陸軍武官進級条例
法令番号: 勅令第五十八號
公布年月日: 明治19年7月26日
法令の形式: 勅令
朕陸軍武官進級條例ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年七月二十四日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
陸軍大臣 伯爵 大山巖
勅令第五十八號
陸軍武官進級條例
第一章  軍級
第一條 凡軍級ノ最モ高キ者ヲ將官ト云ヒ之ニ次ク者ヲ佐官或ハ上長官ト云ヒ又之ニ次ク者ヲ尉官或ハ士官ト云フ而シテ三官各分テ三級トナス即チ大將中將少將大佐中佐少佐大尉中尉少尉是ナリ之ヲ總稱スルトキハ將校ト云フ
第二條 其將校ニ次ク者ヲ下士ト云フ即チ曹長一等軍曹二等軍曹是ナリ
第三條 其下士ニ次ク者ヲ兵卒ト云フ即チ上等兵一等卒二等卒是ナリ
第二章  進級
第四條 凡軍人ノ進級ハ決シテ超級ノ陞進ヲ許スコトナク又缺員ナキ時ハ除任ヲ行フコトナシ
第五條 逐級歷進ノ法上ノ級次ニ從フト雖モ出身又ハ陞級ノ後其月日猶淺キ者ハ遽ニ昇進スルヲ許サス之カ爲メニ最下ノ期限ヲ定メ以テ歷進ノ道ヲ律ス即チ左ノ如シ
上等兵ヨリ二等軍曹ニ二等軍曹ヨリ一等軍曹ニ進ムハ實役停年半年以上一等軍曹ヨリ曹長ニ進ムハ實役停年一年以上曹長ヨリ少尉ニ進ムハ實役停年二年以上
少尉ヨリ中尉ニ中尉ヨリ大尉ニ進ムハ實役停年二年以上大尉ヨリ少佐ニ進ムハ實役停年四年以上
少佐ヨリ中佐ニ進ムハ實役停年三年以上中佐ヨリ大佐ニ大佐ヨリ少將ニ進ムハ實役停年二年以上
少將ヨリ中將ニ進ムハ實役停年三年以上
第六條 中將ノ大將ニ進ムハ歷戰者ニ就キ特旨ヲ以テ親任スルヲ例トス故ニ最下ノ期限ヲ定ムルコトナシ
第七條 戰時ニ在テハ各官ノ實役停年ヲ其半ニ減スルコトヲ得
第八條 進級ノ法二アリ一ヲ停年補除ト云ヒ一ヲ拔擢補除ト云フ參互之ヲ用フ其法左ノ如シ
上等兵ヨリ二等軍曹ニ二等軍曹ヨリ一等軍曹ニ一等軍曹ヨリ曹長ニ進ムハ皆拔擢ヲ以テス
少尉ヨリ中尉ニ進ムハ停年三分二拔擢三分一ヲ以テス
中尉ヨリ大尉ニ進ムハ停年拔擢相半ス
大尉ヨリ少佐ニ少佐ヨリ中佐ニ中佐ヨリ大佐ニ大佐ヨリ少將ニ少將ヨリ中將ニ進ムハ皆拔擢ヲ以テス
第九條 監督軍吏軍醫獸醫部ノ上長官士官下士並砲工兵監護陸軍諸工長同下長及ヒ諸卒モ亦本令ニ照シ其等級ニ準シテ進級ヲ律ス
第十條 平時少尉ノ進級ニ停年補除三分ノ二ヲ用フルノ例戰時ニ在テハ拔擢停年相半スルノ格ヲ用ヒ中尉以上ハ槪シテ拔擢ノ例ヲ用フルコトヲ得
第十一條 左ニ揭クル場合ニ在テハ前諸條ノ例ニ據ルコトナク進級セシムルコトヲ得
一 敵前ニ在テ殊勳ヲ奏シ首將ノ命令ヲ以テ之ヲ全軍ニ布吿セシモノ
一 戰時敵前ノ軍隊ニ在テ人員多ク缺耗シ補除定規ヲ履ム能ハサル時
第十二條 將校敵ノ捕虜トナルモ正當ノ理由アルモノハ其年月ヲ實役停年ニ算入スルコトヲ得
第三章  會議
第十三條 上長官士官ノ進級順序ヲ定ムル爲メ每年定期檢閱畢ルノ後陸軍大臣ハ同次官參謀本部長會計局長醫務局長陸軍省ニ會同シテ決定候補名簿ヲ作ルモノトス
