四〇　政治的民事的及反宗敎的自由ニ對スル制限ノ撤廢ニ關スル覺書
（一九四五年一〇月四日）
一　日本帝國政府ハ政治的、民事的及宗敎的自由ニ對スル制限並ニ人種國籍、信仰又ハ政見ヲ理由トスル差別待遇ヲ撤廢スルタメ
（イ）　左記ノ事項ニ關スル一切ノ法律、勅令、省令、命令及規則ヲ廢止シ其ノ效力ヲ直ニ停止セシムルモノトス
（1）　天皇、皇室及帝國政府ニ關スル自由ナル討議ヲ含ム思想、宗敎集會及言論ノ自由ニ對スル制限ヲ設定又ハ之ヲ維持スルモノ
（2）　情報ノ蒐集及頒布ニ對スル制限ヲ設定シ又ハ之ヲ維持スルモノ
（3）　法令ノ條文又ハ其ノ適用ニヨリ人種、國籍、信仰又ハ政見ヲ理由トシテ特定ノ者ニ對シ不當ナル恩惠又ハ不利ヲ與フルモノ
（ロ）　上記ノ（イ）項ニ該當スル法規ハ左ノモノヲ含ム。但シ左ノモノニ限ラルルコトナシ
（1）　治安維持法（昭和十六年法律第五十四號、同年三月十日頃公布）
（2）　思想犯保護觀察法（昭和十一年法律第二十九號、同年五月二十九日頃公布）
（3）　思想犯保護觀察法施行令（昭和十一年勅觀第四百一號、同年十一月十四日頃公布）
（4）　保護觀察所官制（昭和十一年勅令第四百三號、同年十一月十四頃公布）
（5）　豫防拘禁手續令（司法令省第四十九號、昭和十六年五月十四日頃公布）
（6）　豫防拘禁處遇令（司法省令第三十號、昭和十六年五月十四日頃公布
（7）　國防保安法（昭和十六年法律第四十九號、同年三月七日頃公布）
（8）　國防保安法施行令（昭和十六年勅令第五百四十二號、同年五月七日頃公布）
（9）　辯護士指定規定（昭和十六年司法省令第四十七號、同年五月九日頃公布）
（10）　軍用資源祕密保護法（昭和十四年法律第二十五號、同年三月二十五日頃公布）
（11）　軍用資源祕密保護法施行令（昭和十四年勅令第四百十三號、同年六月二十四日頃公布）
（12）　軍用資源祕密保護法施行規則（昭和十四年陸海軍省令第三號、同年六月二十六日頃公布）
（13）　軍機保護法（昭和十二年法律第七十二號、同年八月十七日頃公布、昭和十六年、法律第五八號ニ依リ改正）
（14）　軍機保護法施行規則（陸軍省令第五十九號昭和十四年十二月十二日頃公布、昭和十六年陸軍省令第六、二〇及五八號ニヨリ改正）
（15）　宗敎團體法（昭和十四年法律第七十七號、同年四月八日頃公布）
（16）　上記ノ法規ヲ修正、補足若ハ實施ニ關スル一切ノ法律、勅令、省令、命令及規則
（ハ）　左記ノ理由ニヨリ拘留、投獄、保護觀察或ハ他ノ方法ニ依リ自由ヲ束縛サルル一切ノ者ヲ卽時釋放スルモノトス
（1）　上記第一項（イ）及（ロ）ニ示サレタル法規ニ基クモノ
（2）　何等ノ指名ナキモノ
（3）　拘留、投獄、保護觀察或ハ自由ノ束縛ノ眞ノ理由ガ其ノ者ノ思想、言論、宗敎、政見又ハ集會ニ存スルニ拘ラズ技術的ニハ輕微ノ犯罪ヲ理由トシテ其ノ罪ヲ問フ場合
此等ノ者ノ釋放ハ昭和二十年十月十日迄ニ完了スベキモノトス
（ニ）　上記第一項（イ）及ビ（ロ）ニ示サレタル法規ノ各條項ヲ遂行スル爲ニ設置サレタル一切ノ組織又ハ機關、並ニ斯ル條項ヲ遂行スル上ニ於テ之ヲ補足若クハ援助スル他ノ官廳又ハ關係部局ハ機能ヲ廢止スベキモノトス、本項ノ適用ヲ受クルモノハ左ニ列擧スルモノヲ含ム、但シ之ニ限ラルルコトナシ
（1）　一切ノ祕密警察機關
