審議経過

第三編
第二部　包括名義ニテ獲得スル方法
前置條例
第千五百一條　包括財產ハ相續贈與遺囑會社ノ止息及ヒ夫婦財產契約ニ由リ獲得ス
包括財產ノ獲得者ハ第千百一條ニ規定シタル如ク其前主ノ權利ト共ニ義務ヲ承繼ス
第千五百二條　相續贈與遺囑夫婦財產契約及ヒ會社ハ本編第二部ノ目的ニシテ下ノ各章ニ規定ス
第一章　相續
第一節　總則
第一欵　相續ノ開始
第千五百三條　相續ハ各人ノ死去又ハ隨意ノ辭產（隱居）ニ依リ開始ス
第千五百四條　相續ノ開始ハ法律、遺囑又ハ辭產ニ依リ相續ス可キ人ニ當然被相續人ノ働方及ヒ受方ヲ移轉ス但シ辭產ノ効力ニ付第四節ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百五條　數人互相ニ相續ス可キ者同一ノ事變ニ於テ死去シ且ツ其事變ノ實况ニ從ヒ死去ノ先後ヲ認知スルヿ能ハサルトキハ死者ノ相續ハ各自ノ相續人ニ開始ス
第千五百六條　前條ノ規則ハ互相ニ遺囑相續人タル者同一ノ事變ニ於テ死去シタル塲合ニモ亦之ヲ適用ス
第二欵　相續スルニ必要ノ資格
第千五百七條　相續開始ノ時生存セサル者ハ相續人タルヿヲ得ス但シ辭產相續ノ開始後ニ出生シタル子ノ權利ニ付第四節ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
又相續人其相續ヲ保有スル爲メニハ相當者タルヿヲ要ス
第千五百八條　相續開始ノ時未タ胎內ニ在ラサル者若クハ活テ生レサリシ者ハ不生存者トス
第千五百九條　相續ヲ保有スルニ不相當トシテ其相續ヨリ除斥ス可キ者左ノ如シ
一　故意ヲ以テ被相續人ヲ殺害シ又ハ殺害セントシタル爲メ刑ニ處セラレタル者但シ年齡外ノ原由ニ基キ法律上宥恕减輕ス可キ者ハ此例ニ在ラス
二　被相續人ヲ死刑ニ該ル犯罪人ナリト誣告シテ其誣告犯ノ刑ニ處セラレタル者
三　被相續人ノ殺害セラレタルヿヲ知リテ之ヲ告訴若クハ告發セサリシ成年者但シ其殺害人刑法第百十四條ニ列記シタル親屬ナルヿヲ知リ居タルトキハ此例ニ在ラス
第千五百十條　不相當ト裁判セラレタル者ハ曾テ相續人タラサル者ノ如ク其相續開始ノ時ヨリ占有シタル元本幷ニ收益シ若クハ收益スルヿヲ怠リタル果實ヲ返還ス可シ
第千五百十一條　不相當ニ基ク相續除斥ノ訴權ハ左ノ條件ノ一ニ由リ消滅ス
一　被相續人ノ明瞭ナル容赦
二　五ヶ年ノ時効
此時間ハ第千五百九條第一及ヒ第二ノ塲合ニ於テハ處刑裁判確定ノ時又同條第三ノ塲合ニ於テハ被相續人ノ殺害セラレタル事實ニ關スル裁判確定ノ時ヨリ起算ス
第三欵　相續ノ順位
第千五百十二條　相續ヲ別テ三種トス
一　法律上ノ相續
二　遺囑相續
三　辭產相續
第千五百十三條　法律ハ法律上ノ相續ニ付其權利及ヒ順位ヲ規定ス
遺囑相續及ヒ辭產相續ハ法律ノ制限內ニ於テ被相續人ノ隨意ニ之ヲ規定スルヿヲ得
第千五百十四條　何人ニ限ラス民法上血族ノ身分ヲ有スル者ニ非サレハ法律上ノ相續權ヲ有セス但シ戸主若クハ親族會ノ設定シタル家督相續人幷ニ配偶者ノ相續及ヒ國ノ權利ニ付後ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百十五條　法律上相續ノ順位ヲ定ムルヿ左ノ如シ
第一　卑屬親
第二　特別傍系親即チ兄弟姉妹又ハ其卑屬親
第三　尊屬親
第四　普通傍系親即チ兄弟姉妹及ヒ其卑屬親外ノ傍系親
第千五百十六條　前條ノ順位中先位ニ在ル相續人ハ後位ニ在ル相續人ヲ退除ス但シ兄弟姉妹ト父母ト共立シ幷ニ父系及ヒ母系ノ親屬ニ相續ヲ二分スル塲合ハ此例ニ在ラス
第千五百十七條　同位若クハ同系ニ在ル相續人間ニ於テハ親等ノ最モ近キ者其遠キ者ヲ退除ス
同等ノ相續人間ニ於テハ相續ノ働方及ヒ受方ヲ平分ス但シ家督相續ニ付後ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百十八條　尊屬親又ハ傍系親ノ相續スル塲合ニ於テハ其相續ヲ二分シテ父系ノ血族其一分又母系ノ血族他ノ一分ヲ相續ス
兩系ノ一方ニ相續ス可キ血族アラサルトキハ他ノ一方ニ相續ノ全部ヲ移轉ス
第千五百十九條　前條ノ塲合ニ於テ兩系ニ屬スル相續人ハ其各系ノ相續部分ニ參加シ又片系ニ屬スル相續人ハ單ニ其系ノ相續部分ニ參加ス
第四款　代承相續
第千五百二十條　代承相續ハ躬ラ相續權ヲ有スル者ヲシテ被相續人ヨリ先ニ死去シタル者ノ親等ニ昇ラシメ之ニ其先死者尙ホ生存スルニ於テハ相續ス可キ部分ヲ承ケシムル法律ノ規定ナリ
第千五百二十一條　代承相續ハ被相續人ノ卑屬親又ハ兄弟姉妹ノ中先ニ死去シ尙ホ生存スルニ於テハ其被相續人ニ相續ス可キ者ノ卑屬親ノ爲メニ非サレハ之ヲ許サス
第千五百二十二條　先死者ノ代承相續人數名アルトキハ其被代承者尙ホ生存スルニ於テハ相續ス可キ部分ヲ其間ニ平分ス但シ被代承者家督相續人タリシトキハ此例ニ在ラス
第千五百二十三條　代承相續ハ代承ニ依ラスシテ躬ラ相續ス可キ順位ニ在ル者ノ爲メ之ヲ適用セス但シ代承家督相續ニ付特別ニ規定スルモノハ此限ニ在ラス
第千五百二十四條　先死者ノ相續ヲ抛棄シタル者ト雖トモ其代承相續人ト爲ルヿヲ妨ケス
何レノ塲合ニ於テモ生存者ノ代承相續人トナルヿヲ得ス
第二節　法律上ノ相續
第千五百二十五條　法律上ノ相續ヲ家督相續及ヒ普通相續ノ二種ニ區別ス
第千五百二十六條　家督相續ハ法律ノ規定ニ從ヒ戸主タル被相續人ノ家名其他ノ特權ヲ承繼スル相續ナリ
第千五百二十七條　普通相續ハ戸主ニアラサル被相續人ノ財產ヲ承繼スル相續ナリ
相續財產中家督相續ニ歸ス可キ部分ヲ除キ其他ノ部分ヲ家督外ノ相續人間ニ平分スルモノモ亦普通相續トス
第一款　家督相續
第一　家督相續ニ屬ス可キ物
第千五百二十八條　家督相續人ハ之ト幷立ス可キ順位ニ在ル卑屬親タル普通相續人アラサルトキハ相續ノ全部ニ權利ヲ有ス
第千五百二十九條　前條ニ記載シタル普通相續人アルトキハ家督相續人ハ其家所屬ノ特權及ビ法律ノ規定シ若クハ戸主タル被相續人法律ノ制限內ニ於テ規定シタル財產ニ權利ヲ有ス
第千五百三十條　系譜、爵、族稱、世襲財產、祭先具、墳墓地、屋號、商標、本宅其宅地、其他相傳ノ重器ハ其家所屬ノ特權ヲ組成ス
第千五百三十一條　戸主ハ其家所屬ノ特權ノ外財產ノ幾分ヲ家督相續ノ所屬トスルヿヲ得但シ法律ノ規定部分ヲ超過スルトキハ其超過額ハ處置シ得可キ部分ノ限度ニマテ効力ヲ有ス
第千五百三十二條　戸主家督相續ノ所屬部分ヲ規定セサルトキハ法律上之ヲ規定スルヿ左ノ如シ
普通相續人一名アルトキハ三分ノ二又二名アルトキハ二分ノ一又三名以上アルトキハ三分ノ一トス
第千五百三十三條　戸主ノ規定シタル家督相續ノ所屬部分法律上ノ部分ニ及ハサルトキト雖モ之ヲ法律上ノ部分ニ補充スルヿヲ得ス
然レトモ其家督相續人普通相續ノ順位ニ在ル者ナルトキハ其普通相續部分ニマテ之ヲ補充スルヿヲ得
第千五百三十四條　家督相續ニ其家所屬ノ特權中收益ノ生スヘキ世襲財產ヲ包含スル塲合ニ於テハ家督相續人其特權外ニ法律ノ規定ニ基ク財產ノ部分ニ權利ヲ有セス但シ其世襲財產ノ額法律上ノ部分ニ不足スルトキハ其補充額ニ權利ヲ有ス
第二　家督相續人
第千五百三十五條　家督相續人ハ一家一人ニ限ル可シ
何人ニ限ラス二家以上ノ家督相續人タルヿヲ得ス
第千五百三十六條　男子ニシテ他家ノ養子又ハ入夫トナリ女子ニシテ他家ニ嫁シ又ハ他家ノ養女トナリタル者ハ實家又ハ外家ノ家督相續人トナルヿヲ得ス
第千五百三十七條　一人ニシテ數家ノ家督相續人ニ指定セラレタル者ハ其中一ヲ撰擇スルヿヲ得
一家ノ家督相續ノ受諾ハ明瞭ナルト暗默ナルトヲ問ハス其撰擇ヲ組成ス
第千五百三十八條　一家ノ家督相續ノ受諾ハ他家ノ家督相續ノ指定ヲ消滅ス
第千五百三十九條　家督相續ハ他ノ普通相續ノ障害トナラス
第千五百四十條　家督相續シタル者ハ戸主トナリテ其家ヲ整理ス
第三　家督相續人ノ順位及ヒ其指定
第千五百四十一條　家督相續人ハ或ハ法律ヲ以テ之ヲ規定シ或ハ被相續人ノ意思ヲ以テ之ヲ指定シ或ハ親族會ノ决議ヲ以テ之ヲ指定ス
第千五百四十二條　法律ニ於テ家督相續人ト爲ルヘキ者ノ順位ヲ定ムルヿ左ノ如シ
第一　被相續人自家ノ卑屬親中親等ノ最モ近キ者
第二　同等ノ卑屬親中男子ト女子トアルトキハ男子
第三　男子數人アルトキハ其中先キニ生レタル者
第四　女子ノミ數人アルトキハ其中先キニ生レタル者
第五　同等ノ卑屬親中正出子ト庶出子トアルトキハ男女ノ性差出生ノ先後ニ抅ラス正出子
正出子ト養子トノ相續順位ニ關スル先後ハ第二百三十四條ニ從ヒ之ヲ定ム
第千五百四十三條　被相續人ハ正當ノ原由アルニ非サレハ法律ニ定ムル家督相續ノ順位ヲ變更スルヿヲ得ス
其變更ハ前條ノ順位ニ從フニ非サレハ之ヲ爲スヿヲ得ス
第千五百四十四條　法律ニ於テ家督相續人ヲ變更スル正當ノ原由ト爲スヿヲ得ヘキ者ハ左ノ如シ
一　失踪
二　白痴瘋癲廢疾
三　祖父母父母ニ對スル罪ニ付處刑宣告
四　重罪ノ處刑宣告竊盜詐欺取財家資分㪚及ヒ私印私書僞造ノ罪ニ付重禁錮一年以上ノ處刑宣告
第千五百四十五條　被相續人ニシテ自己ノ財產ヲ無償名義ニ因リ處置スルノ能力ヲ有スル成年者ハ隨意ニ其家督相續人ヲ指定スルヿヲ得
其指定ハ被相續人死去ノ日ニ法律上ノ家督相續人アルトキハ無効トス
第千五百四十六條　家督相續人ノ變更若クハ指定ハ遺囑ノ證書ヲ以テ之ヲ爲スモノトス但シ辭產ノ塲合ハ此例ニ在ラス
第千五百四十七條　若シ法律上ノ家督相續人アラス若クハ被相續人之ヲ指定セス若クハ家督相續人抛棄シタルトキハ親族會ニ於テ家督相續人ヲ指定スルヿヲ得
第千五百四十八條　親族會ハ左ノ順序ニ從ヒ家督相續人ヲ撰定ス可シ
第一　兄弟
第二　兄弟アラス若クハ抛棄シタルトキハ姉妹
第三　兄弟姉妹アラス若クハ抛棄シタルトキハ其卑屬親中親等ノ最モ近キ男子
第四　男子アラス若クハ抛棄シタルトキハ親等ノ最モ近キ女子
第五　兄弟姉妹ノ卑屬親アラス若クハ抛棄シタルトキハ其自家ノ尊屬親ニシテ親等ノ最モ近キ者
第六　同等ノ自家尊屬親中男女アルトキハ男子
右第五第六ノ塲合ニ於テハ其年齡精神體力家政ヲ執ルニ堪ユル者タルヿヲ要ス
第千五百四十九條　前條ニ記載シタル親族アラス若クハ抛棄シタル塲合ニ非サレハ生存配偶者其他ノ人ヲ撰定スルヿヲ得ス但シ此塲合ニ於テハ被相續人ヨリ成ル可ク年少者ニシテ最モ親密ナル交際ヲ有セシ者ヲ撰定ス可シ
第千五百五十條　親族會ニ於テ撰定シタル家督相續人成年ナルトキハ其承諾ヲ得又未成年ナルトキハ其父母又ハ後見人ノ承諾ヲ得タル上其撰定ニ付地方裁判所ノ認可ヲ請フ可シ
裁判所ハ事情ニ依リ再撰ヲ命スルヿアル可シ
第千五百五十一條　前條ノ認可ヲ經スシテ家督相續人タルノ所爲アル者ハ惡意ノ占有者ノ責ニ任ス
若シ其者未成年ナルトキハ後見人其責ニ任ス
第千五百五十二條　被相續人ハ家督相續ヲ斷絕スルヿヲ得ス
然レトモ第千五百三十二條ニ從ヒ家督相續ノ所屬トシテ法律上付與ス可キ財產ヲ家督相續人ニ拒絕スルヿヲ得
第千五百五十三條　前條拒絕ノ明瞭ナル塲合ノ外尙ホ遺囑若クハ生存者間ノ行爲ヲ以テ財產ノ全部ヲ普通相續人又ハ其他ノ人ニ有効ニ分與シタルトキモ亦其拒絕アリタルモノト看做ス
此塲合ニ於ケル家督相續人ハ普通相續權ヲ保有ス
第四　代承家督相續
第千五百五十四條　被代承者家督相續人タルヘキ者ナリシトキハ其代承者ノ中ニテ被代承者尙ホ生存シテ家督相續ヲ爲セシニ於テハ法律上其家督相續人トナル可キ者之ヲ代承ス
第千五百五十五條　代承家督相續人ハ第千五百三十條ニ規定シタル其家所屬ノ特權ヲ專有ス然レトモ家督相續ニ所屬ノ財產ハ第千五百三十二條ニ從ヒ代承家督相續人ト普通代承者トノ間ニ之ヲ分派ス
第二款　普通相續
第千五百五十六條　普通相續ハ家督相續人タラサル卑屬親ノ利益ニ於ケル塲合ヲ除クノ外家督相續ト對立セス
卑屬親外ノ者ノ利益ニ於ケル普通相續ハ家督相續ノ行ハレサルトキニ非サレハ存セサルモノトス
第一　卑屬親ノ相續權
第千五百五十七條　卑屬親ハ正出子養子庶出子ノ區別、出生ノ先後男女ノ性差ヲ問ハス他家ノ養子トナリタル者ヲ除クノ外第千五百十五條以下ノ順位ニ從ヒ其尊屬親ニ相續ス但シ被相續人戸主タリシトキハ第千五百二十七條ノ規定ニ從ヒ其家督相續ニ歸ス可キ部分ヲ當然扣除ス
第千五百五十八條　前條ノ相續人皆自己ノ權利ヲ以テ相續シタルトキハ第千五百二十七條ノ規定ニ從ヒ其間ニ相續ヲ平分ス
第千五百五十九條　其相續人ノ中代承者ト自權ノ相續人トアルトキハ其人員ノ數ニ因ラス被代承者ト自權ノ相續人トノ員數ニ因リ其相續ヲ平分ス
第千五百六十條　被代承者ニ歸ス可キ部分ハ第千五百二十二條ノ規定ニ從ヒ更ニ之ヲ其代承者間ニ平分ス
第二　特別傍系親即チ兄弟姉妹又ハ其卑屬親ノ相續權
第千五百六十一條　第千五百十六條ノ規定ニ從ヒ兄弟姉妹又ハ其卑屬親相續スル塲合ニ於テ被相續人ノ父母共ニ生存セサルトキハ兄弟姉妹又ハ其卑屬親ハ相續ノ全部ニ權利ヲ有ス
第千五百六十二條　父母ノ生存ハ兄弟姉妹又ハ其卑屬親ヲ退除セス之ト對立シテ父母ノ各自ハ相續全部ノ四分ノ一ヲ相續ス
第千五百六十三條　兄弟姉妹又ハ其卑屬親ニ歸ス可キ相續ノ部分ハ其間ニ之ヲ平分ス但シ其卑屬親代承相續ヲ効用ス可キトキハ此例ニ在ラス
第千五百六十四條　兄弟姉妹中被相續人ト父又ハ母ヲ異ニスル者アルトキハ第千五百十八條及ヒ第千五百十九條ノ規定ニ從ヒ其相續ヲ父系及ヒ母系ニ二分シテ父母ヲ同フスル者ハ其兩系ノ相續部分ニ參加シ父若クハ母ヲ異ニスル者ハ其血緣ニ係ル系ノ相續部分ニ參加ス
其卑屬親相續スルトキ亦同シ
第三　尊屬親ノ相續權
第千五百六十五條　第千五百十六條第千五百十七條及ヒ第千五百十八條ノ規定ニ從ヒ尊屬親ノ相續ス可キ塲合ニ於テハ其相續ヲ平等ニ二分シテ父系ノ尊屬親中親等ノ最モ近キ者其一分又母系ノ尊屬親中親等ノ最モ近キ者他ノ一分ヲ相續ス
第千五百六十六條　兩系ノ中一系ニ尊屬親アラサルトキハ其系ニ所屬ノ部分ハ其系ノ普通傍系親ニ屬ス
一系ニ相續ス可キ普通傍系親モアラサルトキハ第千五百十八條第二項ノ規定ニ從ヒ他ノ一系ノ尊屬親之ヲ併有ス
第四　普通傍系親即チ特別傍系親外ノ傍系親ノ相續權
第千五百六十七條　普通傍系親即チ特別傍系親外ノ傍系親ハ七親等內ノ者ニ非サレハ法律上ノ相續權ヲ有セス
第千五百六十八條　第千五百十六條第千五百十七條及ヒ第千五百十八條ノ規定ニ從ヒ普通傍系親ノ相續ス可キ塲合ニ於テハ相續ヲ父系及ヒ母系ニ二分シテ各其系ニ所屬ノ部分ヲ相續ス
第千五百六十九條　一系ニ所屬ノ部分ハ其系ニ相續ス可キ親族ナキトキニ非サレハ他ノ一系之ヲ併有スルヿヲ得ス
第千五百七十條　同系ノ普通傍系親中親等ノ最モ近キ者ハ其遠キ者ヲ退除ス
同等ノ傍系親數人アルトキハ其間ニ相續ヲ平分ス
第五　生存配偶者ノ相續權
第千五百七十一條　生存配偶者ハ適法ニ相續ス可キ者アラス若クハ皆抛棄シタルトキニ非サレハ全部ヲ相續スルヿヲ得ス
然レトモ家督相續人タルト普通相續人タルトヲ問ハス被相續人トノ共同ニ出タル卑屬親ノ相續シタル塲合ヲ除クノ外總テノ相續人ニ對シ其再婚ニ至ルマテ相續全部ノ四分ノ一ニ付用收權ヲ有ス
第千五百七十二條　此用收權ハ相續ノ不相當者タル生存配偶者ニ之ヲ附與セス
第六　國ノ權利
第千五百七十三條　相續人アラス又ハ皆抛棄シタル相續ハ法律上當然國庫ニ屬ス
國庫ハ常ニ限定受諾ノ利益ヲ以テ相續ス
第千五百七十四條　國庫其相續ヲ占有ス可キ方法其他之ニ附隨ノ手續ハ行政法ヲ以テ之ヲ定ム
第千五百七十五條　其相續ハ國庫ノ占有スルニ至ルマテ相續人ノ虧缺シタル相續ト等シク之ヲ管理ス
第三節　遺囑相續
第千五百七十六條　遺囑相續ハ死者最終ノ意思ヲ以テ自己ノ家督相續人又ハ普通相續人ニ法律上付與スル相續ノ部分ヲ變更シテ其分量ヲ規定シタル相續ナリ
第千五百七十七條　家督相續人ヲ要スル塲合ニ於テ之ヲ置カサルノ遺囑ハ其家所屬ノ特權外ニ於ケル總テノ財產ヲ相續人間ニ平分ス可キヿヲ規定シタルモノト看做ス
第千五百七十八條　相續人中一名又ハ數名ノ利益ニ於ケル遺囑相續ノ分量處置シ得ヘキ部分額ヲ超過スルトキハ其超過額ハ處置シ得ヘキ財產ノ限度ニマテ有効トス
第千五百七十九條　貯存財產ノ利益ヲ有ス可キ相續人ノ法律上受ク可キ部分ハ遺囑相續ニ依リ之ヲ廢棄シ若クハ減少スルヿヲ得ス
然レトモ家督相續人ノ法律上受ク可キ部分ニ付テハ第千五百五十三條ノ制限內ニ於テ之ヲ減少スルヿヲ得
第千五百八十條　遺囑相續ノ法式及ヒ有効ニ關スル條件ハ總テ遺囑ノ規則ニ從フ
第四節　辭產相續
第千五百八十一條　辭產相續ハ法律ノ規定シタル條件ニ從ヒ地方裁判所ノ認可ヲ得テ推測相續人ノ利益ニ被相續人ノ意思ニ由リ其生存中開始スル相續ナリ
第千五百八十二條　辭產者其辭產ニ因リ各相續人ノ受クヘキ相續ノ部分ヲ別ニ規定セサルトキハ總テ法律ノ規定部分ニ從フ
又其辭產ニ因リ別ニ相續ノ部分ヲ規定スルトキハ遺囑相續ノ適法限度ニマテ効力ヲ有ス
第千五百八十三條　辭產相續人ハ各其得タル利益ノ分量ニ應シテ辭產者ニ其生計ノ爲メ相當ノ用收權又ハ畢生年金權ヲ供給ス可シ但シ辭產者自ラ其相續ニ付相當ノ用收權又ハ畢生年金權ヲ自己ノ爲メ貯存シタルトキハ此例ニ在ラス
第千五百八十四條　辭產相續ハ左ニ揭載シタル條件ノ完備シタルトキニ非サレハ之ヲ認可セス
一　辭產者ノ年齡滿六十年以上ナルヿ
二　辭產ハ其隨意ニ出タルヿ
三　家督相續人ノ受諾但シ其相續人ハ成年者ニシテ實際家政ヲ執ルノ能力アル者タルヿヲ要ス
四　辭產者其配偶者ト財產ヲ共通スルトキハ其配偶者ノ承諾但シ其承諾ハ公正證書ヲ以テ表ス可シ
五　辭產者入夫ノ婦タルトキハ其夫ノ承諾
六　三十日間適法ノ塲所ニ辭產ノ公告ヲ爲シタルヿ
七　其公告最初ノ日ヨリ起算シテ六十日ヲ經テ第三者ノ故障アラサリシヿ
八　制規ノ期間ニ故障アリタルトキハ其故障不當ノ裁判確定シタルヿ
第千五百八十五條　辭產者廢疾又ハ其他ノ原由ニ因リ家政ヲ執ルヿヲ得サルノ事實アルトキハ自己ノ申立ニ由リ年齡ノ條件ヲ宥恕スルヿアル可シ
未成年、白痴、瘋癲ハ宥恕ノ原由ニ非ス
第千五百八十六條　辭產相續ノ認可ハ辭產者住所ノ地方裁判所ニ請求ス可シ
其請求書ニ第千五百八十四條ノ第一乃至第五ノ條件ニ適合シタル旨若クハ年齡ノ宥恕ヲ請フトキハ其理由ヲ記載ス可シ
第千五百八十七條　其請求ヲ受ケタル裁判所ハ十五日內ニ事實ヲ審按シ適法ノ條件虧缺シタルトキニ非サレハ之ヲ却下スルヿヲ得ス
若シ又至當ト認メタルトキハ辭產者ノ費用ヲ以テ公告ヲ爲ス可キヿヲ命ス可シ
第千五百八十八條　公告書ニ左ノ件々ヲ記載シテ住所及ヒ居所ノ地方裁判所市役所又ハ町村役塲ノ門前ニ三十日間之ヲ揭示ス可シ
一　辭產者ノ氏名職業住所及ヒ居所
二　辭產者滿六十年以上ナルヿ若クハ其宥恕ヲ請フ原由
三　辭產ハ辭產者ノ隨意ニ出タルヿ
四　相續人ノ親等氏名年齡職業住所及ヒ其受諾幷ニ受諾ノ性質
五　配偶者ノ承諾ヲ要スルトキハ其承諾
第千五百八十九條　辭產者ノ債權者配偶者血族姻族若クハ檢事ハ左ノ原由ノ一ニ因リ公告ノ日ヨリ六十日內ニ故障ヲ述フルヿヲ得
一　第千五百八十四條ニ揭載シタル第一乃至第五ノ條件ニ違背ノ事實
二　辭產相續ノ得益者ハ推測相續人タラサル事實
三　辭產ハ財產ヲ隱匿シ若クハ債權者ヲ詐害スルノ意思ニ出タル事實
又辭產ハ辭產者ノ隨意ニ出サル塲合ニ於テハ辭產者躬ラ故障ヲ述フルヿヲ得
第千五百九十條　裁判所ハ公告ノ日ヨリ六十日ヲ過キタルニ非サレハ辭產ノ認可ヲ爲スヿヲ得ス
又制規ノ期間ニ故障アリタルトキハ其故障却下ノ裁判確定ニ至ラサル間ハ辭產ノ認可ヲ爲スヿヲ得ス
第千五百九十一條　辭產相續ノ認可アリタルトキハ第四百九十條ノ手續ヲ爲ス可シ
第千五百九十二條　辭產相續ハ其認可ノ日ヨリ對人ト物上トヲ問ハス權利行爲ニ付辭產者ノ從前關係人ニ對シテハ死去ニ因ル相續ト同一ノ効力ヲ有ス
然レトモ辭產者ノ生命ヲ限度トスル權利及ヒ義務ヲ消滅スルモノニアラス
又以後ノ關係人ニ對シテハ第四百九十條ノ手續ヲ爲シタル後ニ非サレハ之ヲ對抗スルヿヲ得ス
第千五百九十三條　第四百九十條ノ手續ヲ爲スヿヲ遲滯シタルヨリ第三者ニ損害ヲ及ホスヿアルトキハ相續人ハ辭產者ト連帶シテ其責ニ任ス可シ
第千五百九十四條　辭產相續ハ相續人ノ爲メ確定ノモノトス但シ下ニ定メタルモノハ此例ニ在ラス
第千五百九十五條　辭產相續人其辭產者ノ死去ニ至ルマテ自己若クハ被代承ノ相續權ヲ有スルトキニ非サレハ其相續ヲ保有スルヿヲ得ス
第千五百九十六條　辭產相續ハ將來辭產者ヨリ出生スル子ニ之ヲ對抗スルヿヲ得ス
然レトモ相續人ノ負擔ニテ其子ヲ養育シ辭產者ノ死去ニ至ルマテ其辭產相續ヲ保持スルヿヲ得
第千五百九十七條　辭產者死去スルトキハ辭產後其得タル財產ヲ併セテ死去ニ因ル相續法ニ從ヒ其子ト辭產相續人トノ間ニ於テ更ニ相續ヲ分派ス可シ
辭產者辭產後ニ爲シタル養子ハ其辭產相續ニ權利ヲ有セス
第千五百九十八條　辭產相續人中卑屬親ナクシテ辭產者ヨリ先ニ死去スル者アルトキハ辭產相續ニ因リ其者ノ得タル財產ニシテ原物ノ儘尙ホ存在スルモノハ當然辭產者ニ歸ス
其原物ニテ存在セサルモノニ付テハ辭產者ハ其物ノ替リニ死者ノ得タル利得ノ限度ニマテ對價額ヲ請求スルヿヲ得
第五節　相續ノ受諾及ヒ抛棄
第千五百九十九條　何人ニ限ラス必ス相續スヘキ義務ヲ負ハス又常ニ隨意ニ相續ヲ受諾スルヿヲ得
然レトモ有夫ノ婦未成年者及ヒ禁治產者又ハ瘋癲者ハ法律ノ制限ニ從フニ非サレハ相續ヲ受諾スルヿヲ得ス
第千六百條　相續人ハ相續ニ付單純又ハ限定ノ受諾ヲ爲シ若クハ抛棄ヲ爲スヿヲ得
第千六百一條　相續人受諾又ハ抛棄ヲ爲サスシテ死去セシトキハ其死者ノ相續人死者ノ名義ヲ以テ之ヲ受諾シ又ハ抛棄スルヿヲ得
其相續人數人アリテ受諾又ハ抛棄ノヿニ付議協ハサルトキハ限定ノ受諾ヲ爲ス可シ
第千六百二條　相續人ハ民事訴訟法ニ規定シタル法式ニ從ヒ相續財產ヲ調查スル爲メ三ヶ月ノ期限ヲ有ス但シ此期限ハ相續開始ノ日ヨリ起算ス
相續ノ受諾又ハ抛棄ヲ决定スル爲メ一ヶ月ノ期限ヲ有ス但シ此期限ハ右三ヶ月滿限ノ日又ハ其前財產ノ調查ヲ終リタル日ヨリ起算ス
第千六百三條　相續人ハ其調查又ハ决定ノ期限內相續ニ關スル一切ノ訴訟ヲ停止セシムルヿヲ得
其期限後ハ事情ニ依リ地方裁判所ヨリ更ニ三ヶ月內ノ延期ヲ許容スルヿアルヘシ
第千六百四條　相續ニ關スル訴訟ニ付要セシ費用ハ法律上ノ期限內ニ係ルモノト裁判所ノ許容シタル延期內ニ係ルモノトヲ問ハス總テ相續財產ノ負擔トス但シ相續人ノ過愆ニ因リ要セシ費用ハ此例ニ在ラス
第千六百五條　相續財產中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調查又ハ决定ノ期限未滿中ト雖モ裁判所ノ認可ヲ得テ其物品ヲ訴訟法ニ定メタル法式ニ從ヒ糶賣ニ付スルヿヲ得
第一款　單純ノ受諾
第千六百六條　相續人其被相續人ノ働方及ヒ受方財產ノ一切ニ關シ確定ニ其代表者ト爲ル意思ヲ顯ハストキハ單純ノ受諾トス
第千六百七條　單純ノ受諾ニ明瞭ノモノアリ暗默ノモノアリ
相續人公正證書又ハ私證書ヲ以テ自己ノ責任ヲ限ラス相續スルノ意思ヲ表シタルトキハ明瞭ナル受諾トス
又相續人ノ所爲ニ依リ其意思アリタルヿヲ推測スルニ足ルトキハ暗默ノ受諾トス
第千六百八條　財產ノ管理行爲就中第千六百五條ノ行爲ニ付テハ受諾ノ意思ヲ推測セス但シ相續人自己ノ名義ヲ以テ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第千六百九條　槪シテ相續人ノ左ノ所爲ハ單純ナル受諾ノ意思ヲ推測ス
一　相續ヲ組成スル不動產ノ一箇又ハ數箇ニ付他人若クハ共同相續人ノ爲メ所有權ヲ移付シ又ハ其他ノ物上權ヲ設定シタル行爲但シ第六百二十六條以下ノ制限ニ從ヒタル賃借權ノ設定ハ此例ニ在ラス
二　有償名義ト無償名義トヲ問ハス他人又ハ共同相續人中ノ一人又ハ數人ノ爲メニ於ケル相續權ノ移轉但シ共同相續人中一人又ハ數人ノ爲メニ於ケル抛棄ハ常ニ相續權ノ移轉トス
三　有償名義ヲ以テ爲ス共同相續人全員ノ爲メニ於ケル抛棄
四　限定受諾又ハ抛棄ヲ爲サスシテ相續開始ノ日ヨリ滿十ヶ年ヲ過キタルトキ
家督相續ニ付テハ相續人其開始ヲ了知シタル日ヨリ第千六百二條及ヒ第千六百三條ノ期間ニ限定ノ受諾又ハ抛棄ヲ爲サ丶リシトキハ單純ノ受諾ヲ爲シタルモノト推測ス
第千六百十條　前條ノ外尚ホ第千六百十四條ニ揭載シタル第二及ヒ第三ノ塲合ハ單純ノ受諾ヲ組成ス
第千六百十一條　受諾ハ明瞭ノモノト暗默ノモノトヲ問ハス左ノ原由ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルヿヲ得ス
一　自己若クハ配偶者若クハ卑屬親ノ身體又ハ財產ニ暴行脅迫ヲ受ケタルニ因リ受諾シタルトキ
二　受諾セシムルニ於テ金錢上ノ利益ヲ有スル者ノ行ヒタル欺詐ニ因リ受諾シタルトキ
三　無能力者法式ニ違背シテ受諾シタルトキ
四　受諾ノ時躬ラ成立ヲ知ラサル負債ノ爲メ自己ノ破產ヲ爲スニ至ルトキ
此銷除訴權ハ第千六十六條以下ニ定メタル合意銷除訴權ノ期限及ヒ條件ニ從フ
第二款　限定ノ受諾
第千六百十二條　相續人豫メ下ニ規定シタル法式ヲ履行シテ相續財產ト特有ノ資產トヲ混同セス相續ノ働方ノ限度マテニ非サレハ受方辨償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス
第千六百十三條　相續人ニシテ限定ノ受諾ヲ爲スノ意思ヲ有スル者ハ相續開始地ノ地方裁判所書記局ニ第千六百二條及ヒ第千六百三條ノ期限內ニ正確ニ調查シタル財產ノ目錄書ヲ提出シテ其申述ヲ爲ス可シ
其申述ヲ受ケタル書記局ニ於テハ之カ爲メ別段備ヘタル簿冊ニ之ヲ摘錄ス可シ
第千六百十四條　左ノ相續人ハ限定ノ受諾ヲ爲スノ權能ヲ失ス
一　明瞭又ハ暗默ニ單純ノ受諾ヲ爲シタル者
二　第千六百二條及ヒ第千六百三條ニ定メタル法律上又ハ裁判上ノ期限ヲ過キタル後相續人其分限ヲ决定ス可キ請求ヲ受ケテ其意思ヲ明言セサル爲メ單純ノ受諾者タル確定裁判ヲ受ケタル者但シ此確定裁判ハ第三者ニ對シテ効力ヲ有ス
三　相續財產ヲ隱匿シ又ハ惡意ヲ以テ財產ノ調查目錄中ニ相續財產ノ幾分ヲ記載セサリシ者
第千六百十五條　限定受諾者ハ其特有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ヲ管理シ債權者及ヒ受囑者ニ其計算ヲ爲ス可シ但シ其計算ハ負債及ヒ遺囑ノ辨償ノ爲メ相續財產ヲ拂ヒ盡シタル後一ヶ月內ニ民事訴訟法ニ從ヒ之ヲ完了ス可キモノトス
其計算ヲ爲スヿヲ遲滯シタル爲メ債權者及ヒ受囑者ニ及ホシタル損害ハ特有財產ヲ以テ賠償ス
第千六百十六條　動產不動產ヲ間ハス總テ相續財產ノ賣拂ヲ要スルトキハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ從ヒ地方裁判所ノ認可ヲ得テ之ヲ糶賣ス可シ
第千六百十七條　限定受諾者ハ適法ニ賣拂ヒタル財產ノ各箇ニ付得タル代價ヲ混同セス其各箇ニ付先取權ヲ有スル債權者ニ順次ニ辨償ス可シ
剰餘ノ金額及ヒ賣拂ハサル動產ハ相續人之ヲ保有スルヿヲ得但シ此塲合ニ於テ債權者又ハ其他ノ關係人ヨリ擔保ヲ請求スルトキハ其金額及ヒ物件ノ評價額ニ付相當ノ資力アル保證人又ハ特有ノ財產ニテ充分ノ物上抵保ヲ供ス可シ
第千六百十八條　右擔保ヲ供スルヿ能ハサル塲合ニ於テハ尙ホ動產ヲ糶賣シテ得タル代價ト共ニ其金額ヲ資財預役所ニ寄置シテ相續ノ負擔ス可キ債務及ヒ費用ノ辨償ニ供ス可シ
第千六百十九條　不動產ハ擔保ヲ要セスシテ之ヲ保有スルヿヲ得
然レトモ其果實ニ付テハ之ヲ收取スルニ從ヒ請求ヲ待テ前二條ノ手續ヲ爲ス可シ
第千六百二十條　相續ノ負擔ス可キ債務又ハ遺囑ノ辨濟ヲ差留又ハ之ニ故障ヲ述フル債權者又ハ受囑者アルトキハ限定受諾者ハ裁判上規定シタル順序及ヒ方法ニ從フニ非サレハ其辨濟ヲ爲スヿヲ得ス
第千六百二十一條　前條ノ差留又ハ故障アラサルトキハ債權者又ハ受囑者ノ請求ニ從ヒ辨濟ス
其請求ニ從ヒ相續財產ヲ拂ヒ盡シタル後ト雖モ第千六百十五條ニ規定シタル計算ヲ未タ完了セサル前ニ請求スル債權者又ハ受囑者ハ左ノ區別ニ從ヒ既ニ辨濟ヲ得タル債權者及ヒ受囑者ニ對シ追求權ヲ行フヿヲ得
一　債權者ハ先ツ受囑者ニ對シ次キニ債權者ニ對スルヿ
二　受囑者ハ單ニ受囑者ニ對スルヿ
第千六百二十二條　相續人計算ノ完了ヲ遲滯シタル塲合ニ於テハ債權者中未タ辨濟ヲ得サル者ヨリ既ニ辨濟ヲ得タル受囑者及ヒ債權者ニ對シ追求スルヿヲ得可キ額ヲ直チニ相續人ノ特有財產ニ付之ヲ追求スルヿヲ得
第千六百二十三條　相續財產ヲ拂ヒ盡シ計算ヲ完了シタル後請求スル債權者ハ單ニ辨償ヲ得タル受囑者ニ對スルニ非サレハ追求權ヲ行フヿヲ得ス
第千六百二十四條　前三條ノ追求權ハ三ヶ年間之ヲ行フヿヲ得但シ計算ノ完了前ニ係ルモノハ初メテ相續人ニ請求シタル日又完了後ニ係ルモノハ其完了ノ日ヨリ起算ス
第三款　相續ノ抛棄
第千六百二十五條　相續人ハ其相續ヲ抛棄スルヿヲ得但シ適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推測シタル者ハ此例ニ在ラス
抛棄シタル相續人ハ曾テ相續人タラサリシモノト看做シ其利益ニ設定シタル相續上ノ所置ハ當然無効トス
第千六百二十六條　相續ノ抛棄ハ之ヲ推測セス
相續ヲ抛棄スルノ意思ヲ有スル者ハ相續開始地ノ地方裁判所書記局ニ其意思ヲ陳述シテ別段ニ備ヘタル簿冊ニ之ヲ記入ス可シ
第千六百二十七條　抛棄スル意思ノ陳述ハ抛棄者躬ラ之ヲ爲シ若クハ公正ニシテ特別ナル委任狀ヲ有スル代理人之ヲ爲スヿヲ得
抛棄者躬ラ其陳述ヲ爲ストキハ其裁判所管轄地內ノ公證人又ハ代言人一名ヲ同伴シテ抛棄者ノ身分ヲ證言セシム可シ
第千六百二十八條　抛棄シタル相續ヲ他ニ受諾シタル相續人アラサル間ハ抛棄者更ニ之ヲ受諾スルヿヲ得然レトモ此受諾ハ家督相續ニ付テハ第千六百九條末項ノ期間又普通相續ニ付テハ抛棄シタル日ヨリ十ヶ年內ニ非サレハ之ヲ爲スヿヲ得ス但シ相續財產ニ付第三者ノ有効ニ得タル權利ヲ害スルモノニ非ス
第千六百二十九條　抛棄シタル相續ヲ他ニ受諾シタル相續人アルトキト雖モ左ノ原由ノ一アルニ於テハ其抛棄ヲ銷除スルヿヲ得
一　抛棄者自己若クハ配偶者若クハ卑屬親ノ身體又ハ財產ニ暴行脅迫ヲ受ケタルニ因リ抛棄シタルトキ
二　抛棄セシムルニ於テ金錢上ノ利益ヲ有スル者ノ行ヒタル欺詐ニ因リ抛棄シタルトキ
三　無能力者抛棄シタルトキ
此銷除訴權ノ期限及ヒ條件ハ第千六百十一條ニ定メタルモノニ同シ
第千六百三十條　何レノ塲合ニ於テモ債權者ヲ詐害スルノ意思ニ出タル抛棄ハ第八百六十一條以下ニ定メタル區別及ヒ期限ニ從ヒ債權者ノ利益ノ爲メ之ヲ廢棄スルヿヲ得
第千六百三十一條　未タ開始セサル相續ハ之ヲ抛棄スルヿヲ得ス但シ辭產者ノ提意ニ對スル拒絕ハ此限ニ在ラス
第千六百三十二條　相續ニ包含スル物件ヲ私取シ又ハ隱匿シタル相續人ハ其相續ヲ抛棄スルノ權能ヲ失ヒ且ツ其私取若クハ隱匿シタル物件ノ分派ニ加ハルヿヲ得ス
第四款　相續人ノ虧缺シタル相續財產ノ處分
第千六百三十三條　死去ニ因ル相續開始シテ其相續人現出セス若クハ相續人ノ有無分明ナラス若クハ分明ナル相續人皆抛棄シタルトキハ其相續ハ相續人ノ虧缺シタルモノト看做ス
第千六百三十四條　相續開始地ノ地方裁判所ハ利害ノ關係人又ハ撿事ノ請求ニ依リ相續財產ノ管理人ヲ命ス可シ
第千六百三十五條　管理人ハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ從ヒ利害ノ關係人ヲ召喚シ相當ノ役員立會ノ上財產ヲ調查シテ目錄ヲ作成シ其景狀ヲ檢證セシム可シ
管理人ハ右法式ヲ終リタル後相續ニ屬スル權利ヲ執行シ之ヲ訟求シ又其相續ニ對スル訟求ニ答辯ス可シ
金錢ハ相續財產中ニ存スルモノト其賣渡シヨリ生スルモノトヲ問ハス資財預役所ニ之ヲ寄置ス可シ
相續ノ負擔スル債務ハ地方裁判所ノ認可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ辨濟スルヿヲ得ス
第千六百三十六條　限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ關シ第千六百十五條以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ適用ス可キモノトス但シ管理人ハ其管理ノ爲メ擔保ヲ供スルノ義務ヲ負ハス
第六節　相續財產ノ分派及ヒ既受物ノ算還
第一款　分派ノ訴權及ヒ其法式
第千六百三十七條　共同相續人ノ各自ハ相續ノ未分財產ノ分派ヲ請求スルヿヲ得但シ第五百四十條ニ從ヒ未分ニ置クヿヲ約シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百三十八條　分派ノ訴權ハ永久ノモノトス然レトモ占有ニ基キ獲得時効ヲ利用スル者ニ對抗スルヿヲ得ス
第千六百三十九條　分派ハ常ニ明瞭ナルヿヲ要ス
共同相續人ノ各自相續財產ヲ區別シテ收益スル事實ハ分派ヲ推測セス
第千六百四十條　禁治產者瘋癲者又ハ未成年者タル相續人ヨリ分派ヲ請求スル法式ニ付テハ第三百二十九條第六ヲ適用ス
失踪者ノ分派訴權ハ裁判上其財產ノ占有ヲ得タル親族ニ屬ス但シ其占有ノ宣言前ハ適法ノ管理人失踪者ノ名義ヲ以テ之ヲ訟求シ若クハ之ニ對シ答辯スルヿヲ得
第千六百四十一條　相續ニ因リ婦ノ受ク可キ物件ノ所有權夫婦共通財產ニ屬スルトキハ夫一己ノ意思ヲ以テ其分派ヲ請求スルヿヲ得
其他ノ塲合ニ於テハ婦躬ラ其夫又ハ裁判所ノ允許ヲ得テ分派ヲ請求スルヿヲ得
第千六百四十二條　何レノ塲合ニ於テモ婦ノ共同相續人ヨリ婦ニ對シ分派ヲ請求スルトキハ夫ヲ訴訟ニ參加セシム可シ
第千六百四十三條　相續ノ分派ハ共同相續人ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ爲スヿヲ得但シ左ノ塲合ニ於テハ裁判上ニ非サレハ其分派ヲ爲スヿヲ得ス
一　共同相續人中未成年者禁治產者又ハ瘋癲者アルトキ
二　共同相續人中不在者アリテ有効ニ分派ヲ承諾スルノ權限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ
三　共同相續人中合意上ノ分派ヲ承諾セサル者アルトキ
第千六百四十四條　裁判上ノ分派ヲ要スル塲合ニ於テハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ從ヒ豫メ相續財產ニ封印ヲ爲シ且ツ其目錄ヲ作成ス可シ
此封印及ヒ目錄ハ相續人又ハ債權者又ハ地方裁判所ノ檢事ノ請求ニ依リ若クハ相續開始地ノ區裁判所判事ノ職權ヲ以テ之ヲ爲ス可シ
第千六百四十五條　法律上封印及ヒ目錄ヲ要セサル塲合ニ於テモ債權者ハ地方裁判所ノ認可ヲ得テ之ヲ請求スルヿヲ得但シ執行ノ權證ヲ有スル者ハ其認可ヲ要セス
封印ノ除去ニ關シテハ右認可ヲ要セスシテ總テノ債權者故障ヲ述フルヿヲ得
封印除去ノ法式ハ民事訴訟法ニ規定ス
第千六百四十六條　分派ノ訴訟及ヒ分派中ニ起ル一切ノ爭論ハ相續開始地ノ地方裁判所之ヲ管轄ス
相續財產ノ糶賣幷ニ分派ノ擔保及ヒ銷除ニ關スル訴訟モ亦同シ
糶賣ニ關シテハ其財產所在地ノ地方裁判所ニ其管轄ヲ囑託スルヿヲ得
第千六百四十七條　分派又ハ其方法若クハ其結了ニ付訴訟ノ起ル塲合ニ於テ必要ト認ムルトキハ地方裁判所ハ專任判事一名ヲ命シ其報告ヲ待チ裁判ヲ爲ス可シ
第千六百四十八條　專任判事ハ相續財產中鑑定ヲ要スルモノアリト認ムルトキハ訴訟關係人ノ撰擇シ若クハ職權ヲ以テ指定シタル鑑定人ヲシテ公證人一名立會ノ上其財產ノ性質景狀及ヒ價格ヲ查定セシム可シ但シ第千六百四十三條第一及ヒ第二ノ塲合ニ於テハ常ニ職權ヲ以テ其鑑定人ヲ指定ス可シ
第千六百四十九條　鑑定人ハ其查定ヲ終リタル後左ノ件々ヲ詳記シタル調書ヲ速ニ專任判事ニ提出ス可シ
一　財產ノ評價及ヒ其根據
二　原物分派ノ當否
三　分派ノ方法
四　分派ノ割付
五　割付ケタル各部分ノ價額
右ノ外必要ト思量スル事項ハ之ヲ附記ス可シ
第千六百五十條　專任判事ハ鑑定人ノ調書ヲ領收シタルトキハ之ニ意見ヲ附シテ速ニ其報告ヲ爲ス可シ
第千六百五十一條　共同相續人ノ各自ハ相續財產ノ原物ニテ其部分ノ引渡ヲ請求スルヿヲ得但シ債權者其渡方ヲ差留タルトキ若クハ共同相續人ノ多數ヲ以テ相續ノ負擔ス可キ債務及ヒ費用ヲ豫メ辨償スル爲メ其幾分ノ賣拂ヲ必要ト决定シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百五十二條　賣拂フ可キ物件及ヒ方法ハ共同相續人ノ全員一致ヲ以テ之ヲ定ム但シ債權者ノ故障アルトキ又ハ共同相續人中無能力者アルトキ又ハ全員一致セサルトキハ地方裁判所ヲシテ其物件ヲ定メシメ且ツ之ヲ糶賣ス可シ
第千六百五十三條　不動產ハ原物ニテ分割スルニ便益ナラサルトキ又ハ動產賣拂ノ代價ヲ以テ相續ノ債務及ヒ費用ヲ完濟スルニ足ラサルトキニ非サレハ裁判上其糶賣ヲ命スルヿヲ得ス
第千六百五十四條　相續ノ分派ハ次款ニ規定シタル既受物算還ノ關係結了シタル後ニ非サレハ之ヲ爲スヿヲ得ス
第千六百五十五條　共同相續人中家督相續人アルトキハ第千五百三十條ニ揭載シタル特權ヲ除キ他ノ物件ニ付各共同相續人ノ受ク可キ部分ヲ定ム
然レトモ其特權ハ相續ノ負擔ヲ免カルヽモノニ非ス但シ特別ノ法律ヲ以テ不可押物ト定メタルモノハ格別ナリトス
第千六百五十六條　各共同相續人ニ配當ス可キ部分ヲ原物ニテ組成シタル塲合ニ於テ適法ノ分量ニ過不足ヲ生スルトキハ過分ヲ受クル者ヨリ不足分ヲ受クル者ニ金錢又ハ其他ノ物件ヲ以テ補充額ヲ供ス可シ
第千六百五十七條　補充額ニ權利ヲ有スル者ハ其完濟ヲ受クルニ至ルマテ相當ノ物件ヲ留置スルヿヲ得但シ年金權又ハ用收權ヲ以テ其補充額ヲ定メタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百五十八條　相續人ノ合意ヲ以テ分派ヲ爲スヿヲ得可キ塲合ニ於テハ其各部分ハ共同相續人全員ノ協議ヲ以テ之ヲ組成ス可シ
其議協ハサルトキ又ハ裁判上ニ非サレハ分派ヲ爲スヿヲ得サルトキハ地方裁判所ノ指定シタル鑑定人ヲシテ公證人一名立會ノ上其部分ヲ組成セシム可シ
第千六百五十九條　鑑定人ノ組成シタル部分ハ地方裁判所ノ職權ヲ以テ之ヲ變更スルヿヲ得
又各共同相續人ハ鑑定人ノ組成シタルモノト裁判所ノ變更シタルモノトヲ問ハス其通知ヲ受ケタル日ヨリ五日內ニ其部分ニ付故障ヲ申立ルヿヲ得但シ故障ノ判定ニ對シテハ抗告ヲ許サス
第千六百六十條　相續ノ讓受人ハ自己ノ名義ヲ以テスルト讓渡人ノ名義ヲ以テスルトヲ問ハス前二條ノ塲合ニ關渉スルヿヲ得ス
第千六百六十一條　配當部分ノ適法ニ確定シタルトキハ共同相續人中特別ノ部分ヲ受ク可キ者ハ其部分ヲ先收ス
又平等ノ部分ヲ受ク可キ相續人間ニ於テハ抽籖ニ由リ其各自ノ受ク可キ部分ヲ定ム
第千六百六十二條　前數條ノ規則ニ適シタル分派ハ確定ノモノトス
未成年者禁治產者瘋癲者又ハ不在者ノ爲メニ定メタル規則ニ違ヒタル分派ハ其者ノ利益ニ於テノミ假定ノモノトス
第千六百六十三條　分派ノ際互ニ利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者數人アルトキハ法律ニ從ヒ其各自ノ爲メ臨時保管人又ハ管理人ヲ指定ス可シ
第千六百六十四條　分派ノ結了シタルトキハ共同相續人各自ニ其收受シタル物件ノ權證ヲ保有ス
共同相續人中數人ニ分割シタル一箇ノ物件ノ權證ハ其中最大ノ部分ヲ得タル者之ヲ保有ス
共同相續人ノ全員ニ分割シタル物件ノ權證ニ付テハ共同相續人ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム
其議協ハサルトキハ地方裁判所之ヲ指定ス
何レノ塲合ニ於テモ權證ノ保有者ハ他ノ共同相續人ノ請求ニ從ヒ之ヲ便用セシム可シ
第千六百六十五條　本款ニ定メタル規則ハ共同代承者間ノ分派ニモ亦適用ス
第二款　既受物ノ算還
第千六百六十六條　相續ヲ受諾シタル相續人ハ被相續人ヨリ生存者間ノ贈與又ハ其他ノ方法ニ依リ無償名義ニテ既ニ收受シタル物ハ相續ノ既受分トシテ相續財產ニ之ヲ算還ス可シ
遺囑ニ付テハ死者ノ處置シ得ヘキ部分ノ超過額ノミヲ算還ス可シ
第千六百六十七條　前條第一項ノ規則ハ相續ノ部分外ニ付與シタル特益ナルヿ被相續人ノ意思ニ於テ明瞭ナル塲合ニ適用セス
第千六百六十八條　受贈者當時推測相續人タラサリシ事情ハ其贈與ヲ相續部分外ノ特益ト看做スノ原由タラス
第千六百六十九條　代承相續人ハ自己ノ利益ニ得タル贈與物ヲ算還スルニ及ハス但シ被代承者ノ死去後ニ係ルモノハ此例ニ在ラス
又被代承者ノ利益ニ於ケル贈與ハ代承者其相續ヲ抛棄シタルトキト雖モ之ヲ算還スルニ非サレハ代承相續ヲ爲スヿヲ得ス
第千六百七十條　夫婦ノ中一方相續人タル塲合ニ於テ被相續人ヨリ部分ヲ定メスシテ其夫婦ニ爲シタル贈與アルトキハ相續人タル配偶者其半ヲ算還ス可シ
第千六百七十一條　相續ヲ抛棄スル者ハ被相續人ヨリ得タル生存者間ノ贈與ヲ保有スルヿヲ得
第千六百七十二條　相續部分外ノ特益ニ因ルト代承相續ニ因ルト又相續ノ抛棄ニ因ルトヲ問ハス既受物ノ保有ハ處置シ得ヘキ部分ノ限度マテニ非サレハ之ヲ爲スヿヲ得ス
第千六百七十三條　既受物ノ算還ハ法律上ノ共同相續人互相ノ利益ニ之ヲ爲スモノトス
受囑者及ヒ債權者ハ既受物ノ算還ヲ請求スルヿヲ得ス
第千六百七十四條　左ニ記載スルモノハ算還ス可キ既受物トセス
一　衣食住ノ費用
二　修學又ハ習業ノ費用
三　婚姻ノ費用
四　慣習上ノ贈物
第千六百七十五條　算還ス可キ既受物ヨリ相續開始後ニ生スル利子及ヒ果實ハ之ヲ算還ス可シ
第千六百七十六條　算還ス可キ不動產ノ全部又ハ一分ノ滅盡ハ相續財產ノ負擔トス但シ既受者ノ過愆ニ出タルトキハ此例ニ在ラス
特定動產ノ滅盡ハ既受者ノ負擔トス但シ不可抗力ニ原由シタルヿヲ證明スルトキハ此例ニ在ラス
第千六百七十七條　共同相續人ハ既受不動產ノ人爲ニ出タル改良ヨリ生セシ增加價格ヲ既受者ニ算償ス可シ但シ其價格ノ查定ハ相續開始ノ時ニ從フモノトス
又不動產ノ價格ヲ增加セスト雖モ其保存ニ必要ナル大修繕ノ費用モ亦同シ
第千六百七十八條　既受不動產ノ算還ハ原物ニテ之ヲ爲シ又ハ其相當ノ價格ヲ既受者ノ受ク可キ相續ノ部分ヨリ減少スルノ方法ヲ以テ之ヲ爲スヿヲ得但シ原物ノ算還ハ第三者ヲ害ス可カラス
減少方法ニ於ケル價格ノ查定ハ相續開始ノ時ニ從フモノトス
第千六百七十九條　相續部分外ノ特益中處置シ得ヘキ部分ノ限度ヲ超過スルモノハ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス
特益者ノ相續部分ヲ以テ其超過額ヲ塡補スルニ足ラサルトキハ其不足額ヲ金錢ニテ賠償ス可シ
此賠償ハ相續開始ノ時ヨリ特益不動產ノ法律上ノ抵當ヲ以テ擔保ス
第千六百八十條　既受ノ不動產ヲ原物ニテ算還スル者ハ共同相續人ヨリ改良ノ增加額及ヒ大修繕ノ費用額ノ算償ヲ受クルマテ其不動產ヲ留置スルヿヲ得
第千六百八十一條　動產ノ既受物ハ其授受ノ時ニ於ケル價格ニ從ヒ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス可シ
其算還ハ動產授受ノ時ニ作成シタル有効ノ評價目錄ニ從ヒ又其評價目錄アラサルトキハ鑑定人ノ評價ニ從ヒ之ヲ爲ス可シ
第千六百八十二條　金錢ノ既受物ハ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス可シ
然レトモ既受者ハ既受ノ金額ヲ辨償シテ他ノ物件ニ付共同相續人ト等シク配當ヲ受クルヿヲ得
第三款　債務ノ辨償
第千六百八十三條　共同相續人ハ各其收受スル部分ノ割合ヲ以テ互相ノ間ニ相續ノ債務ヲ分擔ス
第千六百八十四條　包括名義ニ於ケル受囑者モ亦其得タル利益ノ割合ヲ以テ相續人ト共ニ相續ノ債務ヲ分擔ス
第千六百八十五條　相續ノ債務ヲ分擔ス可キ者不可分義務ノ爲メ若クハ先取特權又ハ抵當ニ服シタル財產ノ所持人トシテ自己ノ確定ニ分擔ス可キ部分外ノ債務ヲ辨償シタルトキハ共同分擔者ノ各自ニ對シ其超過額ヲ追求スルヿヲ得
第千六百八十六條　前條ノ塲合ニ於テ共同分擔者中無資力者アルトキハ其無資力者ノ負擔部分ハ他ノ各共同分擔者應分ニ之ヲ擔當ス
第千六百八十七條　相續財產中ノ不動產ヲ以テ抵保シタル相續ノ債務ニシテ直チニ辨償スルヿヲ得可キモノアルトキハ各共同分擔者ハ相續ノ分派前ニ其債務ヲ辨償シテ抵保ヲ洗除ス可キヿヲ請求スルヿヲ得
第千六百八十八條　抵保ヲ洗除セス現狀ニテ分派スルトキハ其不動產ヲ評價セシメ債務額ヲ減算シテ配當部分ヲ規定ス可シ但シ其不動產ヲ含蓄スル部分ヲ受ケタル相續人又ハ包括受囑者ハ其債務ノ辨償ニ付他ノ共同分派者ニ對シ擔保ス可シ
第千六百八十九條　被相續人ニ對シテ執行力ヲ有スル證書ハ其相續人ニ對シテモ亦執行力ヲ有ス然レトモ債權者其證書ノ存立ヲ告知シタルヨリ八日後ニ非サレハ執行ヲ求ムルヿヲ得ス但シ其告知ヲ受ケタル相續人ハ第千六百二條及ヒ第千六百三條ニ從ヒ猶豫ヲ求ムルヿヲ妨ケス
第千六百九十條　被相續人ノ債權者及ヒ受囑者ハ相續人ノ債權者ニ對シテ被相續人ノ資產ト相續人ノ資產トヲ分別シテ被相續人ノ資產ニ付先取權ヲ得可キヿヲ請求スルヿヲ得但シ資產ノ混同ヲ承諾シタル者ハ此例ニ在ラス
第千六百九十一條　不確定ノ動產ニシテ事實上相續人ノ資產ト混同シタルモノニ付テハ資產分別ヲ請求スルヿヲ得ス
其他ノ動產ト雖モ相續開始ノ時ヨリ滿三ヶ年ヲ過キタルトキ亦同シ
第千六百九十二條　不動產ニ付テハ相續人ノ手ニ存スル間資產分別ヲ請求スルヿヲ得
第千六百九十三條　相續人ノ債權者モ亦前三條ノ區別及ヒ條件ニ從ヒ資產ヲ分別シテ相續人ノ特有財產ニ付先取權ヲ得可キヿヲ請求スルヿヲ得
第千六百九十四條　何レノ塲合ニ於テモ第八百六十條乃至第八百六十四條ノ規則ハ分派ニ因リ詐害セラレタル債權者ノ利益ニ適用ス但シ債權者ハ分派ニ參加スルヿヲ得ス
第四款　分派ノ効力及ヒ其擔保
第千六百九十五條　各共同分派人ハ相續財產ノ分派又ハ其未分物糶賣ノ落札ニ因リ得タル物ノ所有權ヲ相續開始ノ時ヨリ相續シ他ノ共同分派人ニ歸シタル物ニ付テハ曾テ何等ノ權利ヲモ有セサリシモノト看做ス
第千六百九十六條　共同分派人ハ分派前ノ原由ニ基ク分派物ノ妨碍及ヒ奪取ニ付互ニ擔保ス可シ但シ特約ヲ以テ其擔保ヲ免除シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百九十七條　妨碍又ハ奪取ヨリ生シタル損失ハ共同分派人間ニ被擔保者ヲ算入シテ各應分ニ之ヲ分擔ス可シ
共同分派人中無資力者アルトキハ其負擔額ハ他ノ共同分派人之ヲ分擔ス可シ
第千六百九十八條　年金權若クハ普通ノ債權ニ係ル債務者ノ資力ハ分派ノ當時ニ於ケルモノニ非サレハ共同分派人之ヲ擔保セス
第千六百九十九條　擔保ノ義務ハ普通ノ時効ニ因リ消滅ス
分派物ノ妨碍及ヒ奪取ノ擔保ノ時効ハ其妨碍又ハ奪取ヲ受ケタル時ヨリ起算ス
又債務者ノ資力擔保ノ時効ハ分派ノ時ヨリ起算ス
第五款　分派ノ銷除及ヒ其補充
第千七百條　分派ハ第八百二十五條以下ニ定メタル區別ニ從ヒ不成立若クハ無効ノモノタルノ外尙ホ共同分派人中ノ一名其受ク可キ部分ニ付四分ノ一以上ノ損失ヲ被フリタルトキハ其損失ノ爲メ之ヲ銷除スルヿヲ得
第千七百一條　欺詐ハ分派銷除ノ原由タラス但シ承諾ノ廢滅又ハ其瑕疵トナル錯誤若クハ四分ノ一ノ損失ヲ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ被欺者ハ欺詐者ニ對シ賠償ノ名義ヲ以テ自己ノ受ク可キ部分ニ達スル補充額ヲ請求スルヿヲ得
第千七百二條　損失ノ查定ハ分派ノ時ニ於ケル物ノ價格ニ從ヒ之ヲ爲ス可シ
第千七百三條　錯誤、暴行、損失及ヒ欺詐ニ基キ分配ヲ無効ト爲シ又ハ其補充額ヲ請求スル訴權ハ第千六十六條以下ニ定メタル時効幷ニ第千七十七條以下ニ揭ケタル確認ニ因リ消滅ス
第千七百四條　又錯誤若クハ暴行ニ基ク分派無効ノ訴權ヲ有スル者分派ニ由リ得タル財產ニ付其錯誤ノ發覺又ハ暴行ノ止息後所有者ニ非サレハ爲スヿ能ハサル所爲ヲ隨意ニ行ヒタルトキハ暗ニ其分派ヲ確認シタルモノト看做ス
損失ヲ被フリタル事實ヲ知リ其所爲ヲ行ヒタルトキ亦同シ
第千七百五條　第千七十六條ハ損失ニ基ク分派銷除ノ訟求ニ係ル被告人ノ利益ニ適用ス
第二章　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈與及ヒ遺囑贈遺
第一節　通則
第千七百六條　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈與ハ一方ノ人無償ニテ他ノ一方ノ人ニ自己ノ包括財產ノ全部又ハ一部若クハ自己ノ動產又ハ不動產ノ包合體ノ全部又ハ一部ヲ付與スル有式ノ合意ナリ
特定名義ニ於ケル生存者間ノ贈與ノ設定規約、廢棄ノ原由、無効ノ條件、擔保ヲ要セサル原則及ヒ公示方法ニ關スル條例ハ包括名義ニ於ケル贈與ニ適用ス
第千七百七條　包括名義ニ於ケル遺囑贈遺ハ一方ノ人其死去ニ至リ他ノ一方ノ人ノ爲メ無償ニテ自己ノ包括財產ノ全部又ハ一部若クハ自己ノ動產又ハ不動產ノ包合體ノ全部又ハ一部ヲ付與ス可キヿヲ規定スル行爲ナリ
遺囑贈遺ハ遺囑者ノ隨意ニ廢棄スルヿヲ得ヘキモノトス
第千七百八條　受贈者又ハ受囑者ニ受贈物又ハ受囑物ノ所有權ヲ其死去ニ至ルマテ保存シ且ツ贈與ノ時又ハ遺囑者死去ノ時ニ無償名義ニテ收受スル普通能力ヲ有セサリシ人ニ之ヲ傳移ス可キ條件ヲ負ハシメタル贈與又ハ遺囑ハ總テ無効トス
第千七百九條　前條ノ條例ハ特別法ニ從ヒ設定スル世襲財產ニ適用セサルモノトス
第千七百十條　遺囑中ニ存スル不能又ハ不法ノ條件ハ之ヲ記サヽルモノト看做ス
贈與中ニ存スル不能又ハ不法ノ條件ハ一般合意ノ規則ニ從ヒ其贈與ヲ無効トス
第二節　贈與又ハ遺囑ニ由リ處置シ又ハ收受スルノ能力
第千七百十一條　何人ニ限ラス贈與及ヒ遺囑ニ由リ處置シ又ハ收受スルノ能力ヲ有ス但シ法律上明瞭ニ其無能力者ト規定シタルモノハ此例ニ在ラス
第千七百十二條　左ニ記載シタル人ハ贈與ニ由リ處置スルノ無能力者トス
一　贈與ヲ爲ス時心神喪失スル者
二　民事上又ハ刑事上ノ禁治產者
三　瘋癲ノ爲メ入院又ハ監置中ノ者
四　復權ヲ得サル破產者
五　未成年者但シ夫婦財產契約ノ爲メ法律上特ニ許容スル塲合ハ例外トス
第千七百十三條　有夫ノ婦ハ夫婦間ノ權利及ヒ義務ニ關スル規則ニ從ヒ其夫又ハ裁判所ノ允許ヲ得ルニ非サレハ贈與ヲ爲スヿヲ得ス
第千七百十四條　凖禁治產者ハ自己ノ財產移付方法ノ有効ナル爲メ法律ノ要求スル法式ニ從フニ非サレハ贈與ヲ爲スヿヲ得ス
第千七百十五條　左ニ記載シタル人ハ遺囑ニ由リ處置スルノ無能力者トス
一　第千七百十二條ノ第一乃至第四ニ列記シタル者
遺囑者ハ死去ノ時心神明確ナルヿヲ要セス遺囑ヲ爲ス時其明確ナルヲ以テ充分トス
二　十四年未滿ノ者
滿十四年以上ノ未成年者ハ成年者ノ贈與又ハ遺囑ニ由リ處置スルヿヲ得ル財產ノ半額內ニ於テ遺囑ヲ爲スヿヲ得
第千七百十六條　凖禁治產者ハ遺囑ヲ爲スノ能力ニ付キ滿十四年以上ノ未成年者ト同視ス
第千七百十七條　贈與ノ時又ハ遺囑者死去ノ時未タ胎內ニ在ラス又ハ活テ生レサル者ハ贈與又ハ遺囑ニ由リ收受スルノ能力ヲ有セス
第千七百十八條　病院學校其他公ケノ無形人ハ政府ノ允許ヲ得ルニ非サレハ贈與又ハ遺囑ニ由リ收受スルノ能力ヲ有セス
第千七百十九條　後見人ハ第三百四十八條ニ從フニ非サレハ其未成年者ノ成年ニ達セル者ヨリ贈與ヲ收受スルヿヲ得ス
第千七百二十條　無能力者ノ利益ニ於ケル贈與又ハ遺囑ハ前來ノ義務執行若クハ有償契約ニ擬スルト他人ノ名義ヲ借ルトヲ問ハス無効トス
無能力者ノ父母卑屬親及ヒ配偶者ハ其名義ヲ貸與シタルモノト看做ス可シ
第三節　處置シ得可キ財產ノ部分及ヒ其超過部分ノ減殺
第一款　處置シ得可キ財產ノ部分
第千七百二十一條　贈與又ハ遺囑ニ由ル無償名義ノ處置ハ其處置者ノ相續開始スル時子一人アレハ財產全部ノ半額ヲ超過スルヿヲ得ス又二人アレハ三分ノ一又三人以上アレハ四分ノ一ヲ超過スルヿヲ得ス
第千七百二十二條　前條ノ子トハ正出子養子又ハ庶出子ノ別ナク且ツ親等ノ遠近ヲ問ハス自身又ハ代承ニテ相續スル卑屬親ヲ云フ
然レトモ代承相續人ハ被代承者ノ數ニ因テ算ス
相續ノ抛棄者ハ之ヲ算セス
第千七百二十三條　相續開始ノ時被相續人ニ卑屬親ナク又ハ皆ナ抛棄シテ父系及ヒ母系ニ法律上相續ス可キ尊屬親アルトキハ財產全部ノ半額ニ非サレハ贈與又ハ遺囑ニ由リ處置スルヿヲ得ス又父系又ハ母系ノミニ其尊屬親アルトキハ四分ノ三ニ非サレハ處置スルヿヲ得ス
第千七百二十四條　尊屬親ノ利益ニ貯存ス可キ財產ノ定分ハ其尊屬親中相續スル者ノミ之ヲ收受ス
尊屬親ト同時ニ相續スル傍系親ハ其貯存ス可キ財產ノ定分ニ付分派ヲ求ムルヿヲ得ス
然レトモ尊屬親ノ相續ノ部分ハ其定分ヲ包含ス
第千七百二十五條　贈與又ハ遺囑ニ由リ終身年金權又ハ用收權ノ如キ其成立時間ノ不確實ナル權利ヲ設定シタルトキハ相續開始ノ時ニ於ケル此權利ノ估計價額ヲ查定シテ處置シ得ヘキ部分ヲ定ム
其權利ノ估計價額處置シ得ヘキ部分ヲ超過スルトキハ受貯相續人ハ或ハ被相續人ノ處置ノ如ク全ク之ヲ執行シ或ハ處置シ得ヘキ部分ノ完全ナル所有權ヲ以テ其權利ヲ買戾スヿヲ得
第千七百二十六條　處置シ得可キ部分ハ贈與又ハ遺囑ニ因リ相續人ノ爲メ其相續ノ部分外ニ之ヲ與フルヿヲ得
遺囑ニ基ク處置ハ常ニ相續ノ部分外ノモノト看做ス
又贈與ニ基ク處置ニ付テハ其贈與ノ證書若クハ其後ノ證書ニ徵シテ處置者ノ意思ハ相續ノ部分外ニ之ヲ爲セシヿ明瞭ナルヿヲ要ス
第千七百二十七條　受貯相續人ノ一名又ハ數名ニ爲セシ財產ノ移付ハ有償名義ノ外形ヲ付シアルト雖モ相續部分外ノ無償處置ヲ組成スルモノト看做シ其價額ハ處置シ得ヘキ部分ニ充當ス但シ反對ノ證據アルトキハ此例ニ在ラス
反對ノ證據ハ單純ナル受領證ヲ除クノ外普通法ニ從ヒ之ヲ供スルヿヲ得
第千七百二十八條　第千五百三十條ニ列記シタル家督相續所屬ノ特權ハ處置シ得ヘキ財產部分ノ查定中ニ包含セサルモノトス
第二款　處置シ得可キ財產ノ超過部分ノ減殺
第千七百二十九條　處置シ得可キ部分ヲ超過スル贈與又ハ遺囑ハ相續開始ノ時ニ基キ之ヲ其部分ニ減殺ス
第千七百三十條　贈與ノ超過部分ノ減殺ハ受貯相續人又ハ其相續人又ハ其承繼人又ハ其債權者ニ非サレハ之ヲ請求スルヿヲ得ス
被相續人ノ債權者ハ受貯相續人單純ニ相續ヲ受諾シタル塲合ニ限リ第八百五十九條ノ規則ニ據リ其減殺ヲ請求スルヿヲ得
第千七百三十一條　減殺ス可キ分量ハ相續開始ノ時ニ現存スル總テノ財產ノ估計價額ヨリ被相續人ノ債務額ヲ控除シテ尙ホ剰餘額アルトキハ其剩餘額ト贈與シタル財產全部ノ估計價額トノ合計額ニ付若シ又其剩餘額アラサルトキハ贈與シタル財產ノ估計價額ノミニ付受貯相續人ノ數及ヒ資格ニ應シテ之ヲ算定ス
第千七百三十二條　相續開始ノ時ニ現存スル財產ハ其時ニ於ケル景狀及ヒ價格ニ從ヒ其估計價額ヲ查定ス可シ
贈與シタル財產ハ受贈者ノ所爲ヲ以テ之ニ致シタル改良又ハ破損ニ拘ラス贈與ノ時ノ景狀ニテ尙ホ存スルモノトシ相續開始ノ時ニ於ケル價額ニ從ヒ其估計價額ヲ查定ス可シ
然レトモ天然又ハ偶然ノ原由ヨリ財產ニ致シタル景狀ノ變更ハ其估計價額ノ查定上ニ算入ス可シ
第千七百三十三條　貯存ス可キ財產ノ分量ヲ組成スルニハ先ツ遺囑ニ由リ處置シタル財產ヲ減殺シ之ヲ減殺シ盡シタル後ニ非サレハ贈與ヲ減殺ス可カラス
第千七百三十四條　贈與シタル財產ノ分量處置シ得可キ部分ヲ超過シ若クハ之ニ均シキトキハ遺囑ニ由ル處置ハ無効ニ歸ス
又遺囑ニ由ル處置ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財產ノ分量ヲ組成スルヿヲ得ルトキハ包括名義ノ遺囑ト特定名義ノ遺囑トヲ問ハス其價額ノ割合ヲ以テ總テノ遺囑ヲ減殺ス可シ但シ遺囑者ニ反對ノ意思アリタルヿ明瞭ナルトキハ此例ニ在ラス
第千七百三十五條　贈與ノ減殺ハ最後ノ贈與ヨリ始メ順次ニ最先ノ贈與ニ及ホス可シ
第千七百三十六條　前條ノ順次ニ於テ減殺ニ服ス可キ受贈者ノ無資力ヨリ生スル損失ハ特ニ受貯相續人ノ負擔ニ歸ス但シ受貯相續人ハ其受贈者ニ對スル賠償ノ訟求權ヲ保有ス
第千七百三十七條　受贈者ハ減殺ニ服ス可キ元本ヲ返還スルノ外尙ホ減殺ノ訟求ヲ受ケタル日ヨリ起算シテ其元本ノ利子及ヒ果實ヲ返還ス可シ
第千七百三十八條　贈與シタル不動產ヲ減殺ニ因リ取戾シタルトキハ受贈者ノ之ニ設定シタル總テノ負擔ヲ無効ト爲ス
第千七百三十九條　何レノ塲合ニ於テモ受贈者ハ減殺ニ服ス可キ財產ノ估計價額ヲ金錢ニテ提出シ原物ノ返還ヲ免カルヽヿヲ得
第千七百四十條　減殺ニ服ス可キ不動產第三者ニ移轉シタルトキハ受贈者ノ財產ヲ以テ其不動產ノ估計價額若クハ其現狀ノ實價額ヲ賠償スルニ足ラサルトキニ非サレハ第三者ニ對シ減殺ノ訴權ヲ執行スルヿヲ得ス
第三者ハ其估計價額若クハ其現狀ノ實價額ニ達スルマテノ金錢ヲ提出シ減殺訴權ノ執行ヲ停止スルヿヲ得
第千七百四十一條　第三者ニ對スル減殺訴權ハ受贈者ヨリ所有權ヲ移轉シタル行爲ノ登記日附ノ順ニ從ヒ最後ノ行爲ヨリ始メ順次ニ最先ノ行爲ニ及ホシテ之ヲ執行ス可シ但シ其行爲無償名義ニ出タルト有償名義ニ出タルトヲ區別スルヿヲ要セス
第四節　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈與
第一款　贈與ノ法式
第千七百四十二條　生存者間ノ贈與ハ普通ノ合意ノ成立ニ必要ノ條件ヲ具備スルト雖モ尙ホ贈與者其贈與ヲ爲スノ意思ヲ明言シ受贈者之ヲ受諾スルノ意思ヲ明言スルニ立會タル公證人公正證書ノ法式ニ從ヒ作リタル證書アルニ非サレハ成立セサルモノトス
然レトモ債務ノ釋放、所有權外ノ物上權ノ抛棄、慣習ノ贈物、及ヒ有體動產ノ手渡ニ成ル贈與ニ付テハ此法式ヲ要セス
第千七百四十三條　前條ノ法式ニ違背シテ有償名義ノ契約ヲ假設シタル贈與ハ法律上當然無効トス
贈與ノ事實ハ總テノ證據方法ニ依リ之ヲ證明スルヿヲ得
第千七百四十四條　贈與ノ提意ト受諾トヲ同時ニ爲スヿヲ要セス提意ノ後ニ受諾ヲ與フルヿヲ得但シ贈與者其提意ヲ保持シ及ヒ無償名義ニテ處置スル能力ヲ有スル間ニ限ル可シ
第千七百四十五條　受諾ハ前條ノ期間ニ第千七百四十二條ニ從ヒ其意思ヲ明言シタル公正證書ヲ作ルニ因リ完成ス
第千七百四十六條　受贈者ノ受諾完成シタルトキハ贈與者之ヲ知ルト否トヲ問ハス其提意ヲ變改スルヿヲ得ス
提意ノ變改ト受諾トノ先後ハ第八百二十九條第三項ノ規則ニ從ヒ之ヲ查定ス
第千七百四十七條　財產ヲ處置スルノ能力ヲ有スル受贈者ハ自己ノ意思ヲ以テ受諾ヲ爲スヿヲ要ス但シ受諾ヲ爲スヿヲ依賴シタル特別代理ノ委任狀ヲ有スル合意上ノ代理人ハ受贈者ノ名義ヲ以テ受諾ヲ爲スヿヲ得
第千七百四十八條　未成年者禁治產者准禁治產者及ヒ有夫ノ婦其他總テ財產ヲ處置スルノ完全ナル能力ヲ有セサル者ノ利益ニ於ケル贈與ノ受諾ハ其各自ノ爲メニ定メタル法式ニ從ヒ之ヲ爲スヿヲ要ス
第千七百四十九條　病院學校其他公ケノ無形人ノ利益ニ於ケル贈與ノ受諾ハ第千七百十八條ニ從ヒ其贈與ヲ收受スルニ必要ノ允許ヲ得タル後其管理者之ヲ爲ス可シ
第千七百五十條　合意ニ因ルト法律ニ因ルトヲ問ハス受贈者ヲ代表シテ受諾ヲ爲ス可キ者ハ其受諾ヲ怠リテ受贈者ニ及ホスヿアル可キ損害ノ責ニ任ス
第千七百五十一條　未成年者及ヒ禁治產者ノ後見人准禁治產者ノ保管人無形人ノ管理者其外他人ノ財產ヲ管理スル者ハ贈與中ニ包含スル不動產物權ノ登記ヲ怠リテ受贈者ニ及ホスヿアル可キ損害ノ責ニ任ス
第千七百五十二條　有夫ノ婦ハ贈與ニ由リ得タル不動產物權ノ登記ヲ求ムルニ付夫ノ承諾ヲ要セス
夫モ亦婦ノ依託ヲ要セス躬ラ婦ノ名義ニテ其登記ヲ求ムルヿヲ得
第千七百五十三條　贈與ハ贈與者ノ現有財產ニ非サレハ包含セス若シ將來ノ財產ヲ包含シタルトキハ其財產ニ付贈與ハ無効トス
然レトモ員數ノ定マリタル金錢又ハ量定物ノ贈與ハ贈與者ノ現有スルト否トヲ問ハス有効トス