第十四條 此名簿ヲ作ルノ法其上長官ニ在テハ候補名簿ニ就キ陸軍大臣之ヲ決シ停年順序ヲ以テ其列序ヲ定メ其士官ニ在テハ各兵科每ニ同級合格者ヲ合シ停年順序ヲ以テ其列序ヲ定ム
第十五條 下士ノ進級順序ヲ定ムル爲メ每年定期檢閱畢ルノ後各長官ハ委員ヲ會同シ之ヲ審議シ決定候補名簿ヲ作ルモノトス
第十六條 此名簿ヲ作ルノ法各隊每ニ同級合格者ヲ合シ優劣ヲ比較シ以テ其列序ヲ定ム
第四章  補除
第十七條 敎導團生徒ニシテ卒業試驗ニ合格ノ者ハ二等軍曹ニ任スルヲ例トシ團長ハ豫メ陸軍大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ補除スルモノトス
第十八條 上等兵ノ二等軍曹ニ二等軍曹ノ一等軍曹ニ一等軍曹ノ曹長ニ任スヘキ者ハ該隊長決定候補名簿ノ列序ニ從ヒ其長官ニ除任ノ事ヲ申請スヘシ
第十九條 士官學校生徒ニシテ卒業試驗ニ合格ノ者ハ少尉ニ任スルヲ例トス校長ハ名簿ヲ陸軍大臣ニ呈シ大臣ヨリ除任ノ事ヲ奏上スヘシ
第二十條 曹長ノ少尉ニ進級スルハ特例トス故ニ其功績拔群ニシテ士官タルノ學術ヲ有スルモノニ非サレハ此撰ニ當ルヲ得ス
第二十一條 將校ノ決定候補名簿ハ陸軍大臣ヨリ奏上シ置キ補除ヲ要スル每ニ其列序ニ從ヒ士官ニ在テハ停年進級者ヲ參互シ除任ノコトヲ奏上スヘシ
第二十二條 將官ノ進級ハ上裁ニ出ツルト雖モ先ツ內旨ヲ陸軍大臣ニ諭シ然ル後除任スルヲ例トス
第二十三條 興軍ノ日ニ方リテ戰地ニ臨ムノ首將ニハ進級補除ノ權ヲ假スコトアルヘシト雖モ其權限ハ上旨ニ出ルヲ以テ之ヲ本條例ニ揭ケス
朕陸軍武官進級条例ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年七月二十四日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
陸軍大臣 伯爵 大山巌
勅令第五十八号
陸軍武官進級条例
第一章  軍級
第一条 凡軍級ノ最モ高キ者ヲ将官ト云ヒ之ニ次ク者ヲ佐官或ハ上長官ト云ヒ又之ニ次ク者ヲ尉官或ハ士官ト云フ而シテ三官各分テ三級トナス即チ大将中将少将大佐中佐少佐大尉中尉少尉是ナリ之ヲ総称スルトキハ将校ト云フ
第二条 其将校ニ次ク者ヲ下士ト云フ即チ曹長一等軍曹二等軍曹是ナリ
第三条 其下士ニ次ク者ヲ兵卒ト云フ即チ上等兵一等卒二等卒是ナリ
第二章  進級
第四条 凡軍人ノ進級ハ決シテ超級ノ陞進ヲ許スコトナク又欠員ナキ時ハ除任ヲ行フコトナシ
第五条 逐級歴進ノ法上ノ級次ニ従フト雖モ出身又ハ陞級ノ後其月日猶浅キ者ハ遽ニ昇進スルヲ許サス之カ為メニ最下ノ期限ヲ定メ以テ歴進ノ道ヲ律ス即チ左ノ如シ
上等兵ヨリ二等軍曹ニ二等軍曹ヨリ一等軍曹ニ進ムハ実役停年半年以上一等軍曹ヨリ曹長ニ進ムハ実役停年一年以上曹長ヨリ少尉ニ進ムハ実役停年二年以上
少尉ヨリ中尉ニ中尉ヨリ大尉ニ進ムハ実役停年二年以上大尉ヨリ少佐ニ進ムハ実役停年四年以上
少佐ヨリ中佐ニ進ムハ実役停年三年以上中佐ヨリ大佐ニ大佐ヨリ少将ニ進ムハ実役停年二年以上
