大正七年(オ)第千五十七號
大正八年二月六日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 債務者カ債權者ヨリ金圓ヲ借入レ若シ其債務ヲ履行セサルトキハ係爭不動産ヲ無償ニテ債權者ニ引渡ス旨ノ契約ハ別ニ法律ノ禁スル所ニ非サレハ契約自由ノ原則ニ照シ其效力ヲ否定スルノ要ナキモノトス(判旨第三點)
- 一 未登記ノ建物ニ付キ其所有權ヲ承繼取得シタル者ト雖モ移轉登記ヲ爲サスシテ直ニ保存登記ヲ爲スコトヲ得ルモノトス(判旨第四點)
- 一 縱令保存登記カ事實ニ符合セサルカ故ニ無效ナリトスルモ其登記ニ次テ爲サレタル賣買契約ニ基ク所有權移轉登記ニシテ事實ニ符合スル以上ハ該移轉登記ヲ有效ノ登記ト爲ササルヘカラス(同上)
上告人 川合辯次郎 外二名
被上告人 加藤磯太郎 外二名
右當顧ト間ノ建物土地所有權確認及建物明渡竝ニ假登記抹消請求事件ニ付東京控訴院カ大正七年十月十八日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告論旨第一點ハ上告人ハ原審ニ於テ本件手形ニ附隨セシメタル特約即チ手形債務不履行ノ場合ニハ係爭建物全部ヲ無償ニテ訴外袴田孫兵衛外四名ニ引渡スヘキ旨ノ特約カ有效ナリトスルモ夫レハ債權契約ナルヲ以テ建物ノ所有權カ直チニ袴田等ニ移轉スルノ理ナシ之カ移轉ヲ欲セハ當事者ハ別ニ物權契約ヲ爲ササル可ラス然ルニ當事者ハ該物權契約ヲ締結セシコトナシト抗辯シタリ(原判決ニ於テ引用スル第一審判決事實摘示參照)之ニ對シ原審ハ「甲第四號證ノ二ニ依レハ右約束手形振出ノ當日控訴人川合辯次郎ハ手形受取人ナル右袴田孫兵衛外四名ニ對シ若シ前記支拂期日ニ同手形金ノ支拂ヲ爲ササルトキハ前掲兩番地上ニ存在スル建物全部及ヒ附屬建物悉皆ヲ無償ニテ引渡スヘキ旨契約シタルコト明ニシテ而シテ同契約タルヤ本件手形金ノ支拂アランニハ同手形滿期日ノ當日前示ノ兩番地上ニ現存スル建物全部ニ付更ニ特別ノ意思表示ヲ爲スコトナク所有權タル川合辯次郎ヨリ當然無償ニテ手形受取人ナル袴田孫兵衛外四名ノ所有ニ歸セシムルノ趣旨ナルコトハ同號證ノ文面ト證人小原榮次袴田孫兵衛ノ各證言ニ徴シテ之ヲ肯定スルニ十分ナリトス」ト判定セラル然レトモ原審カ當然所有權カ移轉シタル事實ヲ肯定スルニ十分ナリトノ右各證據ヲ檢スルニ甲第四號證ノ二ニハ「(上畧)右支拂期日ニ至リ約束手形引替支拂不履行ノ際ハ拙者所有ノ靜岡縣濱名郡新居町中之郷字釜崎地先湖面埋立地上ニ存在セル建物全部及ヒ附屬物件悉皆ヲ無償ニテ貴殿ヘ引渡可申候」云云トアリ證人小原榮次ノ證言ニハ「若シ期限ニ至リ辯濟ヲ爲ササル時ハ云云悉皆無償ニテ債權者タル自分等五名ニ引渡スト云フ特約ヲ爲シタリ」トアリ又證人袴田孫兵衛ノ證言ニハ「(上畧)躍シ期日ニ至リ該金額ノ辯濟ヲ爲ササルトキ前記ニ二筆ノ地上ニ在ル建物全部ハ何レモ無償ヲ以テ債權者タル證人等五名ヘ引渡スヘキ特約アリ然シテ期限ニ至ルモ川合ヨリ返金ナク度度催促セシモ返金ヲ得サリシ所ヨリ右特約ニ基キ其當時兩地上ニ建造アリシ建監ハ全部證人等ノ所有トナリ云云」トアリ此等ノ證據ニ顯レタル「引渡可申候
