辨償金請求ノ件
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大審院民事判決録（民録）22輯1485頁
大正三年（オ）第二百八號
大正五年十月五日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 民事訴訟法第六十九條及ヒ第百八十三條ノ規定ハ破産ノ場合ニ之ヲ適用スヘキモノニ非ス
（參照） 委任者ノ死亡、訴訟能力若クハ法律上代理ノ變更、委任ノ廢罷及ヒ代理ノ謝絶ニ因ル委任ノ消滅ハ其消滅ヲ通知スルマテ相手方ニ對シ其效力ナシ」此通知書ハ原告若クハ被告ヨリ受訴裁判所ニ之ヲ差出シ裁判所ハ相手方ニ之ヲ送達ス可シ」代理人ハ謝絶ヲ爲スモ委任者他ノ方法ヲ以テ自己ノ權利ノ防衛ヲ爲ササル間ハ其委任者ノ爲ニ行爲ヲ爲スコトヲ得（民事訴訟法第六十九條）
訴訟代理人ヲ以テ訴訟ヲ爲ス場合ニ於テ原告若クハ被告カ死亡シ又ハ訴訟能力ヲ失ヒ又ハ法律上代理人カ死亡シ又ハ其代理權カ消滅スルトキハ委任消滅ノ通知ニ因リ訴訟手續ヲ中斷ス」訴訟手續ノ受繼ニ付テハ第百七十八條、第百八十條、第百八十一條ノ規定ニ從フ（民事訴訟法第百八十三條） - 一 第一審判決ノ言渡後訴訟當事者ノ一方カ破産ノ宣告ヲ受ケタル場合ニ於テ其訴訟カ破産財團ニ關スルトキハ破産ニ付テノ規定ニ依リ手續ヲ受繼クマテ之ヲ中斷スルモノトス從テ其受繼前ニ爲シタル判決ノ送達及ヒ控訴ノ提起ハ無效ナリ
第一審 長崎地方裁判所
第二審 長崎控訴院
右當事者間ノ辨償金請求事件ニ付長崎控訴院カ大正三年二月十四日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
主文
原判決竝ニ大正二年十月二十二日爲シタル第一審判決送達手續及ヒ其後ノ第二審訴訟手續全部ヲ破毀ス
被上告人ノ控訴ハ之ヲ棄却ス
控訴及ヒ上告費用ハ被上告人ノ負擔トス
理由
上告論旨第六點ハ本件控訴ハ左ノ理由ニヨリ訴訟手續中斷中ニ屬シ不適法ナルニ原裁判所カ之ヲ受理シテ審理判決シタルハ違法ナリ即チ益永孫市ハ本件第一審判決言渡ト同時ニ長崎地方裁判所ニ於テ破産ノ宣告ヲ受ケタルヲ以テ之レニ因リテ本件訴訟手續ハ中斷シタルコト疑ヒナク從テ其後ニ前訴訟代理人ニ爲サレタル第一審判決正本ノ送達ハ無效ト云ハサル可カラス蓋シ破産ノ場合ハ民事訴訟法第百八十三條ニ該當セサルヲ以テ訴訟代理人アルトキト雖モ委任消滅ノ通知ヲ竢タス宣告ト同時ニ中斷ノ效ヲ生スヘケレハナリ果シテ然ラハ第一審判決ノ適法ナル送達ナクシテ提起サレタル本件控訴ノ不適法ナルハ固ヨリ論ヲ竢タサル所ナリ又假リニ右正本ノ送達ハ有效ナリトスルモ少クトモ其送達ト同時ニ中斷ノ效ヲ生スヘキヲ以テ破産管財人ハ先ツ原院ニ訴訟手續受繼ノ申立ヲ爲シタル上ニアラスムハ控訴ヲ提起スルコトヲ得サルモノナルニ何等受繼ノ手續ヲ履マサリシヲ以テ何レニスルモ控訴ハ不適法トシテ却下スヘキモノナリ然ルニ原院ノ措置茲ニ出テサリシハ重要ナル訴訟手續ニ違背シタル違法アルモノトスト謂フニ在リ
按スルニ訴訟進行中當事者ノ財産ニ付キ破産ノ開始シタル場合ニ於テ訴訟手續カ破産財團ニ關スルトキハ商法第九百八十五條民事訴訟法第百七十九條ニ依リ破産ニ付テノ規定ニ從ヒ手續ヲ受繼クマテ之ヲ中斷スルモノニシテ民事訴訟法第六十九條第百八十三條ノ規定ハ破産ノ場合ニ之ヲ適用スヘキモノニアラス然ルニ本件ニ付キ大正二年十月七日第一審判決ノ言渡アリ同年同月十四日被上告人カ破産ノ宣告ヲ受ケ同年同月二十二日被上告人ノ訴訟代理人タリシ者ニ對シ該判決ノ送達アリ同年十一月十一日控訴状ヲ提出シ且本件カ破産財團ニ關スルモノナルコトハ當事者間ニ爭ナキ所ナルヲ以テ右第一審判決ノ送達及ヒ控訴ノ提起ハ訴訟手續ノ中斷中ニ爲サレタルモノト謂フヘク而シテ中斷中ニ爲サレタル判決ノ送達及ヒ上訴ノ提起ノ無效ナルコトハ本院判例ノ認ムル所（明治四十一年（オ）第二號同年三月十三日言渡判決大正元年（オ）第七十六號大正二年七月十一日言渡判決參照）ナレハ被上告人ノ提起シタル本件控訴ハ不適法トシテ之ヲ却下スヘキモノナルニ原院ノ措置茲ニ出テサリシハ不法ト謂ハサルヲ得ス故ニ本論旨ハ其理由アリ原判決ハ此點ニ於テ全部破毀ヲ免レサルモノトス仍テ他ノ上告理由ニ付テハ説明ヲ省畧ス尚本件ニ關シ控訴ノ不適法ナル事實ハ前示ノ如ク明瞭ナルヲ以テ事件ハ既ニ裁判ヲ爲スニ熟スルモノトス
以上説明ノ如クナルヲ以テ本件上告ヲ理由アルモノト認メ民事訴訟法第四百四十七條第一項第四百五十一條第一號ニ依リ主文ノ如ク判決ス