少将ヨリ中将ニ進ムハ実役停年三年以上
第六条 中将ノ大将ニ進ムハ歴戦者ニ就キ特旨ヲ以テ親任スルヲ例トス故ニ最下ノ期限ヲ定ムルコトナシ
第七条 戦時ニ在テハ各官ノ実役停年ヲ其半ニ減スルコトヲ得
第八条 進級ノ法二アリ一ヲ停年補除ト云ヒ一ヲ抜擢補除ト云フ参互之ヲ用フ其法左ノ如シ
上等兵ヨリ二等軍曹ニ二等軍曹ヨリ一等軍曹ニ一等軍曹ヨリ曹長ニ進ムハ皆抜擢ヲ以テス
少尉ヨリ中尉ニ進ムハ停年三分二抜擢三分一ヲ以テス
中尉ヨリ大尉ニ進ムハ停年抜擢相半ス
大尉ヨリ少佐ニ少佐ヨリ中佐ニ中佐ヨリ大佐ニ大佐ヨリ少将ニ少将ヨリ中将ニ進ムハ皆抜擢ヲ以テス
第九条 監督軍吏軍医獣医部ノ上長官士官下士並砲工兵監護陸軍諸工長同下長及ヒ諸卒モ亦本令ニ照シ其等級ニ準シテ進級ヲ律ス
第十条 平時少尉ノ進級ニ停年補除三分ノ二ヲ用フルノ例戦時ニ在テハ抜擢停年相半スルノ格ヲ用ヒ中尉以上ハ概シテ抜擢ノ例ヲ用フルコトヲ得
第十一条 左ニ掲クル場合ニ在テハ前諸条ノ例ニ拠ルコトナク進級セシムルコトヲ得
一 敵前ニ在テ殊勲ヲ奏シ首将ノ命令ヲ以テ之ヲ全軍ニ布告セシモノ
一 戦時敵前ノ軍隊ニ在テ人員多ク欠耗シ補除定規ヲ履ム能ハサル時
第十二条 将校敵ノ捕虜トナルモ正当ノ理由アルモノハ其年月ヲ実役停年ニ算入スルコトヲ得
第三章  会議
第十三条 上長官士官ノ進級順序ヲ定ムル為メ毎年定期検閲畢ルノ後陸軍大臣ハ同次官参謀本部長会計局長医務局長陸軍省ニ会同シテ決定候補名簿ヲ作ルモノトス
第十四条 此名簿ヲ作ルノ法其上長官ニ在テハ候補名簿ニ就キ陸軍大臣之ヲ決シ停年順序ヲ以テ其列序ヲ定メ其士官ニ在テハ各兵科毎ニ同級合格者ヲ合シ停年順序ヲ以テ其列序ヲ定ム
第十五条 下士ノ進級順序ヲ定ムル為メ毎年定期検閲畢ルノ後各長官ハ委員ヲ会同シ之ヲ審議シ決定候補名簿ヲ作ルモノトス
第十六条 此名簿ヲ作ルノ法各隊毎ニ同級合格者ヲ合シ優劣ヲ比較シ以テ其列序ヲ定ム
第四章  補除
第十七条 教導団生徒ニシテ卒業試験ニ合格ノ者ハ二等軍曹ニ任スルヲ例トシ団長ハ予メ陸軍大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ補除スルモノトス
第十八条 上等兵ノ二等軍曹ニ二等軍曹ノ一等軍曹ニ一等軍曹ノ曹長ニ任スヘキ者ハ該隊長決定候補名簿ノ列序ニ従ヒ其長官ニ除任ノ事ヲ申請スヘシ
第十九条 士官学校生徒ニシテ卒業試験ニ合格ノ者ハ少尉ニ任スルヲ例トス校長ハ名簿ヲ陸軍大臣ニ呈シ大臣ヨリ除任ノ事ヲ奏上スヘシ
第二十条 曹長ノ少尉ニ進級スルハ特例トス故ニ其功績抜群ニシテ士官タルノ学術ヲ有スルモノニ非サレハ此撰ニ当ルヲ得ス
第二十一条 将校ノ決定候補名簿ハ陸軍大臣ヨリ奏上シ置キ補除ヲ要スル毎ニ其列序ニ従ヒ士官ニ在テハ停年進級者ヲ参互シ除任ノコトヲ奏上スヘシ
第二十二条 将官ノ進級ハ上裁ニ出ツルト雖モ先ツ内旨ヲ陸軍大臣ニ諭シ然ル後除任スルヲ例トス
第二十三条 興軍ノ日ニ方リテ戦地ニ臨ムノ首将ニハ進級補除ノ権ヲ仮スコトアルヘシト雖モ其権限ハ上旨ニ出ルヲ以テ之ヲ本条例ニ掲ケス