若クハ「引渡スヘキ特約」等ノ意味カ建物若クハ其所有權ノ移轉又ハ引渡ヲ約シタルモノナルコト切言スレハ此等ノ債務ヲ負擔スルノ趣旨ナルコト右文詞ノ一般的解釋トシテ毫モ疑ヒナキ所トス然ルニ原判決カ右等ノ證據ニ依リ本件建物カ當然訴外袴田孫兵衛等ニ移轉シタルモノト判示シタルハ證據ノ趣旨ヲ誤解シ不當ニ事實ヲ確定シタルモノニシテ違法ナリト信スト云フニ在リ
然レトモ原判決ノ説明ハ(中畧)而シテ同契約(甲四號ノ二)タルヤ本件手形金ノ支拂アランニハ同手形滿期日ノ當日前示ノ兩番地上ニ現存スル建物全部(附屬建物共)ニ付キ更ニ特別ノ意思表示ヲ爲スコトナク所有者タル控訴人川合辯次郎ヨリ當然無償ニテ手形受取人ナル袴田孫兵衛外四名ノ所有ニ歸セシムルノ趣旨ナルコトハ同號證(甲第四號證ノ二)ノ文面ト證人小原榮次袴田孫兵衛ノ各證言ニ徴シテ之ヲ肯定スルニ十分ナリトストアリテ以上ノ判旨ハ前示甲號證及兩證人ノ供述ニヨリ之ヲ認ムルニ難カラサルヲ以テ原判決ハ所論ノ如キ違法アルコトナシ
同第二點ハ上告人ハ原審ニ於テ「甲第四號證ノ二ニ所謂建物トハ同契約締結ノ當時現在セルモノニ限ラル然ルニ係爭建物ノ一部ハ當時尚存在セサリシカ故ニ其部分ノ建物ニ付テハ被控訴人ニ於テ所有權ヲ取得スヘキ理ナシ」ト抗辯シタリ之ニ對シ原審ハ「按スルニ證人小原榮次、杉本宇之助、小笠原駒太郎ノ各證言ヲ對照スルニ本件約束手形ノ受取人ナル訴外袴田孫兵衛外四名ハ控訴人川合辯次郎ノ資力ニ疑ヲ抱キ同手形ノ不拂ニ因リ損害ヲ蒙ルコトアルヘキヲ虞レ甲第四號證ノ二ノ契約締結ノ日タル大正五年五月十九日現在ノ建物ハ勿論右手形ノ滿期日タル同年七月二十日迄ニ前示兩地上ニ建設セラルヘキ一切ノ建物ヲモ契約ノ目的物トナシタルコト明白疑ヲ容ルルノ餘地ナク且ツ係爭建物カ同日迄ニ建設セラレ何レモ家屋トシテ見得ヘキ程度ニ竣成セルコトハ證人縣由平、小原榮次、中村喜藏ノ各證言ヲ參酌シテ之ヲ推認スルニ難カラサルヲ以テ約旨ニ從ヒ係爭建物ノ全部カ前認定ノ如ク手形受取人タル袴田孫兵衛外四名ノ所有ニ歸シタルモノト爲ササルヲ得ス」ト判示ス然レトモ物權移轉ノ契約ニ於テ目的物ノ存在セ陽ルニ其契約カ效力ヲ生スヘキ理由ナシ本件建物ニ付上告人等ト訴外袴田孫兵衛等ノ間ニ所有權移轉ノ契約アルタルハ甲第四號證ノ二ニ依リ明カナルカ如ク大正五年五月十九日ニシテ其當時ニアリテハ本件ノ目的物中未タ存在セサリシモノアリシニ拘ラス其所有權カ右契約ニ因リ移轉スルモノト判定セラレタル原判決ハ違法ナリト云ハサルヘカラスト云フニ在リ
然レトモ將來ニ存在スヘキ物ヲ目的トシテ之レカ所有權ヲ移轉スヘキ契約ヲ爲シ得サル理由ナシ然レハ原判決カ甲第四號證ノ二ノ約旨ヲ解シテ同證ノ契約カ當時現存セサル建物ヲモ包含スルモノトシ所論上告人ノ抗辯ヲ排斥シタルハ不法ニアラサルヲ以テ本論旨ハ理由ナシ
