理審問ヲ爲ストキハ先ツ召喚狀ヲ發ス可シ
被吿人出廷シタルトキハ即日之ヲ訊問ス可シ
罰金以下ノ刑ニ該ル可キ被吿人ハ代人ヲ出廷セシムルコトヲ得
第五十四條 主理ハ召喚狀ヲ受ケタル被吿人其日時ニ出廷セサルトキハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
第五十五條 主理ハ重罪ノ刑ニ該ル可キモノト認ムル被吿人ナルトキ又ハ輕罪以下ノ刑ニ該ル可キモノト認ムル被吿人ニシテ罪證ヲ湮滅シ若クハ逃走ノ恐アルトキ又ハ未遂罪ヲ犯シ其目的ヲ遂ケ若クハ脅迫罪ヲ犯シ其手段ヲ實行スルノ恐アルトキハ直チニ勾引狀ヲ發ス可シ
第五十六條 主理ハ召喚狀若クハ勾引狀ヲ受ク可キ被吿人遠隔ノ地ニアルトキハ其地ノ主理海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校下士又ハ豫審判事司法警察官ニ訊問ヲ囑託スルコトヲ得又其地ノ主理海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校下士又ハ司法警察官ニ召喚狀ノ送達勾引狀ノ執行ヲ囑託スルコトヲ得
第五十七條 勾引狀ヲ以テ引致シタル被吿人ハ四十八時內ニ之ヲ訊問ス可シ四十八時ヲ經過シ仍ホ留置ヲ要スルトキハ收禁狀ヲ發ス可シ
第五十八條 主理ハ召喚狀若クハ勾引狀ヲ受ケタル被吿人疾病其他正當ノ事故アリテ令狀ニ應スル能ハサルコトヲ證明シタルトキハ其所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得若シ被吿人遠隔ノ地ニ在ルトキハ其地ノ主理海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校下士又ハ豫審判事司法警察官ニ訊問ノ條件ヲ明示シテ其處分ヲ囑託スルコトヲ得
第五十九條 主理ハ被吿人ノ所在ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校及ヒ各控訴院ノ檢事長ニ人相書ヲ送リ其逮捕ヲ求ムルコトヲ得
第六十條 主理ハ被吿人禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノト認ムルトキハ收禁狀ヲ發スルコトヲ得
收禁狀ヲ發シタル後被吿事件禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノニ非ス又ハ收禁ヲ要セサルモノト認ムルトキハ收禁ヲ取消ス可シ
第六十一條 勾引狀收禁狀ハ衞兵若クハ軍屬ヲシテ之ヲ執行セシム可シ
勾引狀ヲ受ク可キ被吿人艦船營內若クハ隊伍ニ在ルトキハ艦船營長隊伍ノ長ニ依リ其執行ヲ求ム可シ
陸軍營內若クハ隊伍ニ在ルトキハ隊長ニ依リ其執行ヲ求ム可シ
勾引狀ヲ執行スルニ方リ被吿人其家宅若クハ他人ノ家ニ逃匿シタリト認ムルトキハ其地ノ戶長若クハ隣佑ノ立會ヲ求メ之ヲ搜索シ其調書ヲ作リ立會人ト共ニ署名捺印ス可シ若シ立會ヲ求ムルニ暇アラス若クハ之ヲ得ル能ハサルトキハ其立會ナクシテ搜索ヲ爲スコトヲ得
第六十二條 主理ハ事實審明ノ爲メ臨檢家宅搜索物件押收ノ處分ヲ爲スコトヲ得
其場所遠隔ノ地ニ在ルトキハ其地ノ主理海軍檢察官若クハ憲兵ノ將校下士又ハ豫審判事司法警察官ニ其處分ヲ囑託スルコトヲ得
第六十三條 主理ハ事實審明ノ爲メ驛遞電信鐵道ノ官署及ヒ諸會社ニ事由ヲ通知シテ被吿事件ニ關係アル往復文書電報及ヒ物件ヲ收受開披スルコトヲ得
其場所遠隔ノ地ニ在ルトキハ前條第二項ノ例ニ依リ本條ノ處分ヲ囑託スルコトヲ得
第六十四條 主理ハ證人及ヒ通事ヲ呼出スコトヲ得
證人皇族若クハ勅任官ナルトキ主理其所在ニ就キ陳述ヲ聽ク可シ
證人疾病其他正當ノ事故アリテ呼出ニ應スル能ハサルコトヲ證明シタルトキハ主理其所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
證人遠隔ノ地ニアルトキハ第六十二條第二項ノ例ニ依リ本條ノ處分ヲ囑託スルコトヲ得
第六十五條 左ニ記載シタル者ハ證人ト爲スコトヲ得ス但事實參考ノ爲メ其陳述ヲ聽クコトヲ得
一 被害者
二 被害者及ヒ被吿人ノ親屬
三 被害者及ヒ被吿人ノ後見人又ハ其後見ヲ受クル者
四 被害者及ヒ被吿人ノ雇人
五 現ニ陳述ヲ爲ス可キ事件ニシテ曾テ訴ヲ受ケ證憑充分ナラサルニ因リ免訴ノ宣吿ヲ受ケタル者
六 重罪事件ノ爲メ軍法會議ノ判決ニ付セラレタル者若クハ重罪裁判所ニ移スノ言渡ヲ受ケタル者及ヒ重禁錮ノ刑ニ該ル可キ輕罪事件ノ爲メ軍法會議又ハ普通裁判所ノ判決ニ付セラレタル者
七 公權ヲ剝奪セラレタル者又ハ公權ヲ停止セラレタル者
八 十六歲未滿ノ者
九 知覺精神ノ不充分ナル者
十 瘖啞者
第六十六條 主理被吿人證人事實參考人ヲ訊問シ若クハ臨檢家宅搜索物件押收ノ處分ヲ爲ストキハ錄事之ニ立會ヒ調書ヲ作リ訊問及ヒ供述ヲ錄取シ被吿人證人事實參考人ニ讀示ス可シ
主理ハ其讀示シタル所其陳述ニ違ハサルヤ否ヲ問ヒ陳述者ヲシテ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ錄事ヲシテ其旨ヲ記セシム可シ
急遽ノ際若クハ事故アリテ錄事立會ヲ爲スコト能ハサルトキハ其立會ナクシテ本條ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第六十七條 主理犯罪ノ性質方法及ヒ結果ヲ分明ナラシムル爲メ鑑定人ヲ要スルトキハ學術又ハ職業ニ因リ鑑定スルコトヲ得可キ者ニ命シテ其鑑定ヲ爲サシム可シ但第六十五條ニ記載シタル者ハ鑑定人ト爲スコトヲ得ス若シ急遽ノ際正當ノ鑑定人ヲ得ルコト能ハサルトキハ參考ノ爲メ之ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
鑑定ヲ爲シタル者ハ鑑定書ヲ作リ其方法結果及ヒ鑑定ヲ爲シタル時間ヲ詳記ス可シ若シ結果ヲ得ルコト能ハサルトキハ其推測スル所ヲ記シ之ニ署名捺印ス可シ
第六十八條 主理ハ證人通事鑑定人ヲシテ正實ニ陳述通譯鑑定ヲ爲ス可キコトヲ宣誓セシム可シ
主理ハ證人通事鑑定人ニ宣誓書ヲ讀示シ之ニ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ錄事ヲシテ其旨ヲ附記セシム可シ
宣誓書ハ訴訟書類ニ添ヘ置ク可シ
第六十九條 主理ハ證人通事鑑定人事實參考人及ヒ參考ノ爲メ鑑定ヲ命シタル者疾病其他正當ノ事故ヲ證明セスシテ呼出ニ應セサルトキハ二圓以上十圓以下ノ罰金ヲ科ス可シ若シ再度ノ呼出ニ應セサルトキハ更ニ二倍ノ罰金ヲ科ス可シ若シ五日內ニ正當ノ事故アリテ出廷スルコト能ハサリシコトヲ證明シタルトキハ罰金ノ宣吿ヲ取消ス可シ
前項ノ場合ニ於テ證人事實參考人ニ對シテハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