第千七百五十四條　贈與ノ性質又ハ約務ニ因リ受贈者カ贈與者ノ債務ヲ辨濟スルノ義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈與ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セサルモノトス
若シ受贈者カ贈與者ノ將來ノ債務ヲ辨濟ス可キヿノ約務ヲ爲シタルトキハ其約務ハ無効トス
第千七百五十五條　贈與者其贈與シタル財產中特定ノ物件又ハ金額ヲ處置スルノ權能ヲ貯存シタルトキハ其權能ハ贈與者ノ死去ニ因リ消滅ス但シ遺囑又ハ其他ノ方法ニ因リ此權能ヲ第三者ニ移轉シタルトキハ此例ニ在ラス
第千七百五十六條　動產ノ贈與ハ慣習ノ贈物又ハ手渡ニ成ルモノヲ除クノ外其贈與證書ニ贈與者及ヒ受贈者又ハ受贈者ノ名義ニテ受諾スル者ノ署名シタル物件ノ評價目錄ヲ添フ可シ
此目錄ニ揭載セサル動產ニ付テハ贈與ノ効ナシ
第千七百五十七條　贈與者其贈與シタル財產ノ全部又ハ一部ニ付自己若クハ第三者ノ利益ニ用收權ヲ貯存シタルトキハ受贈者ハ其用收權ノ終ニ至リ其財產ヲ現狀ニテ收受ス但シ用收者ノ過愆ニ因リ破損シ又ハ滅盡シタル財產ニ付テハ用收者又ハ其相續人ニ對シ賠償ヲ請求スルヿヲ得
此賠償額ノ查定ハ不動產ニ關シテハ用收權了終ノ時ニ於ケル價格ニ從ヒ又動產ニ關シテハ其目錄ノ評價ニ從フモノトス
第千七百五十八條　贈與者ハ自己ノ利益ニ於ケルニ非サレハ自己ヨリ先キニ受贈者死去スルトキ其贈與ヲ解除ス可キ未必條件ヲ約定スルヿヲ得ス
若シ第三者ノ利益ニ此解除ノ未必條件ヲ約定シタルトキハ其條件ハ無効トス
第千七百五十九條　前條第一項ニ從ヒ有効ニ約定シタル解除ノ未必條件ノ成就ハ受贈者ノ相續人ニ對スルト第三者ニ對スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ付約定シタル解除ノ未必條件ト同一ノ効力ヲ生ス
然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ラス受贈財產ニ付左ノ二箇ノ條件具備スルトキハ法律上ノ抵當權ヲ保有ス
一　其贈與ハ夫婦財產契約ニ因リ夫ノ利益ニ爲セシモノナルトキ
二　其贈與外ニ於ケル夫ノ特有財產ヲ以テ婦ノ特有財產ノ返還ヲ確保スルニ足ラサルトキ
第二款　贈與ノ特別ナル廢棄ノ原由
第千七百六十條　贈與ハ一般ニ合意ヲ無効ト爲ス原由ノ外尙ホ贈與者ノ約權シタル條件不執行又ハ受贈者ノ忘恩ノ爲メ之ヲ廢棄スルヿヲ得
贈與者ニ子ノ出生シタル事實ハ贈與廢棄ノ原由タラス但シ第千五百九十六條ノ適用ヲ妨ケス
第千七百六十一條　然レトモ贈與者ハ子ノ出生ヲ以テ贈與解除ノ未必條件トシテ約定スルヿヲ得此塲合ニ於テ其子ノ出生ハ一般解除ノ未必條件ノ成就ト同一ノ効果ヲ生ス但シ其子ノ活テ出生スルヿヲ要ス
第千七百六十二條　條件ノ不執行ニ基ク贈與ノ廢棄ハ當然ニハ成立セス贈與者又ハ其承繼人ヨリ之ヲ裁判所ニ請求ス可シ但シ裁判所ハ第九百二十六條ニ從ヒ受贈者ニ猶豫期限ヲ與フルヿヲ得
第千七百六十三條　條件ノ不執行ニ基キ贈與ヲ廢棄シタル塲合ニ於テハ受贈者ニ對スルト第三者ニ對スルトヲ問ハス未必條件ノ成就ニ因リ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ効果ヲ生ス
第千七百六十四條　贈與ハ左ニ記載シタル原由ノ一アルニ非サレハ忘恩ノ爲メ之ヲ廢棄スルヿヲ得ス
一　受贈者惡意ヲ以テ贈與者ノ身體、財產又ハ名譽ニ對シ刑法上輕罪又ハ重罪ト名狀スル所爲ヲ行ヒタルトキ
二　受贈者カ贈與者ニ養料ヲ給スルヿヲ否拒スルトキ但シ養料ヲ給スヘキ親族アラサルトキニ限ル可シ
第千七百六十五條　受贈者ノ忘恩ニ基ク贈與ノ廢棄ハ當然ニハ成立セス
此廢棄訴權ハ第千七百六十八條第一但書ノ塲合ヲ除クノ外贈與者自身ニ屬スルモノトス
第千七百六十六條　忘恩ニ基ク贈與ノ廢棄ハ贈與物ニ付第三者カ善意ヲ以テ得タル權利ヲ害セス但シ贈與者カ第八百七十二條ニ從ヒ贈與證書ノ登記欄外ニ廢棄ノ訟求書ヲ摘錄シタル後ニ受贈者ヨリ贈與物ニ付物上權ヲ得タル者ハ自己ノ善意ヲ對抗スルヿヲ得ス
第千七百六十七條　忘恩ニ基キ贈與ヲ廢棄セラレタル受贈者ハ左ノ責ニ任ス
一　其現有スル受贈物ノ返還
二　廢棄訟求ノ日ヨリ受贈物ニ付既ニ收取シ又ハ收取ヲ怠リタル果實ノ返還
三　前條ニ從ヒ贈與者ノ忍容ス可キ第三者ノ權利ニ對スル賠償
四　忘恩ノ所爲以來受贈者ノ過愆ニ因リ受贈物ニ致シタル破損又ハ滅盡ノ賠償
賠償額ハ廢棄訟求ノ時ニ於ケル物件ノ價額ニ從ヒ之ヲ定ム可シ
第千七百六十八條　忘恩ニ基ク贈與廢棄ノ訴權ハ左ノ原由ニ因リ消滅ス
一　受贈者又ハ贈與者ノ死去但シ贈與者ノ死去ハ忘恩ノ所爲ニ原由セシトキハ其相續人ヨリ贈與ノ廢棄ヲ請求スルヿヲ得
二　公正證書又ハ私證書ヲ以テ爲シタル贈與者ノ容赦
三　何レノ塲合ニ於テモ滿一个年間其訴權ノ不執行但シ其期限ハ訴權ヲ有スル者カ受贈者ニ忘恩ノ所爲アリタルヿヲ知リタル日ヨリ起算ス
第千七百六十九條　慣習ノ贈物及ヒ有體動產ノ手渡ニ成ル贈與ハ忘恩ニ基キ廢棄スルヿヲ得サルモノトス
第五節　婚姻ノ利益ニ第三者ノ爲シタル贈與
第千七百七十條　婚姻ノ利益ニ第三者ノ爲シタル贈與ハ特定名義ニ於ケルト包括名義ニ於ケルトヲ問ハス下ノ變更ヲ除クノ外本篇第一部第九章及ヒ第二部第二章第一節乃至第四節ニ規定シタル各條例ニ從フ
第千七百七十一條　婚姻ノ利益ニ於ケル贈與ハ離婚ノ塲合ニ於テハ解除ス可キ條件ヲ以テ爲シタルモノト看做ス但シ此解除ハ贈與者又ハ其相續人ノ訟求ニ因リ裁判上之ヲ宣告ス
第千七百七十二條　此解除ハ一般ニ合意ノ解除ト同一ノ効果ヲ生ス然レトモ贈與物ニ付受贈者ノ收取シタル利子及ヒ果實ハ解除ノ訟求ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ請求スルヿヲ得ス
第千七百七十三條　此解除ノ訴權ハ明瞭ナル棄權ノ塲合ヲ除キ離婚ノ日ヨリ滿五个年ニテ消滅ス
第千七百七十四條　受贈者贈與ノ原由タル婚姻ヨリ所出ノ卑屬親ナクシテ死去シ且ツ贈與者尙ホ生存スルトキハ其贈與ハ法律上當然贈與者ニ復歸ス
第千七百七十五條　前條ノ塲合ニ於ケル贈與ノ復歸ハ第三者ニ之ヲ對抗スルヿヲ得ス然レトモ贈與證書ノ登記欄外ニ贈與者カ其權利執行ノ訟求書ヲ摘錄シタル後受贈者ノ遺產保持人ヨリ贈與物ニ付不動產權利ヲ得タル第三者ニ對シテハ格別ナリトス
第千七百七十六條　第千七百七十四條ニ從ヒ贈與ノ復歸スル塲合ニ於テ返還ス可キモノ左ノ如シ
一　受贈者死去ノ時其遺產中ニ尙ホ原物ニテ存在スル物
二　贈與カ金錢又ハ量定物ヲ包含セシトキハ其對價額
三　受贈者死去ノ日ヨリ贈與物ニ付收取シタル利子及ヒ果實
四　受贈者生存中第三者カ贈與物ニ付有償名義ニテ得タル權利ノ賠償額
五　受贈者ノ死去シタル後贈與物ニ付第三者カ有効ニ得タル權利ノ賠償額
六　受贈者ノ死去シタル後其遺產保持人ノ過愆ニ因リ贈與物ニ致シタル破損又ハ滅盡ノ賠償額但シ此賠償ハ過愆者ニ對スルニ非サレハ之ヲ請求スルヿヲ得ス
此條ニ規定シタル對價額又ハ賠償額ハ贈與ノ時ノ景狀ニ依リ受贈者死去ノ時ニ於ケル物件ノ估計價格ニ從ヒ之ヲ定ム
第千七百七十七條　夫婦財產契約ト異別ナル證書ニ因リ婚姻ノ際ニ第三者カ贈與ヲ爲シタルノミノ事情ハ婚姻ノ利益ニ於ケル贈與ヲ推測セス
又婚姻公式後ニ第三者カ爲シタル贈與ニ付テハ假令ヒ證書上婚姻ノ利益ニ於ケル旨ヲ明記シタリト雖モ贈與者ハ此節ニ規定シタル利益ヲ効用スルヿヲ得ス
第六節　夫婦財產契約依リ若クハ婚姻中ニ爲ス夫婦間ノ贈與
第千七百七十八條　夫婦ハ其財產契約ニ依ルト婚姻中ノ合意ニ依ルトヲ問ハス普通ノ法式ニ從ヒ且ツ其處置シ得可キ財產ノ部分ニ非サレハ一方ヨリ他ノ一方ニ又ハ互相ニ贈與スルヿヲ得ス
右ノ外夫婦間ノ贈與ハ下ノ變更ニ從フ
第千七百七十九條　夫婦ハ未成年ト雖モ一方ヨリ他ノ一方ニ又ハ互相ニ贈與ヲ爲スヿヲ得
然レトモ其婚姻ノ有効ナル爲メ承諾ヲ與フ可キ人ノ承諾及ヒ立會ヲ得且ツ夫婦財產契約ニ依ルニ非サレハ其贈與ヲ爲スヿヲ得ス
第千七百八十條　夫婦間ノ贈與ハ其財產契約ニ依ルモノト婚姻中ノ合意ニ依ルモノトヲ問ハス前節ニ規定シタル解除ノ未必條件ニ從フ
第千七百八十一條　夫婦間ノ贈與ハ共同ノ卑屬親又ハ養子無クシテ受贈者死去シ贈與者尙ホ生存スルトキハ法律上當然贈與者ニ復歸ス
第千七百八十二條　夫婦間ノ贈與ハ贈與者隨意ニ之ヲ廢棄スルヿヲ得
婦ハ夫又ハ裁判所ノ允許ヲ要セスシテ贈與ノ廢棄ヲ爲スヿヲ得但シ婚姻ノ繼續中ニ非サレハ此廢棄ヲ訟求スルヿヲ得ス
第千七百八十三條　前二條ニ從ヒ贈與ノ復歸シ又ハ廢棄シタル塲合ニ於テ受贈者其承權人及ヒ第三者ニ對スル効力ニ付テハ第千七百七十五條及ヒ第千七百七十六條ヲ適用ス
第千七百八十四條　此節ニ規定シタル制限ニ違フ贈與ノ約款ハ記載ナキモノト看做ス
第千七百八十五條　夫婦間ノ贈與ハ前來ノ義務執行又ハ有償契約ニ擬スルト他人ノ名義ヲ借ルト間接ナルトヲ問ハス此節ニ規定シタル制限ニ從フ
第千七百八十六條　夫婦ノ一方ヨリ他ノ一方ノ父母又ハ卑屬親ニ爲シタル贈與ハ他人ノ名義ヲ借リ之ヲ他ノ一方ニ爲シタルモノト看做ス
第千七百八十七條　夫婦ノ一方相續權又ハ其他ノ權利ヲ抛棄シ其利益ノ全部他ノ一方ニ歸ス可キトキハ其抛棄ハ間接ノ贈與ヲ組成ス
第七節　遺囑贈遺
第一款　遺囑ノ普通法式
第千七百八十八條　遺囑ハ遺囑者自筆ノ證書又ハ公正證書又ハ秘密ノ法式ニ依リ之ヲ爲スヿヲ得
然レトモ二人以上ノ人カ第三者ノ利益ニ於ケルト互相ノ利益ニ於ケルトヲ問ハス一箇ノ證書ヲ以テ遺囑ヲ爲スヿヲ得ス
第千七百八十九條　自筆ノ遺囑證書ハ遺囑者其全文日附及ヒ氏名ヲ自書シ捺印シタルモノニ非サレハ有効トセス
第千七百九十條　公正證書ニ依ル遺囑ハ公證人一名及ヒ證人二名若クハ公證人二名ノ面前ニ於テ遺囑者其遺囑ノ趣旨ヲ口授シ公證人ノ一名之ヲ筆記シ終リテ朗讀シタル後遺囑者幷ニ立會人各其氏名ヲ自書シ捺印シタルトキニ非サレハ有効トセス
然レトモ氏名ヲ自書スルヿヲ知ラス又ハ自書スルヿ能ハサル者アルトキハ其事由ヲ證書ノ末尾又ハ欄外ニ記入ス可シ
此記入ハ氏名自書ノ虧缺ヲ補充ス
第千七百九十一條　秘密ノ法式ニ依ル遺囑證書ハ遺囑者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ記載シタルトヲ問ハス左ノ條件ニ適合シタルモノニ非サレハ有効トセス
一　遺囑者ノ氏名ヲ自書シ捺印シタルヿ
二　其遺囑書ヲ封シテ遺囑者之ニ封印シタルヿ
三　遺囑者ハ公證人一名及ヒ證人四名ノ面前ニ此封書ヲ提出シテ自己ノ遺囑書タル旨ヲ陳述シタルヿ
四　公證人ハ遺囑者ノ陳述ト之ヲ聽聞シタル日附トヲ其封書ノ表面ニ記載シテ遺囑者及ヒ證人ト共ニ各氏名ヲ自書シ捺印シタルヿ但シ此塲合ニ於テ氏名ヲ自書スルヿヲ知ラス若クハ自書スルヿ能ハサル者アルトキハ公證人其事由ヲ封書ノ表面ニ記入スルヲ以テ足レリトス
公證人ハ遺囑者ノ死後其相續人立會ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記載シタル受領書ヲ遺囑者又ハ其指定シタル證人中ノ一名ニ渡ス可シ
第千七百九十二條　文字ヲ讀ムヿヲ知ラス又ハ文字ヲ書クヿヲ知ラサル者ハ秘密ノ法式ニ依ル遺囑ヲ爲スヿヲ得ス
第千七百九十三條　遺囑者言語ヲ發スルヿ能ハスト雖モ文字ヲ書クヿヲ得ル塲合ニ於テハ秘密ノ法式ニ依ル遺囑ヲ爲スヿヲ得
然レトモ此塲合ニ於テハ公證人及ヒ證人ノ面前ニ於テ封中ノ遺囑ハ自書タル旨ヲ封書ノ表面ニ自書ス可シ
第千七百九十四條　秘密ノ法式ニ依ル遺囑トシテハ無効ノモノト雖モ其全文日附及ヒ氏名共ニ遺囑者ノ自筆ニ係ルモノハ自筆ノ遺囑證書トシテ有効トス
第千七百九十五條　遺囑者ノ四親等ニ至ルマテノ血族姻族及ヒ受囑者幷ニ遺囑ニ立會フ公證人ノ筆生其他無能力者ハ遺囑ノ證人ト爲ルヿヲ得ス
第二款　特別ノ遺囑法式
第千七百九十六條　軍人及ヒ軍屬ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ內地ト雖モ交戰若クハ合圍中ニ在ル者ハ將校一名證人二名ノ面前ニ於テ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
敵國ニ俘虜ト爲リタル者日本人タル將校及ヒ其他ノ者ヲ以テ立會人及ヒ證人ト爲スヿ能ハサルトキハ日本語ニ通スル外國人二名ノ面前ニ於テ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
第千七百九十七條　遠征中又ハ交戰若クハ合圍中ニ在ル軍人及ヒ軍屬ニシテ疾病又ハ負傷ノ爲メ病院ニ在ル者ハ其院ノ醫官幷ニ事務官ノ補助ヲ受ケ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
第千七百九十八條　傳染病ノ爲メ行政ノ處分ヲ以テ交通ヲ遮斷シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ノ者ト否ラサル者トヲ問ハス保安官一名及ヒ證人一名ノ面前ニ於テ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
第千七百九十九條　前三條ノ法式ニ從ヒ作リタル遺囑書ハ遺囑者通常ノ法式ニ從ヒ遺囑書ヲ作ルヿヲ得ルニ至リシヨリ六个月後ハ無効トス
第千八百條　海上旅行中ハ左ノ法式ニ從ヒ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
一　官ノ艦船ニ在テハ其艦船ノ事務官其他ノ船舶ニ在テハ船長又ハ事務員ノ面前ニ於テ他ノ事務員ノ補助ヲ受ケ遺囑書ヲ作ルヿヲ得
二　證人二名之ニ立會フ可シ但シ乘組人員不足スルトキハ其事由ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
第千八百一條　如何ナル塲合ニ於テモ前條ノ法式ニ從ヒタル遺囑書ハ之ヲ正本二通ニ作ル可シ
第千八百二條　其艦船帝國領事ノ駐在スル外國ノ港ニ着スルトキハ遺囑者其正本一通ヲ封シ之ヲ領事ニ差出シ領事ハ之ヲ海軍大臣ニ送致シ海軍大臣ハ之ヲ遺囑者住所ノ區裁判所書記局ニ寄置ス可シ
第千八百三條　其艦船帝國ノ港ニ着スルトキハ遺囑書ノ正本二通ヲ封シ若シ又前條ニ從ヒ旅行中其一通ヲ領事ニ差出セシトキハ他ノ一通ヲ封シ其地ノ郡市役所又ハ區裁判所ニ差出シ之ヲ領取シタル官署ハ遺囑者住所ノ區裁判所書記局ニ之ヲ寄置ス可シ
第千八百四條　海上ニテ遺囑書ヲ作リ及ヒ着港ノ際相當官署ニ之ヲ差出シタルトキハ其都度乘組人名簿ニ其旨ヲ記入ス可シ
第千八百五條　海上ニテ作リタル遺囑書ハ遺囑者上陸シテ通常ノ法式ニ從ヒ之ヲ作ルヿヲ得可キ地ニ止マリシヨリ六个月後ハ無効トス
第千八百六條　海上ニテ作リタル遺囑書中其艦船ノ役員ノ利益ニ於ケル處置ハ無効トス但シ其役員遺囑者ノ血族タルトキハ此限ニ在ラス
第千八百七條　本款ノ規則ニ從ヒ作リタル遺囑書ニハ遺囑者其記載者立會人及ヒ證人各氏名ヲ自書シ且ツ捺印ス可シ
若シ氏名ヲ自書スルヿヲ知ラス若クハ自書スルヿ能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺囑書ノ末尾又ハ欄外ニ記入ス可シ
第千八百八條　外國ニ在ル日本人ハ第千七百八十九條ニ從ヒ自筆ノ法式ニ依リ若クハ其地ニ用フル公正ノ法式ニ從ヒ遺囑ノ處置ヲ爲スヿヲ得
又其地ニ公證人ノ職務ヲ行フヿヲ得ヘキ領事駐在スルトキハ第千七百九十條及ヒ第千七百九十一條ニ從ヒ其領事ノ面前ニ於テ公正證書ノ法式又ハ秘密ノ法式ヲ以テ遺囑ヲ爲スヿヲ得
第千八百九條　外國ニ於テ作リタル遺囑書ハ遺囑者帝國內ニ有スル住所ノ區裁判所書記局ノ簿冊ニ之ヲ登錄シ其住所知レサルトキハ最終居所ノ區裁判所書記局ノ簿冊ニ之ヲ登錄シタル後ニ非サレハ帝國內ニ在ル財產ニ付其遺囑ヲ執行スルヿヲ得ス
又其遺囑書ニ帝國內ニ在ル不動產ノ處置ヲ包含スルトキハ其不動產所在地ノ登記役所ニ登記シタル後ニ非サレハ第三者ニ對シ之ヲ對抗スルヿヲ得ス
第千八百十條　帝國內ニ在ル外國人ハ帝國ノ法律ニ從ヒ又ハ其本國ノ法律ニ從ヒ遺囑ヲ爲スヿヲ得
然レトモ不動產ニ關スル遺囑ノ處置ハ帝國ノ法律ニ從ヒ之ヲ公示スルニ非サレハ第三者ニ對シ効力ヲ有セス
第三款　遺囑ノ効力及ヒ執行
第千八百十一條　包括名義ニ於ケル單純又ハ有期ノ贈遺ハ遺囑者死去ノ時ヨリ受囑者ノ知ルト否トニ拘ラス其包含スル財產ノ働方及ヒ受方ヲ受囑者ニ移轉ス然レトモ有期ノ贈遺ハ要求期ノ到ルマテ其執行ヲ停止ス
停止又ハ解除ノ未必條件ニ係ル贈遺ノ効力ハ合意ノ事項ニ規定シタル如ク其未必條件ノ到着如何ニ從フモノトス
何レノ塲合ニ於テモ受囑者其贈遺ヲ拒絕スルノ權利ヲ妨ケス
第千八百十二條　遺囑書ハ其種類ノ何タルヲ問ハス相續開始地ノ地方裁判所長ノ撿證ヲ得タル上ニ非サレハ之ヲ執行スルヿヲ得ス
封印アルモノハ其裁判所長ノ面前ニ非サレハ開封スルヿヲ得ス違フモノハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス但シ開封者公證人ナルトキハ一等ヲ加フ
第千八百十三條　前條ノ撿證ヲ得テ要求期ノ到リタル贈遺ノ受囑者ハ總テ相續財產ノ保持人ニ對シ其引渡ヲ請求スルヿヲ得但シ貯存財產ヲ組成スル爲メ第千七百三十四條ニ從ヒ之ヲ減殺ス可キトキハ格別ナリトス
第千八百十四條　贈遺ノ引渡ハ特定名義ニ於ケル贈遺物ノ引渡ニ關スル第千百四十七條ノ規定ニ從ヒ之ヲ爲ス可シ
第千八百十五條　遺囑ノ執行及ヒ贈遺物ノ引渡ニ關スル費用ハ相續財產ノ負擔トス但シ貯存財產ニ之ヲ負ハシムルヿヲ得ス
第千八百十六條　元本ニ於ケル包括名義ノ贈遺ノ受囑者ハ其利子及ヒ果實ニモ亦權利ヲ有ス然レトモ第千百四十六條ノ規定ニ從フニ非サレハ之ヲ請求スルヿヲ得ス
第千八百十七條　包括名義ニ於ケル受囑者モ亦其遺囑中ニ包含スル不動產ノ處置ハ第千百五十二條以下ノ制限ニ從ヒ公示方法ヲ完充スルニ非サレハ第三者ニ之ヲ對抗スルヿヲ得ス
公示方法ノ費用ハ受囑者ノ負擔トス
第四款　遺囑執行者
第千八百十八條　遺囑者ハ合意又ハ遺囑ニ依リ贈遺ノ執行ヲ一人又ハ數人ニ依託スルヿヲ得但シ其依託ヲ受ケタル遺囑執行者ハ一般ニ義務ヲ負フヿヲ得ル能力者タルヿヲ要ス
第千八百十九條　遺囑執行者ハ依託證書ニ規定シタル執行方法ニ從ヒ善良ノ管理人タルノ注意ヲ以テ遺囑ヲ執行ス可シ
若シ依託證書ニ執行方法ヲ規定セス又ハ其規定不明若クハ不法ナルトキハ下數條ノ規則ヲ以テ之ヲ補充ス
第千八百二十條　遺囑執行者ハ相續人中未成年者禁治產者其他ノ無能力者又ハ失踪者アルトキハ民事訴訟法ニ從ヒ相續財產ノ封印ヲ請求シ又何レノ塲合ニ於テモ相續人又ハ其代表人立會ノ上若クハ適法ニ之ヲ召喚シタル上其財產ノ目錄ヲ作ラシム可シ
第千八百二十一條　遺囑執行者ハ前條ノ法式ヲ終リタル後相續財產ノ保持人ニ對シ有効ニ遺囑ヲ執行スルニ足ル財產ノ引渡ヲ請求ス可シ
自己ノ執行ス可キ遺囑ニ付爭アルトキハ訴訟ニ參加ス可シ
第千八百二十二條　金錢ニ於ケル贈遺ヲ辨償スルニ足ル金額相續財產中ニ現存セサルトキハ處置シ得可キ部分ノ限度內ニ於テ先ツ動產ノ糶賣ヲ請求シ尙ホ不足スルトキハ不動產ノ糶賣ヲ請求ス可シ
然レトモ包括承繼人ハ其贈遺ヲ辨償スルニ足ル金錢ヲ提出シ其糶賣ヲ停止スルヿヲ得
第千八百二十三條　遺囑執行者數名アルトキハ其中ノ一名ハ他ノ者ニ拘ラス遺囑ヲ執行シ及ヒ連帶ニテ之ヲ計算スルノ責ニ任ス但シ遺囑者依託ヲ以テ執行方法ヲ各執行者ニ分割シ且ツ各執行者其依託ヲ受ケタル限度內ニ於テ執行シタルトキハ格別ナリトス
第千八百二十四條　右ノ外尙ホ遺囑執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服從ス
第千八百二十五條　遺囑執行ノ依託ハ代理了終ノ原由ニ因リ消滅ス但シ遺囑者ノ死去ハ此例ニ在ラス
第千八百二十六條　遺囑執行ノ依託消滅シタルトキハ執行者ヨリ相續人及ヒ受囑者ニ對シ其執行ノ計算ヲ爲ス可シ但シ執行者ノ死去ニ因リ消滅シタルトキハ其相續人ヨリ其計算ヲ爲ス可シ
第千八百二十七條　遺囑執行ニ要セシ財產ノ封印、目錄、糶賣、訴訟參加、及ヒ其他ノ費用ハ第千八百十五條ニ從ヒ相續財產ノ負擔トス
第五款　遺囑ノ廢棄及ヒ其失効
第千八百二十八條　遺囑ハ遺囑者ノ隨意ヲ以テ廢棄スルヿヲ得
廢棄ハ明瞭又ハ暗默タルヿヲ得
第千八百二十九條　遺囑者遺囑ノ全部又ハ一部ヲ廢棄スル意思ヲ明言シタルトキハ其廢棄ハ明瞭ノモノトス但シ其意思ハ遺囑ノ法式ノ一ニ從ヒ作リタル證書ニ之ヲ明言スルヿヲ要ス
第千八百三十條　後ノ遺囑ニ依リ前ノ遺囑ニ包含スル物ヲ處置シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺囑ヲ暗默ニ廢棄シタルモノトス
金錢又ハ量定物ニ付テハ後ノ遺囑ハ前ノ遺囑ヲ廢棄シタルモノト看做サス
前二項ノ規則ハ遺囑者遺囑ト牴觸スル生存者間ノ有償又ハ無償ノ處置ヲ爲シタル塲合ニモ亦之ヲ適用ス
第千八百三十一條　廢棄ニ歸シタル遺囑ハ其廢棄ノ原由タリシ處置ノ無効ト爲ルトキト雖モ更ニ有効ニ復セサルモノトス
第千八百三十二條　遺囑ハ受囑者ノ條件不執行ノ爲メ又ハ遺囑者ヲ死ニ致シタル原由ノ爲メ第千七百六十二條以下ノ規則ニ從ヒ相續人ヨリ廢棄ヲ請求スルヿヲ得
第千八百三十三條　遺囑者ヲ死ニ致シタル原由ニ基ク遺囑廢棄ノ訴權ハ第千七百六十八條第三ノ期限經過ニ因リ消滅ス
第千八百三十四條　遺囑ハ法式上完全ノモノト雖モ左ノ塲合ニ於テ効ヲ失フ
一　受囑者遺囑者ヨリ先ニ死去シタルトキ
二　停止ノ未必條件ニ係ル遺囑ニ付其條件ノ到着前受囑者死去シタルトキ
三　停止ノ未必條件虧缺シタルトキ
四　受囑者遺囑ヲ抛棄シタルトキ
五　受囑者遺囑ニ依リ收受スルノ能力ヲ有セサルトキ
六　遺囑者ノ生存中遺囑物ノ全部滅盡シタルトキ
七　停止ノ未必條件ニ係ル遺囑物ノ全部其條件ノ到着前不可抗力ニ因リ滅盡シタルトキ
第千八百三十五條　廢棄又ハ失効ニ歸シタル遺囑ノ部分ニ付テハ曾テ遺囑アラサリシモノト看做ス但シ遺囑者同一又ハ異別ノ遺囑ニ依リ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定セシトキハ格別ナリトス
第千八百三十六條　遺囑ノ廢棄又ハ失効ニ歸シタル部分ヲ利得ス可キ者ノ指定ハ明瞭ナルヿヲ要ス
受囑者數名ノ利益ニ於ケル遺囑ノ合同ナル事情若クハ遺囑物ノ不可分ナル性質ニ因リ其指定ヲ推測スルヿヲ得ス
第三章　夫婦財產契約
第一節　總則
第千八百三十七條　夫婦タラントスル者ハ其財產ニ關シテ風俗ヲ壊ラス若クハ公ケノ秩序ヲ害セサル契約ハ適意ニ之ヲ爲スヿヲ得但シ風俗ヲ壞リ若クハ公ケノ秩序ヲ害スル約件アルトキハ其約件ハ無効トス
第千八百三十八條　夫婦財產契約ハ婚姻ノ公式前之ヲ爲シ及ヒ公證人ヲシテ其證書ヲ作ラシムルニ非サレハ不成立トス
婚姻ノ公式後ハ其契約ヲ變更スルヿヲ得ス
第千八百三十九條　財產契約ノ變更ハ婚姻ノ公式前ト雖モ公證人ヲシテ其證書ヲ作ラシメ且ツ財產契約ニ關係スル諸人ノ立會及ヒ承諾アルニ非サレハ無効トス
第千八百四十條　財產契約ノ變更ニシテ前條ノ規則ニ適スルモノト雖モ財產契約書ノ原本ニ之ヲ附記シタルトキニ非サレハ第三者ニ對シテ無効トス
財產契約書ノ謄本ニ變更ヲ附記セスシテ其謄本ヲ交付シタル公證人ハ第三者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第千八百四十一條　婚姻ヲ爲スヿヲ得ル未成年者ハ其父母若クハ後見人ノ立會ニテ夫婦財產契約ヲ爲スヿヲ得
第千八百四十二條　財產契約ヲ爲サスシテ婚姻ヲ爲ス者ハ法定ノ制ニ從ヒタル者ト看做ス
所得共通ヲ法定ノ制トス
第千八百四十三條　帝國ニ於テ財產契約ヲ爲サスシテ婚姻ヲ爲ス外國人ハ夫タル者ノ本國ニ行ハルヽ普通ノ制ニ從ヒタル者ト看做ス
第二節　財產共通
第千八百四十四條　法定ト約束トヲ問ハス財產共通ハ婚姻ノ公式後直チニ始マリ契約ヲ以テ其開始ノ時ヲ變更スルヿヲ得ス
第千八百四十五條　財產共通ハ無形人ニアラス夫婦ハ共通財產ノ共有者タリ
第一款　所得共通
第一　財產
第千八百四十六條　所得共通ノ財產ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ現ニ所有シ若クハ將來ニ所有スヘキ動產及ヒ不動產ヨリ婚姻中ニ生シタル果實及ヒ產物
二　夫婦ノ協同若クハ各自ノ勞働ニ因テ婚姻中ニ得タル物
三　本條第一及ヒ第二ニ揭クル所得ニ因テ得タル物
第千八百四十七條　前條第一ニ揭クル果實及ヒ產物ニ關スル夫婦互相ノ用收權ハ第五百七十二條第一項及ヒ第二項ヲ除クノ外第二編第二章第二節ニ定ムル用收者ノ權利ニ同シ
第千八百四十八條　夫婦若クハ其相續人ハ共通解離ノ時ニ於テ收穫スヘカリシ果實及ヒ產物ニシテ收穫セサルモノアルトキハ所有者ニ對シ其賠償ヲ求ムルヿヲ得
又用收權ニ屬スル物件ニ改良ヲ加ヘ其價直ヲ增シタルトキ亦同シ
第千八百四十九條　夫婦ノ特有財產ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ所有スル動產及ヒ不動產
二　夫婦ノ共有ト爲スヘキヿヲ遺囑若クハ贈與ノ條件ト爲シタル塲合ヲ除キ婚姻中相續遺囑及ヒ贈與ニ依テ各自ニ得タル物
第千八百五十條　婚姻中夫婦ノ一方ニ屬スル特有物ニ因テ得タル動產又ハ不動產モ亦其特有財產トス
第千八百五十一條　夫婦又ハ其相續人ヨリ其特有財產タルヿヲ證明セサル動產若クハ不動產ハ共通財產ト看做ス
夫婦ノ特有財產タルヿヲ證明セントスル者ハ總テノ證據方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルヿヲ得
第二　負債
第千八百五十二條　所得共通ノ負債ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ有スル負債ノ利子及ヒ年金義務ノ賦金
二　婚姻中夫婦ノ包括名義ヲ以テ財產ヲ獲得スルニ因テ有スル負債ノ利子及ヒ年金義務ノ賦金
三　婚姻中夫ノ爲ス負債ノ元金及ヒ利子
四　婚姻中夫若クハ地方裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債ノ元金及ヒ利子又何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル塲合ニ於テ婦ノ爲ス負債ノ元金及ヒ利子
五　夫婦ノ特有財產ニ付用收者ノ負擔スヘキ修繕及ヒ其他ノ義務
六　夫婦ノ養料、子ノ養料、敎育料其他婚姻ヨリ生スル一切ノ負擔
第千八百五十三條　前條第一及ヒ第二ニ揭クル負債ノ元金ニ付テハ債主ハ負債者タル夫若クハ婦ノ特有財產ニ就キ其權利ヲ行ヒ其價額ノ負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ自己ノ爲メ假リニ共通財產ノ分派ヲ訟求シ其負債者ニ屬スル部分ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得
第千八百五十四條　第千八百五十二條第三及ヒ第四ニ揭クル負債ニ付テハ其原因ノ如何ヲ問ハス債主ハ先ツ共通財產ニ就キ權利ヲ行フ可シト雖トモ尙ホ下數條ノ區別ニ從フ
第千八百五十五條　夫ノ爲ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ルト雖トモ婦ノ特有財產ニ就キ之ヲ行フヿヲ得ス但シ夫婦ノ連名ヲ以テ爲ス負債ニ付テハ共通財產及ヒ夫ノ特有財產ノ價額其負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ婦ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得
第千八百五十六條　夫ノ允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債ニ付テハ債主ハ婦ノ特有財產ニ就キ其權利ヲ行ヒ其價額ノ負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ夫ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得但シ夫明瞭ニ其允許ヲ制限シテ保證ノ結果ヲ謝絕シタルトキハ此限ニ在ラス
第千八百五十七條　裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債及ヒ何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル塲合ニ於テ婦ノ爲ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ス
第千八百五十八條　夫ノ總括若クハ特定ノ代理ニ依テ婦ノ爲ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ルト雖トモ婦ノ特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ス
第千八百五十九條　第千八百五十二條第三及ヒ第四ニ揭クル負債ニシテ夫婦ノ中專ラ一方ノ爲メニ爲シタルモノナルトキハ其一方ハ所得共通ニ賠償ヲ爲スノ義務ヲ有ス
夫婦ノ中專ラ一方ノ爲メニ爲ス負債トハ第千八百五十二條第一及ヒ第二ニ揭クル負債ノ元金ヲ辨償シ又ハ特有物ノ大修繕ヲ行ヒ又ハ前婚ノ子ニ婚資ヲ與ヘ又ハ不正ノ損害ヲ他人ニ加ヘタルニ因テ生シタル義務ヲ辨償スルニ付テ爲ス負債ノ如シ
第千八百六十條　夫婦ノ一方若クハ其相續人ヨリ負債ハ第千八百五十二條第一若クハ第二ニ揭クルモノニシテ他ノ一方ノ負擔ニ屬スルモノタルヿヲ證明セントスルトキハ總テノ證據方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルヿヲ得
