第一條 昭和二十年八月十五日以後において日本國沿岸に置き去られた船舶で運輸大臣が適当な調査をした後置き去られた船舶として指定したもの(以下指定船舶という。)の措置については、他の法令の規定にかかわらず、この法律の定めるところによる。
連合國人の所有に属することの明らかな船舶又はその所有に属することの正当に推定される船舶及び他の法令の規定により沒收すべき船舶については、第一項の規定による指定は、これを行わない。
第二條 前條第一項の規定による指定があつたときは、管海官廳は、当該指定船舶を管理しなければならない。
管海官廳は、命令の定めるところにより、当該船舶が指定されたことを公告し、その公告においては、左に掲げる者に対しては、この法律の定めるところにより公告の日から三箇月以内に当該指定船舶の返還又は支拂を請求することができる旨を、所有者に対しては、第三項の規定により一箇月の期間(以下猶予期間という。)内に費用を負担しないで当該指定船舶の返還を請求することができる旨を告知し、又、これらの者で知れた者に対しては、各別にこれを告知しなければならない。
三 指定船舶が置き去られた後において当該指定船舶を拾得した者
四 指定船舶が置き去られた後において公の機関の指示により当該指定船舶を管理した者
五 指定船舶が置き去られた後において当該指定船舶に因り損害を受けた者
前項の規定による公告の日又は各別の告知の日のうちいずれか遅い方の日の翌日から一箇月以内に当該指定船舶の所有者がその返還を請求したときは、管海官廳は、遅滯なく当該指定船舶をその所有者に引き渡さなければならない。この場合には、当該指定船舶の所有者は、第三條第一項の金額を負担することを要せず、又、前項第三号及び第四号に掲げる者は、第三條第一項第二号及び第三号の金額の支拂を受けることができない。
この法律施行前に、置き去られた船舶として管海官廳に届出があり、且つ、管海官廳の調査によつてもなおその所有者の知れなかつた船舶については、前項の規定を適用しない。
第三條 前條第二項の規定により当該指定船舶の返還を請求した所有者で猶予期間内に返還を請求しなかつたものは、同項に規定する請求期間経過後三箇月以内に限り、当該指定船舶の引渡を受けることができる。この場合には、左に掲げる金額は、当該指定船舶の所有者の負担とする。
一 管海官廳のした公告、告知及び管理に要した費用に相当する金額
二 前條第二項第三号に掲げる者で同項の規定により支拂を請求したものがあるときは、当該指定船舶の價格の十分の一に相当する金額
三 前條第二項第四号に掲げる者で同項の規定により支拂を請求したものが適当な範囲内において当該指定船舶の救助、引揚又は修繕をしたときは、その費用に相当する金額
前項第二号の指定船舶の價格は、運輸大臣の指定する鑑定人の評價した公正な時價による。
管海官廳は、第一項の金額の全部を受け取らなければ、当該指定船舶をその所有者に引渡してはならない。但し、運輸大臣が費用の負担に関する困難及び不公正を避けるため必要があると認めて支拂期間を三箇月延期したときは、この限りでない。
第四條 指定船舶の所有者が第二條第二項及び第三條第一項の規定により当該指定船舶の引渡を請求しなかつたときは、管海官廳は、その適当で信頼するに足りると認める海運業者、漁業者その他海上企業に密接な関係を有する者に対し、命令の定めるところにより、入札の方法によつて、これを賣却しなければならない。この場合には、管海官廳は、運輸大臣の指定する鑑定人に当該指定船舶を評價させ、その評價した公正な時價を以て最低入札價格としなければならない。
前項の規定による賣却に因つて、当該指定船舶の上に存する権利は、消滅し、これを買い受けた者は、その所有権を取得する。
第一項の規定により指定船舶を買い受けた者は、命令の定めるところにより、指定船舶の所有者としてその登記を受けることができる。
第五條 管海官廳は、第三條第一項の金額又は前條第一項の規定による賣却代金を受け取つたときは、遅滯なく第三條第一項第二号及び第三号の金額を夫ゝ第二條第二項第三号及び第四号に掲げる者で同項の規定により支拂を請求したものに支拂わなければならない。
第三條第一項第一号及び第四号の金額は、管海官廳が同項の金額又は前條第一項の規定による賣却代金を受け取つた時に、國庫に帰属し、前條第一項の規定による賣却の費用に相当する金額は、同條第一項の規定による賣却代金を受け取つた時に、國庫に帰属する。
第六條 第二條第二項第二号又は第五号に掲げる者が同項の規定により支拂を請求したときは、管海官廳は、第四條第一項の規定による賣却代金から第三條第一項の金額及び第四條第一項の規定による賣却の費用に相当する金額を控除した残額(以下控除残額という。)を供託しなければならない。
第七條 第二條第二項第二号又は第五号に掲げる者で同項の規定により支拂を請求したものは、第四條第一項の規定による賣却の日の翌日から二年以内に限り、前條の規定によつて供託された金額に対しその権利を行うことができる。この場合には、第二條第二項第二号に掲げる者は、同項第五号に掲げる者に優先する。
第二條第二項第五号に掲げる者が数人ある場合において、前條の規定により供託された金額がその債権の総額を弁済するに足りないときは、各ゝその債権額の割合に應じてその権利を行うことができる。
第八條 第二條第二項第二号及び第五号に掲げる者が同項の規定により支拂を請求しなかつたときは、控除残額は、管海官廳が第四條第一項の規定による賣却代金を受け取つた時に、國庫に帰属する。
第二條第二項第二号又は第五号に掲げる者が同項の規定により支拂を請求したときは、第六條の規定により供託された金額は、これらの者が前條の規定によりその権利を行つた金額を除いて、同條第一項の規定による期間満了の時に、國庫に帰属する。
第九條 管海官廳は、第五條第一項の場合には、第三條第一項第二号及び第三号の金額を第五條第一項の規定による支拂の時まで、第六條の場合には、控除残額を同條の規定による供託の時まで歳入歳出外現金として保管することができる。
第十條 第一條第一項の規定による指定のあつた後において、指定船舶の原所有者が連合國人であることが知れたときは、その者は、管海官廳にその権利を証明して、当該指定船舶の返還を請求することができる。この場合には、第三條第一項の金額を負担することを要しない。
前項の場合において当該指定船舶が第四條第一項の規定により既に賣却されているときは、前項に規定する者は、同條第一項の規定による賣却の日から五年以内に限り、前項の規定による請求をすることができる。この場合において当該指定船舶の返還の請求があつたときは、管海官廳は、同條第一項の規定による賣却代金の全額を前項に規定する者に支拂つて、当該指定船舶の返還の義務を免かれることができる。
第一項に規定する者が所有権を放棄した場合、又は第一條第一項の指定のあつた後において所有者が連合國の國籍を取得し、若しくは連合國人が当該指定船舶の所有権を取得した場合には、前二項の規定を適用しない。
第十一條 第四條第一項の規定により賣却された指定船舶の原所有者で連合國人でないものが、一時日本國にいなかつたため、第二條第二項の規定による請求をすることができなかつたときは、その者は、日本國に帰還した日の翌日から六箇月以内に限り、運輸大臣にその不在の事実を証明して、管海官廳に対し第八條の規定により國庫に帰属した金額の支拂を請求することができる。