鑛山引渡請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）10輯624頁

上告理由第一点は原審が上告人の（控訴人）請求を排斥せし理由は甲第一号証の目的たる二个[か]の試掘出願に係る鉱区と本件係争の採掘鉱区とは同一物なりと確認するを得ずと云ふ[いう]に在り。 然れども[しかれども]原審に於て両者間の地磐が或部分に於て一致せるものと認定せしことは判決理由第二項の前文殊に其末段に「故に右検証及び鑑定の結果によるも唯両者地磐の多くの部分が重複し居ることを認め得るに止り」との文句並に其理由第三項冒頭に「又検証及鑑定の結果によれば右の如く係争鉱山と二个[か]の試掘出願地との地磐の多くの部分が重複し居ることを認めざる可からず。」云云と在るに徴して明瞭なり。 既に如斯[かくのごとき]其地磐の多くの部分が重複すと認定せし点は係争鉱区の全体と甲第一号証の試掘出願鉱区とは全然同一物なることを確認するに足らずとするも少くとも或る部分に於て同一地磐なることを確認したるものと云はざる可からず。 左れば上告人が其不一致の地磐に相当する係争鉱区の所有名義移転の請求は不当なりとするも其相一致せる地磐に相当する鉱区に対する上告人の請求は之を排斥するの理由あるなし何となれば採掘鉱区の可分性なることは鉱業条例第四十六条の認むる所にして上告人が係争鉱区全体に対する名義移転の請求は尚ほ其一部に対する名義移転の請求をも当然包含する筋合なればなり。

然るにも不拘[かかわらず]原審が判決理由第二項末段に於て「未だ両者同一のものなることを確認するに足らず」との理由を附し其相一致せる部分に対する請求をも排斥せしは理由不備の判決と云はざる可からずと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]原判決は係争鉱山に於ける実地の形状及び区域の広狭等より観察して該鉱山が甲第一号証の試掘出願地と同一の地域と認むべからざることと被上告人の抗弁及び其立証に依り係争鉱山の採掘は甲第一号証の契約に基因したるものにあらざる事実を認定せしとに由で係争鉱山の採掘は甲第一号証の契約に基きたるものなりとの上告人の主張を排斥したる判旨なることは其説明に依り明瞭なり。 然れば係争鉱区と甲第一号証の試掘出願地と其地域に於て彼此[ひし]重複即同一の部分ありとするも其同一なる部分は当然上告人の請求を是認すべきものと謂ふべからず。 何となれば被上告人が係争鉱区を採掘したるは甲第一号証の契約に拠りたるにあらずして他に相当の原因ありたるものなるべきこと原判決に認定せし如くなれば偶ま甲第一号証の試掘出願地と係争鉱区と同一なる部分ありとするも之を以て上告人の主張を助くるに足らざればなり。 故に原判決が試掘出願地と係争鉱山と重複する部分あるを認めたるに拘はらず其部分に対しても上告人の請求を是認せざりしは理由なきにあらざるを以て上告論旨は其理由なしとす

第二点は原判決理由中係争鉱区の特許は甲第一号証の契約に起因せざるものなれば上告人（控訴人）の請求は失当なりと判定せられ其理由とする所は原判決理由第三項の末段に「故に被控訴人が係争鉱山採掘を出願するに当りては果して甲第一号証の契約に基因して為したるか未だ輙く[たやすく]知る可らざるものとす。」と云ふ[いう]に在りて此意義を推測するに其趣旨とする所は要するに係争鉱区の特許が甲第一号証契約に基因せし立証は上告人の責任なることを指示せるに外ならず。 然れども[しかれども]甲第一号証が当事者に成立せし事実は被上告人の認むる所にして、且、又其契約の目的たりし試掘地に付き其際上告人は試掘権を放棄すると同時に被上告人が係争採掘権を取得し其地磐が或部分に於て同一なることは前記説明の如く原審に於て確認せられたる以上は苟も之が反対証拠の見る可きものなき限りは甲第一号証の契約に起因せる係争鉱山採掘出願ありしものと認定せざる可からず。 原審の採証法則は之に出でず反で挙証の責任を上告人に帰し以て事実を認定するに至りたるは採証に関する法則に違反せる不当判決たるを免れずと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]原判決は係争鉱山が甲第一号証の試掘出願地と同一にして、且、其採掘は甲第一号証の契約に基因することを上告人が完全に立証せざりしのみを以て上告人の主張を排斥したるにあらざること前第一点の上告理由に対して説明せし如くにして被上告人の提出せし乙第六号証乙第七号証及検証調書等に依り争点を判断したるものなれば本論旨は原判決に副はざる批難にして上告の理由なし。

