明治四十一年（オ）第四百十四號
明治四十二年二月五日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 債務者ノ所有トシテ登記シタル不動産ニ付キ他人ノ所有權取得ノ假登記アル場合ト雖モ之ヲ強制競賣ニ付スルコトヲ得サルモノニ非ス
- 一 債權者カ民事訴訟法第六百四十三條ノ規定ニ從ヒ登記簿上ノ現所有者ヲ以テ債務者トシ適法ニ強制競賣ヲ申立テ競賣手續完了シタル以上ハ縱令其進行中假登記者ニ於テ權登記ヲ爲スモ之カ爲メニ競賣手續ヲ不適法タラシムヘキ理ナケレハ競落人ハ競落許可決定ニ因リ不動産ノ所有權ヲ取得シ其不動産ハ登記簿ニ記入スヘキ總テノ負擔ヲ免ルルモノトス
（參照）申立ニハ執行力アル正本ノ外左ノ證書ヲ添附ス可シ」登記簿ニ債務者ノ所有トシテ登記シタル不動産ニ付テハ登記判事ノ認證書（民事訴訟法第六百四十三條第一項第一號）
右當事者間ノ債權差押及轉付無效確認竝ニ差押登記抹消請求事件ニ付大阪控訴院カ明治四十一年七月十三日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判決
原判決ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ大阪控訴院ニ差戻ス
理由
上告理由第一點ハ「本訴抵當權ハ既ニ消滅シタルヤ否ヤノ爭點ヲ審按スルニ抵當
權設定者兼抵當物件所有者タル奧田繁藏ハ抵當物件ノ所有權ヲ訴外人武田三重郎ニ移付シ三重郎ハ明治三十五年七月四日右所有權移轉ノ假登記ヲ爲シ其後同三十六年三月六日右抵當物件ノ一果抵當權者砂川梅吉ハ奧田繁藏ヲ抵當物件所有者トシテ強制競賣ノ申立ヲ爲シ其手續續行中同年十月二日三重郎ハ更ニ右所有權移轉ノ本登記ヲ爲シタルコトハ當事者間ニ爭ナキ事實ナリ果シテ然ラハ砂川梅吉ノ申立タル強制競賣ハ抵當物件ノ所有者タル武田三重郎ニ對シテ行ハレタルモノニアラサル事ニ歸着スルカ故ニ縱シヤ形式上競賣手續ハ完了シタリトスルモ實體法上抵當不動産ノ所有權ハ競落人タル雪井忠三郎ニ移轉スルノ理由ナキコトハ猶ホ普通賣買ノ場合ニ於テ他人ノ所有者ニ付爲シタル賣買ニ依リ所有權カ直ニ買主ニ移轉セサルト毫モ異ナル所ナシ而シテ民事訴訟法第六百四十九條ニ於テ賣却ニ因リ抵當權消滅スルモノトシタルハ所有權カ競落人ニ移轉スルコトヲ豫想シタル規定ニシテ上來陳述セルカ如ク競落人忠三郎カ所有權取得ヲ抵當物件ノ第三取得者タル三重郎ニ對抗シ得サル本件ノ如キ場合ニ於テハ該條ニ依リ抵當權ノ消滅ヲ來スモノニ非ス」云云ト云フニ在リ然レトモ民事訴訟法第六百四十九條第二項ニ不動産ノ上ニ存スル抵當權ハ賣却ニ因リテ消滅ストアルハ實體上所有權カ競落人ニ移轉スルト否トニ拘ハラス競賣ニシテ有效ナル限ハ是等權利ノ消滅ヲ來スモノナリト信ス其論據トスル所左ノ如（一）民事訴訟法第六百四十十條第二項（民法施行法第五十一條）ハ所有權カ實體上直ニ競落人ニ移轉スル效果ヲ生スル場合ト否ラサル場合モニ付區別スル所ナシ（文理解釋）（五）原判決ノ如ク民事訴訟法第六百四十九條第二項ト同法第六百八十六條ト原因結果ノ關係アルモノトナシ競賣ノ目的タル不動産ノ所有權カ競落人ニ實體上移轉セサル場合ハ抵當權ノ消滅ヲ來