同第三點ハ本件事案ヲ觀察スルニ上告人川合辯次郎カ訴外袴田孫兵衛等ヨリ約束手形ニテ金三千五百圓ヲ借入レ若シ履行期ニ手形債務ヲ辯濟セサルトキハ無償ニテ本件建物ヲ債權者タル右袴田孫兵衛等ニ引渡スト云フニ在ルカ故ニ其實質ハ債權擔保ナリト云ハサルヘカラス蓋〓一方ニ於テ債權存在シ其債權ノ履行ヲ確保スル爲メ其債權契約ト附隨ノ契約ヲ以テ其不履行ヲ條件トシテ債務者所有ノ不動産ヲ引渡スト云フ契約ハ之ヲ債權ニ從タル擔保契約ト解スルノ外ナケレハナリ而シテ契約ヲ以テ擔保權ヲ設定スル場合ニ於テ其辯濟期前ノ契約ヲ以テ債權者ニ辯濟トシテ擔保物ヲ得セシメ其他法律ニ定メタル方法ニ依ラスシテ擔保物ヲ處分セシムルコトハ法律ノ禁スル所ナリト言ハサル可カラス然ルニ本件事案カ之ニ該當スルニモ拘ラス原判決カ被上告人ノ請求ヲ認容シタル違法ナリト云ハサル可ラスト云フニ在リ
然レトモ原判決ノ認定セル所ニ從ヘハ本訴ノ契約ハ所論見解ノ如ク債務ノ履行ヲ確保セル擔保契約ト觀ンヨリハ寧ロ代物辯濟ヲ豫約シタルモノト爲スヲ相當トス從テ擔保契約ナルコトヲ前提トスル本論旨ハ理由ナキノミナラス其何レノ契約ニ屬スルヲ問ハス斯ル契約ハ別ニ法律ノ禁スル所ニ非サルヲ以テ契約自由ノ原則ニ照シ其效力ヲ否定スルノ要ナキモノトス然ラハ原院カ本件契約ニヨリ係爭建物カ袴田孫兵衛外四人ノ所有ニ歸シタルモノト認定シタルハ相當ナリト謂ハサル可ラス(判旨第三點)
同第四點ハ上告人ハ原審ニ於テ被上告人ノ前主袴田孫兵衛外四名カ上告人川合辯次郎ヨリ係爭建物ヲ取得シタルハ承繼取得ナルカ故ニ所有權移轉登記ヲ經サル可ラス然ルニ袴田等カ係爭建物ニ付保存登記ヲ爲シタルハ無效ノ登記ニシテ被上告人等ノ取得登記モ前主ノ無效ナル登記ヲ襲踏セルモノナルカ故ニ其所有權登記ヲ以テ上告人等ニ對抗スルコトヲ得サル旨抗辯シタリ然ルニ原審ハ「(上畧)同登記ハ事實ニ吻合セス之ヲ有效ノ登記ト看ルヲ得サルハ明ナルモ被控訴人等ノ所有權取得ニ付テハ右袴田孫兵衛外四名ノ者ヨリ賣買ニ因リ之ヲ讓受ケタル旨登記シアリテ正シク實際ノ權利變更ノ状態ニ符合スルヲ以テ有效ノ登記存スルモノト爲スヘキハ言ヲ竢タス蓋シ數箇ノ相次テ爲サレタル登記ノ存スル場合ニ於テ實際ノ權利状態ニ一致スルモノト否ラサルモノトアルトキハ單ニ事實ニ反スル登記ノミヲ無效ト爲スヘク同登記ノ瑕疵ハ延テ事實ニ吻合スル登記ノ效力ニ影響スルモノニアラサルコトハ我登記制度ノ公示方法タル性質ニ鑑ミ疑ナキ所ナレハナリ」ト判示ス然レトモ登記ハ事實ニ基クコトヲ要シ當該登記ニシテ假令事實ニ吻合スルモ其前主ノ登記ニシテ虚僞ノモノナランカ承繼人ノ登記モ亦其瑕疵ヲ帶フルモノト解セサル可ラサルカ故ニ原審判斷ハ違法ナリト信スト云フニ在リ
然レトモ未登記ノ建物ニ付キ其所有權ヲ承繼取得シタル者ト雖モ移轉登記ヲ爲サスシテ直チニ保存登記ヲ爲シ得ルノミナラス(明治三十七年九月二十一日本院判決參照)假ニ其保存登記カ事實ニ符合セサルノ故ヲ以テ無效ナリトスルモ其登記ニ次テ爲サレタル賣買契約ニ基ク所有權移轉登記ニシテ事實ニ符合スル以上ハ該移轉登記ハ之ヲ有效ノ登記ト爲ササルヲ得ス此趣旨ハ大正五年(オ)第十二號事件ニ付キ同年三月十五日本院ノ爲シタル判決ノ示ス所ナレハ原院カ右判例ノ趣旨ニ從ヒ所論ノ如ク説示シ此點ニ關スル上告人ノ抗辯ヲ排斥シタルハ相當ニシテ本論旨ハ理由ナシ(判旨第四點)
以上説明ノ如クニシテ本件上告ハ理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ依リ主文ノ如ク判決シタリ
大正七年(オ)第千五十七号