（2）　內務省內ノ警保局ノ如キ出版物ノ取締、集會及結社ノ取締、映畫檢閱等ノ任務ヲ有スルモノ及思想言論、宗敎及集會ノ統制ニ任ズル其他ノ部局
（3）　出版物取締、集會及結社ノ取締、映畫檢閱等ニ當ル警視廳特別高等警察部、大阪府其他ノ都市警察部、北海道廳警察部、及各府縣ノ警察部並ニ思想言論、宗敎又ハ集會ノ統制ニ任ズル他ノ各部局
（4）　保護觀察、思想、言論、宗敎又ハ集會ノ統制ニ當ル司法省內ノ保護觀察審查會及之ニ隷屬スル一切ノ保護觀察所
（ホ）　內務大臣、內務省警保局長、警視總監、大阪府警察局長、（其ノ他ノ各都市警察署長）北海道廳警察部長、各府縣警察部長、（各都市）北海道及各府縣ノ特別高等警察課ノ全員、司法省保護觀察審查會並ニ保護觀察所ノ一切ノ官吏ヲ罷免スルモノトス。更ニ上記ノ者ハ總テ今後內務省、司法省其ノ他日本ニ於ケル如何ナル警察機關ニ於テモ再ビ登用サルルコトナキモノトス。上記ノ者ノ內其ノ援助ガ本指令ノ遂行ニ必要トサルル場合ニハ本指令ノ履行ガ完了スル時ニ至ルマデ其ノ職ニ止マリ、爾後罷免サルルモノトス
（ヘ）　警察官吏、警官若ハ他ノ中央乃至地方官吏又ハ雇員ハ上記第一項（イ）及（ロ）並ニ第一項ニ（ニ）依リ廢止サルベキ機關及機能ニ關シ今後如何ナル行動ヲ採ルコトモ禁止スベキモノトス
（ト）　如何ナル日本政府ノ法規、法律、勅令、省令、命令規則ニ依リテモ拘留、投獄、保護觀察ヲ受ケタル一切ノ私人ニ體刑又ハ不當ナル待遇ヲ與フルコトヲ禁止スベキモノトス。斯ル者ニ對シテハ總テ常ニ身體保持ニ充分ナル營養ヲ與フベシ
（チ）　第一項（ニ）ニ依リ廢止サルル機關ノ一切ノ記錄其ノ他一切ノ資料ノ保存ニ必要ナル措置ヲ採ルベキモノトス。此等ノ記錄ハ本指令ノ遂行ノ爲ニ使用セラルベク其ノ破棄、移動、若ハ改竄ヲ行フコトヲ得ズ
（リ）　本指令ノ條項ニ遵ヒ採ラレタル凡ユル、措置ノ細目ヲ示ス詳細ナル報吿書ヲ當司令部ニ對シ昭和二十年十月十五日迄ニ提出スベキモノトス。此ノ報吿書ハ別個ノ補足的報吿ノ形式ニ依リ次ノ如キ特定ノ事項ヲ報吿スルモノトス
（1）　上記第一項（ハ）ニ基キ釋放サルル者ニ關スル報吿（拘留サレ又ハ釋放サレタル時ニ於ケル刑務所其ノ他ノ施設或ハ其ノ保護若ハ觀察ヲ統轄スル官廳ニ依リ類別スルコト）
（い）　拘留若ハ入獄ヨリ釋放サレタル者若ハ保護觀察ヨリ釋放サレタル者ノ氏名、年齡、國籍、人種及職業
（ろ）　拘留若クハ入獄ヨリ釋放サレタル者ニ對シ擧ゲラレタル罪狀ノ種類又ハ保護觀察ヲ行フル理由トシテ擧ゲラレタル罪狀ノ種類
（は）　拘留入獄若クハ保護觀察ヨリ釋放セラレタル者ニツキ其ノ釋放ノ行ハレタル日及釋放ヲ受クル者ノ豫定スル住所
（2）　本指令ノ規定ニヨリ廢止サレタル機關ニ關スル報吿
（い）　機關ノ名稱
（ろ）　第一項（ニ）ニ基キ罷免サレタル者ノ氏名、住所及職名
（は）　凡ユル書類、記錄其ノ他一切ノ資料ノ種類及所在地
（3）　刑務所機構及刑務所人事ニ關スル報吿
（い）　刑務所機構ノ槪要
（ろ）　凡ユル監獄、刑務所、拘置所ノ名稱及所在地
（は）　凡ユル刑務所所員ノ氏名、官等及職名（刑務所長、副所長看守長、副長、看守及刑務所醫）
（4）　本指令ヲ遂行スルニ當リ日本政府ノ發セル凡ユル命令書、（刑務所長及縣廳官吏ノ發セルモノヲ含ム）
二　本指令ノ條項ニヨリ影響ヲ受ケル一切ノ日本政府官吏及其ノ從屬者ハ本指令ノ忠實ナル遵守遂行ニ對シ各自責任ヲ有シ嚴重ニ其ノ責任ヲ履行スルコトヲ要ス