第七十條 主理ハ證人鑑定人宣誓ヲ肯セス若クハ宣誓シテ陳述鑑定ヲ肯セサルトキハ證人ハ普通刑法第百八十條ニ依リ鑑定人ハ同法第百七十九條ニ依リ罰金ヲ科ス可シ
證人トシテ呼出シタル醫師藥商穩婆代言人辯護人公證人神官僧侶其身分職業ニ關スル祕密ノ事件ニ因リ委託ヲ受ケタル事ニ關シ陳述ヲ肯セサルトキハ前項ノ例ニ在ラス
第七十一條 主理ハ通事宣誓ヲ肯セス若クハ宣誓シテ通譯ヲ肯セサルトキ又ハ事實參考ノ爲メ陳述鑑定ヲ命セラレタル者之ヲ肯セサルトキハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ヲ科ス可シ
第七十二條 主理ハ證人事實參考人ノ陳述ヲ確實ナラシムル爲メ犯所若クハ其他ノ場所ニ同行スルコトヲ得
證人事實參考人同行スルコトヲ肯セサルトキハ第六十九條ニ照シ罰金ヲ科ス可シ
第七十三條 證人通事鑑定人事實參考人及ヒ參考ノ爲メ鑑定ヲ命セラレタル者ニ科シタル罰金ヲ完納セシメ若クハ罰金ヲ禁錮ニ換フルノ處分ハ普通刑法第二十七條ニ依リ主理之ヲ爲ス可シ
第七十四條 主理ハ被吿事件ニ關スル調書說明ノ爲メ其調書ヲ作リタル海軍檢察官又ハ司法警察官其他ノ官吏ヲ呼出スコトヲ得
第七十五條 主理審問ニ於テ共犯附帶犯若クハ餘罪ヲ覺擧シタルトキハ直ニ之ヲ審問ス可シ但其共犯者附帶犯者高等軍法會議ノ管轄ニ屬スルトキハ之ヲ長官ニ具申ス可シ
第七十六條 軍人ト共犯セシ常人ハ審問ヲ終リタル後證憑物件ヲ添ヘ其共犯事件ヲ管轄スル軍法會議所在ノ地ノ檢事ニ送致ス可シ
第七十七條 主理ハ審問中被吿人ヲ其親屬故舊ニ責付スルコトヲ得但艦船營內居住ノ者ハ責付スルノ限ニ在ラス
第七十八條 主理審判若クハ審問ノ命令ヲ受ケタル事件ノ審問ヲ終リ若クハ判決ノ命令ヲ受ケタルトキハ左ノ手續ヲ爲ス可シ
一 審判若クハ判決ノ命令ヲ受ケタル事件ニ於テハ意見書ヲ作リ訴訟書類ト共ニ之ヲ判士長ニ交付シ會議ノ日時ヲ定メ判士長判士ニ通報ス可シ
二 裁判管轄ニ非ス若クハ免訴ト爲ス可キ事件ニ於テハ訴訟書類ニ意見書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ審問ノ命令ヲ受ケタル事件ニ於テモ亦同シ
第七十九條 長官審問ノ命令ヲ下シタル事件ノ具申ヲ受ケ其事件有罪ナリト認ムルトキハ更ニ判決ノ命令ヲ下ス可シ
第六章 判決
第八十條 軍法會議ハ判士長判士主理錄事列席シテ之ヲ開ク可シ
第八十一條 判士長ハ被吿人ヲ訊問シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其訊問ヲ爲サシム可シ
主理其審問ヲ要スルトキハ判士長ニ請フテ自ラ之ヲ訊問シ若クハ其訊問ヲ求ムルコトヲ得
第八十二條 判士長ハ開廷ヨリ判決終結ニ至ルマテノ間必要ト認ムルトキハ令狀ヲ發スルコトヲ得
判士長ハ法廷ニ於テ警戒ノ爲メ相當ノ處置ヲ爲スコトヲ得
法廷ニ於テ罪ヲ犯ス者アルトキハ判士長檢證ノ處分ヲ爲シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其處分ヲ爲サシメ調書及ヒ證憑文書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ但其犯人被吿人ナルトキハ本案事件ト共ニ直ニ判決ヲ爲ス可シ
第八十三條 判士長ハ法廷其他ノ場合ニ於テ證人通事鑑定人ヲ要シ若クハ調書說明ノ爲メ官吏ノ呼出ヲ要スルトキハ第五章ノ例ニ依ル
第八十四條 證人通事鑑定人事實參考人及ヒ參考ノ爲メ鑑定ヲ命セラレタル者疾病其他正當ノ事故ナクシテ呼出ニ應セサルトキハ主理ノ意見ヲ聽キ軍法會議ニ於テ直ニ左ノ罰金科料ヲ科ス可シ
一 違警罪事件ニ於テハ五十錢以上一圓九十五錢以下ノ科料
二 輕罪以上ノ事件ニ於テハ二圓以上二十圓以下ノ罰金
第八十五條 判士長ハ證人事實參考人ヲ訊問シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其訊問ヲ爲サシム可シ
主理其訊問ヲ要スルトキハ判士長ニ請フテ自ラ之ヲ訊問シ若クハ其訊問ヲ求ムルコトヲ得
第八十六條 判決ノ爲メ更ニ檢證處分ヲ要スルコトアルトキハ判士長其處分ヲ爲シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ之ヲ爲サシム可シ
共犯附帶犯若クハ餘罪ヲ覺擧シタルトキハ直ニ其判決ヲ爲シ若クハ主理ニ移シテ其審問ヲ爲サシム可シ但其共犯者附帶犯者高等軍法會議ノ管轄ニ屬スルトキハ判士長ヨリ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
第八十七條 被吿人ノ訊問終リタルトキハ判士長更ニ被吿人ニ對シ他ニ陳述ス可キコトナキヤ否ヲ問ヒ訊問終リタル旨ヲ吿ケ被吿人ヲ退廷セシメ其判決ヲ爲ス可シ
第八十八條 禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ被吿人逃走シテ開廷ノ日時ニ出廷セス若クハ其逃走ニ因リ召喚狀ヲ送達スルコトヲ得サルトキ及ヒ罰金以下ノ刑ニ該ル可キ被吿人召喚狀ヲ受ケ開廷ノ日時ニ出廷セサルトキハ闕席裁判ヲ爲スコトヲ得
第八十九條 數人共犯ノ判決ヲ爲ストキハ被吿人中闕席シタル者アリト雖モ出廷シタル者ニ對シ其判決ヲ爲スコトヲ得
第九十條 主理ハ會議席ニ列シ意見書ノ趣旨ヲ說明スヘシ
會議ノ判決其意見ト合ハサルトキハ其旨ヲ記シタル書面ヲ判決書ニ添フルコトヲ得
其判決法律ニ違ヒ再議ス可キ理由アリト認ムルトキハ之ヲ其判決ノ命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
第九十一條 判決書ハ主理左ノ條件ニ照シテ之ヲ作リ判士長判士錄事ト共ニ署名捺印シ訴訟文書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
一 判決ノ理由
二 有罪ノ判決書ニハ犯罪ノ證憑及ヒ其罪ヲ罰ス可キ法律ノ正條
三 無罪ノ判決書ニハ被吿人ノ死去セシコト若クハ人違ヒナリシコト若クハ被吿事件罪トナラサルコト若クハ犯罪ノ證憑備ラサルコト
四 免訴ノ判決書ニハ公訴期滿免除ト爲リタルコト若クハ大赦アリタルコト若クハ確定裁判ヲ經タルコト若クハ法律ニ於テ其罪ヲ全免スルコト
五 管轄違ヒノ判決書ニハ其旨
六 私訴ノ裁判アリタルトキハ其旨
七 被吿人ノ官位勳爵隊號職名氏名族籍年齡住所判決ノ年月日
第九十二條 長官左ニ記載シタルモノハ訴訟書類ヲ添ヘ海軍大臣ニ具申シ其他ハ裁判宣吿ノ命令ヲ下ス可シ
一 死刑ニ該リタルトキ
二 佐官及ヒ同等軍人ノ重罪輕罪ノ刑ニ該リタルトキ
三 尉官及ヒ同等軍人ノ重罪ノ刑ニ該リタルトキ
第九十三條 海軍大臣前條ノ具申ヲ受ケタルトキ又ハ高等軍法會議ノ判決將官及ヒ其同等軍人ノ重罪輕罪ノ刑ニ該リ若クハ前條ニ記載シタルモノニ該リタルモノハ意見書ヲ附シ上奏スヘシ