大正八年二月六日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 債務者が債権者より金円を借入れ若し其債務を履行せざるときは係争不動産を無償にて債権者に引渡す旨の契約は別に法律の禁ずる所に非ざれば契約自由の原則に照し其効力を否定するの要なきものとす。
(判旨第三点)
- 一 未登記の建物に付き其所有権を承継取得したる者と雖も移転登記を為さずして直に保存登記を為すことを得るものとす。
(判旨第四点)
- 一 縦令保存登記が事実に符合せざるが故に無効なりとするも其登記に次で為されたる売買契約に基く所有権移転登記にして事実に符合する以上は該移転登記を有効の登記と為さざるべからず。
(同上)
上告人 川合弁次郎 外二名
被上告人 加藤磯太郎 外二名
右当顧と間の建物土地所有権確認及建物明渡並に仮登記抹消請求事件に付、東京控訴院が大正七年十月十八日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告論旨第一点は上告人は原審に於て本件手形に附随せしめたる特約即ち手形債務不履行の場合には係争建物全部を無償にて訴外袴田孫兵衛外四名に引渡すべき旨の特約が有効なりとするも夫れは債権契約なるを以て建物の所有権が直ちに袴田等に移転するの理なし。
之が移転を欲せば当事者は別に物権契約を為さざる可らず。
然るに当事者は該物権契約を締結せしことなしと抗弁したり。
(原判決に於て引用する第一審判決事実摘示参照)之に対し原審は「甲第四号証の二に依れば右約束手形振出の当日控訴人川合弁次郎は手形受取人なる右袴田孫兵衛外四名に対し若し前記支払期日に同手形金の支払を為さざるときは前掲両番地上に存在する建物全部及び附属建物悉皆を無償にて引渡すべき旨契約したること明にして、而して同契約たるや本件手形金の支払あらんには同手形満期日の当日前示の両番地上に現存する建物全部に付、更に特別の意思表示を為すことなく所有権たる川合弁次郎より当然無償にて手形受取人なる袴田孫兵衛外四名の所有に帰せしむるの趣旨なることは同号証の文面と証人小原栄次袴田孫兵衛の各証言に徴して之を肯定するに十分なりとす。」と判定せらる。
然れども原審が当然所有権が移転したる事実を肯定するに十分なりとの右各証拠を検するに甲第四号証の二には「(上略)右支払期日に至り約束手形引替支払不履行の際は拙者所有の静岡県浜名郡新居町中之郷字釜崎地先湖面埋立地上に存在せる建物全部及び附属物件悉皆を無償にて貴殿へ引渡可申候」云云とあり証人小原栄次の証言には「若し期限に至り弁済を為さざる時は云云悉皆無償にて債権者たる自分等五名に引渡すと云ふ特約を為したり。」とあり又証人袴田孫兵衛の証言には「(上略)躍し期日に至り該金額の弁済を為さざるとき前記に二筆の地上に在る建物全部は何れも無償を以て債権者たる証人等五名へ引渡すべき特約あり然して期限に至るも川合より返金なく度度催促せしも返金を得ざりし所より右特約に基き其当時両地上に建造ありし建監は全部証人等の所有となり云云」とあり此等の証拠に顕れたる「引渡可申候