第千八百六十一條　婚姻中ニ爲シタル負債ニ付共通財產ノ管理者タル夫婦ノ中一方ヨリ專ラ他ノ一方ノ爲メニ爲シタルモノタルヿヲ證明セントスルトキハ普通ノ證據方法ヲ用ユ可シ
又他ノ一方ヨリ專ラ管理者自己ノ爲メニ爲シタルモノタルヿヲ證明セントスルトキハ前條ノ規則ヲ適用ス
第三　財產ノ管理
第千八百六十二條　共通財產ノ管理ハ夫ニ屬ス
日常家事ニ關シ婦ノ爲ス管理ハ夫ノ與ヘタル總括ノ代理ニ依テ爲スモノト看做ス
第千八百六十三條　婦過度ノ負債ヲ爲シ日常家事ヲ管理スル權ヲ濫用スルトキハ地方裁判所ハ夫ノ請求ニ依リ婦ノ管理權ヲ停止スルヿヲ宣告シ且ツ新聞紙ニ其裁判ヲ公告スヘキヿヲ命スルヿヲ得
第千八百六十四條　夫失踪シ又ハ禁治產ヲ受ケ又ハ瘋癲病院ニ入リ若クハ自宅ニ監置セラレタルトキハ共通財產ノ管理ハ當然婦ニ屬ス
第千八百六十五條　夫又ハ管理ヲ爲ス婦ハ有償ニテ共通財產ヲ移付シ若クハ所得共通ノ爲メ之ヲ抵保ト爲スヿヲ得
夫ハ婦ノ承諾ナク又管理ヲ爲ス婦ハ裁判所ノ允許ナクシテ無償ニテ共通財產ヲ移付シ若クハ他人ノ爲メ之ヲ抵保ト爲スヿヲ得ス但シ慣習ノ贈物ハ此限ニ在ラス
第千八百六十六條　夫婦ノ一方事實上若クハ法律上承諾ヲ表スルヿ能ハサルトキニ限リ他ノ一方ハ共通財產ヲ以テ共同子ノ婚姻若クハ營業ノ爲メ資財ヲ與フルヿヲ得
承諾ヲ表スルヿ能ハサル者ノ負擔スル部分ハ其配偶者ノ負擔スル部分ニ超過スルヿヲ得ス
夫婦ノ互相ニ負擔スヘキ部分ヲ定メサル塲合ニ於テハ各其資財ノ半額ヲ負擔ス
第千八百六十七條　夫婦ハ共通財產中自己ニ屬スヘキ部分又ハ其財產中特定ノ物品ヲ遺囑スルヿヲ得
特定ノ物品ノ受囑者ハ分派ノ結果ニ由リ相續人ノ配當部分中ニ其物品ノ加ハラサル時ハ現品ニテ之ヲ要求スルヿヲ得ス此塲合ニ於テハ受囑者ハ相續人ノ受クル配當部分及ヒ遺囑者ノ特有財產ニ就キ其賠償ヲ要求スルヿヲ得
第千八百六十八條　婦ノ特有財產ハ夫之ヲ管理ス但シ第千八百六十四條ニ揭クル塲合ニ於テハ婦ハ當然躬ラ之ヲ管理ス
第千八百六十九條　婦ノ特有財產ヲ管理スル夫ハ婦ノ承諾アルニ非サレハ有償ニテモ其財產ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スヿヲ得ス
然レトモ婦事實上若クハ法律上承諾ヲ表スルヿ能ハサル塲合ニ於テハ夫ハ裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ前婚若クハ庶出ノ子ノ婚姻又ハ營業ノ爲メ其特有財產ヲ以テ資財ヲ與フルヿヲ得
第千八百七十條　夫ハ婦ノ承諾ヲ得スシテ婦ノ特有財產ニ關スル占有訴權ノミヲ行フヿヲ得
第千八百七十一條　夫カ婦ノ特有財產ニ付其承諾ナクシテ爲ス賃貸ニハ第六百二十六條以下ノ規則ヲ適用ス
第千八百七十二條　夫若クハ管理ヲ爲ス婦ハ共通財產ニ付第六百二十六條ニ定ムル期限ヲ超過スル賃貸ヲ爲スヿヲ得
若シ約束ノ期限中ニ財產共通ノ解離スルトキハ其賃貸ハ同條ノ期限間仍ホ其効ヲ有ス
第千八百七十三條　夫其婦ノ特有財產ヲ賣却シタルトキハ其代價ヲ再用シ又ハ之ヲ專ラ婦ノ爲メニ利用ス可シ若シ其再用又ハ利用ヲ爲サ丶ル塲合ニ於テハ婦若クハ其相續人ハ財產共通解離ノ時夫若クハ其相續人ニ對シ賠償ヲ求ムルヿヲ得
第千八百七十四條　夫再用ニ供スル爲メ婦ノ特有財產ヲ以テ爲ス獲得ハ婦承諾ヲ表シタルトキニ非サレハ再用ノ効ヲ生セス
第千八百七十五條　夫ノ特有財產ヲ以テ爲ス獲得ハ夫其獲得ノ當時再用ニ供スル旨ヲ申述シタルトキニ非サレハ再用ノ効ヲ生セス
第四　所得共通ノ解離
第千八百七十六條　所得共通ハ夫婦ノ一方ノ死去若クハ辭產離婚、又ハ財產分離ニ因テ解離ス
第千八百七十七條　夫婦ノ一方死去スルトキハ生存スル他ノ一方又ハ其代表人ハ三个月內ニ相續人ノ立會ニテ共通ノ財產及ヒ負債ノ目錄ヲ調製ス可シ但シ地方裁判所ハ時宜ニ依リ延期ヲ許スヿヲ得
未成年ナル相續人アルトキハ裁判所ノ指定スル臨時保管人ハ目錄ノ調製ニ立會フ可シ
期限內ニ目錄ヲ調製セス又ハ其調製ヲ終ラサル塲合ニ於テ之ヲ督促セサル臨時保管人ハ未成年者ノ爲メ言渡サルヘキ總テノ損害賠償ニ付生存スル夫若クハ婦ト連帶シテ之ヲ辨償スルノ義務ヲ有ス
目錄ヲ調製セス又ハ其正確ナラサルトキハ當事者ハ共通財產ノ箇數及ヒ價額ヲ證明スル爲メ總テノ證據方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルヿヲ得
第千八百七十八條　夫婦ノ一方死去スルトキ其特有財產ノ目錄ヲ調製スルノ責及ヒ其目錄ノ欠缺ヨリ生スル結果ニ付テハ前條ノ規則ヲ適用ス
第千八百七十九條　辭產離婚又ハ財產分離ニ因テ所得共通ノ解離スル塲合ニ於テ目錄ニ依テ自己ノ便益ヲ得ントスル夫婦ノ一方ハ三个月內ニ其目錄ヲ調製ス可シ
第千八百八十條　夫管理ノ不良若クハ浪費ニ因リ共通財產ヲ危險ニ置クトキハ婦ハ財產ノ分離ヲ請求スルヿヲ得
婦自己ノ爲メ又ハ家事ニ關シ共通財產ヲ過度ニ消費スルトキハ夫ハ財產ノ分離ヲ訟求スルヿヲ得
第千八百六十四條ノ規則ニ從ヒ共通財產ヲ管理スル婦管理ノ不良若クハ浪費ニ因リ其財產ヲ危險ニ置クトキハ夫ノ推測相續人ハ財產ノ分離ヲ訟求スルヿヲ得
第千八百八十一條　財產ノ分離ハ夫婦ノ一方ノ訟求ニ依リ民事訴訟法ニ定ムル規則ニ從ヒ裁判所ニ於テ之ヲ宣告シタルトキニ非サレハ其効ヲ生セス
又民事訴訟法ニ定ムル規則ニ從ヒ裁判公示ヲ爲シタル後ニ非サレハ第三者ニ對シテ財產分離ノ効ヲ生セス
第千八百八十二條　婦若クハ夫ノ債主ハ第千八百八十條ニ揭クル塲合ニ於テ其負債者ノ承諾ヲ要スルヿナク自己ノ爲メニ財產ノ分離ヲ訟求スルヿヲ得
第千八百八十三條　夫婦ノ一方ニ對シ破產ノ裁判アリタルトキハ他ノ一方ノ債主ノ爲メ共通ハ解離シタルモノト看做ス此塲合ニ於テ其債主ハ債權ノ額ニ至ルマテ負債者ノ權利ヲ行フヿヲ得
第千八百八十四條　夫若クハ婦ノ債主ハ自己ノ權利ヲ詐害シタル財產分離ノ裁判若クハ其裁判執行ノ無効ヲ訟求スルヿヲ得
又財產分離ノ訟求ニ對シ抗爭スル爲メ訴訟ニ參加スルヿヲ得
第千八百八十五條　財產ヲ分離シタル婦ハ躬ラ其財產ヲ管理ス
婦其財產ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スノ能力ニ付テハ第百四條ノ規則ヲ適用ス
第千八百八十六條　財產ヲ分離シタル婦ハ自己ノ資產ト夫ノ資產トニ相應シテ家事ノ費用及ヒ共同子ノ敎育費ヲ負擔ス可シ
第千八百八十七條　財產分離ヲ宣告スル裁判ノ効力ハ訟求ノ日ニ溯及スルモノトス
第千八百八十八條　解離シタル共通ハ夫婦ノ承諾ヲ以テ之ヲ回復スルヿヲ得
原共通ノ制ヲ變更シタル回復ハ無効トス
共通ノ回復ハ公證人ヲシテ其證書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス又訴訟法ニ定ムル規則ニ從ヒ共通回復ノ公示ヲ爲シタル後ニ非サレハ第三者ニ對シテ回復ノ効ヲ生セス
第千八百八十九條　共通ノ回復ハ曾テ財產ノ分離アラサリシ如ク其効ヲ婚姻公式ノ日ニ及ホスモノトス但シ財產分離中夫婦ノ爲シタル財產ノ管理及ヒ其移付ノ行爲ニ付テハ此限ニ在ラス
第五　共通財產ノ分派
第千八百九十條　所得共通ノ解離後ハ下ノ數條ニ定ムル規則ニ從ヒ共通財產ヲ分派シ及ヒ共通負債ヲ分擔スヘキモノトス但シ共通ノ抛棄ヲ允許スル裁判ノ宣告アリタルトキハ此限ニ在ラス
第千八百九十一條　夫婦若クハ其相續人ハ先ツ特有財產ニ屬スルモノヲ證明シテ之ヲ取還ス可シ
第千八百九十二條　夫婦若クハ其相續人ハ共通ニ對シテ爲スヘキ賠償ヲ辨濟ス可シ
又共通ヨリ自己ニ對シテ爲スヘキ賠償ヲ先收ス可シ
第千八百九十三條　賠償ノ先収ハ先ツ金錢ニ就キ次ニ他ノ動產ニ就キ之ヲ行ヒ尙ホ不足スル塲合ニ限リ不動產ニ就キ之ヲ行フヿヲ得
第千八百九十四條　然レトモ共通ニ對シ賠償ヲ要求スル夫婦ノ外他ニ其共通ニ對スル債主アルトキハ其債主ハ夫婦カ普通ノ規則ニ從ヒ權利ヲ行フヘキヿヲ請求スルヲ得
第千八百九十五條　共通財產ヲ以テ賠償ニ充ツルニ足ラサルトキハ夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ共通財產ノ不足カ他ノ一方ノ浪費若クハ投機事業、過愆若クハ重キ懈怠ニ原由スルヿヲ證明シテ其特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得
第千八百九十六條　負債ヲ扣除シタル共通財產ノ剰餘ハ夫婦若クハ其相續人間ニ分派シ雙方其半額ヲ受クヘキモノトス
共通ノ解離前若クハ後ニ共通財產中ノ一部若クハ特定ノ物品ヲ私取シ又ハ隱匿シタル夫婦ノ一方ハ其物品ノ分派ヲ受クルノ權ヲ失フ
第千八百九十七條　共通ヨリ夫婦ニ對シテ爲スヘキ賠償及ヒ夫婦ヨリ共通ニ對シテ爲スヘキ賠償ハ共通解離ノ日ヨリ當然利子ヲ生ス
第千八百九十八條　共通ヲ抛棄スル權アル夫若クハ婦ノ相續人數名ノ中抛棄ヲ爲ス者アルトキ其抛棄ヲ爲サヽル者ハ前主ノ配當部分中自己ノ相續スヘキ部分ノミヲ占領ス
前項ノ塲合ニ於テ殘餘ノ部分ハ夫婦ノ中他ノ一方ニ屬ス然レトモ抛棄ヲ爲シタル相續人ハ其前主躬ラ抛棄ヲ爲シタル塲合ニ於テ財產契約ニ從ヒ行ヒ得ヘカリシ權利ニ付自己ノ相續スルヿヲ得ヘカリシ部分ニ應シ其一方ニ對シ之ヲ行フヿヲ得
第千八百九十九條　夫婦ノ一方ノ特有財產ヲ以テ專ヲ他ノ一方ノ負債ニ付テ爲シタル辨濟又ハ其他ノ原由ニ依リ一方カ他ノ一方ニ對スル債主ナルトキハ其一方ハ共通財產ノ分派ニ依テ他ノ一方ノ得タル財產及ヒ其特有財產ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得
第千九百條　夫婦互相ノ間ニ存スル債權ハ遲滯ニ付スルノ手續アリタル日ヨリ利子ヲ生ス
第千九百一條　夫若クハ婦ハ婚姻中躬ラ爲シタル負債ノ全部ヲ其債主ニ對シテ辨濟スルノ義務ヲ有ス
第千九百二條　婚姻中管理者タル夫婦ノ一方カ爲シタル負債ニ付テハ他ノ一方若クハ其相續人ハ債主ニ對シテ其半額ヲ辨濟スルノ義務ヲ有ス但シ其義務ハ共通財產ノ分派ニ依テ得ル財產ノ高ヲ以テ限リト爲スヿヲ允許スル裁判アリタルトキハ格別ナリトス
第千九百三條　夫ノ允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債ニ付テハ夫若クハ其相續人ハ債主ニ對シテ次位ニ其全額ヲ辨濟スルノ義務ヲ有ス
第千九百四條　保證人タルヿヲ謝絕シタル夫ノ允許若クハ裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債及ヒ何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル塲合ニ於テ婦ノ爲ス負債ニ付テハ夫若クハ其相續人ハ債主ニ對シ其半額ヲ辨濟スルノ義務ヲ有ス
第千九百五條　夫婦各自若クハ其相續人ハ共通負債ノ半額ヲ負擔ス但シ管理者ニ非サル夫婦ノ一方ノ爲メニ共通財產ノ分派ニ依テ得ル財產ノ高ヲ以テ其負擔ノ限リト爲スヿヲ允許スル裁判アリタルトキハ格別ナリトス
第千九百六條　夫婦ノ中專ラ一方ノ爲メニ爲ス負債ニ付テハ其一方ハ全額ヲ負擔ス
第千九百七條　夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ下ノ條件完備スル塲合ニ限リ目錄調製後三个月內ニ共通負債ノ負擔及ヒ其辨濟ノ義務ハ共通財產ノ分派ニ依テ得ル財產ノ高ヲ以テ限リト爲スノ允許ヲ地方裁判所ニ請求スルヿヲ得
一　共通ノ財產及ヒ負債ノ目錄ヲ調製シタルヿ
二　共通ノ惡况ハ管理者ノ浪費投機事業過愆若クハ重キ懈怠ニ原由スルヿヲ證明シタルヿ
三　共通ノ解離後其財產ニ付單純ナル管理及ヒ保存ノ行爲外ニ渉ル行爲ヲ爲サヽルヿ
四　共通ノ解離後共通財產ヲ私取若クハ隱匿セサルヿ
第千九百八條　前條ニ記載スル請求ノ許否ニ付利害ノ關係アル者ハ請求者ノ行爲ハ共通ノ惡况ヲ來セシ全部若クハ一部ノ原由ナルヿヲ證明シテ第八百六十一條ニ從ヒ其裁判ノ無効ヲ訟求スルヿヲ得
又利害ノ關係人ハ前條ノ請求ヲ抗爭スル爲メ其審理ニ立會フヿヲ得
第千九百九條　第千九百七條ニ揭クル允許ヲ得タル者ハ共通負債ノ辨濟ニ付目錄ニ記載スル財產ト分派ニ依テ得タル財產トヲ債主ニ對シテ照合計算スルニ非サレハ右ノ允許ヲ利益スルヿヲ得ス
第千九百十條　第千九百七條ニ揭クル允許ヲ得タル者ハ共通負債ノ負擔ニ付テハ其躬ラ爲シタルモノト雖モ其允許ヲ利益スルヿヲ得
第千九百十一條　共通負債ノ半額ヲ超過スル額ヲ辨濟シタル夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ債主ニ對シ其過分ニ辨濟シタル額ノ返還ヲ要求スルヿヲ得ス但シ受取證書ニ其辨濟シタルモノハ其負擔スヘキ額ナルヿノ記載アルトキハ格別ナリトス
第千九百十二條　抵保ノ目的物ノ保持人タルカ爲メ共通負債ノ全額ヲ辨濟シタル夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ他ノ一方若クハ其相續人ニ對シ其半額ノ償還ヲ要求スルヿヲ得
第千九百十三條　前數條ノ規則ハ分派上ノ約束ニ依リ共同分派人中ノ一人カ負債ノ半額ヲ超過スル額又ハ其全額ヲモ辨濟セシヿヲ擔任スルノ妨碍トナルヿ無シ
共同分派人中ノ一人躬ヲ負擔スヘキ額ヲ超過スル負債ノ額ヲ辨濟シタルトキハ他ノ分派人ニ對シ過分ニ辨濟シタル額ノ償還ヲ要求スルヿヲ得
第千九百十四條　所得共通分派ノ法式、効果及ヒ擔保ニ關シテハ尙ホ共同相續人間ニ於ケル分派ニ付本編第一章ニ定ムル總テノ規則ニ從フ
第六　所得共通ノ抛棄
第千九百十五條　所得共通ノ解離後婦若クハ其相續人又婦共通財產ヲ管理シタルトキハ夫若クハ其相續人ハ第千九百七條ニ揭クル條件ノ完備スル塲合ニ限リ目錄調製後三个月內ニ所得共通ノ抛棄ヲ地方裁判所ニ請求スルヿヲ得
利害ノ關係人ハ第千九百八條ニ定ムル證明ヲ爲シテ其請求ヲ允許シタル裁判ノ無効ヲ訟求シ又ハ其請求ヲ抗爭スルカ爲メ審理ニ立會フヿヲ得
第千九百十六條　裁判所ハ止ムヿヲ得サル事情アリト認ムルトキハ前條ニ定ムル抛棄ノ請求期限ノ延期ヲ允許スルヿヲ得
第千九百十七條　抛棄ヲ爲シタル夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ共通財產ニ付總テノ權利ヲ失フ但シ衣服寢具及ヒ通常ノ裝飾品ハ其夫婦ノ一方之ヲ保有ス
第千九百十八條　抛棄ヲ爲シタル夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ其特有財產ヲ取還スルノ權利ヲ保有ス
又所得共通ヨリ自己ニ對シテ爲スヘキ賠償ヲ要求スルノ權利ヲ保有シ及ヒ自己ヨリ所得共通ニ對シテ爲スヘキ賠償ノ義務ヲ負擔ス
本條第二項ニ定ムル權利及ヒ義務ニ付テハ第千八百九十五條及ヒ第千八百九十七條ニ揭クル規則ヲ適用ス
第千九百十九條　抛棄ヲ爲シタル夫婦ノ一方ハ婚姻中躬ヲ爲サ丶ル共通負債ニ付テハ債主ニ對シ之ヲ辨濟スルノ義務ヲ有セス
其躬ラ爲シタル共通負債ニ付テハ債主ニ對シ之ヲ辨濟スルノ義務ヲ有ス但シ其辨濟ヲ爲シタルトキハ他ノ一方ニ對シ賠償ヲ要求スルノ權利ヲ有ス
第千九百二十條　抛棄ヲ爲シタル夫婦ノ一方若クハ其相續人ハ他ノ一方ノ爲シタル共通負債ハ勿論自己若クハ前主ノ爲シタルモノト雖モ之ヲ負擔スルヿ無シ但シ專ラ自己若クハ前主ノ爲メニ爲シタルモノニ付テハ其全額ヲ負擔ス
第二款　法定ノ制ヲ變更スル約束
第千九百二十一條　夫婦タラントスル者ハ第千八百三十七條ニ揭クル規則ニ反セサル總テノ約束ヲ以テ法定ノ制ヲ變更スルヿヲ得
第千九百二十二條　約束上ノ財產共通ハ契約ヲ以テ暗默若クハ明瞭ニ所得共通ニ變更ヲ設ケサル事抦ニ付テハ總テ所得共通ニ關スル規則ニ從フ
第千九百二十三條　法定ノ制ヲ變更スル約束若クハ共通外ノ制ニ係ル夫婦財產上ノ約束ハ婚姻ノ公式ヲ行フタル身分取扱人又外國ニ於テ公式ヲ行フタル塲合ニ於テハ第四百五十九條ニ揭クル身分取扱人之ヲ登錄シタル後ニ非サレハ第三者ニ對シ効ナキモノトス
第千九百二十四條　共通財產分派ノ時夫婦ノ一方ハ他ノ一方ノ受クヘキ配當部分ニ比シ增減アル特定ノ配當部分ヲ受ケ若クハ夫婦中ノ生存者ハ共通財產ニ就キ一部若クハ特定ノ財產ヲ先收スヘキノ約束又ハ所得財產ノ全部ハ特定ノ塲合ニ於テ夫婦ノ一方ニノミ屬シ若クハ夫婦中ノ生存者ノミニ屬シ若クハ婚姻中ニ出生スヘキ子ニ屬スヘキノ約束ニハ其本質上及ヒ其法式上トモ贈與ニ關スル規則ヲ適用セス
婚姻中獲得スル財產ノ種類ヲ定メ其全部ハ夫婦ノ一方ノミニ屬スヘキノ約束ハ無効トス
第千九百二十五條　前條ニ揭クル約束ニ依リ共通財產ノ全部若クハ一部ヲ受クル者アリテ其負擔スヘキ負債ノ額ニ付約束アラサルトキハ其受クル財產ノ額ニ相當スル負債ノ額ヲ負擔ス
第千九百二十六條　夫婦ハ其中一方ノミ共通負債ノ全部ヲ負擔シ若クハ他ノ一方ノ負擔スヘキ負債額ニ比シ增減アル特定ノ負債額ヲ負擔スヘキノ約束ヲ爲スヿヲ得
然レトモ一方ハ共通負債ノ全部ヲ負擔シ他ノ一方ハ共通財產ノ全部ヲ受クヘキノ約束ヲ爲スヿヲ得ス若シ此規則ニ背キタル約束アルトキハ法定ノ制ニ從テ財產契約ヲ爲シタルモノト看做ス
第千九百二十七條　夫婦ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ若クハ將來ニ所有スヘキ財產ノ全部若クハ一部又ハ現ニ所有スル動產若クハ不動產ノ全部若クハ一部又ハ其或種若クハ特定ノモノヲ共通財產ト爲スノ約束ヲ爲スヿヲ得
此約束ハ夫婦雙方若クハ一方ノ財產ニ付之ヲ爲スヿヲ得
第千九百二十八條　財產ノ全部若クハ一部又ハ動產若クハ不動產ノ全部若クハ一部ヲ共通財產ト爲スノ約束アリタルトキハ其財產ノ額ニ相當スル負債ノ額ハ當然共通負債ト爲ルモノトス
右共通負債ト爲リタルモノ丶債主ハ婚姻中夫又ハ夫ノ完全ナル允許ヲ得テ婦ノ爲ス負債ノ債主カ第千八百五十五條及ヒ第千八百五十六條ニ從ヒ行フヿヲ得ルト同一ノ權利ヲ有ス
第千九百二十九條　特定ノ財產ヲ共通財產ト爲スノ約束アリタルトキハ其財產ハ婚姻公式ト同時ニ共通財產ト爲ルモノトス
代補物ナル財產ヲ共通財產ト爲スノ約束アリタルトキハ約務者タル夫婦ノ一方ハ他ノ一方ニ對シ第八百五十二條ニ從ヒ指定ヲ爲スノ義務ヲ負フ
財產ヲ共通ト爲シタル夫婦ノ一方ハ其財產ニ付普通ノ規則ニ從ヒ奪收擔保ノ義務ヲ負フ
第千九百三十條　夫婦ハ共通財產特定ノ額ヲ超過シタルトキハ其超過スル部分ノ全部若クハ一部ヲ以テ各自ノ特有財產ヲ設定スヘキノ約束ヲ爲スヿヲ得
右約束中各自ニ歸スヘキ割合ノ定メアラサルトキハ夫婦ハ同價額ノ特有財產ヲ得ルノ權アリトス
第千九百三十一條　前條ニ依テ爲ス特有財產設定ノ効ヲ生スル爲メニハ左ノ條件完備スルヿヲ要ス
一　公證人ヲシテ夫婦財產契約ノ箇條ニ依ルヿヲ記載スル設定證書ヲ作ラシムルヿ
二　夫婦各自ノ爲メ特有財產ヲ設定スルヿ
第千九百三十二條　不動產ヲ以テ特有財產ヲ設定シタルトキハ第八百六十八條ニ從ヒ之ヲ登記ス可シ
其特有財產ノ設定ハ登記後ニ權利ヲ得タル第三者ニ對スルニ非サレハ之ヲ對抗スルヿヲ得ス
第三節　財產分離
第千九百三十三條　夫婦タラントスル者ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ及ヒ將來ニ所有スヘキ總テノ財產ヲ分離スヘキノ約束ヲ爲スヿヲ得
第千九百三十四條　財產ヲ分離シタル婦ハ自己ノ財產ヲ管理スルノ權ヲ保有ス
又有償ニテ動產ヲ移付シ又ハ之ヲ抵保ト爲スヿヲ得
其他財產ヲ分離シタル婦ノ能力ニ付テハ第百四條ノ規則ニ從フ
第千九百三十五條　夫婦ハ約束ヲ以テ定メタル額ヲ各支出シテ一家ノ費用ヲ負擔ス若シ約束上ノ定ナキトキハ婦ハ其所得三分ノ一ニ至ルマテノ額ヲ支出シテ其費用ヲ負擔ス可シ
第千九百三十六條　婦其負擔スヘキ額ヲ支出スルノ義務ヲ盡サヽルトキハ夫ハ婦ノ財產ヲ以テ家費ヲ分擔セシムヘキ他ノ方法ニ付命令アランヿヲ地方裁判所ニ請求スルヿヲ得
夫其婦ノ支出スル額ヲ家費ニ充テスシテ他ニ使用スルトキハ婦ハ必要ナル命令アランヿヲ地方裁判所ニ請求スルヿヲ得
第千九百三十七條　財產ヲ分離シタル婦ハ隨意ニ其所得ヲ處置スルヿヲ得
婦其夫ニ自己ノ財產ヲ管理スルヿヲ委任シタルトキハ夫ハ婦ニ對シ普通代理者ノ其委任者ニ對スルト同樣ノ義務ヲ負フ
第千九百三十八條　婦特ニ委任ヲ與フルヿ無ク夫ヲシテ自己ノ財產ニ付收益セシメタルトキハ婦ハ一家ノ費用ヲ分擔スル爲メ夫ニ其收益ヲ與ヘタルモノト看做ス
此塲合ニ於テ夫ハ婦ノ請求アルトキ若クハ婚姻解離スルトキニ限リ現存スル果實及ヒ自己ノ名義ヲ以テ利用シタル所得ニ付テノミ計算スルノ義務ヲ有ス
第千九百三十九條　夫其婦ノ故障アルニ拘ラス婦ノ財產ニ付收益シタルトキハ現存スルト消費シタルトヲ問ハス總テノ果實ニ付計算スルノ義務ヲ有ス
第四節　婚資
第千九百四十條　婚資トハ夫若クハ婦タラントスル者又ハ第三者ヨリ婚姻ニ原由スル費用ニ供スヘキモノトシテ指定シ又ハ贈與スル財產ヲ謂フ
婚資ハ如何ナル夫婦財產ノ制ヲ以テ婚姻ヲ爲ストキト雖モ之ヲ設定スルヿヲ得
第千九百四十一條　第三者ハ夫婦若クハ其一方ノ爲メニ婚資ヲ設定スルヿヲ得
若シ設定者ノ意思ヲ知ルヿ能ハサル塲合ニ於テハ夫婦ノ爲メニ設定シタルモノト看做ス
第千九百四十二條　夫若クハ婦ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ及ヒ將來ニ所有スヘキ全部若クハ一部ノ財產又ハ現ニ所有スル財產又ハ將來ニ所有スヘキ財產又ハ或種ノ財產又ハ特定ノ財產ヲ婚資ト設定スルヿヲ得
總テノ財產ヲ婚資ト爲スヘキノ約束ハ將來所有スヘキ財產ヲ包含セサルモノト看做ス
第千九百四十三條　夫婦ハ婚姻中婚資ヲ設定シ又ハ婚姻前ニ設定シタル婚資ノ額ヲ增減スルヿヲ得ス
第千九百四十四條　父母各自ノ負擔スヘキ部分ヲ定ムルヿ無ク其子ノ爲メ婚資ヲ設定シタルトキハ各其半額ヲ負擔スルモノト看做ス
第千九百四十五條　婚資ヲ設定シタル者ハ其目的物ニ付擔保ノ義務ヲ有ス
第千九百四十六條　辨濟期限ノ定メアルトキト雖モ婚資ノ利子ハ婚姻公式ノ日ヨリ當然生スルモノトス但シ此規則ニ異ナル約束アルトキハ格別ナリトス
第千九百四十七條　夫若クハ婦ハ其設定スル婚資ニ付各其所有權ヲ保有ス其婚資ノ所得ニ付テハ第千九百四十八條第二項ニ定ムル規則ヲ適用ス
第千九百四十八條　第三者ノ設定スル婚資ハ夫婦ノ爲メナルト其一方ノ爲メナルトニ從ヒ夫婦ノ共通財產ト爲リ又ハ其一方ノ特有財產ト爲ルモノトス
何レノ塲合ト雖モ婚資ノ管理者ハ其所得ヲ以テ婚姻ニ原由スル費用ヲ支辨スルヿヲ得其費用ヲ支辨シテ剩餘ニ屬スルモノハ夫婦ノ共通財產トス
第三者ノ設定スル婚資カ用收權若クハ年金權ニ止マルトキ其果實若クハ賦金ニ付テハ前項所得ニ關スル規則ヲ適用ス
前項ニ揭クル用收權及ヒ年金權ハ婚姻ノ解離ト同時ニ消滅ス但シ別段ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
第千九百四十九條　夫婦若クハ其一方ノ爲メ婚資ヲ設定スル第三者ハ其所得ノ一部ハ夫婦各自若クハ其一方ノ隨意ニ之ヲ使用スルヲ得ヘキヿヲ以テ其約件ト爲スヿヲ得
婚資ヲ設定スル夫若クハ婦ハ自己ノ爲メニ前項ニ揭クル隨意ノ使用ヲ保有スルヿヲ以テ其約件ト爲スヿヲ得
前二項ノ塲合ニ於テ其使用ヲ爲シ得ヘキ部分ニシテ之ヲ爲サヽリシモノハ當然其權利者ノ特有財產ト爲ルモノトス
第千九百五十條　婚資ノ管理ニ付テハ第千八百六十二條及ヒ第千八百六十四條ニ定ムル規則ヲ適用ス
第千九百五十一條　管理者ハ婚資ノ收受ヲ爲スニ付保證人ヲ立ルニ及ハス但シ別段ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
第千九百五十二條　婚資ハ婚姻中之ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スヿヲ得ルノ約件アリタルトキニ限リ所有者ハ之ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スヿヲ得
第千九百五十三條　前條ニ揭クル塲合ヲ除クノ外婚資ハ其動產タルト不動產タルトヲ問ハス夫婦ノ承諾及ヒ地方裁判所ノ允許ヲ以テスルニ非サレハ婚姻中之ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スヿヲ得ス
裁判所ハ明確ナル必要若クハ便益アリト認ムル塲合ニ非サレハ允許ヲ與フ可カラス
第千九百五十四條　裁判所ノ允許ヲ得テ婚資タル物品又ハ金額ヲ以テ交換シ若クハ賣買シタルニ因テ得タル物品若クハ金額ハ代位ノ婚資トス但シ其金額ハ裁判所ノ指示スル所ニ從テ之ヲ利用ス可シ
金額ニテ設定ヲ約シタル婚資ノ辨濟ノ爲メ引渡ス動產若クハ不動產ハ當然代位ノ婚資トス
第千九百五十五條　婚資ヲ移付シ又ハ抵保トスルヿハ財產契約ノ之ヲ許スカ又ハ裁判所ノ允許アルニ非サレハ夫婦協同ノ承諾アルトキト雖モ無効トス
婚資ノ所有者及ヒ其相續人ハ婚姻ノ解離後ト雖モ其無効ヲ請求シ又所有者ノ配偶者ハ婚姻中之ヲ請求スルヿヲ得
然レトモ承諾ヲ爲シタル夫若クハ婦ハ婚資ヲ移付シ若クハ抵保ト爲スノ契約中其目的物カ婚資ナルヿヲ述ヘサルトキハ契約者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第千九百五十六條　婚資ノ管理者ハ用收者ノ如ク所得ノ負擔タル修繕其他ノ義務ヲ負フ
管理者ハ自己ノ過愆若クハ懈怠ニ因リ婚資ニ生シタル破損ニ付及ヒ時効ニ因リ第三者ノ爲ス婚資ノ獲得ニ付テハ其責ニ任ス
第千九百五十七條　婚資ヲ成ス財產ニ付テハ夫婦設定者及ヒ公證人ノ署名捺印シタル目錄ニ其詳細ヲ點記シ且ツ其婚資ノ設定アリタル旨ヲ第千九百二十三條ニ從ヒ財產契約ト共ニ登錄ス可シ
右登錄ヲ爲シタル後ニ非サレハ第三者ニ對シテ婚資設定ノ効ヲ生セス
第千九百五十八條　婚資ハ其設定登錄ノ後ハ婚姻中何等ノ義務ヲモ負フヿ無シ但シ第千九百五十二條及ヒ第千九百五十三條ノ塲合ハ格別ナリトス
第千九百五十九條　婚資ノ所有者ハ其管理者ニ對シテ有スル婚資返還ノ債權ヲ他人ニ讓渡シ又ハ其管理者ノ財產ニ付有スル法定ノ抵當權ヲ抛棄スルヿヲ得ス
第千九百六十條　婚姻公式前ニ於ケル債主ハ其債權ニ付確定日附アル塲合ニ限リ其負債者タル夫若クハ婦ノ婚資ニ設定シタル財產ノ虛有權ノミヲ差押フルヿヲ得
第千九百六十一條　婚姻中婚資ノ所有者ノ爲ス負債ニ付テハ債主ハ其配偶者ノ死去ニ因テ婚姻ノ解離シタル後ト雖モ婚資ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ス
右債主ハ共通財產及ヒ負債者ニ屬スル婚資外ノ特有財產ニ就テノミ權利ヲ行フヿヲ得
第千九百六十二條　前條ニ揭クル負債ニ付テハ債主ハ婚姻中ニ生シタル婚資ノ果實ニ就キ權利ヲ行フヿヲ得ス其解離後ニ生シタル果實ニ就テノミ之ヲ行フヿヲ得
第千九百六十三條　夫若クハ婦婚資ヲ危險ニ付スルトキ又ハ管理者タルノ義務ヲ盡サ丶ルトキハ其配偶者ハ婚資ノ所有者ト否トニ拘ラス躬ラ之ヲ管理シ若クハ他人ヲシテ之ヲ管理セシムルヿヲ地方裁判所ニ請求スルヿヲ得
夫婦共同シテ婚資ヲ危險ニ付スルトキハ其設定者又ハ夫婦ノ血族若クハ姻族ハ三親等ニ至ルマテ相當ノ處分ヲ裁判所ニ請求スルヿヲ得
第千九百六十四條　第千八百八十條ニ定ムル塲合ニ於テ財產分離ノ裁判宣告アリタルトキハ其宣告ヲ得タル直者ハ婚資ノ所有者ト否トニ拘ラス其婚資ヲ管理ス
第千九百六十五條　婚姻ノ解離ニ因リ婚資ノ返還ヲ請求スル者ハ管理者之ヲ收受シタルヿヲ證明ス可シ
然レトモ婚資ノ辨濟又ハ引渡ノ期限後滿十个年間婚姻繼續シタルトキハ婚資ノ所有者ハ管理者之ヲ收受シタルヿヲ證明セスシテ其返還ヲ請求スルヿヲ得但シ管理者婚資ノ辨濟又ハ引渡ヲ得ル爲メ行ヒタル手續ノ實効ナカリシヿヲ證明シタルトキハ此限ニ在ラス
第千九百六十六條　所有者躬ラ設定シタル婚資ニ付テハ通常ノ規則ニ從フニ非サレハ前條第一項ノ證明ヲ爲スヿヲ得ス然レトモ第三者ノ設定シタル婚資ニ付テハ其所有者ハ證人又ハ推測ニ依リ之ヲ爲スヿヲ得
第千九百六十七條　管理者原物ヲ以テ返還スヘキ婚資ニ付テハ婚姻ノ解離後直チニ之ヲ返還スヘク又對價物ヲ以テ返還スヘキ婚資ニ付テハ其解離後滿一个年內ニ之ヲ返還スルノ義務ヲ有ス
第千九百六十八條　婚資ハ婚姻ノ解離シタル日ヨリ當然所有者ノ爲メニ果實及ヒ利子ヲ生ス
第三編
第二部　包括名義ニテ獲得スル方法
前置条例
第千五百一条　包括財産ハ相続贈与遺嘱会社ノ止息及ヒ夫婦財産契約ニ由リ獲得ス
包括財産ノ獲得者ハ第千百一条ニ規定シタル如ク其前主ノ権利ト共ニ義務ヲ承継ス
第千五百二条　相続贈与遺嘱夫婦財産契約及ヒ会社ハ本編第二部ノ目的ニシテ下ノ各章ニ規定ス
第一章　相続
第一節　総則
第一款　相続ノ開始
第千五百三条　相続ハ各人ノ死去又ハ随意ノ辞産（隠居）ニ依リ開始ス
第千五百四条　相続ノ開始ハ法律、遺嘱又ハ辞産ニ依リ相続ス可キ人ニ当然被相続人ノ働方及ヒ受方ヲ移転ス但シ辞産ノ効力ニ付第四節ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百五条　数人互相ニ相続ス可キ者同一ノ事変ニ於テ死去シ且ツ其事変ノ実況ニ従ヒ死去ノ先後ヲ認知スルコト能ハサルトキハ死者ノ相続ハ各自ノ相続人ニ開始ス
第千五百六条　前条ノ規則ハ互相ニ遺嘱相続人タル者同一ノ事変ニ於テ死去シタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
第二款　相続スルニ必要ノ資格
第千五百七条　相続開始ノ時生存セサル者ハ相続人タルコトヲ得ス但シ辞産相続ノ開始後ニ出生シタル子ノ権利ニ付第四節ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
又相続人其相続ヲ保有スル為メニハ相当者タルコトヲ要ス