ササルモノトセハ實際ニ於テ頗ル不公平ナル結果ヲ生シ條理ニ戻ルコトナルヘシ之ニ反シテ實體上所有權ノ移轉ノ效果ヲ生スルト否トヲ問ハス競賣ニ依テ抵當權ハ消滅スルモノトセハ能ク公平ヲ得條理ニ適合スヘシ先ツ抵當權者ノ方面ヨリ觀察セ棄カ競賣ノ目的タル不動産ノ所有權カ競落人ニ移轉スルト否トニ拘ハラス競賣ニシテ形式上有效ニ完結シ其競落代金ノ配當ヲ受ケタル時ハ抵當權ノ目的ハ即チ既ニ達セラレタルモノニシテ假令其配當金額ハ債權全額ニ充タス又ハ第一順位ノ抵當權者而已配當ヲ得第二順移以下ノ抵當權者ハ一部ノ配當若クハ毫モ得ヘキ配當ナシトスルモ元來擔保ノ目的ハ物件ノ價額ニ存スルカ故ニ以テ抵當權ノ目的ヲ達セサルモノト云フヲ得ス之レ當初ヨリ豫期シタル所ニシテ尚多キヲ望ムハ不當ナリト云ハサルヲ得ス次ニ抵當權設定者ノ方面ヨリ觀察センカ競賣ノ目的タル不動産ノ所有權カ實體上競落人ニ移轉スルノ效果ヲ生セサル場合ト雖モ形式上競賣手續ニシテ完結センカ民法ノ規定ニ依リ競落人ニ對シ所有權ヲ取得シテ之ヲ移轉スルノ義務ヲ負ヒ若シ賣買ヲ解益セラルル時ハ代金返還ノ義務ヲ負擔スルヲ以テ更ニ此以上ノ債務ヲ負フニ至ラシムルコトハ不當ナリト云ハサルヘカラス然ルニ原判決ノ如ク所有權移轉ノ效果ヲ生セサル競賣ハ抵當權ノ消滅ヲ來ササルモノトセハ實ニ抵當權者ヲシテ不當ノ利益ヲ得セシメ抵當權設定者ヲシテ不當ノ不利益ヲ蒙ラシムルニ至ルヘシ例之ハ債務者ト抵當權設定者ト其人ヲ異ニスル場合ニ於テ競賣ノ結果抵當權者カ全部若クハ一部ノ配當ヲ受ケタルニ抵當權設定者カ抵當ノ目的トナリタル不動産ヲ本件ノ如ク抵當權設定後他人ニ賣渡シタルニ抵當權者カ之レヲ知ラスシテ第三取得者タル買受人ヲ遺脱シ抵當權設定者而已ニ對シ競賣開始決定ヲ得テ競賣スルニ至遺シモノトセハ此場合ニ於テハ不動産ノ所有權ハ實體上競落落ニ移轉セサルカ故ニ抵當權ハ消滅セサルモノトセンカ民法第五百六十八條ニ所謂賣主ト同視スル債務者ハズタル債務者ニ非サル抵當權設定者ヲ包含スルカ故ニ競落人カ賣買ヲ解除シ競落代金ノ返還ヲ持ムルニ於テハ抵當權設定者ハ之レヲ返還セサルヘカラス而シテ抵當權者ハ第三取移者ニ對シ更ニ債權全額若クハ嚮キニ配當ヲ受タル殘部ノ金額ヲニテ抵當權ヲ實行スルカ故ニ抵當權者ハ同一ノ目的物件ニ付キ二重ノ價額ヲ得ヘク少クモ價額ノ一部ハ重複スヘシ（前ノ競賣ニ於テ先順位ノ抵當權者而已配當ヲ受ケ後順位ノ抵當權者毫モ配當ヲ受ケサル場合亦同シ）而カモ之レカ爲メ抵當權設定者ハ民法第五百六十七條ニヨリ第三取得者ニ對シ契約ヲ解除サレタル結果代金ヲ返還スルカ又ハ其所有權ヲ保存スル爲メ出捐シタル額（恐ラクハ物件ノ價額ニ相當スヘシ）ヲ償還セサルヘカラス即チ抵當權設定者ハ不動産ノ所有權ヲ對價ナク失ヒタル上更ニ同一ノ價額ヲ他人ニ支拂ハサルヘカラサルコトトナリ重複ノ責任ヲ負フコトトナルヘシ如此結果ハ公平ヲ失シ條理ニ悖戻スルモノニアラスシテ何ソヤ要スルニ原判決ハ文理解釋論理解釋共ニ民事訴訟法第六百四十九條第二項ノ解釋ヲ誤リタル不法アルモノトスト云フニ在リ依テ按スルニ債務者ノ所有トシテ登記シタル不動産ニ他人ノ所有權取得ノ假登記アルトキハ之ヲ強制競賣ノ申立ヲ爲スニハ登記簿上ノ所有者ヲ以テ民事訴訟法第六百四十二條ノ所謂債務者ト