明治二十八年第四百八十號
明治二十九年十月十三日聯合部判决
◎判决要旨
- 一 故障ノ申立中特ニ闕席判决ノ廢棄ヲ求ムル申立ナキモ裁判所ハ之レヲ廢棄シテ判决ヲ爲スコトヲ得(判旨第一點)
- 一 社團又ハ財團ニシテ或ル權利義務ヲ有スルコトアルモ特ニ法律ノ規定ナキトキハ之レヲ法人ト見做スコトヲ得ス
- 一 町村内ノ部落ハ町村制第二條ノ如キ明文ナキヲ以テ之レヲ法人ト云フヲ得ス
(參照)町村ハ法律上一個人ト均ク權利ヲ有シ義務ヲ負擔シ凡町村公共ノ事務ハ官ノ監督ヲ受ケテ自ラ之ヲ處理スルモノトス(町村制第二條) - 一 町村長ハ町村制第六十八條ニ依リ其部落ヲ代表シ其名義ヲ以テ訴訟竝ニ和解ニ關スル事務ヲ擔任スル職務權限ヲ有ス(以上判旨第二點)
(參照)町村長ハ其町村ヲ統轄シ其行政事務ヲ擔任ス 町村長ノ擔任スル事務ノ概目左ノ如シ (前畧)四、町村ノ權利ヲ保護シ町村會ノ財産ヲ管理スル事 (中畧)七 外部ニ對シ町村ヲ代表シ町村ノ名義ヲ以テ其訴訟並和解ニ關シ又ハ他廳若クハ人民ト商議スル事 (後畧)(町村制第六十八條)
上告人 眞山徳輔 外二名
被上告人 小野寺福松 外一名
右當事者間ノ賣買取消共有地取戻損害要償事件ニ付宮城控訴院カ明治二十八年五月二十七日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
本件ハ審判上前判决例ト相反スル意見アルヲ以テ裁判所構成法第四十九條ニ據リ民事第一二部聯合シテ判决スルコト左ノ如シ
判决
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告ニ係ル訴訟費用ハ上告人之ヲ負擔ス可シ
理由
上告論旨第一點抑本案ノ訴訟事件ハ訴名其物ニ於テ明ナル如ク賣買取消共有地取戻及損害要償ノ訴ナルコトハ疑ノナキ所ナリ而シテ本案當事者ハ先ツ請求ノ原因ニ付一部判决ヲ求メタルニ第一審裁判所ハ上告上人主張ノ如ク被上告人等ノナシタル賣買ハ之ヲ取消シ共有地ハ上告人ニ返還スヘシトノ判决アリタルニ對シ被上告人ハ控訴シタルモノナリ故ニ原裁判所ニ於テ當事者ノ申立テタル主張ノ範圍ハ單ニ原因ノ有無ニ付テノミニアリシコトハ第一審ノ判决書自體ニ徴シ原審ノ辯論調書等ニ照シ甚タ明白ナル事實ナリ損害要償ノ點ニ對シテハ未タ審理ヲ經サル次第ナリ然ニ原裁判所ハ茲ニ出テス「被控訴人カ控訴人ニ對スル訴ハ之ヲ却下ス」ト判决ヲナシタルモノニシテ即一部判决原因ノ有無ニ付テノ判决ヲ求メタルニ全部ニ對シ判决ヲナシ本案ノ訴其物ヲ却下シタルハ甚タ違法ノ裁判ナリト信ス况ンヤ訴其物ヲ却下セヨトハ被上告人ニ於テ請求セサル所ナルヲヤ即被上告人ノ原裁判所ニ提出シタリシ控訴状一定ノ申立ヲ見ルニ「右判决ノ内控訴人等ニ對スル部分ヲ取消シ被控訴人ノ請求相立タサル旨ノ折判决アランコトヲ乞フ」トノミアリテ訴其物ノ却下ヲ乞フノ申立之レナケレハナリ况ンヤ闕席判决ヲ廢棄セヨトノ請求ハ被上告人ニ於テ適法ニ申立テサル點ナルニ原裁判所ハ擅ニ闕席判决及ヒ原判决ノ内控訴人ニ對スル部分ヲ廢棄ス云々トノ判决ヲ下シタルハ要スルニ當事者ノ申立テサル事項ニ對シ判决ヲナシタル違法ノ裁判ナレハ民事訴訟法第二百三十一條及同第四百三十五條ニ違背シタルモノナリト云フニ在レトモ控訴ニ依リ原院ノ審理及ヒ判决ノ目的物ト爲リタル事項ハ本件請求中第一審ニ於テ裁判シタル賣買取消並ニ共有地取戻ノ點ナルヲ以テ原院カ訴ノ却下ヲ言渡シタルハ右二箇ノ請求點ニ關スルモノニシテ控訴ニ係ラサル損害賠償ノ訴マテヲ却下シタルニ非ス又故障ヲ申立ツルハ闕席判决ヲ廢棄シ且新判决ヲ爲サシメントスル目的ニ出ツルモノナレハ故障申立ヲ爲シタルトキハ闕席判决ノ廢棄ヲ希望スルコト自ラ明カナリトス然レハ原判决ハ上告論旨ノ如キ不法ノ廉アルニ非ス(判旨第一點)
同第二點ニ本案ニ於テ當事者カ爭フ所ノ目的物件ハ舊下折壁村ノ所有財産ナルヤ將タ下折壁村民ノ共有財産ナルヤハ本案緊要ノ爭點ナリ而シテ下折壁村ナルモノハ町村制實施前マテハ獨立ノ一村ヲ造成シ居リシモ町村制實施ノ際ニ當リ一村タル法律上ノ資格ヲ失シ他村即濱横澤村ナルモノリ合併シテ一ノ法人タル御壁村ヲ造成シ從テ下折壁村ナルモノハ町村制實施以來法人タルノ資格之レナク爲メニ下折壁ヲ代表スルモノ之レナキコトハ原審ニ差出シタル答辯書及辯論調書ニ於テ明ナル所ナリ故ニ折壁村ナル法人ハ町村制實施ノ結果トシテ獨立シテ財産ヲ所有スル者ニシテ舊折壁村カ獨立シタリシ際所有シ居リシ財産又ハ下折壁村民ノ所有財産トハ固ヨリ混一スヘキモノニ之レナキヲ以テ上告人ハ原審ニ差出シタル答辯書ニ於テモ論地ハ「舊下折壁村ナルモノ獨立ヲナシ居リシ際其村民ニ於テ共有シタリシモノニシテ法人財産ニハ之レナシ從テ一ノ法人タル新立ノ折壁村ニハ何等ノ關係モ無之候」ト主張シ居レリ加之本案論地ハ舊下折壁村民ノ共有地ナルモ別ニ管理者ヲ設クルコトナク町村制ノ支配ヲ受クルコトナク村民ニ於テ之ヲナシ居ルコトモ申立テタル所ニシテ被上告人モ敢テ爭ハサリシ事實ナリ要スルニ下折壁ナル者ハ法人ニアラス從テ之レカ代表者ナル者之レナキコト町村制ノ支配ヲ受ケサルコト加之法人タル折壁村トハ別ニシテ權利上個々獨立ナルコトヲ主張シタリシニ原裁判中ニ下折壁ナル法人ニ屬シ云々」「下折壁ナル法人代表スル所ノ者ニ在テ訴求セサル可ラサルコトハ町村制ニ照シ論ヲ俟タサル所ニシテ云々」ト判决セラレタルハ不當ニ緊要ノ事實ヲ認定シ不當ニ法律ヲ適用シタルモノニシテ民事訴訟法第四百三十五條ニ背キタル者ナリト云フニ在リ
案スルニ凡ソ一ノ社團又ハ財團ヲシテ權義ノ主體タル法人タラシムルニハ町村制第二條ニ於テ町村ニ關シテ規定スルカ如ク法律ニ於テ其規定ナカルヘカラス而シテ町村制其他ノ我法律ニ於テ未タ町村内ノ部落ヲ以テ法人ト規定シタルモノアラス葢シ一ノ社團又ハ財團カ或權利若クハ義務ヲ有スルコトアルノ一事ヲ以テ直チニ法人ナリト做スコトヲ得ス彼ノ相續人ノ曠缺スル相續財産ニシテ未タ何人ニ歸屬スヘキヤヲ知ルコトヲ得サル時期ニアルモノヽ如キモ亦此種ノ財團ニ屬ス然ルニ原院カ折壁村ノ一部落ナル下折壁ヲ法人ナリトシテ説明シタルハ其當ヲ得タルモノニ非ス、然レトモ町村内ノ一部ニシテ別ニ其區域ヲ存シテ區ヲ爲スモノハ特別ニ財産ヲ有スルコトヲ得ルハ町村制第百十四條ニ於テ明カニ規定スル所ナリ而シテ其區カ財産ヲ所有スルトキハ同條ノ規定ニ從ヒ郡參事會ハ町村會ノ意見ヲ聞キ條例ヲ發行シ其財産ニ關スル事務ノ爲メ區會ヲ設クルコトヲ得ルモ其事務ノ管理ニ至テハ同制第百十五條ノ規定ニ從ヒ町村ノ行政ニ關スル規則ニ依リ常ニ町村長ニ屬スルモノトス夫レ町村ノ行政ニ關スル規則ニ依リ財産ニ關スル事務ヲ管理スルモノタル以上ハ町村長ハ同制第六十八條第四號ニ凖依シテ部落ノ權利ヲ保護シ其所有財産ヲ管理シ又同條第七號ニ凖依シテ部落ヲ代表シ部落ノ名義ヲ以テ其訴訟並和解ニ關スル事務等ヲ擔任スル職務權限ヲ有スルヤ明カナリ夫レ然リ然レハ原院カ下折壁部落ヲ代表スル所ノ折壁村々長ニ於テ本訴ヲ提起スヘキモノト判定シタルハ結局相當ノ裁判ニシテ上告論旨ハ其當ヲ得サルモノトス(判旨第二點)
同第三點ハ原裁判所ハ係爭地ハ下折壁ナル法人ノ所有ニ屬スルモノナレハ該法人ヲ代表スル者ニ於テ訴求セサル可ラスト判决シタレトモ下折壁ナル法人ノ所有ナリトハ上告人被上告人共ニ申立テサル所ニシテ被上告人ニ於テハ下折壁ナル部落ノ所有ナリシモノト論シタルノミ然ルニ原裁判所ハ進ンテ下折壁ナル法人ノ所有ニ屬スルモノト判决シタリ抑モ部落カ法人ナルヤ否ヤハ一ノ問題ニ屬スレヘモ上告人ハ町村制其他ニ明文アルコトナキヲ以テ部落ハ法人ト云フコトヲ得スト思料ス果シテ然ラハ原裁判カ法人ト所有ト判决シタルハ誤リナレトモ假リニ部落ハ法人ナリトスルモ當事者ハ此申立ヲ爲サヽルニ進ンテ當事者ノ申立以外ニ判决シタルハ失當ノ裁判ナリト云フニ在リ
按スルニ部落ナルモノヽ法人ナルヤ否ヤハ法律點ニ關スル問題ニシテ必要ナル場合ニ於テハ當事者ノ意見如何ニ拘ハラス裁判所カ之ヲ决スヘキモノナレハ原院カ此點ニ付キ當事者ノ主張ナキニ拘ハラス裁判シタルモ决シテ上告論旨ノ如キ不法アリト云フコトヲ得ス
同第四點ハ原判决主文ニ曰ク「缺席判决及ヒ原判决ノ内控訴人ニ對スル部分ヲ廢棄ス」ト抑モ新辯論ニ基キ爲ス所ノ判决カ缺席判决ト符合スルトキハ缺席判决ヲ維持スルコトヲ言渡スヘキモノニシテ决シテ之ヲ廢棄スヘキモノニ非ス然ルニ本件ハ缺席判决ニ於テ上告人敗訴ノ言渡シヲ爲シ新判决ニ於テモ同樣上告人敗訴ノ言渡ヲ爲シタルモノナレハ新判决ニ於テハ宜シク缺席判决ヲ維持スルコトノ言渡ヲ爲サヽル可ラサルニ原判决茲ニ出テスシテ之カ廢棄ノ言渡ヲ爲シタルハ民事訴訟法第二百六十一條ノ規定ニ違背スル失當ノ裁判ナリト云フニ在レトモ缺席判决ヲ閲スルニ原判决ハ之ヲ廢棄ス被控訴人ノ訴ハ之ヲ却下ス訴訟總費用ハ被控訴人之ヲ負擔ス可シ」トアリ對席判决ニ於テハ「缺席判决及ヒ原判决ノ内控訴人ニ對スル部分ヲ廢棄ス被控訴人ノ控訴人ニ對スル訴ハ之ヲ却下ス控訴人ニ對スル訴訟總費用ハ被控訴人之ヲ負擔ス可シトアリテ缺席判决ニ於テハ第一審判决全部即チ被告タル控訴人ノ敗訴シタル部分ノミナラス原告タル被控訴人ノ敗訴シタル部分マテヲ廢棄シ對審判决ニ於テハ單ニ控訴人ノ敗訴シタル部分ノミヲ廢棄シタルモノナレハ右兩箇ノ判决ハ相違シ决シテ符合スルモノニ非ス然レハ原院カ缺席判决ヲ維持セスシテ更ニ判决ヲ爲シタルハ毫モ不法ニ非ス
同第五點ハ原判决主文ニ曰ク「缺席判决及原判决ノ内控訴人ニ對スル部分ヲ廢棄ス」ト原判决トハ即チ第一審判决ナリ而シテ第一審判决ヲ廢棄セハ本訴ニ於テ第一審裁判ハ之ナキノ結果トナル然ルニ我カ裁判所構成法竝ニ民事訴訟法ニ於テ裁判ハ三審迄アルコトノ規定ヲ設ケラレアレハ一審ナクシテ二審ノミアルハ法律ニ於テ許サヽル所ナリ故ニ原裁判ニ於テ第一審裁判ヲ不當トセハ單ニ其裁判ニ變更ヲ加フヘクシテ第一審判决ヲ廢棄スヘキモノニ非ラサルニ原判决茲ニ出テス第一審判决ヲ廢棄シタルハ即チ民事訴訟手續ニ違背スル失當ノ裁判ナリト云フニ在レトモ第一審判决ヲ廢棄ストハ未タ第一審判决ヲ經サルモノト爲スノ意ニ非スシテ只不法ナルカ故其効力ナカラシムトノ意味ニ過キサレハ决シテ第一審判决ヲ無視スルニ非ス然レハ本論告モ亦其理由ナシ
