明治三十七年（オ）第六百二號
明治三十八年一月十九日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 裁判所ニ於テ親族會ノ决議無効ノ裁判ヲ爲シタルトキハ其决議ノ元來無効ナルコトヲ確定スル効力ヲ生スルニ止マリ創設的ニ之ヲ無効ナラシムルモノニ非ス
上告人 田中正右衛門 外三名
被上告人 田中其作 外一名
右當事者間ノ親族會决議無効確認事件ニ付函館控訴院カ明治三十七年十月二十日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告理由第一點ハ無効確認ノ訴ト無効宣言ヲ求ムル訴トハ各相同シカラサルヤ素ヨリ論ヲ俟タス確認ノ訴ハ法律關係ノ成立不成立ヲ判决ニ因リテ確定センコトノ要求ナルカ故ニ親族會ノ决議ノ如キ假令法令ノ規定ニ違背スルトキト雖モ裁判所ノ宣告アルマテハ有効ニ存在シ當然無効ニアラサルモノヲ以テ目的物トスルモノニ非ス從テ裁判所ノ宣告ニ因リ始メテ失効ヲ惹起スヘキ宣言ヲ求ムル訴ニ依ラサルヘカラス然ルニ原院カ此理論ヲ看過シ確認スヘシトノ判决ヲ爲シタルハ不法ノ判决ト云ハサルヘカラス尤モ判决主文中ニハ「親族會議ハ無効トス被控訴人等ハ其無効ヲ確認スヘシ」トアルモ無効宣言ノ訴ト確認ノ訴ト同シカラサル以上ハ二箇ノ訴ナリ原院ハ請求ニ係ル以外ノ事項ニ付キ判决ヲ與ヘタル不法ヲ免レスト云フニ在リ
因テ按スルニ親族會ノ决議ニ對スル不服ノ訴ハ其决議カ實質上無効ノモノナルトキハ决議無効ノ宣言ヲ請求シ其决議カ實質上無効ノモノニ非サルトキハ决議取消ノ請求ヲ爲スヘキモノナルコトハ本院ノ既ニ判例トシテ認ムル所ナリ而シテ裁判所カ决議無効ノ裁判ヲ爲シタルトキハ其决議ノ無來無効ナルコトヲ確定スル効力ヲ生スルモノニシテ創設的ニ之ヲ無効ナサシムル効力ヲ生スルモノニ非ス此點ニ付キテハ確認訴訟ニ於ケル確認ノ裁判ハ認定的効力ヲ生スルモ創設的効力ヲ生セサルト毫モ異ナル所ナシ然リ而シテ原審ノ判决ハ一面ニ於テ本件係爭ノ親族會ノ决議ハ已ニ任務ヲ終了シテ解散シタル親族會ノ爲シタル决議ニシテ實質上當然無効ノモノナルコトヲ確定シ他ノ一面ニ於テ本件ハ親族會决議ノ無効宣言ト其無効ノ確認トヲ併セテ請求スル訴訟ナルコトヲ確定シタルヲ以テ毫モ上告人ノ論スルカ如キ不法ノ點アルヲ視ス
上告理由ノ第二點ハ一定ノ申立ノ變更ハ同時ニ訴訟ノ基礎ヲ破壞シ訴訟ヲシテ全ク別個ノモノトシテ繋屬セシムルニ至ル初メ被上告人ハ其一定ノ申立トシテ無効確認ヲ求ムル旨ノ申立ヲ爲シ而シテ後原院ニ於テハ無効宣言ヲ求ムル旨ノ申立ヲ爲シタルハ一定ノ申立ヲ變更シタル訴ノ變更ト云ハサルヘカラス然ルニ原院ハ確認ノ訴中ニハ無効宣言ヲ求ムル趣旨ヲモ存在シタルモノト解釋シ尚第一審ニ於ケル一定ノ申立ヲ訂正シタルハ單ニ其趣旨ヲ明白ニ云ヒ顯ハシタルニ過キスシテ訴ノ原因ヲ變更シタルモノニアラサル旨ヲ判示セルモ確認ノ訴中ニ無効宣言ヲ求ムル趣旨ヲ包含セサルハ第一點所論ノ如クナルノミナラス單ニ申立ノ趣旨ヲ明瞭ナラシメタルニ止マラスシテ實ニ確認ノ訴ヲシテ創設ノ訴タラシムヘキ一定ノ申立ノ變更ト云ハサルヲ得ス原院カ事茲ニ出テスシテ斯カル判决ヲ爲シタルハ不法ナリト云フニ在リ
然レトモ訴ノ原因ニ變更ナシトスル第一審ノ裁判ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得サルハ民事訴訟法第百九十七條ノ規定スル所ニシテ此規定ハ同法第四百八條ニ依リ控訴審ノ裁判ニモ準用スヘキモノナルコトハ本院判例ノ既ニ認ムル所ナレハ如上ノ裁判ニ對シテハ其不法ナルト否トニ關セス絶對ニ不服ヲ申立ツルコトヲ得サルモノナリ而シテ本上告論旨ハ訴ノ原因ニ變更ナシトスル原審ノ裁判ニ對スル不服ノ理由ヲ陳述スルニ外ナラサレハ固ヨリ上告適法ノ理由ト爲スコトヲ得ス
依テ本件上告ハ民事訴訟法第四百三十九條第一項ノ規定ニ從ヒ棄却スルモノナリ