第千五百八条　相続開始ノ時未タ胎内ニ在ラサル者若クハ活テ生レサリシ者ハ不生存者トス
第千五百九条　相続ヲ保有スルニ不相当トシテ其相続ヨリ除斥ス可キ者左ノ如シ
一　故意ヲ以テ被相続人ヲ殺害シ又ハ殺害セントシタル為メ刑ニ処セラレタル者但シ年齢外ノ原由ニ基キ法律上宥恕減軽ス可キ者ハ此例ニ在ラス
二　被相続人ヲ死刑ニ該ル犯罪人ナリト誣告シテ其誣告犯ノ刑ニ処セラレタル者
三　被相続人ノ殺害セラレタルコトヲ知リテ之ヲ告訴若クハ告発セサリシ成年者但シ其殺害人刑法第百十四条ニ列記シタル親属ナルコトヲ知リ居タルトキハ此例ニ在ラス
第千五百十条　不相当ト裁判セラレタル者ハ曽テ相続人タラサル者ノ如ク其相続開始ノ時ヨリ占有シタル元本並ニ収益シ若クハ収益スルコトヲ怠リタル果実ヲ返還ス可シ
第千五百十一条　不相当ニ基ク相続除斥ノ訴権ハ左ノ条件ノ一ニ由リ消滅ス
一　被相続人ノ明瞭ナル容赦
二　五ヶ年ノ時効
此時間ハ第千五百九条第一及ヒ第二ノ場合ニ於テハ処刑裁判確定ノ時又同条第三ノ場合ニ於テハ被相続人ノ殺害セラレタル事実ニ関スル裁判確定ノ時ヨリ起算ス
第三款　相続ノ順位
第千五百十二条　相続ヲ別テ三種トス
一　法律上ノ相続
二　遺嘱相続
三　辞産相続
第千五百十三条　法律ハ法律上ノ相続ニ付其権利及ヒ順位ヲ規定ス
遺嘱相続及ヒ辞産相続ハ法律ノ制限内ニ於テ被相続人ノ随意ニ之ヲ規定スルコトヲ得
第千五百十四条　何人ニ限ラス民法上血族ノ身分ヲ有スル者ニ非サレハ法律上ノ相続権ヲ有セス但シ戸主若クハ親族会ノ設定シタル家督相続人並ニ配偶者ノ相続及ヒ国ノ権利ニ付後ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百十五条　法律上相続ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ
第一　卑属親
第二　特別傍系親即チ兄弟姉妹又ハ其卑属親
第三　尊属親
第四　普通傍系親即チ兄弟姉妹及ヒ其卑属親外ノ傍系親
第千五百十六条　前条ノ順位中先位ニ在ル相続人ハ後位ニ在ル相続人ヲ退除ス但シ兄弟姉妹ト父母ト共立シ並ニ父系及ヒ母系ノ親属ニ相続ヲ二分スル場合ハ此例ニ在ラス
第千五百十七条　同位若クハ同系ニ在ル相続人間ニ於テハ親等ノ最モ近キ者其遠キ者ヲ退除ス
同等ノ相続人間ニ於テハ相続ノ働方及ヒ受方ヲ平分ス但シ家督相続ニ付後ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス
第千五百十八条　尊属親又ハ傍系親ノ相続スル場合ニ於テハ其相続ヲ二分シテ父系ノ血族其一分又母系ノ血族他ノ一分ヲ相続ス
両系ノ一方ニ相続ス可キ血族アラサルトキハ他ノ一方ニ相続ノ全部ヲ移転ス
第千五百十九条　前条ノ場合ニ於テ両系ニ属スル相続人ハ其各系ノ相続部分ニ参加シ又片系ニ属スル相続人ハ単ニ其系ノ相続部分ニ参加ス
第四款　代承相続
第千五百二十条　代承相続ハ躬ラ相続権ヲ有スル者ヲシテ被相続人ヨリ先ニ死去シタル者ノ親等ニ昇ラシメ之ニ其先死者尚ホ生存スルニ於テハ相続ス可キ部分ヲ承ケシムル法律ノ規定ナリ
第千五百二十一条　代承相続ハ被相続人ノ卑属親又ハ兄弟姉妹ノ中先ニ死去シ尚ホ生存スルニ於テハ其被相続人ニ相続ス可キ者ノ卑属親ノ為メニ非サレハ之ヲ許サス
第千五百二十二条　先死者ノ代承相続人数名アルトキハ其被代承者尚ホ生存スルニ於テハ相続ス可キ部分ヲ其間ニ平分ス但シ被代承者家督相続人タリシトキハ此例ニ在ラス
第千五百二十三条　代承相続ハ代承ニ依ラスシテ躬ラ相続ス可キ順位ニ在ル者ノ為メ之ヲ適用セス但シ代承家督相続ニ付特別ニ規定スルモノハ此限ニ在ラス
第千五百二十四条　先死者ノ相続ヲ抛棄シタル者ト雖トモ其代承相続人ト為ルコトヲ妨ケス
何レノ場合ニ於テモ生存者ノ代承相続人トナルコトヲ得ス
第二節　法律上ノ相続
第千五百二十五条　法律上ノ相続ヲ家督相続及ヒ普通相続ノ二種ニ区別ス
第千五百二十六条　家督相続ハ法律ノ規定ニ従ヒ戸主タル被相続人ノ家名其他ノ特権ヲ承継スル相続ナリ
第千五百二十七条　普通相続ハ戸主ニアラサル被相続人ノ財産ヲ承継スル相続ナリ
相続財産中家督相続ニ帰ス可キ部分ヲ除キ其他ノ部分ヲ家督外ノ相続人間ニ平分スルモノモ亦普通相続トス
第一款　家督相続
第一　家督相続ニ属ス可キ物
第千五百二十八条　家督相続人ハ之ト並立ス可キ順位ニ在ル卑属親タル普通相続人アラサルトキハ相続ノ全部ニ権利ヲ有ス
第千五百二十九条　前条ニ記載シタル普通相続人アルトキハ家督相続人ハ其家所属ノ特権及ビ法律ノ規定シ若クハ戸主タル被相続人法律ノ制限内ニ於テ規定シタル財産ニ権利ヲ有ス
第千五百三十条　系譜、爵、族称、世襲財産、祭先具、墳墓地、屋号、商標、本宅其宅地、其他相伝ノ重器ハ其家所属ノ特権ヲ組成ス
第千五百三十一条　戸主ハ其家所属ノ特権ノ外財産ノ幾分ヲ家督相続ノ所属トスルコトヲ得但シ法律ノ規定部分ヲ超過スルトキハ其超過額ハ処置シ得可キ部分ノ限度ニマテ効力ヲ有ス
第千五百三十二条　戸主家督相続ノ所属部分ヲ規定セサルトキハ法律上之ヲ規定スルコト左ノ如シ
普通相続人一名アルトキハ三分ノ二又二名アルトキハ二分ノ一又三名以上アルトキハ三分ノ一トス
第千五百三十三条　戸主ノ規定シタル家督相続ノ所属部分法律上ノ部分ニ及ハサルトキト雖モ之ヲ法律上ノ部分ニ補充スルコトヲ得ス
然レトモ其家督相続人普通相続ノ順位ニ在ル者ナルトキハ其普通相続部分ニマテ之ヲ補充スルコトヲ得
第千五百三十四条　家督相続ニ其家所属ノ特権中収益ノ生スヘキ世襲財産ヲ包含スル場合ニ於テハ家督相続人其特権外ニ法律ノ規定ニ基ク財産ノ部分ニ権利ヲ有セス但シ其世襲財産ノ額法律上ノ部分ニ不足スルトキハ其補充額ニ権利ヲ有ス
第二　家督相続人
第千五百三十五条　家督相続人ハ一家一人ニ限ル可シ
何人ニ限ラス二家以上ノ家督相続人タルコトヲ得ス
第千五百三十六条　男子ニシテ他家ノ養子又ハ入夫トナリ女子ニシテ他家ニ嫁シ又ハ他家ノ養女トナリタル者ハ実家又ハ外家ノ家督相続人トナルコトヲ得ス
第千五百三十七条　一人ニシテ数家ノ家督相続人ニ指定セラレタル者ハ其中一ヲ撰択スルコトヲ得
一家ノ家督相続ノ受諾ハ明瞭ナルト暗黙ナルトヲ問ハス其撰択ヲ組成ス
第千五百三十八条　一家ノ家督相続ノ受諾ハ他家ノ家督相続ノ指定ヲ消滅ス
第千五百三十九条　家督相続ハ他ノ普通相続ノ障害トナラス
第千五百四十条　家督相続シタル者ハ戸主トナリテ其家ヲ整理ス
第三　家督相続人ノ順位及ヒ其指定
第千五百四十一条　家督相続人ハ或ハ法律ヲ以テ之ヲ規定シ或ハ被相続人ノ意思ヲ以テ之ヲ指定シ或ハ親族会ノ決議ヲ以テ之ヲ指定ス
第千五百四十二条　法律ニ於テ家督相続人ト為ルヘキ者ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ
第一　被相続人自家ノ卑属親中親等ノ最モ近キ者
第二　同等ノ卑属親中男子ト女子トアルトキハ男子
第三　男子数人アルトキハ其中先キニ生レタル者
第四　女子ノミ数人アルトキハ其中先キニ生レタル者
第五　同等ノ卑属親中正出子ト庶出子トアルトキハ男女ノ性差出生ノ先後ニ拘ラス正出子
正出子ト養子トノ相続順位ニ関スル先後ハ第二百三十四条ニ従ヒ之ヲ定ム
第千五百四十三条　被相続人ハ正当ノ原由アルニ非サレハ法律ニ定ムル家督相続ノ順位ヲ変更スルコトヲ得ス
其変更ハ前条ノ順位ニ従フニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第千五百四十四条　法律ニ於テ家督相続人ヲ変更スル正当ノ原由ト為スコトヲ得ヘキ者ハ左ノ如シ
一　失踪
二　白痴瘋癲廃疾
三　祖父母父母ニ対スル罪ニ付処刑宣告
四　重罪ノ処刑宣告窃盗詐欺取財家資分散及ヒ私印私書偽造ノ罪ニ付重禁錮一年以上ノ処刑宣告
第千五百四十五条　被相続人ニシテ自己ノ財産ヲ無償名義ニ因リ処置スルノ能力ヲ有スル成年者ハ随意ニ其家督相続人ヲ指定スルコトヲ得
其指定ハ被相続人死去ノ日ニ法律上ノ家督相続人アルトキハ無効トス
第千五百四十六条　家督相続人ノ変更若クハ指定ハ遺嘱ノ証書ヲ以テ之ヲ為スモノトス但シ辞産ノ場合ハ此例ニ在ラス
第千五百四十七条　若シ法律上ノ家督相続人アラス若クハ被相続人之ヲ指定セス若クハ家督相続人抛棄シタルトキハ親族会ニ於テ家督相続人ヲ指定スルコトヲ得
第千五百四十八条　親族会ハ左ノ順序ニ従ヒ家督相続人ヲ撰定ス可シ
第一　兄弟
第二　兄弟アラス若クハ抛棄シタルトキハ姉妹
第三　兄弟姉妹アラス若クハ抛棄シタルトキハ其卑属親中親等ノ最モ近キ男子
第四　男子アラス若クハ抛棄シタルトキハ親等ノ最モ近キ女子
第五　兄弟姉妹ノ卑属親アラス若クハ抛棄シタルトキハ其自家ノ尊属親ニシテ親等ノ最モ近キ者
第六　同等ノ自家尊属親中男女アルトキハ男子
右第五第六ノ場合ニ於テハ其年齢精神体力家政ヲ執ルニ堪ユル者タルコトヲ要ス
第千五百四十九条　前条ニ記載シタル親族アラス若クハ抛棄シタル場合ニ非サレハ生存配偶者其他ノ人ヲ撰定スルコトヲ得ス但シ此場合ニ於テハ被相続人ヨリ成ル可ク年少者ニシテ最モ親密ナル交際ヲ有セシ者ヲ撰定ス可シ
第千五百五十条　親族会ニ於テ撰定シタル家督相続人成年ナルトキハ其承諾ヲ得又未成年ナルトキハ其父母又ハ後見人ノ承諾ヲ得タル上其撰定ニ付地方裁判所ノ認可ヲ請フ可シ
裁判所ハ事情ニ依リ再撰ヲ命スルコトアル可シ
第千五百五十一条　前条ノ認可ヲ経スシテ家督相続人タルノ所為アル者ハ悪意ノ占有者ノ責ニ任ス
若シ其者未成年ナルトキハ後見人其責ニ任ス
第千五百五十二条　被相続人ハ家督相続ヲ断絶スルコトヲ得ス
然レトモ第千五百三十二条ニ従ヒ家督相続ノ所属トシテ法律上付与ス可キ財産ヲ家督相続人ニ拒絶スルコトヲ得
第千五百五十三条　前条拒絶ノ明瞭ナル場合ノ外尚ホ遺嘱若クハ生存者間ノ行為ヲ以テ財産ノ全部ヲ普通相続人又ハ其他ノ人ニ有効ニ分与シタルトキモ亦其拒絶アリタルモノト看做ス
此場合ニ於ケル家督相続人ハ普通相続権ヲ保有ス
第四　代承家督相続
第千五百五十四条　被代承者家督相続人タルヘキ者ナリシトキハ其代承者ノ中ニテ被代承者尚ホ生存シテ家督相続ヲ為セシニ於テハ法律上其家督相続人トナル可キ者之ヲ代承ス
第千五百五十五条　代承家督相続人ハ第千五百三十条ニ規定シタル其家所属ノ特権ヲ専有ス然レトモ家督相続ニ所属ノ財産ハ第千五百三十二条ニ従ヒ代承家督相続人ト普通代承者トノ間ニ之ヲ分派ス
第二款　普通相続
第千五百五十六条　普通相続ハ家督相続人タラサル卑属親ノ利益ニ於ケル場合ヲ除クノ外家督相続ト対立セス
卑属親外ノ者ノ利益ニ於ケル普通相続ハ家督相続ノ行ハレサルトキニ非サレハ存セサルモノトス
第一　卑属親ノ相続権
第千五百五十七条　卑属親ハ正出子養子庶出子ノ区別、出生ノ先後男女ノ性差ヲ問ハス他家ノ養子トナリタル者ヲ除クノ外第千五百十五条以下ノ順位ニ従ヒ其尊属親ニ相続ス但シ被相続人戸主タリシトキハ第千五百二十七条ノ規定ニ従ヒ其家督相続ニ帰ス可キ部分ヲ当然扣除ス
第千五百五十八条　前条ノ相続人皆自己ノ権利ヲ以テ相続シタルトキハ第千五百二十七条ノ規定ニ従ヒ其間ニ相続ヲ平分ス
第千五百五十九条　其相続人ノ中代承者ト自権ノ相続人トアルトキハ其人員ノ数ニ因ラス被代承者ト自権ノ相続人トノ員数ニ因リ其相続ヲ平分ス
第千五百六十条　被代承者ニ帰ス可キ部分ハ第千五百二十二条ノ規定ニ従ヒ更ニ之ヲ其代承者間ニ平分ス
第二　特別傍系親即チ兄弟姉妹又ハ其卑属親ノ相続権
第千五百六十一条　第千五百十六条ノ規定ニ従ヒ兄弟姉妹又ハ其卑属親相続スル場合ニ於テ被相続人ノ父母共ニ生存セサルトキハ兄弟姉妹又ハ其卑属親ハ相続ノ全部ニ権利ヲ有ス
第千五百六十二条　父母ノ生存ハ兄弟姉妹又ハ其卑属親ヲ退除セス之ト対立シテ父母ノ各自ハ相続全部ノ四分ノ一ヲ相続ス
第千五百六十三条　兄弟姉妹又ハ其卑属親ニ帰ス可キ相続ノ部分ハ其間ニ之ヲ平分ス但シ其卑属親代承相続ヲ効用ス可キトキハ此例ニ在ラス
第千五百六十四条　兄弟姉妹中被相続人ト父又ハ母ヲ異ニスル者アルトキハ第千五百十八条及ヒ第千五百十九条ノ規定ニ従ヒ其相続ヲ父系及ヒ母系ニ二分シテ父母ヲ同フスル者ハ其両系ノ相続部分ニ参加シ父若クハ母ヲ異ニスル者ハ其血縁ニ係ル系ノ相続部分ニ参加ス
其卑属親相続スルトキ亦同シ
第三　尊属親ノ相続権
第千五百六十五条　第千五百十六条第千五百十七条及ヒ第千五百十八条ノ規定ニ従ヒ尊属親ノ相続ス可キ場合ニ於テハ其相続ヲ平等ニ二分シテ父系ノ尊属親中親等ノ最モ近キ者其一分又母系ノ尊属親中親等ノ最モ近キ者他ノ一分ヲ相続ス
第千五百六十六条　両系ノ中一系ニ尊属親アラサルトキハ其系ニ所属ノ部分ハ其系ノ普通傍系親ニ属ス
一系ニ相続ス可キ普通傍系親モアラサルトキハ第千五百十八条第二項ノ規定ニ従ヒ他ノ一系ノ尊属親之ヲ併有ス
第四　普通傍系親即チ特別傍系親外ノ傍系親ノ相続権
第千五百六十七条　普通傍系親即チ特別傍系親外ノ傍系親ハ七親等内ノ者ニ非サレハ法律上ノ相続権ヲ有セス
第千五百六十八条　第千五百十六条第千五百十七条及ヒ第千五百十八条ノ規定ニ従ヒ普通傍系親ノ相続ス可キ場合ニ於テハ相続ヲ父系及ヒ母系ニ二分シテ各其系ニ所属ノ部分ヲ相続ス
第千五百六十九条　一系ニ所属ノ部分ハ其系ニ相続ス可キ親族ナキトキニ非サレハ他ノ一系之ヲ併有スルコトヲ得ス
第千五百七十条　同系ノ普通傍系親中親等ノ最モ近キ者ハ其遠キ者ヲ退除ス
同等ノ傍系親数人アルトキハ其間ニ相続ヲ平分ス
第五　生存配偶者ノ相続権
第千五百七十一条　生存配偶者ハ適法ニ相続ス可キ者アラス若クハ皆抛棄シタルトキニ非サレハ全部ヲ相続スルコトヲ得ス
然レトモ家督相続人タルト普通相続人タルトヲ問ハス被相続人トノ共同ニ出タル卑属親ノ相続シタル場合ヲ除クノ外総テノ相続人ニ対シ其再婚ニ至ルマテ相続全部ノ四分ノ一ニ付用収権ヲ有ス
第千五百七十二条　此用収権ハ相続ノ不相当者タル生存配偶者ニ之ヲ附与セス
第六　国ノ権利
第千五百七十三条　相続人アラス又ハ皆抛棄シタル相続ハ法律上当然国庫ニ属ス
国庫ハ常ニ限定受諾ノ利益ヲ以テ相続ス
第千五百七十四条　国庫其相続ヲ占有ス可キ方法其他之ニ附随ノ手続ハ行政法ヲ以テ之ヲ定ム
第千五百七十五条　其相続ハ国庫ノ占有スルニ至ルマテ相続人ノ虧欠シタル相続ト等シク之ヲ管理ス
第三節　遺嘱相続
第千五百七十六条　遺嘱相続ハ死者最終ノ意思ヲ以テ自己ノ家督相続人又ハ普通相続人ニ法律上付与スル相続ノ部分ヲ変更シテ其分量ヲ規定シタル相続ナリ
第千五百七十七条　家督相続人ヲ要スル場合ニ於テ之ヲ置カサルノ遺嘱ハ其家所属ノ特権外ニ於ケル総テノ財産ヲ相続人間ニ平分ス可キコトヲ規定シタルモノト看做ス
第千五百七十八条　相続人中一名又ハ数名ノ利益ニ於ケル遺嘱相続ノ分量処置シ得ヘキ部分額ヲ超過スルトキハ其超過額ハ処置シ得ヘキ財産ノ限度ニマテ有効トス
第千五百七十九条　貯存財産ノ利益ヲ有ス可キ相続人ノ法律上受ク可キ部分ハ遺嘱相続ニ依リ之ヲ廃棄シ若クハ減少スルコトヲ得ス
然レトモ家督相続人ノ法律上受ク可キ部分ニ付テハ第千五百五十三条ノ制限内ニ於テ之ヲ減少スルコトヲ得
第千五百八十条　遺嘱相続ノ法式及ヒ有効ニ関スル条件ハ総テ遺嘱ノ規則ニ従フ
第四節　辞産相続
第千五百八十一条　辞産相続ハ法律ノ規定シタル条件ニ従ヒ地方裁判所ノ認可ヲ得テ推測相続人ノ利益ニ被相続人ノ意思ニ由リ其生存中開始スル相続ナリ
第千五百八十二条　辞産者其辞産ニ因リ各相続人ノ受クヘキ相続ノ部分ヲ別ニ規定セサルトキハ総テ法律ノ規定部分ニ従フ
又其辞産ニ因リ別ニ相続ノ部分ヲ規定スルトキハ遺嘱相続ノ適法限度ニマテ効力ヲ有ス
第千五百八十三条　辞産相続人ハ各其得タル利益ノ分量ニ応シテ辞産者ニ其生計ノ為メ相当ノ用収権又ハ畢生年金権ヲ供給ス可シ但シ辞産者自ラ其相続ニ付相当ノ用収権又ハ畢生年金権ヲ自己ノ為メ貯存シタルトキハ此例ニ在ラス
第千五百八十四条　辞産相続ハ左ニ掲載シタル条件ノ完備シタルトキニ非サレハ之ヲ認可セス
一　辞産者ノ年齢満六十年以上ナルコト
二　辞産ハ其随意ニ出タルコト
三　家督相続人ノ受諾但シ其相続人ハ成年者ニシテ実際家政ヲ執ルノ能力アル者タルコトヲ要ス
四　辞産者其配偶者ト財産ヲ共通スルトキハ其配偶者ノ承諾但シ其承諾ハ公正証書ヲ以テ表ス可シ
五　辞産者入夫ノ婦タルトキハ其夫ノ承諾
六　三十日間適法ノ場所ニ辞産ノ公告ヲ為シタルコト
七　其公告最初ノ日ヨリ起算シテ六十日ヲ経テ第三者ノ故障アラサリシコト
八　制規ノ期間ニ故障アリタルトキハ其故障不当ノ裁判確定シタルコト
第千五百八十五条　辞産者廃疾又ハ其他ノ原由ニ因リ家政ヲ執ルコトヲ得サルノ事実アルトキハ自己ノ申立ニ由リ年齢ノ条件ヲ宥恕スルコトアル可シ
未成年、白痴、瘋癲ハ宥恕ノ原由ニ非ス
第千五百八十六条　辞産相続ノ認可ハ辞産者住所ノ地方裁判所ニ請求ス可シ
其請求書ニ第千五百八十四条ノ第一乃至第五ノ条件ニ適合シタル旨若クハ年齢ノ宥恕ヲ請フトキハ其理由ヲ記載ス可シ
第千五百八十七条　其請求ヲ受ケタル裁判所ハ十五日内ニ事実ヲ審按シ適法ノ条件虧欠シタルトキニ非サレハ之ヲ却下スルコトヲ得ス
若シ又至当ト認メタルトキハ辞産者ノ費用ヲ以テ公告ヲ為ス可キコトヲ命ス可シ
第千五百八十八条　公告書ニ左ノ件々ヲ記載シテ住所及ヒ居所ノ地方裁判所市役所又ハ町村役場ノ門前ニ三十日間之ヲ掲示ス可シ
一　辞産者ノ氏名職業住所及ヒ居所
二　辞産者満六十年以上ナルコト若クハ其宥恕ヲ請フ原由
三　辞産ハ辞産者ノ随意ニ出タルコト
四　相続人ノ親等氏名年齢職業住所及ヒ其受諾並ニ受諾ノ性質
五　配偶者ノ承諾ヲ要スルトキハ其承諾
第千五百八十九条　辞産者ノ債権者配偶者血族姻族若クハ検事ハ左ノ原由ノ一ニ因リ公告ノ日ヨリ六十日内ニ故障ヲ述フルコトヲ得
一　第千五百八十四条ニ掲載シタル第一乃至第五ノ条件ニ違背ノ事実
二　辞産相続ノ得益者ハ推測相続人タラサル事実
三　辞産ハ財産ヲ隠匿シ若クハ債権者ヲ詐害スルノ意思ニ出タル事実
又辞産ハ辞産者ノ随意ニ出サル場合ニ於テハ辞産者躬ラ故障ヲ述フルコトヲ得
第千五百九十条　裁判所ハ公告ノ日ヨリ六十日ヲ過キタルニ非サレハ辞産ノ認可ヲ為スコトヲ得ス
又制規ノ期間ニ故障アリタルトキハ其故障却下ノ裁判確定ニ至ラサル間ハ辞産ノ認可ヲ為スコトヲ得ス
第千五百九十一条　辞産相続ノ認可アリタルトキハ第四百九十条ノ手続ヲ為ス可シ
第千五百九十二条　辞産相続ハ其認可ノ日ヨリ対人ト物上トヲ問ハス権利行為ニ付辞産者ノ従前関係人ニ対シテハ死去ニ因ル相続ト同一ノ効力ヲ有ス
然レトモ辞産者ノ生命ヲ限度トスル権利及ヒ義務ヲ消滅スルモノニアラス
又以後ノ関係人ニ対シテハ第四百九十条ノ手続ヲ為シタル後ニ非サレハ之ヲ対抗スルコトヲ得ス
第千五百九十三条　第四百九十条ノ手続ヲ為スコトヲ遅滞シタルヨリ第三者ニ損害ヲ及ホスコトアルトキハ相続人ハ辞産者ト連帯シテ其責ニ任ス可シ
第千五百九十四条　辞産相続ハ相続人ノ為メ確定ノモノトス但シ下ニ定メタルモノハ此例ニ在ラス
第千五百九十五条　辞産相続人其辞産者ノ死去ニ至ルマテ自己若クハ被代承ノ相続権ヲ有スルトキニ非サレハ其相続ヲ保有スルコトヲ得ス
第千五百九十六条　辞産相続ハ将来辞産者ヨリ出生スル子ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス
然レトモ相続人ノ負担ニテ其子ヲ養育シ辞産者ノ死去ニ至ルマテ其辞産相続ヲ保持スルコトヲ得
第千五百九十七条　辞産者死去スルトキハ辞産後其得タル財産ヲ併セテ死去ニ因ル相続法ニ従ヒ其子ト辞産相続人トノ間ニ於テ更ニ相続ヲ分派ス可シ
辞産者辞産後ニ為シタル養子ハ其辞産相続ニ権利ヲ有セス
第千五百九十八条　辞産相続人中卑属親ナクシテ辞産者ヨリ先ニ死去スル者アルトキハ辞産相続ニ因リ其者ノ得タル財産ニシテ原物ノ儘尚ホ存在スルモノハ当然辞産者ニ帰ス
其原物ニテ存在セサルモノニ付テハ辞産者ハ其物ノ替リニ死者ノ得タル利得ノ限度ニマテ対価額ヲ請求スルコトヲ得
第五節　相続ノ受諾及ヒ抛棄
第千五百九十九条　何人ニ限ラス必ス相続スヘキ義務ヲ負ハス又常ニ随意ニ相続ヲ受諾スルコトヲ得
然レトモ有夫ノ婦未成年者及ヒ禁治産者又ハ瘋癲者ハ法律ノ制限ニ従フニ非サレハ相続ヲ受諾スルコトヲ得ス
第千六百条　相続人ハ相続ニ付単純又ハ限定ノ受諾ヲ為シ若クハ抛棄ヲ為スコトヲ得
第千六百一条　相続人受諾又ハ抛棄ヲ為サスシテ死去セシトキハ其死者ノ相続人死者ノ名義ヲ以テ之ヲ受諾シ又ハ抛棄スルコトヲ得
其相続人数人アリテ受諾又ハ抛棄ノコトニ付議協ハサルトキハ限定ノ受諾ヲ為ス可シ
第千六百二条　相続人ハ民事訴訟法ニ規定シタル法式ニ従ヒ相続財産ヲ調査スル為メ三ヶ月ノ期限ヲ有ス但シ此期限ハ相続開始ノ日ヨリ起算ス
相続ノ受諾又ハ抛棄ヲ決定スル為メ一ヶ月ノ期限ヲ有ス但シ此期限ハ右三ヶ月満限ノ日又ハ其前財産ノ調査ヲ終リタル日ヨリ起算ス
第千六百三条　相続人ハ其調査又ハ決定ノ期限内相続ニ関スル一切ノ訴訟ヲ停止セシムルコトヲ得
其期限後ハ事情ニ依リ地方裁判所ヨリ更ニ三ヶ月内ノ延期ヲ許容スルコトアルヘシ
第千六百四条　相続ニ関スル訴訟ニ付要セシ費用ハ法律上ノ期限内ニ係ルモノト裁判所ノ許容シタル延期内ニ係ルモノトヲ問ハス総テ相続財産ノ負担トス但シ相続人ノ過愆ニ因リ要セシ費用ハ此例ニ在ラス
第千六百五条　相続財産中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調査又ハ決定ノ期限未満中ト雖モ裁判所ノ認可ヲ得テ其物品ヲ訴訟法ニ定メタル法式ニ従ヒ糶売ニ付スルコトヲ得
第一款　単純ノ受諾
第千六百六条　相続人其被相続人ノ働方及ヒ受方財産ノ一切ニ関シ確定ニ其代表者ト為ル意思ヲ顕ハストキハ単純ノ受諾トス
第千六百七条　単純ノ受諾ニ明瞭ノモノアリ暗黙ノモノアリ
相続人公正証書又ハ私証書ヲ以テ自己ノ責任ヲ限ラス相続スルノ意思ヲ表シタルトキハ明瞭ナル受諾トス
又相続人ノ所為ニ依リ其意思アリタルコトヲ推測スルニ足ルトキハ暗黙ノ受諾トス
第千六百八条　財産ノ管理行為就中第千六百五条ノ行為ニ付テハ受諾ノ意思ヲ推測セス但シ相続人自己ノ名義ヲ以テ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第千六百九条　概シテ相続人ノ左ノ所為ハ単純ナル受諾ノ意思ヲ推測ス
一　相続ヲ組成スル不動産ノ一箇又ハ数箇ニ付他人若クハ共同相続人ノ為メ所有権ヲ移付シ又ハ其他ノ物上権ヲ設定シタル行為但シ第六百二十六条以下ノ制限ニ従ヒタル賃借権ノ設定ハ此例ニ在ラス
二　有償名義ト無償名義トヲ問ハス他人又ハ共同相続人中ノ一人又ハ数人ノ為メニ於ケル相続権ノ移転但シ共同相続人中一人又ハ数人ノ為メニ於ケル抛棄ハ常ニ相続権ノ移転トス
三　有償名義ヲ以テ為ス共同相続人全員ノ為メニ於ケル抛棄
四　限定受諾又ハ抛棄ヲ為サスシテ相続開始ノ日ヨリ満十ヶ年ヲ過キタルトキ
家督相続ニ付テハ相続人其開始ヲ了知シタル日ヨリ第千六百二条及ヒ第千六百三条ノ期間ニ限定ノ受諾又ハ抛棄ヲ為サ丶リシトキハ単純ノ受諾ヲ為シタルモノト推測ス
第千六百十条　前条ノ外尚ホ第千六百十四条ニ掲載シタル第二及ヒ第三ノ場合ハ単純ノ受諾ヲ組成ス
第千六百十一条　受諾ハ明瞭ノモノト暗黙ノモノトヲ問ハス左ノ原由ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
一　自己若クハ配偶者若クハ卑属親ノ身体又ハ財産ニ暴行脅迫ヲ受ケタルニ因リ受諾シタルトキ
二　受諾セシムルニ於テ金銭上ノ利益ヲ有スル者ノ行ヒタル欺詐ニ因リ受諾シタルトキ
三　無能力者法式ニ違背シテ受諾シタルトキ
四　受諾ノ時躬ラ成立ヲ知ラサル負債ノ為メ自己ノ破産ヲ為スニ至ルトキ
此銷除訴権ハ第千六十六条以下ニ定メタル合意銷除訴権ノ期限及ヒ条件ニ従フ
第二款　限定ノ受諾
第千六百十二条　相続人予メ下ニ規定シタル法式ヲ履行シテ相続財産ト特有ノ資産トヲ混同セス相続ノ働方ノ限度マテニ非サレハ受方弁償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス
第千六百十三条　相続人ニシテ限定ノ受諾ヲ為スノ意思ヲ有スル者ハ相続開始地ノ地方裁判所書記局ニ第千六百二条及ヒ第千六百三条ノ期限内ニ正確ニ調査シタル財産ノ目録書ヲ提出シテ其申述ヲ為ス可シ
其申述ヲ受ケタル書記局ニ於テハ之カ為メ別段備ヘタル簿冊ニ之ヲ摘録ス可シ
第千六百十四条　左ノ相続人ハ限定ノ受諾ヲ為スノ権能ヲ失ス
一　明瞭又ハ暗黙ニ単純ノ受諾ヲ為シタル者
二　第千六百二条及ヒ第千六百三条ニ定メタル法律上又ハ裁判上ノ期限ヲ過キタル後相続人其分限ヲ決定ス可キ請求ヲ受ケテ其意思ヲ明言セサル為メ単純ノ受諾者タル確定裁判ヲ受ケタル者但シ此確定裁判ハ第三者ニ対シテ効力ヲ有ス
三　相続財産ヲ隠匿シ又ハ悪意ヲ以テ財産ノ調査目録中ニ相続財産ノ幾分ヲ記載セサリシ者
第千六百十五条　限定受諾者ハ其特有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理シ債権者及ヒ受嘱者ニ其計算ヲ為ス可シ但シ其計算ハ負債及ヒ遺嘱ノ弁償ノ為メ相続財産ヲ払ヒ尽シタル後一ヶ月内ニ民事訴訟法ニ従ヒ之ヲ完了ス可キモノトス
其計算ヲ為スコトヲ遅滞シタル為メ債権者及ヒ受嘱者ニ及ホシタル損害ハ特有財産ヲ以テ賠償ス
第千六百十六条　動産不動産ヲ間ハス総テ相続財産ノ売払ヲ要スルトキハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ従ヒ地方裁判所ノ認可ヲ得テ之ヲ糶売ス可シ
第千六百十七条　限定受諾者ハ適法ニ売払ヒタル財産ノ各箇ニ付得タル代価ヲ混同セス其各箇ニ付先取権ヲ有スル債権者ニ順次ニ弁償ス可シ
剰余ノ金額及ヒ売払ハサル動産ハ相続人之ヲ保有スルコトヲ得但シ此場合ニ於テ債権者又ハ其他ノ関係人ヨリ担保ヲ請求スルトキハ其金額及ヒ物件ノ評価額ニ付相当ノ資力アル保証人又ハ特有ノ財産ニテ充分ノ物上抵保ヲ供ス可シ
第千六百十八条　右担保ヲ供スルコト能ハサル場合ニ於テハ尚ホ動産ヲ糶売シテ得タル代価ト共ニ其金額ヲ資財預役所ニ寄置シテ相続ノ負担ス可キ債務及ヒ費用ノ弁償ニ供ス可シ
第千六百十九条　不動産ハ担保ヲ要セスシテ之ヲ保有スルコトヲ得
然レトモ其果実ニ付テハ之ヲ収取スルニ従ヒ請求ヲ待テ前二条ノ手続ヲ為ス可シ
第千六百二十条　相続ノ負担ス可キ債務又ハ遺嘱ノ弁済ヲ差留又ハ之ニ故障ヲ述フル債権者又ハ受嘱者アルトキハ限定受諾者ハ裁判上規定シタル順序及ヒ方法ニ従フニ非サレハ其弁済ヲ為スコトヲ得ス
第千六百二十一条　前条ノ差留又ハ故障アラサルトキハ債権者又ハ受嘱者ノ請求ニ従ヒ弁済ス
其請求ニ従ヒ相続財産ヲ払ヒ尽シタル後ト雖モ第千六百十五条ニ規定シタル計算ヲ未タ完了セサル前ニ請求スル債権者又ハ受嘱者ハ左ノ区別ニ従ヒ既ニ弁済ヲ得タル債権者及ヒ受嘱者ニ対シ追求権ヲ行フコトヲ得
一　債権者ハ先ツ受嘱者ニ対シ次キニ債権者ニ対スルコト
二　受嘱者ハ単ニ受嘱者ニ対スルコト
第千六百二十二条　相続人計算ノ完了ヲ遅滞シタル場合ニ於テハ債権者中未タ弁済ヲ得サル者ヨリ既ニ弁済ヲ得タル受嘱者及ヒ債権者ニ対シ追求スルコトヲ得可キ額ヲ直チニ相続人ノ特有財産ニ付之ヲ追求スルコトヲ得
第千六百二十三条　相続財産ヲ払ヒ尽シ計算ヲ完了シタル後請求スル債権者ハ単ニ弁償ヲ得タル受嘱者ニ対スルニ非サレハ追求権ヲ行フコトヲ得ス
第千六百二十四条　前三条ノ追求権ハ三ヶ年間之ヲ行フコトヲ得但シ計算ノ完了前ニ係ルモノハ初メテ相続人ニ請求シタル日又完了後ニ係ルモノハ其完了ノ日ヨリ起算ス
第三款　相続ノ抛棄
第千六百二十五条　相続人ハ其相続ヲ抛棄スルコトヲ得但シ適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推測シタル者ハ此例ニ在ラス
抛棄シタル相続人ハ曽テ相続人タラサリシモノト看做シ其利益ニ設定シタル相続上ノ所置ハ当然無効トス
第千六百二十六条　相続ノ抛棄ハ之ヲ推測セス
相続ヲ抛棄スルノ意思ヲ有スル者ハ相続開始地ノ地方裁判所書記局ニ其意思ヲ陳述シテ別段ニ備ヘタル簿冊ニ之ヲ記入ス可シ
第千六百二十七条　抛棄スル意思ノ陳述ハ抛棄者躬ラ之ヲ為シ若クハ公正ニシテ特別ナル委任状ヲ有スル代理人之ヲ為スコトヲ得
抛棄者躬ラ其陳述ヲ為ストキハ其裁判所管轄地内ノ公証人又ハ代言人一名ヲ同伴シテ抛棄者ノ身分ヲ証言セシム可シ
第千六百二十八条　抛棄シタル相続ヲ他ニ受諾シタル相続人アラサル間ハ抛棄者更ニ之ヲ受諾スルコトヲ得然レトモ此受諾ハ家督相続ニ付テハ第千六百九条末項ノ期間又普通相続ニ付テハ抛棄シタル日ヨリ十ヶ年内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ相続財産ニ付第三者ノ有効ニ得タル権利ヲ害スルモノニ非ス
第千六百二十九条　抛棄シタル相続ヲ他ニ受諾シタル相続人アルトキト雖モ左ノ原由ノ一アルニ於テハ其抛棄ヲ銷除スルコトヲ得
一　抛棄者自己若クハ配偶者若クハ卑属親ノ身体又ハ財産ニ暴行脅迫ヲ受ケタルニ因リ抛棄シタルトキ
二　抛棄セシムルニ於テ金銭上ノ利益ヲ有スル者ノ行ヒタル欺詐ニ因リ抛棄シタルトキ
三　無能力者抛棄シタルトキ
此銷除訴権ノ期限及ヒ条件ハ第千六百十一条ニ定メタルモノニ同シ
第千六百三十条　何レノ場合ニ於テモ債権者ヲ詐害スルノ意思ニ出タル抛棄ハ第八百六十一条以下ニ定メタル区別及ヒ期限ニ従ヒ債権者ノ利益ノ為メ之ヲ廃棄スルコトヲ得
第千六百三十一条　未タ開始セサル相続ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得ス但シ辞産者ノ提意ニ対スル拒絶ハ此限ニ在ラス