同第六點ハ原判文ニ曰ク「被控訴人ハ甲第二號證ニ基キ係爭地カ下折壁村民共有地ナルヲ證セントスルモ同證ニハ下折壁共有地トアルヲ以テ見レハ却テ下折壁ナル法人ノ所有タルヲ認メ得ヘサモ之ヲ以テ下折壁村民ノ共有地ナリトハ認ムルヲ得ス」ト然レトモ共有地ト云ヘハ數多ノ人ノ共有所ニ係ラサルヘカラス一法人ノ所有ナレハ之ヲ共有ト云ハス又甲二號證ハ共權者ト云フ資格ニテ小山亮助カ収税署ノ證明ヲ得タルモノナリ然ルニ何故ニ之レカ村民ノ共有ト見ルニ足ラスシテ却テ下折壁ナル法人ノ所有ト認ムヘキモノナルヤノ理由ヲ示サス以テ甲第二號證ヲ排斥シタルハ裁判ニ理由ヲ付セサル失當ノ裁判ナリト云フニ在レトモ原判决ノ趣旨タル下折壁村民ノ共有地ナレハ甲第二號證ニ其旨記載アルヘキ筈ナルニ同證ニハ單ニ下折壁共有地トアルヲ以テ其所有權ハ下折壁ニ屬ストノ意ナルコト明カナリ要スルニ本上告ハ事實ノ認定ヲ批難スルニ過キサレハ其理由ナキモノトス
上來説明ノ如ク上告論旨ハ總テ其理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百五十二條ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス
明治二十八年第四百八十号
明治二十九年十月十三日連合部判決
◎判決要旨
- 一 故障の申立中特に闕席判決の廃棄を求むる申立なきも裁判所は之れを廃棄して判決を為すことを得。
(判旨第一点)
- 一 社団又は財団にして或る権利義務を有することあるも特に法律の規定なきときは之れを法人と見做すことを得ず。
- 一 町村内の部落は町村制第二条の如き明文なきを以て之れを法人と云ふを得ず。
(参照)町村は法律上一個人と均く権利を有し義務を負担し凡町村公共の事務は官の監督を受けて自ら之を処理するものとす。
(町村制第二条) - 一 町村長は町村制第六十八条に依り其部落を代表し其名義を以て訴訟並に和解に関する事務を担任する職務権限を有す。
(以上判旨第二点)
(参照)町村長は其町村を統轄し其行政事務を担任す 町村長の担任する事務の概目左の如し (前略)四、町村の権利を保護し町村会の財産を管理する事 (中略)七 外部に対し町村を代表し町村の名義を以て其訴訟並和解に関し又は他庁若くは人民と商議する事 (後略)(町村制第六十八条)
上告人 真山徳輔 外二名
被上告人 小野寺福松 外一名
右当事者間の売買取消共有地取戻損害要償事件に付、宮城控訴院が明治二十八年五月二十七日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求る申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
本件は審判上前判決例と相反する意見あるを以て裁判所構成法第四十九条に拠り民事第一二部連合して判決すること左の如し