第三点は原判決が甲第一号証の試掘出願地二箇所と係争地との同一区域なりや否やを判断したる理由に日（上略）（イ）係争鉱山の地域は二箇の試掘出願地域の中間に存する所の地磐に跨り其部分のみにて殆と係争鉱山全面の三分一弱の広さを占め居るのみならず係争鉱山と二箇の試掘出願地とは大に其形状を異にし居れり。 云云（ロ）（、且、二箇の試掘出願地は合計二十四万坪なるも係争鉱山の坪数は僅に九万四千七百三坪にして其間著しき坪数の差異あり而も如何[いかん]にして其差異の生じたるやに付、毫も[ごうも]拠るべきものなし云云）と以上の判定たるや実に其審理を尽さざるの結果上告人主張の趣旨を誤解し此の如き不当なる判定を下すに至れる者なり。 元来上告人が係争鉱区に対する主張は最初上告人に於て発見して試掘を出願したる鉱山を被上告人をして採掘特許の出願を為すの自由を得せしむる為めに上告人の試掘願を取下けて被上告人をして採掘特許を出願せしむるに就て被上告人より其報酬として発見料四千五百円を上告人に給付すべく若し其報酬金額を或期限間に支払はざるときは被上告人が得たる該鉱山を上告人に引渡すべきことを約したる者にして其試掘願を取下くるの必要は苟も他人の試掘出願中に係る区域及び其区域より或間際迄は更に其他の人に於て試掘若くは採掘特許を出願するも許されざるべき事は鉱業法規の定むる所なるに依るなり。 而して[しこうして]試掘願は其の広さ六十万坪に至る迄は当時に於ては均し[ひとし]く金七十五円の収入印紙を貼用[ちょうよう]すれば足る者なる上に試掘は其鉱脈未だ確定せざる故を以て常に法の許す限り広く区域を定むるを常とせり。 而して[しこうして]採掘特許に[もとに]至りては当時一千坪金三十銭つつの鉱区税を払ふ者なるのみならず試掘と異なりて既に其の鉱脈の存する所確定したるか為めに採掘特許を乞ふ者なれば其坪数も直に緊要なる点に制限して出願するは是れ亦[また]然らざるを得ざる情理にして一般に皆然りとす。 故に或る試掘願を採掘特許に[もとに]改むるに至りては必ずや坪数の減額するは当然にして坪数を減ずる以上は其区劃[くかく]の形状の異なるべきは亦[また]己む可らざるの事たり。 故に上告人は初めより二区域の試掘を出願したる者を取下けて被上告人をして此地に於て採掘特許を出願せしめたる者なることを主張し其証拠として甲第一号及び甲第一号の二を以て之れを証拠立で、且、是れを以て同一なる鉱区なりと主張せしものにして其の趣旨は誠に瞭然たり。 然らずんば誰れか二十四万坪なりし鉱区を以て九万四千七百三坪と同一鉱区なりとの主張を為す者あらんや是れ固より[もとより]明白なる事に属す。 然るを原裁判所は其試掘と採掘との区別あるを弁せずして単に（イ）形状が異なる故に同一鉱区ならず（ロ）坪数が二十四万坪と九万四千七百三坪なるが故に同一鉱山ならずと判定せしは毫も[ごうも]理由を成さざるなり。 即ち理由を明示せしすて不当に事実を確定したる裁判なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]甲第一号証の試掘出願地の坪数と係争鉱山の坪数と大なる差異あること及び彼此[ひし]其地域に於ける形状の異同ある情況を以て試掘出願地と係争地と同一ならざる事実を認めたる理由と為したるは原裁判所の職権に属する事実認定権の範囲内に於て自由に取捨するを得べきものなり。 且つ上告人は原裁判所に於て前掲坪数の差異は当然生すべきものにして番地の異同を分別すべき論拠と為すべからざる事由を論証したる形跡あらざるを以て本論旨は結局事実の認定を批難するに外ならざるに依り上告の理由と為すを得ざるものとす。