若くは「引渡すべき特約」等の意味が建物若くは其所有権の移転又は引渡を約したるものなること切言すれば此等の債務を負担するの趣旨なること右文詞の一般的解釈として毫も疑ひなき所とす。
然るに原判決が右等の証拠に依り本件建物が当然訴外袴田孫兵衛等に移転したるものと判示したるは証拠の趣旨を誤解し不当に事実を確定したるものにして違法なりと信ずと云ふに在り
然れども原判決の説明は(中略)。
而して同契約(甲四号の二)たるや本件手形金の支払あらんには同手形満期日の当日前示の両番地上に現存する建物全部(附属建物共)に付き更に特別の意思表示を為すことなく所有者たる控訴人川合弁次郎より当然無償にて手形受取人なる袴田孫兵衛外四名の所有に帰せしむるの趣旨なることは同号証(甲第四号証の二)の文面と証人小原栄次袴田孫兵衛の各証言に徴して之を肯定するに十分なりとすとありて以上の判旨は前示甲号証及両証人の供述により之を認むるに難からざるを以て原判決は所論の如き違法あることなし
同第二点は上告人は原審に於て「甲第四号証の二に所謂建物とは同契約締結の当時現在せるものに限らる然るに係争建物の一部は当時尚存在せざりしか故に其部分の建物に付ては被控訴人に於て所有権を取得すべき理なし。」と抗弁したり。
之に対し原審は「按ずるに証人小原栄次、杉本宇之助、小笠原駒太郎の各証言を対照するに本件約束手形の受取人なる訴外袴田孫兵衛外四名は控訴人川合弁次郎の資力に疑を抱き同手形の不払に因り損害を蒙ることあるべきを虞れ甲第四号証の二の契約締結の日たる大正五年五月十九日現在の建物は勿論右手形の満期日たる同年七月二十日迄に前示両地上に建設せらるべき一切の建物をも契約の目的物となしたること明白疑を容るるの余地なく且つ係争建物が同日迄に建設せられ何れも家屋として見得べき程度に竣成せることは証人県由平、小原栄次、中村喜蔵の各証言を参酌して之を推認するに難からざるを以て約旨に従ひ係争建物の全部が前認定の如く手形受取人たる袴田孫兵衛外四名の所有に帰したるものと為さざるを得ず。」と判示す。
然れども物権移転の契約に於て目的物の存在せ陽るに其契約が効力を生ずべき理由なし。
本件建物に付、上告人等と訴外袴田孫兵衛等の間に所有権移転の契約あるたるは甲第四号証の二に依り明かなるが如く大正五年五月十九日にして其当時にありては本件の目的物中未だ存在せざりしものありしに拘らず其所有権が右契約に因り移転するものと判定せられたる原判決は違法なりと云はざるべからずと云ふに在り
然れども将来に存在すべき物を目的として之れが所有権を移転すべき契約を為し得ざる理由なし。
然れば原判決が甲第四号証の二の約旨を解して同証の契約が当時現存せざる建物をも包含するものとし所論上告人の抗弁を排斥したるは不法にあらざるを以て本論旨は理由なし。
同第三点は本件事案を観察するに上告人川合弁次郎が訴外袴田孫兵衛等より約束手形にて金三千五百円を借入れ若し履行期に手形債務を弁済せざるときは無償にて本件建物を債権者たる右袴田孫兵衛等に引渡すと云ふに在るが故に其実質は債権担保なりと云はざるべからず。