判決
本件上告は之を棄却す
上告に係る訴訟費用は上告人之を負担す可し
理由
上告論旨第一点抑本案の訴訟事件は訴名其物に於て明なる如く売買取消共有地取戻及損害要償の訴なることは疑のなき所なり。
而して本案当事者は先づ請求の原因に付、一部判決を求めたるに第一審裁判所は上告上人主張の如く被上告人等のなしたる売買は之を取消し共有地は上告人に返還すべしとの判決ありたるに対し被上告人は控訴したるものなり。
故に原裁判所に於て当事者の申立てたる主張の範囲は単に原因の有無に付てのみにありしことは第一審の判決書自体に徴し原審の弁論調書等に照し甚た明白なる事実なり。
損害要償の点に対しては未だ審理を経さる次第なり。
然に原裁判所は茲に出でず「被控訴人が控訴人に対する訴は之を却下す」と判決をなしたるものにして即一部判決原因の有無に付ての判決を求めたるに全部に対し判決をなし本案の訴其物を却下したるは甚た違法の裁判なりと信ず。
況んや訴其物を却下せよとは被上告人に於て請求せざる所なるをや即被上告人の原裁判所に提出したりし控訴状一定の申立を見るに「右判決の内控訴人等に対する部分を取消し被控訴人の請求相立たざる旨の折判決あらんことを乞ふ」とのみありて訴其物の却下を乞ふの申立之れなければなり。
況んや闕席判決を廃棄せよとの請求は被上告人に於て適法に申立てざる点なるに原裁判所は擅に闕席判決及び原判決の内控訴人に対する部分を廃棄す云云との判決を下したるは要するに当事者の申立てざる事項に対し判決をなしたる違法の裁判なれば民事訴訟法第二百三十一条及同第四百三十五条に違背したるものなりと云ふに在れども控訴に依り原院の審理及び判決の目的物と為りたる事項は本件請求中第一審に於て裁判したる売買取消並に共有地取戻の点なるを以て原院が訴の却下を言渡したるは右二箇の請求点に関するものにして控訴に係らざる損害賠償の訴までを却下したるに非ず又故障を申立つるは闕席判決を廃棄し、且、新判決を為さしめんとする目的に出づるものなれば故障申立を為したるときは闕席判決の廃棄を希望すること自ら明かなりとす。
然れば原判決は上告論旨の如き不法の廉あるに非ず(判旨第一点)
同第二点に本案に於て当事者が争ふ所の目的物件は旧下折壁村の所有財産なるや将た下折壁村民の共有財産なるやは本案緊要の争点なり。
而して下折壁村なるものは町村制実施前までは独立の一村を造成し居りしも町村制実施の際に当り一村たる法律上の資格を失し他村即浜横沢村なるものり合併して一の法人たる御壁村を造成し。
従て下折壁村なるものは町村制実施以来法人たるの資格之れなく為めに下折壁を代表するもの之れなきことは原審に差出したる答弁書及弁論調書に於て明なる所なり。
故に折壁村なる法人は町村制実施の結果として独立して財産を所有する者にして旧折壁村が独立したりし際所有し居りし財産又は下折壁村民の所有財産とは固より混一すべきものに之れなきを以て上告人は原審に差出したる答弁書に於ても論地は「旧下折壁村なるもの独立をなし居りし際其村民に於て共有したりしものにして法人財産には之れなし。
従て一の法人たる新立の折壁村には何等の関係も無之候」と主張し居れり。