第千六百三十二条　相続ニ包含スル物件ヲ私取シ又ハ隠匿シタル相続人ハ其相続ヲ抛棄スルノ権能ヲ失ヒ且ツ其私取若クハ隠匿シタル物件ノ分派ニ加ハルコトヲ得ス
第四款　相続人ノ虧欠シタル相続財産ノ処分
第千六百三十三条　死去ニ因ル相続開始シテ其相続人現出セス若クハ相続人ノ有無分明ナラス若クハ分明ナル相続人皆抛棄シタルトキハ其相続ハ相続人ノ虧欠シタルモノト看做ス
第千六百三十四条　相続開始地ノ地方裁判所ハ利害ノ関係人又ハ検事ノ請求ニ依リ相続財産ノ管理人ヲ命ス可シ
第千六百三十五条　管理人ハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ従ヒ利害ノ関係人ヲ召喚シ相当ノ役員立会ノ上財産ヲ調査シテ目録ヲ作成シ其景状ヲ検証セシム可シ
管理人ハ右法式ヲ終リタル後相続ニ属スル権利ヲ執行シ之ヲ訟求シ又其相続ニ対スル訟求ニ答弁ス可シ
金銭ハ相続財産中ニ存スルモノト其売渡シヨリ生スルモノトヲ問ハス資財預役所ニ之ヲ寄置ス可シ
相続ノ負担スル債務ハ地方裁判所ノ認可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ弁済スルコトヲ得ス
第千六百三十六条　限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ関シ第千六百十五条以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ適用ス可キモノトス但シ管理人ハ其管理ノ為メ担保ヲ供スルノ義務ヲ負ハス
第六節　相続財産ノ分派及ヒ既受物ノ算還
第一款　分派ノ訴権及ヒ其法式
第千六百三十七条　共同相続人ノ各自ハ相続ノ未分財産ノ分派ヲ請求スルコトヲ得但シ第五百四十条ニ従ヒ未分ニ置クコトヲ約シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百三十八条　分派ノ訴権ハ永久ノモノトス然レトモ占有ニ基キ獲得時効ヲ利用スル者ニ対抗スルコトヲ得ス
第千六百三十九条　分派ハ常ニ明瞭ナルコトヲ要ス
共同相続人ノ各自相続財産ヲ区別シテ収益スル事実ハ分派ヲ推測セス
第千六百四十条　禁治産者瘋癲者又ハ未成年者タル相続人ヨリ分派ヲ請求スル法式ニ付テハ第三百二十九条第六ヲ適用ス
失踪者ノ分派訴権ハ裁判上其財産ノ占有ヲ得タル親族ニ属ス但シ其占有ノ宣言前ハ適法ノ管理人失踪者ノ名義ヲ以テ之ヲ訟求シ若クハ之ニ対シ答弁スルコトヲ得
第千六百四十一条　相続ニ因リ婦ノ受ク可キ物件ノ所有権夫婦共通財産ニ属スルトキハ夫一己ノ意思ヲ以テ其分派ヲ請求スルコトヲ得
其他ノ場合ニ於テハ婦躬ラ其夫又ハ裁判所ノ允許ヲ得テ分派ヲ請求スルコトヲ得
第千六百四十二条　何レノ場合ニ於テモ婦ノ共同相続人ヨリ婦ニ対シ分派ヲ請求スルトキハ夫ヲ訴訟ニ参加セシム可シ
第千六百四十三条　相続ノ分派ハ共同相続人ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ為スコトヲ得但シ左ノ場合ニ於テハ裁判上ニ非サレハ其分派ヲ為スコトヲ得ス
一　共同相続人中未成年者禁治産者又ハ瘋癲者アルトキ
二　共同相続人中不在者アリテ有効ニ分派ヲ承諾スルノ権限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ
三　共同相続人中合意上ノ分派ヲ承諾セサル者アルトキ
第千六百四十四条　裁判上ノ分派ヲ要スル場合ニ於テハ民事訴訟法ニ定メタル法式ニ従ヒ予メ相続財産ニ封印ヲ為シ且ツ其目録ヲ作成ス可シ
此封印及ヒ目録ハ相続人又ハ債権者又ハ地方裁判所ノ検事ノ請求ニ依リ若クハ相続開始地ノ区裁判所判事ノ職権ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第千六百四十五条　法律上封印及ヒ目録ヲ要セサル場合ニ於テモ債権者ハ地方裁判所ノ認可ヲ得テ之ヲ請求スルコトヲ得但シ執行ノ権証ヲ有スル者ハ其認可ヲ要セス
封印ノ除去ニ関シテハ右認可ヲ要セスシテ総テノ債権者故障ヲ述フルコトヲ得
封印除去ノ法式ハ民事訴訟法ニ規定ス
第千六百四十六条　分派ノ訴訟及ヒ分派中ニ起ル一切ノ争論ハ相続開始地ノ地方裁判所之ヲ管轄ス
相続財産ノ糶売並ニ分派ノ担保及ヒ銷除ニ関スル訴訟モ亦同シ
糶売ニ関シテハ其財産所在地ノ地方裁判所ニ其管轄ヲ嘱託スルコトヲ得
第千六百四十七条　分派又ハ其方法若クハ其結了ニ付訴訟ノ起ル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ地方裁判所ハ専任判事一名ヲ命シ其報告ヲ待チ裁判ヲ為ス可シ
第千六百四十八条　専任判事ハ相続財産中鑑定ヲ要スルモノアリト認ムルトキハ訴訟関係人ノ撰択シ若クハ職権ヲ以テ指定シタル鑑定人ヲシテ公証人一名立会ノ上其財産ノ性質景状及ヒ価格ヲ査定セシム可シ但シ第千六百四十三条第一及ヒ第二ノ場合ニ於テハ常ニ職権ヲ以テ其鑑定人ヲ指定ス可シ
第千六百四十九条　鑑定人ハ其査定ヲ終リタル後左ノ件々ヲ詳記シタル調書ヲ速ニ専任判事ニ提出ス可シ
一　財産ノ評価及ヒ其根拠
二　原物分派ノ当否
三　分派ノ方法
四　分派ノ割付
五　割付ケタル各部分ノ価額
右ノ外必要ト思量スル事項ハ之ヲ附記ス可シ
第千六百五十条　専任判事ハ鑑定人ノ調書ヲ領収シタルトキハ之ニ意見ヲ附シテ速ニ其報告ヲ為ス可シ
第千六百五十一条　共同相続人ノ各自ハ相続財産ノ原物ニテ其部分ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得但シ債権者其渡方ヲ差留タルトキ若クハ共同相続人ノ多数ヲ以テ相続ノ負担ス可キ債務及ヒ費用ヲ予メ弁償スル為メ其幾分ノ売払ヲ必要ト決定シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百五十二条　売払フ可キ物件及ヒ方法ハ共同相続人ノ全員一致ヲ以テ之ヲ定ム但シ債権者ノ故障アルトキ又ハ共同相続人中無能力者アルトキ又ハ全員一致セサルトキハ地方裁判所ヲシテ其物件ヲ定メシメ且ツ之ヲ糶売ス可シ
第千六百五十三条　不動産ハ原物ニテ分割スルニ便益ナラサルトキ又ハ動産売払ノ代価ヲ以テ相続ノ債務及ヒ費用ヲ完済スルニ足ラサルトキニ非サレハ裁判上其糶売ヲ命スルコトヲ得ス
第千六百五十四条　相続ノ分派ハ次款ニ規定シタル既受物算還ノ関係結了シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第千六百五十五条　共同相続人中家督相続人アルトキハ第千五百三十条ニ掲載シタル特権ヲ除キ他ノ物件ニ付各共同相続人ノ受ク可キ部分ヲ定ム
然レトモ其特権ハ相続ノ負担ヲ免カルヽモノニ非ス但シ特別ノ法律ヲ以テ不可押物ト定メタルモノハ格別ナリトス
第千六百五十六条　各共同相続人ニ配当ス可キ部分ヲ原物ニテ組成シタル場合ニ於テ適法ノ分量ニ過不足ヲ生スルトキハ過分ヲ受クル者ヨリ不足分ヲ受クル者ニ金銭又ハ其他ノ物件ヲ以テ補充額ヲ供ス可シ
第千六百五十七条　補充額ニ権利ヲ有スル者ハ其完済ヲ受クルニ至ルマテ相当ノ物件ヲ留置スルコトヲ得但シ年金権又ハ用収権ヲ以テ其補充額ヲ定メタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百五十八条　相続人ノ合意ヲ以テ分派ヲ為スコトヲ得可キ場合ニ於テハ其各部分ハ共同相続人全員ノ協議ヲ以テ之ヲ組成ス可シ
其議協ハサルトキ又ハ裁判上ニ非サレハ分派ヲ為スコトヲ得サルトキハ地方裁判所ノ指定シタル鑑定人ヲシテ公証人一名立会ノ上其部分ヲ組成セシム可シ
第千六百五十九条　鑑定人ノ組成シタル部分ハ地方裁判所ノ職権ヲ以テ之ヲ変更スルコトヲ得
又各共同相続人ハ鑑定人ノ組成シタルモノト裁判所ノ変更シタルモノトヲ問ハス其通知ヲ受ケタル日ヨリ五日内ニ其部分ニ付故障ヲ申立ルコトヲ得但シ故障ノ判定ニ対シテハ抗告ヲ許サス
第千六百六十条　相続ノ譲受人ハ自己ノ名義ヲ以テスルト譲渡人ノ名義ヲ以テスルトヲ問ハス前二条ノ場合ニ関渉スルコトヲ得ス
第千六百六十一条　配当部分ノ適法ニ確定シタルトキハ共同相続人中特別ノ部分ヲ受ク可キ者ハ其部分ヲ先収ス
又平等ノ部分ヲ受ク可キ相続人間ニ於テハ抽籖ニ由リ其各自ノ受ク可キ部分ヲ定ム
第千六百六十二条　前数条ノ規則ニ適シタル分派ハ確定ノモノトス
未成年者禁治産者瘋癲者又ハ不在者ノ為メニ定メタル規則ニ違ヒタル分派ハ其者ノ利益ニ於テノミ仮定ノモノトス
第千六百六十三条　分派ノ際互ニ利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者数人アルトキハ法律ニ従ヒ其各自ノ為メ臨時保管人又ハ管理人ヲ指定ス可シ
第千六百六十四条　分派ノ結了シタルトキハ共同相続人各自ニ其収受シタル物件ノ権証ヲ保有ス
共同相続人中数人ニ分割シタル一箇ノ物件ノ権証ハ其中最大ノ部分ヲ得タル者之ヲ保有ス
共同相続人ノ全員ニ分割シタル物件ノ権証ニ付テハ共同相続人ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム
其議協ハサルトキハ地方裁判所之ヲ指定ス
何レノ場合ニ於テモ権証ノ保有者ハ他ノ共同相続人ノ請求ニ従ヒ之ヲ便用セシム可シ
第千六百六十五条　本款ニ定メタル規則ハ共同代承者間ノ分派ニモ亦適用ス
第二款　既受物ノ算還
第千六百六十六条　相続ヲ受諾シタル相続人ハ被相続人ヨリ生存者間ノ贈与又ハ其他ノ方法ニ依リ無償名義ニテ既ニ収受シタル物ハ相続ノ既受分トシテ相続財産ニ之ヲ算還ス可シ
遺嘱ニ付テハ死者ノ処置シ得ヘキ部分ノ超過額ノミヲ算還ス可シ
第千六百六十七条　前条第一項ノ規則ハ相続ノ部分外ニ付与シタル特益ナルコト被相続人ノ意思ニ於テ明瞭ナル場合ニ適用セス
第千六百六十八条　受贈者当時推測相続人タラサリシ事情ハ其贈与ヲ相続部分外ノ特益ト看做スノ原由タラス
第千六百六十九条　代承相続人ハ自己ノ利益ニ得タル贈与物ヲ算還スルニ及ハス但シ被代承者ノ死去後ニ係ルモノハ此例ニ在ラス
又被代承者ノ利益ニ於ケル贈与ハ代承者其相続ヲ抛棄シタルトキト雖モ之ヲ算還スルニ非サレハ代承相続ヲ為スコトヲ得ス
第千六百七十条　夫婦ノ中一方相続人タル場合ニ於テ被相続人ヨリ部分ヲ定メスシテ其夫婦ニ為シタル贈与アルトキハ相続人タル配偶者其半ヲ算還ス可シ
第千六百七十一条　相続ヲ抛棄スル者ハ被相続人ヨリ得タル生存者間ノ贈与ヲ保有スルコトヲ得
第千六百七十二条　相続部分外ノ特益ニ因ルト代承相続ニ因ルト又相続ノ抛棄ニ因ルトヲ問ハス既受物ノ保有ハ処置シ得ヘキ部分ノ限度マテニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第千六百七十三条　既受物ノ算還ハ法律上ノ共同相続人互相ノ利益ニ之ヲ為スモノトス
受嘱者及ヒ債権者ハ既受物ノ算還ヲ請求スルコトヲ得ス
第千六百七十四条　左ニ記載スルモノハ算還ス可キ既受物トセス
一　衣食住ノ費用
二　修学又ハ習業ノ費用
三　婚姻ノ費用
四　慣習上ノ贈物
第千六百七十五条　算還ス可キ既受物ヨリ相続開始後ニ生スル利子及ヒ果実ハ之ヲ算還ス可シ
第千六百七十六条　算還ス可キ不動産ノ全部又ハ一分ノ滅尽ハ相続財産ノ負担トス但シ既受者ノ過愆ニ出タルトキハ此例ニ在ラス
特定動産ノ滅尽ハ既受者ノ負担トス但シ不可抗力ニ原由シタルコトヲ証明スルトキハ此例ニ在ラス
第千六百七十七条　共同相続人ハ既受不動産ノ人為ニ出タル改良ヨリ生セシ増加価格ヲ既受者ニ算償ス可シ但シ其価格ノ査定ハ相続開始ノ時ニ従フモノトス
又不動産ノ価格ヲ増加セスト雖モ其保存ニ必要ナル大修繕ノ費用モ亦同シ
第千六百七十八条　既受不動産ノ算還ハ原物ニテ之ヲ為シ又ハ其相当ノ価格ヲ既受者ノ受ク可キ相続ノ部分ヨリ減少スルノ方法ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但シ原物ノ算還ハ第三者ヲ害ス可カラス
減少方法ニ於ケル価格ノ査定ハ相続開始ノ時ニ従フモノトス
第千六百七十九条　相続部分外ノ特益中処置シ得ヘキ部分ノ限度ヲ超過スルモノハ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス
特益者ノ相続部分ヲ以テ其超過額ヲ填補スルニ足ラサルトキハ其不足額ヲ金銭ニテ賠償ス可シ
此賠償ハ相続開始ノ時ヨリ特益不動産ノ法律上ノ抵当ヲ以テ担保ス
第千六百八十条　既受ノ不動産ヲ原物ニテ算還スル者ハ共同相続人ヨリ改良ノ増加額及ヒ大修繕ノ費用額ノ算償ヲ受クルマテ其不動産ヲ留置スルコトヲ得
第千六百八十一条　動産ノ既受物ハ其授受ノ時ニ於ケル価格ニ従ヒ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス可シ
其算還ハ動産授受ノ時ニ作成シタル有効ノ評価目録ニ従ヒ又其評価目録アラサルトキハ鑑定人ノ評価ニ従ヒ之ヲ為ス可シ
第千六百八十二条　金銭ノ既受物ハ減少方法ヲ以テ之ヲ算還ス可シ
然レトモ既受者ハ既受ノ金額ヲ弁償シテ他ノ物件ニ付共同相続人ト等シク配当ヲ受クルコトヲ得
第三款　債務ノ弁償
第千六百八十三条　共同相続人ハ各其収受スル部分ノ割合ヲ以テ互相ノ間ニ相続ノ債務ヲ分担ス
第千六百八十四条　包括名義ニ於ケル受嘱者モ亦其得タル利益ノ割合ヲ以テ相続人ト共ニ相続ノ債務ヲ分担ス
第千六百八十五条　相続ノ債務ヲ分担ス可キ者不可分義務ノ為メ若クハ先取特権又ハ抵当ニ服シタル財産ノ所持人トシテ自己ノ確定ニ分担ス可キ部分外ノ債務ヲ弁償シタルトキハ共同分担者ノ各自ニ対シ其超過額ヲ追求スルコトヲ得
第千六百八十六条　前条ノ場合ニ於テ共同分担者中無資力者アルトキハ其無資力者ノ負担部分ハ他ノ各共同分担者応分ニ之ヲ担当ス
第千六百八十七条　相続財産中ノ不動産ヲ以テ抵保シタル相続ノ債務ニシテ直チニ弁償スルコトヲ得可キモノアルトキハ各共同分担者ハ相続ノ分派前ニ其債務ヲ弁償シテ抵保ヲ洗除ス可キコトヲ請求スルコトヲ得
第千六百八十八条　抵保ヲ洗除セス現状ニテ分派スルトキハ其不動産ヲ評価セシメ債務額ヲ減算シテ配当部分ヲ規定ス可シ但シ其不動産ヲ含蓄スル部分ヲ受ケタル相続人又ハ包括受嘱者ハ其債務ノ弁償ニ付他ノ共同分派者ニ対シ担保ス可シ
第千六百八十九条　被相続人ニ対シテ執行力ヲ有スル証書ハ其相続人ニ対シテモ亦執行力ヲ有ス然レトモ債権者其証書ノ存立ヲ告知シタルヨリ八日後ニ非サレハ執行ヲ求ムルコトヲ得ス但シ其告知ヲ受ケタル相続人ハ第千六百二条及ヒ第千六百三条ニ従ヒ猶予ヲ求ムルコトヲ妨ケス
第千六百九十条　被相続人ノ債権者及ヒ受嘱者ハ相続人ノ債権者ニ対シテ被相続人ノ資産ト相続人ノ資産トヲ分別シテ被相続人ノ資産ニ付先取権ヲ得可キコトヲ請求スルコトヲ得但シ資産ノ混同ヲ承諾シタル者ハ此例ニ在ラス
第千六百九十一条　不確定ノ動産ニシテ事実上相続人ノ資産ト混同シタルモノニ付テハ資産分別ヲ請求スルコトヲ得ス
其他ノ動産ト雖モ相続開始ノ時ヨリ満三ヶ年ヲ過キタルトキ亦同シ
第千六百九十二条　不動産ニ付テハ相続人ノ手ニ存スル間資産分別ヲ請求スルコトヲ得
第千六百九十三条　相続人ノ債権者モ亦前三条ノ区別及ヒ条件ニ従ヒ資産ヲ分別シテ相続人ノ特有財産ニ付先取権ヲ得可キコトヲ請求スルコトヲ得
第千六百九十四条　何レノ場合ニ於テモ第八百六十条乃至第八百六十四条ノ規則ハ分派ニ因リ詐害セラレタル債権者ノ利益ニ適用ス但シ債権者ハ分派ニ参加スルコトヲ得ス
第四款　分派ノ効力及ヒ其担保
第千六百九十五条　各共同分派人ハ相続財産ノ分派又ハ其未分物糶売ノ落札ニ因リ得タル物ノ所有権ヲ相続開始ノ時ヨリ相続シ他ノ共同分派人ニ帰シタル物ニ付テハ曽テ何等ノ権利ヲモ有セサリシモノト看做ス
第千六百九十六条　共同分派人ハ分派前ノ原由ニ基ク分派物ノ妨碍及ヒ奪取ニ付互ニ担保ス可シ但シ特約ヲ以テ其担保ヲ免除シタルトキハ此例ニ在ラス
第千六百九十七条　妨碍又ハ奪取ヨリ生シタル損失ハ共同分派人間ニ被担保者ヲ算入シテ各応分ニ之ヲ分担ス可シ
共同分派人中無資力者アルトキハ其負担額ハ他ノ共同分派人之ヲ分担ス可シ
第千六百九十八条　年金権若クハ普通ノ債権ニ係ル債務者ノ資力ハ分派ノ当時ニ於ケルモノニ非サレハ共同分派人之ヲ担保セス
第千六百九十九条　担保ノ義務ハ普通ノ時効ニ因リ消滅ス
分派物ノ妨碍及ヒ奪取ノ担保ノ時効ハ其妨碍又ハ奪取ヲ受ケタル時ヨリ起算ス
又債務者ノ資力担保ノ時効ハ分派ノ時ヨリ起算ス
第五款　分派ノ銷除及ヒ其補充
第千七百条　分派ハ第八百二十五条以下ニ定メタル区別ニ従ヒ不成立若クハ無効ノモノタルノ外尚ホ共同分派人中ノ一名其受ク可キ部分ニ付四分ノ一以上ノ損失ヲ被フリタルトキハ其損失ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得
第千七百一条　欺詐ハ分派銷除ノ原由タラス但シ承諾ノ廃滅又ハ其瑕疵トナル錯誤若クハ四分ノ一ノ損失ヲ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ被欺者ハ欺詐者ニ対シ賠償ノ名義ヲ以テ自己ノ受ク可キ部分ニ達スル補充額ヲ請求スルコトヲ得
第千七百二条　損失ノ査定ハ分派ノ時ニ於ケル物ノ価格ニ従ヒ之ヲ為ス可シ
第千七百三条　錯誤、暴行、損失及ヒ欺詐ニ基キ分配ヲ無効ト為シ又ハ其補充額ヲ請求スル訴権ハ第千六十六条以下ニ定メタル時効並ニ第千七十七条以下ニ掲ケタル確認ニ因リ消滅ス
第千七百四条　又錯誤若クハ暴行ニ基ク分派無効ノ訴権ヲ有スル者分派ニ由リ得タル財産ニ付其錯誤ノ発覚又ハ暴行ノ止息後所有者ニ非サレハ為スコト能ハサル所為ヲ随意ニ行ヒタルトキハ暗ニ其分派ヲ確認シタルモノト看做ス
損失ヲ被フリタル事実ヲ知リ其所為ヲ行ヒタルトキ亦同シ
第千七百五条　第千七十六条ハ損失ニ基ク分派銷除ノ訟求ニ係ル被告人ノ利益ニ適用ス
第二章　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈与及ヒ遺嘱贈遺
第一節　通則
第千七百六条　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈与ハ一方ノ人無償ニテ他ノ一方ノ人ニ自己ノ包括財産ノ全部又ハ一部若クハ自己ノ動産又ハ不動産ノ包合体ノ全部又ハ一部ヲ付与スル有式ノ合意ナリ
特定名義ニ於ケル生存者間ノ贈与ノ設定規約、廃棄ノ原由、無効ノ条件、担保ヲ要セサル原則及ヒ公示方法ニ関スル条例ハ包括名義ニ於ケル贈与ニ適用ス
第千七百七条　包括名義ニ於ケル遺嘱贈遺ハ一方ノ人其死去ニ至リ他ノ一方ノ人ノ為メ無償ニテ自己ノ包括財産ノ全部又ハ一部若クハ自己ノ動産又ハ不動産ノ包合体ノ全部又ハ一部ヲ付与ス可キコトヲ規定スル行為ナリ
遺嘱贈遺ハ遺嘱者ノ随意ニ廃棄スルコトヲ得ヘキモノトス
第千七百八条　受贈者又ハ受嘱者ニ受贈物又ハ受嘱物ノ所有権ヲ其死去ニ至ルマテ保存シ且ツ贈与ノ時又ハ遺嘱者死去ノ時ニ無償名義ニテ収受スル普通能力ヲ有セサリシ人ニ之ヲ伝移ス可キ条件ヲ負ハシメタル贈与又ハ遺嘱ハ総テ無効トス
第千七百九条　前条ノ条例ハ特別法ニ従ヒ設定スル世襲財産ニ適用セサルモノトス
第千七百十条　遺嘱中ニ存スル不能又ハ不法ノ条件ハ之ヲ記サヽルモノト看做ス
贈与中ニ存スル不能又ハ不法ノ条件ハ一般合意ノ規則ニ従ヒ其贈与ヲ無効トス
第二節　贈与又ハ遺嘱ニ由リ処置シ又ハ収受スルノ能力
第千七百十一条　何人ニ限ラス贈与及ヒ遺嘱ニ由リ処置シ又ハ収受スルノ能力ヲ有ス但シ法律上明瞭ニ其無能力者ト規定シタルモノハ此例ニ在ラス
第千七百十二条　左ニ記載シタル人ハ贈与ニ由リ処置スルノ無能力者トス
一　贈与ヲ為ス時心神喪失スル者
二　民事上又ハ刑事上ノ禁治産者
三　瘋癲ノ為メ入院又ハ監置中ノ者
四　復権ヲ得サル破産者
五　未成年者但シ夫婦財産契約ノ為メ法律上特ニ許容スル場合ハ例外トス
第千七百十三条　有夫ノ婦ハ夫婦間ノ権利及ヒ義務ニ関スル規則ニ従ヒ其夫又ハ裁判所ノ允許ヲ得ルニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス
第千七百十四条　準禁治産者ハ自己ノ財産移付方法ノ有効ナル為メ法律ノ要求スル法式ニ従フニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス
第千七百十五条　左ニ記載シタル人ハ遺嘱ニ由リ処置スルノ無能力者トス
一　第千七百十二条ノ第一乃至第四ニ列記シタル者
遺嘱者ハ死去ノ時心神明確ナルコトヲ要セス遺嘱ヲ為ス時其明確ナルヲ以テ充分トス
二　十四年未満ノ者
満十四年以上ノ未成年者ハ成年者ノ贈与又ハ遺嘱ニ由リ処置スルコトヲ得ル財産ノ半額内ニ於テ遺嘱ヲ為スコトヲ得
第千七百十六条　準禁治産者ハ遺嘱ヲ為スノ能力ニ付キ満十四年以上ノ未成年者ト同視ス
第千七百十七条　贈与ノ時又ハ遺嘱者死去ノ時未タ胎内ニ在ラス又ハ活テ生レサル者ハ贈与又ハ遺嘱ニ由リ収受スルノ能力ヲ有セス
第千七百十八条　病院学校其他公ケノ無形人ハ政府ノ允許ヲ得ルニ非サレハ贈与又ハ遺嘱ニ由リ収受スルノ能力ヲ有セス
第千七百十九条　後見人ハ第三百四十八条ニ従フニ非サレハ其未成年者ノ成年ニ達セル者ヨリ贈与ヲ収受スルコトヲ得ス
第千七百二十条　無能力者ノ利益ニ於ケル贈与又ハ遺嘱ハ前来ノ義務執行若クハ有償契約ニ擬スルト他人ノ名義ヲ借ルトヲ問ハス無効トス
無能力者ノ父母卑属親及ヒ配偶者ハ其名義ヲ貸与シタルモノト看做ス可シ
第三節　処置シ得可キ財産ノ部分及ヒ其超過部分ノ減殺
第一款　処置シ得可キ財産ノ部分
第千七百二十一条　贈与又ハ遺嘱ニ由ル無償名義ノ処置ハ其処置者ノ相続開始スル時子一人アレハ財産全部ノ半額ヲ超過スルコトヲ得ス又二人アレハ三分ノ一又三人以上アレハ四分ノ一ヲ超過スルコトヲ得ス
第千七百二十二条　前条ノ子トハ正出子養子又ハ庶出子ノ別ナク且ツ親等ノ遠近ヲ問ハス自身又ハ代承ニテ相続スル卑属親ヲ云フ
然レトモ代承相続人ハ被代承者ノ数ニ因テ算ス
相続ノ抛棄者ハ之ヲ算セス
第千七百二十三条　相続開始ノ時被相続人ニ卑属親ナク又ハ皆ナ抛棄シテ父系及ヒ母系ニ法律上相続ス可キ尊属親アルトキハ財産全部ノ半額ニ非サレハ贈与又ハ遺嘱ニ由リ処置スルコトヲ得ス又父系又ハ母系ノミニ其尊属親アルトキハ四分ノ三ニ非サレハ処置スルコトヲ得ス
第千七百二十四条　尊属親ノ利益ニ貯存ス可キ財産ノ定分ハ其尊属親中相続スル者ノミ之ヲ収受ス
尊属親ト同時ニ相続スル傍系親ハ其貯存ス可キ財産ノ定分ニ付分派ヲ求ムルコトヲ得ス
然レトモ尊属親ノ相続ノ部分ハ其定分ヲ包含ス
第千七百二十五条　贈与又ハ遺嘱ニ由リ終身年金権又ハ用収権ノ如キ其成立時間ノ不確実ナル権利ヲ設定シタルトキハ相続開始ノ時ニ於ケル此権利ノ估計価額ヲ査定シテ処置シ得ヘキ部分ヲ定ム
其権利ノ估計価額処置シ得ヘキ部分ヲ超過スルトキハ受貯相続人ハ或ハ被相続人ノ処置ノ如ク全ク之ヲ執行シ或ハ処置シ得ヘキ部分ノ完全ナル所有権ヲ以テ其権利ヲ買戻スコトヲ得
第千七百二十六条　処置シ得可キ部分ハ贈与又ハ遺嘱ニ因リ相続人ノ為メ其相続ノ部分外ニ之ヲ与フルコトヲ得
遺嘱ニ基ク処置ハ常ニ相続ノ部分外ノモノト看做ス
又贈与ニ基ク処置ニ付テハ其贈与ノ証書若クハ其後ノ証書ニ徴シテ処置者ノ意思ハ相続ノ部分外ニ之ヲ為セシコト明瞭ナルコトヲ要ス
第千七百二十七条　受貯相続人ノ一名又ハ数名ニ為セシ財産ノ移付ハ有償名義ノ外形ヲ付シアルト雖モ相続部分外ノ無償処置ヲ組成スルモノト看做シ其価額ハ処置シ得ヘキ部分ニ充当ス但シ反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス
反対ノ証拠ハ単純ナル受領証ヲ除クノ外普通法ニ従ヒ之ヲ供スルコトヲ得
第千七百二十八条　第千五百三十条ニ列記シタル家督相続所属ノ特権ハ処置シ得ヘキ財産部分ノ査定中ニ包含セサルモノトス
第二款　処置シ得可キ財産ノ超過部分ノ減殺
第千七百二十九条　処置シ得可キ部分ヲ超過スル贈与又ハ遺嘱ハ相続開始ノ時ニ基キ之ヲ其部分ニ減殺ス
第千七百三十条　贈与ノ超過部分ノ減殺ハ受貯相続人又ハ其相続人又ハ其承継人又ハ其債権者ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
被相続人ノ債権者ハ受貯相続人単純ニ相続ヲ受諾シタル場合ニ限リ第八百五十九条ノ規則ニ拠リ其減殺ヲ請求スルコトヲ得
第千七百三十一条　減殺ス可キ分量ハ相続開始ノ時ニ現存スル総テノ財産ノ估計価額ヨリ被相続人ノ債務額ヲ控除シテ尚ホ剰余額アルトキハ其剰余額ト贈与シタル財産全部ノ估計価額トノ合計額ニ付若シ又其剰余額アラサルトキハ贈与シタル財産ノ估計価額ノミニ付受貯相続人ノ数及ヒ資格ニ応シテ之ヲ算定ス
第千七百三十二条　相続開始ノ時ニ現存スル財産ハ其時ニ於ケル景状及ヒ価格ニ従ヒ其估計価額ヲ査定ス可シ
贈与シタル財産ハ受贈者ノ所為ヲ以テ之ニ致シタル改良又ハ破損ニ拘ラス贈与ノ時ノ景状ニテ尚ホ存スルモノトシ相続開始ノ時ニ於ケル価額ニ従ヒ其估計価額ヲ査定ス可シ
然レトモ天然又ハ偶然ノ原由ヨリ財産ニ致シタル景状ノ変更ハ其估計価額ノ査定上ニ算入ス可シ
第千七百三十三条　貯存ス可キ財産ノ分量ヲ組成スルニハ先ツ遺嘱ニ由リ処置シタル財産ヲ減殺シ之ヲ減殺シ尽シタル後ニ非サレハ贈与ヲ減殺ス可カラス
第千七百三十四条　贈与シタル財産ノ分量処置シ得可キ部分ヲ超過シ若クハ之ニ均シキトキハ遺嘱ニ由ル処置ハ無効ニ帰ス
又遺嘱ニ由ル処置ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財産ノ分量ヲ組成スルコトヲ得ルトキハ包括名義ノ遺嘱ト特定名義ノ遺嘱トヲ問ハス其価額ノ割合ヲ以テ総テノ遺嘱ヲ減殺ス可シ但シ遺嘱者ニ反対ノ意思アリタルコト明瞭ナルトキハ此例ニ在ラス
第千七百三十五条　贈与ノ減殺ハ最後ノ贈与ヨリ始メ順次ニ最先ノ贈与ニ及ホス可シ
第千七百三十六条　前条ノ順次ニ於テ減殺ニ服ス可キ受贈者ノ無資力ヨリ生スル損失ハ特ニ受貯相続人ノ負担ニ帰ス但シ受貯相続人ハ其受贈者ニ対スル賠償ノ訟求権ヲ保有ス
第千七百三十七条　受贈者ハ減殺ニ服ス可キ元本ヲ返還スルノ外尚ホ減殺ノ訟求ヲ受ケタル日ヨリ起算シテ其元本ノ利子及ヒ果実ヲ返還ス可シ
第千七百三十八条　贈与シタル不動産ヲ減殺ニ因リ取戻シタルトキハ受贈者ノ之ニ設定シタル総テノ負担ヲ無効ト為ス
第千七百三十九条　何レノ場合ニ於テモ受贈者ハ減殺ニ服ス可キ財産ノ估計価額ヲ金銭ニテ提出シ原物ノ返還ヲ免カルヽコトヲ得
第千七百四十条　減殺ニ服ス可キ不動産第三者ニ移転シタルトキハ受贈者ノ財産ヲ以テ其不動産ノ估計価額若クハ其現状ノ実価額ヲ賠償スルニ足ラサルトキニ非サレハ第三者ニ対シ減殺ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得ス
第三者ハ其估計価額若クハ其現状ノ実価額ニ達スルマテノ金銭ヲ提出シ減殺訴権ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第千七百四十一条　第三者ニ対スル減殺訴権ハ受贈者ヨリ所有権ヲ移転シタル行為ノ登記日附ノ順ニ従ヒ最後ノ行為ヨリ始メ順次ニ最先ノ行為ニ及ホシテ之ヲ執行ス可シ但シ其行為無償名義ニ出タルト有償名義ニ出タルトヲ区別スルコトヲ要セス
第四節　包括名義ニ於ケル生存者間ノ贈与
第一款　贈与ノ法式
第千七百四十二条　生存者間ノ贈与ハ普通ノ合意ノ成立ニ必要ノ条件ヲ具備スルト雖モ尚ホ贈与者其贈与ヲ為スノ意思ヲ明言シ受贈者之ヲ受諾スルノ意思ヲ明言スルニ立会タル公証人公正証書ノ法式ニ従ヒ作リタル証書アルニ非サレハ成立セサルモノトス
然レトモ債務ノ釈放、所有権外ノ物上権ノ抛棄、慣習ノ贈物、及ヒ有体動産ノ手渡ニ成ル贈与ニ付テハ此法式ヲ要セス
第千七百四十三条　前条ノ法式ニ違背シテ有償名義ノ契約ヲ仮設シタル贈与ハ法律上当然無効トス
贈与ノ事実ハ総テノ証拠方法ニ依リ之ヲ証明スルコトヲ得
第千七百四十四条　贈与ノ提意ト受諾トヲ同時ニ為スコトヲ要セス提意ノ後ニ受諾ヲ与フルコトヲ得但シ贈与者其提意ヲ保持シ及ヒ無償名義ニテ処置スル能力ヲ有スル間ニ限ル可シ
第千七百四十五条　受諾ハ前条ノ期間ニ第千七百四十二条ニ従ヒ其意思ヲ明言シタル公正証書ヲ作ルニ因リ完成ス
第千七百四十六条　受贈者ノ受諾完成シタルトキハ贈与者之ヲ知ルト否トヲ問ハス其提意ヲ変改スルコトヲ得ス
提意ノ変改ト受諾トノ先後ハ第八百二十九条第三項ノ規則ニ従ヒ之ヲ査定ス
第千七百四十七条　財産ヲ処置スルノ能力ヲ有スル受贈者ハ自己ノ意思ヲ以テ受諾ヲ為スコトヲ要ス但シ受諾ヲ為スコトヲ依頼シタル特別代理ノ委任状ヲ有スル合意上ノ代理人ハ受贈者ノ名義ヲ以テ受諾ヲ為スコトヲ得
第千七百四十八条　未成年者禁治産者准禁治産者及ヒ有夫ノ婦其他総テ財産ヲ処置スルノ完全ナル能力ヲ有セサル者ノ利益ニ於ケル贈与ノ受諾ハ其各自ノ為メニ定メタル法式ニ従ヒ之ヲ為スコトヲ要ス
第千七百四十九条　病院学校其他公ケノ無形人ノ利益ニ於ケル贈与ノ受諾ハ第千七百十八条ニ従ヒ其贈与ヲ収受スルニ必要ノ允許ヲ得タル後其管理者之ヲ為ス可シ
第千七百五十条　合意ニ因ルト法律ニ因ルトヲ問ハス受贈者ヲ代表シテ受諾ヲ為ス可キ者ハ其受諾ヲ怠リテ受贈者ニ及ホスコトアル可キ損害ノ責ニ任ス
第千七百五十一条　未成年者及ヒ禁治産者ノ後見人准禁治産者ノ保管人無形人ノ管理者其外他人ノ財産ヲ管理スル者ハ贈与中ニ包含スル不動産物権ノ登記ヲ怠リテ受贈者ニ及ホスコトアル可キ損害ノ責ニ任ス
第千七百五十二条　有夫ノ婦ハ贈与ニ由リ得タル不動産物権ノ登記ヲ求ムルニ付夫ノ承諾ヲ要セス
夫モ亦婦ノ依託ヲ要セス躬ラ婦ノ名義ニテ其登記ヲ求ムルコトヲ得
