商標登録無效審判精求ノ件

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大審院民事判決録（民録）23輯2195頁

上告論旨第一点は特許局に於て上告人の登録第七〇六三三号商標は之を無効とすとの審決をなしたれども被上告人の登録第一一三〇号商標は元兵庫県武庫郡今津村の内今津村百二十四番屋敷池田幹造に於て所有せしも明治二十六年度に於て既に廃業をなせしを以て旧商標法及現行商標法により該商標は廃業と同時に消滅せるものなり。 此事実は其近隣に居住せる被上告人も素より承知せる筈なり。 然るに明治三十年三月十五日附を以て被上告人は消滅したる該商標権を同人より譲受け権利移転の登録をなしたるものなり。 原抗告審判に於て此無効商標に類似の理由により上告人の登録第七〇六三三号商標を無効となすは違法の審決なり。 被上告人の登録第一一三〇号商標権無効確認の訴訟を神戸地方裁判所へ提起中にありと云ふ[いう]に在り

判旨第一点　。 然れども[しかれども]大審院は抗告審判の審決を為す特許局の確定したる事実を標準として裁判を為すべきものなるを以て右特許局に於て確定せざりし事実を前提とする論旨を上告の理由とし抗告審判の審決を攻撃するを得ざること言を竢たず本件の記録に依れば所論に係る事実は本件抗告審判の審決を為したる特許局の確定せざりしものなること明瞭なり。 故に本上告論旨は失当なり。

上告論旨第二点は特許局に於て上告人の登録第七〇六三三号商標「日東盛」は被上告人の登録第一一三〇号商標「日本盛」とは大体に於て相類似し商標法第三条第一項に違反したりとして同法第十一条によりて被上告人を先願者とし上告人の商標を無効なりと審決したりと雖[いえども]も此両商標は第一に其主要部分たる「日本盛」と「日東盛」に於て相異なるものにして嘗て[かつて]大審院に於て相異なるものなりとせられたる「大学白粉」と「文学白紛」とよりも以上の相違を有す。 加ふるに上告人の商標は振仮名を附し他の附属部分に於ても全然同一又は相類似せるものに非ず。 然るに原審に於て特許局が商標法第三条第一項に違反したりとして同法第十一条を適用したるは不当なりと云はざる可らずと云ふ[いう]に在り

判旨第二点　。 然れども[しかれども]或商標が他の或商標と類似するや否やは事実審判官の専権に属する判断事項なるを以て其判断を批難し上告の理由と為すことを得ず。 所論は畢竟[ひっきょう]するに抗告審判の審決を為す特許局の専権に属する斯る判断を非難するに帰し上告の理由と為すに足らず

仍て[よって]民事訴訟法第四百三十九条第一項に則り主文の如く評決したり。