加之本案論地は旧下折壁村民の共有地なるも別に管理者を設くることなく町村制の支配を受くることなく村民に於て之をなし居ることも申立てたる所にして被上告人も敢て争はざりし事実なり。
要するに下折壁なる者は法人にあらず。
従て之れが代表者なる者之れなきこと町村制の支配を受けざること加之法人たる折壁村とは別にして権利上個個独立なることを主張したりしに原裁判中に下折壁なる法人に属し云云」「下折壁なる法人代表する所の者に在で訴求せざる可らざることは町村制に照し論を俟たざる所にして云云」と判決せられたるは不当に緊要の事実を認定し不当に法律を適用したるものにして民事訴訟法第四百三十五条に背きたる者なりと云ふに在り
案するに凡そ一の社団又は財団をして権義の主体たる法人たらしむるには町村制第二条に於て町村に関して規定するが如く法律に於て其規定なかるべからず。
而して町村制其他の我法律に於て未だ町村内の部落を以て法人と規定したるものあらず。
蓋し一の社団又は財団が或権利若くは義務を有することあるの一事を以て直ちに法人なりと做すことを得ず。
彼の相続人の曠欠する相続財産にして未だ何人に帰属すべきやを知ることを得ざる時期にあるものの如きも亦此種の財団に属す。
然るに原院が折壁村の一部落なる下折壁を法人なりとして説明したるは其当を得たるものに非ず、。
然れども町村内の一部にして別に其区域を存して区を為すものは特別に財産を有することを得るは町村制第百十四条に於て明かに規定する所なり。
而して其区が財産を所有するときは同条の規定に従ひ郡参事会は町村会の意見を聞き条例を発行し其財産に関する事務の為め区会を設くることを得るも其事務の管理に至ては同制第百十五条の規定に従ひ町村の行政に関する規則に依り常に町村長に属するものとす。
夫れ町村の行政に関する規則に依り財産に関する事務を管理するものたる以上は町村長は同制第六十八条第四号に準依して部落の権利を保護し其所有財産を管理し又同条第七号に準依して部落を代表し部落の名義を以て其訴訟並和解に関する事務等を担任する職務権限を有するや明かなり。
夫れ然り。
然れば原院が下折壁部落を代表する所の折壁村村長に於て本訴を提起すべきものと判定したるは結局相当の裁判にして上告論旨は其当を得ざるものとす。
(判旨第二点)
同第三点は原裁判所は係争地は下折壁なる法人の所有に属するものなれば該法人を代表する者に於て訴求せざる可らずと判決したれども下折壁なる法人の所有なりとは上告人被上告人共に申立てざる所にして被上告人に於ては下折壁なる部落の所有なりしものと論したるのみ然るに原裁判所は進んで下折壁なる法人の所有に属するものと判決したり。
抑も部落が法人なるや否やは一の問題に属すれへも上告人は町村制其他に明文あることなきを以て部落は法人と云ふことを得ずと思料す果して然らば原裁判が法人と所有と判決したるは誤りなれども仮りに部落は法人なりとするも当事者は此申立を為さざるに進んで当事者の申立以外に判決したるは失当の裁判なりと云ふに在り
按ずるに部落なるものの法人なるや否やは法律点に関する問題にして必要なる場合に於ては当事者の意見如何に拘はらず裁判所が之を決すべきものなれば原院が此点に付き当事者の主張なきに拘はらず裁判したるも決して上告論旨の如き不法ありと云ふことを得ず。
