1011 連合國人の特許、實用新案、意匠の回復手續に關する覺書
(SCAPIN1990)一九四九年四月八日
1. 日本政府に對し從前連合國人により所有又は出願された特許或は特許出願及び將來連合國人に依り提出される或種の新特許出願に關する本覺書の諸規定を履行するために必要な手續を規定する樣指令する。
2. 本覺書に於ては下記の定義及び解說を適用するものとする。
a. 「連合國人」とはその財產を日本政府より敵國財產として取扱われた者、又はその財產權が彼の屬する國と日本との間の戰爭に依り消滅された者をいう。
b. 連合國人の特許或は特許出願に適用される「權利喪失の日」とは其の連合國人の屬する國と日本との戰爭開始の日を指すものである。戰爭開始の日が特定の連合國人の場合に對して上記定義が明瞭に適用し難い場合は「權利喪失の日」はその連合國人の特許が實際に差押えられた日又はその特許權が消滅した日を指すものと解釋せられるものとする。
c. 本覺書の第五項に於て「善意な製造、使用、販賣又は實施許諾」なる語が使用される句は下記の如く定義されるものとする。
(1) 特許出願又は特許出願者に權原(タイトル)を付與した人に關係なく爲された發明の製造、使用、販賣、又は實施許諾。
(2) 後日特許許可さるべき人により爲された最初の出願提出前に開始せられた製造、使用又は販賣。
3. a. 連合國人により所有又は出願され權利喪失の日に日本に存續し或は同日以前に提出された出願に依りその許可された特許にしてその後權利消滅し或は該所有者の自由同意を得る事なく無効とされ或は差押えられ又はその他の方法で該所有者が剝奪された特許は該件に關する連合國人の要求に依り効力を再發生され權利を回復せられるものとする。上記要求に關しては下記規定を適用するものとする。
(1) 上記の如く効力を再發生され權利を回復せられた特許の所有者は上記權利回復時に實施中の日本特許法の下に如何なる國の如何なる國民にも付與されて居る權利及び特權の凡てを付與されるものとする。
(2) 權利喪失の日から權利回復の日に至る期間に對し該特許に關して日本政府に納入すべき特殊又は正規の料金の支拂は必要ないものとする。
b. 連合國人所有者の要求に依り彼が權利喪失の日に所有し又は同日以前に提出された出願によりその後許可された日本特許の存續期間は通常の滿了の日に權利喪失の日より權利回復の日又は該特許の通常の期間滿了の日の中何れか早い方の日迄の期間と同じ期間を加えて延長されたものとする。但しその延長はかゝる特許權者が權利喪失の日から權利回復の日迄の期間中に於ける特許使用につきすべての實施料の要求を抛棄し且つその使用料として受領せる資金又は封鎖勘定に依り所有者に積立られた資金を日本政府に對し手交する場合にのみ許可されるものとする。
c, 連合國人が上記3α,の規定に依り彼の特許の權利回復を要求する場合、上記3b,に規定された期間延長の代りに權利喪失の日より權利回復の日又は通常の期間滿了の日の中何れか早い方の日迄の期間中特許使用に對し使用料を受ける樣に選定する事ができる。
d. 連合國人に依り日本に提出された特許出願にして權利喪失の日に繫屬中にして且特許權が付與されなかつた出願は該連合國人出願者の要求により日本特許局で繫屬中の出願とし再び取扱われ法律に從い手續を進められるものとする該出願により其後登錄された特許を凡て上記三b,の適用規定に全面的に適合する樣に取扱われるものとする。
4. 日本と交戰中の國民にして權利喪失の日前十二ヶ月以降に最初の特許出願を何れかの國に正式に提出したものは先の最初の特許出願を基礎とする優先權に一致する權利を日本に要求する權利を有するものとする。
5. 本覺書第四項の規定に依り得たる日本特許の對象たる發明を善意に製造、使用、販賣又は實施許諾せる第三者は該使用のため侵害の責を問われないものとする。而して非獨占的實施許諾の條件(連合國人所有者は正當な使用料を規定する條件で實施を許可する事を要する)の下で該使用を出願公吿後繼續し得べきものとする。
6. 連合國人特許所有者は効力の再發生及び權利回復の要求をなすため及び上記第四項に定義された如き優先權を取得するため一九四九年五月一日より一年の期間を付與され、且つその後、權利喪失の日以來なされなかつたその權利の回復、効力の再發生、實施及び(又は)保持に關連する凡ての法的必要行爲をなすために相當な期間を付與せられるものとする。
7. 特許に關して上記に設定せる規定は可能な範圍に於て實用新案及び意匠に適用されるものとする。
8. 日本政府は上記指令を履行するため必要な措置を効果的に執るものとする。
9. 日本政府に對し更に下記の如く指令する。
a. 特許權者又は出願者の意圖を問うことなく特許又は特許出願の發明の內容を完全に公開する樣規定すること。
b. 特許又は特許出願の發明の內容の秘密保持を禁止するため積極的な措置を執ること。
10. 日本政府に對し現に施行中の「工業所有權戰時法」及びそれに關連する附屬法規のすべての規定を無効とせしめる樣指令する、
11. 日本政府は認可を受けるため本覺書の日附より二十一日以內に本覺書の規定遂行を意圖せる法律、手續及び訴訟手續を設定せる法律、政府及び(或は)省令各案を連合國最高司令部に提出するものとする。