第千七百五十三条　贈与ハ贈与者ノ現有財産ニ非サレハ包含セス若シ将来ノ財産ヲ包含シタルトキハ其財産ニ付贈与ハ無効トス
然レトモ員数ノ定マリタル金銭又ハ量定物ノ贈与ハ贈与者ノ現有スルト否トヲ問ハス有効トス
第千七百五十四条　贈与ノ性質又ハ約務ニ因リ受贈者カ贈与者ノ債務ヲ弁済スルノ義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈与ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セサルモノトス
若シ受贈者カ贈与者ノ将来ノ債務ヲ弁済ス可キコトノ約務ヲ為シタルトキハ其約務ハ無効トス
第千七百五十五条　贈与者其贈与シタル財産中特定ノ物件又ハ金額ヲ処置スルノ権能ヲ貯存シタルトキハ其権能ハ贈与者ノ死去ニ因リ消滅ス但シ遺嘱又ハ其他ノ方法ニ因リ此権能ヲ第三者ニ移転シタルトキハ此例ニ在ラス
第千七百五十六条　動産ノ贈与ハ慣習ノ贈物又ハ手渡ニ成ルモノヲ除クノ外其贈与証書ニ贈与者及ヒ受贈者又ハ受贈者ノ名義ニテ受諾スル者ノ署名シタル物件ノ評価目録ヲ添フ可シ
此目録ニ掲載セサル動産ニ付テハ贈与ノ効ナシ
第千七百五十七条　贈与者其贈与シタル財産ノ全部又ハ一部ニ付自己若クハ第三者ノ利益ニ用収権ヲ貯存シタルトキハ受贈者ハ其用収権ノ終ニ至リ其財産ヲ現状ニテ収受ス但シ用収者ノ過愆ニ因リ破損シ又ハ滅尽シタル財産ニ付テハ用収者又ハ其相続人ニ対シ賠償ヲ請求スルコトヲ得
此賠償額ノ査定ハ不動産ニ関シテハ用収権了終ノ時ニ於ケル価格ニ従ヒ又動産ニ関シテハ其目録ノ評価ニ従フモノトス
第千七百五十八条　贈与者ハ自己ノ利益ニ於ケルニ非サレハ自己ヨリ先キニ受贈者死去スルトキ其贈与ヲ解除ス可キ未必条件ヲ約定スルコトヲ得ス
若シ第三者ノ利益ニ此解除ノ未必条件ヲ約定シタルトキハ其条件ハ無効トス
第千七百五十九条　前条第一項ニ従ヒ有効ニ約定シタル解除ノ未必条件ノ成就ハ受贈者ノ相続人ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ付約定シタル解除ノ未必条件ト同一ノ効力ヲ生ス
然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ラス受贈財産ニ付左ノ二箇ノ条件具備スルトキハ法律上ノ抵当権ヲ保有ス
一　其贈与ハ夫婦財産契約ニ因リ夫ノ利益ニ為セシモノナルトキ
二　其贈与外ニ於ケル夫ノ特有財産ヲ以テ婦ノ特有財産ノ返還ヲ確保スルニ足ラサルトキ
第二款　贈与ノ特別ナル廃棄ノ原由
第千七百六十条　贈与ハ一般ニ合意ヲ無効ト為ス原由ノ外尚ホ贈与者ノ約権シタル条件不執行又ハ受贈者ノ忘恩ノ為メ之ヲ廃棄スルコトヲ得
贈与者ニ子ノ出生シタル事実ハ贈与廃棄ノ原由タラス但シ第千五百九十六条ノ適用ヲ妨ケス
第千七百六十一条　然レトモ贈与者ハ子ノ出生ヲ以テ贈与解除ノ未必条件トシテ約定スルコトヲ得此場合ニ於テ其子ノ出生ハ一般解除ノ未必条件ノ成就ト同一ノ効果ヲ生ス但シ其子ノ活テ出生スルコトヲ要ス
第千七百六十二条　条件ノ不執行ニ基ク贈与ノ廃棄ハ当然ニハ成立セス贈与者又ハ其承継人ヨリ之ヲ裁判所ニ請求ス可シ但シ裁判所ハ第九百二十六条ニ従ヒ受贈者ニ猶予期限ヲ与フルコトヲ得
第千七百六十三条　条件ノ不執行ニ基キ贈与ヲ廃棄シタル場合ニ於テハ受贈者ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス未必条件ノ成就ニ因リ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ効果ヲ生ス
第千七百六十四条　贈与ハ左ニ記載シタル原由ノ一アルニ非サレハ忘恩ノ為メ之ヲ廃棄スルコトヲ得ス
一　受贈者悪意ヲ以テ贈与者ノ身体、財産又ハ名誉ニ対シ刑法上軽罪又ハ重罪ト名状スル所為ヲ行ヒタルトキ
二　受贈者カ贈与者ニ養料ヲ給スルコトヲ否拒スルトキ但シ養料ヲ給スヘキ親族アラサルトキニ限ル可シ
第千七百六十五条　受贈者ノ忘恩ニ基ク贈与ノ廃棄ハ当然ニハ成立セス
此廃棄訴権ハ第千七百六十八条第一但書ノ場合ヲ除クノ外贈与者自身ニ属スルモノトス
第千七百六十六条　忘恩ニ基ク贈与ノ廃棄ハ贈与物ニ付第三者カ善意ヲ以テ得タル権利ヲ害セス但シ贈与者カ第八百七十二条ニ従ヒ贈与証書ノ登記欄外ニ廃棄ノ訟求書ヲ摘録シタル後ニ受贈者ヨリ贈与物ニ付物上権ヲ得タル者ハ自己ノ善意ヲ対抗スルコトヲ得ス
第千七百六十七条　忘恩ニ基キ贈与ヲ廃棄セラレタル受贈者ハ左ノ責ニ任ス
一　其現有スル受贈物ノ返還
二　廃棄訟求ノ日ヨリ受贈物ニ付既ニ収取シ又ハ収取ヲ怠リタル果実ノ返還
三　前条ニ従ヒ贈与者ノ忍容ス可キ第三者ノ権利ニ対スル賠償
四　忘恩ノ所為以来受贈者ノ過愆ニ因リ受贈物ニ致シタル破損又ハ滅尽ノ賠償
賠償額ハ廃棄訟求ノ時ニ於ケル物件ノ価額ニ従ヒ之ヲ定ム可シ
第千七百六十八条　忘恩ニ基ク贈与廃棄ノ訴権ハ左ノ原由ニ因リ消滅ス
一　受贈者又ハ贈与者ノ死去但シ贈与者ノ死去ハ忘恩ノ所為ニ原由セシトキハ其相続人ヨリ贈与ノ廃棄ヲ請求スルコトヲ得
二　公正証書又ハ私証書ヲ以テ為シタル贈与者ノ容赦
三　何レノ場合ニ於テモ満一个年間其訴権ノ不執行但シ其期限ハ訴権ヲ有スル者カ受贈者ニ忘恩ノ所為アリタルコトヲ知リタル日ヨリ起算ス
第千七百六十九条　慣習ノ贈物及ヒ有体動産ノ手渡ニ成ル贈与ハ忘恩ニ基キ廃棄スルコトヲ得サルモノトス
第五節　婚姻ノ利益ニ第三者ノ為シタル贈与
第千七百七十条　婚姻ノ利益ニ第三者ノ為シタル贈与ハ特定名義ニ於ケルト包括名義ニ於ケルトヲ問ハス下ノ変更ヲ除クノ外本篇第一部第九章及ヒ第二部第二章第一節乃至第四節ニ規定シタル各条例ニ従フ
第千七百七十一条　婚姻ノ利益ニ於ケル贈与ハ離婚ノ場合ニ於テハ解除ス可キ条件ヲ以テ為シタルモノト看做ス但シ此解除ハ贈与者又ハ其相続人ノ訟求ニ因リ裁判上之ヲ宣告ス
第千七百七十二条　此解除ハ一般ニ合意ノ解除ト同一ノ効果ヲ生ス然レトモ贈与物ニ付受贈者ノ収取シタル利子及ヒ果実ハ解除ノ訟求ノ日ヨリ起算スルニ非サレハ請求スルコトヲ得ス
第千七百七十三条　此解除ノ訴権ハ明瞭ナル棄権ノ場合ヲ除キ離婚ノ日ヨリ満五个年ニテ消滅ス
第千七百七十四条　受贈者贈与ノ原由タル婚姻ヨリ所出ノ卑属親ナクシテ死去シ且ツ贈与者尚ホ生存スルトキハ其贈与ハ法律上当然贈与者ニ復帰ス
第千七百七十五条　前条ノ場合ニ於ケル贈与ノ復帰ハ第三者ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス然レトモ贈与証書ノ登記欄外ニ贈与者カ其権利執行ノ訟求書ヲ摘録シタル後受贈者ノ遺産保持人ヨリ贈与物ニ付不動産権利ヲ得タル第三者ニ対シテハ格別ナリトス
第千七百七十六条　第千七百七十四条ニ従ヒ贈与ノ復帰スル場合ニ於テ返還ス可キモノ左ノ如シ
一　受贈者死去ノ時其遺産中ニ尚ホ原物ニテ存在スル物
二　贈与カ金銭又ハ量定物ヲ包含セシトキハ其対価額
三　受贈者死去ノ日ヨリ贈与物ニ付収取シタル利子及ヒ果実
四　受贈者生存中第三者カ贈与物ニ付有償名義ニテ得タル権利ノ賠償額
五　受贈者ノ死去シタル後贈与物ニ付第三者カ有効ニ得タル権利ノ賠償額
六　受贈者ノ死去シタル後其遺産保持人ノ過愆ニ因リ贈与物ニ致シタル破損又ハ滅尽ノ賠償額但シ此賠償ハ過愆者ニ対スルニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
此条ニ規定シタル対価額又ハ賠償額ハ贈与ノ時ノ景状ニ依リ受贈者死去ノ時ニ於ケル物件ノ估計価格ニ従ヒ之ヲ定ム
第千七百七十七条　夫婦財産契約ト異別ナル証書ニ因リ婚姻ノ際ニ第三者カ贈与ヲ為シタルノミノ事情ハ婚姻ノ利益ニ於ケル贈与ヲ推測セス
又婚姻公式後ニ第三者カ為シタル贈与ニ付テハ仮令ヒ証書上婚姻ノ利益ニ於ケル旨ヲ明記シタリト雖モ贈与者ハ此節ニ規定シタル利益ヲ効用スルコトヲ得ス
第六節　夫婦財産契約依リ若クハ婚姻中ニ為ス夫婦間ノ贈与
第千七百七十八条　夫婦ハ其財産契約ニ依ルト婚姻中ノ合意ニ依ルトヲ問ハス普通ノ法式ニ従ヒ且ツ其処置シ得可キ財産ノ部分ニ非サレハ一方ヨリ他ノ一方ニ又ハ互相ニ贈与スルコトヲ得ス
右ノ外夫婦間ノ贈与ハ下ノ変更ニ従フ
第千七百七十九条　夫婦ハ未成年ト雖モ一方ヨリ他ノ一方ニ又ハ互相ニ贈与ヲ為スコトヲ得
然レトモ其婚姻ノ有効ナル為メ承諾ヲ与フ可キ人ノ承諾及ヒ立会ヲ得且ツ夫婦財産契約ニ依ルニ非サレハ其贈与ヲ為スコトヲ得ス
第千七百八十条　夫婦間ノ贈与ハ其財産契約ニ依ルモノト婚姻中ノ合意ニ依ルモノトヲ問ハス前節ニ規定シタル解除ノ未必条件ニ従フ
第千七百八十一条　夫婦間ノ贈与ハ共同ノ卑属親又ハ養子無クシテ受贈者死去シ贈与者尚ホ生存スルトキハ法律上当然贈与者ニ復帰ス
第千七百八十二条　夫婦間ノ贈与ハ贈与者随意ニ之ヲ廃棄スルコトヲ得
婦ハ夫又ハ裁判所ノ允許ヲ要セスシテ贈与ノ廃棄ヲ為スコトヲ得但シ婚姻ノ継続中ニ非サレハ此廃棄ヲ訟求スルコトヲ得ス
第千七百八十三条　前二条ニ従ヒ贈与ノ復帰シ又ハ廃棄シタル場合ニ於テ受贈者其承権人及ヒ第三者ニ対スル効力ニ付テハ第千七百七十五条及ヒ第千七百七十六条ヲ適用ス
第千七百八十四条　此節ニ規定シタル制限ニ違フ贈与ノ約款ハ記載ナキモノト看做ス
第千七百八十五条　夫婦間ノ贈与ハ前来ノ義務執行又ハ有償契約ニ擬スルト他人ノ名義ヲ借ルト間接ナルトヲ問ハス此節ニ規定シタル制限ニ従フ
第千七百八十六条　夫婦ノ一方ヨリ他ノ一方ノ父母又ハ卑属親ニ為シタル贈与ハ他人ノ名義ヲ借リ之ヲ他ノ一方ニ為シタルモノト看做ス
第千七百八十七条　夫婦ノ一方相続権又ハ其他ノ権利ヲ抛棄シ其利益ノ全部他ノ一方ニ帰ス可キトキハ其抛棄ハ間接ノ贈与ヲ組成ス
第七節　遺嘱贈遺
第一款　遺嘱ノ普通法式
第千七百八十八条　遺嘱ハ遺嘱者自筆ノ証書又ハ公正証書又ハ秘密ノ法式ニ依リ之ヲ為スコトヲ得
然レトモ二人以上ノ人カ第三者ノ利益ニ於ケルト互相ノ利益ニ於ケルトヲ問ハス一箇ノ証書ヲ以テ遺嘱ヲ為スコトヲ得ス
第千七百八十九条　自筆ノ遺嘱証書ハ遺嘱者其全文日附及ヒ氏名ヲ自書シ捺印シタルモノニ非サレハ有効トセス
第千七百九十条　公正証書ニ依ル遺嘱ハ公証人一名及ヒ証人二名若クハ公証人二名ノ面前ニ於テ遺嘱者其遺嘱ノ趣旨ヲ口授シ公証人ノ一名之ヲ筆記シ終リテ朗読シタル後遺嘱者並ニ立会人各其氏名ヲ自書シ捺印シタルトキニ非サレハ有効トセス
然レトモ氏名ヲ自書スルコトヲ知ラス又ハ自書スルコト能ハサル者アルトキハ其事由ヲ証書ノ末尾又ハ欄外ニ記入ス可シ
此記入ハ氏名自書ノ虧欠ヲ補充ス
第千七百九十一条　秘密ノ法式ニ依ル遺嘱証書ハ遺嘱者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ記載シタルトヲ問ハス左ノ条件ニ適合シタルモノニ非サレハ有効トセス
一　遺嘱者ノ氏名ヲ自書シ捺印シタルコト
二　其遺嘱書ヲ封シテ遺嘱者之ニ封印シタルコト
三　遺嘱者ハ公証人一名及ヒ証人四名ノ面前ニ此封書ヲ提出シテ自己ノ遺嘱書タル旨ヲ陳述シタルコト
四　公証人ハ遺嘱者ノ陳述ト之ヲ聴聞シタル日附トヲ其封書ノ表面ニ記載シテ遺嘱者及ヒ証人ト共ニ各氏名ヲ自書シ捺印シタルコト但シ此場合ニ於テ氏名ヲ自書スルコトヲ知ラス若クハ自書スルコト能ハサル者アルトキハ公証人其事由ヲ封書ノ表面ニ記入スルヲ以テ足レリトス
公証人ハ遺嘱者ノ死後其相続人立会ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記載シタル受領書ヲ遺嘱者又ハ其指定シタル証人中ノ一名ニ渡ス可シ
第千七百九十二条　文字ヲ読ムコトヲ知ラス又ハ文字ヲ書クコトヲ知ラサル者ハ秘密ノ法式ニ依ル遺嘱ヲ為スコトヲ得ス
第千七百九十三条　遺嘱者言語ヲ発スルコト能ハスト雖モ文字ヲ書クコトヲ得ル場合ニ於テハ秘密ノ法式ニ依ル遺嘱ヲ為スコトヲ得
然レトモ此場合ニ於テハ公証人及ヒ証人ノ面前ニ於テ封中ノ遺嘱ハ自書タル旨ヲ封書ノ表面ニ自書ス可シ
第千七百九十四条　秘密ノ法式ニ依ル遺嘱トシテハ無効ノモノト雖モ其全文日附及ヒ氏名共ニ遺嘱者ノ自筆ニ係ルモノハ自筆ノ遺嘱証書トシテ有効トス
第千七百九十五条　遺嘱者ノ四親等ニ至ルマテノ血族姻族及ヒ受嘱者並ニ遺嘱ニ立会フ公証人ノ筆生其他無能力者ハ遺嘱ノ証人ト為ルコトヲ得ス
第二款　特別ノ遺嘱法式
第千七百九十六条　軍人及ヒ軍属ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ内地ト雖モ交戦若クハ合囲中ニ在ル者ハ将校一名証人二名ノ面前ニ於テ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
敵国ニ俘虜ト為リタル者日本人タル将校及ヒ其他ノ者ヲ以テ立会人及ヒ証人ト為スコト能ハサルトキハ日本語ニ通スル外国人二名ノ面前ニ於テ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
第千七百九十七条　遠征中又ハ交戦若クハ合囲中ニ在ル軍人及ヒ軍属ニシテ疾病又ハ負傷ノ為メ病院ニ在ル者ハ其院ノ医官並ニ事務官ノ補助ヲ受ケ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
第千七百九十八条　伝染病ノ為メ行政ノ処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ノ者ト否ラサル者トヲ問ハス保安官一名及ヒ証人一名ノ面前ニ於テ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
第千七百九十九条　前三条ノ法式ニ従ヒ作リタル遺嘱書ハ遺嘱者通常ノ法式ニ従ヒ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得ルニ至リシヨリ六个月後ハ無効トス
第千八百条　海上旅行中ハ左ノ法式ニ従ヒ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
一　官ノ艦船ニ在テハ其艦船ノ事務官其他ノ船舶ニ在テハ船長又ハ事務員ノ面前ニ於テ他ノ事務員ノ補助ヲ受ケ遺嘱書ヲ作ルコトヲ得
二　証人二名之ニ立会フ可シ但シ乗組人員不足スルトキハ其事由ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
第千八百一条　如何ナル場合ニ於テモ前条ノ法式ニ従ヒタル遺嘱書ハ之ヲ正本二通ニ作ル可シ
第千八百二条　其艦船帝国領事ノ駐在スル外国ノ港ニ着スルトキハ遺嘱者其正本一通ヲ封シ之ヲ領事ニ差出シ領事ハ之ヲ海軍大臣ニ送致シ海軍大臣ハ之ヲ遺嘱者住所ノ区裁判所書記局ニ寄置ス可シ
第千八百三条　其艦船帝国ノ港ニ着スルトキハ遺嘱書ノ正本二通ヲ封シ若シ又前条ニ従ヒ旅行中其一通ヲ領事ニ差出セシトキハ他ノ一通ヲ封シ其地ノ郡市役所又ハ区裁判所ニ差出シ之ヲ領取シタル官署ハ遺嘱者住所ノ区裁判所書記局ニ之ヲ寄置ス可シ
第千八百四条　海上ニテ遺嘱書ヲ作リ及ヒ着港ノ際相当官署ニ之ヲ差出シタルトキハ其都度乗組人名簿ニ其旨ヲ記入ス可シ
第千八百五条　海上ニテ作リタル遺嘱書ハ遺嘱者上陸シテ通常ノ法式ニ従ヒ之ヲ作ルコトヲ得可キ地ニ止マリシヨリ六个月後ハ無効トス
第千八百六条　海上ニテ作リタル遺嘱書中其艦船ノ役員ノ利益ニ於ケル処置ハ無効トス但シ其役員遺嘱者ノ血族タルトキハ此限ニ在ラス
第千八百七条　本款ノ規則ニ従ヒ作リタル遺嘱書ニハ遺嘱者其記載者立会人及ヒ証人各氏名ヲ自書シ且ツ捺印ス可シ
若シ氏名ヲ自書スルコトヲ知ラス若クハ自書スルコト能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺嘱書ノ末尾又ハ欄外ニ記入ス可シ
第千八百八条　外国ニ在ル日本人ハ第千七百八十九条ニ従ヒ自筆ノ法式ニ依リ若クハ其地ニ用フル公正ノ法式ニ従ヒ遺嘱ノ処置ヲ為スコトヲ得
又其地ニ公証人ノ職務ヲ行フコトヲ得ヘキ領事駐在スルトキハ第千七百九十条及ヒ第千七百九十一条ニ従ヒ其領事ノ面前ニ於テ公正証書ノ法式又ハ秘密ノ法式ヲ以テ遺嘱ヲ為スコトヲ得
第千八百九条　外国ニ於テ作リタル遺嘱書ハ遺嘱者帝国内ニ有スル住所ノ区裁判所書記局ノ簿冊ニ之ヲ登録シ其住所知レサルトキハ最終居所ノ区裁判所書記局ノ簿冊ニ之ヲ登録シタル後ニ非サレハ帝国内ニ在ル財産ニ付其遺嘱ヲ執行スルコトヲ得ス
又其遺嘱書ニ帝国内ニ在ル不動産ノ処置ヲ包含スルトキハ其不動産所在地ノ登記役所ニ登記シタル後ニ非サレハ第三者ニ対シ之ヲ対抗スルコトヲ得ス
第千八百十条　帝国内ニ在ル外国人ハ帝国ノ法律ニ従ヒ又ハ其本国ノ法律ニ従ヒ遺嘱ヲ為スコトヲ得
然レトモ不動産ニ関スル遺嘱ノ処置ハ帝国ノ法律ニ従ヒ之ヲ公示スルニ非サレハ第三者ニ対シ効力ヲ有セス
第三款　遺嘱ノ効力及ヒ執行
第千八百十一条　包括名義ニ於ケル単純又ハ有期ノ贈遺ハ遺嘱者死去ノ時ヨリ受嘱者ノ知ルト否トニ拘ラス其包含スル財産ノ働方及ヒ受方ヲ受嘱者ニ移転ス然レトモ有期ノ贈遺ハ要求期ノ到ルマテ其執行ヲ停止ス
停止又ハ解除ノ未必条件ニ係ル贈遺ノ効力ハ合意ノ事項ニ規定シタル如ク其未必条件ノ到着如何ニ従フモノトス
何レノ場合ニ於テモ受嘱者其贈遺ヲ拒絶スルノ権利ヲ妨ケス
第千八百十二条　遺嘱書ハ其種類ノ何タルヲ問ハス相続開始地ノ地方裁判所長ノ検証ヲ得タル上ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
封印アルモノハ其裁判所長ノ面前ニ非サレハ開封スルコトヲ得ス違フモノハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス但シ開封者公証人ナルトキハ一等ヲ加フ
第千八百十三条　前条ノ検証ヲ得テ要求期ノ到リタル贈遺ノ受嘱者ハ総テ相続財産ノ保持人ニ対シ其引渡ヲ請求スルコトヲ得但シ貯存財産ヲ組成スル為メ第千七百三十四条ニ従ヒ之ヲ減殺ス可キトキハ格別ナリトス
第千八百十四条　贈遺ノ引渡ハ特定名義ニ於ケル贈遺物ノ引渡ニ関スル第千百四十七条ノ規定ニ従ヒ之ヲ為ス可シ
第千八百十五条　遺嘱ノ執行及ヒ贈遺物ノ引渡ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但シ貯存財産ニ之ヲ負ハシムルコトヲ得ス
第千八百十六条　元本ニ於ケル包括名義ノ贈遺ノ受嘱者ハ其利子及ヒ果実ニモ亦権利ヲ有ス然レトモ第千百四十六条ノ規定ニ従フニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第千八百十七条　包括名義ニ於ケル受嘱者モ亦其遺嘱中ニ包含スル不動産ノ処置ハ第千百五十二条以下ノ制限ニ従ヒ公示方法ヲ完充スルニ非サレハ第三者ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス
公示方法ノ費用ハ受嘱者ノ負担トス
第四款　遺嘱執行者
第千八百十八条　遺嘱者ハ合意又ハ遺嘱ニ依リ贈遺ノ執行ヲ一人又ハ数人ニ依託スルコトヲ得但シ其依託ヲ受ケタル遺嘱執行者ハ一般ニ義務ヲ負フコトヲ得ル能力者タルコトヲ要ス
第千八百十九条　遺嘱執行者ハ依託証書ニ規定シタル執行方法ニ従ヒ善良ノ管理人タルノ注意ヲ以テ遺嘱ヲ執行ス可シ
若シ依託証書ニ執行方法ヲ規定セス又ハ其規定不明若クハ不法ナルトキハ下数条ノ規則ヲ以テ之ヲ補充ス
第千八百二十条　遺嘱執行者ハ相続人中未成年者禁治産者其他ノ無能力者又ハ失踪者アルトキハ民事訴訟法ニ従ヒ相続財産ノ封印ヲ請求シ又何レノ場合ニ於テモ相続人又ハ其代表人立会ノ上若クハ適法ニ之ヲ召喚シタル上其財産ノ目録ヲ作ラシム可シ
第千八百二十一条　遺嘱執行者ハ前条ノ法式ヲ終リタル後相続財産ノ保持人ニ対シ有効ニ遺嘱ヲ執行スルニ足ル財産ノ引渡ヲ請求ス可シ
自己ノ執行ス可キ遺嘱ニ付争アルトキハ訴訟ニ参加ス可シ
第千八百二十二条　金銭ニ於ケル贈遺ヲ弁償スルニ足ル金額相続財産中ニ現存セサルトキハ処置シ得可キ部分ノ限度内ニ於テ先ツ動産ノ糶売ヲ請求シ尚ホ不足スルトキハ不動産ノ糶売ヲ請求ス可シ
然レトモ包括承継人ハ其贈遺ヲ弁償スルニ足ル金銭ヲ提出シ其糶売ヲ停止スルコトヲ得
第千八百二十三条　遺嘱執行者数名アルトキハ其中ノ一名ハ他ノ者ニ拘ラス遺嘱ヲ執行シ及ヒ連帯ニテ之ヲ計算スルノ責ニ任ス但シ遺嘱者依託ヲ以テ執行方法ヲ各執行者ニ分割シ且ツ各執行者其依託ヲ受ケタル限度内ニ於テ執行シタルトキハ格別ナリトス
第千八百二十四条　右ノ外尚ホ遺嘱執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服従ス
第千八百二十五条　遺嘱執行ノ依託ハ代理了終ノ原由ニ因リ消滅ス但シ遺嘱者ノ死去ハ此例ニ在ラス
第千八百二十六条　遺嘱執行ノ依託消滅シタルトキハ執行者ヨリ相続人及ヒ受嘱者ニ対シ其執行ノ計算ヲ為ス可シ但シ執行者ノ死去ニ因リ消滅シタルトキハ其相続人ヨリ其計算ヲ為ス可シ
第千八百二十七条　遺嘱執行ニ要セシ財産ノ封印、目録、糶売、訴訟参加、及ヒ其他ノ費用ハ第千八百十五条ニ従ヒ相続財産ノ負担トス
第五款　遺嘱ノ廃棄及ヒ其失効
第千八百二十八条　遺嘱ハ遺嘱者ノ随意ヲ以テ廃棄スルコトヲ得
廃棄ハ明瞭又ハ暗黙タルコトヲ得
第千八百二十九条　遺嘱者遺嘱ノ全部又ハ一部ヲ廃棄スル意思ヲ明言シタルトキハ其廃棄ハ明瞭ノモノトス但シ其意思ハ遺嘱ノ法式ノ一ニ従ヒ作リタル証書ニ之ヲ明言スルコトヲ要ス
第千八百三十条　後ノ遺嘱ニ依リ前ノ遺嘱ニ包含スル物ヲ処置シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺嘱ヲ暗黙ニ廃棄シタルモノトス
金銭又ハ量定物ニ付テハ後ノ遺嘱ハ前ノ遺嘱ヲ廃棄シタルモノト看做サス
前二項ノ規則ハ遺嘱者遺嘱ト牴触スル生存者間ノ有償又ハ無償ノ処置ヲ為シタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
第千八百三十一条　廃棄ニ帰シタル遺嘱ハ其廃棄ノ原由タリシ処置ノ無効ト為ルトキト雖モ更ニ有効ニ復セサルモノトス
第千八百三十二条　遺嘱ハ受嘱者ノ条件不執行ノ為メ又ハ遺嘱者ヲ死ニ致シタル原由ノ為メ第千七百六十二条以下ノ規則ニ従ヒ相続人ヨリ廃棄ヲ請求スルコトヲ得
第千八百三十三条　遺嘱者ヲ死ニ致シタル原由ニ基ク遺嘱廃棄ノ訴権ハ第千七百六十八条第三ノ期限経過ニ因リ消滅ス
第千八百三十四条　遺嘱ハ法式上完全ノモノト雖モ左ノ場合ニ於テ効ヲ失フ
一　受嘱者遺嘱者ヨリ先ニ死去シタルトキ
二　停止ノ未必条件ニ係ル遺嘱ニ付其条件ノ到着前受嘱者死去シタルトキ
三　停止ノ未必条件虧欠シタルトキ
四　受嘱者遺嘱ヲ抛棄シタルトキ
五　受嘱者遺嘱ニ依リ収受スルノ能力ヲ有セサルトキ
六　遺嘱者ノ生存中遺嘱物ノ全部滅尽シタルトキ
七　停止ノ未必条件ニ係ル遺嘱物ノ全部其条件ノ到着前不可抗力ニ因リ滅尽シタルトキ
第千八百三十五条　廃棄又ハ失効ニ帰シタル遺嘱ノ部分ニ付テハ曽テ遺嘱アラサリシモノト看做ス但シ遺嘱者同一又ハ異別ノ遺嘱ニ依リ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定セシトキハ格別ナリトス
第千八百三十六条　遺嘱ノ廃棄又ハ失効ニ帰シタル部分ヲ利得ス可キ者ノ指定ハ明瞭ナルコトヲ要ス
受嘱者数名ノ利益ニ於ケル遺嘱ノ合同ナル事情若クハ遺嘱物ノ不可分ナル性質ニ因リ其指定ヲ推測スルコトヲ得ス
第三章　夫婦財産契約
第一節　総則
第千八百三十七条　夫婦タラントスル者ハ其財産ニ関シテ風俗ヲ壊ラス若クハ公ケノ秩序ヲ害セサル契約ハ適意ニ之ヲ為スコトヲ得但シ風俗ヲ壊リ若クハ公ケノ秩序ヲ害スル約件アルトキハ其約件ハ無効トス
第千八百三十八条　夫婦財産契約ハ婚姻ノ公式前之ヲ為シ及ヒ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシムルニ非サレハ不成立トス
婚姻ノ公式後ハ其契約ヲ変更スルコトヲ得ス
第千八百三十九条　財産契約ノ変更ハ婚姻ノ公式前ト雖モ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシメ且ツ財産契約ニ関係スル諸人ノ立会及ヒ承諾アルニ非サレハ無効トス
第千八百四十条　財産契約ノ変更ニシテ前条ノ規則ニ適スルモノト雖モ財産契約書ノ原本ニ之ヲ附記シタルトキニ非サレハ第三者ニ対シテ無効トス
財産契約書ノ謄本ニ変更ヲ附記セスシテ其謄本ヲ交付シタル公証人ハ第三者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第千八百四十一条　婚姻ヲ為スコトヲ得ル未成年者ハ其父母若クハ後見人ノ立会ニテ夫婦財産契約ヲ為スコトヲ得
第千八百四十二条　財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為ス者ハ法定ノ制ニ従ヒタル者ト看做ス
所得共通ヲ法定ノ制トス
第千八百四十三条　帝国ニ於テ財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為ス外国人ハ夫タル者ノ本国ニ行ハルヽ普通ノ制ニ従ヒタル者ト看做ス
第二節　財産共通
第千八百四十四条　法定ト約束トヲ問ハス財産共通ハ婚姻ノ公式後直チニ始マリ契約ヲ以テ其開始ノ時ヲ変更スルコトヲ得ス
第千八百四十五条　財産共通ハ無形人ニアラス夫婦ハ共通財産ノ共有者タリ
第一款　所得共通
第一　財産
第千八百四十六条　所得共通ノ財産ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ現ニ所有シ若クハ将来ニ所有スヘキ動産及ヒ不動産ヨリ婚姻中ニ生シタル果実及ヒ産物
二　夫婦ノ協同若クハ各自ノ労働ニ因テ婚姻中ニ得タル物
三　本条第一及ヒ第二ニ掲クル所得ニ因テ得タル物
第千八百四十七条　前条第一ニ掲クル果実及ヒ産物ニ関スル夫婦互相ノ用収権ハ第五百七十二条第一項及ヒ第二項ヲ除クノ外第二編第二章第二節ニ定ムル用収者ノ権利ニ同シ
第千八百四十八条　夫婦若クハ其相続人ハ共通解離ノ時ニ於テ収穫スヘカリシ果実及ヒ産物ニシテ収穫セサルモノアルトキハ所有者ニ対シ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
又用収権ニ属スル物件ニ改良ヲ加ヘ其価直ヲ増シタルトキ亦同シ
第千八百四十九条　夫婦ノ特有財産ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ所有スル動産及ヒ不動産
二　夫婦ノ共有ト為スヘキコトヲ遺嘱若クハ贈与ノ条件ト為シタル場合ヲ除キ婚姻中相続遺嘱及ヒ贈与ニ依テ各自ニ得タル物
第千八百五十条　婚姻中夫婦ノ一方ニ属スル特有物ニ因テ得タル動産又ハ不動産モ亦其特有財産トス
第千八百五十一条　夫婦又ハ其相続人ヨリ其特有財産タルコトヲ証明セサル動産若クハ不動産ハ共通財産ト看做ス
夫婦ノ特有財産タルコトヲ証明セントスル者ハ総テノ証拠方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルコトヲ得
第二　負債
第千八百五十二条　所得共通ノ負債ハ左ノ如シ
一　婚姻公式ノ時夫婦ノ有スル負債ノ利子及ヒ年金義務ノ賦金
二　婚姻中夫婦ノ包括名義ヲ以テ財産ヲ獲得スルニ因テ有スル負債ノ利子及ヒ年金義務ノ賦金
三　婚姻中夫ノ為ス負債ノ元金及ヒ利子
四　婚姻中夫若クハ地方裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ為ス負債ノ元金及ヒ利子又何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル場合ニ於テ婦ノ為ス負債ノ元金及ヒ利子
五　夫婦ノ特有財産ニ付用収者ノ負担スヘキ修繕及ヒ其他ノ義務
六　夫婦ノ養料、子ノ養料、教育料其他婚姻ヨリ生スル一切ノ負担
第千八百五十三条　前条第一及ヒ第二ニ掲クル負債ノ元金ニ付テハ債主ハ負債者タル夫若クハ婦ノ特有財産ニ就キ其権利ヲ行ヒ其価額ノ負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ自己ノ為メ仮リニ共通財産ノ分派ヲ訟求シ其負債者ニ属スル部分ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得
第千八百五十四条　第千八百五十二条第三及ヒ第四ニ掲クル負債ニ付テハ其原因ノ如何ヲ問ハス債主ハ先ツ共通財産ニ就キ権利ヲ行フ可シト雖トモ尚ホ下数条ノ区別ニ従フ
第千八百五十五条　夫ノ為ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ルト雖トモ婦ノ特有財産ニ就キ之ヲ行フコトヲ得ス但シ夫婦ノ連名ヲ以テ為ス負債ニ付テハ共通財産及ヒ夫ノ特有財産ノ価額其負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ婦ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得
第千八百五十六条　夫ノ允許ヲ得テ婦ノ為ス負債ニ付テハ債主ハ婦ノ特有財産ニ就キ其権利ヲ行ヒ其価額ノ負債ヲ償フニ足ラサルトキニ限リ夫ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得但シ夫明瞭ニ其允許ヲ制限シテ保証ノ結果ヲ謝絶シタルトキハ此限ニ在ラス