爲スヘキハ同第六百四十三條第一號ノ規定ニ徴シテ明白ナルノミナラス假登記ヲ爲シタル者ヲ以テ競賣手續ニ於ケル利害關係人ト爲スヘキハ同第六百四十八條第三號ノ規定ニ徴シテ是レ亦明晰タリ然リ而シテ債權者ニ於テ同第六百四十三條ノ規定ニ從ヒ登記簿上ノ現所有者ヲ以テ債務者トシ適法ニ強制競賣ノ申立ヲ爲シ競賣手續開始決定競落許可決定ヲ受ケ競賣手續ヲ完了シタル以上ハ縱令其進行中假登記者カ本登記ヲ爲スモ之カ爲メニ競賣手續ヲ不適法タラシムヘキ理ナキヲ以テ競落人ハ競落許可決定ニ因リ不動産ノ所有權ヲ取得シ其不動産ハ登記簿ニ記入ヲ要スル總テノ負擔ヲ免ルルハ同第六百八十六條及ヒ第六百四十九條第二項ノ規定ニ徴シテ毫モ疑ヲ容レサル所ナリ然ルニ原院ニ於テ本訴不動産ノ一番抵當權者砂川梅吉カ不動産ノ所有者ニシテ抵當權設定者ナル奧田繁藏ヲ債務者トナシ強制競賣ノ申立ヲ爲シ競賣手續開始決定ヲ受ケ其手續ノ完了シタルコトヲ認メナカラ先キニ所有權取得ノ假登記ヲ爲シタル武田三重郎カ該手續進行中ニ在リテ本登記ヲ爲シタルカ爲メ砂川梅吉ノ爲シタル強制競賣ノ申立ハ不適法トナリ本訴不動産ノ所有權ハ競落人雪井忠三郎ニ移轉セス從フテ該不動産ニ對スル抵當權ハ總テ消滅セサルモノトシタルハ不法ニシテ破毀ノ原由アルモノトス既ニ此點ニ依リ原判決ヲ破毀スヘキモノトスル以上ハ他ノ上告理由ノ當否ヲ判斷スル必要アルナシ依テ之カ判斷ヲ爲サス
右ノ理由ナルヲ以テ民事訴訟法第四百四十七條第一項第四百四十八條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス
明治四十一年（オ）第四百十四号
明治四十二年二月五日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 債務者の所有として登記したる不動産に付き他人の所有権取得の仮登記ある場合と雖も之を強制競売に付することを得ざるものに非ず
- 一 債権者が民事訴訟法第六百四十三条の規定に従ひ登記簿上の現所有者を以て債務者とし適法に強制競売を申立で競売手続完了したる以上は縦令其進行中仮登記者に於て権登記を為すも之が為めに競売手続を不適法たらしむべき理なければ競落人は競落許可決定に因り不動産の所有権を取得し其不動産は登記簿に記入すべき総ての負担を免るるものとす。
（参照）申立には執行力ある正本の外左の証書を添附す可し」登記簿に債務者の所有として登記したる不動産に付ては登記判事の認証書（民事訴訟法第六百四十三条第一項第一号）
右当事者間の債権差押及転付無効確認並に差押登記抹消請求事件に付、大坂控訴院が明治四十一年七月十三日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
判決
原判決を破毀し更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を大坂控訴院に差戻す
理由
上告理由第一点は「本訴抵当権は既に消滅したるや否やの争点を審按ずるに抵当