其裁可アリタルトキ高等軍法會議ノ判決ニ係ルモノハ裁判宣吿ノ命令ヲ下シ他ノ軍法會議ノ判決ニ係ルモノハ長官ニ下付シ長官ヲシテ裁判宣吿ノ命令ヲ下サシム可シ
第九十四條 臨戰合圍ノ地ニ於テハ司令官第九十二條ノ例ニ依ラス直ニ裁判宣吿ノ命令ヲ下スコトヲ得
第九十五條 長官軍法會議ノ判決法律ニ違ヒタリト認ムルトキハ之ヲ再議セシメ直ニ裁判宣吿ノ命令ヲ下ス權ナキモノハ意見書ヲ附シテ海軍大臣ニ具申ス可シ
第九十六條 海軍大臣高等軍法會議若クハ長官ヨリ具申シタル判決法律ニ違ヒタリト認ムルトキハ之ヲ再議セシム可シ
第九十七條 裁判宣吿ノ命令アリタルトキハ判士長判士主理錄事列席シ被吿人ヲ出廷セシメ判士長其宣吿ヲ爲ス可シ
闕席裁判ノ宣吿ハ被吿人闕席ノマヽ之ヲ爲ス可シ禁錮以上ノ刑ニ該リタル被吿人對審終結ノ後逃走シテ出廷セス若クハ罰金以下ノ刑ニ該リタル被吿人呼出ニ應セサルトキモ亦同シ
第九十八條 禁錮以上ノ刑ニ該リタル被吿人其宣吿ヲ受ケテ逃走シ若クハ前條第二項ニ依リ闕席ノマヽ宣吿アリタルトキハ主理逮捕狀ヲ發ス可シ
逮捕狀執行ノ方法ハ勾引狀執行ノ例ニ從フ若シ其所在分明ナラサルトキハ第五十九條ノ例ニ依ル
第九十九條 被吿人闕席ノマヽ宣吿ヲ爲シタルトキハ其宣吿書ヲ軍法會議ノ門前ニ揭示シ其一通ヲ被吿人ノ住所ニ送達ス可シ
第百條 外國若クハ航海中ニ於テ司令官又ハ艦船長ハ輕罪ノ刑ノ宣吿ヲ受ケタル下士卒ニ戴罪服務ヲ命スルコトヲ得
戴罪服務ノ日數ハ刑期ニ算入セス
第七章 再審
第百一條 海軍大臣軍法會議ニ於テ法律ノ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ宣吿シ若クハ法律ニ定ムル所ノ刑ヨリ重キ刑ヲ宣吿シ若クハ無罪ノ宣吿ヲ爲ス可キニ免訴ノ宣吿ヲ爲シタルコトアルヲ知リタルトキハ再審ヲ爲サシム可シ
第百二條 軍法會議ノ宣吿左ニ記載シタル條件ニ觸ルヽモノアルトキハ主理及ヒ被吿人ヨリ再審ノ申訴ヲ爲スコトヲ得被吿人死去シタルトキハ其親屬之ヲ爲スコトヲ得
一 人ヲ殺シタル罪ニ付刑ノ宣吿アリタル後其殺サレタリト認メラレタル者犯罪後現ニ生存シ又ハ犯罪前既ニ死去シタル確證アリタルトキ
二 同一ノ事件ニ付共犯ニ非スシテ別ニ刑ノ宣吿ヲ受ケタルモノアリタルトキ
三 公正ノ證書ヲ以テ當時犯罪ノ場所ニ在ラサルコトヲ證明シタルトキ
四 既ニ判決ヲ經タル事件ニ對シ再ヒ判決アリタルトキ
五 被吿人ヲ陷害シタル罪ニ因リ刑ノ宣吿ヲ受ケタル者アリタルトキ
六 公正ノ證書ヲ以テ訴訟書類ニ僞造又ハ錯誤アルコトヲ證明シタルトキ
第百三條 海軍大臣前條ニ記載シタル事實アルコトヲ知リタルトキハ再審ヲ爲サシム可シ
長官其事實ヲ發見シタルトキハ訴訟書類ニ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ具申ス可シ
第百四條 再審ノ申訴ハ刑ノ宣吿ヲ爲シタル軍法會議ヲ管轄スル長官ニ之ヲ爲ス可シ艦隊軍法會議高等軍法會議合圍地軍法會議ニ於テ刑ノ宣吿ヲ受ケタル者ナルトキハ海軍大臣ニ其申訴ヲ爲ス可シ
主理其申訴ヲ爲ストキハ其理由書ニ原裁判宣吿書ノ謄本及ヒ證憑書類ヲ添フ可シ
被吿人若クハ其親屬其申訴ヲ爲ストキハ其理由書ヲ主理ニ出シ主理意見書ヲ添フ可シ
長官再審ノ申訴ヲ受ケタルトキハ訴訟書類ニ意見書ヲ附シ之ヲ海軍大臣ニ具申ス可シ
海軍大臣再審ノ申訴若クハ具申ヲ受ケタルトキハ之ヲ再審セシム可シ
第百五條 海軍大臣再審ノ命令ヲ下シタルトキ刑ノ執行中ニ係ルモノハ其執行ヲ停止ス可シ
第百六條 再審ヲ爲シタル事件前ニ上奏ヲ經タルモノナルトキハ其判決ヲ上奏シテ裁可ヲ請フ可シ
第八章 復權
第百七條 復權ノ願ハ普通刑法第六十三條ニ定メタル期限ヲ經過シタル後刑ノ宣吿ヲ受ケタル者ヨリ海軍大臣ニ之ヲ爲スコトヲ得
其復權願書ハ二通ヲ作リ本人署名捺印シ左ニ記載シタル書類ヲ添ヘ郡區長ニ出シ郡區長願人ノ品行其他必要ノ調査ヲ爲シ地方長官ニ出シ其長官ハ之ニ意見書ヲ添ヘ海軍大臣ニ出ス可シ
一 裁判宣吿書ノ謄本
二 主刑ノ滿期若クハ特赦若クハ期滿免除ト爲リタルコトヲ證明スル書類
三 假出獄及ヒ假リニ幽閉若クハ監視ヲ免セラレタルコトアルトキハ其證書
四 賠償ヲ辨濟シ若クハ義務ヲ免カレタル證書
五 過去現在ノ住所及ヒ生計ヲ記載シタル書類
第百八條 海軍大臣復權ノ願ニ關スル書類ヲ受領シタルトキハ主理ヲシテ更ニ必要ノ調査ヲ爲サシメ意見書ヲ附シテ上奏ス可シ
第百九條 復權ノ願裁可アリタルトキハ海軍大臣主理ヲシテ地方長官ヲ經テ裁可狀ヲ本人ニ傳達セシム可シ
主理ハ裁可狀ノ謄本ヲ刑ノ宣吿ヲ爲シタル軍法會議ニ送致シ軍法會議ニ於テハ之ヲ裁判宣吿書ニ記入ス可シ
第百十條 復權ノ願棄却セラレタルトキハ海軍大臣願書ニ其旨ヲ記シタル書面ヲ附シ主理ヲシテ前條第一項ノ處分ヲ爲サシム可シ
復權ノ願棄却セラレタルトキハ普通刑法第六十三條ニ定メタル期限ノ半ヲ經過スルニアラサレハ更ニ其願ヲ爲スコトヲ得ス
第九章 特赦
第百十一條 特赦ノ申請ハ刑ノ宣吿ヲ爲シタル軍法會議ヲ管轄スル長官又ハ主理若クハ司獄官ヨリ犯人ノ情狀ヲ具シ海軍大臣ニ之ヲ爲スコトヲ得
主理其申請ヲ爲ストキハ裁判宣吿ノ命令ヲ下シタル長官ニ其書面ヲ出ス可シ長官其書面ヲ受領シタルトキハ之ニ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ出ス可シ
司獄官其申請ヲ爲ストキハ裁判宣吿ノ命令ヲ下シタル長官ニ其書面ヲ出ス可シ長官其書面ヲ受領シタルトキハ主理ノ意見書ヲ徵シ自己ノ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ出ス可シ
艦隊軍法會議若クハ合圍地軍法會議ニ於テ裁判宣吿ヲ受ケタル者ノ特赦ノ申請ハ主理ヨリ直チニ海軍大臣ニ之ヲ爲スコトヲ得
第百十二條 海軍大臣前條ノ書類ヲ受領シタルトキハ意見書ヲ附シテ上奏ス可シ
第百十三條 海軍大臣ハ刑ノ宣吿アリタル後何時ニテモ特赦ノ上奏ヲ爲スコトヲ得
第百十四條 特赦ノ申請アルモ死刑ヲ除クノ外刑ノ執行ヲ停止セス
第百十五條 特赦ノ上奏裁可アリタルトキハ海軍大臣特赦狀ヲ其申請ヲ爲シタル諸官ニ下付シ本人ニ之ヲ傳達セシム可シ
主理ハ特赦ノ裁可アリタル旨ヲ裁判宣吿書ニ記入ス可シ
朕海軍治罪法ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年二月十二日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
海軍大臣 伯爵 西郷従道
法律第五号
海軍治罪法左ノ通改正シ明治二十二年三月十五日ヨリ施行ス
海軍治罪法
第一章 総則
第一条 軍人ノ犯シタル重罪軽罪ノ審判ハ軍法会議ニ於テ之ヲ為ス
