株主總會決議無效宣告請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）15輯250頁

上告理由第一点は原判決は上告人が吉成梅吉に対し総会招集の通知を発せざりし事実推断の資料として庄野亀五郎の証言の一部を引用し「按ず[あんず]るに第一審の証人庄野亀五郎の証言によるときは右株主総会の招集通知を担当したるは同証人にして取扱者が便宜の為め株主名簿により調製したる補助簿（乙第三号証を指す）により各株主に通知を発したりと証言し云云控訴会社は誤で株主の一人なる吉成梅吉に招集通知を発せずして総会を開きたるものと認むるを妥当とす。」と云ひ恰も[あたかも]同人に於て補助簿に記名さるるものに限り通知状を発したりと証言せしものの如く判断せりと雖[いえども]も庄野亀五郎は斯る趣旨の供述をなしたることなし（徳島地方裁判所に於ける訊問調書）同人の供述は之を要するに吉成梅吉に対し通知書を発したることは承知し居れり。 吉成梅吉は会社の株主名簿には登記漏となり居たるも明治四十年一二月頃本株券と引換の為め仮株券を持参したる際株主なることを発見し招集の通知は勿論起業十年祭にも案内状を発したりと云ふ[いう]に在り同証言中最後の一節に通知状を発送したる人名は取扱者が便宣調製したる帳簿（補助簿にして株主名簿により調製したるもの）に依て残りなく発送せり云云とあるは前段に於て一一指名して訊問したる以外の株主に対しても総で通知状を発したりやとの原告の間に対する答にして右帳簿記載の者に限り発送せりとの趣旨にあらざることは調書の全体を熟読玩味せば自ら瞭然たらん乃ち[すなわち]原判決は漫りに証言の一半を分割せし結果証言の趣旨を誤認し依て以て係争事実を不当に推定せし不法の判決なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]証拠の判断取捨は原院の専権に属するを以て証言の一部を分割して之を事実認定の資料に採用したりとて違法と謂ふを得ず。

第二点は原院は尚ほ上告人が吉成梅吉に対する招集の通知を発せざりし事実を推断する資料として証拠保全に関する検証調書を引用し「甲第九号証の検証調書に其証拠保全の際控訴会社の取締役川真田市兵衛は高津受命判事に対し前記補助簿に基き各株主に招集通知を発したる旨の申立記載あるに拘はらず云云」と説示せるも右川真田市兵衛の陳述は総会真集の通知書発送に関する一般の取扱振を伝聞の侭申立たるに過ぎずして係争の総会に関し補助簿記載の者に対してのみ招集状を発したりとの趣旨にあらざるのみならず本来高津受命判事の職権は調書の証明する如く帳簿の検証をなすし止まり

右の如く当事者を審訊[しんじん]して其供述を聴くが如きは全く職権の範囲を踰越[ゆえつ]せるものにして法律上何等の証拠力を保有すべきものにあらず。 然るに原院が斯る無効の調書に依拠し而かも[しかも]其記載の趣旨を誤認して通知欠欠の事実を判定せしは不法の判決なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]検証に立会ひたる者が検証物に関して為したる陳述を必要に応し検証調書に記載するは法律の禁ずる所に非ずして其供述を証拠の価値ありとして採用すると否とは原院の専権に属するを以て本論旨も亦[また]上告の理由とならず

第三点は株主総会招集の通知を株主の一人に発せずして開会したる場合に其決議を無効なりとする訴は其招集の通知を受けざりし株主に限り之を提起し得るものにして法律は之に依て会社の過失に基き招集の通知を受けざりし特定の株主を保護せんとするにあれば其株主が総会の決議を甘諾し法定の期間内に何等の訴をも起さざるに拘はらず他の株主に於て之れを無効宣言請求の理由と為す如きは法律の認容せざる所なりとす。 而して[しこうして]本件事実によれば招集の通知を発せられざりしと謂へる株主吉成梅吉（総株数一万六千株中十株の株主）は訴外の位置に在りて此通知の存否に何等の利害関係なき被上告人が通知の欠欠を理由として訴を提起したるものなるに原判決が之を認容したるは如上の法旨に背反するものなりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]株主総会招集の際各株主に通知を発することは必須の手続にして之に背きたるときは其通知を受けざりし株主のみならず他の総て[すべて]の株主に於て総会の決議無効の宣告を請求することを得るは商法第百五十六条の明文及び第百六十三条に右決議無効の宣告を請求することを得る株主を限定せざるに徴し疑を容るるの余地なく本論旨ぱ右法律を誤解したるものとす。 （判旨第三点）