第四点は原裁判は（上略）控訴人は甲第四号第五号証等に依り白鳥鉱区は己に取消されたるに依り被控訴人が白鳥等より譲受けたる鉱区なるものは存在せざる旨主張すれども同証によれば其共同採掘出願者五名中白鳥等の三名のみ明治二十七年六月二十九日其の出願を取消し残る佐藤慶蔵外一名は尚ほ其出願を継続したることを見得べければ白鳥鉱区は未だ全く取消されたるものと云ふ[いう]を得ず。 又縦令[たとい]白鳥鉱区は全く取消されたるものとするも甲第一号証の試掘出願も亦[また]取下たる（控訴人の自陳する所）ものなれば控訴人等の出願のみ独り其効力を残存し来りしものと云ふ[いう]べからず。 云云）と原裁判理由の此の一節に至りては実に彼此[ひし]混乱齟齬[そご]し、且、上告人の申立てざる事項を上告人に帰せしめたる不法ある者なり。 抑も上告人が白鳥甚左衛門等五名の試掘出願人中佐藤慶蔵外一名は明治二十七年六月二十九日の取消し願に同意せざることを立証したるは畢竟[ひっきょう]被上告人が本訴の鉱区は白鳥甚左衛門等より譲受けたりと云ふ[いう]ことの無実なることを証したる者なり。 被上告人も白鳥甚左衛門等の出願は被上告人が特許出願の当時には取消されずして其翌年即ち明治二十七年七月中に至りて無効となりたる者なりと自陳せり（第二審弁論調書参看）実に当時に於ては上告人と被上告人との間に甲第一号の契約が成立したるを以て上告人は其試掘出願を取消して被上告人をして其の採掘特許出願の自由を得せしめたるものなり。 白鳥甚左衛門等の分は之れに反す。 故に係争鉱区は上告人の権利に基する者なること寔に[まことに]明白なり。 上告人の主張は此の如くにして白鳥甚左衛門等の試掘願は当時五名中二名の反対者ありて其試掘願は取消されず依然として継続し居りたるが故に被上告人に於て此の鉱区を譲受けて係争鉱区の特許を得たりと云ふ[いう]は虚妄なりと謂はざるを得ざる者なり。 （元来白鳥甚左衛門等の試掘願の地は係争地所と異なることは上告人の主張する所なれども仮りに係争地と同一なりとするも被上告人主張の如くには為し能はざる事実なればなり。 ）然るに原裁判所は総で此の主張と反対なる立証を以て其の反対の用に供し又反対せる理由を以て之に反対なる断定を附せり何となれば甲が為したる採掘願は取下けを為さずして継続し居ると云ふ[いう]者を捉へ来りて其の同一地域に乙をして特許の出願を為さしめたる者となし又取下けたるが故に係争地が特許地とは為し得たる者なりと主張するの上告人に対して取り下けたるものなれば効力を存し来りしものと云ふ[いう]べからずと反対せしは毫も[ごうも]理由を為さざる者なればなり。 且つ夫れ上告人は原審に於て白鳥甚左衛門等の出願は彼れ等任意を以て被上告人へ譲与の為めの取消し願は佐藤慶蔵外一名の不服に依りて為し能はざりしも其の後白鳥等が鉱業法規の命ずる所の義務を尽さざりし為めに未だ許可せられざる以前に其筋より取消されたる者なれば彼れ等は元来其後に迄権利を有するものと云ふ[いう]を得ず。 而して[しこうして]上告人等は其の出願の成立しある中に於て他に其の地位を譲りたる者なることを証人佐佐木清之丞の証言等を採用して之を主張せしに原裁判所は之れを前の理由と混同して終に[ついに]分別なきに至らしめたり。 即ち何れより見るも理由を備へざる不法の裁判なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]原判決の理由中に又仮令[たとい]白鳥鉱区は全く取消されたるものとするも甲第一号証の試掘出願も亦[また]取下たるものなれば控訴人（上告人）等の出願のみ独り其効力を残存し来りしものと云ふ[いう]べからず。 云云とあるは即其明文の如く仮設の説明にして原判決が上告人の主張を排斥したる主要の理由は被控訴人（被上告人）に於て白鳥甚左衛門佐藤慶蔵等より係争地を譲受けたる事実は乙第七号証に依り明瞭なること白鳥鉱区は全く取消されざりしこと乙第七号証に拠り上告人の先代壮輔が訴外人鈴木嘉右衛門なる者と共に被上告人の有する係争鉱山の採掘特許取消の訴願を提出したる事実あるを認め得べきに依り此事実ある以上は被上告人の鉱山採掘は上告人の契約に基因するものと認むべからざること等に依て上告人の主張を是認するを得ずと云ふ[いう]に在り又上告人は其試掘出願の取消を以て被上告人に採掘の実行を遂けしむるに必要なることなりとする点に付、論争する所あれども其事実上の供述は原裁判所の採用せざりしものなり。 要するに本論旨は原判決の主文を支持すべき主要の理由にあらざる仮設の説明を批難するに過ぎざるを以て上告の理由とならざるものとす。