海軍官署若クハ軍人ノ損害ニ係ル本案附帯ノ私訴アルトキハ軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス
第二条 軍法会議ハ傍聴ヲ許サス但其裁判宣告ヲ為ストキハ軍人ニ限リ之ヲ許ス
第三条 軍人ト称スルハ海軍刑法第五十条第五十一条ニ記載シタル者ヲ謂フ
陸軍軍人ト称スルハ陸軍刑法第三条第九条ニ記載シタル者ヲ謂フ
第四条 長官ト称スルハ海軍大臣及ヒ司令官ヲ謂フ
司令官ト称スルハ鎮守府司令長官艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官及ヒ合囲ノ地ノ司令官ヲ謂フ
第五条 親属ト称スルハ普通刑法第百十四条第百十五条ニ記載シタル者ヲ謂フ
第六条 普通治罪法第九条第十条第十一条第十二条第十三条第十四条第十八条第三十九条第百条第百一条第百三十三条第三項第百四十六条第百五十六条第二百六十一条第一項ハ此治罪法ニ於テ之ヲ適用ス
第七条 帰休兵及ヒ予備後備ノ軍籍ニ在ル者ハ召集中ノ外軍人ノ例ニ依ルコトヲ得ス
第八条 臨戦合囲ノ地ニ於テハ司令官審判ノ手続ヲ省略スルコトヲ得
第二章 軍法会議ノ構成
第九条 軍法会議ヲ設クルコト左ノ如シ
東京軍法会議
鎮守府軍法会議
艦隊軍法会議
高等軍法会議
合囲地軍法会議
東京軍法会議及ヒ各鎮守府軍法会議ハ常設ト為シ艦隊軍法会議ハ臨時各艦隊ニ之ヲ設ケ高等軍法会議ハ臨時東京ニ之ヲ設ケ合囲地軍法会議ハ臨戦合囲ノ戒厳間之ヲ設ク
第十条 軍法会議ハ判士長判士主理若クハ主理試補及ヒ録事ヲ以テ構成ス
第十一条 判士長判士ハ高等軍法会議ニ於テハ第一表ニ拠リ他ノ軍法会議ニ於テハ第二表ニ拠リ将校ヲ以テ之ニ充ツ
臨戦合囲ノ地ニ於テハ判士二名ヲ減スルコトヲ得
第一表
判士長
判士
被告人
佐官
一名
尉官
四名
陸海軍下士以下ノ軍人
佐官
一名
大尉
少尉
二名
二名
海軍少尉及同等ノ陸海軍人並ニ准士官
佐官
一名
大尉(奏任官四等)
大尉(同  五等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官五等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐
一名
少佐
大尉(奏任官四等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官四等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐(奏任官一等)
一名
大佐(奏任官二等)
少佐
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少佐及ヒ同等ノ陸海軍人
少将
一名
大佐(奏任官一等)
大佐(同  二等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官二等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中将
一名
少将
大佐(奏任官一等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官一等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中将
一名
中将
少将
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少将及ヒ同等ノ陸海軍人
大将
一名
中将
少将
三名若クハ二名
一名若クハ二名
海軍中将及ヒ同等ノ陸海軍人
大将
一名
大将
中将
一名
三名
陸海軍大将
第二表
判士長
判士
被告人
佐官
一名
尉官
四名
陸海軍下士以下ノ軍人
佐官
一名
大尉
少尉
二名
二名
海軍少尉及ヒ同等ノ陸海軍人並ニ准士官
佐官
一名
大尉(奏任官四等)
大尉(同  五等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官五等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐
一名
少佐
大尉(奏任官四等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大尉(奏任官四等)及ヒ同等ノ陸海軍人
大佐(奏任官一等)
一名
大佐(奏任官二等)
少佐
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍少佐及ヒ同等ノ陸海軍人
少将
一名
大佐(奏任官一等)
大佐(同  二等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官二等)及ヒ同等ノ陸海軍人
中将
一名
少将
大佐(奏任官一等)
二名若クハ一名
二名若クハ三名
海軍大佐(奏任官一等)及ヒ同等ノ陸海軍人
第十二条 軍人ニ非サル者ヲ軍法会議ニ於テ審判ス可キトキハ其身分ニ依リ前条ノ各表ニ照シテ判士長判士ヲ定ム
第十三条 外国又ハ戦地ニ数隻ノ艦船ヲ差遣スルトキハ海軍大臣其先任艦長ニ軍法会議ヲ開クノ権ヲ附与スルコトヲ得此場合ニ於テハ其権限艦隊司令官ニ同シ
第十四条 将官ヲ以テ判士長判士ト為ストキハ海軍大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ勅命ス
佐官ヲ以テ判士長判士ト為シ尉官ヲ以テ判士ト為ストキ東京ニ於テハ海軍大臣之ヲ命シ鎮守府若クハ艦隊ニ於テハ司令官其部下中ヨリ之ヲ命ス
艦隊ニ於テ判士ト為ル可キ将校欠乏スルトキハ准将校ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
鎮守府若クハ艦隊ニ於テ部下ニ非サル者ヲ以テ判士長判士ト為スヲ要スルトキハ司令官ノ上申ニ依リ海軍大臣之ヲ命ス
第十五条 艦隊軍法会議ニ於テハ司令官部下ノ将校准将校ヲシテ主理ノ職務ヲ行ハシメ士官若クハ下士ヲシテ録事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十六条 合囲地軍法会議ノ判士長判士ハ司令官其部下中ヨリ之ヲ命ス
第十七条 臨戦合囲ノ地ニ於テハ司令官専任判士ヲ命スルコトヲ得又部下ノ下士ヲシテ録事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
合囲ノ地ニ於テハ司令官其地所在ノ高等官ヲ以テ判士若クハ主理ニ充テ判任官ヲ以テ録事ニ充ツルコトヲ得
第十八条 判士長判士主理左ニ記載シタル者ナルトキハ其審判ニ従事スルコトヲ得ス
一 被告人被害者及ヒ其配偶者ノ親属
二 被告人被害者ノ後見人