権設定者兼抵当物件所有者たる奥田繁蔵は抵当物件の所有権を訴外人武田三重郎に移付し三重郎は明治三十五年七月四日右所有権移転の仮登記を為し其後同三十六年三月六日右抵当物件の一果抵当権者砂川梅吉は奥田繁蔵を抵当物件所有者として強制競売の申立を為し其手続続行中同年十月二日三重郎は更に右所有権移転の本登記を為したることは当事者間に争なき事実なり。
果して然らば砂川梅吉の申立たる強制競売は抵当物件の所有者たる武田三重郎に対して行はれたるものにあらざる事に帰着するが故に縦しや形式上競売手続は完了したりとするも実体法上抵当不動産の所有権は競落人たる雪井忠三郎に移転するの理由なきことは猶ほ普通売買の場合に於て他人の所有者に付、為したる売買に依り所有権が直に買主に移転せざると毫も異なる所なし。
而して民事訴訟法第六百四十九条に於て売却に因り抵当権消滅するものとしたるは所有権が競落人に移転することを予想したる規定にして上来陳述せるが如く競落人忠三郎が所有権取得を抵当物件の第三取得者たる三重郎に対抗し得ざる本件の如き場合に於ては該条に依り抵当権の消滅を来すものに非ず」云云と云ふに在り。
然れども民事訴訟法第六百四十九条第二項に不動産の上に存する抵当権は売却に因りて消滅すとあるは実体上所有権が競落人に移転すると否とに拘はらず競売にして有効なる限は是等権利の消滅を来すものなりと信ず。
其論拠とする所左の如（一）民事訴訟法第六百四十十条第二項（民法施行法第五十一条）は所有権が実体上直に競落人に移転する効果を生ずる場合と否らざる場合もに付、区別する所なし。
（文理解釈）（五）原判決の如く民事訴訟法第六百四十九条第二項と同法第六百八十六条と原因結果の関係あるものとなし競売の目的たる不動産の所有権が競落人に実体上移転せざる場合は抵当権の消滅を来さざるものとせば実際に於て頗る不公平なる結果を生じ条理に戻ることなるべし之に反して実体上所有権の移転の効果を生ずると否とを問はず競売に依て抵当権は消滅するものとせば能く公平を得条理に適合すべし。
先づ抵当権者の方面より観察せ棄が競売の目的たる不動産の所有権が競落人に移転すると否とに拘はらず競売にして形式上有効に完結し其競落代金の配当を受けたる時は抵当権の目的は。
即ち既に達せられたるものにして仮令其配当金額は債権全額に充たず又は第一順位の抵当権者而己配当を得第二順移以下の抵当権者は一部の配当若くは毫も得べき配当なしとするも元来担保の目的は物件の価額に存するが故に以て抵当権の目的を達せざるものと云ふを得ず。
之れ当初より予期したる所にして尚多きを望むは不当なりと云はざるを得ず。
次に抵当権設定者の方面より観察せんか競売の目的たる不動産の所有権が実体上競落人に移転するの効果を生ぜざる場合と雖も形式上競売手続にして完結せんか民法の規定に依り競落人に対し所有権を取得して之を移転するの義務を負ひ若し売買を解益せらるる時は代金返還の義務を負担するを以て更に此以上の債務を負ふに至らしむることは不当なりと云はざるべからず。