第千八百五十七条　裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ為ス負債及ヒ何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル場合ニ於テ婦ノ為ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ス
第千八百五十八条　夫ノ総括若クハ特定ノ代理ニ依テ婦ノ為ス負債ニ付テハ債主ハ夫ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ルト雖トモ婦ノ特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ス
第千八百五十九条　第千八百五十二条第三及ヒ第四ニ掲クル負債ニシテ夫婦ノ中専ラ一方ノ為メニ為シタルモノナルトキハ其一方ハ所得共通ニ賠償ヲ為スノ義務ヲ有ス
夫婦ノ中専ラ一方ノ為メニ為ス負債トハ第千八百五十二条第一及ヒ第二ニ掲クル負債ノ元金ヲ弁償シ又ハ特有物ノ大修繕ヲ行ヒ又ハ前婚ノ子ニ婚資ヲ与ヘ又ハ不正ノ損害ヲ他人ニ加ヘタルニ因テ生シタル義務ヲ弁償スルニ付テ為ス負債ノ如シ
第千八百六十条　夫婦ノ一方若クハ其相続人ヨリ負債ハ第千八百五十二条第一若クハ第二ニ掲クルモノニシテ他ノ一方ノ負担ニ属スルモノタルコトヲ証明セントスルトキハ総テノ証拠方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルコトヲ得
第千八百六十一条　婚姻中ニ為シタル負債ニ付共通財産ノ管理者タル夫婦ノ中一方ヨリ専ラ他ノ一方ノ為メニ為シタルモノタルコトヲ証明セントスルトキハ普通ノ証拠方法ヲ用ユ可シ
又他ノ一方ヨリ専ラ管理者自己ノ為メニ為シタルモノタルコトヲ証明セントスルトキハ前条ノ規則ヲ適用ス
第三　財産ノ管理
第千八百六十二条　共通財産ノ管理ハ夫ニ属ス
日常家事ニ関シ婦ノ為ス管理ハ夫ノ与ヘタル総括ノ代理ニ依テ為スモノト看做ス
第千八百六十三条　婦過度ノ負債ヲ為シ日常家事ヲ管理スル権ヲ濫用スルトキハ地方裁判所ハ夫ノ請求ニ依リ婦ノ管理権ヲ停止スルコトヲ宣告シ且ツ新聞紙ニ其裁判ヲ公告スヘキコトヲ命スルコトヲ得
第千八百六十四条　夫失踪シ又ハ禁治産ヲ受ケ又ハ瘋癲病院ニ入リ若クハ自宅ニ監置セラレタルトキハ共通財産ノ管理ハ当然婦ニ属ス
第千八百六十五条　夫又ハ管理ヲ為ス婦ハ有償ニテ共通財産ヲ移付シ若クハ所得共通ノ為メ之ヲ抵保ト為スコトヲ得
夫ハ婦ノ承諾ナク又管理ヲ為ス婦ハ裁判所ノ允許ナクシテ無償ニテ共通財産ヲ移付シ若クハ他人ノ為メ之ヲ抵保ト為スコトヲ得ス但シ慣習ノ贈物ハ此限ニ在ラス
第千八百六十六条　夫婦ノ一方事実上若クハ法律上承諾ヲ表スルコト能ハサルトキニ限リ他ノ一方ハ共通財産ヲ以テ共同子ノ婚姻若クハ営業ノ為メ資財ヲ与フルコトヲ得
承諾ヲ表スルコト能ハサル者ノ負担スル部分ハ其配偶者ノ負担スル部分ニ超過スルコトヲ得ス
夫婦ノ互相ニ負担スヘキ部分ヲ定メサル場合ニ於テハ各其資財ノ半額ヲ負担ス
第千八百六十七条　夫婦ハ共通財産中自己ニ属スヘキ部分又ハ其財産中特定ノ物品ヲ遺嘱スルコトヲ得
特定ノ物品ノ受嘱者ハ分派ノ結果ニ由リ相続人ノ配当部分中ニ其物品ノ加ハラサル時ハ現品ニテ之ヲ要求スルコトヲ得ス此場合ニ於テハ受嘱者ハ相続人ノ受クル配当部分及ヒ遺嘱者ノ特有財産ニ就キ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
第千八百六十八条　婦ノ特有財産ハ夫之ヲ管理ス但シ第千八百六十四条ニ掲クル場合ニ於テハ婦ハ当然躬ラ之ヲ管理ス
第千八百六十九条　婦ノ特有財産ヲ管理スル夫ハ婦ノ承諾アルニ非サレハ有償ニテモ其財産ヲ移付シ若クハ抵保ト為スコトヲ得ス
然レトモ婦事実上若クハ法律上承諾ヲ表スルコト能ハサル場合ニ於テハ夫ハ裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ前婚若クハ庶出ノ子ノ婚姻又ハ営業ノ為メ其特有財産ヲ以テ資財ヲ与フルコトヲ得
第千八百七十条　夫ハ婦ノ承諾ヲ得スシテ婦ノ特有財産ニ関スル占有訴権ノミヲ行フコトヲ得
第千八百七十一条　夫カ婦ノ特有財産ニ付其承諾ナクシテ為ス賃貸ニハ第六百二十六条以下ノ規則ヲ適用ス
第千八百七十二条　夫若クハ管理ヲ為ス婦ハ共通財産ニ付第六百二十六条ニ定ムル期限ヲ超過スル賃貸ヲ為スコトヲ得
若シ約束ノ期限中ニ財産共通ノ解離スルトキハ其賃貸ハ同条ノ期限間仍ホ其効ヲ有ス
第千八百七十三条　夫其婦ノ特有財産ヲ売却シタルトキハ其代価ヲ再用シ又ハ之ヲ専ラ婦ノ為メニ利用ス可シ若シ其再用又ハ利用ヲ為サ丶ル場合ニ於テハ婦若クハ其相続人ハ財産共通解離ノ時夫若クハ其相続人ニ対シ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第千八百七十四条　夫再用ニ供スル為メ婦ノ特有財産ヲ以テ為ス獲得ハ婦承諾ヲ表シタルトキニ非サレハ再用ノ効ヲ生セス
第千八百七十五条　夫ノ特有財産ヲ以テ為ス獲得ハ夫其獲得ノ当時再用ニ供スル旨ヲ申述シタルトキニ非サレハ再用ノ効ヲ生セス
第四　所得共通ノ解離
第千八百七十六条　所得共通ハ夫婦ノ一方ノ死去若クハ辞産離婚、又ハ財産分離ニ因テ解離ス
第千八百七十七条　夫婦ノ一方死去スルトキハ生存スル他ノ一方又ハ其代表人ハ三个月内ニ相続人ノ立会ニテ共通ノ財産及ヒ負債ノ目録ヲ調製ス可シ但シ地方裁判所ハ時宜ニ依リ延期ヲ許スコトヲ得
未成年ナル相続人アルトキハ裁判所ノ指定スル臨時保管人ハ目録ノ調製ニ立会フ可シ
期限内ニ目録ヲ調製セス又ハ其調製ヲ終ラサル場合ニ於テ之ヲ督促セサル臨時保管人ハ未成年者ノ為メ言渡サルヘキ総テノ損害賠償ニ付生存スル夫若クハ婦ト連帯シテ之ヲ弁償スルノ義務ヲ有ス
目録ヲ調製セス又ハ其正確ナラサルトキハ当事者ハ共通財産ノ箇数及ヒ価額ヲ証明スル為メ総テノ証拠方法ヲ用ヒ世評ト雖モ之ヲ用ユルコトヲ得
第千八百七十八条　夫婦ノ一方死去スルトキ其特有財産ノ目録ヲ調製スルノ責及ヒ其目録ノ欠欠ヨリ生スル結果ニ付テハ前条ノ規則ヲ適用ス
第千八百七十九条　辞産離婚又ハ財産分離ニ因テ所得共通ノ解離スル場合ニ於テ目録ニ依テ自己ノ便益ヲ得ントスル夫婦ノ一方ハ三个月内ニ其目録ヲ調製ス可シ
第千八百八十条　夫管理ノ不良若クハ浪費ニ因リ共通財産ヲ危険ニ置クトキハ婦ハ財産ノ分離ヲ請求スルコトヲ得
婦自己ノ為メ又ハ家事ニ関シ共通財産ヲ過度ニ消費スルトキハ夫ハ財産ノ分離ヲ訟求スルコトヲ得
第千八百六十四条ノ規則ニ従ヒ共通財産ヲ管理スル婦管理ノ不良若クハ浪費ニ因リ其財産ヲ危険ニ置クトキハ夫ノ推測相続人ハ財産ノ分離ヲ訟求スルコトヲ得
第千八百八十一条　財産ノ分離ハ夫婦ノ一方ノ訟求ニ依リ民事訴訟法ニ定ムル規則ニ従ヒ裁判所ニ於テ之ヲ宣告シタルトキニ非サレハ其効ヲ生セス
又民事訴訟法ニ定ムル規則ニ従ヒ裁判公示ヲ為シタル後ニ非サレハ第三者ニ対シテ財産分離ノ効ヲ生セス
第千八百八十二条　婦若クハ夫ノ債主ハ第千八百八十条ニ掲クル場合ニ於テ其負債者ノ承諾ヲ要スルコトナク自己ノ為メニ財産ノ分離ヲ訟求スルコトヲ得
第千八百八十三条　夫婦ノ一方ニ対シ破産ノ裁判アリタルトキハ他ノ一方ノ債主ノ為メ共通ハ解離シタルモノト看做ス此場合ニ於テ其債主ハ債権ノ額ニ至ルマテ負債者ノ権利ヲ行フコトヲ得
第千八百八十四条　夫若クハ婦ノ債主ハ自己ノ権利ヲ詐害シタル財産分離ノ裁判若クハ其裁判執行ノ無効ヲ訟求スルコトヲ得
又財産分離ノ訟求ニ対シ抗争スル為メ訴訟ニ参加スルコトヲ得
第千八百八十五条　財産ヲ分離シタル婦ハ躬ラ其財産ヲ管理ス
婦其財産ヲ移付シ若クハ抵保ト為スノ能力ニ付テハ第百四条ノ規則ヲ適用ス
第千八百八十六条　財産ヲ分離シタル婦ハ自己ノ資産ト夫ノ資産トニ相応シテ家事ノ費用及ヒ共同子ノ教育費ヲ負担ス可シ
第千八百八十七条　財産分離ヲ宣告スル裁判ノ効力ハ訟求ノ日ニ遡及スルモノトス
第千八百八十八条　解離シタル共通ハ夫婦ノ承諾ヲ以テ之ヲ回復スルコトヲ得
原共通ノ制ヲ変更シタル回復ハ無効トス
共通ノ回復ハ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス又訴訟法ニ定ムル規則ニ従ヒ共通回復ノ公示ヲ為シタル後ニ非サレハ第三者ニ対シテ回復ノ効ヲ生セス
第千八百八十九条　共通ノ回復ハ曽テ財産ノ分離アラサリシ如ク其効ヲ婚姻公式ノ日ニ及ホスモノトス但シ財産分離中夫婦ノ為シタル財産ノ管理及ヒ其移付ノ行為ニ付テハ此限ニ在ラス
第五　共通財産ノ分派
第千八百九十条　所得共通ノ解離後ハ下ノ数条ニ定ムル規則ニ従ヒ共通財産ヲ分派シ及ヒ共通負債ヲ分担スヘキモノトス但シ共通ノ抛棄ヲ允許スル裁判ノ宣告アリタルトキハ此限ニ在ラス
第千八百九十一条　夫婦若クハ其相続人ハ先ツ特有財産ニ属スルモノヲ証明シテ之ヲ取還ス可シ
第千八百九十二条　夫婦若クハ其相続人ハ共通ニ対シテ為スヘキ賠償ヲ弁済ス可シ
又共通ヨリ自己ニ対シテ為スヘキ賠償ヲ先収ス可シ
第千八百九十三条　賠償ノ先収ハ先ツ金銭ニ就キ次ニ他ノ動産ニ就キ之ヲ行ヒ尚ホ不足スル場合ニ限リ不動産ニ就キ之ヲ行フコトヲ得
第千八百九十四条　然レトモ共通ニ対シ賠償ヲ要求スル夫婦ノ外他ニ其共通ニ対スル債主アルトキハ其債主ハ夫婦カ普通ノ規則ニ従ヒ権利ヲ行フヘキコトヲ請求スルヲ得
第千八百九十五条　共通財産ヲ以テ賠償ニ充ツルニ足ラサルトキハ夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ共通財産ノ不足カ他ノ一方ノ浪費若クハ投機事業、過愆若クハ重キ懈怠ニ原由スルコトヲ証明シテ其特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得
第千八百九十六条　負債ヲ扣除シタル共通財産ノ剰余ハ夫婦若クハ其相続人間ニ分派シ双方其半額ヲ受クヘキモノトス
共通ノ解離前若クハ後ニ共通財産中ノ一部若クハ特定ノ物品ヲ私取シ又ハ隠匿シタル夫婦ノ一方ハ其物品ノ分派ヲ受クルノ権ヲ失フ
第千八百九十七条　共通ヨリ夫婦ニ対シテ為スヘキ賠償及ヒ夫婦ヨリ共通ニ対シテ為スヘキ賠償ハ共通解離ノ日ヨリ当然利子ヲ生ス
第千八百九十八条　共通ヲ抛棄スル権アル夫若クハ婦ノ相続人数名ノ中抛棄ヲ為ス者アルトキ其抛棄ヲ為サヽル者ハ前主ノ配当部分中自己ノ相続スヘキ部分ノミヲ占領ス
前項ノ場合ニ於テ残余ノ部分ハ夫婦ノ中他ノ一方ニ属ス然レトモ抛棄ヲ為シタル相続人ハ其前主躬ラ抛棄ヲ為シタル場合ニ於テ財産契約ニ従ヒ行ヒ得ヘカリシ権利ニ付自己ノ相続スルコトヲ得ヘカリシ部分ニ応シ其一方ニ対シ之ヲ行フコトヲ得
第千八百九十九条　夫婦ノ一方ノ特有財産ヲ以テ専ヲ他ノ一方ノ負債ニ付テ為シタル弁済又ハ其他ノ原由ニ依リ一方カ他ノ一方ニ対スル債主ナルトキハ其一方ハ共通財産ノ分派ニ依テ他ノ一方ノ得タル財産及ヒ其特有財産ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得
第千九百条　夫婦互相ノ間ニ存スル債権ハ遅滞ニ付スルノ手続アリタル日ヨリ利子ヲ生ス
第千九百一条　夫若クハ婦ハ婚姻中躬ラ為シタル負債ノ全部ヲ其債主ニ対シテ弁済スルノ義務ヲ有ス
第千九百二条　婚姻中管理者タル夫婦ノ一方カ為シタル負債ニ付テハ他ノ一方若クハ其相続人ハ債主ニ対シテ其半額ヲ弁済スルノ義務ヲ有ス但シ其義務ハ共通財産ノ分派ニ依テ得ル財産ノ高ヲ以テ限リト為スコトヲ允許スル裁判アリタルトキハ格別ナリトス
第千九百三条　夫ノ允許ヲ得テ婦ノ為ス負債ニ付テハ夫若クハ其相続人ハ債主ニ対シテ次位ニ其全額ヲ弁済スルノ義務ヲ有ス
第千九百四条　保証人タルコトヲ謝絶シタル夫ノ允許若クハ裁判所ノ允許ヲ得テ婦ノ為ス負債及ヒ何等ノ允許ヲモ得ルニ及ハサル場合ニ於テ婦ノ為ス負債ニ付テハ夫若クハ其相続人ハ債主ニ対シ其半額ヲ弁済スルノ義務ヲ有ス
第千九百五条　夫婦各自若クハ其相続人ハ共通負債ノ半額ヲ負担ス但シ管理者ニ非サル夫婦ノ一方ノ為メニ共通財産ノ分派ニ依テ得ル財産ノ高ヲ以テ其負担ノ限リト為スコトヲ允許スル裁判アリタルトキハ格別ナリトス
第千九百六条　夫婦ノ中専ラ一方ノ為メニ為ス負債ニ付テハ其一方ハ全額ヲ負担ス
第千九百七条　夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ下ノ条件完備スル場合ニ限リ目録調製後三个月内ニ共通負債ノ負担及ヒ其弁済ノ義務ハ共通財産ノ分派ニ依テ得ル財産ノ高ヲ以テ限リト為スノ允許ヲ地方裁判所ニ請求スルコトヲ得
一　共通ノ財産及ヒ負債ノ目録ヲ調製シタルコト
二　共通ノ悪況ハ管理者ノ浪費投機事業過愆若クハ重キ懈怠ニ原由スルコトヲ証明シタルコト
三　共通ノ解離後其財産ニ付単純ナル管理及ヒ保存ノ行為外ニ渉ル行為ヲ為サヽルコト
四　共通ノ解離後共通財産ヲ私取若クハ隠匿セサルコト
第千九百八条　前条ニ記載スル請求ノ許否ニ付利害ノ関係アル者ハ請求者ノ行為ハ共通ノ悪況ヲ来セシ全部若クハ一部ノ原由ナルコトヲ証明シテ第八百六十一条ニ従ヒ其裁判ノ無効ヲ訟求スルコトヲ得
又利害ノ関係人ハ前条ノ請求ヲ抗争スル為メ其審理ニ立会フコトヲ得
第千九百九条　第千九百七条ニ掲クル允許ヲ得タル者ハ共通負債ノ弁済ニ付目録ニ記載スル財産ト分派ニ依テ得タル財産トヲ債主ニ対シテ照合計算スルニ非サレハ右ノ允許ヲ利益スルコトヲ得ス
第千九百十条　第千九百七条ニ掲クル允許ヲ得タル者ハ共通負債ノ負担ニ付テハ其躬ラ為シタルモノト雖モ其允許ヲ利益スルコトヲ得
第千九百十一条　共通負債ノ半額ヲ超過スル額ヲ弁済シタル夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ債主ニ対シ其過分ニ弁済シタル額ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス但シ受取証書ニ其弁済シタルモノハ其負担スヘキ額ナルコトノ記載アルトキハ格別ナリトス
第千九百十二条　抵保ノ目的物ノ保持人タルカ為メ共通負債ノ全額ヲ弁済シタル夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ他ノ一方若クハ其相続人ニ対シ其半額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第千九百十三条　前数条ノ規則ハ分派上ノ約束ニ依リ共同分派人中ノ一人カ負債ノ半額ヲ超過スル額又ハ其全額ヲモ弁済セシコトヲ担任スルノ妨碍トナルコト無シ
共同分派人中ノ一人躬ヲ負担スヘキ額ヲ超過スル負債ノ額ヲ弁済シタルトキハ他ノ分派人ニ対シ過分ニ弁済シタル額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第千九百十四条　所得共通分派ノ法式、効果及ヒ担保ニ関シテハ尚ホ共同相続人間ニ於ケル分派ニ付本編第一章ニ定ムル総テノ規則ニ従フ
第六　所得共通ノ抛棄
第千九百十五条　所得共通ノ解離後婦若クハ其相続人又婦共通財産ヲ管理シタルトキハ夫若クハ其相続人ハ第千九百七条ニ掲クル条件ノ完備スル場合ニ限リ目録調製後三个月内ニ所得共通ノ抛棄ヲ地方裁判所ニ請求スルコトヲ得
利害ノ関係人ハ第千九百八条ニ定ムル証明ヲ為シテ其請求ヲ允許シタル裁判ノ無効ヲ訟求シ又ハ其請求ヲ抗争スルカ為メ審理ニ立会フコトヲ得
第千九百十六条　裁判所ハ止ムコトヲ得サル事情アリト認ムルトキハ前条ニ定ムル抛棄ノ請求期限ノ延期ヲ允許スルコトヲ得
第千九百十七条　抛棄ヲ為シタル夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ共通財産ニ付総テノ権利ヲ失フ但シ衣服寝具及ヒ通常ノ装飾品ハ其夫婦ノ一方之ヲ保有ス
第千九百十八条　抛棄ヲ為シタル夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ其特有財産ヲ取還スルノ権利ヲ保有ス
又所得共通ヨリ自己ニ対シテ為スヘキ賠償ヲ要求スルノ権利ヲ保有シ及ヒ自己ヨリ所得共通ニ対シテ為スヘキ賠償ノ義務ヲ負担ス
本条第二項ニ定ムル権利及ヒ義務ニ付テハ第千八百九十五条及ヒ第千八百九十七条ニ掲クル規則ヲ適用ス
第千九百十九条　抛棄ヲ為シタル夫婦ノ一方ハ婚姻中躬ヲ為サ丶ル共通負債ニ付テハ債主ニ対シ之ヲ弁済スルノ義務ヲ有セス
其躬ラ為シタル共通負債ニ付テハ債主ニ対シ之ヲ弁済スルノ義務ヲ有ス但シ其弁済ヲ為シタルトキハ他ノ一方ニ対シ賠償ヲ要求スルノ権利ヲ有ス
第千九百二十条　抛棄ヲ為シタル夫婦ノ一方若クハ其相続人ハ他ノ一方ノ為シタル共通負債ハ勿論自己若クハ前主ノ為シタルモノト雖モ之ヲ負担スルコト無シ但シ専ラ自己若クハ前主ノ為メニ為シタルモノニ付テハ其全額ヲ負担ス
第二款　法定ノ制ヲ変更スル約束
第千九百二十一条　夫婦タラントスル者ハ第千八百三十七条ニ掲クル規則ニ反セサル総テノ約束ヲ以テ法定ノ制ヲ変更スルコトヲ得
第千九百二十二条　約束上ノ財産共通ハ契約ヲ以テ暗黙若クハ明瞭ニ所得共通ニ変更ヲ設ケサル事抦ニ付テハ総テ所得共通ニ関スル規則ニ従フ
第千九百二十三条　法定ノ制ヲ変更スル約束若クハ共通外ノ制ニ係ル夫婦財産上ノ約束ハ婚姻ノ公式ヲ行フタル身分取扱人又外国ニ於テ公式ヲ行フタル場合ニ於テハ第四百五十九条ニ掲クル身分取扱人之ヲ登録シタル後ニ非サレハ第三者ニ対シ効ナキモノトス
第千九百二十四条　共通財産分派ノ時夫婦ノ一方ハ他ノ一方ノ受クヘキ配当部分ニ比シ増減アル特定ノ配当部分ヲ受ケ若クハ夫婦中ノ生存者ハ共通財産ニ就キ一部若クハ特定ノ財産ヲ先収スヘキノ約束又ハ所得財産ノ全部ハ特定ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方ニノミ属シ若クハ夫婦中ノ生存者ノミニ属シ若クハ婚姻中ニ出生スヘキ子ニ属スヘキノ約束ニハ其本質上及ヒ其法式上トモ贈与ニ関スル規則ヲ適用セス
婚姻中獲得スル財産ノ種類ヲ定メ其全部ハ夫婦ノ一方ノミニ属スヘキノ約束ハ無効トス
第千九百二十五条　前条ニ掲クル約束ニ依リ共通財産ノ全部若クハ一部ヲ受クル者アリテ其負担スヘキ負債ノ額ニ付約束アラサルトキハ其受クル財産ノ額ニ相当スル負債ノ額ヲ負担ス
第千九百二十六条　夫婦ハ其中一方ノミ共通負債ノ全部ヲ負担シ若クハ他ノ一方ノ負担スヘキ負債額ニ比シ増減アル特定ノ負債額ヲ負担スヘキノ約束ヲ為スコトヲ得
然レトモ一方ハ共通負債ノ全部ヲ負担シ他ノ一方ハ共通財産ノ全部ヲ受クヘキノ約束ヲ為スコトヲ得ス若シ此規則ニ背キタル約束アルトキハ法定ノ制ニ従テ財産契約ヲ為シタルモノト看做ス
第千九百二十七条　夫婦ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ若クハ将来ニ所有スヘキ財産ノ全部若クハ一部又ハ現ニ所有スル動産若クハ不動産ノ全部若クハ一部又ハ其或種若クハ特定ノモノヲ共通財産ト為スノ約束ヲ為スコトヲ得
此約束ハ夫婦双方若クハ一方ノ財産ニ付之ヲ為スコトヲ得
第千九百二十八条　財産ノ全部若クハ一部又ハ動産若クハ不動産ノ全部若クハ一部ヲ共通財産ト為スノ約束アリタルトキハ其財産ノ額ニ相当スル負債ノ額ハ当然共通負債ト為ルモノトス
右共通負債ト為リタルモノ丶債主ハ婚姻中夫又ハ夫ノ完全ナル允許ヲ得テ婦ノ為ス負債ノ債主カ第千八百五十五条及ヒ第千八百五十六条ニ従ヒ行フコトヲ得ルト同一ノ権利ヲ有ス
第千九百二十九条　特定ノ財産ヲ共通財産ト為スノ約束アリタルトキハ其財産ハ婚姻公式ト同時ニ共通財産ト為ルモノトス
代補物ナル財産ヲ共通財産ト為スノ約束アリタルトキハ約務者タル夫婦ノ一方ハ他ノ一方ニ対シ第八百五十二条ニ従ヒ指定ヲ為スノ義務ヲ負フ
財産ヲ共通ト為シタル夫婦ノ一方ハ其財産ニ付普通ノ規則ニ従ヒ奪収担保ノ義務ヲ負フ
第千九百三十条　夫婦ハ共通財産特定ノ額ヲ超過シタルトキハ其超過スル部分ノ全部若クハ一部ヲ以テ各自ノ特有財産ヲ設定スヘキノ約束ヲ為スコトヲ得
右約束中各自ニ帰スヘキ割合ノ定メアラサルトキハ夫婦ハ同価額ノ特有財産ヲ得ルノ権アリトス
第千九百三十一条　前条ニ依テ為ス特有財産設定ノ効ヲ生スル為メニハ左ノ条件完備スルコトヲ要ス
一　公証人ヲシテ夫婦財産契約ノ箇条ニ依ルコトヲ記載スル設定証書ヲ作ラシムルコト
二　夫婦各自ノ為メ特有財産ヲ設定スルコト
第千九百三十二条　不動産ヲ以テ特有財産ヲ設定シタルトキハ第八百六十八条ニ従ヒ之ヲ登記ス可シ
其特有財産ノ設定ハ登記後ニ権利ヲ得タル第三者ニ対スルニ非サレハ之ヲ対抗スルコトヲ得ス
第三節　財産分離
第千九百三十三条　夫婦タラントスル者ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ及ヒ将来ニ所有スヘキ総テノ財産ヲ分離スヘキノ約束ヲ為スコトヲ得
第千九百三十四条　財産ヲ分離シタル婦ハ自己ノ財産ヲ管理スルノ権ヲ保有ス
又有償ニテ動産ヲ移付シ又ハ之ヲ抵保ト為スコトヲ得
其他財産ヲ分離シタル婦ノ能力ニ付テハ第百四条ノ規則ニ従フ
第千九百三十五条　夫婦ハ約束ヲ以テ定メタル額ヲ各支出シテ一家ノ費用ヲ負担ス若シ約束上ノ定ナキトキハ婦ハ其所得三分ノ一ニ至ルマテノ額ヲ支出シテ其費用ヲ負担ス可シ
第千九百三十六条　婦其負担スヘキ額ヲ支出スルノ義務ヲ尽サヽルトキハ夫ハ婦ノ財産ヲ以テ家費ヲ分担セシムヘキ他ノ方法ニ付命令アランコトヲ地方裁判所ニ請求スルコトヲ得
夫其婦ノ支出スル額ヲ家費ニ充テスシテ他ニ使用スルトキハ婦ハ必要ナル命令アランコトヲ地方裁判所ニ請求スルコトヲ得
第千九百三十七条　財産ヲ分離シタル婦ハ随意ニ其所得ヲ処置スルコトヲ得
婦其夫ニ自己ノ財産ヲ管理スルコトヲ委任シタルトキハ夫ハ婦ニ対シ普通代理者ノ其委任者ニ対スルト同様ノ義務ヲ負フ
第千九百三十八条　婦特ニ委任ヲ与フルコト無ク夫ヲシテ自己ノ財産ニ付収益セシメタルトキハ婦ハ一家ノ費用ヲ分担スル為メ夫ニ其収益ヲ与ヘタルモノト看做ス
此場合ニ於テ夫ハ婦ノ請求アルトキ若クハ婚姻解離スルトキニ限リ現存スル果実及ヒ自己ノ名義ヲ以テ利用シタル所得ニ付テノミ計算スルノ義務ヲ有ス
第千九百三十九条　夫其婦ノ故障アルニ拘ラス婦ノ財産ニ付収益シタルトキハ現存スルト消費シタルトヲ問ハス総テノ果実ニ付計算スルノ義務ヲ有ス
第四節　婚資
第千九百四十条　婚資トハ夫若クハ婦タラントスル者又ハ第三者ヨリ婚姻ニ原由スル費用ニ供スヘキモノトシテ指定シ又ハ贈与スル財産ヲ謂フ
婚資ハ如何ナル夫婦財産ノ制ヲ以テ婚姻ヲ為ストキト雖モ之ヲ設定スルコトヲ得
第千九百四十一条　第三者ハ夫婦若クハ其一方ノ為メニ婚資ヲ設定スルコトヲ得
若シ設定者ノ意思ヲ知ルコト能ハサル場合ニ於テハ夫婦ノ為メニ設定シタルモノト看做ス
第千九百四十二条　夫若クハ婦ハ婚姻公式ノ時現ニ所有シ及ヒ将来ニ所有スヘキ全部若クハ一部ノ財産又ハ現ニ所有スル財産又ハ将来ニ所有スヘキ財産又ハ或種ノ財産又ハ特定ノ財産ヲ婚資ト設定スルコトヲ得
総テノ財産ヲ婚資ト為スヘキノ約束ハ将来所有スヘキ財産ヲ包含セサルモノト看做ス
第千九百四十三条　夫婦ハ婚姻中婚資ヲ設定シ又ハ婚姻前ニ設定シタル婚資ノ額ヲ増減スルコトヲ得ス
第千九百四十四条　父母各自ノ負担スヘキ部分ヲ定ムルコト無ク其子ノ為メ婚資ヲ設定シタルトキハ各其半額ヲ負担スルモノト看做ス
第千九百四十五条　婚資ヲ設定シタル者ハ其目的物ニ付担保ノ義務ヲ有ス
第千九百四十六条　弁済期限ノ定メアルトキト雖モ婚資ノ利子ハ婚姻公式ノ日ヨリ当然生スルモノトス但シ此規則ニ異ナル約束アルトキハ格別ナリトス
第千九百四十七条　夫若クハ婦ハ其設定スル婚資ニ付各其所有権ヲ保有ス其婚資ノ所得ニ付テハ第千九百四十八条第二項ニ定ムル規則ヲ適用ス
第千九百四十八条　第三者ノ設定スル婚資ハ夫婦ノ為メナルト其一方ノ為メナルトニ従ヒ夫婦ノ共通財産ト為リ又ハ其一方ノ特有財産ト為ルモノトス
何レノ場合ト雖モ婚資ノ管理者ハ其所得ヲ以テ婚姻ニ原由スル費用ヲ支弁スルコトヲ得其費用ヲ支弁シテ剰余ニ属スルモノハ夫婦ノ共通財産トス
第三者ノ設定スル婚資カ用収権若クハ年金権ニ止マルトキ其果実若クハ賦金ニ付テハ前項所得ニ関スル規則ヲ適用ス
前項ニ掲クル用収権及ヒ年金権ハ婚姻ノ解離ト同時ニ消滅ス但シ別段ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
第千九百四十九条　夫婦若クハ其一方ノ為メ婚資ヲ設定スル第三者ハ其所得ノ一部ハ夫婦各自若クハ其一方ノ随意ニ之ヲ使用スルヲ得ヘキコトヲ以テ其約件ト為スコトヲ得
婚資ヲ設定スル夫若クハ婦ハ自己ノ為メニ前項ニ掲クル随意ノ使用ヲ保有スルコトヲ以テ其約件ト為スコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ其使用ヲ為シ得ヘキ部分ニシテ之ヲ為サヽリシモノハ当然其権利者ノ特有財産ト為ルモノトス
第千九百五十条　婚資ノ管理ニ付テハ第千八百六十二条及ヒ第千八百六十四条ニ定ムル規則ヲ適用ス
第千九百五十一条　管理者ハ婚資ノ収受ヲ為スニ付保証人ヲ立ルニ及ハス但シ別段ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
第千九百五十二条　婚資ハ婚姻中之ヲ移付シ若クハ抵保ト為スコトヲ得ルノ約件アリタルトキニ限リ所有者ハ之ヲ移付シ若クハ抵保ト為スコトヲ得
第千九百五十三条　前条ニ掲クル場合ヲ除クノ外婚資ハ其動産タルト不動産タルトヲ問ハス夫婦ノ承諾及ヒ地方裁判所ノ允許ヲ以テスルニ非サレハ婚姻中之ヲ移付シ若クハ抵保ト為スコトヲ得ス
裁判所ハ明確ナル必要若クハ便益アリト認ムル場合ニ非サレハ允許ヲ与フ可カラス
第千九百五十四条　裁判所ノ允許ヲ得テ婚資タル物品又ハ金額ヲ以テ交換シ若クハ売買シタルニ因テ得タル物品若クハ金額ハ代位ノ婚資トス但シ其金額ハ裁判所ノ指示スル所ニ従テ之ヲ利用ス可シ
金額ニテ設定ヲ約シタル婚資ノ弁済ノ為メ引渡ス動産若クハ不動産ハ当然代位ノ婚資トス
第千九百五十五条　婚資ヲ移付シ又ハ抵保トスルコトハ財産契約ノ之ヲ許スカ又ハ裁判所ノ允許アルニ非サレハ夫婦協同ノ承諾アルトキト雖モ無効トス
婚資ノ所有者及ヒ其相続人ハ婚姻ノ解離後ト雖モ其無効ヲ請求シ又所有者ノ配偶者ハ婚姻中之ヲ請求スルコトヲ得
然レトモ承諾ヲ為シタル夫若クハ婦ハ婚資ヲ移付シ若クハ抵保ト為スノ契約中其目的物カ婚資ナルコトヲ述ヘサルトキハ契約者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第千九百五十六条　婚資ノ管理者ハ用収者ノ如ク所得ノ負担タル修繕其他ノ義務ヲ負フ
管理者ハ自己ノ過愆若クハ懈怠ニ因リ婚資ニ生シタル破損ニ付及ヒ時効ニ因リ第三者ノ為ス婚資ノ獲得ニ付テハ其責ニ任ス
第千九百五十七条　婚資ヲ成ス財産ニ付テハ夫婦設定者及ヒ公証人ノ署名捺印シタル目録ニ其詳細ヲ点記シ且ツ其婚資ノ設定アリタル旨ヲ第千九百二十三条ニ従ヒ財産契約ト共ニ登録ス可シ
右登録ヲ為シタル後ニ非サレハ第三者ニ対シテ婚資設定ノ効ヲ生セス
第千九百五十八条　婚資ハ其設定登録ノ後ハ婚姻中何等ノ義務ヲモ負フコト無シ但シ第千九百五十二条及ヒ第千九百五十三条ノ場合ハ格別ナリトス
第千九百五十九条　婚資ノ所有者ハ其管理者ニ対シテ有スル婚資返還ノ債権ヲ他人ニ譲渡シ又ハ其管理者ノ財産ニ付有スル法定ノ抵当権ヲ抛棄スルコトヲ得ス
第千九百六十条　婚姻公式前ニ於ケル債主ハ其債権ニ付確定日附アル場合ニ限リ其負債者タル夫若クハ婦ノ婚資ニ設定シタル財産ノ虚有権ノミヲ差押フルコトヲ得
第千九百六十一条　婚姻中婚資ノ所有者ノ為ス負債ニ付テハ債主ハ其配偶者ノ死去ニ因テ婚姻ノ解離シタル後ト雖モ婚資ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ス
右債主ハ共通財産及ヒ負債者ニ属スル婚資外ノ特有財産ニ就テノミ権利ヲ行フコトヲ得
第千九百六十二条　前条ニ掲クル負債ニ付テハ債主ハ婚姻中ニ生シタル婚資ノ果実ニ就キ権利ヲ行フコトヲ得ス其解離後ニ生シタル果実ニ就テノミ之ヲ行フコトヲ得
第千九百六十三条　夫若クハ婦婚資ヲ危険ニ付スルトキ又ハ管理者タルノ義務ヲ尽サ丶ルトキハ其配偶者ハ婚資ノ所有者ト否トニ拘ラス躬ラ之ヲ管理シ若クハ他人ヲシテ之ヲ管理セシムルコトヲ地方裁判所ニ請求スルコトヲ得
夫婦共同シテ婚資ヲ危険ニ付スルトキハ其設定者又ハ夫婦ノ血族若クハ姻族ハ三親等ニ至ルマテ相当ノ処分ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第千九百六十四条　第千八百八十条ニ定ムル場合ニ於テ財産分離ノ裁判宣告アリタルトキハ其宣告ヲ得タル直者ハ婚資ノ所有者ト否トニ拘ラス其婚資ヲ管理ス
第千九百六十五条　婚姻ノ解離ニ因リ婚資ノ返還ヲ請求スル者ハ管理者之ヲ収受シタルコトヲ証明ス可シ
然レトモ婚資ノ弁済又ハ引渡ノ期限後満十个年間婚姻継続シタルトキハ婚資ノ所有者ハ管理者之ヲ収受シタルコトヲ証明セスシテ其返還ヲ請求スルコトヲ得但シ管理者婚資ノ弁済又ハ引渡ヲ得ル為メ行ヒタル手続ノ実効ナカリシコトヲ証明シタルトキハ此限ニ在ラス
第千九百六十六条　所有者躬ラ設定シタル婚資ニ付テハ通常ノ規則ニ従フニ非サレハ前条第一項ノ証明ヲ為スコトヲ得ス然レトモ第三者ノ設定シタル婚資ニ付テハ其所有者ハ証人又ハ推測ニ依リ之ヲ為スコトヲ得
第千九百六十七条　管理者原物ヲ以テ返還スヘキ婚資ニ付テハ婚姻ノ解離後直チニ之ヲ返還スヘク又対価物ヲ以テ返還スヘキ婚資ニ付テハ其解離後満一个年内ニ之ヲ返還スルノ義務ヲ有ス
第千九百六十八条　婚資ハ婚姻ノ解離シタル日ヨリ当然所有者ノ為メニ果実及ヒ利子ヲ生ス