三 告発人被害者及証拠ヲ陳述シタル者
第十九条 原裁判ニ従事シタル判士長判士主理ハ再議及ヒ再審ノ裁判ニ列スルコトヲ得ス
海軍検察ノ職務ヲ行ヒタル者ハ其事件ノ審判ヲ為スコトヲ得ス
第十五条ノ場合ニ於テ審問ヲ為シタル者ニハ其事件ノ判士長判士ヲ命スルコトヲ得ス
第二十条 第十四条第四項ノ場合ニ於テ海軍大臣ハ判士長判士ヲ命セスシテ被告人ヲ他ノ常設ノ軍法会議ニ移シテ其審判ヲ為サシムルコトヲ得
第三章 軍法会議ノ権限
第二十一条 東京軍法会議ハ左ニ記載シタル者ヲ審判ス
一 司令官ノ部下ニ属セサル佐官以下ノ軍人其他海軍ノ用ニ供スル船舶ノ乗員ニシテ重罪軽罪ヲ犯シタル者
二 第二十三条第二項第三項ニ依リ審判ノ委託ヲ受ケタル者
第二十二条 鎮守府軍法会議ハ左ニ記載シタル者ヲ審判ス
一 鎮守府司令長官ノ部下ニ属スル佐官以下ノ軍人其他鎮守府ノ用ニ供スル船舶ノ乗員ニシテ重罪軽罪ヲ犯シタル者
二 第二十三条第二項第三項ニ依リ審判ノ委託ヲ受ケタル者
第二十三条 艦隊軍法会議ハ艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官ノ部下ニ属スル佐官以下ノ軍人其他従軍諸員及ヒ艦隊ノ用ニ供スル船舶ノ乗員ニシテ重罪軽罪ヲ犯シタル者ヲ審判ス
艦隊司令長官艦隊司令官分遣艦隊司令官ハ時機ニ依リ前項ニ記載シタル者ノ審判ヲ常設ノ軍法会議ニ委スルコトヲ得
艦隊ニ属スル艦船長ハ事件急速ヲ要スル場合ニ於テハ直チニ前項ノ処分ヲ為スコトヲ得但其事由ヲ速ニ其艦隊司令長官艦隊司令官若クハ分遣艦隊司令官ニ報告ス可シ
第二十四条 艦隊若クハ数隻ノ艦船外国ニ出発ノ後其司令官若クハ先任艦長ノ部下ニ属スル者内国ニ在テ犯罪発覚シタルトキハ本人所在ノ地最近ノ軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス可シ
第二十五条 佐官以下ノ軍人軍法会議所在ノ軍区内ニ於テ重罪軽罪ヲ犯シタルトキハ管轄外ノ者ト雖モ其地ノ軍法会議ニ於テ之ヲ審判スルコトヲ得
第二十六条 高等軍法会議ハ将官若クハ其同等軍人ノ犯シタル重罪軽罪ヲ審判シ及ヒ再審ノ審判ヲ為ス
第二十七条 合囲地軍法会議ハ第二十一条第二十二条第二十三条ニ記載シタル者ノ臨戦合囲ノ地ニ在リテ犯シタル重罪軽罪ヲ審判ス
第二十八条 合囲地軍法会議ニ於テハ従軍常人ノ犯罪ヲ審判シ又何人ト雖モ海軍刑法ヲ以テ論ス可キ罪ヲ犯シタルトキハ其審判ヲ為ス可シ
合囲ノ地ノ特別裁判権ハ戒厳令定ムル所ニ依ル
第二十九条 臨戦合囲ノ地ニ於テ専任判士ヲ以テ構成シタル軍法会議ハ高等軍法会議ノ管轄ニ属スル事件ノ外被告人ノ身分ニ拘ハラス其犯罪ヲ審判スルコトヲ得
第三十条 俘虜降人ノ犯罪ハ軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十一条 軍人任官就役前ノ犯罪ト雖モ在官現役中ハ軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス在官現役中ノ犯罪ト雖モ免官若クハ現役ヲ去リタル後告訴告発アリタルトキハ普通裁判所ノ裁判ニ付ス
第三十二条 軍人二人以上共ニ重罪軽罪ヲ犯シ若クハ附帯犯ニシテ各其管轄ヲ異ニスルトキハ先キニ審判ニ著手シタル軍法会議ニ於テ之ヲ審判シ高等軍法会議ノ管轄ニ属スル者ト共犯若クハ附帯犯ニ係ルトキハ高等軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス陸軍軍人ト共犯若クハ附帯犯ニ係ルトキモ亦同シ
第三十三条 数罪倶ニ発シテ各其管轄ヲ異ニシ又ハ審判中裁判管轄変更シタルトキハ既ニ審判ニ著手シタル軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十四条 重罪軽罪ト倶ニ発シ若クハ重罪軽罪ニ附帯シ若クハ重罪軽罪ト認メ審判ニ著手シタル違警罪ハ軍法会議ニ於テ之ヲ審判ス
第三十五条 合囲地軍法会議ヲ廃スルトキ其軍法会議ニ於テ管轄シタル被告事件ハ通常ノ権限ニ照シ管轄軍法会議ヲ以テ其管轄ト為ス
第四章 海軍検察
第三十六条 海軍検察ハ海軍ニ関スル犯罪ヲ捜査シ証憑ヲ収集ス
第三十七条 海軍検察官ハ左ニ記載シタル諸官ヲ以テ之ニ充ツ
一 艦船営副長分隊長
二 生徒隊司令官生徒分隊長及ヒ学校監事
三 衛兵司令
四 軍法会議ノ主理及ヒ主理試補
第三十八条 各庁長及ヒ艦船営長ハ各其管スル所ノ事ニ関シ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ検察ノ処分ヲ為シ若クハ海軍検察官ニ其処分ヲ委ス可シ
第三十九条 何人ヲ論セス軍人ノ犯罪ニ因リ損害ヲ受ケタル者ハ海軍検察官若クハ被告人ノ所属長若クハ憲兵ノ将校下士又ハ予審判事検事司法警察官ニ之ヲ告訴スルコトヲ得
第四十条 何人ヲ論セス軍人ノ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ前条ニ記載シタル諸官ニ告発スルコトヲ得
第四十一条 海軍所属ノ官吏職務ヲ行フニ因リ軍人及ヒ海軍ノ用ニ供スル船舶乗員ノ犯罪アルコトヲ知リタルトキハ第三十九条ニ記載シタル諸官ニ告発ス可シ
第四十二条 憲兵ノ将校下士又ハ予審判事検事司法警察官軍人ニ係ル重罪軽罪ノ告訴告発ヲ受ケタルトキハ其事件ヲ海軍検察官若クハ被告人ノ所属長ニ交付ス可シ
第四十三条 海軍検察官憲兵ノ将校下士卒又ハ司法警察官巡査ハ軍人ノ重罪軽罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ直ニ之ヲ逮捕ス可シ
第四十四条 何人ヲ論セス軍人ノ重罪軽罪ノ現行犯アルトキハ直ニ之ヲ逮捕スルコトヲ得
其逮捕シタル者ハ海軍検察官又ハ司法警察官若クハ憲兵卒巡査ニ之ヲ交付ス可シ
第四十五条 憲兵卒巡査現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ海軍検察官若クハ憲兵ノ将校下士又ハ司法警察官ニ之ヲ引致ス可シ
第四十六条 海軍検察官現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ訊問及ヒ検証処分ヲ為シ調書ヲ作ル可シ各庁長艦船営長現行犯ノ軍人ヲ逮捕シタルトキハ前項ノ処分ヲ為シ又ハ其処分ヲ海軍検察官ニ委シ若クハ憲兵ノ将校下士ニ嘱託スルコトヲ得
第四十七条 海軍検察官各庁長艦船営長現行犯人ヲ逮捕シ若クハ其検証処分ヲ為ストキハ公力ヲ用フルコトヲ得
第四十八条 海軍検察官及ヒ各庁長艦船営長軍人ト共犯ノ常人アルコトヲ知リタルトキハ前数条ニ照シ其処分ヲ為ス可シ
第四十九条 憲兵ノ将校下士又ハ司法警察官現行犯ノ軍人ヲ逮捕シ若クハ其交付ヲ受ケタルトキハ仮リニ訊問及ヒ検証処分ヲ為シ調書ヲ作リ海軍検察官ニ之ヲ送致ス可シ
