310 聯合國國民に對する日本所在の財産の返還手續に關する覺書
一九四六年五月六日
1. 日本帝國政府は、現に日本國內に居住し、又は今後日本に歸ることあるべき聯合國民に對して、日本國にある財產を返還するに當つて次に規定された手續に從ふやう指令される。
a. 日本帝國政府は一九四一年一二月七日に聯合國國民によつて所有されてゐた日本國內所在財產の現在の日本人保管者又は管理者に對して、財產の返還を請求するすべての聯合國國民に、附屬書Aの書式による請求書三通を自國政府の日本駐在代表者を經て聯合國最高司令部に提出すべき旨通知するやうに訓令すべきである。
b. 上記請求書の一通は審查のために、聯合國最高司令部によつて日本帝國政府に送達される。日本帝國政府はできる限り速やかに、その申請書を聯合國最高司令部に返還し、次の各項に關する完全な情報を提供すべきである。卽ち(1)一九四一年一二月七日に於ける所有權の完全な文書上の記錄、(2)その財產の現狀と所在、(3)賣却されたかどうか、もし賣却されたとすれば購入者と現在の所有者の氏名と現住所を含めて、その賣却に關聯する一切の關係資料、(4)その財產の金錢的現狀、賣却による利益、勘定に預金され、又はそれから引出された額とその勘定の殘高、(5)その他の關係資料。
c. 上記(a及びb)の資料はすべて英語で記述されねばならない。但し聯合國國民によつて提出された資料又は證據書類は日本文にて差支ない。必要ある場合と入手可能の場合は、原本の書類を日本政府當局又は保管者に提示して差支ないが、提出する必要はない。
d. 個々の返還に當つて取らるべき措置については、追つて聯合國最高司令部から日本帝國政府に指示を與へるであらう。
2. 本覺書に用ひられた「財產」なる語は次に列記するものを含む。卽ち、貨幣、小切手、手形、地金、銀行預金、貯蓄勘定、一切の借金負債又は債務、普通に銀行家、仲買人、投資商社によつて取扱はれる金融上の有價證券、預り證、社債、株券、債券、利札、銀行領收書、抵當證書、質權證書、留置權證書その他擔保の性質を有つ權利の證書、倉庫證券、船荷證券、信託證書、賣渡證、その他原權、所有權又は債務の證據、貨物、賣品、商品、動產、手持在庫品、船舶、船舶の積荷、不動產抵當、賣渡同意書、土地契約、不動產及びこれに關する一切の權利、借地權、地代、選擇取引、流通證券、爲替手形、版權使用料、帳簿上の貸借勘定、受取勘定、鑑定書、特許權、商標權、著作權、特許權商標權又は著作權に關係する契約書又は許可書、保險證券、貴重品保管凾とその在中品、年金、共同計算勘定、その他一切の種類の契約等。
3. 財產返還の要求を滿足させることは、要求者又は請求者の今後に於ける補償要求權を阻害するものではない。
4. 本覺書を實施するために、日本帝國政府の當該機關と、聯合國最高司令部民間財產管理部との間における直接交涉がこの覺書によつて承認される。
5. 本覺書の條項の實施のために發布せられる一切の法令の寫し六通を、一九四六年五月二七日までに、聯合國最高司令部に提供されねばならない。これらの寫しは英文と日本文の本文を含むことを要する。