第五点は原裁判は（乙第六号証に依り上告人佐藤金右衛門の先代壮輔は訴外人鈴木嘉右衛門なる者と共に被控訴人の有する係争鉱山の採掘特許取消の訴願を提出したること明白にして云云此の点より見るも係争鉱山の採掘は甲第一号証の契約に基因したるものと云ふ[いう]を得ず。 ）と判了したり。 然れども[しかれども]原裁判所が此の事実を認定する唯一の証拠とせる所謂取寄書面乙第六号証中の佐藤壮輔の署名捺印は上告人の認めざる所の者なり。 該書面は官署より取寄せの書類に係るを以て其書面の成立は争ふ可らざるも其書面の実質中の或る部分即ち上告人佐藤金右衛門の先代壮輔の署名捺印は上告人の認めざる所なり。 （第二審明治三十六年十一月九日の弁論調書中取寄書面中取寄せに係る図面の成立は争はず。 但し控訴人先代の記名は認めずとある点参照）上告人中一名の先代が署名捺印を其署名者の相続人たる上告人が之れを非認したる場合に於て猶ほ[なお]其の署名者の責に帰せしめんとするには少なくも其非認に反対して真実と認むべきの理由を附せざる可らず。 然るを原裁判は上告人が之れを認めざるに拘はらず漫然其訴願が却下せられたることは争はざる所なりと云ふ[いう]を以て恰も[あたかも]其署名捺印に争なき者の如くして之を上告人に帰せられたるは不法なり、且、夫れ仮りに上告人の中一名の先代が若し此の如き所為ありたりとするも何等の関係なき他両名の上告人に其の累を及ぼすの理ある可らず殊に況や[いわんや]佐藤壮輔が此の如き所為ありたりと仮定するも当時被上告人が其の嘗て[かつて]契約せる発見料の支払を為さざるを非常に怨みたる時節なれば或は其の貫徹し得可らざる不当の訴願なるを知りつつも復讎的に鈴木嘉右衛門の訴願に同意加担したること無しと云ふ[いう]可らざれば仮令[たとい]此の事ありたりとて之れを以て係争地が甲第一号の契約に基因したるものと云ふ[いう]を得ずと判定せしは理由不備の裁判なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]訴訟記録を閲するに原裁判所の明治三十七年一月二十七日の法廷調書中控訴（上告人）代理人の供述に取寄記録中にある乙第六号証の本紙なりと被控訴人の申立つるものの自体は争はずとあるに依り即該第六号証の成立は上告人の代理人に於て之を認めたるものと解釈するは当然なるに依り原裁判所が此証書の事実を認めて上告人の主張を排斥する一理由と為したるは違法にあらず。 又上告理由