第五十条 告訴人告発人ハ其願下ヲ為シ若クハ其陳述ヲ変更センコトヲ請求スルコトヲ得
第五十一条 海軍検察官各庁長艦船営長検察ノ処分ヲ為シタルトキハ被告事件ニ証憑物件ヲ添ヘ左ノ手続ヲ為ス可シ
一 重罪軽罪ト認ムルトキハ之ヲ長官ニ具申ス可シ但艦隊ニ於テハ被告人所属ノ艦船長ヲ経由ス可シ
二 違警罪ト認ムルトキハ之ヲ管轄ス可キ官司ニ交付ス可シ
三 裁判管轄ニ非サル者軍人ナルトキハ之ヲ其事件ヲ管理ス可キ長官部下ノ海軍検察官ニ送致シ陸軍軍人ナルトキハ其事件ヲ管轄ス可キ軍法会議所在ノ地ノ陸軍検察官ニ送致シ常人ナルトキハ検察処分ヲ為シタル地ノ検事ニ送致ス可シ但軍人ト共犯ノ常人ナルトキハ長官ニ具申ス可シ
四 高等軍法会議ノ管轄ニ属スルモノナルトキハ之ヲ海軍大臣ニ具申ス可シ
第五章 審問
第五十二条 長官被告事件ノ具申ヲ受ケタルトキハ左ノ手続ヲ為ス可シ
一 其犯罪軽罪以上ノ刑ニ該ル可キモノト認ムルトキハ審問若クハ審判ノ命令ヲ下シ禁錮以下ノ刑ニ該ル可キモノニシテ審問ヲ要セスト認ムルトキハ直チニ判決ノ命令ヲ下ス可シ
二 審問若クハ審判若クハ判決ノ命令ヲ下シタルトキハ其事件ヲ主理ニ下付ス可シ
第五十三条 主理審問ヲ為ストキハ先ツ召喚状ヲ発ス可シ
被告人出廷シタルトキハ即日之ヲ訊問ス可シ
罰金以下ノ刑ニ該ル可キ被告人ハ代人ヲ出廷セシムルコトヲ得
第五十四条 主理ハ召喚状ヲ受ケタル被告人其日時ニ出廷セサルトキハ勾引状ヲ発スルコトヲ得
第五十五条 主理ハ重罪ノ刑ニ該ル可キモノト認ムル被告人ナルトキ又ハ軽罪以下ノ刑ニ該ル可キモノト認ムル被告人ニシテ罪証ヲ湮滅シ若クハ逃走ノ恐アルトキ又ハ未遂罪ヲ犯シ其目的ヲ遂ケ若クハ脅迫罪ヲ犯シ其手段ヲ実行スルノ恐アルトキハ直チニ勾引状ヲ発ス可シ
第五十六条 主理ハ召喚状若クハ勾引状ヲ受ク可キ被告人遠隔ノ地ニアルトキハ其地ノ主理海軍検察官若クハ憲兵ノ将校下士又ハ予審判事司法警察官ニ訊問ヲ嘱託スルコトヲ得又其地ノ主理海軍検察官若クハ憲兵ノ将校下士又ハ司法警察官ニ召喚状ノ送達勾引状ノ執行ヲ嘱託スルコトヲ得
第五十七条 勾引状ヲ以テ引致シタル被告人ハ四十八時内ニ之ヲ訊問ス可シ四十八時ヲ経過シ仍ホ留置ヲ要スルトキハ収禁状ヲ発ス可シ
第五十八条 主理ハ召喚状若クハ勾引状ヲ受ケタル被告人疾病其他正当ノ事故アリテ令状ニ応スル能ハサルコトヲ証明シタルトキハ其所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得若シ被告人遠隔ノ地ニ在ルトキハ其地ノ主理海軍検察官若クハ憲兵ノ将校下士又ハ予審判事司法警察官ニ訊問ノ条件ヲ明示シテ其処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第五十九条 主理ハ被告人ノ所在ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ海軍検察官若クハ憲兵ノ将校及ヒ各控訴院ノ検事長ニ人相書ヲ送リ其逮捕ヲ求ムルコトヲ得
第六十条 主理ハ被告人禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノト認ムルトキハ収禁状ヲ発スルコトヲ得
収禁状ヲ発シタル後被告事件禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノニ非ス又ハ収禁ヲ要セサルモノト認ムルトキハ収禁ヲ取消ス可シ
第六十一条 勾引状収禁状ハ衛兵若クハ軍属ヲシテ之ヲ執行セシム可シ
勾引状ヲ受ク可キ被告人艦船営内若クハ隊伍ニ在ルトキハ艦船営長隊伍ノ長ニ依リ其執行ヲ求ム可シ
陸軍営内若クハ隊伍ニ在ルトキハ隊長ニ依リ其執行ヲ求ム可シ
勾引状ヲ執行スルニ方リ被告人其家宅若クハ他人ノ家ニ逃匿シタリト認ムルトキハ其地ノ戸長若クハ隣佑ノ立会ヲ求メ之ヲ捜索シ其調書ヲ作リ立会人ト共ニ署名捺印ス可シ若シ立会ヲ求ムルニ暇アラス若クハ之ヲ得ル能ハサルトキハ其立会ナクシテ捜索ヲ為スコトヲ得
第六十二条 主理ハ事実審明ノ為メ臨検家宅捜索物件押収ノ処分ヲ為スコトヲ得
其場所遠隔ノ地ニ在ルトキハ其地ノ主理海軍検察官若クハ憲兵ノ将校下士又ハ予審判事司法警察官ニ其処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第六十三条 主理ハ事実審明ノ為メ駅逓電信鉄道ノ官署及ヒ諸会社ニ事由ヲ通知シテ被告事件ニ関係アル往復文書電報及ヒ物件ヲ収受開披スルコトヲ得
其場所遠隔ノ地ニ在ルトキハ前条第二項ノ例ニ依リ本条ノ処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第六十四条 主理ハ証人及ヒ通事ヲ呼出スコトヲ得
証人皇族若クハ勅任官ナルトキ主理其所在ニ就キ陳述ヲ聴ク可シ
証人疾病其他正当ノ事故アリテ呼出ニ応スル能ハサルコトヲ証明シタルトキハ主理其所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
証人遠隔ノ地ニアルトキハ第六十二条第二項ノ例ニ依リ本条ノ処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第六十五条 左ニ記載シタル者ハ証人ト為スコトヲ得ス但事実参考ノ為メ其陳述ヲ聴クコトヲ得
一 被害者
二 被害者及ヒ被告人ノ親属
三 被害者及ヒ被告人ノ後見人又ハ其後見ヲ受クル者
四 被害者及ヒ被告人ノ雇人
五 現ニ陳述ヲ為ス可キ事件ニシテ曽テ訴ヲ受ケ証憑充分ナラサルニ因リ免訴ノ宣告ヲ受ケタル者
六 重罪事件ノ為メ軍法会議ノ判決ニ付セラレタル者若クハ重罪裁判所ニ移スノ言渡ヲ受ケタル者及ヒ重禁錮ノ刑ニ該ル可キ軽罪事件ノ為メ軍法会議又ハ普通裁判所ノ判決ニ付セラレタル者
七 公権ヲ剥奪セラレタル者又ハ公権ヲ停止セラレタル者
八 十六歳未満ノ者
九 知覚精神ノ不充分ナル者
十 瘖唖者
第六十六条 主理被告人証人事実参考人ヲ訊問シ若クハ臨検家宅捜索物件押収ノ処分ヲ為ストキハ録事之ニ立会ヒ調書ヲ作リ訊問及ヒ供述ヲ録取シ被告人証人事実参考人ニ読示ス可シ
主理ハ其読示シタル所其陳述ニ違ハサルヤ否ヲ問ヒ陳述者ヲシテ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ録事ヲシテ其旨ヲ記セシム可シ
急遽ノ際若クハ事故アリテ録事立会ヲ為スコト能ハサルトキハ其立会ナクシテ本条ノ処分ヲ為スコトヲ得
第六十七条 主理犯罪ノ性質方法及ヒ結果ヲ分明ナラシムル為メ鑑定人ヲ要スルトキハ学術又ハ職業ニ因リ鑑定スルコトヲ得可キ者ニ命シテ其鑑定ヲ為サシム可シ但第六十五条ニ記載シタル者ハ鑑定人ト為スコトヲ得ス若シ急遽ノ際正当ノ鑑定人ヲ得ルコト能ハサルトキハ参考ノ為メ之ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