蓋〓一方に於て債権存在し其債権の履行を確保する為め其債権契約と附随の契約を以て其不履行を条件として債務者所有の不動産を引渡すと云ふ契約は之を債権に従たる担保契約と解するの外なければなり。
而して契約を以て担保権を設定する場合に於て其弁済期前の契約を以て債権者に弁済として担保物を得せしめ其他法律に定めたる方法に依らずして担保物を処分せしむることは法律の禁ずる所なりと言はざる可からず。
然るに本件事案が之に該当するにも拘らず原判決が被上告人の請求を認容したる違法なりと云はざる可らずと云ふに在り
然れども原判決の認定せる所に従へは本訴の契約は所論見解の如く債務の履行を確保せる担保契約と観んよりは寧ろ代物弁済を予約したるものと為すを相当とす。
従て担保契約なることを前提とする本論旨は理由なきのみならず其何れの契約に属するを問はず斯る契約は別に法律の禁ずる所に非ざるを以て契約自由の原則に照し其効力を否定するの要なきものとす。
然らば原院が本件契約により係争建物が袴田孫兵衛外四人の所有に帰したるものと認定したるは相当なりと謂はざる可らず(判旨第三点)
同第四点は上告人は原審に於て被上告人の前主袴田孫兵衛外四名が上告人川合弁次郎より係争建物を取得したるは承継取得なるが故に所有権移転登記を経さる可らず。
然るに袴田等が係争建物に付、保存登記を為したるは無効の登記にして被上告人等の取得登記も前主の無効なる登記を襲踏せるものなるが故に其所有権登記を以て上告人等に対抗することを得ざる旨抗弁したり。
然るに原審は「(上略)同登記は事実に吻合せず之を有効の登記と看るを得ざるは明なるも被控訴人等の所有権取得に付ては右袴田孫兵衛外四名の者より売買に因り之を譲受けたる旨登記しありて正しく実際の権利変更の状態に符合するを以て有効の登記存するものと為すべきは言を竢たず蓋し数箇の相次で為されたる登記の存する場合に於て実際の権利状態に一致するものと否らざるものとあるときは単に事実に反する登記のみを無効と為すべく同登記の瑕疵は延で事実に吻合する登記の効力に影響するものにあらざることは我登記制度の公示方法たる性質に鑑み疑なき所なればなり。」と判示す。
然れども登記は事実に基くことを要し当該登記にして仮令事実に吻合するも其前主の登記にして虚偽のものならんか承継人の登記も亦其瑕疵を帯ふるものと解せざる可らざるが故に原審判断は違法なりと信ずと云ふに在り
然れども未登記の建物に付き其所有権を承継取得したる者と雖も移転登記を為さずして直ちに保存登記を為し得るのみならず(明治三十七年九月二十一日本院判決参照)仮に其保存登記が事実に符合せざるの故を以て無効なりとするも其登記に次で為されたる売買契約に基く所有権移転登記にして事実に符合する以上は該移転登記は之を有効の登記と為さざるを得ず。
此趣旨は大正五年(オ)第十二号事件に付き同年三月十五日本院の為したる判決の示す所なれば原院が右判例の趣旨に従ひ所論の如く説示し此点に関する上告人の抗弁を排斥したるは相当にして本論旨は理由なし。
(判旨第四点)
以上説明の如くにして本件上告は理由なきを以て民事訴訟法第四百三十九条第一項に依り主文の如く判決したり。