假處分取消請求ノ件
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大審院民事判決録（民録）23輯1380頁
大正六年（オ）第六百三十四號
大正六年九月二十八日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 民事訴訟法第七百六十一條ニ基キ區裁判所ノ發シタル假處分命令ニ對シテハ本案ノ管轄裁判所ニ於テ之カ當否ノ辯論ヲ經テ其運命ヲ決スヘキモノナレハ之ニ對シ同條ノ期間徒過ノ故ヲ以テ取消ノ申立ヲ爲スハ格別異議ヲ申立テ其他特別ノ事情ニ基ク取消ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
（參照）急迫ナル場合ニ於テハ係爭物ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所ハ假處分ノ當否ニ付テノ口頭辯論ノ爲メ本案ノ管轄裁判所ニ相手方ヲ呼出ス可キ申立ノ期間ヲ定メ假處分ヲ命スルコトヲ得」此期間ヲ徒過シタル後區裁判所ハ申立ニ因リ其命シタル假處分ヲ取消ス可シ」右裁判ハ口頭辯論ヲ經スシテ之ヲ爲スコトヲ得（民事訴訟法第七百六十一條）
第一審 小田原區裁判所
第二審 横濱地方裁判所
右當事者間ノ假處分取消請求事件ニ付横濱地方裁判所カ大正六年三月六日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
主文
本件上告ハ之ヲ棄却ス
理由
上告理由第一點ハ第二審裁判所ニ於テ原判決ヲ廢棄シタル理由ノ一ハ民事訴訟法第七百六十一條ニ規定スル區裁判所ニ於テ命スル假處分ハ一時ノ急ニ應スル爲メ本案ノ管轄裁判所ニ代リテ發スル假ノ命令タル性質ヲ有スルヲ以テ債務者ハ同法第七百四十四條ニ基ク異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得サルモノトスルニ在リ然レトモ同法第七百六十一條ハ同法第七百五十五條ニ所謂係爭物ニ關スル場合ニ限ルモノニシテ同法第七百六十條假ノ地位ヲ定ムル場合ニ適用ナキヤ明ナリ而シテ本件ニ於ケル被上告人等申請ノ假處分命令ハ同第七百六十條ニ基キ假ノ地位ヲ定ムル爲メニ爲シタルモノナルコトハ原審以來主張セル所ナレハ第一審タル區裁判所ハ假處分命令ニ付キテハ管轄權ヲ有セス結局本件假處分命令ハ違法ナリ果シテ此命令カ違法ナリトスルトキハ同法第七百四十四條ニ基キ異議申立ヲ爲シ得ヘキハ同法第七百五十六條ノ規定ニ由ルモ明ナリト信ス然ルニ第二審裁判所ニ於テ前記ノ裁判ヲ爲シタルハ是レ法則ヲ適用セサル不法アリト云ハサル可カラス」第二點ハ上告人ハ民事訴訟法第七百五十九條ニ所謂特別ノ事情アルトキ保證ヲ立テシメ假處分ヲ取消ス場合ニ於テ同法第七百五十六條ニ由リ同法第七百四十七條第二項準用ノ結果假處分ヲ命シタル原裁判所ヲ以テ管轄權アリト解釋スルモノナリ何トナレハ民事訴訟法第七百六十一條ハ急迫ナル場合ニ於テ係爭物所在地ノ區裁判所ニ假處分ヲ許ス規定ニシテ同法第七百五十七條ノ例外規定ナルモ其命令ハ區裁判所カ權限ニ基キナシタルモノナレハ本案管轄裁判所ノ命令ニ非サルコトハ明カニシテ且ツ同法第七百六十一條ニ所謂假處分ノ當否ニ付テノ口頭辯論ノ爲メ本案管轄裁判所ニ相手方ヲ呼出ス可キ申立ノ期間ヲ定ムルコト若クハ此期間徒過シタルトキ假處分ヲ取消ス命令ノ如キハ決シテ同法第七百四十七條第二項ノ規定ヲ除外シタル趣旨ナリト云フコトヲ得サレハナリ然ルニ第二審裁判所ハ斯ル取消ノ申立ニ付キテハ原裁判所ニ管轄ナク本案ノ管轄裁判所專ラ之ヲ管轄スヘキモノトシテ上告人ノ主張ヲ排斥シタルハ之レ又法則ヲ適用セサル不法ノ裁判ナリトスト云フニ在リ
然レトモ民事訴訟法第七百六十一條ニ基キ區裁判所ノ發シタル假處分命令ニ對シテハ本案ノ管轄裁判所ニ於テ之レカ當否ノ辯論ヲ經テ假處分ノ運命ヲ決スヘキモノナレハ之レニ對シ同條ノ期間徒過ノ故ヲ以テ取消ノ申立ヲ爲スハ格別異議ヲ申立テ其他特別ノ事情ニ基ク取消ヲ申立ツルカ如キハ之ヲ爲シ得サルモノト謂ハサルヘカラス然ラハ原裁判所カ右假處分ヲ發シタル小田原區裁判所ニ爲シタル本件取消ノ申立ヲ不適法ナリトシテ却下シタルハ結局相當ナルヲ以テ本論旨ハ理由ナシ因テ本件上告ヲ理由ナシトシ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ則リ主文ノ如ク判決セリ