六五六 ソ連及びソ連管理地域からの日本人の引揚及び、朝鮮人の北緯三八度以北の朝鮮へ日本から引揚げる件に關する覺書
一九四六年一二月二六日
1. 一九四六年五月七日附連合國最高司令官覺書修正、「引揚」に關する件を參照すること。
2. a. ソ連及びソ連管理地域よりの日本人の引揚は、一ヶ月約五萬名の割合にて卽時開始する。引揚人は一般に次に從い日本の收容所を通じて處理される:
引揚地域 日本國內の港
樺太及び千島列島 函館
シベリア 舞鶴
北鮮及び旅順地區 佐世保
b. 在日本北部朝鮮人一萬名以內の引揚は、一九四七年三月九日乃至一五日の期間に實施される。右一萬名は、北緯三八度以北の朝鮮に原籍があり、一九四六年三月一八日以前に歸國希望の旨登錄した九七〇一名の朝鮮人と、北鮮に生れ、一九四六年三月一八日以前に登錄しなかつた又はその後に意圖を變更した引揚希望の朝鮮人を含む。上記第一項の參照文書の規定條項が次の各項を除き適用される:
(1) 携帶の荷物積込は次の通り認可する:
(a) 所有者のみに價値のある衣類、個人的所有物件及び家財は一人當に二百キロを超えないこと
(b) 全重量一千キロを越えず、一九四五年九月二日又はそれ以前に直接所有し、一切の質權又は債務に關係なく、彼等の業務運營又は日本において個人的に營業する事業に使用される工具、輕機械類及び事業設備品
(2) 上記第二項b(1)に述べられている種目の積込は、個人の携行する手荷物を除き、その費用は關係個人の負擔とする。引揚の許可を受けていない朝鮮人はその財產積込を許可されない。
(3) 規定の防疫措置の外、各引揚人に對しチブスワクチンの注射を施すこと。
(4)次の疫病を持つ者は引揚船への乘船を許可しない:チブス及びパラチブス、ペスト、發疹チブス、天然痘、コレラ、間歇熱、日本性B腦炎、肺炎、インフルエンザ、ヂフテリア、猩紅熱、水疱瘡、はしか、百日咳、耳下腺炎、腦脊髓膜炎、脊髓灰白質炎、腦炎A、及び流行性出血熱。
(5) 次の疾病を持つ者は引揚船に乘船せしめて差支ないが、連合國最高司令官にその旨通吿し、朝鮮までの途中適當に監督を加えることを要する:アミーバ赤痢、パチルス赤痢、小腸炎又は下痢、マラリア、カーラーザル熱、肺病、肋膜炎、波狀熱及び花柳病。
3. 日本帝國政府は:
a. 上記第二項aに述べられている引揚日本人に關しては:
(1) 乘船第一日にチブスワクチンの第一囘注射を必ず實施するための所要の準備をすること。
(2) 日本の收容所到着と同時にチブスワクチンの最終注射を行うこと。
(3) 引揚人は上記第一項の參照文書に含まれている指示に從つて處理すること。
(4) 彼等がソ連當局から給付された許可濟の衣類及び裝具を保持することを許すこと。
b. ソ連當局によつて引揚人に支給された物件の目錄を船長より集受し、追つて指示あるまでこれらの目錄を安全保管すること。
c. 上記第二項bに述べられている引揚朝鮮人に關しては:
(1) 彼等が佐世保收容所に到着すべき期日と、彼等が自費で持ち歸ることを許可された手荷物及び裝具の量に關して關係各府縣に對し直ちに出來る限り知らせること。
(2) 引揚申請者の總數が一萬人を越える場合は、一萬を越える員數の引揚交涉をするため、一九四七年二月二八日までに連合國最高司令官に通吿すること。
(3) 第八軍司令官の作製する詳細な手續に從つて、上記第二項b(1)に述べられている財產の積込に關連して、第八軍司令官により割當てられる所要任務の遂行を準備すること。
(4) 一九四七年二月二三日乃至三月九日の期間に彼等を佐世保收容所に移し、上記第二項bによつて一部修正されたところの上記第一項參照文書に從つて處理すること。
(5) 連合國最高司令官の指定する船舶によつて、一九四七年三月九日乃至一五日の期間に、一萬人以內の朝鮮人を送り出すこと。なお次の各項を保證する所要の手配をなすこと:
(a) 上記第二項b(1)に明記されている各引揚人の手荷物、器具、機械類及び設備品は一切、引揚人の乘船する船に積込むこと
(b) 佐世保收容所係官は、乘船者名簿五通及び移管書類(別紙第一に書式添附)二通、何れも英文にて作製のものを船長に手交すること。
(c) 朝鮮人を歸還させる船舶の船長は:
1. 下船地點において乘船者名簿四通をソ連當局に提出すること
2. 乘船者及び荷物の荷揚が濟んだ後a. ソ連當局と共に移管書類(別紙第一)二通に署名すること。
b. ソ連當局に右移管書類一通を提出すること
3. 署名入り移管書類及び乘船者名簿各一通を航海日誌の一部とすること
d. 往復の航海に要する食糧及び燃料を船舶に供給し、不時の遲延に備えて十分な燃料、食糧及び水を加給すること。
e. 引揚船船長が次の各項を守るよう所要の措置を講ずること。
(1) ソ連地域及びソ連管理地域において沿岸詰所又は船舶發着所での交涉に英語を使用すること
(2) ロシア語で書いた乘船者目錄及び移管書類に從つてソ連當局より引渡される引揚人の移管を受けること
(3) 確認の上ソ連當局の提示する移管書類に署名すること
(4) 船舶及び補給物資に對する損害をさけるため、晝間ソ連地域及びソ連管理地域の集合地及び港に到着するよう特に注意すること
(5) ソ連管理地域內の集合地及び港への到着豫定時を到着の六時間前に、ソ連の又はソ連管理港所在の駐屯所に報吿すること。
(6) 緊急やむを得ない場合及び、船舶の航海能力又は乘船者及び乘組員の安全が物資及び又は修理を受けなければ危殆に陷るような場合を除き、ソ連又はソ連管理港においてそのような物資及び、又は修理を受けないこと。
(7) 上記第三項e(3)に引照されている移管書類がソ連當局から交付された時その一部を航海日誌の一部とすること。
(8) 上記第三項e(2)に引用されている引揚人目錄が、一通だけソ連當局より交附された場合はこれを引揚人收容所當局に提出すること。一通以上の交附を受けた場は一通を航海日誌に挿入し、殘餘を收容所當局に引渡すこと。
f. ソ連地域及びソ連管理地域の港から發せられる一切の航海通報にはロシヤ語が用いられる旨を船長に通知すること。
4. 朝鮮人所有財產の積荷に關連して第八軍司令官との直接交涉を日本帝國政府に許可する。
5. 上記第一項參照文書中の規定のうち、この覺書中の指示事項と背馳するものはこの覺書に從つて修正する。
別紙一通:移管書類
別紙:
引揚人移管書
(日附)一九四七年朝鮮人(員數)及びその個人荷物、器具、機械類及び設備は(港名)港に於てソ連當局に移管せられた。一切の引揚人は連合國最高司令官と連合國日本理事會ソ連委員との間において到達した協定に從つて醫藥上の處理を完了している。
船長氏名
船舶名
引揚人及びその所有物件を受領した:
ソ連官憲氏名
官印