第四点は明治四十年（オ）第四十二号株主総会決議無効宣言請求上告事件に対する御院の判旨に依れば株主とは株主名簿に氏名住所を記載したる者を指し之に氏名住所の記載なき者を以て株主と看做さざる法意なることを知り得べし然り、而して[しこうして]株式会社の株主は常に実数夥多なるが故に日日株主の死亡等に依り株式の所有者に更迭あるのみならず其株式は会社の承諾なくして之を譲渡すことを得るものなれば会社は株主より其届出を受くるに非ざれば株主の異動を知り之を株主名簿に記載するに由なし。 茲に[ここに]於乎譲渡の場合に付ては商法第百五十条に於て譲受人の氏名住所を株主名簿に記載し、且、其氏名を

株券に記載するに非ざれば会社に於て譲受人を以て株主と看做さざるものとせり。 然るに株主の死亡等に依り株式の所有権を得たる者に付ては何等の明文なきも亦[また]同一の法意に従ひ相続等に依り株式の所有権を得たる者の届出に依り株主名簿に其氏氏名所住を記載し、且、株券に其氏名を記載するに非ざれば会社に於て其取得者を以て株主と看做さざる者とすべきは当然なり。 従て株主の相続人は未だ株主名簿に其氏名の記載なきも尚且つ総会招集の通知を為さざるべからずとするは不法なり。」とせられたり果して然りとせば株主の住所変更の場合に於ても亦[また]株主に於て之を届出で株主名簿に記載の手続を経るにあらざれば会社は其株主に対して招集の通知を発するの義務を生ぜざるものと謂はざるべからず。 蓋し[けだし]如上の判旨に依るときは株主の住所は其氏名と相俟て株主名簿の登記を経へき二大要件にして株主住所の変更は株主其人の変更に等しく人の変更を登記せざる場合に招集の通知を発するの要なしとせば住所の認更を登記せざるものに之を発する傾務なきは自明の理なり。 抑も商法第百七十二条に於て株主名簿を備へ株主の氏名現住所を記載することを命じたる以上は株主も亦[また]其住所に変更ありしときは直に会社に向って届出をなす義務あるは当然の事理にして此義務を欠きたるときは株主より会社に其通知なきことを以て異議を主張することを許すべきものにあらず。 然るに原院が上告人に於て吉成梅吉は屡[しばしば]屡[しばしば]住住を変更し居所不明なるを以て仮に招集の通知を発せざりしものとするも不法にあらずと抗弁せしに対し「住所の変更は通知を受くる権利の放棄と看做す。 能はざるを以て着否は暫く措き会社は届出ある住所に向て通知を発すべき責任を有す。」と説明し上告人の抗弁を排斥したるは不法の判決なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]株主が住所を変更したるに拘はらず之を会社に届出てさるときは会社は必要なる通知を其株主の旧住所に発するの外なきを以て其株主は新住所に通知を受けざるの故を以て異議を唱ふることを得ざるは勿論なりと雖[いえども]此場合を初めより全然株主として住所氏名の届出なく随で株主名簿に記載なかりし場合と同視するは事理の許さざる所なるを以て原判決が上告人の抗弁に対し所論の如く説示したるは正当なり。

第五点は原審は検証調書記載の川真田市兵衛の陳述を信憑して判断の資料に供せられたり告上人は此陳述の真正を争ひ唯一の証拠方法として同人の喚問を申請したるに之を却下したるは違法なり。 又原審が吉成梅吉に対する招集状発送の取扱を担当したる稲飯左膳の肯問を招集状発送の事実証明の為め申請したるに故なく之を却下したるは違法なりと云ひ」第六点は原審に於て控訴人は証人庄野亀五郎国見多蔵（第一審の証人）赤川藤五郎桑田貞二（第二審の証人）の供述を引用し招集通知発送の事実を精確に立証したるに之に対し原判決は何等の説明を与へざる而己ならず赤川桑田の証言に至ては判決事実摘示の部にも記載せられず果して判事の考慮中に加へられたるや疑はし則ち原判決は此点に於ても亦[また]た不法たるを免がれずと云ひ」第七点は検証調書中吉成梅吉の氏名なかりしとの記事はいろは別に記入されたるよの部になかりしとの意味なるに是に因り直ちに末尾の記載を後日の記入と断定したるは調書の趣旨を誤認して事実を確定せし不法の判決なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]係争事実又は証拠の真否に関する証拠調の申請の採否既に提出したる証拠の判断取捨は原院の専権に属し、而して[しこうして]其理由の如きは一一判文に明示するを必要とせざるを以て之を非難するに過ぎざる本論旨は適法の上告理由とならず

第八点は上告会社は明治三十九年法律第十七号鉄道国有法に依り解散し目下清算中に属するが故に清算の目的の範囲外に亘る[わたる]本訴の如きは清算人に於て上告会社を代表すべき権能を有せざるのみならず元来本訴請求の目的は明治四十年八月二十五日上告会社の臨時総会に於て為したる決議の無効宣言を求むるに在り。 而して[しこうして]総会決議を無効とする被上告人の主張は当然清算人の存在をも否認するの主張に帰するものと謂はざるべからず。 然れば其無効の決議を敢て為したる上告会社の取締役を相手として判断すべきは格別被上告人等な其主張に於て自ら存在を否認せる清算人に対し下したる原判決は訴訟当事者を誤解し併せて清算人の代表権限を不法に認めたるものなりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]会社の解散前に起りたる本件訴訟の如きは其解散後清算人に於て商法第九十一条に所謂現務の結了として之を承継処理するの外途なく又商法第百六十三条に規定せる株主総会の決議は当然無効なるものに非ず裁判所の宣告を待ちて始めて無効となるものなれば現に解散の状態に在る会社に対しては清算人を会社の代表者として右決議無効の請求を為すを相当とす。 故に原判決は所論の如き不法あることなし（判旨第六点）

第九点は株主名簿に其氏名住所を記載せざる株主に対し会社は株主総会招集の通知を発するの義務なく。 従て是等の株主に対して招集の通知を発せざることあるも株主総会の決議の効力は之れを妨げざるべき法旨なることは御院に於ても既に認容せらるる所なり。 （明治四十年（オ）第四十二号株主総会決議無効宣言請求上告事件に対する判決参看）翻で原判決を見るに「甲第九号証の検証調書に拠るときは株主名簿を閲するに同簿中吉成梅吉なる氏名なき旨の明記あると云云控訴人が当院へ提出する乙第三号証の最終末尾に特に注意者として吉成梅吉の氏名記載あるも前段説明の如く第一審が証拠保全をなす当時は記入なかりしこと検証調書により明白なれば検証以後の記入に係ること疑を容るるの余地なし。」とあり之に由で是を観れば原判決は係争株主総会招集の通知を発するの当時に於ては株主吉成梅吉の住所氏名は上告会社の株主名簿に記載しあらざりしことを確定したるものなること明なるに拘はらず原判決が尚上告会社に招集通知を発するの義務あるものとして本件株主総会の決議の無効を宣言せられたるは法則を誤解して其適用を誤りたるの不法あり、且、原判決理由中に所謂株主名簿とあるは商法第百七十二条第百五十条に規定せし株主名簿なるや否や明確ならず。 若し之を同条の株主名簿を指すものに非ずとせん乎原院は上告会社が吉成梅吉に対し株主総会招集の通知状を発送せざりしことを以て其総会無効を宣言するには先づ以て前記法条に規定せし株主名簿に梅吉の氏名住所が適法に記載ありしことを確定したる上に非ざれば果して上告会社に怠りありや否や明白ならざる筋合なるに此要点を審査説明をなさずして漫然上告会社が総会招集の通知をなす義務を怠れりと断定したるは理由不備の裁判なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]原判決に所謂株主名簿とは乙第三号証即補助簿を指称したるものなること判文の明示する所にして真の株主名簿に吉成梅吉の氏名記載なしとの事実は原判決の確定したる所に非ざるのみならず