同第四点は原判決主文に曰く「欠席判決及び原判決の内控訴人に対する部分を廃棄す」と。
抑も新弁論に基き為す所の判決が欠席判決と符合するときは欠席判決を維持することを言渡すべきものにして決して之を廃棄すべきものに非ず。
然るに本件は欠席判決に於て上告人敗訴の言渡しを為し新判決に於ても同様上告人敗訴の言渡を為したるものなれば新判決に於ては宜しく欠席判決を維持することの言渡を為さざる可らざるに原判決茲に出でずして之が廃棄の言渡を為したるは民事訴訟法第二百六十一条の規定に違背する失当の裁判なりと云ふに在れども欠席判決を閲するに原判決は之を廃棄す被控訴人の訴は之を却下す訴訟総費用は被控訴人之を負担す可し」とあり対席判決に於ては「欠席判決及び原判決の内控訴人に対する部分を廃棄す被控訴人の控訴人に対する訴は之を却下す控訴人に対する訴訟総費用は被控訴人之を負担す可しとありて欠席判決に於ては第一審判決全部即ち被告たる控訴人の敗訴したる部分のみならず原告たる被控訴人の敗訴したる部分までを廃棄し対審判決に於ては単に控訴人の敗訴したる部分のみを廃棄したるものなれば右両箇の判決は相違し決して符合するものに非ず。
然れば原院が欠席判決を維持せずして更に判決を為したるは毫も不法に非ず
同第五点は原判決主文に曰く「欠席判決及原判決の内控訴人に対する部分を廃棄す」と原判決とは。
即ち第一審判決なり。
而して第一審判決を廃棄せば本訴に於て第一審裁判は之なきの結果となる然るに我が裁判所構成法並に民事訴訟法に於て裁判は三審迄あることの規定を設けられあれば一審なくして二審のみあるは法律に於て許さざる所なり。
故に原裁判に於て第一審裁判を不当とせば単に其裁判に変更を加ふべくして第一審判決を廃棄すべきものに非らざるに原判決茲に出でず第一審判決を廃棄したるは。
即ち民事訴訟手続に違背する失当の裁判なりと云ふに在れども第一審判決を廃棄すとは未だ第一審判決を経さるものと為すの意に非ずして只不法なるが故其効力ながらしむとの意味に過ぎざれば決して第一審判決を無視するに非ず。
然れば本論告も亦其理由なし。
同第六点は原判文に曰く「被控訴人は甲第二号証に基き係争地が下折壁村民共有地なるを証せんとするも同証には下折壁共有地とあるを以て見れば却て下折壁なる法人の所有たるを認め得へさも之を以て下折壁村民の共有地なりとは認むるを得ず。」と。
然れども共有地と云へは数多の人の共有所に係らざるべからず。
一法人の所有なれば之を共有と云はず又甲二号証は共権者と云ふ資格にて小山亮助が収税署の証明を得たるものなり。
然るに何故に之れが村民の共有と見るに足らずして却て下折壁なる法人の所有と認むべきものなるやの理由を示さず以て甲第二号証を排斥したるは裁判に理由を付せざる失当の裁判なりと云ふに在れども原判決の趣旨たる下折壁村民の共有地なれば甲第二号証に其旨記載あるべき筈なるに同証には単に下折壁共有地とあるを以て其所有権は下折壁に属すとの意なること明かなり。
要するに本上告は事実の認定を批難するに過ぎざれば其理由なきものとす。
上来説明の如く上告論旨は総で其理由なきを以て民事訴訟法第四百五十二条に従ひ主文の如く判決す