鑑定ヲ為シタル者ハ鑑定書ヲ作リ其方法結果及ヒ鑑定ヲ為シタル時間ヲ詳記ス可シ若シ結果ヲ得ルコト能ハサルトキハ其推測スル所ヲ記シ之ニ署名捺印ス可シ
第六十八条 主理ハ証人通事鑑定人ヲシテ正実ニ陳述通訳鑑定ヲ為ス可キコトヲ宣誓セシム可シ
主理ハ証人通事鑑定人ニ宣誓書ヲ読示シ之ニ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ録事ヲシテ其旨ヲ附記セシム可シ
宣誓書ハ訴訟書類ニ添ヘ置ク可シ
第六十九条 主理ハ証人通事鑑定人事実参考人及ヒ参考ノ為メ鑑定ヲ命シタル者疾病其他正当ノ事故ヲ証明セスシテ呼出ニ応セサルトキハ二円以上十円以下ノ罰金ヲ科ス可シ若シ再度ノ呼出ニ応セサルトキハ更ニ二倍ノ罰金ヲ科ス可シ若シ五日内ニ正当ノ事故アリテ出廷スルコト能ハサリシコトヲ証明シタルトキハ罰金ノ宣告ヲ取消ス可シ
前項ノ場合ニ於テ証人事実参考人ニ対シテハ勾引状ヲ発スルコトヲ得
第七十条 主理ハ証人鑑定人宣誓ヲ肯セス若クハ宣誓シテ陳述鑑定ヲ肯セサルトキハ証人ハ普通刑法第百八十条ニ依リ鑑定人ハ同法第百七十九条ニ依リ罰金ヲ科ス可シ
証人トシテ呼出シタル医師薬商穏婆代言人弁護人公証人神官僧侶其身分職業ニ関スル秘密ノ事件ニ因リ委託ヲ受ケタル事ニ関シ陳述ヲ肯セサルトキハ前項ノ例ニ在ラス
第七十一条 主理ハ通事宣誓ヲ肯セス若クハ宣誓シテ通訳ヲ肯セサルトキ又ハ事実参考ノ為メ陳述鑑定ヲ命セラレタル者之ヲ肯セサルトキハ二円以上二十円以下ノ罰金ヲ科ス可シ
第七十二条 主理ハ証人事実参考人ノ陳述ヲ確実ナラシムル為メ犯所若クハ其他ノ場所ニ同行スルコトヲ得
証人事実参考人同行スルコトヲ肯セサルトキハ第六十九条ニ照シ罰金ヲ科ス可シ
第七十三条 証人通事鑑定人事実参考人及ヒ参考ノ為メ鑑定ヲ命セラレタル者ニ科シタル罰金ヲ完納セシメ若クハ罰金ヲ禁錮ニ換フルノ処分ハ普通刑法第二十七条ニ依リ主理之ヲ為ス可シ
第七十四条 主理ハ被告事件ニ関スル調書説明ノ為メ其調書ヲ作リタル海軍検察官又ハ司法警察官其他ノ官吏ヲ呼出スコトヲ得
第七十五条 主理審問ニ於テ共犯附帯犯若クハ余罪ヲ覚挙シタルトキハ直ニ之ヲ審問ス可シ但其共犯者附帯犯者高等軍法会議ノ管轄ニ属スルトキハ之ヲ長官ニ具申ス可シ
第七十六条 軍人ト共犯セシ常人ハ審問ヲ終リタル後証憑物件ヲ添ヘ其共犯事件ヲ管轄スル軍法会議所在ノ地ノ検事ニ送致ス可シ
第七十七条 主理ハ審問中被告人ヲ其親属故旧ニ責付スルコトヲ得但艦船営内居住ノ者ハ責付スルノ限ニ在ラス
第七十八条 主理審判若クハ審問ノ命令ヲ受ケタル事件ノ審問ヲ終リ若クハ判決ノ命令ヲ受ケタルトキハ左ノ手続ヲ為ス可シ
一 審判若クハ判決ノ命令ヲ受ケタル事件ニ於テハ意見書ヲ作リ訴訟書類ト共ニ之ヲ判士長ニ交付シ会議ノ日時ヲ定メ判士長判士ニ通報ス可シ
二 裁判管轄ニ非ス若クハ免訴ト為ス可キ事件ニ於テハ訴訟書類ニ意見書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ審問ノ命令ヲ受ケタル事件ニ於テモ亦同シ
第七十九条 長官審問ノ命令ヲ下シタル事件ノ具申ヲ受ケ其事件有罪ナリト認ムルトキハ更ニ判決ノ命令ヲ下ス可シ
第六章 判決
第八十条 軍法会議ハ判士長判士主理録事列席シテ之ヲ開ク可シ
第八十一条 判士長ハ被告人ヲ訊問シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其訊問ヲ為サシム可シ
主理其審問ヲ要スルトキハ判士長ニ請フテ自ラ之ヲ訊問シ若クハ其訊問ヲ求ムルコトヲ得
第八十二条 判士長ハ開廷ヨリ判決終結ニ至ルマテノ間必要ト認ムルトキハ令状ヲ発スルコトヲ得
判士長ハ法廷ニ於テ警戒ノ為メ相当ノ処置ヲ為スコトヲ得
法廷ニ於テ罪ヲ犯ス者アルトキハ判士長検証ノ処分ヲ為シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其処分ヲ為サシメ調書及ヒ証憑文書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ但其犯人被告人ナルトキハ本案事件ト共ニ直ニ判決ヲ為ス可シ
第八十三条 判士長ハ法廷其他ノ場合ニ於テ証人通事鑑定人ヲ要シ若クハ調書説明ノ為メ官吏ノ呼出ヲ要スルトキハ第五章ノ例ニ依ル
第八十四条 証人通事鑑定人事実参考人及ヒ参考ノ為メ鑑定ヲ命セラレタル者疾病其他正当ノ事故ナクシテ呼出ニ応セサルトキハ主理ノ意見ヲ聴キ軍法会議ニ於テ直ニ左ノ罰金科料ヲ科ス可シ
一 違警罪事件ニ於テハ五十銭以上一円九十五銭以下ノ科料
二 軽罪以上ノ事件ニ於テハ二円以上二十円以下ノ罰金
第八十五条 判士長ハ証人事実参考人ヲ訊問シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ其訊問ヲ為サシム可シ
主理其訊問ヲ要スルトキハ判士長ニ請フテ自ラ之ヲ訊問シ若クハ其訊問ヲ求ムルコトヲ得
第八十六条 判決ノ為メ更ニ検証処分ヲ要スルコトアルトキハ判士長其処分ヲ為シ若クハ判士又ハ主理ヲシテ之ヲ為サシム可シ
共犯附帯犯若クハ余罪ヲ覚挙シタルトキハ直ニ其判決ヲ為シ若クハ主理ニ移シテ其審問ヲ為サシム可シ但其共犯者附帯犯者高等軍法会議ノ管轄ニ属スルトキハ判士長ヨリ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
第八十七条 被告人ノ訊問終リタルトキハ判士長更ニ被告人ニ対シ他ニ陳述ス可キコトナキヤ否ヲ問ヒ訊問終リタル旨ヲ告ケ被告人ヲ退廷セシメ其判決ヲ為ス可シ
第八十八条 禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ被告人逃走シテ開廷ノ日時ニ出廷セス若クハ其逃走ニ因リ召喚状ヲ送達スルコトヲ得サルトキ及ヒ罰金以下ノ刑ニ該ル可キ被告人召喚状ヲ受ケ開廷ノ日時ニ出廷セサルトキハ闕席裁判ヲ為スコトヲ得
第八十九条 数人共犯ノ判決ヲ為ストキハ被告人中闕席シタル者アリト雖モ出廷シタル者ニ対シ其判決ヲ為スコトヲ得
第九十条 主理ハ会議席ニ列シ意見書ノ趣旨ヲ説明スヘシ
会議ノ判決其意見ト合ハサルトキハ其旨ヲ記シタル書面ヲ判決書ニ添フルコトヲ得
其判決法律ニ違ヒ再議ス可キ理由アリト認ムルトキハ之ヲ其判決ノ命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
第九十一条 判決書ハ主理左ノ条件ニ照シテ之ヲ作リ判士長判士録事ト共ニ署名捺印シ訴訟文書ヲ添ヘ其命令ヲ下シタル長官ニ具申ス可シ
一 判決ノ理由
二 有罪ノ判決書ニハ犯罪ノ証憑及ヒ其罪ヲ罰ス可キ法律ノ正条
三 無罪ノ判決書ニハ被告人ノ死去セシコト若クハ人違ヒナリシコト若クハ被告事件罪トナラサルコト若クハ犯罪ノ証憑備ラサルコト