其争となりたる事蹟をも認め難きを以て本論旨は其理由なし。

第十点は上告会社は鉄道国有法に依り其鉄道を政府に買収せられたるか為め解散するものに非ざるも其解散登記の手続は鉄道国有法第十一条に依り逓信大臣の権限に属し上告会社は登記を申請するの権能を有せず。 然るに上告会社が明治四十年八月二十五日臨時株主総会に於て為したる会社解散の決議は被上告人は之を否認し決議の無効を主張し又逓信大臣は解散決議不必要の解釈を採り株主総会の決議を解散の事由と為さず別紙登記謄本の如く鉄道国有法に依り政府に買収せられたるか為め解散すとの理由を以て其登記を為したり。 然れども[しかれども]上告会社の解散は商法第二百二十一条及び私設鉄道法第八十三条に掲げたる事由の外解散するものにあらず。 従て逓信大臣が嘱託したる解散登記は法律上其効を生ぜず上告会社は今尚存続せるを以て会社の代表者は依然取締役にして清算人にあらず。 然るに原裁判所が上告会社の代表者を清算人として言渡したる裁判は違法なるを以て民事訴訟法第四十五条及び第四百三十六条第五号に該当する上告理由あるものとすと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]上告会社が既に其鉄道を政府より買収せられたる以上は全く事業の目的を失ひ商法第七十四条第二号の所謂事業成功の不能に帰したるものにして同法第二百二十一条に依り当然解散せざるを得ざるが故に鉄道国有法第十一条に会社が買収に因りて解散したるときとあるに該当し逓信大臣の嘱託したる解散登記は固より[もとより]有効にして上告会社の解散したること復た争ふべからざるを以て其取締役は商法第二百二十六条に依り当然清算人と為るべく随で原院が清算人を以て上告会社の代表者と為したるは正当なり。

第十一点は徳島鉄道株式会社は本件訴状送達後即ち明治四十年九月一日解散をなし茲に[ここに]訴訟中断の原因発生したるのみならず其法定代理人たる取締役の資格も亦[また]た消滅したるに拘はらず第一審以来中断及び訴訟受継等手続を尽さずして其侭新清算人が訴訟を進行したるは民事訴訟法第百七十八条第百八十条第百八十三条の規定に違反せり。 従て斯る欠陥を其侭看過せし原裁判も亦[また]た違法なりとすと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]記録を調査するに上告会社の新法律上代理人たる清算人川真田徳三郎は明治四十年九月二十六日附答弁書に其清算人たる資格を表示して之を第一審裁判所に提出し、而して[しこうして]相手方が其送達を受けたること亦[また]自ら明かなるを以て上告会社の新法律上代理人は自ら其任設を相手方に通知し爾後[じご]上告会社を代表して訴訟行為を為さんことを告白したるものと謂はざるべからず。 然れば則ち民事訴訟法第百八十条の規定に依り訴訟手続中断の事由は既に消滅したるものにして爾来受訴裁判所が訴訟手続を続行したるは相当にして所論の如き不法ありと謂ふを得ず。

以上説明する如く本件上告は其理由なきを以て民事訴訟法第四百五十二条第七十七条の規定に従ひ主文の如く判決す