明治三十七年（オ）第六百二号
明治三十八年一月十九日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 裁判所に於て親族会の決議無効の裁判を為したるときは其決議の元来無効なることを確定する効力を生ずるに止まり創設的に之を無効ならしむるものに非ず
上告人 田中正右衛門 外三名
被上告人 田中其作 外一名
右当事者間の親族会決議無効確認事件に付、函館控訴院が明治三十七年十月二十日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告理由第一点は無効確認の訴と無効宣言を求むる訴とは各相同しからざるや素より論を俟たず。
確認の訴は法律関係の成立不成立を判決に因りて確定せんことの要求なるが故に親族会の決議の如き仮令法令の規定に違背するときと雖も裁判所の宣告あるまでは有効に存在し当然無効にあらざるものを以て目的物とするものに非ず。
従て裁判所の宣告に因り始めて失効を惹起すべき宣言を求むる訴に依らざるべからず。
然るに原院が此理論を看過し確認すべしとの判決を為したるは不法の判決と云はざるべからず。
尤も判決主文中には「親族会議は無効とす。
被控訴人等は其無効を確認すべし。」とあるも無効宣言の訴と確認の訴と同じからざる以上は二箇の訴なり。
原院は請求に係る以外の事項に付き判決を与へたる不法を免れずと云ふに在り
因で按ずるに親族会の決議に対する不服の訴は其決議が実質上無効のものなるときは決議無効の宣言を請求し其決議が実質上無効のものに非ざるときは決議取消の請求を為すべきものなることは本院の既に判例として認むる所なり。
而して裁判所が決議無効の裁判を為したるときは其決議の無来無効なることを確定する効力を生ずるものにして創設的に之を無効なさしむる効力を生ずるものに非ず此点に付きては確認訴訟に於ける確認の裁判は認定的効力を生ずるも創設的効力を生ぜざると毫も異なる所なし。
然り、而して原審の判決は一面に於て本件係争の親族会の決議は己に任務を終了して解散したる親族会の為したる決議にして実質上当然無効のものなることを確定し他の一面に於て本件は親族会決議の無効宣言と其無効の確認とを併せて請求する訴訟なることを確定したるを以て毫も上告人の論するが如き不法の点あるを視す
上告理由の第二点は一定の申立の変更は同時に訴訟の基礎を破壊し訴訟をして全く別個のものとして繋属せしむるに至る初め被上告人は其一定の申立として無効確認を求むる旨の申立を為し、而して後原院に於ては無効宣言を求むる旨の申立を為したるは一定の申立を変更したる訴の変更と云はざるべからず。
然るに原院は確認の訴中には無効宣言を求むる趣旨をも存在したるものと解釈し尚第一審に於ける一定の申立を訂正したるは単に其趣旨を明白に云ひ顕はしたるに過ぎずして訴の原因を変更したるものにあらざる旨を判示せるも確認の訴中に無効宣言を求むる趣旨を包含せざるは第一点所論の如くなるのみならず単に申立の趣旨を明瞭ならしめたるに止まらずして実に確認の訴をして創設の訴たらしむべき一定の申立の変更と云はざるを得ず。
原院が事茲に出でずして斯かる判決を為したるは不法なりと云ふに在り
然れども訴の原因に変更なしとする第一審の裁判に対しては不服を申立つることを得ざるは民事訴訟法第百九十七条の規定する所にして此規定は同法第四百八条に依り控訴審の裁判にも準用すべきものなることは本院判例の既に認むる所なれば如上の裁判に対しては其不法なると否とに関せず絶対に不服を申立つることを得ざるものなり。
而して本上告論旨は訴の原因に変更なしとする原審の裁判に対する不服の理由を陳述するに外ならざれば固より上告適法の理由と為すことを得ず。
依て本件上告は民事訴訟法第四百三十九条第一項の規定に従ひ棄却するものなり。