四 免訴ノ判決書ニハ公訴期満免除ト為リタルコト若クハ大赦アリタルコト若クハ確定裁判ヲ経タルコト若クハ法律ニ於テ其罪ヲ全免スルコト
五 管轄違ヒノ判決書ニハ其旨
六 私訴ノ裁判アリタルトキハ其旨
七 被告人ノ官位勲爵隊号職名氏名族籍年齢住所判決ノ年月日
第九十二条 長官左ニ記載シタルモノハ訴訟書類ヲ添ヘ海軍大臣ニ具申シ其他ハ裁判宣告ノ命令ヲ下ス可シ
一 死刑ニ該リタルトキ
二 佐官及ヒ同等軍人ノ重罪軽罪ノ刑ニ該リタルトキ
三 尉官及ヒ同等軍人ノ重罪ノ刑ニ該リタルトキ
第九十三条 海軍大臣前条ノ具申ヲ受ケタルトキ又ハ高等軍法会議ノ判決将官及ヒ其同等軍人ノ重罪軽罪ノ刑ニ該リ若クハ前条ニ記載シタルモノニ該リタルモノハ意見書ヲ附シ上奏スヘシ
其裁可アリタルトキ高等軍法会議ノ判決ニ係ルモノハ裁判宣告ノ命令ヲ下シ他ノ軍法会議ノ判決ニ係ルモノハ長官ニ下付シ長官ヲシテ裁判宣告ノ命令ヲ下サシム可シ
第九十四条 臨戦合囲ノ地ニ於テハ司令官第九十二条ノ例ニ依ラス直ニ裁判宣告ノ命令ヲ下スコトヲ得
第九十五条 長官軍法会議ノ判決法律ニ違ヒタリト認ムルトキハ之ヲ再議セシメ直ニ裁判宣告ノ命令ヲ下ス権ナキモノハ意見書ヲ附シテ海軍大臣ニ具申ス可シ
第九十六条 海軍大臣高等軍法会議若クハ長官ヨリ具申シタル判決法律ニ違ヒタリト認ムルトキハ之ヲ再議セシム可シ
第九十七条 裁判宣告ノ命令アリタルトキハ判士長判士主理録事列席シ被告人ヲ出廷セシメ判士長其宣告ヲ為ス可シ
闕席裁判ノ宣告ハ被告人闕席ノマヽ之ヲ為ス可シ禁錮以上ノ刑ニ該リタル被告人対審終結ノ後逃走シテ出廷セス若クハ罰金以下ノ刑ニ該リタル被告人呼出ニ応セサルトキモ亦同シ
第九十八条 禁錮以上ノ刑ニ該リタル被告人其宣告ヲ受ケテ逃走シ若クハ前条第二項ニ依リ闕席ノマヽ宣告アリタルトキハ主理逮捕状ヲ発ス可シ
逮捕状執行ノ方法ハ勾引状執行ノ例ニ従フ若シ其所在分明ナラサルトキハ第五十九条ノ例ニ依ル
第九十九条 被告人闕席ノマヽ宣告ヲ為シタルトキハ其宣告書ヲ軍法会議ノ門前ニ掲示シ其一通ヲ被告人ノ住所ニ送達ス可シ
第百条 外国若クハ航海中ニ於テ司令官又ハ艦船長ハ軽罪ノ刑ノ宣告ヲ受ケタル下士卒ニ戴罪服務ヲ命スルコトヲ得
戴罪服務ノ日数ハ刑期ニ算入セス
第七章 再審
第百一条 海軍大臣軍法会議ニ於テ法律ノ罰セサル所為ニ対シ刑ヲ宣告シ若クハ法律ニ定ムル所ノ刑ヨリ重キ刑ヲ宣告シ若クハ無罪ノ宣告ヲ為ス可キニ免訴ノ宣告ヲ為シタルコトアルヲ知リタルトキハ再審ヲ為サシム可シ
第百二条 軍法会議ノ宣告左ニ記載シタル条件ニ触ルヽモノアルトキハ主理及ヒ被告人ヨリ再審ノ申訴ヲ為スコトヲ得被告人死去シタルトキハ其親属之ヲ為スコトヲ得
一 人ヲ殺シタル罪ニ付刑ノ宣告アリタル後其殺サレタリト認メラレタル者犯罪後現ニ生存シ又ハ犯罪前既ニ死去シタル確証アリタルトキ
二 同一ノ事件ニ付共犯ニ非スシテ別ニ刑ノ宣告ヲ受ケタルモノアリタルトキ
三 公正ノ証書ヲ以テ当時犯罪ノ場所ニ在ラサルコトヲ証明シタルトキ
四 既ニ判決ヲ経タル事件ニ対シ再ヒ判決アリタルトキ
五 被告人ヲ陥害シタル罪ニ因リ刑ノ宣告ヲ受ケタル者アリタルトキ
六 公正ノ証書ヲ以テ訴訟書類ニ偽造又ハ錯誤アルコトヲ証明シタルトキ
第百三条 海軍大臣前条ニ記載シタル事実アルコトヲ知リタルトキハ再審ヲ為サシム可シ
長官其事実ヲ発見シタルトキハ訴訟書類ニ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ具申ス可シ
第百四条 再審ノ申訴ハ刑ノ宣告ヲ為シタル軍法会議ヲ管轄スル長官ニ之ヲ為ス可シ艦隊軍法会議高等軍法会議合囲地軍法会議ニ於テ刑ノ宣告ヲ受ケタル者ナルトキハ海軍大臣ニ其申訴ヲ為ス可シ
主理其申訴ヲ為ストキハ其理由書ニ原裁判宣告書ノ謄本及ヒ証憑書類ヲ添フ可シ
被告人若クハ其親属其申訴ヲ為ストキハ其理由書ヲ主理ニ出シ主理意見書ヲ添フ可シ
長官再審ノ申訴ヲ受ケタルトキハ訴訟書類ニ意見書ヲ附シ之ヲ海軍大臣ニ具申ス可シ
海軍大臣再審ノ申訴若クハ具申ヲ受ケタルトキハ之ヲ再審セシム可シ
第百五条 海軍大臣再審ノ命令ヲ下シタルトキ刑ノ執行中ニ係ルモノハ其執行ヲ停止ス可シ
第百六条 再審ヲ為シタル事件前ニ上奏ヲ経タルモノナルトキハ其判決ヲ上奏シテ裁可ヲ請フ可シ
第八章 復権
第百七条 復権ノ願ハ普通刑法第六十三条ニ定メタル期限ヲ経過シタル後刑ノ宣告ヲ受ケタル者ヨリ海軍大臣ニ之ヲ為スコトヲ得
其復権願書ハ二通ヲ作リ本人署名捺印シ左ニ記載シタル書類ヲ添ヘ郡区長ニ出シ郡区長願人ノ品行其他必要ノ調査ヲ為シ地方長官ニ出シ其長官ハ之ニ意見書ヲ添ヘ海軍大臣ニ出ス可シ
一 裁判宣告書ノ謄本
二 主刑ノ満期若クハ特赦若クハ期満免除ト為リタルコトヲ証明スル書類
三 仮出獄及ヒ仮リニ幽閉若クハ監視ヲ免セラレタルコトアルトキハ其証書
四 賠償ヲ弁済シ若クハ義務ヲ免カレタル証書
五 過去現在ノ住所及ヒ生計ヲ記載シタル書類
第百八条 海軍大臣復権ノ願ニ関スル書類ヲ受領シタルトキハ主理ヲシテ更ニ必要ノ調査ヲ為サシメ意見書ヲ附シテ上奏ス可シ
第百九条 復権ノ願裁可アリタルトキハ海軍大臣主理ヲシテ地方長官ヲ経テ裁可状ヲ本人ニ伝達セシム可シ
主理ハ裁可状ノ謄本ヲ刑ノ宣告ヲ為シタル軍法会議ニ送致シ軍法会議ニ於テハ之ヲ裁判宣告書ニ記入ス可シ
第百十条 復権ノ願棄却セラレタルトキハ海軍大臣願書ニ其旨ヲ記シタル書面ヲ附シ主理ヲシテ前条第一項ノ処分ヲ為サシム可シ
復権ノ願棄却セラレタルトキハ普通刑法第六十三条ニ定メタル期限ノ半ヲ経過スルニアラサレハ更ニ其願ヲ為スコトヲ得ス
第九章 特赦
第百十一条 特赦ノ申請ハ刑ノ宣告ヲ為シタル軍法会議ヲ管轄スル長官又ハ主理若クハ司獄官ヨリ犯人ノ情状ヲ具シ海軍大臣ニ之ヲ為スコトヲ得
主理其申請ヲ為ストキハ裁判宣告ノ命令ヲ下シタル長官ニ其書面ヲ出ス可シ長官其書面ヲ受領シタルトキハ之ニ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ出ス可シ
司獄官其申請ヲ為ストキハ裁判宣告ノ命令ヲ下シタル長官ニ其書面ヲ出ス可シ長官其書面ヲ受領シタルトキハ主理ノ意見書ヲ徴シ自己ノ意見書ヲ附シ海軍大臣ニ出ス可シ
艦隊軍法会議若クハ合囲地軍法会議ニ於テ裁判宣告ヲ受ケタル者ノ特赦ノ申請ハ主理ヨリ直チニ海軍大臣ニ之ヲ為スコトヲ得
第百十二条 海軍大臣前条ノ書類ヲ受領シタルトキハ意見書ヲ附シテ上奏ス可シ
第百十三条 海軍大臣ハ刑ノ宣告アリタル後何時ニテモ特赦ノ上奏ヲ為スコトヲ得
第百十四条 特赦ノ申請アルモ死刑ヲ除クノ外刑ノ執行ヲ停止セス
第百十五条 特赦ノ上奏裁可アリタルトキハ海軍大臣特赦状ヲ其申請ヲ為シタル諸官ニ下付シ本人ニ之ヲ伝達セシム可シ
主理ハ特赦ノ裁可アリタル旨ヲ裁判宣告書ニ記入ス可シ