然るに原判決の如く所有権移転の効果を生ぜざる競売は抵当権の消滅を来さざるものとせば実に抵当権者をして不当の利益を得せしめ抵当権設定者をして不当の不利益を蒙らしむるに至るべし例之は債務者と抵当権設定者と其人を異にする場合に於て競売の結果抵当権者が全部若くは一部の配当を受けたるに抵当権設定者が抵当の目的となりたる不動産を本件の如く抵当権設定後他人に売渡したるに抵当権者が之れを知らずして第三取得者たる買受人を遺脱し抵当権設定者而己に対し競売開始決定を得て競売するに至遺しものとせば此場合に於ては不動産の所有権は実体上競落落に移転せざるが故に抵当権は消滅せざるものとせんか民法第五百六十八条に所謂売主と同視する債務者はずたる債務者に非ざる抵当権設定者を包含するが故に競落人が売買を解除し競落代金の返還を持むるに於ては抵当権設定者は之れを返還せざるべからず。
而して抵当権者は第三取移者に対し更に債権全額若くは嚮きに配当を受たる残部の金額をにて抵当権を実行するが故に抵当権者は同一の目的物件に付き二重の価額を得べく少くも価額の一部は重複すべし。
（前の競売に於て先順位の抵当権者而己配当を受け後順位の抵当権者毫も配当を受けざる場合亦同じ。
）而かも之れが為め抵当権設定者は民法第五百六十七条により第三取得者に対し契約を解除されたる結果代金を返還するか又は其所有権を保存する為め出捐したる額（恐らくは物件の価額に相当すべし。
）を償還せざるべからず。
即ち抵当権設定者は不動産の所有権を対価なく失ひたる上更に同一の価額を他人に支払はざるべからざることとなり重複の責任を負ふこととなるべし如此結果は公平を失し条理に悖戻するものにあらずして何そや要するに原判決は文理解釈論理解釈共に民事訴訟法第六百四十九条第二項の解釈を誤りたる不法あるものとすと云ふに在り。
依て按ずるに債務者の所有として登記したる不動産に他人の所有権取得の仮登記あるときは之を強制競売の申立を為すには登記簿上の所有者を以て民事訴訟法第六百四十二条の所謂債務者と為すべきは同第六百四十三条第一号の規定に徴して明白なるのみならず仮登記を為したる者を以て競売手続に於ける利害関係人と為すべきは同第六百四十八条第三号の規定に徴して是れ亦明晰たり然り、而して債権者に於て同第六百四十三条の規定に従ひ登記簿上の現所有者を以て債務者とし適法に強制競売の申立を為し競売手続開始決定競落許可決定を受け競売手続を完了したる以上は縦令其進行中仮登記者が本登記を為すも之が為めに競売手続を不適法たらしむべき理なきを以て競落人は競落許可決定に因り不動産の所有権を取得し其不動産は登記簿に記入を要する総ての負担を免るるは同第六百八十六条及び第六百四十九条第二項の規定に徴して毫も疑を容れざる所なり。
然るに原院に於て本訴不動産の一番抵当権者砂川梅吉が不動産の所有者にして抵当権設定者なる奥田繁蔵を債務者となし強制競売の申立を為し競売手続開始決定を受け其手続の完了したることを認めながら先きに所有権取得の仮登記を為したる武田三重郎が該手続進行中に在りて本登記を為したるか為め砂川梅吉の為したる強制競売の申立は不適法となり本訴不動産の所有権は競落人雪井忠三郎に移転せず従ふて該不動産に対する抵当権は総で消滅せざるものとしたるは不法にして破毀の原由あるものとす。
既に此点に依り原判決を破毀すべきものとする以上は他の上告理由の当否を判断する必要あるなし依て之が判断を為さず
右の理由なるを以て民事訴訟法第四百四十七条第一項第四百四十八条第一項に従ひ主文の如く判決す