後段の論旨は畢竟[ひっきょう]採証の当否を批難するものたるを免れざるを以て上告の理由と為すを得ず。

第六点は原判決理由に（上略）其地磐が白鳥甚左衛門等の採掘出願地とも重複し居ることを認めざる可らず（鑑定人の測定せる白鳥鉱区は被控訴人の掲示したる区域に因りたるものなれども大体に於て信用するに足る）云云との理由を以て係争地が被上告人が白鳥甚左衛門等より譲り受けたる者の如く判了せられたり。 然るに白鳥甚左衛門等の出願鉱区は出願人五名中不服の者ありて之を取消し得ざりしことは上告人の証明したる所にして原裁判に於ても之れを認めたる所なり。 既に先きに出願したる人が其取消しを為さざるに於ては同一地域に於て後の出願者に許可せられざることは鉱業法規当然の事なるに於て二者両立してある間に後願者たる被上告人の採掘特許が許可せらるべき筈なきことは前第四点に於て論せし所の如し故に白鳥甚左衛門等の出願地と被上告人の出願地とか重複しある能はざるべき筋合なることは誠に明なるに原判決は前掲の如く之れを重複し居る者と確認して之れが確認を為すの証拠として鑑定人の測定掲示したる白鳥甚左衛門の鉱区と称する点に依拠したり。 是れ甚た不法なり。 既に双方争なき事実法規及び其証拠に於て重複し得可らざるの明かなること前陳の如くなるに方で之れを否らずと謂はんには之れが反対の主張を維持する被上告人の側に於て充分なる立証の責任を有するは採証上当然の法理なり。 然るに被上告人は之れを為さず偶ま原裁判に於て採用せられたる白鳥鉱区に係る鑑定人の鑑定なる者ありと雖[いえども]も其は甚た不法の事たり元来係争地区域を以て白鳥甚左衛門等出願の鉱区なりと云ふ[いう]所の者は何等憑拠する所ありたるに非ずして単に被上告人の指示したるに止る者なり。 加ふるに此の部分に関する鑑定なる者は裁判所の証拠決定に依りて為されたる者に非ずして其権限なき区裁判所判事即受命判事が当時の被控訴人より新たに申立てたる証拠調を採用して為したる別立せる証拠決定に因る者にして違法のものなり。 該臨検及び鑑定は上告人即当時の控訴人より之れを申請して係争地と上告人等が曽て試掘を出願して後に甲第一号証を以て被上告人に譲与したる二箇の鉱区と同一なりや否やを明にせんか為めの証拠調なり。 裁判所は之を必要として採用する旨決定を与へたる者に外ならざることは証拠調の申請書及び其決定に依り明白なり。 原院に於ては未だ嘗て[かつて]白鳥甚左衛門等出願の鉱区と係争地とか重複せしや否やの臨検鑑定の証拠決定を為したることなく然るに受命判事たる古川区裁判所判事は控訴人が不当なりとして拒みたるに拘はらず新たに被控訴人より為したる別箇の申請を許可する旨の決定を与へて鑑定人に之れを命じたる者なることは検証調書及び鑑定書に明記する所にて明かなり。 抑も受命判事なる者は本案管轄裁判所の決定に基き命ぜられたる所を執行するの外新たなる証拠決定を与ふるの権限ある者に非ず。 故に本案に於ける此決定は不法無効の者にして。 従て此の決定に依りて為されたる鑑定も亦[また]無効の者なり。 然るを原裁判に於て妄りに此の鑑定部分を採用して前陳の如き区別明確なる者の反対証拠に供したるは不法なり、且、夫れ此の証拠即鑑定書は被上告人即当時の被控訴人に於ては嘗て[かつて]自己の利益に援用せざる所の者なり。 然るを裁判所自ら進で被控訴人の利益なる証拠に供したる者にして何れより見るも此の点に関する原裁判は不法たるを免がる可らざるなりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]原判決は被上告人が白鳥甚左衛門より係争鉱山を譲受けたる事実を認めたる理由を説明しありて同人が採掘出願を取下けざる以前上告人が重複して採掘願を為したりとの事実は之を認めたることの説明なし。 原判決の趣旨は被上告人が白鳥等より適法に係争鉱山を譲受けたる事実を認めたるに在ること其説明上自ら明なり。 又受託判事は嘱託を受けたる臨検の事項を明確にする為め必要と認めたる場合に於ては職権を以て臨検中鑑定を命ずるも妨げなく其処分は固より[もとより]無効にあらざるに依り上告人の指摘する鑑定人の鑑定は有効なり。 又同審級に於ける臨検及鑑定等の立証方法は当事者に於て特に之を引用することを申立さるも証拠調の結果に付、弁論を為すを以て足れりとすることは本院判決例の示す如くなるに依り原判決に鑑定書を証拠として採用したるは違法にあらず。 （判旨第六点）

第七点は原判決に於て（上略）白鳥鉱区は明治二十七年六月二十四日被控訴人に於て白鳥甚左衛門佐藤慶蔵岡源助外二名より譲受たること乙第七号証に依り明かなりと論断せり。 然るに此の佐藤慶蔵外一名は被上告人へ鉱区の譲与を為さざることは甲第四、五号証に於て上告人に於て之を証明し原裁判に於ても其の事実の或る部分を認めたるに拘はらず反で之れが譲与の成立したる者と認めたるは理由相齟齬[そご]して毫も[ごうも]解す可らざるに陥りて殆と理由を成さざるのみならず其の所謂乙第七号なる者は上告人が絶対に其成立を非認したる私成証書なるを以て若し原裁判に於て之れを証拠に供せんには少くも其の成立の真正なるべき旨の理由を示さざる可らず。 然るに前後何等の理由をも示さず卒然として（譲り受けたること乙第七号証に依り明かなり。 ）と判了したるは不法なりと云ふ[いう]に在り

然れども[しかれども]乙第七号証は上告人の関与したる書証にあらざるを以て上告人の否認のみに依り其証拠たる効力を失ふべきものにあらず。 裁判所は自由なる心証に依て之を取捨すべきものなり。 故に原裁判所が上告人の否認したるに拘はらず之を採用したるは違法にあらず。 又証拠の取捨に付ては逐一其理由を明示せざるも判決に理由を欠きたるものと謂ふべからざることは本院判例の示す如くなり。 又原判決は甲第四号同第五号証を被上告人の利益に採用したるにあらずして上告人の立証を否認し其主張を事実と為さざりしに過ぎず本論旨も亦[また]適法の理由なしとす

右の理由なるを以て民事訴訟法第四百三十九条第一項に依り主文の如く判決するものなり。